魔導書編 ~ The Grimoire of Marisa.
記憶編 ~ Marisa's Lifes in Wonderland.
幻編 ~ You ain't seen Marisa, never!
編 ~ Does the Proprium Dream of Genuine Marisa?
魔理沙という名の幻想 ~ And Then There Were No Marisa.
霊夢という名の存在 ~ Marisa Leaving the People's Vision with Reimu.
魔理沙は友達。それ以外にどう表現して良いのか分からない。一番の友達。明るくて、努力家で、一所懸命で、
とにかく友達。そんだけ。
霊夢は友達。私の友達だけあって凄い奴で、才もあれば色もある。博麗神社の巫女として幻想郷中の平和を守り、どんな妖怪が相手でも怖じずに立ち向かい人人を守り切る。その美貌は月も陰り花も恥じらい輝夜姫すら遠く及ばず、人魚よりも素敵な声に、性格も強く可愛く美しくおっぱいも大きくて、とにかく凄い奴だ。これ読んだんだからおあいこな。
魔理沙という友達はうざい。人のノートを勝手に見て笑う。こっちが怒ると、向こうもノートを見せてきて、おあいこだという。魔理沙のノートに書かれていたのはふざけた文章で、私の事を過剰に褒めていた。そんなのを読まされて恥ずかしくなった私を見てまた笑う。魔理沙は傍若無人である。
霊夢は最低最悪の人間だ。冗談の分からない奴だしすぐ怒る。それだけじゃない。もっと酷い。史上最悪の霊夢は、好き勝手に暴れ回り幻想郷を混乱に陥れる大悪党だ。既に幻想郷の妖怪は全員殺され、人間も私一人だけが残るばかりである。なんていう事だ。こんな事があって良いのか。外からは悲鳴が聞こえてくる。きっとみんなが今正に殺されているんだ。聞いているだけで恐ろしくなる。どうかこれを読んだ人が無事に外へ逃げる事が出来たのなら、あの世紀の大悪党の事を世に広めて欲しい。
魔理沙は最悪である。いつも泥棒の真似事ばかりしている。幻想郷の平和を守る為に捕まえたが暴れて、里を壊しまわった。魔理沙の魔法で幻想郷は吹き飛び、月も消え去り、外の世界も滅茶苦茶になった。それでもへらへらと笑って、人の気持を考えない。最悪な奴だ。あと、何であんたしか生き残りが居ないのに外から悲鳴が聞こえんのよ、馬鹿。
うっさい! ばーか!!!
霊夢と魔理沙が顔を真赤にしながらノートを見せ合っていた。喧嘩している様なのだが、お互い何も話さずノートを突きつけあい、かと思うと地面に座りこんでノートに書き足し、また突きつけ合うという事を繰り返している。不思議なやり取りだが、見ている分には面白い。何かが流行ると文化も変わる。生活も変わる。そして常識も変わる。僕達の世界というのが絶えず変化しているという事を実感させてくれる。
さて、そのノート、もっと言えば日記は昨今幻想郷中で流行している。積極的に日記を書いているというよりは、ノートが流行っているみたいだから自分も使ってみようという者が多い。しばらくすれば落ち着くだろう日記の乱用は。正しく流行りの様相を呈している。
何にせよ、僕の様な雑貨屋からすれば、ノートを入荷していればそれなりに稼げるのでありがたい。消耗品なので毎日誰かしらがノートを買いに来るし、一見さんの客も多くなった。元からのお得意様であった紅魔館の咲夜さんも毎日一冊ずつノートを買っていく。他の者にあげるのかと聞いてみると、自分一人で使っていると話してくれた。一体何に使っているのかさっぱり分からない。
僕もこうして備忘録として使っているが、普段から店の日誌にあれこれ書いているので、このノートには本当に取り留めの無い事ばかり書いている。後で見返して見ると噴飯物の事ばかり書いてあるのもまた一興で
神綺様までやって来た。せめて最後に一目会いに来たか。喧嘩している霊夢と魔理沙を仲裁しようとしているが日に油を注いでいるから、酷い混戦模様を繰り広げている。
しかし、魔理沙から今日だと聞いていたが、傍目から見ると随分元気そうだ。仲睦まじい喧嘩の様子を見るに悲壮さは見られない。何か思う所があって霊夢と衝突しているのかと思ったが、もしかしたら今日というのは僕の覚え間違いで、本当に単なる喧嘩なのかもしれない。だとすれば、仲裁した方が良いのだろうが、それは中中に面倒な
ああ、そろそろ三人の矛先がこちらを向きそうだ。面倒事になるのは目に見えているが、頼られるのは嫌いじゃない。
牛乳少なし 夕飯には問題無かったが、明日の朝買い行く必要がある
人里で化け物が出現しているという噂を聞いた。死者も出ているという。
羽虫多 寝る前に商品入荷を吟味しておく事 明日に持ち越さない
魔理沙と喧嘩した。腹が立つ。魔理沙は馬鹿だ。馬鹿。馬鹿。いつも変な事を言う。人の事を変な風に書く。嘘吐きだ。泥棒だから嘘吐き。今日、喧嘩している時も急に倒れて人を心配させて、傍に寄ったらいきなり起き上がって、心配したか騙されたかだなんて言って、人を馬鹿にしたやな奴だ。こっちが怒って別れようとしたら、急にしおらしくなったので、また私が心配すると、魔理沙さんは寂しいと死んじゃうから一緒に居てくれなきゃ嫌だぜとかふざけた事を言って。兎か。馬鹿だ。馬鹿兎だ。永遠亭の子になれば良い。腹が立つ。でもきっと明日仲直りする。それがしゃくだ。
面白 魔理沙と霊夢の喧嘩 世界を滅ぼした事を責め合っていた
霖之助が二人に引っ張られていた 大岡裁き 千切れなかった
残念 今日の紅茶はお嬢様の口に合わず 明日はニトログリセリン
怖い 美鈴が変態 幼女性愛 妹様を狙う? 確認必要。本当だった場合は?
お嬢様 良好 フラン様 良好
閉じ篭もりっきりのフランをどうにかしたいが未だ上手くいかない。幻想郷であれば物を壊しても大丈夫だろうと外出を許可したけれど、なついている魔理沙の下へ向かう以外は外へ出ようとしない。屋敷を遊び回る姿を見ると、外へ遊びに行きたがっていると思うのに。何とかしたいと、一緒に能を見に行く計画や魔理沙をだしにする計画を立てていた矢先に、フランの世話をする美鈴がロリコンの変態だという事が分かった。本当に頭が痛い。美鈴はフランを外へ連れて行ける可能性を持った数少ない人材だったのに。どうしたものか。対策検討中。
ああ、フランドール様。可愛らしい。どうして私の思いに答えてくれないの? こんなにも思っているのに。あの無垢であどけない可愛らしい瞳唇鼻耳頬額顎首髪肩胸腕手先お腹腰お尻太腿足足先爪も肌も舌も何もかも私の物にしたい。それなのにどうして私を拒絶するの? こんなにも好きなのに。こうも私の物になってくれないのなら、いっそ私の手で滅茶苦茶にしたい。
ごめんなさい。美鈴。あなたの事を誤解していました。少し考えれば分かる事の筈なのに、あなたが変態だなんて。妖精メイドの悪戯だと分かって、顔から火が出るくらい、本当に恥ずかしいです。あなたがフラン様のお世話を買って出たのだって、忠誠心からだって分かっていた筈なのに。下衆な勘ぐりをしてしまって本当にごめんなさい。許してくれないかもしれないけど本当にごめんなさい。お詫びにプリン作ります。
今日は疲れた。朝、妖精メイド達がくすくすと笑って私の方を見ていたから何かと思っていたけど、まさか私の日記を捏造していたなんて。その所為で私はフラン様を狙う変態扱いされて、みんなに、特にお嬢様と咲夜さんに酷く責められた。フラン様に二度と会わせないとまで言われてしまった。とても辛かった。お嬢様も咲夜さんも本当の事を知ったらすぐに謝ってくれたし、プリンも美味しかったし、悪戯だって妖精の生業みたいなものだし、誤解が解けたからもう良いけど。でもフラン様のお世話をしているのが、悪意をもっての事だと思われたのが、本当に辛かった。誤解は解けたけど、疑われたという事は、元元そういう疑いがあったという訳で。あまり疑われる事は控えた方が良いかもしれない。本当に悲しい。
今日は屋敷の中が騒がしかった。何があったのかは知らない。美鈴がいじめられているみたいだった。かわいそうだと思った。美鈴がご飯を持ってきたけど、いつもみたいに服を脱がされて体をさわられたりしなかった。今日はしないと言っていた。日記がはやっていると美鈴が言っていた。日記をくれたので私も書いてみる事にした。明日魔理沙の家に行った方が良いと言われた。中元を渡した方が良いからだ。ディナーウェアセットを明日持っていく。
結局グリモワールを完成させる事は出来なかった。捨虫の法を会得しておけば良かったというのは今更未練か。魔法使いでなくあの人の娘として生きたかった。ただそれだけ。それが私であったというだけ。幻想郷で暮らすとなれば長く生きられないと分かっていたけれど、それでも捨てたくない自分が居た。
片付けもしたし、美味しい物も食べたし、準備は出来た。心残りがあるとすれば、霊夢と喧嘩別れしてしまった事、魔法よりも何よりも霊夢。随分とらしくなったものだと私自身思う。この考え、何だか冒涜しているみたいで嫌な気分だ。どうしてこんな事を考えてしまうのか。死期なんて分からなければ良かったのに。結局霊夢に伝えられなくて、喧嘩になるばっかりで。
これは読んだ人、ちゃんと燃やしておくなりしてね。誰だか知らないけど、あなたも霊夢の事は大事でしょう? これを読んだんだから。
あの人がまた来た。もう良いのに。私はもうずっと昔に娘じゃなくなったのに。本当の娘は森の奥で人形を作っているのに。泣きたくは無かったが、泣いてしまった。泣いたってあの人を辛くさせるだけなのに。
ごめんなさい。
魔理沙と呼ばれた私は後悔していない。
本当に今までずっと楽しかった。
だからありがとう魔理沙。
さようなら魔理沙。
さようなら私。
今日まりさが死んでた。こわいからいしゃへ連れて行ったら怒られた。妖精はばかだって言われた。何でだ。あたいはばかじゃない。
魔理沙が腹痛で入院。阿呆。理由は霊夢と喧嘩してやけ食いしたから。死にそうな顔をした魔理沙が運ばれて来た時はどうなる事かと思ったけど、私の処方した薬を呑ませたので問題無し。今は安静している。
今日の患者は一人。魔理沙がうちに入院。師匠の薬を処方。快方に向かう。
食べ過ぎだって。馬鹿じゃないの? 魔理沙に馬鹿だって言ったら、苦しそうな顔で、馬鹿じゃない私は天才だと言っていた。馬鹿だ。アリスさんとパチュリーさんがお見舞いに来ていた。来た時は二人共心配していたけど、魔理沙に会ったら私と同じ反応を見せた。
溜息を吐きたくなる。魔理沙が死んだという偽の歴史が作られたので、急いで満月を作ってもらい本来の歴史へ修正した。魔理沙は単に腹痛で入院しただけ。亡くなったのは別の者だ。確かに同じ森に住んでいるから間違い易いかもしれない。それに正体不明の化け物が人を殺し回っている事に不安を感じるのは分かる。それでも魔理沙が死んだなんていう嘘の噂を作るのはどういう了見だ。今後はこういった間違いが無い事を願う。
魔理沙が死んだと聞いて慌てて永遠亭に言ったらただの腹痛。しかも食べ過ぎで。流石に呆れて物も言えない。昨日、一緒に居てくれないと死んじゃうと言われた後なだけに、本当に心配して飛んでいったのに、ただの食べ過ぎだなんて。一生分心配した。だからもう心配してやらない。私が行った時は薬を飲んだばかりで安静にする必要があるからと面会謝絶だったけど、先にお見舞いしたパチュリーとアリスによると、魔理沙は元気そうだったらしい。アリスが魔理沙の様子を語ってくれたけど、それによると、自分が永遠亭に運び込まれた事よりも、食べ過ぎで体重が増えていないかどうか気にしていたって。体重の前に自分の頭を心配した方が良い。食べ過ぎの原因が私との喧嘩らしいので、その点はちょっと申し訳無いけど。まあ、元気になったら仲直りしてやろう。
魔理沙の家に行ったら魔理沙が居なかった。お中元持っていったのに。永遠亭に居るって言うから行ったら会えなかった。会っちゃ駄目だって医者に言われた。でもパチュリーは会ったって言ってた。ずるい。明日は絶対会う。
何で正体不明って単語が出てきたら私の所為になるのかと。人里なんて襲ったって何のメリットも無い上に、私だったらもっと素敵な方法で里を混乱に陥れてみせる。アリバイがあるから私が犯人じゃないっていうのはすぐに分かってもらえた。と思ったら、村紗と一輪が推理小説にかぶれすぎて、何かトリックがあるかもしれないとまた疑い出す始末。命蓮寺の連中は私の事をさっぱり信用していない。終いにはナズーリンが、日記はぬえの勧めた物だから怪しい、これからは日記をつけない方が良いと提案し、皆がそれを承諾しやがった。そりゃ、皆に日記を勧めた理由に、盗み見て弱みを握ってからかってやろうという気持ちが無かった訳じゃない。でも元元の発案者は八雲紫であって私は紹介しただけだし、今という輝かしい瞬間をいつまでも残すという八雲の謳い文句をそのまま伝えたら、白蓮達は賛同していたじゃないか。だというのに、後になって私が怪しいから止めようなんて、あいつらに自分というものは無いのか? 宗教家を名乗ってる癖にぶれすぎだ。
で、もっとむかつくのは正体不明の化け物だ。私が正体を暴いてやろうとしたのに、さっぱり正体が掴めなかった。この世に私よりも正体不明が居る訳無いのに。幾ら聞き込みをしても、一向にはっきりしない。どんな姿なのか、どころか、誰が被害者で何処で殺されたのかすらはっきりしない。話が食い違っていたり、曖昧だったりで、不自然な程、正体が分からない。その化け物の能力だろう。随分と素晴らしい能力だよ。だが無意味だ。そちらの誤算は私のハートに火を付けた事だ。私に正体不明で挑もうとは千年早い。絶対に正体を暴いて鼻フックしたまま市中引き回しにしてやる。
さて、今日でこのノートを使うのもお終いだ。
紫さんがやって来た。日記を広めたのは紫さんだったそうで、今という輝かしい瞬間を形に残す事で大事な物を忘れない様にしたい、という理由で始めたらしいが、結局弊害が目立つから禁止にするのだと言っていた。弊害が起こるのは当然だろう。その瞬間を形にするという事は、本当だったら忘れてもらえるその瞬間が一生ついて回るという事であり、同時に偽物の瞬間を後から作れるという事だ。そもそも幻想郷で過去や未来の真実は必要無い。その瞬間に幻想郷が幻想郷としてあるという事実があるだけで良いし、過去も未来もその為に存在すれば良い。だから各各が勝手につけられる真実は邪魔なのだ。紫さんだったら初めから気づきそうなものだが、今回は抜けていた。それだけ余裕を失っていたという事か。業務日誌を許可してもらったから僕は問題は無いけれど、これだけ流行った今となっては、日記を禁止された事で困ったり寂しく思ったりする人も居るだろう。多分紫さん自身も寂しく思う一人だろう。
そう言えば、魔理沙が腹痛を起こしたという事で見舞いに行った。魔理沙には会えなかったが、僕と同じ様な見舞客が何人も居た。多くは最近幻想郷の一員になったばかりの者達で、話してみると魔理沙がどれだけ好かれていたかという事が分かって何だか嬉しい様な寂しい様な。
魔理沙の腹痛がどれだけ続くか分からないが、まあ、後は上手くやってくれればと思う。僕としては事前に聞かされていた訳だから驚きは無いし、初めてという訳でも無いから嫌悪も無い。勝手にやってくれといったところだ。霊夢は、単なる腹痛のわりに長引いている魔理沙を心配し始めているが、納得自体はしている様だ。まだ疑いには及んでいない。永遠亭の兎も優秀らしいし、何とかなるだろう。
紫さんが来て、今日の夜に魔理沙が治ると言っていた。
穴蔵に引き篭もっていると、周りの事を客観的に見られる様になる。いや、周りの主観に引き摺られなくなると言った方が正しいだろう。地上に居る者達がどう思っているのか知らないが、地下から見ると、ここ最近幻想郷は随分とシステマチックになった。先代の頃から兆候はあったが、特に霊夢になってから、最早幻想郷は巫女の為に存在させられているんじゃないかと疑いたくなる。霊夢を頂点としたシステムを正常に回す事だけに心血が注がれている。システム化した方が管理し易いのは分かるが行き過ぎの嫌いが見える。流石、式達の主殿か。計算の果てには必ず限界が来る事等分かっているだろうに、計算以外を信じ切れず計算を深め、ついには計算でしか成り立たない世界を作る。そして計算が狂った時、世界も崩れる。小説で描かれるディストピア世界と瓜二つだ。唯唯諾諾と従っていられる地上の者達や自分の閉じ篭った世界以外はどうでも良い私やこいしからすれば、そんな世界でも良いのだろうが、疑問を抱いてしまう者には生きづらいだろう。私のペットのお燐も疑問を抱いた一人で、昨日持ってきた名無しの死体についてじっと考えている。せめて名前をつけてあげたいと言っていたので、アリーと呼んでみたらどうかと助言してみたが、やはり納得はしてもらえず。
一部の明るい死体以外は基本的にネガティブな事ばかり言う。お燐もそれが分かっていて能天気な死体を集めているみたいだが、能天気かどうかを判別するには話しかけなければならず、話しかけると相手のネガティブな話を聞かされてストレスが溜まるらしい。特に今日のは酷くて、死体本人は前向きに感じているのに、内容は後ろ暗いから、その行き場の無さがお燐を大変苦しめている。毛並みが酷い。こういう事があるから、死体と話す事自体を止めさせたいが、それもまたストレスになるだろう。良い方法は浮かばない。
コミュニティの上に立つのであれば、内部の心の調和を整えなければならない。為政者というのは酷く面倒な仕事である。
何で? あんなの魔理沙じゃない。絶対に魔理沙じゃない。あんな奴知らない。顔が全然違うのに、話し方ばっかり真似して気味が悪い。それなのにみんなあいつを魔理沙だって言う。パチュリーも咲夜もお姉様まで、あいつが魔理沙で、前から魔理沙はあんなのだったって言う。何でみんな間違っているのか分からない。すぐに魔理沙じゃないって分かるのに。
霊夢が魔理沙の親友だから、一緒に魔理沙を見に行った。霊夢も魔理沙じゃないって言ってた。やっぱりお姉様達は間違っていた。あいつは何だか分からない。でも魔理沙を盗んだ事は分かる。霊夢に退治して欲しいと頼んだら、あれは単に魔理沙のふりをさせられているだけで、異変の元は別に居ると言っていた。魔理沙を隠して、あいつに魔理沙のふりをさせた奴が何処かに居るから、そいつを見つけ出して倒すまでは待っててと言われた。
でもじっとしていられないから魔理沙を探した。病院に行ったら退院したって言っていたから、どこかに居るのにまだ見つけていない。
やっぱりというか何というか、結局魔理沙と顔をつきあわせたら、瞬く間に仲直りしてしまった。病人食は質素でお腹が空いて仕方が無いというので、霖之助さんのお店の傍で宴会を催した。魔理沙の快気祝いという事で人を呼んだらみんな集まって、盛大なものになった。そして酷い有様になった。私も未だに頭が痛い。みんな酔い潰れていた。やはりというか何というか、宴会中は色色といざこざがあって皆それぞれ暴れまわっていた。珍しかったのは、普段は大人しいフランが何か物凄く暴れていた事。遠目だったので良く分からないが、魔理沙に怒っている様だった。なついていたと思ったけど。結局美鈴が気絶させて連れ帰っていた。やっぱり紅魔館の妹は情緒不安定な様だ。
そういえば宴会にアリスが来なかった。風邪を引いて寝込んでいるらしい。まるで魔理沙の代わりみたいなタイミングだ。魔理沙が明日お見舞いに行ってやろうと提案したら、みんなこぞって手を挙げたので、明日のお見舞いも盛大なものになると思う。西瓜でも持って行ってやれば喜ぶか?
あいつが魔理沙を盗んだ。泥棒だ。霊夢まであいつを魔理沙だって言い始めた。昨日は魔理沙じゃないって言ってたのに。あいつが何だか分からない。正体不明だ。でも魔理沙を盗んだ泥棒だっていうのは分かる。あいつの所為だ。きっとあいつが居るから魔理沙が居ないんだ。魔理沙が帰って来られないんだ。あいつを壊せばきっと魔理沙が帰って来る。
本日は休業。宴会を催した為。
霊夢が、そろそろ日記が埋まりそうだからとノートの入荷希望。紫さんに報告し、日記を付けない様に諭してもらう。
八雲から通達があった。日記を書くなという。だからこの日記も今日で最後だ。小説を書くのは構わないというので私としては問題無いが、楽しんでいたこいしは傍目から分かる程落胆していて、見るのが辛かった。禁止にするなら最初から広めなければ良いのに。こいしのケアをしたかったが、気がついたら居なくなっていた。
ケアといえば、お燐の様子も引き続き心配だ。結局一昨日持ってきた死体にはアリーと名づけたものの、嫌になって死神に渡していた。それで一件落着かと思ったら、今日も新しい名無しの死体を持ってきてまた悩んでいる。今度はアリーチェ辺りを勧めてみようか。どうせすぐ嫌になるだろう。お燐の抜け毛が凄い。
これ以上、地上に振り回されるのはまっぴらだ。
どうしてみんな私の事を魔理沙だって言うの? 私は魔理沙じゃないのに。お姉様まで私の事を魔理沙だって言う。私はフランドール・スカーレットなのに。お姉様の妹なのに。美鈴も咲夜も私の事を魔理沙だって言う。幻想郷のみんなが私の事を魔理沙だって言う。私はちゃんとあいつを壊したのに、それなのに魔理沙が帰ってこない。魔理沙は何処に居るの? 絶対どこかに居るはずなのに。なんでみんな私の事を魔理沙だって言うの? 私は魔理沙じゃないのに。誰かが、お前は金髪だから魔理沙だと言っていた。今、鏡で見たらその通りだった。誰かが、お前は魔法が使えるから魔理沙だと言っていた。私は魔法が使える。良く分からなくなってきた。私は魔理沙? 魔理沙は何処にも居ない。みんな私が魔理沙だって言う。私の髪は金色で魔法が使える。今魔理沙の家に居て、魔法の本を読んで、フランの事を考えている。
やっぱり私は魔理沙だ。私は魔理沙なんだ。
でも私はフランドール・スカーレットだ。
でもお姉様まで私の事を魔理沙だって言う。だから証拠にフランを見せろと言ったら今は病気で居ないと言っていた。永遠亭に行ったけど居なかった。
私は魔理沙の家に居る。だから魔理沙? でもフラン。でもお姉様は私の事を魔理沙だって言う。
私はフランの筈なのに魔理沙。
どうしてみんな私の事を魔理沙だって言うの。
鏡を壊したのにまだ私が居る。
私まで私の事を魔理沙だって言う。
私はフランなのに。
違うぜ、お前は魔理沙だ。
私はフラン。
魔理沙だぜ。
フラン
魔理沙
フラン
魔理沙
魔理沙
病気のフランも明日には癒えてうちに戻って来ると八雲紫が言っていた。
病気の治ったフランは外へよく遊びに行く様な明るい性格だと八雲紫が言っていた。
沈み切った咲夜と美鈴もいずれ時間が癒してくれる。
また紅魔館の皆が笑い合える日が来る。
明日は病気の治ったフランを連れて魔理沙の様子を見に行こう。
ちゃんと元気にやっているか。
病気の治ったフランも魔理沙を慕ってくれると良いけど。
これが最初で最後の私の日記。
あの子の姉として、あの子を偲んでの追悼の愛記。
あの子が居なくなっても私はずっとあの子の姉で居続けるその決意表明。
狂い切った幻想郷で未だ苦しむ私を、この紙束の墓に沈める。
掛け替えの無い妹との日日を抱いて安らかに眠れ。
魔導書編 ~ The Grimoire of Marisa.
記憶編 ~ Marisa's Lifes in Wonderland.
幻編 ~ You ain't seen Marisa, never!
編 ~ Does the Proprium Dream of Genuine Marisa?
魔理沙という名の幻想 ~ And Then There Were No Marisa.
霊夢という名の存在 ~ Marisa Leaving the People's Vision with Reimu.
記憶編 ~ Marisa's Lifes in Wonderland.
幻編 ~ You ain't seen Marisa, never!
編 ~ Does the Proprium Dream of Genuine Marisa?
魔理沙という名の幻想 ~ And Then There Were No Marisa.
霊夢という名の存在 ~ Marisa Leaving the People's Vision with Reimu.
魔理沙は友達。それ以外にどう表現して良いのか分からない。一番の友達。明るくて、努力家で、一所懸命で、
とにかく友達。そんだけ。
霊夢は友達。私の友達だけあって凄い奴で、才もあれば色もある。博麗神社の巫女として幻想郷中の平和を守り、どんな妖怪が相手でも怖じずに立ち向かい人人を守り切る。その美貌は月も陰り花も恥じらい輝夜姫すら遠く及ばず、人魚よりも素敵な声に、性格も強く可愛く美しくおっぱいも大きくて、とにかく凄い奴だ。これ読んだんだからおあいこな。
魔理沙という友達はうざい。人のノートを勝手に見て笑う。こっちが怒ると、向こうもノートを見せてきて、おあいこだという。魔理沙のノートに書かれていたのはふざけた文章で、私の事を過剰に褒めていた。そんなのを読まされて恥ずかしくなった私を見てまた笑う。魔理沙は傍若無人である。
霊夢は最低最悪の人間だ。冗談の分からない奴だしすぐ怒る。それだけじゃない。もっと酷い。史上最悪の霊夢は、好き勝手に暴れ回り幻想郷を混乱に陥れる大悪党だ。既に幻想郷の妖怪は全員殺され、人間も私一人だけが残るばかりである。なんていう事だ。こんな事があって良いのか。外からは悲鳴が聞こえてくる。きっとみんなが今正に殺されているんだ。聞いているだけで恐ろしくなる。どうかこれを読んだ人が無事に外へ逃げる事が出来たのなら、あの世紀の大悪党の事を世に広めて欲しい。
魔理沙は最悪である。いつも泥棒の真似事ばかりしている。幻想郷の平和を守る為に捕まえたが暴れて、里を壊しまわった。魔理沙の魔法で幻想郷は吹き飛び、月も消え去り、外の世界も滅茶苦茶になった。それでもへらへらと笑って、人の気持を考えない。最悪な奴だ。あと、何であんたしか生き残りが居ないのに外から悲鳴が聞こえんのよ、馬鹿。
うっさい! ばーか!!!
霊夢と魔理沙が顔を真赤にしながらノートを見せ合っていた。喧嘩している様なのだが、お互い何も話さずノートを突きつけあい、かと思うと地面に座りこんでノートに書き足し、また突きつけ合うという事を繰り返している。不思議なやり取りだが、見ている分には面白い。何かが流行ると文化も変わる。生活も変わる。そして常識も変わる。僕達の世界というのが絶えず変化しているという事を実感させてくれる。
さて、そのノート、もっと言えば日記は昨今幻想郷中で流行している。積極的に日記を書いているというよりは、ノートが流行っているみたいだから自分も使ってみようという者が多い。しばらくすれば落ち着くだろう日記の乱用は。正しく流行りの様相を呈している。
何にせよ、僕の様な雑貨屋からすれば、ノートを入荷していればそれなりに稼げるのでありがたい。消耗品なので毎日誰かしらがノートを買いに来るし、一見さんの客も多くなった。元からのお得意様であった紅魔館の咲夜さんも毎日一冊ずつノートを買っていく。他の者にあげるのかと聞いてみると、自分一人で使っていると話してくれた。一体何に使っているのかさっぱり分からない。
僕もこうして備忘録として使っているが、普段から店の日誌にあれこれ書いているので、このノートには本当に取り留めの無い事ばかり書いている。後で見返して見ると噴飯物の事ばかり書いてあるのもまた一興で
神綺様までやって来た。せめて最後に一目会いに来たか。喧嘩している霊夢と魔理沙を仲裁しようとしているが日に油を注いでいるから、酷い混戦模様を繰り広げている。
しかし、魔理沙から今日だと聞いていたが、傍目から見ると随分元気そうだ。仲睦まじい喧嘩の様子を見るに悲壮さは見られない。何か思う所があって霊夢と衝突しているのかと思ったが、もしかしたら今日というのは僕の覚え間違いで、本当に単なる喧嘩なのかもしれない。だとすれば、仲裁した方が良いのだろうが、それは中中に面倒な
ああ、そろそろ三人の矛先がこちらを向きそうだ。面倒事になるのは目に見えているが、頼られるのは嫌いじゃない。
牛乳少なし 夕飯には問題無かったが、明日の朝買い行く必要がある
人里で化け物が出現しているという噂を聞いた。死者も出ているという。
羽虫多 寝る前に商品入荷を吟味しておく事 明日に持ち越さない
魔理沙と喧嘩した。腹が立つ。魔理沙は馬鹿だ。馬鹿。馬鹿。いつも変な事を言う。人の事を変な風に書く。嘘吐きだ。泥棒だから嘘吐き。今日、喧嘩している時も急に倒れて人を心配させて、傍に寄ったらいきなり起き上がって、心配したか騙されたかだなんて言って、人を馬鹿にしたやな奴だ。こっちが怒って別れようとしたら、急にしおらしくなったので、また私が心配すると、魔理沙さんは寂しいと死んじゃうから一緒に居てくれなきゃ嫌だぜとかふざけた事を言って。兎か。馬鹿だ。馬鹿兎だ。永遠亭の子になれば良い。腹が立つ。でもきっと明日仲直りする。それがしゃくだ。
面白 魔理沙と霊夢の喧嘩 世界を滅ぼした事を責め合っていた
霖之助が二人に引っ張られていた 大岡裁き 千切れなかった
残念 今日の紅茶はお嬢様の口に合わず 明日はニトログリセリン
怖い 美鈴が変態 幼女性愛 妹様を狙う? 確認必要。本当だった場合は?
お嬢様 良好 フラン様 良好
閉じ篭もりっきりのフランをどうにかしたいが未だ上手くいかない。幻想郷であれば物を壊しても大丈夫だろうと外出を許可したけれど、なついている魔理沙の下へ向かう以外は外へ出ようとしない。屋敷を遊び回る姿を見ると、外へ遊びに行きたがっていると思うのに。何とかしたいと、一緒に能を見に行く計画や魔理沙をだしにする計画を立てていた矢先に、フランの世話をする美鈴がロリコンの変態だという事が分かった。本当に頭が痛い。美鈴はフランを外へ連れて行ける可能性を持った数少ない人材だったのに。どうしたものか。対策検討中。
ああ、フランドール様。可愛らしい。どうして私の思いに答えてくれないの? こんなにも思っているのに。あの無垢であどけない可愛らしい瞳唇鼻耳頬額顎首髪肩胸腕手先お腹腰お尻太腿足足先爪も肌も舌も何もかも私の物にしたい。それなのにどうして私を拒絶するの? こんなにも好きなのに。こうも私の物になってくれないのなら、いっそ私の手で滅茶苦茶にしたい。
ごめんなさい。美鈴。あなたの事を誤解していました。少し考えれば分かる事の筈なのに、あなたが変態だなんて。妖精メイドの悪戯だと分かって、顔から火が出るくらい、本当に恥ずかしいです。あなたがフラン様のお世話を買って出たのだって、忠誠心からだって分かっていた筈なのに。下衆な勘ぐりをしてしまって本当にごめんなさい。許してくれないかもしれないけど本当にごめんなさい。お詫びにプリン作ります。
今日は疲れた。朝、妖精メイド達がくすくすと笑って私の方を見ていたから何かと思っていたけど、まさか私の日記を捏造していたなんて。その所為で私はフラン様を狙う変態扱いされて、みんなに、特にお嬢様と咲夜さんに酷く責められた。フラン様に二度と会わせないとまで言われてしまった。とても辛かった。お嬢様も咲夜さんも本当の事を知ったらすぐに謝ってくれたし、プリンも美味しかったし、悪戯だって妖精の生業みたいなものだし、誤解が解けたからもう良いけど。でもフラン様のお世話をしているのが、悪意をもっての事だと思われたのが、本当に辛かった。誤解は解けたけど、疑われたという事は、元元そういう疑いがあったという訳で。あまり疑われる事は控えた方が良いかもしれない。本当に悲しい。
今日は屋敷の中が騒がしかった。何があったのかは知らない。美鈴がいじめられているみたいだった。かわいそうだと思った。美鈴がご飯を持ってきたけど、いつもみたいに服を脱がされて体をさわられたりしなかった。今日はしないと言っていた。日記がはやっていると美鈴が言っていた。日記をくれたので私も書いてみる事にした。明日魔理沙の家に行った方が良いと言われた。中元を渡した方が良いからだ。ディナーウェアセットを明日持っていく。
結局グリモワールを完成させる事は出来なかった。捨虫の法を会得しておけば良かったというのは今更未練か。魔法使いでなくあの人の娘として生きたかった。ただそれだけ。それが私であったというだけ。幻想郷で暮らすとなれば長く生きられないと分かっていたけれど、それでも捨てたくない自分が居た。
片付けもしたし、美味しい物も食べたし、準備は出来た。心残りがあるとすれば、霊夢と喧嘩別れしてしまった事、魔法よりも何よりも霊夢。随分とらしくなったものだと私自身思う。この考え、何だか冒涜しているみたいで嫌な気分だ。どうしてこんな事を考えてしまうのか。死期なんて分からなければ良かったのに。結局霊夢に伝えられなくて、喧嘩になるばっかりで。
これは読んだ人、ちゃんと燃やしておくなりしてね。誰だか知らないけど、あなたも霊夢の事は大事でしょう? これを読んだんだから。
あの人がまた来た。もう良いのに。私はもうずっと昔に娘じゃなくなったのに。本当の娘は森の奥で人形を作っているのに。泣きたくは無かったが、泣いてしまった。泣いたってあの人を辛くさせるだけなのに。
ごめんなさい。
魔理沙と呼ばれた私は後悔していない。
本当に今までずっと楽しかった。
だからありがとう魔理沙。
さようなら魔理沙。
さようなら私。
今日まりさが死んでた。こわいからいしゃへ連れて行ったら怒られた。妖精はばかだって言われた。何でだ。あたいはばかじゃない。
魔理沙が腹痛で入院。阿呆。理由は霊夢と喧嘩してやけ食いしたから。死にそうな顔をした魔理沙が運ばれて来た時はどうなる事かと思ったけど、私の処方した薬を呑ませたので問題無し。今は安静している。
今日の患者は一人。魔理沙がうちに入院。師匠の薬を処方。快方に向かう。
食べ過ぎだって。馬鹿じゃないの? 魔理沙に馬鹿だって言ったら、苦しそうな顔で、馬鹿じゃない私は天才だと言っていた。馬鹿だ。アリスさんとパチュリーさんがお見舞いに来ていた。来た時は二人共心配していたけど、魔理沙に会ったら私と同じ反応を見せた。
溜息を吐きたくなる。魔理沙が死んだという偽の歴史が作られたので、急いで満月を作ってもらい本来の歴史へ修正した。魔理沙は単に腹痛で入院しただけ。亡くなったのは別の者だ。確かに同じ森に住んでいるから間違い易いかもしれない。それに正体不明の化け物が人を殺し回っている事に不安を感じるのは分かる。それでも魔理沙が死んだなんていう嘘の噂を作るのはどういう了見だ。今後はこういった間違いが無い事を願う。
魔理沙が死んだと聞いて慌てて永遠亭に言ったらただの腹痛。しかも食べ過ぎで。流石に呆れて物も言えない。昨日、一緒に居てくれないと死んじゃうと言われた後なだけに、本当に心配して飛んでいったのに、ただの食べ過ぎだなんて。一生分心配した。だからもう心配してやらない。私が行った時は薬を飲んだばかりで安静にする必要があるからと面会謝絶だったけど、先にお見舞いしたパチュリーとアリスによると、魔理沙は元気そうだったらしい。アリスが魔理沙の様子を語ってくれたけど、それによると、自分が永遠亭に運び込まれた事よりも、食べ過ぎで体重が増えていないかどうか気にしていたって。体重の前に自分の頭を心配した方が良い。食べ過ぎの原因が私との喧嘩らしいので、その点はちょっと申し訳無いけど。まあ、元気になったら仲直りしてやろう。
魔理沙の家に行ったら魔理沙が居なかった。お中元持っていったのに。永遠亭に居るって言うから行ったら会えなかった。会っちゃ駄目だって医者に言われた。でもパチュリーは会ったって言ってた。ずるい。明日は絶対会う。
何で正体不明って単語が出てきたら私の所為になるのかと。人里なんて襲ったって何のメリットも無い上に、私だったらもっと素敵な方法で里を混乱に陥れてみせる。アリバイがあるから私が犯人じゃないっていうのはすぐに分かってもらえた。と思ったら、村紗と一輪が推理小説にかぶれすぎて、何かトリックがあるかもしれないとまた疑い出す始末。命蓮寺の連中は私の事をさっぱり信用していない。終いにはナズーリンが、日記はぬえの勧めた物だから怪しい、これからは日記をつけない方が良いと提案し、皆がそれを承諾しやがった。そりゃ、皆に日記を勧めた理由に、盗み見て弱みを握ってからかってやろうという気持ちが無かった訳じゃない。でも元元の発案者は八雲紫であって私は紹介しただけだし、今という輝かしい瞬間をいつまでも残すという八雲の謳い文句をそのまま伝えたら、白蓮達は賛同していたじゃないか。だというのに、後になって私が怪しいから止めようなんて、あいつらに自分というものは無いのか? 宗教家を名乗ってる癖にぶれすぎだ。
で、もっとむかつくのは正体不明の化け物だ。私が正体を暴いてやろうとしたのに、さっぱり正体が掴めなかった。この世に私よりも正体不明が居る訳無いのに。幾ら聞き込みをしても、一向にはっきりしない。どんな姿なのか、どころか、誰が被害者で何処で殺されたのかすらはっきりしない。話が食い違っていたり、曖昧だったりで、不自然な程、正体が分からない。その化け物の能力だろう。随分と素晴らしい能力だよ。だが無意味だ。そちらの誤算は私のハートに火を付けた事だ。私に正体不明で挑もうとは千年早い。絶対に正体を暴いて鼻フックしたまま市中引き回しにしてやる。
さて、今日でこのノートを使うのもお終いだ。
紫さんがやって来た。日記を広めたのは紫さんだったそうで、今という輝かしい瞬間を形に残す事で大事な物を忘れない様にしたい、という理由で始めたらしいが、結局弊害が目立つから禁止にするのだと言っていた。弊害が起こるのは当然だろう。その瞬間を形にするという事は、本当だったら忘れてもらえるその瞬間が一生ついて回るという事であり、同時に偽物の瞬間を後から作れるという事だ。そもそも幻想郷で過去や未来の真実は必要無い。その瞬間に幻想郷が幻想郷としてあるという事実があるだけで良いし、過去も未来もその為に存在すれば良い。だから各各が勝手につけられる真実は邪魔なのだ。紫さんだったら初めから気づきそうなものだが、今回は抜けていた。それだけ余裕を失っていたという事か。業務日誌を許可してもらったから僕は問題は無いけれど、これだけ流行った今となっては、日記を禁止された事で困ったり寂しく思ったりする人も居るだろう。多分紫さん自身も寂しく思う一人だろう。
そう言えば、魔理沙が腹痛を起こしたという事で見舞いに行った。魔理沙には会えなかったが、僕と同じ様な見舞客が何人も居た。多くは最近幻想郷の一員になったばかりの者達で、話してみると魔理沙がどれだけ好かれていたかという事が分かって何だか嬉しい様な寂しい様な。
魔理沙の腹痛がどれだけ続くか分からないが、まあ、後は上手くやってくれればと思う。僕としては事前に聞かされていた訳だから驚きは無いし、初めてという訳でも無いから嫌悪も無い。勝手にやってくれといったところだ。霊夢は、単なる腹痛のわりに長引いている魔理沙を心配し始めているが、納得自体はしている様だ。まだ疑いには及んでいない。永遠亭の兎も優秀らしいし、何とかなるだろう。
紫さんが来て、今日の夜に魔理沙が治ると言っていた。
穴蔵に引き篭もっていると、周りの事を客観的に見られる様になる。いや、周りの主観に引き摺られなくなると言った方が正しいだろう。地上に居る者達がどう思っているのか知らないが、地下から見ると、ここ最近幻想郷は随分とシステマチックになった。先代の頃から兆候はあったが、特に霊夢になってから、最早幻想郷は巫女の為に存在させられているんじゃないかと疑いたくなる。霊夢を頂点としたシステムを正常に回す事だけに心血が注がれている。システム化した方が管理し易いのは分かるが行き過ぎの嫌いが見える。流石、式達の主殿か。計算の果てには必ず限界が来る事等分かっているだろうに、計算以外を信じ切れず計算を深め、ついには計算でしか成り立たない世界を作る。そして計算が狂った時、世界も崩れる。小説で描かれるディストピア世界と瓜二つだ。唯唯諾諾と従っていられる地上の者達や自分の閉じ篭った世界以外はどうでも良い私やこいしからすれば、そんな世界でも良いのだろうが、疑問を抱いてしまう者には生きづらいだろう。私のペットのお燐も疑問を抱いた一人で、昨日持ってきた名無しの死体についてじっと考えている。せめて名前をつけてあげたいと言っていたので、アリーと呼んでみたらどうかと助言してみたが、やはり納得はしてもらえず。
一部の明るい死体以外は基本的にネガティブな事ばかり言う。お燐もそれが分かっていて能天気な死体を集めているみたいだが、能天気かどうかを判別するには話しかけなければならず、話しかけると相手のネガティブな話を聞かされてストレスが溜まるらしい。特に今日のは酷くて、死体本人は前向きに感じているのに、内容は後ろ暗いから、その行き場の無さがお燐を大変苦しめている。毛並みが酷い。こういう事があるから、死体と話す事自体を止めさせたいが、それもまたストレスになるだろう。良い方法は浮かばない。
コミュニティの上に立つのであれば、内部の心の調和を整えなければならない。為政者というのは酷く面倒な仕事である。
何で? あんなの魔理沙じゃない。絶対に魔理沙じゃない。あんな奴知らない。顔が全然違うのに、話し方ばっかり真似して気味が悪い。それなのにみんなあいつを魔理沙だって言う。パチュリーも咲夜もお姉様まで、あいつが魔理沙で、前から魔理沙はあんなのだったって言う。何でみんな間違っているのか分からない。すぐに魔理沙じゃないって分かるのに。
霊夢が魔理沙の親友だから、一緒に魔理沙を見に行った。霊夢も魔理沙じゃないって言ってた。やっぱりお姉様達は間違っていた。あいつは何だか分からない。でも魔理沙を盗んだ事は分かる。霊夢に退治して欲しいと頼んだら、あれは単に魔理沙のふりをさせられているだけで、異変の元は別に居ると言っていた。魔理沙を隠して、あいつに魔理沙のふりをさせた奴が何処かに居るから、そいつを見つけ出して倒すまでは待っててと言われた。
でもじっとしていられないから魔理沙を探した。病院に行ったら退院したって言っていたから、どこかに居るのにまだ見つけていない。
やっぱりというか何というか、結局魔理沙と顔をつきあわせたら、瞬く間に仲直りしてしまった。病人食は質素でお腹が空いて仕方が無いというので、霖之助さんのお店の傍で宴会を催した。魔理沙の快気祝いという事で人を呼んだらみんな集まって、盛大なものになった。そして酷い有様になった。私も未だに頭が痛い。みんな酔い潰れていた。やはりというか何というか、宴会中は色色といざこざがあって皆それぞれ暴れまわっていた。珍しかったのは、普段は大人しいフランが何か物凄く暴れていた事。遠目だったので良く分からないが、魔理沙に怒っている様だった。なついていたと思ったけど。結局美鈴が気絶させて連れ帰っていた。やっぱり紅魔館の妹は情緒不安定な様だ。
そういえば宴会にアリスが来なかった。風邪を引いて寝込んでいるらしい。まるで魔理沙の代わりみたいなタイミングだ。魔理沙が明日お見舞いに行ってやろうと提案したら、みんなこぞって手を挙げたので、明日のお見舞いも盛大なものになると思う。西瓜でも持って行ってやれば喜ぶか?
あいつが魔理沙を盗んだ。泥棒だ。霊夢まであいつを魔理沙だって言い始めた。昨日は魔理沙じゃないって言ってたのに。あいつが何だか分からない。正体不明だ。でも魔理沙を盗んだ泥棒だっていうのは分かる。あいつの所為だ。きっとあいつが居るから魔理沙が居ないんだ。魔理沙が帰って来られないんだ。あいつを壊せばきっと魔理沙が帰って来る。
本日は休業。宴会を催した為。
霊夢が、そろそろ日記が埋まりそうだからとノートの入荷希望。紫さんに報告し、日記を付けない様に諭してもらう。
八雲から通達があった。日記を書くなという。だからこの日記も今日で最後だ。小説を書くのは構わないというので私としては問題無いが、楽しんでいたこいしは傍目から分かる程落胆していて、見るのが辛かった。禁止にするなら最初から広めなければ良いのに。こいしのケアをしたかったが、気がついたら居なくなっていた。
ケアといえば、お燐の様子も引き続き心配だ。結局一昨日持ってきた死体にはアリーと名づけたものの、嫌になって死神に渡していた。それで一件落着かと思ったら、今日も新しい名無しの死体を持ってきてまた悩んでいる。今度はアリーチェ辺りを勧めてみようか。どうせすぐ嫌になるだろう。お燐の抜け毛が凄い。
これ以上、地上に振り回されるのはまっぴらだ。
どうしてみんな私の事を魔理沙だって言うの? 私は魔理沙じゃないのに。お姉様まで私の事を魔理沙だって言う。私はフランドール・スカーレットなのに。お姉様の妹なのに。美鈴も咲夜も私の事を魔理沙だって言う。幻想郷のみんなが私の事を魔理沙だって言う。私はちゃんとあいつを壊したのに、それなのに魔理沙が帰ってこない。魔理沙は何処に居るの? 絶対どこかに居るはずなのに。なんでみんな私の事を魔理沙だって言うの? 私は魔理沙じゃないのに。誰かが、お前は金髪だから魔理沙だと言っていた。今、鏡で見たらその通りだった。誰かが、お前は魔法が使えるから魔理沙だと言っていた。私は魔法が使える。良く分からなくなってきた。私は魔理沙? 魔理沙は何処にも居ない。みんな私が魔理沙だって言う。私の髪は金色で魔法が使える。今魔理沙の家に居て、魔法の本を読んで、フランの事を考えている。
やっぱり私は魔理沙だ。私は魔理沙なんだ。
でも私はフランドール・スカーレットだ。
でもお姉様まで私の事を魔理沙だって言う。だから証拠にフランを見せろと言ったら今は病気で居ないと言っていた。永遠亭に行ったけど居なかった。
私は魔理沙の家に居る。だから魔理沙? でもフラン。でもお姉様は私の事を魔理沙だって言う。
私はフランの筈なのに魔理沙。
どうしてみんな私の事を魔理沙だって言うの。
鏡を壊したのにまだ私が居る。
私まで私の事を魔理沙だって言う。
私はフランなのに。
違うぜ、お前は魔理沙だ。
私はフラン。
魔理沙だぜ。
フラン
魔理沙
フラン
魔理沙
魔理沙
病気のフランも明日には癒えてうちに戻って来ると八雲紫が言っていた。
病気の治ったフランは外へよく遊びに行く様な明るい性格だと八雲紫が言っていた。
沈み切った咲夜と美鈴もいずれ時間が癒してくれる。
また紅魔館の皆が笑い合える日が来る。
明日は病気の治ったフランを連れて魔理沙の様子を見に行こう。
ちゃんと元気にやっているか。
病気の治ったフランも魔理沙を慕ってくれると良いけど。
これが最初で最後の私の日記。
あの子の姉として、あの子を偲んでの追悼の愛記。
あの子が居なくなっても私はずっとあの子の姉で居続けるその決意表明。
狂い切った幻想郷で未だ苦しむ私を、この紙束の墓に沈める。
掛け替えの無い妹との日日を抱いて安らかに眠れ。
魔導書編 ~ The Grimoire of Marisa.
記憶編 ~ Marisa's Lifes in Wonderland.
幻編 ~ You ain't seen Marisa, never!
編 ~ Does the Proprium Dream of Genuine Marisa?
魔理沙という名の幻想 ~ And Then There Were No Marisa.
霊夢という名の存在 ~ Marisa Leaving the People's Vision with Reimu.
何度読み込んでも本筋のストーリーの流れが分からない。これは致命的だと思う
段落変わって日記の主人公が入れ替わるときに、せめてその日記を書いている人物を『○○の日記』みたいにきちんと挙げるべきだったのではないか。
多人数の視点を日記という形で表して、全体を形作るアイディア決しては悪くないと思えるだけに非常に残念。
これだけだと意味不明だけれど。