Coolier - 新生・東方創想話

咲夜と添い寝

2014/03/30 20:51:02
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◇◇◇

翌日の夜……ではなく二日後の昼





「さて皆さんに話したいことがあります!」



 今日の昼食後パチュリー様に、正確にはその部下の私、小悪魔によって紅魔館の主要人物がリビングに集められた。ただ一人を除いて。



「どうしたんですかこぁちゃん?そんなに改まって」
「話というのは咲夜ちゃんのことです」



 私が咲夜ちゃんの名前を出すとそれまで興味のなさそうだった人物が一斉に反応を示した。レミリアお嬢様はカップを持っていた手が止まり、本を読んでいたパチュリー様はゆっくりと本から顔を上げ、椅子を破壊していたフランドールお嬢様はこちらに振り返った。……妹様は虫の居所があまり良くないようだ。



「なにかしら?私の咲夜がどうかしたの?」
「お姉様、勝手に咲夜を自分のものみたいに言うのはやめてくれない?」
「現に今咲夜はメイド長、そして私の専属のメイドとして教育を受けさせているでしょ?なら何も問題ないじゃない」
「そうね、確かにレミィの言うとおりよ。咲夜にもそう教え込んでいるし。……でも個人的なことを言えばそういうことを実際に口に出されたくはないわね」
「ふむ……まぁ、わかったわ。今後気をつけるようにしましょう」



 話に決着がついたのかと思った瞬間、レミリアお嬢様の持っていたカップが爆ぜた。



「なんで勝手に話を終わらせようとしているの?お姉様」
「あら、何か気に入らないところがあったかしら?」
「だからなんで咲夜がお姉様の専属になるのよ」
「それは私が連れてきたからよ。それに名実ともに紅魔館の主人は私でしょ?専属のメイドが就くなら私が最初なのは当然でしょうに」
「そこで重要なのは咲夜の意思でしょ?」
「フラン以外は皆同意していることよ」
「私はまぁ所詮門番ですし、口出しするのもおかしな話でしょう」
「同意というのは語弊があるわね。立場を考えればそうなるのが自然というだけよ」
「あら、パチェも文句があるのかしら?」
「あえて口には出さないけど」



 皆さんの間に殺気とは言えないまでも、不穏な空気が流れる。



「皆さんとりあえずこの話は置いておきましょう。今はこぁちゃんに呼ばれたからここに居るんですし」
「……それもそうだね」
「……いいわ、この続きは後で話しましょう。それで小悪魔、何の話かしら?」
「あ、はい、えっと……」



 そうだ、私は話があって皆さんを呼び出したんだった。ビビってしまって危うく忘れるところだった。咲夜ちゃんが来てから実は何かと紅魔館内でこういうちょっとした揉め事が起きるようになった。まぁそれ自体は咲夜ちゃんのことが大切ゆえのことなので一概に悪いとは思わない。それまでは妹様は他の方とあまり交流なさらなかったし、美鈴さんは基本的に相手に譲るし、パチュリー様は面倒事は基本的に避ける。しかし咲夜ちゃんのことに対しては皆さん譲らないので度々こういう対立が起きる。



「咲夜ちゃんのことなんですが、ここ最近皆さんのところに夜に行かれませんでしたか?」
「来ましたね」
「そのことはもう言ったはずよ?そういえばちゃんと咲夜の分の布団は手配できたのかしら?」
「あ、そこは大丈夫です」
「来た……と言うより……まぁいいや」
「……どういうことかしら?私のところには来てないわね」



 レミリアお嬢様が不満気な声を漏らすが、それは仕方のないことだろう。



「当然でしょ?呼ばれもしてないのに主人の寝室を夜に訪ねる、そんな風に教育してないもの」
「別にいいじゃん。家族なんだし何か問題でもあるの?」
「咲夜はメイド、そこのあたりの線引きは必要よ。咲夜が万が一紅魔館を出ることになったら」
「ストップだパチェ。今まで任せっきりの私が悪かったけど、一度教育方針でしっかり話しあう必要があるようね」
「あらレミィは咲夜の一生を縛り付けるつもり?」
「咲夜は私のものだ。誰にも譲るつもりはない」
「レミィ……ペットとは違うの。あらゆる可能性を考えておくべきよ」
「パチュリーはそれでいいの?」
「……よくないからふとした時に想像して泣いてるのよ」
「……美鈴は?」
「うーん……咲夜さんの幸せのためならそれが正解なんでしょうかね……」
「こればっかりは主として意見を通させてもらうわよ。何よ、この館で、皆で咲夜を幸せにすればそんな心配いらないじゃない」
「私もお姉様の言うとおりだと思う。外に幸せがあるならその幸せを紅魔館の中に持ってくればいいんだよ」



 また話が脱線してきている。そのうえ空気もどんどん険悪に……なんとか戻さないと。



「皆さん落ち着いてください!話!私の話!」
「……まぁいいわ。それで?」
「えー……皆さんを尋ねたところまで話しましたね。原因はこの館に人間の子供が快適に寝れるような布団がなかったということでして」
「たしかにそうね。そういう面ももっと気をつけるようにするわ」
「そうですね。ですが私が話したいのはもっと重要な点です」
「なんですか?」
「もっと深い、皆さんの意識の問題です!」



 私が大きな声を出すと皆さん驚いて……くれるなんてことはもちろんなかった。まぁ所詮私は低級悪魔ですから仕方ないのですが、それでも皆さんが真剣に聞いてくれるというだけで問題はない。



「とりあえず咲夜ちゃんから聞いた話を元に少し振り返ってみましょうか。まず四日前に咲夜ちゃんは美鈴さんのところを訪れました」
「あ、そうです。寒いって言っていたので一緒の布団に入れてあげました」
「……美鈴、まさかとは思うけど私達に言えないようなことはしてないわよね?」
「うぇっ!し、してませんよそんなこと!」
「信じるわよ?」
「……大丈夫です」



 もし美鈴さんが何かしていたらレミリアお嬢様はどうしたのだろうか。あまり考えたくはない。



「美鈴さんの言うとおり、咲夜ちゃんは美鈴さんと一緒に眠りました。ですが美鈴さん、朝咲夜ちゃんの姿は布団の中にありましたか?」
「いえ、起きた時には既に咲夜ちゃんはいませんでしたね」
「そうでしょうね。ところで十七回、この数字が何か分かりますか?」
「……いえ、分かりません」
「美鈴さんの寝相によって咲夜ちゃんがベッドから落とされた回数です」
「えっ!?そ、そんな……!?」



 いつの間にか美鈴さんの喉元にレミリアお嬢様の槍が向けられていた。



「……さて、言い訳を聞こうかしらね?」
「いや、その……!?」



 言い訳をしようとしていた美鈴さんの帽子が突然爆ぜた。そしてフランドールお嬢様からただならぬ気配を感じる。



「美鈴、まずは謝罪するべきじゃないかな?」
「そ、そうですね……咲夜ちゃんに謝っておかないといけませんね……」



 だけど一番付き合いが長いから私は分かる。分かってしまう。今一番まずいのは……



「スペルカードを宣言……一七枚で」
「……へ?」
「ちょっと、パチェ?」
「日符『ロイヤル……」
「そこまでです、パチュリー様」



 パチュリー様と美鈴さんの間に立ってとりあえず争いを止めようとする。でないとこの人は本気で魔法を放つだろう。



「どきなさい、小悪魔」
「話を最後まで聞いてからにしてください」
「私は魔女よ?つまりこれは魔女裁判、弁解の余地は一切ないわ」
「美鈴さんの話ではありません。私の話をです」
「……どういうことかしら?」
「悪いのは美鈴さんだけではないということです」



 皆さんのは少し思案する。ここ最近の自分の行いを振り返っているのだろう。



「とりあえず最後まで聞いた後に皆さんで改善点を見つけていくべきだと思います」
「……わかった。とりあえず話を聞きましょう」
「パチュリーってさ、実は過激派な上に激情家だよね」
「私は冷静に怒れるから問題無いわ。フランももう少し感情を制御できるようになりましょうね」
「……分かってるよ」



 とりあえず尊い犠牲を出すことなく話に戻すことが出来た。



「じゃあ話を戻します。次の日、咲夜ちゃんはパチュリー様のところに行ったはずです」
「三日前の話ならそれで間違いはないわ」
「でもパチェって自分のベッドないでしょ?咲夜が訪ねてもどうしようもないんじゃないかしら?」
「咲夜はまず寒さをしのぎたかったみたいだから図書館に来たんじゃないかしらね」
「パチュリー様を頼ってきたんじゃないですか?パチュリー様が思っているより咲夜ちゃんは信頼してると思いますよ」
「……そんな風に育てているつもりはないわ」



 一緒にいる時間の長さ、お互いの役職、そして自分で言っていて情けないけど威厳がないゆえの親しみやすさ等から、咲夜ちゃんが一番気軽に話を出来るのは私だと思う。だからこそ分かる。この館の誰にでも言えることだが、自身が思っているよりも皆咲夜ちゃんからは信頼され、好意を持たれている。だからこそ、そのことに最初に気づけたからこそ、この館の中で見えてしまった問題を私は見過ごすことができない。



「その時パチュリー様はどうしました?」
「とりあえず持っていた毛布を渡してソファで寝るように薦めたわ。それ以上の案は思いつかなかったし」
「そうですね。それだけなら多分問題なかったんです」
「……なにか含みを持った言い方ね」
「パチュリー様、寝ている横で本を読まれたら案外気になるものなんですよ?」
「……えっ?」
「寝ないから分からないかもしれませんが、静かなところにページをめくる音が一定のリズムで流れると結構気になります。それにパチュリー様はレミリアお嬢様のご友人、つまり『主人の友人』です。『従者』の立場の咲夜ちゃんがパチュリー様を気にしないのは無理でしょうし、そんな教育をパチュリー様もなさってないですよね?」
「……そうね。反省するわ」



 パチュリー様を非難するようにレミリアお嬢様とフランドールお嬢様が視線を向ける。だがさっきの美鈴さんのように実際になにか行動を起こすわけではない。とりあえず話は聞いてくれるようだ。



「そのまた次の日、今度は妹様のところに咲夜ちゃんは行きました。そうですよね?」
「えっ?いや、その……」
「そこで一緒の布団で寝ていれば、まぁ解決だったんですが」
「ちょっと待ちなさい。なんで先にフランの所に行ってるの?立場的には私とそう変わらないでしょ?」
「妹様……咲夜ちゃんと何をしたか覚えていますか?」
「……弾幕ごっこ」



 何が起こったのか分からなかった。気がつくと私は仰向けに倒れていた。状況を確認するために起き上がると私の目の前でパチュリー様が結界を張っていて、その外でレミリアお嬢様の槍とフランドールお嬢様の剣がぶつかり合っていた。



「あんたねぇ……咲夜を殺す気?」
「ちゃ、ちゃんと加減はしたよ」
「当然でしょ!その上で言ってるの!」



 フランドールお嬢様は少し下を向いた後、自分の剣を消した。



「……ごめんなさい」
「……咲夜は人間なの。ほんとうに簡単に壊れちゃうのよ?」
「ごめんなさい」
「今後は気をつけなさい」
「ごめんなさい」



 目に涙を溜めながらフランドールお嬢様が何度も謝る。こうなったらレミリアお嬢様はもう何も言えない。なんだかんだで甘いのだ。



「今回の件に関してはそれぞれ皆さんに問題があります。美鈴さんは咲夜ちゃんへの気遣いが足りなかった。パチュリー様は咲夜ちゃんのことをもっと考えてあげるべきだった。フランドールお嬢様は咲夜ちゃんとの上手な接し方が分からなかった。そして最後まで部屋を訪れられなかったレミリアお嬢様は咲夜ちゃんとの間に距離感があった。
 これら全ての問題は咲夜ちゃんのことをただの従者として扱うなら無視してしまっても構わないレベルのことかもしれません。しかし……私達はそうなのでしょうか?私達は咲夜ちゃんとどういった関係を築きたいのか、もう一度考えなおす必要があると私は思います」
「……小悪魔、咲夜は今何処にいるの?」
「私の部屋で寝ています。昨日の夕方に事情を話してもらったので独断で休ませました。なにせ三日間ほとんど眠れなかったのですから」
「そう……。一度皆で話し合わないといけないわね」
「紅魔館に人間が住むのです。問題は今後も生まれるでしょう」
「……そうね。その度に少しずつ解決していきましょう」
数年後、紅い霧の異変にて



 痛む身体を無理やり起こし、巫女によって壁に開けられた穴から外を見る。空は快晴、久しぶりの洗濯日和だ。ということは



「お嬢様は負けたのか」



 フラフラと飛びながら館の奥に進んでいく。大丈夫なはずであるが、それでもお嬢様の無事を確認したい。



「お嬢様!」
「……あぁ咲夜か。見ての通り負けちゃった」
「申し訳ありません、私が不甲斐ないばかりに……」
「気にしなくてもいいわよ。それより随分と酷い有様ね、私の館がボロボロじゃない」
「直ぐに修理を」
「いやいいよ、少し疲れた。咲夜も疲れただろうし少し休みましょう」
「ですが……」
「どうせ殆どの部屋が荒らされて無事なベッドがないって言うんでしょ?フランドールの部屋は無事なはずよ。久しぶりに皆で一緒に寝たいわ」
「……分かりました。御一緒させて頂きます」



 大きめのベッドだが、お嬢様、妹様、パチュリー様、美鈴、小悪魔、そして私。六人も入れば随分と狭く寝苦しい。疲れているのにこれでは休息にならないかもしれないが、それでも私は暖かく確かな幸せを感じた。
福哭傀のクロ
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コメント



0.1050簡易評価
4.80名前が無い程度の能力削除
すごくいい感じだったけど
え?おわり?とも思った。
私の中では起承転結の「起」で幕を閉じられたような。

続きを読みたい作品です。
5.80絶望を司る程度の能力削除
部屋が荒らされているって強盗でも入ったのかな?……あぁ、いましたね強盗。面白かったです。
6.80奇声を発する程度の能力削除
面白い作品でした
7.90名前が無い程度の能力削除
咲夜ちゃんが不憫すぎるw
でも、最後は家族団欒でとても暖かい作品でした。
10.無評価福哭傀のクロ削除
まずは良かった。1年以上前に完成したのをボツにしたけど、諦めきれず他の作品の合間合間に手直しして何とか投稿できました。楽しんでくれた人がいたようで本当に良かった。

4さん
迂闊!言われるまで全く気づきませんでした。なるほど言われてみればそう見えるような気もしてくる……。これを『起』として続編を書くとしたら……アイデアは浮かばないことはありませんが、ちょっと約束はできません。でも続編が読みたいという感想はとても嬉しいです。

絶望さん
皆さんが弾幕ごっこをどのようにイメージしてるか分かりませんが、いくら広くても室内でやるととんでもないことになる位の規模はあるイメージです。まぁそうでなくても強盗役がいるからいいや。

奇声さん
ありがとうございます。次も頑張ります!

7さん
それでも咲夜さん(ちゃん?)が紅魔館から出て行かないのは大事にされているから、ということで。私の作品は大体こんな感じの終わり方です。こんな感じの作品を書くのが好きです。
16.80万年削除
>六人も入れば随分と狭く寝苦しい。

五人に昔の思い出話語られて、「いつ咲夜ちゃんから咲夜さんになったんだっけねー」みたいなこと言われ、顔真っ赤にした咲夜さんやっぱり1人だけ眠れない。的な妄想来ました
17.無評価福哭傀のクロ削除
万年さんへ

 やったことはありますが、基本的に続編……というよりこの作品を読まないと分からない作品と言うのはあまり書く度胸がありません。取りあえずいろんな人に作品を読んでもらいたいという思いがあるので。作品を書くようになって読む時間が減った今、『この作品は〇〇を読まないと分からない所があるかもしれません』の一文はかなり作品の敷居を高くしてるように感じてしまうのです。
 ですが作品同士で繋がりを作りたいという思いはあります。上でも述べた通り約束はできませんが、この流れで布団で6人の会話というのも楽しそうですね。とりあえずパチュリーに蹴られて布団から落ちる美鈴までは見えました。
22.100名前が無い程度の能力削除
すごいなごんだ!
とくに最後がサイコーでした!
凄い続きが気になります!
34.無評価ゆっくりA削除
最高、可愛い、でも咲夜可哀想、幼い咲夜可愛かった、もっと読みたい
私の作品も読んで!名前は、幻想大決戦1〜悲劇の始まり〜。
見てみてね?