Coolier - 新生・東方創想話

シスター・プリンス(仮)

2014/03/20 16:03:42
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 今週は紅魔館の読書週間である。

なんだその対象年齢の低そうなイベントはと思った奴も多いだろう。
しかしこれには深刻な開催理由がある。


 紅魔館には沢山の妖精が召使いとして雇われているのは周知の事実。瀟洒なメイドがいるとはいえ、広い館だから数はどうしても必要なのである。幸いにもヒマしてる妖精はそこら辺に転がっているため数は足りているが、一つどうしようもない問題が出てきてしまった。それは妖精の頭が可哀想なぐらい弱いことである。
 物覚えの悪さ、皆無の集中力、考える力の欠如。
他にも食べこぼしや騒音などでメイド長の統率力だけでは解決できない領域へと達してしまった。

 そう、実の問題は咲夜なのだ。

仕事の支障がすさまじく、ただでさえ大変な役職なのに部下にも恵まれないとなるとストレスもたまる一方だろう。そしてそのストレスへの愚痴は、本に目を向けつつも静かに話を聞いている風を装うことに定評のあるパチュリーへと吐き出される。始めはパチュリーも聞き流していたが咲夜のあまりに長時間に及ぶ愚痴に、読んでる本の内容が曲解して頭に入ってしまうという事態におちいってしまった。このままではストレスのスパイラルが形成されてしまうと危惧したパチュリーは必死に対策を練った。パチュリーノーレッジの第二の食事ともいえる読書。活字を味わうことが困難な今では、流石の動かない大図書館も動かざるを得ない状況となったのである。咲夜のために自分のために。頑張って考え抜いたすえ、この読書週間が生まれたのだった。

 気になるイベントの概要は、この一週間のうちに借りた本の感想文をパチュリーに提出すれば、一冊ごとにご褒美がもらえるというもの。
 教養も身につき、賞品まで用意される。
まさに一石二鳥のイベントなんだと妖精メイドに伝え、少し前からちょくちょく開催されることとなった。そして始まって今回で5回目。注目の効果はというと、てきめんであった。集中力が養われ、夜中に騒ぐことはなくなり、妙な落ち着きも妖精に見え始めている。
その様子に咲夜とパチュリーは手を取り合っては背中を叩き合い、作戦の成功を祝ったのであった。



 ここまでが前置きである。
申し遅れたがわたしの名はフランドールだ。
馬鹿な姉が大嫌いなことに定評があるフランドール・スカーレットだ。

 というのも今回、わたしもこの読書週間に参加しようと思っているのだ。なぞのご褒美も気になるしなにより、ちょっと読んでみたいジャンルの本があったからね。いい機会だし、わたしも一石二鳥に興じてみたい。

 そして気になるジャンルであるがそれは「童話の王子様」である。

どうやら王子様が出てくる童話は読んだことがなかったみたいで、わたしはよくわからないのだが「王子様」というのは外の世界でも乙女に人気のあるジャンルらしい。パチュリーに聞いた。
だからまぁ試しに見てやろうと、図書館からいくつか王子様の出る絵本を見繕って読んでみたのだが……


 正直、呆れてものがいえない。
あまりにも酷すぎてこのままベッドで夢の世界に招待されるとこだった。


 まず 『人魚姫』 の王子様。
なんだこの王子様は。もう全くダメだろ。読んでてモヤモヤしたし、人魚の子が可哀想すぎるよ。せっかく助けたのに王子様は薄情だわ鈍感だわで…………あー例えば、よ?この王子様が例えばお姉様だったら、わたしが救い出した時点で……むしろ触れた時点ですぐ起き上がってくると思うんだよね。あいつ変態だしわたしのこと大好きだからさ。まったく気持ち悪いったらないけど絶対気づいてくれるんだよね。絶対。

 次は 『シンデレラ』 の王子様
これもダメ。お姉様だったら靴のサイズ云々じゃなくて私の匂いですぐ駆けつけてきてくれるだろうし。

 『眠れる森の美女』 なんて論外。
そもそも糸車の針がわたしに刺さる前に、次元を飛び超えてでもお姉様は守ってくれるに決まってる。


 ホント呆れた。世の女性はこんなしょぼいのに憧れてるって言うのか?
存外パチュリーの言うこともあてにならないな。これだから引きこもりは。
ったくあんな男ら、バカで変態でどうしようもないお姉様より頼りにならないじゃんか………いや別にお姉様が頼りになるってことではないよ?ホントに。こんなの最低ラインでしょ?ってことだし。

まったくもう………さてお次は何にしようかな……あっこれにしよう
 『白雪姫』

ついこないだまで借りられてて今日やっと手に入れたんだよね。
さぁ綺麗なタイトルだけど内容はどうか…………あーこのヒロインも倒れちゃったよ。だからその前に助けろよな王子様よー………これがお姉様だったらさぁ………



 ん??えっ!!?
ウ、ウソ! ええぇー!!
そんな方法で助けるの……?
アリなのそれ……?え~……


………


 いや
お、お姉様だってキ、キキ、キスぐらい……

あー……でも……う~ん……









「お姉様ってわたしのことが好きなんでしょ?」
「ぶふぁっ!!?」

 昼下がりのティータイム。
メイドを横に控えさせ優雅に紅茶を飲んでいる私、を演出しているであろう姉の部屋に突撃してみた。
開口一番に問いかけたら、砂糖いっばいに入れた紅茶を吹き出すお姉様を確認。その紅茶を能力でパッと拭き取る咲夜も。

「ぶ、ぶっこんできたわね……あっそうか!とうとう相思相愛という事実に気づいたってこと?あぁ、姉妹という垣根を地道にむしり取ってきたかいがあったというも」
「いいから答えてよ変態」
「はい。えーと、まぁ、健全な意味ではないくらいには好きよ?もちろん」
「それはどうかと思うけど」
「ていうかどうしたのフラン?そんなの毎日あなたに囁いてるじゃない。口説いてるじゃない」

 顔に疑問を浮かべたまま、フランにミルクティーを、と咲夜にさりげなく言いつける。不本意ながらもわたしはお姉様の向かいの席に座った。

「どうでもいいじゃんか。確認よ確認。まぁわたしは好きじゃないけどね」
「あうっ! それでもめげない私!」
「そんなことよりオヤツ食べてる最中にポエムるの、あれやめてよ。せっかく咲夜が作ってくれたのにマズくなる」
「なによ。デザートの美味しさをフランに例えてるだけじゃない」
「“このプリンはまるでフランの唇のようにぷるぷるで愛らしい”とかマジ鳥肌パないから」
「詩人で申し訳ない」
「恥ずかしいしみんな凍りついてるからやめて」
「解せぬわねぇ……あ、そういえばデザートで思いだしたわ」

 咲夜がわたし用にぬるめのミルクティーを置いてくれたと同時に、お姉様がちょっと怒った顔をする。

「フラン。あなた、夜にお菓子食べたみたいね?間食はダメって言ってるじゃない」
「うぇっ!?なんでそのことを」

 そう言った瞬間、お姉様の横にいる咲夜がチラッと昨日の夜食べたお菓子の袋を見せる。美鈴からもらったクッキーが入っている可愛い紙袋。恐らく咲夜が朝、わたしの部屋を掃除した時に見つけたのだろう。恨みがましく咲夜を睨みつけると申し訳なさそうに愛想笑いを浮かべていた。

 この従順メイド、チクったな!

「あ、そのー……お姉様?これは誰かの陰謀で」
「悪習慣だからやめなさい。今日はデザート抜きだからね?」
「い、一回ぐらいでそんな」
「ダメ。こういうのは習慣で守るのが大事なの。身に沁みなさい」
「うー……」
「庇護欲そそる甘ったるい声だしてもダメ」
「うるうる…」
「そんな舐めまわしたい顔してもダメよ!」
「お姉様ぁ……許して…?」
「はい!!」

 ガタッと立ち上がり、わたしの方へと手を伸ばした爛々とした目のお姉様と目が合う。
 
「……………」
「はぁはぁ……………ん?フラン?」
「……………触んないの?」
「あ、いや、えっ!?何、今日は誘い受け解禁日なの!?ボジョレーより先に495年物を開けちゃっていいの!?飲み干していいの!!?」
「真面目に答えて変態」
「はい。だってほら、触ったら絶対怒るじゃない?」
「……っ…………そうだよ当たり前でしょ。鼻っ面ブン殴るに決まってんじゃん」
「恐ろしい常識だわ」

 頬を掻きながら苦笑いをしてるお姉様。
その態度に無性に腹が立ち、すぐさまわたしは立ち上がり部屋から出て行く。

「チッ。 あっそじゃーねお姉様」
「え、あ、フラーン!?……わー!なんか生殺されたぁー!!!」








 まぁさっきのは置いといて、姉の惨めな叫びを後ろに聞き、一人廊下で思い出す。白雪姫を読んでから湧き上がったこの悔しいような煮え切らないような想い。それを晴らすため確認しなくてはならないことがあった。それは

「よし。 ちょっとイラつくことはあったけど、お姉様がわたしのことを大好きなのは相変わらずだったね。王子様がお姫様のことを好きなのは当然なんだろうし、まずは互角……」

 ひとまず安心する。
別に白雪姫を読んで不安になったんじゃないが、お姉様が王子様になにかが負けているとは思いたくない。ゆえに、王子様と色々比べてみることにしたのだ。

 とにかくわたしじゃまだ王子様のことはよくわからないので、誰かに聞いて王子様の情報を集めるとしよう。そこから比べてお姉様の方がすごいということを必ず証明してみせるのだ。

(王子様なんかに負けているはずがない!!お姉様の方が絶対カッコい……じゃなくて、マシなんだから)







「へ? 王子様のイメージですか?」
「うん。美鈴の思うやつでいいよ」
「そうですねぇ……」

 紅魔館の正門。
憎たらしい太陽が雄々しくきらめいておられるのでお気に入りの黄色い日傘を差し、優しい門番の元へと出向いた

「うーん。あんま考えたことないですよ」
「まぁまぁなんとなくでいいから」

 腕を組んでしばらく考える美鈴。来た時に後ろから声をかけたわたしの推理によると、この門番は確実に起き抜けの頭だからまだ覚醒してないのかもしれない。暖かい太陽による弊害は吸血鬼に限らない。悪魔の館の門番でさえ機能停止に追い込むなんて、油断ならない天敵である。咲夜には黙っといてあげよう

「……今なんとなく思い出したんですけど、わたし自身、実は……」
「ん?……あー!そういえば美鈴って妖精メイドたちに」
「はい、まぁ恥ずかしながら」

 言いづらそうにしてる様子をみて思い出した。そうだこの門番は妖精メイドたちの間でひそかに呼ばれているんだった。

「“王子様”じゃん美鈴」
「なぜなのかわかんないですけど、はい……あ!もちろんそんなつもりはないですよ?ただの門番ですし!恐れ多いったらないです!」
「いやいや、言われてみればって感じだよ」
「そ、そうですか?なんか廊下歩いててもヒソヒソとささやかれててむず痒いというか」

 改めて、照れ臭そうにしてる美鈴の姿を観察する。活発そうな赤い長髪でありながら穏和で柔らかな顔つき。確かに妙な爽やかさというか、女性でありながら絵本で見る王子様らしい感じはする。でもわたし的には美鈴は今の恥ずかしがってる表情とか女の子っぽくて可愛いと思うけど。憎たらしい胸も含めて。

「面倒見もいいし優しいし、そりゃ妖精メイドも騒ぐよね。そっか性格にも王子様の要素が」
「いえ、そんな……もっと単純な理由だと思いますよ」
「というと?」
「身長とかじゃないですかね。妖精にとっては背が高いって多分物珍しいんだと。だからわたしを、その、王子様って」

 あー、と思わず納得する。
そうかよく考えると絵本でもお姫様より背が低い王子様がいなかったと気づく。ということは「身長」は王子様にとって必須の要素ってことなのだろう。

(なるほどね。じゃあそろそろ審議してみるとして問題のお姉様はどうなのかな………ん?あれ?そうなるとお姉様って確実に背は低いよね……?わたしよりは高いけど幻想郷の中じゃ絶対低い。そもそも永遠に幼いとか自分で言ってるし……まさかだけどそんな、いきなり)

「ふ、フラン様?なんか青ざめてますけど大丈夫ですか!?」
「……………………あっ!!そうだ!!!」
「うわっ!?」

(そうだそうだ!何も問題ないよ!絵本の王子様の背なんて比較対象がお姫様ぐらいしかいないし、対象であるお姫様に対して背が高ければいいだけなんだ!お姉様はわたしのことだけが好きなんだしわたしだけのお姉様なんだから、つまりわたしにだけ高ければいいんだよね!絵本の王子様だってその世界がミニマムで本当は30cmぐらいかもしんないもんね。全然問題ない!さらにいうなら見た目だってお姉様は凛々しいだけじゃなくて綺麗だし上品だしで王子様なんか目じゃないんだから)

「フラン様?フラン様ぁー!?」
「エヘヘへ…………ハッ!」
「あぁ……良かったです。なにかに取り憑かれたのかと……」
「ななななにいってんの??わたしはオカシクないですし!?じゃーね美鈴また夕飯で!!!」

 そう言って不思議そうな顔をしている美鈴を置き去りに、脇目も振らず館の中へと走りこむ。





 いやうん、まぁとりあえずお姉様の勝ちってことでいいよね。ホントは不本意だけどしょうがないじゃん客観的視点も大事なんだから。
わたしの目には当然お姉様は虫みたいにうつってるから。カナブン的な。
………さぁ次次








「王子様?興味ないわね」
「興味はなくていいからイメージだけ聞かしてよ」
「ピツピツの白タイツ」
「極端!」

 紅魔館の頭脳ことパチュリーノーレッジが生息しているとされる広大な図書館。
いつもは主と使い魔ぐらいしかいない薄暗い場所だが、読書週間の時はちらほらと妖精メイドの姿をみることができる。主にお茶を運ぶ以外仕事のなさそうな小悪魔も、この時ばかりは図書館の受付嬢として輝いている。イイ笑顔だ。

 パチュリーは相変わらず一人用の机に向かって本を読んでいる。彼女にとっては読書週間じゃなくても関係ないのだろうが、わたしが来ると本を閉じて顔を向けてくれた。良かった……真面目に聞いてくれるみたいである。

「冗談よ。あながち間違ってないとは思うけど」
「もう、いいから聞かしてよ」
「そうね~…やっぱ王族なわけだし理知的な感じじゃない?英才教育は万全でしょうし」
「へーそんなもん?」
「少なくとも絵本の王子様はしっかりしてる印象ね」
「なるほど。そういえばそうかも」
「まぁバカ王子なんて言葉もよく聞くけど。マンガでもぶっさいくな王子は大体バカよね」
「極端!」

 本気なのかもうよくわからないが今度は「頭の良さ」か。パチュリーらしい意見といえるかもしれない。しかしこれはどうなのか……普段の低脳っぷりは知ってるけど、本当のとこの頭の良さはわからない。


 こればっかりは本人に確かめてみるべきだろう


「ありがとうパチュリー。参考になったよ」
「はいはい」
「小悪魔にもよろしくー。じゃーね」
「……そういえば、今回あなたも参加してるのね。読書週間」
「うん?ま、まぁ適当に」
「あなたは本もよく読むし、いいことだわ。レミィみたいに脳みそプッチンプリンにならないようにね」
「叩けば落ちちゃいそうだね脳みそ」
「あんなのうるさいしちっこいし血を吸うしで蚊と変わらないわ。叩いても問題ないわよ」
「えっと、お姉様も蚊も一生懸命生きてるからさ」

 お姉様に恨みでもあるのか単に機嫌が悪いのか、今日は毒舌が冴えてるなパチュリーさん。あいつなんかしたのかな?
不満気な図書館の主はため息をこぼし、眠たそうな目でこちらを見上げる

「ところでフラン。本の感想文は書けそう?出してくれればなんかあげるわよ」
「あー大丈夫だよ。今日の夜には出せると思う」
「ならいいわ。あとレミィも珍しく本借りてたみたいだから、よだれはつけないように言っといて」
「確かに寝ちゃうかもだけど」
「それと今度アイスの棒をしおり代わりに挟んだら羽根ぶっこ抜くって伝えて」.
「やっぱ前科あったんだ!」

 そりゃ怒るよね!不機嫌納得。

満足したのかさっきまで読んでいた本に再び目線を移すパチュリー。
なんか申し訳ない気持ちが残っているがわたしも用が済んだし、邪魔してもあれなので「ありがと、じゃーね」と小声で囁いた。パチュリーがヒラヒラと片手で返事したのを確認した後、お勧めの本を妖精に紹介している小悪魔に手を振る。そのまま図書館を後にした。

  
 ――いや、ホント小悪魔イイ顔してるなぁ……







 お姉様の部屋につき、扉を開けようとしたとこで一つ問題を思い出した。

(来たはいいけど、どうやって頭の良さを測るのか考えてなかった……どうしよう。なぞなぞでも出してみる?いや、そんなのじゃわからないよねぇ……なぞなぞが得意!って言われてもバカっぽいもんなぁ)

とはいえ、いつまでも部屋の前で立っててもしょうがないので部屋に入ることにした。
不安に思いながら扉を開け、部屋を見渡すとお姉様が机に向かって本を読んでいた。本を借りていることはさっきパチュリーに教えてもらったから知っていたはずなのに、あまりにも見慣れない光景に新鮮に驚く。
なにより


(メ、メガネかけてる~!!うそー……なんかいつもとのギャップがすごい……涼やかで知的な感じ…………ィ、イイかも……なんて…)


目的も忘れて思わずボーっと見惚れていると、お姉様がこちらに気づき声を掛けてきた

「あらフラン。戻ってきてくれたの?こっちきて座りなさい」

本をテーブルに置き、立ち上がって向かいの椅子を引いてくれる。

「え、あ、うん。ありがとう」

 言われるがままに椅子に座る。
するとさらに近くで見ることとなったメガネを掛けたお姉様に、なんだか恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。不覚であると思いながらもまともに顔を見ることができない。そわそわと手元に目が泳ぐ中、たまたま逸らした目線の先にさっき置いていた本のタイトルが目に入る。

「ことわざ辞典……?」
「そうよ。5日前に借りてきたの。いま読書週間だし、ちょうどいいから勉学に勤しもうかと」
「お姉様が勉強??」
「小悪魔と同じ顔をするのね」
「だって珍しすぎるし」
「そう?まぁぶっちゃけフランに尊敬されようとことわざを覚えてただけなんだけどね!」
「不純だなおい」
「なんなら部屋に来るの運命とかでわかってたから本を広げてみました」
「もう清々しい」
「メガネもついでにかけてみたんだけど、どうかしら?」
「っ……それは、べ、べつに似合ってないし」
「えー?残念」

 そう言うとかけていたメガネを外し机の上に置いた。

(あーーっ!!しまった……!!)

 心の中で叫ぶももう遅い。もう一回つけてだなんて言えるわけがない。
自分に染みこまれた条件反射的な返事に後悔したが、よく考えたら今の状況はチャンスなのかもしれないと思いつく。

(5日前にことわざの本を借りたって言ってたよね。ということはある程度は内容が頭に入ってるはず……そうだ、それをちゃんと覚えてるか確かめれば頭の良さがわかるかも。記憶力だし一番スタンダードでしょ)

 代償はあったものの自分のひらめきに感謝し、お姉様に問いかける

「お姉様さ、その本のことわざって覚えてるの?」
「ふふん、当たり前よ。なんなら披露しましょうか?」
「わー素敵!聞かせて聞かせて」

 わたしもそこそこことわざは知っているし、ちゃんと覚えているかは正当な判断が下せるだろう。お姉様もやればできるというのを見せて欲しいものだ。

お姉様は常時装備しているドヤ顔を見せびらかし、コホンと咳払いをして喉を整える。そしてスーっと息を吸い


「犬も歩けば木から落ちる!」
「……………ん?ちょっとまって」


(あれ?もしや……)

不安に感じたわたしを差し置いて
お姉様は構わず続けた。

「喉元過ぎれば火もまた涼し」
「無茶だよ!」
「桃栗三年 穴二つ」
「そりゃ虫も食うよね!」
「溺れるものは川流れ」
「冷静な観察!」
「焼け石の上にも三年」
「拷問だね!」
「女三人寄れば一兎をも得ず」
「なんか深い!」
「仏の顔も叩いて渡る」
「無法者すぎる!」
「山椒は小粒でも山となる」
「さすがに過信だよ!」
「キジも鳴かずば穴二つ」
「撃たれてんぞ!」
「残り物には穴二つ」
「所詮残り物!てか穴好きだね!」
「可愛い子には穴二t」
「……お姉様ぁ?」
「すいません」

 しゅんと小さくなるお姉様。わたしはツッコミ疲れではぁはぁと肩で息をしながら息を飲む。そして思いっきり睨みつけ

「ぜんっっぜんっ覚えてないじゃんか!?」
「ご、ごめんなさい!なんか思ったより頭に入ってなかったみたいで」
「最後なんかもうギリギリだよ!?ギリセクハラだよ!!」
「無意識だったわ」
「馬鹿以前に乙女としてどうなの!」
「いや私は意外と乙女よ?童話好きだし」
「あ゛あぁあああくそっ!!わたしはキライだよコノヤロォォオーーー!!」

 目の前の姉を殴りたい衝動を抑え、部屋の扉まで駆け出した。

「フラーーーン!!!今度は大丈夫だからっ!!だからチャンスをーーー!!」
「うっさいばーか!!ヨダレ垂らして羽ぶっこ抜かれろ!」
「どういうこと!!?」

扉を乱暴に開け廊下へと飛び出す。
そして思った。



――1敗だ……













「………パチュリー。これ、感想文と本」
「あぁフランね。もう遅い時間だし寝ちゃったかと思ったわ」
「夕飯のあとずっと書いてたんだよ……」
「それはおつかれ」


 感想文を書くのに時間がかかってしまい、すっかり夜も更けた。昼間と違いガランとした図書館。なにかやりきれない気持ちのままパチュリーに本を返す。感想文の内容もだいぶ適当になってしまったし、あとでパチュリーに呼び出されでもしたらどうしようかと不安もつのる。なによりも


「なんかムスッとしてるわね」
「別に……それよりほら、ご褒美ちょうだいよ」
「はいはい。じゃあこれ」

 そう言って透明の袋を渡される。中には赤いビーンズみたいなのがいくつかはいっていた。

「グミ?」
「えぇ。咲夜がこの企画のために作ったの」
「ずいぶん可愛いご褒美だね」
「基本は妖精用だし」
「ふーん。色は赤だけしか作ってないの?」
「そんなことないわよ。まぁスカーレットってことで」
「安易だこと」

 しばらく赤いグミの入った袋を見つめていたが、夜も遅いのでパチュリーに「おやすみ」と言って自分の部屋に早く帰ることにした。







 ため息を零しつつ、長い廊下を歩く。今日の出来事を振り返りながら。

(1勝1敗だなぁ………お姉様なら圧勝だと思ったのにあんなバカだったとは………悔しい。すごい悔しい。お姉様なんかどうでもいいはずなのに……うー…)

――せめて、せめてもう1勝して、王子様よりすごいことを証明したい



 もやもやとしていると、廊下の向こうから咲夜がランプを持って歩いてきた。

「あ、咲夜」
「……妹様?こんな遅い時間にどうしたんです?」
「図書館に本と感想文を出しにいってきた」
「それは偉いですね。じゃあそのグミはパチュリー様から?ふふ。それ、意外と自信作なんですよ」
「うん。美味しそう………ねぇ咲夜」
「なんですか?」

 キョトンと小首をかしげる咲夜。

息を飲んだ。
チャンスである。
ここで咲夜に今日の質問をして1勝すれば、結果的に2勝1敗になる。お姉様の勝ちだ。
震えそうになる声をなんとか抑え、聞いてみる

「咲夜にとっての王子様のイメージはなに?」
「え、王子様……?なんでしょう……うーん………えっと…」

すぐには思いつかないみたいで何度も首をひねっている。
どうでもいいけど美人が眉をひそめると妙に色気があるように見えるねなんか。

あ、と小さく咲夜が呟いた。答えを見つけたようでニコッと笑いかけられる。

「大胆な行動力、とかでどうでしょう?」
「行動、力?」
「はい。お姫様の為に単身で悪魔の城へのりこんで怪物を倒したり、履き物だけを頼りに町中探しまわったりとか行動力がすごい、というのがイメージですね」
「ふーん、単純なヤツって感じだけど」
「まっすぐさだけで行動できるのも普通ではできないことですよ」
「そっかね」
「個人的にですけど。 あ、 『白雪姫』 なんかはまさにそうですね」
「……っ」

 自分の肩が、わずかに強張ったのを感じた

「あれこそ王子様らしい大胆な行動でしょう。覚めないお姫様にいきなりキスするなんて、王子様じゃなきゃ出来ない所業です。他の人がやってもただの犯罪に思われますよ」
「……」
「ふふ、でも私の小さい頃は周りじゃ王子様に憧れる子、多かったですね」

 懐かしそうに口に手を当て微笑む。

「“白馬に乗った王子様に連れ去られた~い”って言う子も少なくなかったです。まぁわたしはそれも犯罪だと思いましたけど」
「…………そっ…か。わかったありがとう咲夜」
「あ、妹様」


これ以上、この場にいることが辛くなりわたしは咲夜の横を駆け抜ける。後ろから呼びかける声も聞こえないフリをした。先の見えない暗い廊下の中、地下の自分の部屋へと走る。走る。


くしゃくしゃになった想いを引きずって









 肌で感じるひんやりとした地下室はいつも通りで、フワフワのベッドも普段と変わらない。それでも落ち込むこの気持ちは咲夜の言葉にトドメを刺されたからか。

お姉様と王子様の、仁義なき偏見からなる勝手な脳内対決。
 その行方は

「1勝、 2敗……信じらんない……負け、ちゃった……」

 パジャマにも着替えず、ベッドの上で体育座りして膝に顔をうずめる。お姉様の方が優れていることを、確実に証明するために始めた今回のこと。自分でやっておいてこんなにも落ち込むとは考えつかなかった。というより同点になるとも思わなかった。

「大胆な行動力か……最初からなんとなく気づいてたけど、やっぱ大事かぁ……そりゃお姉様は異変を起こしたり毎日ウザく口説いてきたり、そんな行動力はあるかもだけどさ」

 そっと顔をあげて自分の唇を恐る恐るなぞる。

「キ、キス、とか……そういうのはやっぱあいつじゃできないに決まってるし……そもそも普段から」

 昼間にお姉様の部屋へと突撃したときを思い出す。

「なーにが〝触ったら絶対怒るでしょ?〟だ。そりゃさ、いやらしく触ろうとしてきたらキレるだろうけど!その、ちょっとぐらいは、ほら、頭を撫でるぐらい………ゆ、許してあげなくもないのにさっ!!」

 いまさらイライラと湧き上がる感情に思わず声を張り上げてしまう。

「ほんっっと口だけ!!ほんとバカ!!別に、撫でたり手を繋いだり抱きしめて欲しいなんて微塵も思ってないけどそのぐらい大胆に挑戦してみればいいのにっ!!もーーっ!!!」

 我慢ならずひとしきりジタバタとベッドの上で転がったあと、天井に顔を向けて呆れたように強くため息をこぼす。

「…………ましてや王子様みたいに、キスなんて」


――お姉様ににできるわけがない。


ポツリとつぶやく。

 だからこの勝負は、負けた。
べ、べべべべつにキスを望んでいるわけではない。キモいし気持ち悪いし気持ちがワルい!ありえないっ!!でもお姉様は口ではいつも好きとか浮ついた戯言を言う癖に、肝心のぼ、ほでぃたっち??みたいのはしてこない。遠慮してんのか恥ずかしがってんのか知らないけど…………そういうとこは単純でいいのにさ。 ち、ちょっとぐらいはね?

(てかもしかしてわたしって可愛いくないのかな………?そういえばいつもお姉様の前ではムスッとしちゃうし……まさかお姉様、それで……)

 ふと横を向くと、ベッド近くのテーブルに置いてある古い手鏡が目に入った。何気なくわたしはそれに手を伸ばし、仰向けのまま自分の顔を手鏡で映し見る。パチュリーによって施された鏡は吸血鬼のわたしでも映るようになっている。おかげで毎朝寝癖も直せるが、今この不機嫌で寂しそうな顔は直せそうもない。
 じっと鏡を見つめているうちに、無意識に口が開いた。


「鏡よ鏡 、鏡さん。世界で一番可愛いのは……………て、なに言ってんだ!」


 途端に恥ずかしくなって、手鏡を少し乱暴に横のテーブルへ戻す。激しく自己嫌悪したがさっきパチュリーから貰った赤いグミを思い出し、それを食べて気分を紛らわすことにした。

「うん、そうだ落ち着こう。咲夜の作ったグミがあるんだよね………食べちゃおうかな」

 置いてあるテーブルからグミの入った袋を取り、リボンを解いて中の一粒をつまむ。
ルビーのように沈んだ濃い紅色。それを口に入れて噛んでみるとジュッと果物の濃厚な味わいがわずかな弾力とともに口内に広がっていく。噛めば噛むほど甘いような酸っぱいような風味が溶けていき、たまらず一つ、また一つとグミを口に入れていく。さっきまでの不貞腐れた顔はすっかりほころんだ表情へと変わった。

「う~ん!スゴイな咲夜!こんな完璧にグミ作れるなんて、転職しても引く手数多だろうね。えへへ、止まんないなぁ…………あっ」


そこで今朝お姉様に間食で怒られたことを思い出してしまった。
 しかし


「ふ、ふん、お姉様のことなんて知らない。それに咲夜に見つからなきゃいいんだし」

 空になりかけたグミの入った袋を枕近くにある小物入れに隠した。
鍵はかけなくてもここまで咲夜は開けたりしないから大丈夫だと思う。

「これでいいでしょ。………ヘタレなお姉様の言うことなんて、聞いてあげないんだから」


 そうつぶやいて足元の布団を体に被せ、横になる。色々なことを思い出しながらギュっと目を閉じる。


(今日のことは忘れよう忘れよう。すべてにおいて王子様に負けたわけではないんだし。 てか負けたの頭の良さと大胆さだけだし!あとは全部……うん、勝ってるから………いいんだ。そんなキスとか……べつに、ね)


 なんとか自分を納得させて、やがてやってくるまどろみに身を任せることにした。


――まぁ元々わかってたこと。王子様みたいにキスなんて期待もしてないし望んでないもん。
いつかできたらなんて思ってないもん。
お姉様なんて知らない
興味ない

…………でもどうしても。どうしても王子様かお姉様のどっちか選べと聞かれたら




――お姉様に、キスして欲しい



「……なんて、絶対言ってやらないんだ」


 そう思いながら夢の世界へと意識が沈んでいった。



  深い深い、眠りへ






* * *



















夜も更け、明かりの消えた地下室。


寝相がいいのか、衣擦れの音は聞こえず
規則正しい寝息だけがしずかに響いている。


 そこへ


ガチャッ、と扉が開く音。淡いロウソクの光を片手に揺らしながら何者かがこの地下室へと入ってきた。

 すぐに扉を閉めると、その人物はベッドで寝ているフランの元へと近寄って行く。カツ、カツと靴が鳴り、寝息以外の音がこの空間に混ざり合う。やがてベッドのすぐ横まで来ると靴の音が鳴り止んだ。謎の人物の前にはフランの無垢な寝顔。
しばらくその場で止まっていたかと思うと、その人物はおもむろに顔をフランに寄せていった。長いまつ毛と柔らかそうな頬、そして薄くもつややかな唇にだんだんと近づいていき


 チュ


と、小さく触れるだけのキスをする。謎の人物はゆっくり顔を離し、何かを待つようにフランの寝顔を観察する。
しかし特に何も起こることはなく、相も変わらず穏やかな寝息が響くのみだった。


「はぁ~あ……今日もダメか……童話のようにはいかないね」


 謎の人物―――レミリア・スカーレットはため息をこぼしたのだった






「でも悔しい!!運命の人とキスをして起きてくれれば結ばれるのに!!そういうことよね? 『白雪姫』 って」

 それでも愛しの妹を起こさないよう小声で呟きながら、最近まで借りていた絵本を思い出す。

――今から一週間ほど前。ずっと借りていた『赤ずきんちゃん』を図書館に返したあと、同じ童話コーナーの棚に例の運命の本を見つけたのだ。 『白雪姫』 。適当に借りただけだったのだがこれが存外面白い。鏡によるメッセージから始まった殺人依頼。味方の裏切り、計られた毒殺などのサスペンス要素を盛り込んだ怒涛のスペクタクルの連続からの、ラブロマンス。さらにその運命的かつロマンチックな結ばれかたに電撃が走った。


「ふふふ、読んで気づいちゃったのよね私。私とフランの仲がいまいち発展しないのはそう、 『白雪姫』 みたいな運命的なキスが必要だということを!」


きっかけを与えてくれた白雪姫に感謝をして感慨深く目をつぶる。

「普通にやったらキレられるし、我ながら妙案ね………いや、今日も失敗したけどさ」

 ガックリと肩を落とし再びため息が出そうになった。
『白雪姫』 に影響を受け、一週間前から実行に移した童話の真似事。小さい子供にするようなサッと触れる口づけではあるが、一度も目覚めてくれない。
まぁ今思えば、自分でも正直迷信めいたというか現実味のないことをしてるなぁとは思う。それでもなんかあったらいいなと考えてしまうのは、やはり私は乙女なんじゃないかと思うのだ。

 それにしても、と自分の唇をペロっと舌で舐める。


「この子また間食したわね。昨日は砂糖みたいに甘かったし………ふむ………これはリンゴ、かな。 恐らくその味のお菓子」



「―――悪い魔女にでも貰ったのかしら?」



 クスクス、と笑みをこぼす。
なんとも子供っぽくて微笑ましいが、また明日注意せねばなるまい。私の妹に虫歯ができようものなら普段以上に不機嫌になってしまうだろうからな。なによりあれ痛いし、そんなものをラブリーマイエンジェルフランたんに経験させるわけにはいかない

「うむ。 寝てるとはいえ最初は死ぬほど緊張したけど今は大丈夫………ちっちゃい頃は普通におやすみのキスしてたしね。 フランは忘れてるだろうけど」

 思わず、柔らかそうな蜂蜜色の髪を撫でてしまいそうになるが寸前で止める

「おっと、起こしちゃマズイ」

 それは運命的じゃない
あくまで白雪姫をなぞっているわけだから、そんなので目覚めてしまったら姫もがっかりするだろう。
うちの場合はその前に鼻っ面ブン殴るんだろうけど

苦笑しつつ、改めてフランの寝顔をまじまじと見下ろす

「うーんそれにしても相変わらず、フランは世界で一番可愛いなぁ。 鏡に聞く必要もないわね」

 人形のように精巧で、目、鼻、口すべてのパーツがこの世のものと思えないほど愛らしくできている。スカーレット家………いや、我らが紅魔館に伝わる『家宝』があるとしたら、それはフランのことにほかならない。
起こさないようゆっくりと、愛しい妹を包んでいる薄い掛け布団を撫でつける。


「あぁ、でも安心してフラン………もしもこの悪魔の城に、王子様でもなんでもあなたを奪いに来るヤツがいたら私が直々に、殺してあげる」


―――ここのお姫様に限っては、王子様ではなく悪魔が一生添い遂げるのだから


誰にも渡したくはない。もしも将来そんな奴が現れたらと考えるだけで体を黒い蛇が這い回るようなおぞましさと怒りが湧き上がる。紅魔館の 『家宝』 である前にフランは私のものなのだ。ずっとこれからも。
私の、フランなんだ



 自分でも気づかず、いつのまにか好きになっていた血の繋がった妹。
それでも愛されたい、想い合いたい、触りたいと考えるのは間違っているだろうか?
だけど別に普段は気安く触ったりはしない。ちょっとふざけて触るフリはするが、一線は引いているつもり……かわりに本気で口説きまくるけど。妹なんだからちょっとのスキンシップはおかしくないとは思うが、だからこそむやみに触ったりするのは違うと思った。まぁ普通に怒りそうだし、なにより姉妹を理由に普段やたら体に触れたりとかは、この想いを茶化すことになりそうだから。
故に、自分の欲望をこれでも普段は極力抑えているものの、日に日に増していく妹への愛しさは無邪気に理性をくすぐり続ける。だから今回の白雪姫の真似事は、自己満足だけで済むし無意識に良いきっかけができたと体裁をもってやったことなのかもしれない。 
いや、もちろん白雪姫のお話に憧れてるのがおおもとだけど。ほんと私乙女。


「ふー………でも、やっぱりこんなキスだけはやめようかな。こういうのは本人と向き合ってするべきよねぇ」


 こちらに気づくことなくスヤスヤと眠る寝顔を見下ろし、思った。
なにより行動を焦ったってしょうがないことなのだ。よそはよそ、うちはうち。
まぁわたしのお姫様はちょっと寝つきが良すぎるだけ

「そもそも、白雪姫みたいに運命的なキスをすれば結ばれるなんて、私としたことが……せまい見方だったわ。他人のをなぞる必要はない」

 なにが運命的かなんて自分が決めればいい


――だって運命なんて、私には他愛もないことでしょ?







夢見るお姫様を起こさぬよう、足音を立てず静かに地下室を後にする。
扉を前に、背中越しにはもう穏やかな寝息しか聞こえない。


 とにかく今は待ちましょう
フランの気持ちを大切に、互いの想いが溶け合うまで。
―――あの子が自分を認めるまで


大丈夫。待ってればそのうち良いことあるわ。


 あ。 たしかことわざにもあったわよね

そう





  〝 家宝は寝て待て 〟






…………………あれ?まちがってる?












おまけ


「へぇ……あの姉妹、そろって『白雪姫』借りてたの?」
「そうなんですよパチュリー様。失礼かもですけど、なんだか微笑ましいなって」
「そういえば咲夜は『ヘンゼルとグレーテル』借りてったわよね。最近お菓子に凝ってるみたいだし、かの夢の家でも作るのかしら」
「うわぁたのしみ!バームクーヘンに包まれたいです!」
「美鈴は『カエルの王様』だったわ」
「遊びに来るチルノさんにでも読み聞かせするんですかね」
「………ねぇ小悪魔」
「はい、なんでしょう?」
「…………………来週から、みんな魔女を嫌いにならないわよね?」
「極端ですよ!?」
四作目です
よろしかったら感想など聞かせてください。
ここまでありがとうございました。

>1様。読んでいただきありがとうございました!ちぐはぐですね。とくにフランは
>5様。読んでいただきありがとうございました!そう言って下さるとほんと嬉しいです
>8様。読んでいただきありがとうございました!前作よりは軽い甘さになったかと思います。大好きな皆に嫌われたくないパチュリーさんです
>9様。読んでいただきありがとうございました!穴二つ、の語呂の良さが好きなんでしょうね
>14様。読んでいただきありがとうございました!お口に合ったのなら幸いです。この館の魔女は悪いことができないのです
>15様。読んでいただきありがとうございました!前作を読んで下さった方ですか?スゴく嬉しいです。外伝的な位置づけの話ですが、楽しんで頂けたならほんとよかったです。こちらこそありがとうございます。
>名無しです様。読んでいただきありがとうございます!
そしてご指摘ありがとうございます。自分で調べて笑っちゃいました。レミリアさん、欲望抑えきれてないですね。
彼女には悪いですが訂正させてもらいました。
むーと
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コメント



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1.90非現実世界に棲む者削除
ちょっとギクシャクしたレミフラだけど、それもまたイイ。
5.80奇声を発する程度の能力削除
良い感じで面白かったです
8.80名前が無い程度の能力削除
極めて甘々な姉妹でした。魔女が悪役なのは、その、宿命です。
9.100名前が無い程度の能力削除
なんと素敵な穴二つ
14.90名前が無い程度の能力削除
誰だ俺のブラックコーヒーに砂糖ぶっこんだのは
最後のパチュリーが可愛らしすぎてぼかぁもう
15.100名前が無い程度の能力削除
前作に続いて、最高のレミフラをありがとうございます!
20.無評価名無しです削除
凄まじく今更ですが、フレンチキスの使い方違いますよ。どんなキスか書いたらOUT
もらいそうなので書きませんが。あ、点数はかなり前にフリーレスでいれてあります。
また甘々な作品をお願いします。