Coolier - 新生・東方創想話

みんなが幸せになって終わるために 2

2014/06/16 22:14:05
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 「ですから、あやめお嬢様は誰とも会いません」
 「せめて理由を教えてくれよ」
 「理由は私にも知らされておりません、とにかく魔理沙様をお嬢様に合わせるわけにはいかないとの柊家の決定です」

 次の日も魔理沙はあやめに会おうとしたが、使用人にかたくなに断られてしまった。
 そうして断られ続け今日で三日目になる。
 これが紅魔館なら、多少の弾幕も平気な連中ばかりだから、弾幕の鍛錬も兼ねて強行突破もしたが、一般人の家なのでそうも行かない。
 アリスも彼女に興味があったので、ぜひ会わせてみようとも思っていたのだが。
 こっそり忍び込もうかと思っていると、塀の角から見知った顔が魔理沙を手招きしている。
 あのホフゴブリンだった。

 「お前、元気か? あやめは今どうしているんだ?」
 「おかげさまでな。それで、あんたには本当の事を話しておきたいと思ってな。お嬢様の親友だものな」
 
 そうは言ったものの、従者は腕を組んで、言っていいものかどうか悩んでいる。

 「う~ん、やっぱ言わない方がいいか、オレにもだんな様から止められているし」

 魔理沙は従者を抱き上げ、強くゆすった。

 「話してくれよ、お前を悪いようにはしない。頼む、秘密は守る」
 「わかったわかった、話すよ、だから放し……」

 急に魔理沙の腕から力が抜け、彼の体は地面に落ちた。

 「痛いじゃねえか、どうしたんだいきなり」

魔理沙は茫然と門の方向を眺めていた。
 彼が魔理沙の視線をたどると、永遠亭の薬師、八意永琳と弟子の鈴仙が今まさに屋敷に入るところだった。

 気のせいか二人とも深刻そうな顔に見える。

 「あやめ……悪いのか」

 従者は辛そうに目を伏せた。

 「ああ……魔理沙さんと別れた日の晩から急に熱が出て、今は少し下がったがお加減が良くなくてな、まだ外に出られる状態じゃないんだ。俺も看病したいと申し出たが、お家の方々に近づくなと言われちまった」

魔理沙は帽子で目元を伏せ、ためらいがちに言う。

 「私がいろいろ連れまわしたせいだ。何て事だ」
 「いや、魔理沙さんは悪くない、お嬢様も喜んでいた、きっとたまたまなんだろう」
 「いろいろと済まなかった、もう戻っていいぞ」
 「いや、旦那様からもう家には入るなと言われたよ。柊家の方々にとっちゃあ、オレが厄病神に見えるのかもな」
 「酷い話だ。どうするんだお前は」
 「仲間たちと一緒に紅魔館へ再就職するか、そこらの野良妖怪にでもなるさ」

 寂そうに去っていくホフゴブリン、外見は怖くても、忠実なあやめの従者。
 魔理沙はその背中に声をかけた。

 「それなら、しばらくこの辺の野良妖怪で居てくれ、たまにこの家の雰囲気を見に来てくれ、あやめの病状が良くなれば、あやめからお前を家に入れるよう働きかけてもらえるかも知れないじゃないか」
 
 それから、何かを思い出して魔理沙はぽんと手を叩いた。

 「そうだ、しばらく私の所で働かないか、家が散らかりっぱなしなんだ」
 
 従者は振り向いて言う。

 「いや、心配には及ばないよ、しばらく放浪するのも気楽なもんだ」
 「そうか、あやめはきっと良くなる、お前もまた会えるさ」
 「あんたはいい奴だな、じゃあな」

 去っていく一時解雇の従者を見送り、自らも物陰に隠れ、永琳の回診が終わるのを待つ。
 使用人に挨拶して屋敷を去る二人に声をかける。

 「あの、永琳、いや八意先生」
 「魔理沙、あなたもここのお嬢さんのお見舞いに来たの?」
 「そうだ、あの子は大丈夫なのか?」
 「魔理沙さん、患者さん個人に関わる事はちょっと……」 優曇華が顔をしかめた。
 「あやめは友人なんだぜ」
 「聞いたわ。あなたの話になると嬉しそうに話すのよ」

 永琳は少し考えて、うん、とうなずいた。

「魔理沙になら教えてもいいわ、でも絶対に他言無用。いい?」 
 「わかった。感謝する」

 聞くと、あやめの病気は生まれつきのもので、今までも良くなったり悪くなったりを繰り返してきたという。悪くなると熱が出たり、息が苦しくなったりして動けなくなるらしい。今はいくらか落ち着いていて会話もできるが、はっきり言って、これといった治療法はないという。

 「今日明日に亡くなる事なんてないけど、普通の人のように生きるのはかなり……難しいわ」
 「……そうか。じゃあ、悔いの無いようにしなきゃな」
 
 魔理沙の言葉はあやめに対してか、それとも自分か、あるいは両方にかけた言葉なのか?
 永琳も強くうなずく。

 「魔理沙、あなたも心をしっかり持つのよ」
 「言われなくてもそうするぜ。こうなったら意地でも顔を拝んでやる」

二人の見ている前で魔理沙は箒にまたがり、垣根を越えてあやめの屋敷に忍び込んだ。
 使用人や座敷わらしに見つからないように気をつけながら、勘を頼りにあやめが寝込んでいるであろう部屋を探す。やがて幾人かの気配がする和室を見つけ、ふすまに耳をあてて聞き耳を立てる。

 「どうして、あんないい子がこんな目に……せっかく友達もできたのに」
 「仕方ないだろう、誰かがこうなる運命だった」
 「でも、本当にあの子は助からないの。他のお医者様も探してみましょうよ」
「八意様以外にのどんな名医がいるって言うんだ、里じゅう探しつくしたじゃないか、巫女様の祈祷もお願いしよう」
 
(そんなに悪いのか)

 あやめの両親だろうか、母親らしき女性はすすり泣いていた。
 魔理沙は両親を気の毒に思い、あやめを気にかけながら、彼女の部屋を探す。
 
 廊下をはさんで向かい側の部屋にあやめがいた。彼女は床にふせっていて、心なしか最後に会った時よりもやつれて見えた。

「よっ、来てやったぜ」 魔理沙の飾らない、いつもの笑顔。
「誰なの、……ああ、魔理沙ちゃん!」

あやめが話しかけようとして咳こんだ。
 
 「ゴホッ、ごめんね、私もうダメみたい」
 「バカな事を言うな、今はゆっくり治せ」
 「誰かいるのか」 

 思わず大きな声を出してしまい、両親に気づかれてしまう。

 「お父さん、この人は私の友達の魔理沙ちゃん、悪い人ではないわ」
 「魔理沙? そうか君が霧雨さんとこの…….娘は具合が悪いんだ、今は帰ってくれ」

 魔理沙は普段こういう時にも堂々としているが、今は彼女らしくも無く、両親に謝り、あやめに会う許可を求めた。

 「勝手に入った事は謝るぜ……ります。申し訳ない。でもあやめは私の親友なんです。どうか私にも治療させてくれ下さい」

 あやめの父親らしき壮年の男性は腕を組んでううむと唸り、考え込んでいた。
 あやめの面影のある母親らしき女性は、『もしかしたら……』とか、『この際どんな手でも……』としきりに父親らしき人に認めるようせがんでいる。
 やがて父親らしき人が重く口を開いた。

 「治療は八意先生に任せてある、君はその補助を頼む。健康にいい食事とか、気晴らしに外に連れていってやるとかしてくれればいい、ただし、無理はさせるなよ」
 「本当か、済まない、いやありがとうございます。きっとあやめ、いやお嬢さんを元気にして見せますぜ」

 魔理沙は胸を叩いて誓う。それから即行で自分の家に戻り、そこから紅魔館へと飛んだ。

 「よう、パチュリー、これが私が借りていた本だ。それからこの魔法キノコ、大漁だったんでおすそわけだ」
 「あら、ずいぶんと気前がいいのね、今度は何の企み?」
 「借りた物を返しに来ただけだぜ。まあ、強いて言えば、なんというか、その……」
 「正直におっしゃい、あなたらしくも無い」
「あやめの調子が良くないらしいんだ……」

パチュリーはしばらく無言で、それから、何気ない風な口調でつぶやいた。

 「……そう、医療関係の書物を置いた場所があるから、こあに案内させるわ」
 「感謝する」
 「いくつか借りていってもいいわよ」

 それから魔理沙は自分の家の魔道書や図書館だけでなく、永遠亭の書物からも病気の治癒や健康法を調べ、珍しく八意永琳に頭を下げて教えを請い、家族から了解を取りつつ、あやめのケアに励んだ。
周りを清潔に保ち、あやめに滋養強壮の薬草入りスープを飲ませたりした。最初は苦くて嫌だと言っていたから、自分なりに味を改善すると、あやめが笑顔で美味しいと言ってくれた。スープを飲んだ次の日、まだ外へは出られないものの、昨日より元気そうなあやめを見て、魔理沙は確かに治療の手ごたえと小さな幸せを感じた。

(うん、あやめは良くなっている、病魔になんか負けはしないぜ)

だからこそ、古くからの親友である霊夢の言葉に、魔理沙は打ちのめされたのだ。

「……あの子、もうダメかも知れない……」

神社で霊夢とあやめに関する話をして、霊夢がそうつぶやいた時、魔理沙は驚いて茶を吹いた。そして怒りが湧いた。

「おい、冗談じゃねえぞこの野郎。お前、あやめの何を知っ……」
「祈祷に呼ばれたの」

一瞬でその意味を悟り、込み上げてきた怒りが恐怖に変わった。
霊夢の予感はまさに『霊夢』そのもの。
異変が起きても、ただ勘に従って進んでいくだけでその黒幕にたどり着いてしまう。
その霊夢が病床のあやめに会い、そう感じたと言う事は……。
霊夢も魔理沙の心を悟ったのか、はっとして両手と首を左右に振った。

「いやいやいや、違うって、何かを感じたとかそういう事じゃないの。ほらあの子体が弱いでしょ、だから不謹慎だけど、万が一、万が一ってこともあるから、悔いのないように毎日を大切にした方が良いかと思ったの。怖がらせてごめんなさい」

嘘だ。霊夢はあやめと会った時、決定的な何かを感じ取ったに違いないのだ。
しかし魔理沙はそれを認めるのが怖かった。

「そうだな、万が一、ってこともあるからな」
「もっとも、私の勘は外れる事も多いしね」

気休めにしか思えない言葉だ。
そして魔理沙は、これも気休めかもしれないが、永琳の言葉をもう一度心で反芻した。

「心を許した友人と触れあう事で、私の治療には無い効果が得られるかもしれない。月の民には気付けない人間ならではの視点もあるはず。それを活かせればあるいは……」

遠まわしに打つ手なしと言っているも同然だったが、その時、それでも魔理沙は永琳の肩を叩いて、大げさに感謝の意を表したのだった。

「そうだな、その通り、まだ希望は失われちゃいない。感謝するぜ。あんたは天才だ」

永琳の治療も駄目、霊夢の祈祷も駄目、なら自分の魔法も駄目か?
否、三度目の正直だ、自分ならできる、あやめを救って見せる。
そう自分に言い聞かせる。

「そうさ、最後まで分からないぜ」

 しかしそれでも、あやめは日に日にやせ細っていくのだった。





◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆





 ある日の訪問、魔理沙は団子屋のテイクアウト用の紙箱を持って行った。
 寝込んでいるあやめのために、弥生が作ってくれた羊羹が入っている。
 玄関から入り、両親に挨拶してあやめの様子を聞いた。
 父親は幾分寝込んでいる状況に慣れているものの、それでも重い口調で話す。

 「落ち着いているが、やはり顔色は良くない、食欲も無い。もう諦めているかのような事ばかり口にするんだ。どうか娘を励ましてやって欲しい」
 「任せてくれ。きっと良くなるさ」

いつものように挨拶してあやめに会う。
あやめは布団から上半身を起こして、団子屋特製の羊羹を一口だけ食べて、美味しいねとつぶやくと、残りを紙箱に戻してしまった。
 それから不安がる魔理沙の顔を見つめ、決心したように口を開いた。

 「魔理沙ちゃん、永琳先生は諦めるなと言ってくれたけれど、私には分かるのよ。もう永くないって。むしろ今まで良くもったと言えるぐらい」
  
 それからあやめは、開いたふすまから青空を見つめる。
春の陽気とみずみずしい草木、鳥の鳴き声、その一室だけがどこか暗く淀んだ空気だった。
励ましてやってくれと父親に言われたものの、魔理沙にはどう答えていいか分からない。
諦めるな、そんな事言うな、と言葉が出かかったが、髪がつやを失い、皮膚が乾き、頬骨の浮き出たあやめの顔を見ていると、どんな励ましもどこか嘘くさく聞こえてしまうように思えた。

 「私ね、最後に魔理沙ちゃんと会えただけでも幸せだった、それだけで未練なくあの世に行けるよ。もう時間切れなのよ」

 何か会話を続けないと、沈んだ雰囲気にのまれてしまいそうに思えた。
 魔理沙は思う。そうだ、別に中身の無い会話でもいいんだ。何か話していれば、この空気も晴れるかも知れない。
 
 「そういやさ、青娥の奴はどうしているんだ?」
 「ときどき遊びに来ていたけど、私が伏せってからは全然来ないの」
 「か~っ薄情な奴、あんなにお前を可愛がってたくせに、病気になって都合が悪くなったら見捨てる、そういう奴だ。来んでいい」
 「そうかもね」
「あ、あのさ、もし、もし良くなったら、また遊びに行かないか」
 「うん、もし良くなったらね」
 「これを渡しとく、みんなには内緒だぜ」

 魔理沙はポケットからいくつかの星のかけらを取りだし、あやめに与えた。

 「これは魔力の塊だ。調子が良い時は、これを屋根の上にでも放りあげてくれ、そいつは何かにぶつけると半日ばかし魔法使いにだけ分かる光を出すんだ、それが合図だ。私はたびたびこの辺に来てみるから、あやめはゆっくり病気を治すんだ」
 「ううん、もう覚悟はできてるから」 首を横に振る。
 「……じゃあまた、生きているお前に会いに来るぜ。病魔なんかに白旗あげるな」
 
 廊下と反対側のふすまを開けると、そこはすぐ庭になっていて、魔理沙はそこから外へ出た。庭には大きな石碑があり、そこに供え物がある事から何かの慰霊碑に見えた。魔理沙は軽く石碑に頭を下げ、箒にまたがって帰っていく。
 魔理沙が去った後、あやめは布団に潜る。魔理沙といた時は気丈にふるまっていたが、枕に顔を埋め、静かに泣きだした。

 「誰が覚悟を決めただって? そんなもの出来る訳無いじゃない! 他の子はみんな元気なのに、何で、何で私なの? どうして私がこんな体になっちゃったんだろう」

 枕を涙で濡らし、小さく叫ぶ。

「畜生、畜生、畜生! 死にたくない、生きていたいよ」

 感情を爆発させた自分に罪悪感を覚えてしまう。

 「あははっ、無様な私ね。美人美女って言われていい気になって、でも最後にこうやって喚き散らすの。どこが美人よ、何がお嬢様よ。魔理沙ちゃんゴブちゃんが見たら幻滅するよね、これがご令嬢の本性かってね」

 泣いているあやめの部屋に、外から誰かが来る気配を感じた。

 「魔理沙ちゃん?」

 しかし、部屋に入ってきたのは別人だった。見知った顔だ。
 自分を好いてくれていた大人の雰囲気のある女性。最近見かけなくなっていたが、まだ自分に興味があったのか。

 「青娥さん?」
 「そうとうやつれ果てたようね。やせ細った女の子は美しくないわ」
 「そうね、だからもう来なくていいよ。私はもうあなたの期待に応えられる女じゃないし」

 青娥は何かの入った小瓶を取り出した。

 「提案があるのだけど、もう一度元気になれる秘術に興味はお有り?」

 あやめは自分の本能が少しだけ嫌になる。
 ほうら、生きられるかもというだけで、胡散臭い藁にもすがる私の浅ましさよ。




もうしばらく続きます。
とらねこ
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コメント



0.250簡易評価
6.90名前が無い程度の能力削除
これは続きが気になる!
8.80沙門削除
ラストで邪仙登場。
彼女の申し出に少女はどう答えるのか?
続きがきになりますねー。