ある日、アリスは部屋の中を掃除していると、
箪笥の中に一本のロープがあることに気づきました。
ロープを取り出そうとすると片結びになった結び目が見えたので、
このロープは輪になるように両端が結ばれているようです。
ロープを全て取り出すために、箪笥の中からグイグイとロープを引っ張りながら
部屋の中を歩いていくと、ロープはどこまで引っ張っても終わりなく伸びていき、
アリスはついにドアの前まで来てしまいました。
そこで今度は部屋から出てさらに玄関までロープを引いていきます。
玄関までたどり着き、人形に箪笥を確認してもらうと、ロープはまだ箪笥から出きっていないようです。
しようがないのでロープを腰に掛けて、ドアを開けて外に出て、さらにロープを引っ張っていくことにします。
しかしながら、空を飛んで湖の上空まで来ても、森を抜けてもロープは伸び続けます。
ふと後ろに気配を感じたので後ろを見てみると、いつのまにか妖精たちが
ロープの中に列を作っていました。
電車ごっこをしているのだと勘違いしてしまったのかもしれません。
気にせずにロープをぐいぐいと引いていきます。
山を越えるころには、いつのまにか天狗や河童まで列に加わっているのが見えました。
列に加わる妖怪を増やしながらロープを引き続けてもロープは伸びて、
幻想郷を一周して家のドアまであと50メートルというところまで来てから
ようやく、箪笥を見張っていた人形からロープが箪笥から出きったという連絡がありました。
ドアの前まで行くとちょうどロープの終わりがドアから見えました。
せっかくなので電車ごっこのロープを環状線のようにしたいと思い、
ロープの終わりの部分も腰に掛けてみます。
するとどうしたことでしょう。
幻想郷の地形は大きく歪み、幻想郷は指輪のような、ドーナツのような、円筒を無理矢理曲げて
上面と底面をくっつけたような形へと変わってしまったのです。
そんな幻想郷の話。
霊夢が空を見上げると、上空には太陽があり、太陽のさらに向こうには紅魔館の屋根が小さく見えている。
幻想郷がこんなふうになったのは1か月ほど前のことで、なんの前触れもなく突然に幻想郷の姿は大きく変わっていた。
周りの人や妖怪の話によると、幻想郷は平面の世界からドーナツのような三次元の世界になってしまったのだという。
西の空へ目をやれば壁に掛けた鏡のように湖が垂直に地面に張り付いていて、
東の空へ目をやれば地面から直角にそびえ立つ山が見える。
山にかかる雨雲からは山に向かって真横に雨が降っている。
ハムスターが回し車の中から世界を見るとこんな風に見えるのだろうかと考えていると、
天狗の新聞が空から落ちてきた。
新聞の内容は幻想郷のかたちがぐにゃりと曲がってしまったことについてであり、
新聞のネタと写真が好きな天狗にとってこの事態は喜ばしいもののようだ。
ただ、天狗にとっては楽しいものでも、人間にとっては恐ろしいものだったようで
幻想郷の姿が変わった当初、人里では
アルマゲドンだとかカタストロフがどうとかいう終末論などが巻き起こり、
大きな混乱が生じてしまったようである。
さすがに1か月もすると皆この状況に慣れて普段通りの生活を送るようになったものの、
不安に駆られた人々が神社に参拝することが増えたので、
このまま幻想郷の形が戻らなくてもいいかなと思っていたりもする。
さて、人々は普段通りの生活を送るようになったものの、
なにかと不思議に思う事はあるもので、
特に論争が行われたものに太陽に関する事があった。
幻想郷の形がぐにゃりと曲がった後でも、太陽は変わらず東から昇って
西へ沈んでいるように見える。
ここで何が不思議に思われたのかというと、幻想郷の形がドーナツのような輪状になって
いるとすると、太陽は輪の中を通るように移動していて、そのために
太陽が東から昇って西へ沈んでいるように見えているのだと考えられる
わけだが、一度輪の中を通った太陽がどうやって再び輪の反対側へ移動して
いるのかということである。
人里でだけ太陽の動きが東から昇って西に沈むように見えているとすると、
太陽は人里のある地面を軸として回っていると考えられるわけだが、そうすると
人里の対面に位置する場所では、太陽が東から沈むようにして朝が来て、西へ上るように
夜が来るように見えるはずであり、太陽の光もあまり当たらないことになってしまうだろう。
しかしながら、天狗の情報によると、人里の対面に位置する場所でも太陽は変わらず東から昇って西に沈むように
見えているらしく、場所によって太陽の見える時間が変わる場所もないそうだ。
この太陽の動きに対して、最初に提唱された説は
団子のように一列に連なった太陽が幻想郷の輪の中を通り続けているという説である。
しかしながら、1個、2個ならまだしも、太陽が無数にあって幻想郷を通り
続けているということは考えられないということで、この説は早々に否定された。
次に出てきた説は、太陽が一列に並んでいるのではなく、円状に並んでいるという説だ。
これなら太陽が無数に必要ということはないだろう、というわけだ。
しかしこの説も否定された。
太陽が円状に並んでいるとすると、太陽の周回軌道内にある幻想郷の一部分に
おいては太陽に一日中照らされ続けてしまうことになってしまうからだ。
これらの説は天道説と呼ばれ、その後も太陽の動きをああすれば一日の太陽の動きを説明できる。
こうすれば説明できる。といった議論が生まれたが、太陽の数が一つでは足りず、複数の太陽が必要とされる
ことから実際にそんなことはないだろうという疑問を解消できなかったため、一般に定着することはなかった。
また、太陽の数に関する問題を解消する天動説の亜種として、境界説というものもある。
幻想郷の輪を抜けた後しばらく進んだ場所には大きな鏡のような境界
が存在していて、太陽はその境界を通り幻想郷の反対側へ戻り再び幻想郷を通る。
そのために太陽が毎日決まった動きをしているように見えるというものだ。
これなら太陽の数は一つで済む。しかしながら、
太陽が通れるほど大きな境界が存在しうるのかという問題があり、
境界のことと言えばあの妖怪といわれる八雲紫が「知らなーい。」と
境界の存在を否定したことや、博麗の巫女である私も
そのような境界の存在を感じられなかったことから、
この説もあまり信じられることはなかった。
太陽が動く説に限界が見られると、とうとう幻想郷自体が動いているのだ
という地動説まで出てくる。
どんな説かというと、たとえば、輪ゴムの外円の部分を内円の部分になるようにねじったことがあるだろうか。
それと同じように、幻想郷が、幻想郷の外側は内側に、幻想郷の内側は外側に移動しているという説である。
これなら太陽は円の中心に居続けるだけでよくなる。
ただ、この説に対しても、幻想郷の内側が外側になるとき、地面がゴムのように伸びでも
しなければ地割れが起きてしまうという批判が起きた。
ここまでいくと学派に分かれた対立まで生じていたが、
傍から見ている分にはおもしろいので来月には弁論大会の開催が
決定していたりする。
さて、長々と太陽がどうたらの話をしてきたわけだが、なぜ私がそんな話を
したのかというと、来月の弁論大会で審査役として出席してほしいと依頼されている
ためである。
私と何の関係があるのか不思議でたまらなかったが、博麗の巫女が支持している
のはどちらの説なのか、という事で箔のつきかたが違うのだという。本当かよ。
本当かどうかはさておき、延々と弁論などを聞かされたら熱が出そうなので
丁重に断ろうとはしたものの、お礼も出すし大会の後には宴会で飲み食いし放題
と言われれば私に断るという選択肢は無くなってしまったのであった。
時間を進めて一月後
弁論大会当日である。
大会では、まず広場に幾つかの矢倉が作られた。
矢倉には各々の学説が書かれた旗が掲げられ、
学説を唱える代表者がそれぞれの矢倉からお互い学説を言い争い、
審査員が点数を点けていった結果、総点数が一番高かったものが優勝である。
ちなみに午前の部と午後の部の二部構成になっている。
優勝してなにがあるのかは知らないが、とりあえず大会を開くなら優勝者を決める必要があるのだという。
広場周辺には矢倉だけでなく出店も多く出ていた。
ドーナツ屋、ベーグル屋、イカリング、オニオンリング、
中央に穴を空けたワッフルに大判焼きにお好み焼き、などなど
どれだけ影響を受ければこれほどリング状の出店一色になるのかと少し不気味に思う。
しかしながら、ジュウジュウとおいしそうな音と匂いが審査席にまで聞こえてくると
こちらのお腹にもくるものがある。
お昼の休憩に合わせて
食べ物屋を見て回ると、どのお店でも一皿30円で品物が買えるのだという。安い。
ついついあれもこれも買いまわったところ、甘いものと油ものの合わせ技で胃もたれ
感がすさまじい。安さに踊らされてしまうとは私も馬鹿だなと後悔するが、
まわりを見てみると私以外にも気持ちが悪そうな顔をしている人がいて、
となりの審査員や、午前中に自分の学説を高らかに語っていた代表者の何人かも
気持ちが悪そうにしているので、これも人の業というものなのだろうな、と
お腹をさすりながら自分を慰めることにする。
そんな中で午後の部が始まったものの、胃もたれ者続出のせいか
午前中はそれなりに白熱していた議論はすっかりと消沈してしまい、
午後の部開始から1時間後には早々に議論が打ち切られて採点に移ることになった。
採点とは言っても、審査員も胃もたれしている人がほとんどなので
てきとうに採点が行われ、3分後には採点と集計が終了し、結果発表と
大会終了の挨拶が行われることになった。
大会開催者の挨拶から始まり、審査員が一言ずつ感想や意見を話していき
私も感想を話したのだが、ここで私は迂闊な発言をしてしまう。
「異変で幻想郷の形が変になったのでしょうから説明の付きにくい事だと思うけれど、
色々な学説を聞くことが出来てとても有意義な大会だったと思うわ。」
私としては当たり障りのない感想を述べたつもりであったのだが、
「異変」という言葉を使ってしまったのが悪かった。人里では、誰一人として
この現象を「異変」として捉えている人がいなかったのである。
そのため、私の発言は衝撃的であったらしく、
「なんと、この現象は異変によるものであったのか。」
「たしかに異変と考えれば納得できる。」
「うむ、これはたしかに異変によるものに違いない。」
と口々に言い始める。そして、そのうちの一人がとうとう言ってしまったのである。
「異変なら巫女が解決するべきなんじゃね?」
と、この発言により皆の意見が異変なら巫女に解決してもらおう。というものに
なり、それでは報酬と宴会は異変解決の後でやりましょうと言われてしまい、
かくして私は、大会の翌日には異変解決へ向かわざるおえなくなってしまったのであった。
そして大会翌日、異変解決のために神社を出発する。行先は未定。
空をてきとうに飛んでいけばそのうち異変の原因が
向こうからやってくるだろうという考えのもと、てきとうに空を飛ぶ。
そうしてしばらく空を飛んでいると、人形が私の前に飛んできた。
この時点で異変の原因はアリスに違いないと決めつけるわけだが、
不思議なことにこの人形、頭の上に輪っかが浮いている。
そしてさらに、肩からロープを掛けている。
天使でもイメージしているのかと思いきや、天使の羽は見当たらず、
いつもの人形の頭に輪っかが付いているだけなので、なんともへんてこな感じがする。
「シャンハーイ」
掛け声とともに人形が弾幕を撃ってきた。人が考え事をしている時に弾幕を撃って
来るとは躾の成っていない人形である。とはいえ、人形一体程度の弾幕は恐いものでも
ないので、難なく弾幕を躱し、逆に陰陽玉を叩きつける。
二発ほど陰陽玉を当てると、「シャンハーイ」と断末魔のようなものをあげて人形は落ちていった。
人形も倒したことだし、行先をアリスの家に決定して空を飛ぼう・・・としたのだが、
先程倒したはずの人形がまた目の前に現れる。
手足がだらんと垂れていて、最初に見た時よりも生気がないように見える。ゾンビみたい。
「シャー」
掛け声も弾幕も、先ほどよりも弱くなっている。
かといって手加減をする気もないので再度陰陽玉を叩きつけて人形を地面に落とす。
そして、再びアリスの家へ向かおうとすると、先程の人形がまた現れる。
これは何かがおかしい。2度も倒した人形がまた出てくるというのは、普通なら考えられないことだ。
「・・・」
人形は浮いたままの状態でじっとしていて、ゾンビどころか死んでいるようにしか見えない。
弾幕を撃つ力もないのか何もしてこないので、しばらく人形を観察してみることにする。
すると、人形の頭の上にある輪がぼんやりと光っていることに気づく。人形の浮き方が
まるで頭の輪にから吊るされているように見えるのも怪しい。
そこで、こんなこともあろうかと用意していた裁縫用のハサミを袖から取り出し、「えいっ。」
と人形の輪っかを切ってみる。
すると、人形は浮力を失ったのかそのまま落下していき、地面に落ちた。
私もそれに合わせて地面に降り、落ちた人形を持ち上げてみる。
人形はなぜか両手を挙げた状態で固まっており、肩に掛かったロープには「オテアゲ」という文字が
浮かびあがっている。おそらく、再び人形が襲ってくることはないだろう。
そう判断し、魔法の森へ向けて空を飛ぶ。
しばらく飛んでいると、先ほどの人形とは違う形の人形が3体現れる。
もちろん3体とも頭の上には輪っかが乗っている。
3体もいると少し弾幕を避けるのがめんどくさいかと思うのだが、この人形達、
なぜか輪になったロープの中に入って一列になっている。
しかも、先頭の人形はロープを左手で持って右手から弾幕を撃ってきているのだが、
後ろの人形は2体とも両手でロープを持っているので弾幕を全く撃ってこない。
一体の時より弱くなってるじゃねーか。とつっこみを入れたい気分になったが、
無言で人形達に近づいて先頭から順番に頭の輪を切っていく。
3体の人形達が地面に落ちていくのを確認して、しばらく空を飛んでいると、今度は
5体の人形達が現れる。この5体の人形達も、先ほどと同様に、輪になったロープの中に一列になっている。
様子を見るのもめんどくさいので、躊躇なく頭の輪を切っていく。
そうして、7体、9体、とだんだんロープの中に入る人形の数が増えていき、
人形の数を数えることをやめたあたりでアリスの家に着いた。
そこに現れたのは家ほどの大きさのメリーゴーランドである。
アリスの家の隣に建っており、メリーゴーランドの傍には「やまのてせん」と書かれた木製の看板が立てられている。
まだ昼だというのに飾り付けられた電球がピカピカと光り、陽気な曲に合わせて
馬の乗り物がガッチャンガッチャンと回っている。
馬の乗り物の上には妖精達が乗っていて「アハハ」「ウフフ」と笑っている。
集団で危ない薬でも使っているんじゃないだろうか。
妖精たちに交じってアリスの姿が見える。
他の妖精たちと同様に、馬に乗って「ウフフ」と笑っている。
「おーい、アリスー。」
メリーゴーランドに近づいてアリスに声を掛けてみるが、全くの無反応だ。
「ウフフ」と微笑みながら目の前を通り過ぎていく。
むかついたので再び私の前まで回って来るのを待ち、戻って来たところに
頭に向かって陰陽玉を投げつける。
「いたーい!!」
アリスはやっと笑うのをやめ、陰陽玉の当たった部分を手で押さえながら
私の前を通り過ぎていった。
そして一周回り再び私の前までくると
「何するのよ霊夢。」
とこちらを非難する調子で言う。
だが馬からは降りようとしない。そのため、すぐに私の目の前を通り過ぎ、
「あ、ちょ、ちょっと霊夢待ちなさい。」
そんな事を言いながら馬と共に離れていった。
そして一周して戻ってくると、
「待ってて、って言ったじゃない。」
と怒りながら言う。
「あんたが言うからわざわざ待っててあげたんじゃないの。」
「体が動かなくて降りられないのよ。」
「そうなんだ。」
「そうなのよ。」
「ふーん。」
「ふーん、て。あ、またそこで待ってなさいよ。」
そういってまた一周後。
戻ってきたアリスは馬の上でウンウンと唸っていた。
どうやら、本当に体が動かないようだ。
「どうしても降りられそうにないの?」
「そうなのよ。」
「ふーん。」
「ふーん、じゃなくて、助けて頂戴。」
「ならば、もう一周する間に貴様の出せる対価を考えておくがよい。」
「え~。」
異変を解決すればアリスは解放されるのだろうが、
稼げる機会は見逃さないのが仕事の出来る巫女の嗜みである。
一周後
「それじゃあ、後でいくらか包むから助けて頂戴。」
「金だけでは足らん。食料もよこせ。」
「払ったお金で買いに行けばいいじゃないの。」
「・・・もう一周回ってくるがよい。」
「私、間違ったこと言ってないと思うけど。」
一周後
「お金と食料があればいいのね?」
疲れた様子のアリスが言う。
「うむ、あとはしばらく家事手伝いもしてもらいましょうか。」
「さすがにそれぐらいは自分でやりなさいよ。」
「やだ。」
「やだ。って、も~、わかったわよ。家事もやればいいんでしょ。やれば。」
「それじゃあ交渉成立ね。」
アリスは怒り気味だが、要求を押し通してしまえばこちらのものである。
アリスとは対照的に満面の笑みで対応して、早速アリス救出作戦を開始する。
まず、空を飛びながらアリスの体を引っ張り馬から離そうとする。
「いたいいたい。」
アリスが痛がっているので、直接アリスと馬を引き離すのは無理そうだ。
ならば、馬の乗り物を壊せばどうだろうか。
人形達を潰してきた陰陽玉に力を込めて、アリスの乗っている馬めがけて
思いっきり投げつける。
ごつん
陰陽玉と馬がぶつかり鈍い音を立てる。
だが、馬には傷もへこみもできていない。なかなか丈夫な馬だ。
何回か陰陽玉を投げつけてみるが、馬はびくともしない。
意地になって陰陽玉を投げ続けるが馬を壊すことはできず、結局、
アリスから「そろそろ私に当たりそうだからやめて。」と言われてしまった。
アリスにも馬にも干渉できないとすると、大元のメリーゴーランド
自体をどうにかできないか考える必要がありそうだ。
しばらくメリーゴーランドの馬に乗っているアリスや妖精を観察していると、
ここまで来るときに出合った人形達と違い、頭の上に輪っかが乗っていない事に気づく。
ここに来るまでに出てきた人形達が、頭の輪っかを切るまでゾンビみたいに
起き上がってきたことと、アリスや馬の乗り物に何をしてもウンともスンとも
いわないことがどことなく似ていることを考えると、アリス達の頭の上にも輪っかが
あってもよさそうなものだ。
そう思いつつ、視線をアリスから上の方へ移していく。
すると、メリーゴーランドの屋根の部分の裏側に支柱を囲うような形で
巨大な輪っかがあることに気づく。
この輪を壊せばメリーゴーランドが止まるかもしれない。
さっそく輪を壊すべく、ハサミで挟もうとするが、輪が太すぎて挟む事ができない。
もっと大きなハサミが必要だ。
「アリス、あんた大きなハサミとか持ってないの?」
「ハサミはないけど、チェーンソーならあるわよ。」
「じゃあ、それでいきましょう。」
アリスの家を探索し、チェーンソーを持ち出す。初めて持ったが意外と重い。
アリスがゴーグルをしたほうがいいと言うのでゴーグルを装着してチェーンソーを
起動する。
ぶい~ん
なかなか切れ味のよさそうな駆動音を立てて刃が回転する。
振動が大きいのでゆっくりと空を飛び、慎重にチェーンソーを輪っかへ近づけていく。
輪っかに刃が当たると刃を押し返すような反発力が腕にかかるが、負けじとチェーンソーを押し当てて
輪を切り進む。
そして、ついに輪を切断することに成功する。
途端に目の前の空間がぐるぐるとまわるように歪みだす。
目の前だけでなく至る所の空間が歪んでいき、やがて自分が今空を飛んでいるのか、
地面に立っているのか、それとも横たわっているのかすらわからなくなるほど
空間が歪んでいき、
ぽん
という音が聞こえたかと思うと、もとの魔法の森の景色に戻っている。
目の前にあったメリーゴーランドは消えていて、メリーゴーランドがあった場所には
アリスと妖精たちが崩れた積木のように倒れて重なっている。
倒れてはいるものの、アリス達の様子を見てみると寝ているだけだということが
分かったので、助けた代金の請求書をアリスの額に張り付けてその場を離れることにする。
空を飛んで周囲を見渡すと、今まで太陽のさらにその先に見えていた逆さまの地面は無くなって
いる。東西に反り立つように見えていた地面も見えなくなっている。
きっとメリーゴーランドを壊した結果、異変が終わったからだろう。
これで人里の人達からとやかく言われることもなくなるし、お金ももらえるはずだ。
そうして、異変を解決した霊夢は今日は前祝にお酒でも飲もうなどと考えながら、
神社へ帰っていったのだった。
後日、
目論見通り、宴会では酒を飲み、アリスには炊事をまかせて楽をしていた霊夢であったが、
あまりにも怠惰な生活を送り続けたことにより、
神社に暇つぶしに来ていた魔理沙から、
「霊夢、お前最近、なんというか、丸みが出てきたな。」
と言われてしまう。
実際、霊夢の体は以前よりも明らかに丸みを帯びていた。
衝撃を受けた霊夢は、幻想入りしていたレコーディングダイエットやという方法により
痩せることを決意する。しかしながら3日で飽きてしまい、それから次々と幻想入りしたダイエット
方法を試し痩せようと努力するのだが、それはまた別の話である。
終
箪笥の中に一本のロープがあることに気づきました。
ロープを取り出そうとすると片結びになった結び目が見えたので、
このロープは輪になるように両端が結ばれているようです。
ロープを全て取り出すために、箪笥の中からグイグイとロープを引っ張りながら
部屋の中を歩いていくと、ロープはどこまで引っ張っても終わりなく伸びていき、
アリスはついにドアの前まで来てしまいました。
そこで今度は部屋から出てさらに玄関までロープを引いていきます。
玄関までたどり着き、人形に箪笥を確認してもらうと、ロープはまだ箪笥から出きっていないようです。
しようがないのでロープを腰に掛けて、ドアを開けて外に出て、さらにロープを引っ張っていくことにします。
しかしながら、空を飛んで湖の上空まで来ても、森を抜けてもロープは伸び続けます。
ふと後ろに気配を感じたので後ろを見てみると、いつのまにか妖精たちが
ロープの中に列を作っていました。
電車ごっこをしているのだと勘違いしてしまったのかもしれません。
気にせずにロープをぐいぐいと引いていきます。
山を越えるころには、いつのまにか天狗や河童まで列に加わっているのが見えました。
列に加わる妖怪を増やしながらロープを引き続けてもロープは伸びて、
幻想郷を一周して家のドアまであと50メートルというところまで来てから
ようやく、箪笥を見張っていた人形からロープが箪笥から出きったという連絡がありました。
ドアの前まで行くとちょうどロープの終わりがドアから見えました。
せっかくなので電車ごっこのロープを環状線のようにしたいと思い、
ロープの終わりの部分も腰に掛けてみます。
するとどうしたことでしょう。
幻想郷の地形は大きく歪み、幻想郷は指輪のような、ドーナツのような、円筒を無理矢理曲げて
上面と底面をくっつけたような形へと変わってしまったのです。
そんな幻想郷の話。
霊夢が空を見上げると、上空には太陽があり、太陽のさらに向こうには紅魔館の屋根が小さく見えている。
幻想郷がこんなふうになったのは1か月ほど前のことで、なんの前触れもなく突然に幻想郷の姿は大きく変わっていた。
周りの人や妖怪の話によると、幻想郷は平面の世界からドーナツのような三次元の世界になってしまったのだという。
西の空へ目をやれば壁に掛けた鏡のように湖が垂直に地面に張り付いていて、
東の空へ目をやれば地面から直角にそびえ立つ山が見える。
山にかかる雨雲からは山に向かって真横に雨が降っている。
ハムスターが回し車の中から世界を見るとこんな風に見えるのだろうかと考えていると、
天狗の新聞が空から落ちてきた。
新聞の内容は幻想郷のかたちがぐにゃりと曲がってしまったことについてであり、
新聞のネタと写真が好きな天狗にとってこの事態は喜ばしいもののようだ。
ただ、天狗にとっては楽しいものでも、人間にとっては恐ろしいものだったようで
幻想郷の姿が変わった当初、人里では
アルマゲドンだとかカタストロフがどうとかいう終末論などが巻き起こり、
大きな混乱が生じてしまったようである。
さすがに1か月もすると皆この状況に慣れて普段通りの生活を送るようになったものの、
不安に駆られた人々が神社に参拝することが増えたので、
このまま幻想郷の形が戻らなくてもいいかなと思っていたりもする。
さて、人々は普段通りの生活を送るようになったものの、
なにかと不思議に思う事はあるもので、
特に論争が行われたものに太陽に関する事があった。
幻想郷の形がぐにゃりと曲がった後でも、太陽は変わらず東から昇って
西へ沈んでいるように見える。
ここで何が不思議に思われたのかというと、幻想郷の形がドーナツのような輪状になって
いるとすると、太陽は輪の中を通るように移動していて、そのために
太陽が東から昇って西へ沈んでいるように見えているのだと考えられる
わけだが、一度輪の中を通った太陽がどうやって再び輪の反対側へ移動して
いるのかということである。
人里でだけ太陽の動きが東から昇って西に沈むように見えているとすると、
太陽は人里のある地面を軸として回っていると考えられるわけだが、そうすると
人里の対面に位置する場所では、太陽が東から沈むようにして朝が来て、西へ上るように
夜が来るように見えるはずであり、太陽の光もあまり当たらないことになってしまうだろう。
しかしながら、天狗の情報によると、人里の対面に位置する場所でも太陽は変わらず東から昇って西に沈むように
見えているらしく、場所によって太陽の見える時間が変わる場所もないそうだ。
この太陽の動きに対して、最初に提唱された説は
団子のように一列に連なった太陽が幻想郷の輪の中を通り続けているという説である。
しかしながら、1個、2個ならまだしも、太陽が無数にあって幻想郷を通り
続けているということは考えられないということで、この説は早々に否定された。
次に出てきた説は、太陽が一列に並んでいるのではなく、円状に並んでいるという説だ。
これなら太陽が無数に必要ということはないだろう、というわけだ。
しかしこの説も否定された。
太陽が円状に並んでいるとすると、太陽の周回軌道内にある幻想郷の一部分に
おいては太陽に一日中照らされ続けてしまうことになってしまうからだ。
これらの説は天道説と呼ばれ、その後も太陽の動きをああすれば一日の太陽の動きを説明できる。
こうすれば説明できる。といった議論が生まれたが、太陽の数が一つでは足りず、複数の太陽が必要とされる
ことから実際にそんなことはないだろうという疑問を解消できなかったため、一般に定着することはなかった。
また、太陽の数に関する問題を解消する天動説の亜種として、境界説というものもある。
幻想郷の輪を抜けた後しばらく進んだ場所には大きな鏡のような境界
が存在していて、太陽はその境界を通り幻想郷の反対側へ戻り再び幻想郷を通る。
そのために太陽が毎日決まった動きをしているように見えるというものだ。
これなら太陽の数は一つで済む。しかしながら、
太陽が通れるほど大きな境界が存在しうるのかという問題があり、
境界のことと言えばあの妖怪といわれる八雲紫が「知らなーい。」と
境界の存在を否定したことや、博麗の巫女である私も
そのような境界の存在を感じられなかったことから、
この説もあまり信じられることはなかった。
太陽が動く説に限界が見られると、とうとう幻想郷自体が動いているのだ
という地動説まで出てくる。
どんな説かというと、たとえば、輪ゴムの外円の部分を内円の部分になるようにねじったことがあるだろうか。
それと同じように、幻想郷が、幻想郷の外側は内側に、幻想郷の内側は外側に移動しているという説である。
これなら太陽は円の中心に居続けるだけでよくなる。
ただ、この説に対しても、幻想郷の内側が外側になるとき、地面がゴムのように伸びでも
しなければ地割れが起きてしまうという批判が起きた。
ここまでいくと学派に分かれた対立まで生じていたが、
傍から見ている分にはおもしろいので来月には弁論大会の開催が
決定していたりする。
さて、長々と太陽がどうたらの話をしてきたわけだが、なぜ私がそんな話を
したのかというと、来月の弁論大会で審査役として出席してほしいと依頼されている
ためである。
私と何の関係があるのか不思議でたまらなかったが、博麗の巫女が支持している
のはどちらの説なのか、という事で箔のつきかたが違うのだという。本当かよ。
本当かどうかはさておき、延々と弁論などを聞かされたら熱が出そうなので
丁重に断ろうとはしたものの、お礼も出すし大会の後には宴会で飲み食いし放題
と言われれば私に断るという選択肢は無くなってしまったのであった。
時間を進めて一月後
弁論大会当日である。
大会では、まず広場に幾つかの矢倉が作られた。
矢倉には各々の学説が書かれた旗が掲げられ、
学説を唱える代表者がそれぞれの矢倉からお互い学説を言い争い、
審査員が点数を点けていった結果、総点数が一番高かったものが優勝である。
ちなみに午前の部と午後の部の二部構成になっている。
優勝してなにがあるのかは知らないが、とりあえず大会を開くなら優勝者を決める必要があるのだという。
広場周辺には矢倉だけでなく出店も多く出ていた。
ドーナツ屋、ベーグル屋、イカリング、オニオンリング、
中央に穴を空けたワッフルに大判焼きにお好み焼き、などなど
どれだけ影響を受ければこれほどリング状の出店一色になるのかと少し不気味に思う。
しかしながら、ジュウジュウとおいしそうな音と匂いが審査席にまで聞こえてくると
こちらのお腹にもくるものがある。
お昼の休憩に合わせて
食べ物屋を見て回ると、どのお店でも一皿30円で品物が買えるのだという。安い。
ついついあれもこれも買いまわったところ、甘いものと油ものの合わせ技で胃もたれ
感がすさまじい。安さに踊らされてしまうとは私も馬鹿だなと後悔するが、
まわりを見てみると私以外にも気持ちが悪そうな顔をしている人がいて、
となりの審査員や、午前中に自分の学説を高らかに語っていた代表者の何人かも
気持ちが悪そうにしているので、これも人の業というものなのだろうな、と
お腹をさすりながら自分を慰めることにする。
そんな中で午後の部が始まったものの、胃もたれ者続出のせいか
午前中はそれなりに白熱していた議論はすっかりと消沈してしまい、
午後の部開始から1時間後には早々に議論が打ち切られて採点に移ることになった。
採点とは言っても、審査員も胃もたれしている人がほとんどなので
てきとうに採点が行われ、3分後には採点と集計が終了し、結果発表と
大会終了の挨拶が行われることになった。
大会開催者の挨拶から始まり、審査員が一言ずつ感想や意見を話していき
私も感想を話したのだが、ここで私は迂闊な発言をしてしまう。
「異変で幻想郷の形が変になったのでしょうから説明の付きにくい事だと思うけれど、
色々な学説を聞くことが出来てとても有意義な大会だったと思うわ。」
私としては当たり障りのない感想を述べたつもりであったのだが、
「異変」という言葉を使ってしまったのが悪かった。人里では、誰一人として
この現象を「異変」として捉えている人がいなかったのである。
そのため、私の発言は衝撃的であったらしく、
「なんと、この現象は異変によるものであったのか。」
「たしかに異変と考えれば納得できる。」
「うむ、これはたしかに異変によるものに違いない。」
と口々に言い始める。そして、そのうちの一人がとうとう言ってしまったのである。
「異変なら巫女が解決するべきなんじゃね?」
と、この発言により皆の意見が異変なら巫女に解決してもらおう。というものに
なり、それでは報酬と宴会は異変解決の後でやりましょうと言われてしまい、
かくして私は、大会の翌日には異変解決へ向かわざるおえなくなってしまったのであった。
そして大会翌日、異変解決のために神社を出発する。行先は未定。
空をてきとうに飛んでいけばそのうち異変の原因が
向こうからやってくるだろうという考えのもと、てきとうに空を飛ぶ。
そうしてしばらく空を飛んでいると、人形が私の前に飛んできた。
この時点で異変の原因はアリスに違いないと決めつけるわけだが、
不思議なことにこの人形、頭の上に輪っかが浮いている。
そしてさらに、肩からロープを掛けている。
天使でもイメージしているのかと思いきや、天使の羽は見当たらず、
いつもの人形の頭に輪っかが付いているだけなので、なんともへんてこな感じがする。
「シャンハーイ」
掛け声とともに人形が弾幕を撃ってきた。人が考え事をしている時に弾幕を撃って
来るとは躾の成っていない人形である。とはいえ、人形一体程度の弾幕は恐いものでも
ないので、難なく弾幕を躱し、逆に陰陽玉を叩きつける。
二発ほど陰陽玉を当てると、「シャンハーイ」と断末魔のようなものをあげて人形は落ちていった。
人形も倒したことだし、行先をアリスの家に決定して空を飛ぼう・・・としたのだが、
先程倒したはずの人形がまた目の前に現れる。
手足がだらんと垂れていて、最初に見た時よりも生気がないように見える。ゾンビみたい。
「シャー」
掛け声も弾幕も、先ほどよりも弱くなっている。
かといって手加減をする気もないので再度陰陽玉を叩きつけて人形を地面に落とす。
そして、再びアリスの家へ向かおうとすると、先程の人形がまた現れる。
これは何かがおかしい。2度も倒した人形がまた出てくるというのは、普通なら考えられないことだ。
「・・・」
人形は浮いたままの状態でじっとしていて、ゾンビどころか死んでいるようにしか見えない。
弾幕を撃つ力もないのか何もしてこないので、しばらく人形を観察してみることにする。
すると、人形の頭の上にある輪がぼんやりと光っていることに気づく。人形の浮き方が
まるで頭の輪にから吊るされているように見えるのも怪しい。
そこで、こんなこともあろうかと用意していた裁縫用のハサミを袖から取り出し、「えいっ。」
と人形の輪っかを切ってみる。
すると、人形は浮力を失ったのかそのまま落下していき、地面に落ちた。
私もそれに合わせて地面に降り、落ちた人形を持ち上げてみる。
人形はなぜか両手を挙げた状態で固まっており、肩に掛かったロープには「オテアゲ」という文字が
浮かびあがっている。おそらく、再び人形が襲ってくることはないだろう。
そう判断し、魔法の森へ向けて空を飛ぶ。
しばらく飛んでいると、先ほどの人形とは違う形の人形が3体現れる。
もちろん3体とも頭の上には輪っかが乗っている。
3体もいると少し弾幕を避けるのがめんどくさいかと思うのだが、この人形達、
なぜか輪になったロープの中に入って一列になっている。
しかも、先頭の人形はロープを左手で持って右手から弾幕を撃ってきているのだが、
後ろの人形は2体とも両手でロープを持っているので弾幕を全く撃ってこない。
一体の時より弱くなってるじゃねーか。とつっこみを入れたい気分になったが、
無言で人形達に近づいて先頭から順番に頭の輪を切っていく。
3体の人形達が地面に落ちていくのを確認して、しばらく空を飛んでいると、今度は
5体の人形達が現れる。この5体の人形達も、先ほどと同様に、輪になったロープの中に一列になっている。
様子を見るのもめんどくさいので、躊躇なく頭の輪を切っていく。
そうして、7体、9体、とだんだんロープの中に入る人形の数が増えていき、
人形の数を数えることをやめたあたりでアリスの家に着いた。
そこに現れたのは家ほどの大きさのメリーゴーランドである。
アリスの家の隣に建っており、メリーゴーランドの傍には「やまのてせん」と書かれた木製の看板が立てられている。
まだ昼だというのに飾り付けられた電球がピカピカと光り、陽気な曲に合わせて
馬の乗り物がガッチャンガッチャンと回っている。
馬の乗り物の上には妖精達が乗っていて「アハハ」「ウフフ」と笑っている。
集団で危ない薬でも使っているんじゃないだろうか。
妖精たちに交じってアリスの姿が見える。
他の妖精たちと同様に、馬に乗って「ウフフ」と笑っている。
「おーい、アリスー。」
メリーゴーランドに近づいてアリスに声を掛けてみるが、全くの無反応だ。
「ウフフ」と微笑みながら目の前を通り過ぎていく。
むかついたので再び私の前まで回って来るのを待ち、戻って来たところに
頭に向かって陰陽玉を投げつける。
「いたーい!!」
アリスはやっと笑うのをやめ、陰陽玉の当たった部分を手で押さえながら
私の前を通り過ぎていった。
そして一周回り再び私の前までくると
「何するのよ霊夢。」
とこちらを非難する調子で言う。
だが馬からは降りようとしない。そのため、すぐに私の目の前を通り過ぎ、
「あ、ちょ、ちょっと霊夢待ちなさい。」
そんな事を言いながら馬と共に離れていった。
そして一周して戻ってくると、
「待ってて、って言ったじゃない。」
と怒りながら言う。
「あんたが言うからわざわざ待っててあげたんじゃないの。」
「体が動かなくて降りられないのよ。」
「そうなんだ。」
「そうなのよ。」
「ふーん。」
「ふーん、て。あ、またそこで待ってなさいよ。」
そういってまた一周後。
戻ってきたアリスは馬の上でウンウンと唸っていた。
どうやら、本当に体が動かないようだ。
「どうしても降りられそうにないの?」
「そうなのよ。」
「ふーん。」
「ふーん、じゃなくて、助けて頂戴。」
「ならば、もう一周する間に貴様の出せる対価を考えておくがよい。」
「え~。」
異変を解決すればアリスは解放されるのだろうが、
稼げる機会は見逃さないのが仕事の出来る巫女の嗜みである。
一周後
「それじゃあ、後でいくらか包むから助けて頂戴。」
「金だけでは足らん。食料もよこせ。」
「払ったお金で買いに行けばいいじゃないの。」
「・・・もう一周回ってくるがよい。」
「私、間違ったこと言ってないと思うけど。」
一周後
「お金と食料があればいいのね?」
疲れた様子のアリスが言う。
「うむ、あとはしばらく家事手伝いもしてもらいましょうか。」
「さすがにそれぐらいは自分でやりなさいよ。」
「やだ。」
「やだ。って、も~、わかったわよ。家事もやればいいんでしょ。やれば。」
「それじゃあ交渉成立ね。」
アリスは怒り気味だが、要求を押し通してしまえばこちらのものである。
アリスとは対照的に満面の笑みで対応して、早速アリス救出作戦を開始する。
まず、空を飛びながらアリスの体を引っ張り馬から離そうとする。
「いたいいたい。」
アリスが痛がっているので、直接アリスと馬を引き離すのは無理そうだ。
ならば、馬の乗り物を壊せばどうだろうか。
人形達を潰してきた陰陽玉に力を込めて、アリスの乗っている馬めがけて
思いっきり投げつける。
ごつん
陰陽玉と馬がぶつかり鈍い音を立てる。
だが、馬には傷もへこみもできていない。なかなか丈夫な馬だ。
何回か陰陽玉を投げつけてみるが、馬はびくともしない。
意地になって陰陽玉を投げ続けるが馬を壊すことはできず、結局、
アリスから「そろそろ私に当たりそうだからやめて。」と言われてしまった。
アリスにも馬にも干渉できないとすると、大元のメリーゴーランド
自体をどうにかできないか考える必要がありそうだ。
しばらくメリーゴーランドの馬に乗っているアリスや妖精を観察していると、
ここまで来るときに出合った人形達と違い、頭の上に輪っかが乗っていない事に気づく。
ここに来るまでに出てきた人形達が、頭の輪っかを切るまでゾンビみたいに
起き上がってきたことと、アリスや馬の乗り物に何をしてもウンともスンとも
いわないことがどことなく似ていることを考えると、アリス達の頭の上にも輪っかが
あってもよさそうなものだ。
そう思いつつ、視線をアリスから上の方へ移していく。
すると、メリーゴーランドの屋根の部分の裏側に支柱を囲うような形で
巨大な輪っかがあることに気づく。
この輪を壊せばメリーゴーランドが止まるかもしれない。
さっそく輪を壊すべく、ハサミで挟もうとするが、輪が太すぎて挟む事ができない。
もっと大きなハサミが必要だ。
「アリス、あんた大きなハサミとか持ってないの?」
「ハサミはないけど、チェーンソーならあるわよ。」
「じゃあ、それでいきましょう。」
アリスの家を探索し、チェーンソーを持ち出す。初めて持ったが意外と重い。
アリスがゴーグルをしたほうがいいと言うのでゴーグルを装着してチェーンソーを
起動する。
ぶい~ん
なかなか切れ味のよさそうな駆動音を立てて刃が回転する。
振動が大きいのでゆっくりと空を飛び、慎重にチェーンソーを輪っかへ近づけていく。
輪っかに刃が当たると刃を押し返すような反発力が腕にかかるが、負けじとチェーンソーを押し当てて
輪を切り進む。
そして、ついに輪を切断することに成功する。
途端に目の前の空間がぐるぐるとまわるように歪みだす。
目の前だけでなく至る所の空間が歪んでいき、やがて自分が今空を飛んでいるのか、
地面に立っているのか、それとも横たわっているのかすらわからなくなるほど
空間が歪んでいき、
ぽん
という音が聞こえたかと思うと、もとの魔法の森の景色に戻っている。
目の前にあったメリーゴーランドは消えていて、メリーゴーランドがあった場所には
アリスと妖精たちが崩れた積木のように倒れて重なっている。
倒れてはいるものの、アリス達の様子を見てみると寝ているだけだということが
分かったので、助けた代金の請求書をアリスの額に張り付けてその場を離れることにする。
空を飛んで周囲を見渡すと、今まで太陽のさらにその先に見えていた逆さまの地面は無くなって
いる。東西に反り立つように見えていた地面も見えなくなっている。
きっとメリーゴーランドを壊した結果、異変が終わったからだろう。
これで人里の人達からとやかく言われることもなくなるし、お金ももらえるはずだ。
そうして、異変を解決した霊夢は今日は前祝にお酒でも飲もうなどと考えながら、
神社へ帰っていったのだった。
後日、
目論見通り、宴会では酒を飲み、アリスには炊事をまかせて楽をしていた霊夢であったが、
あまりにも怠惰な生活を送り続けたことにより、
神社に暇つぶしに来ていた魔理沙から、
「霊夢、お前最近、なんというか、丸みが出てきたな。」
と言われてしまう。
実際、霊夢の体は以前よりも明らかに丸みを帯びていた。
衝撃を受けた霊夢は、幻想入りしていたレコーディングダイエットやという方法により
痩せることを決意する。しかしながら3日で飽きてしまい、それから次々と幻想入りしたダイエット
方法を試し痩せようと努力するのだが、それはまた別の話である。
終
ガンダムの世界観などに出てくる宇宙コロニーに近い状態だったのでしょうか
せっかく面白い具合に空間が歪んだので、欲を言えばその時の幻想郷の様子をもっと見てみたかったですね
すげえいいよ
いやすごくメルヘンでいいよ