「
あ、いいところにやって来た。
ね、そこ、座って――早く箒から降りて。そこよ。座布団は自分で用意して。はい。きちんと座って。
聞いてほしい話があるの。
真面目な話なの。ええっと、私にとっては、うん、真面目な話よ。めったにないくらい。
めったにないくらいよ。
うん、ありがと。じゃ、話すね。
この前、私はあんたに髪を切ってもらったじゃない。この前って、すぐ前のことよ。そこの庭に椅子をおいて、布をかぶって首に巻きつけて、あんたが私の後ろに立って、鋏でチョキチョキって……うん、そのこと。
ああ、ちがうの。髪型が気に入らないわけじゃないわ。そういうのはよくわからないし……うん、全然ちがうことなの。
言わなかったけどさ。私はあのとき、ものすごく怖い思いをしていたの。
とても怖くて、でも、何がそんなに怖いのか、そのときにはわからなかった――あんたに髪を切られなから、私はずっと怖い思いをしていた。その怖さの正体がなんなのか、ここ数日ずっと考えてた。どんなに考えても言葉足らずで、うまく言える自信がない。きちんと説明できるかどうかも、わからない。でも、あんたに聞いてほしいと思ったの。その怖さのことを。
ううん。髪を切られるのが怖かったわけじゃない――あんたみたいな非常識な、何をしでかすかわからない魔法使いが、私のすぐ後ろにいて、しかも鋏まで持って、私の体を自由にしている――そのことが怖いわけじゃなかった。そんなのいまさらでしょ? あんたが私に危害を加えないってことはわかってる――でも、その危害を加えないことが、つまり、あんたと私の間の信用が、私の感じた怖さのひとつの理由でもあるの。
聞いてね。
あのとき、あんたは私の髪を切りながら、たくさんのいろいろな話をしてくれた――季節の話や、食べ物の話、魔法の森の植物の話や、アリスやパチュリーとすすめている研究の話、香霖堂で見つけた道具のことや、あと、私たちの昔の思い出話とか――私は、うん、うん、ふうん、へえ、そう、そうね、そんなことあったわね、なんて言ってその話を聞いていた。あんたの話を聞くのは面白かったし、おしゃべりなあんたが、話をしていて楽しそうだと思って、それもなんだか心地よかった。そのときだった。私は言いようのない、とても強い、すごい恐怖におそわれたの。
たとえば、って考えた。
たとえば、私はあんたのおしゃべりについて、片っ端から、そんなことには興味がないし、聞いていて全然つまらない、と言うこともできた。あんたの言うかずかずの話について、いちいち揚げ足をとって、反論して、ここがちがう、あそこがちがう、と言うこともできた。
ほんとうにそう思ったわけじゃない。ただ、私はそうすることもできるんだ、と、そのとき考えたの。
すると、どうなるだろう。
あんたはちょっと、ムッとするかもしれない。怒るってほどじゃないし、顔にだって態度にだって、あんたは出さないでしょう。でも、やっぱりそれは、気分を害することだと思う。それで、どうなるだろう。もしかすると、あんたは手に持った鋏で、私の喉を掻き切るだろうか。魔法の箒を持ちだして、私の頭をぶん殴るだろうか。あるいは、そこまでしなくったって、ちょっとだけ悪戯をして、髪の毛を切りすぎて、私を変な髪型にしてしまうかもしれない。
そのどれもしないだろうってことは、もちろんわかっていた。あんたはそんなことしない。それはよくわかってる。
だから、怖かったこと、というのは、そうじゃなくって――そんなことをしなくっても、あんたは私に、変なことを言わせない力を持っている。
私の意見を封じて、黙らせてしまう力。そういう力をあんたは持っている。そう考えたの。そしてその、私を黙らせる力を自分が持っていることについて、あんたは気づいてもいない。そういうことを、私はあのとき考えたの。
わかるかな。うまく、説明できてるかな。
私とあんたは、『仲良し』なんだと思う――変なこと言ってる、と思ったでしょう。でも、そう思うんだからしかたない。私とあんたは仲良しで――そしてその『仲良し』が、手にしたものと同じような鋏になって、私の髪の毛を、喉元を撫でる。あんたはいちいち、鋏を使わなくても、私を黙らせてしまうことができるんだ。なぜって、『仲良し』を破棄して、わざわざ気まずい、面倒な気持ちになってまで、あんたの話に反論する気持ちを、私は持ち合わせないから。
あんたは別に、私の意見を求めてるわけじゃない。ただ話してるだけで、自分の話で私をどうにかしようとか、説得しようとか、自分のなかの特定のなにかを、私に押し付けようとしているとか、そういうつもりはまるでない。あんたは自分のことを、自分の知っているいろいろなことを、思ったことを、ただ口にしているだけ。それについて、私が何を思ったとしても、あんたとは全然別のことを考えたとしても、それであんたを批判することはない。あんたも私のなにかを変えようと思って話しかけてるわけじゃない。私はきっと相槌だって打たなくってもいい。寝たふりをして、やりすごすこともできる。
でも、私はそうしない。そうしないの。
あんたと仲良しでいたいから。そう思ったの。
そしてそのことについて――私を黙らせてしまう力を、自分が持っていることに、あんたは気づいてもいないということについて――私はとても、心底、おそろしいと思ったの。
考えてみると、こういうことはたくさんあるのよ。いまのは、私とあんたの間の『仲良し』だけど――ほかにも、たくさんの種類の『鋏』がある。私を、あんたを、ほかの誰かを――黙らせてしまう『鋏』。その鋏をかいくぐって、相手に届かせることのできる言葉を、私は知らない。
あんたと喧嘩するのは簡単。『仲良し』じゃなくなることだって、仲良しをはねのけることだって、きっと、なにかのきっかけがあれば、すぐに――きっと、たやすくできてしまうんだろう。でもそうしたら、今度は『仲良し』じゃないあんたに言葉を届かせることなんて、きっと、私にはできないだろう。
そう思うの。
なんだか、わかんないよね。ごめんね。きっとこの話も、届かない言葉になっちゃったと思う。
それでも怖いから、怖かったから、あんたにぜひ聞いてほしかったの。
うん。ありがと。
」
あ、いいところにやって来た。
ね、そこ、座って――早く箒から降りて。そこよ。座布団は自分で用意して。はい。きちんと座って。
聞いてほしい話があるの。
真面目な話なの。ええっと、私にとっては、うん、真面目な話よ。めったにないくらい。
めったにないくらいよ。
うん、ありがと。じゃ、話すね。
この前、私はあんたに髪を切ってもらったじゃない。この前って、すぐ前のことよ。そこの庭に椅子をおいて、布をかぶって首に巻きつけて、あんたが私の後ろに立って、鋏でチョキチョキって……うん、そのこと。
ああ、ちがうの。髪型が気に入らないわけじゃないわ。そういうのはよくわからないし……うん、全然ちがうことなの。
言わなかったけどさ。私はあのとき、ものすごく怖い思いをしていたの。
とても怖くて、でも、何がそんなに怖いのか、そのときにはわからなかった――あんたに髪を切られなから、私はずっと怖い思いをしていた。その怖さの正体がなんなのか、ここ数日ずっと考えてた。どんなに考えても言葉足らずで、うまく言える自信がない。きちんと説明できるかどうかも、わからない。でも、あんたに聞いてほしいと思ったの。その怖さのことを。
ううん。髪を切られるのが怖かったわけじゃない――あんたみたいな非常識な、何をしでかすかわからない魔法使いが、私のすぐ後ろにいて、しかも鋏まで持って、私の体を自由にしている――そのことが怖いわけじゃなかった。そんなのいまさらでしょ? あんたが私に危害を加えないってことはわかってる――でも、その危害を加えないことが、つまり、あんたと私の間の信用が、私の感じた怖さのひとつの理由でもあるの。
聞いてね。
あのとき、あんたは私の髪を切りながら、たくさんのいろいろな話をしてくれた――季節の話や、食べ物の話、魔法の森の植物の話や、アリスやパチュリーとすすめている研究の話、香霖堂で見つけた道具のことや、あと、私たちの昔の思い出話とか――私は、うん、うん、ふうん、へえ、そう、そうね、そんなことあったわね、なんて言ってその話を聞いていた。あんたの話を聞くのは面白かったし、おしゃべりなあんたが、話をしていて楽しそうだと思って、それもなんだか心地よかった。そのときだった。私は言いようのない、とても強い、すごい恐怖におそわれたの。
たとえば、って考えた。
たとえば、私はあんたのおしゃべりについて、片っ端から、そんなことには興味がないし、聞いていて全然つまらない、と言うこともできた。あんたの言うかずかずの話について、いちいち揚げ足をとって、反論して、ここがちがう、あそこがちがう、と言うこともできた。
ほんとうにそう思ったわけじゃない。ただ、私はそうすることもできるんだ、と、そのとき考えたの。
すると、どうなるだろう。
あんたはちょっと、ムッとするかもしれない。怒るってほどじゃないし、顔にだって態度にだって、あんたは出さないでしょう。でも、やっぱりそれは、気分を害することだと思う。それで、どうなるだろう。もしかすると、あんたは手に持った鋏で、私の喉を掻き切るだろうか。魔法の箒を持ちだして、私の頭をぶん殴るだろうか。あるいは、そこまでしなくったって、ちょっとだけ悪戯をして、髪の毛を切りすぎて、私を変な髪型にしてしまうかもしれない。
そのどれもしないだろうってことは、もちろんわかっていた。あんたはそんなことしない。それはよくわかってる。
だから、怖かったこと、というのは、そうじゃなくって――そんなことをしなくっても、あんたは私に、変なことを言わせない力を持っている。
私の意見を封じて、黙らせてしまう力。そういう力をあんたは持っている。そう考えたの。そしてその、私を黙らせる力を自分が持っていることについて、あんたは気づいてもいない。そういうことを、私はあのとき考えたの。
わかるかな。うまく、説明できてるかな。
私とあんたは、『仲良し』なんだと思う――変なこと言ってる、と思ったでしょう。でも、そう思うんだからしかたない。私とあんたは仲良しで――そしてその『仲良し』が、手にしたものと同じような鋏になって、私の髪の毛を、喉元を撫でる。あんたはいちいち、鋏を使わなくても、私を黙らせてしまうことができるんだ。なぜって、『仲良し』を破棄して、わざわざ気まずい、面倒な気持ちになってまで、あんたの話に反論する気持ちを、私は持ち合わせないから。
あんたは別に、私の意見を求めてるわけじゃない。ただ話してるだけで、自分の話で私をどうにかしようとか、説得しようとか、自分のなかの特定のなにかを、私に押し付けようとしているとか、そういうつもりはまるでない。あんたは自分のことを、自分の知っているいろいろなことを、思ったことを、ただ口にしているだけ。それについて、私が何を思ったとしても、あんたとは全然別のことを考えたとしても、それであんたを批判することはない。あんたも私のなにかを変えようと思って話しかけてるわけじゃない。私はきっと相槌だって打たなくってもいい。寝たふりをして、やりすごすこともできる。
でも、私はそうしない。そうしないの。
あんたと仲良しでいたいから。そう思ったの。
そしてそのことについて――私を黙らせてしまう力を、自分が持っていることに、あんたは気づいてもいないということについて――私はとても、心底、おそろしいと思ったの。
考えてみると、こういうことはたくさんあるのよ。いまのは、私とあんたの間の『仲良し』だけど――ほかにも、たくさんの種類の『鋏』がある。私を、あんたを、ほかの誰かを――黙らせてしまう『鋏』。その鋏をかいくぐって、相手に届かせることのできる言葉を、私は知らない。
あんたと喧嘩するのは簡単。『仲良し』じゃなくなることだって、仲良しをはねのけることだって、きっと、なにかのきっかけがあれば、すぐに――きっと、たやすくできてしまうんだろう。でもそうしたら、今度は『仲良し』じゃないあんたに言葉を届かせることなんて、きっと、私にはできないだろう。
そう思うの。
なんだか、わかんないよね。ごめんね。きっとこの話も、届かない言葉になっちゃったと思う。
それでも怖いから、怖かったから、あんたにぜひ聞いてほしかったの。
うん。ありがと。
」
そんな魔理沙を恐れてしまう霊夢の今後や如何に
聞いてね。
の一文を挿入出来るのがとてもアンシャーリーさんらしいと思いました。
それ以降の件はまさに霊夢の話を聞くしかないので読んでいるのか聞いているのかという。
なんて効果的な一文でしょう・・・
こういう弱った所を見せる霊夢もいいですね。
カップル特有の超抽象的概念話。
霊夢ちゃんは重力にも縛られないけど魔理沙にだけはとらわれているのか。
笑うような気もするし、切ない顔をするかもしれないし、でもやっぱり平然を装うのかもしれない。
このあと独りで思案するかもしれないし、数日後にはすっかり綺麗に忘れてしまうのかもしれない。
一文一文がきらりと光る秀作です。
そうだね、ってなるだけだなぁ。
表現力はある。この書き方面白いな、というのもある。
ただ、ヤマなしオチなし、新しい発見なし、となるとこの点数が妥当かなとは。
5kbだからいいんですね。多いと意味消失する
霊夢さんは自分の気持ちをあえて仲が良い魔理沙に告白することで絆を確固たるものしようとしたのかもしれませんね。
良いレイマリでした。
霊夢にとっての魔理沙はこうなのだと思ってやっぱりレイマリは良いものだった
着眼点は大好きです
霊夢のらしさを自然に書き出せていると思いました
けど可愛い
そしてちょっとわかる気もする
多感な霊夢の年代なら人間関係にこれぐらい緊張感があって調度いいぐらいかも
何事も少し緊張し過ぎぐらいが調度いいと思うし
巣の自分を出せるだけの関係が友人じゃない 気を使い合う緊張感を大事にする友人もいる
魔理沙を裏切らない友と確信した上での頼る言葉。そうこれは霊夢なりの精一杯の呪い(祝い)なのです!
聡明な魔理沙ですからきっと察したことでしょう。
(ごめんね、とか ありがと、とか 信頼するも どこか不安な 霊夢さん可愛い)(手で、鍔を少しさげながら『ああ・・・何が有っても私はおまえの友だぜ・・・』とか心のなかで決心する魔理沙可愛い)(つまり レイマリはかわいい)
仲良しだと思いますよ霊夢さん?
もうちょっとふわっとした読みづらいお話しでも私は楽しめたと思うw
ふわふわ霊夢さん可愛いです
嫌われたくない、を霊夢が表現するとこうなるのですね
すべてのレイマリにありがとう