Coolier - 新生・東方創想話

幸せのお返しを

2014/03/14 19:55:26
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この作品は作品集193「想いを届けて」の続編にあたります。
こちらをお読みいただかないと話がよくわからないかもしれません。










「椛、ここであったが百年目、今日こそ私たちの大将棋に決着をつけようじゃないか!」
「にとり、急に何を言ってるの?」
「あややや、ついに二人も雌雄を決する時が来たのですか……。」
「文様も乗らないでください。」
「むぅ、椛はつれないなぁ。」
「はいはい、何でもいいから将棋するんでしょ?」
「もちろん。えーっと、私たち何戦何勝何敗だっけ?」
「覚えてるわけないじゃない。どうせにとりも覚えてないんでしょ?」
「あ、確か261戦中にとりが127勝、椛が134勝ですね。私が見てるときの話ですが。」
「なんで文が覚えてるのさ!?」
私と文様が恋人同士になってから半月くらいたった今。
私たちはほとんど変わりもなく、三人で将棋を指す日々を送っている。
少し違うとすれば。
「ねぇ椛、ちょっと気になることがあるんだけどさ、それ、集中できるの?」
将棋の最中に、私と文様が肩を寄せ合っていることくらい。
「もちろん。むしろこっちの方が集中できるよ。」
「ほんとかなぁ。」
文様の方から体重が少しかけられてきたので、わたしも文様に寄りかかる。
文様の体とより密着して、より幸せな気分に浸りつつ。
「はい、ここね。」
「うわ、ほんとに的確なところ突いてくるね。なにその高等テク。」
「愛の力の前に限界などないのですよ。」
「ふふん、でも油断しない方が身のためだよ。今回の私は一味もふた味も違う。色ボケした頭でついていけるかな?」
にとりに何か策があるようなので、盤面を隅々まで確認する。
見た感じ、特に何の変哲もないように見える。
「んー?思わせぶりなことを言ってる割に、いつも通りに見えるけど?」
「さあ、どうだろうね?とりあえずここで。」
「なかなか面白そうになってきましたね。実況しましょうか?」
「いいけど、余計なことは言わないでね?」
「わかってますって。……ふむ、なるほどなるほど。にとりがこれからどう出てくるか、それが今回の試合の見所ですかねぇ。」
「真面目なトーンなのに二人ともひっついてるんだから、台無しだなぁ。」
「気にしない気にしない。」
文様と手をつないで、指を絡ませながら空いた手でぱちり、ぱちりと将棋を指しつつ。
「むぅ、ここは動かしたくないし、でもこっちはなぁ……」
「椛も余裕がなくなってきましたね。これがにとりの作戦、でしょうか。」
「ふふふ、度肝を抜く、とまではいかなくても勝ちを拾うくらいはさせてもらうよ?」
ちょっと落ち着こう。もう一度盤面を見渡して、駒をどう動かすか考える。
「えぇっと、じゃあ、ここ、かなぁ……?」
「む、なら、こっちかな。」
「にとり早いよ……ちょっと待ってぇ。」
「いくらでも待ってあげるさ。でも勝つのは私だぁ!」
「にとり、堂々の勝利宣言です。しかし対する椛さんも、反撃の策を講じています。さてはてこの勝負の行方は……?」


「うわぁ、これどうしよう。時間さえ稼げればなんとかなりそうだけど完璧に追い詰められてる。」
「ふふふ、時すでに時間切れ。このまま押し切らせてもらうよ。」
「防御を捨てた進軍により、椛を追い詰めたにとり。まさに背水の陣ですね。この勝負の行方は椛がにとりの攻撃をしのげるかにかかっているでしょう。」
にとりは残っている駒をほとんど攻めに回している。
どうにかして攻めに転じれば勝てそうではあるけど、そんな余裕はどこにもない。
「あ、これダメかも。仕方ないからこうで。」
「よし、ここで王手。逃がさないよ?」
その後お互いに数手動かしたのち。
「はい、ここで詰み。よーし、勝ったぞー!」
「長い戦いでしたが、今回の勝者はにとりでした!おめでとうございます!」
「あー、残念。なんか気づいたら不利になってたから驚いたよ。」
「ふふん、作戦通り。椛は守りを固めてから攻め込もうとするからね。それを利用させてもらったのさ。」
「椛が攻めに使いたがってそうな駒を守りに徹させるように動かしてましたね。」
文様はにとりの作戦に気づいてたらしい。
なるほど。少し無理やりにでも攻め込めばよかったのか。
「あ、やっぱり文は気づいてたんだ。」
「はい。でも言ってしまったらフェアじゃないでしょう?それに……。」
文様は一拍置いて続ける。
「必死になってあれこれと考えてる椛、すっごくかわいいんですもん。」
「あー、わかるわかる。手にぎったり離したり、耳とかしっぽとかぴこぴこさせてね。」
「え、え?ちょっと、あの、え?」
思ってもみなかったことを言われて、恥ずかしいやら何やらで顔が熱くなるのを感じる。
「わー真っ赤。やっぱり無意識のうちにやってたのね。」
「赤くなってる椛もかわいいです。あぁ、椛かわいい。とにかくかわいい。ぎゅうってしていいですか?いいですよね。いえ、ダメと言っても聞きませんが」
有無を言わさず、文様に抱きしめられる。
「あ、あやさまぁ、恥ずかしいからやめてくださいよぅ。」
「いやです。やっぱり椛は柔らかくて抱き心地最高だなぁ。」
「あやさまだってそうですよぉ。…というかにとりはやし立てるのやめて!」
「ひゅーひゅー、それ以外に何をしてろっていうのさ!」
にとりの方を見たら絶対ニヤニヤしてるだろうから見たくない。
というかもう何も見たくないから目を瞑って文様の胸に顔をうずめて、ぎゅう、と強めに抱き返す。
「にとり。このかわいい生物どうしたらいいですかね。かわいさが収まることを知らないんですが。」
「そのままイチャイチャしてればいいんじゃない?」
「もう勘弁してぇ……。」
まあ、なんだかんだで楽しいんだけどね。
こんな風に、今までと同じくらい騒がしく、今までより幸せな日常は、今までとまるで変わらずに流れ続けている。


将棋をしたり話したりしているうちに日も落ちてあたりが暗くなってきた。
これ以上はなにかとやりづらいので大将棋の駒を片付ける。
「今日はにとりにしてやられたけど、次はそうはいかないからね。」
「受けて立つよ。当然、そう簡単にこの戦術を破らせるつもりはないからね。」
「いい勝負を期待してますよー。」
「たまには文もやればいいのに。」
「私は視聴専門ですから。」
「ま、いいけどね。私はもう帰るよ。二人ともごゆっくり。」
「はいはい。」
そういえば、にとりが私や文様より先に変えることが多くなったのもちょっとした変化の一つかもしれない。
やっぱり気を使われてるんだろうな。本当に、にとりには感謝してもし足りない。
「もみじー、にとりもいなくなったし話があるのですが。」
「なんですか、文様?」
「私たちがこうして恋人同士になれたのって、どうしてでしたっけ?」
「え?何を言ってるんですか?」
「いいからいいから。」
唐突によくわからないことを言い出した文様。
まさか忘れているはずもないし、本当にどうしたんだろう。
「にとりに後押しされて半月くらい前に二人そろって告白したんじゃないですか。」
「はい。つまり、にとりのおかげでバレンタインに恋人になれたわけです。」
「?どうして言い変え……あ、もしかして……。」
「そうです。ホワイトデーににとりにお礼したいなーって。」
「そういうことですか。それなら私も賛成です。」
「まあ、まだ何をするかは全く決めていないので、空いた時間に少し考えてくれると助かります。」
「そうですね。わかりました。」
そのまま文様と別れて帰路につく。
にとりにはちゃんとしたお礼をしたかったから、どうしたら喜んでくれるか、ちゃんと考えないとね。





翌日の夜。にとりが先に帰ってからも少し残って、椛と一緒にホワイトデーにやることを考えていました。
「では、にとりにどんなお返しをするのか、考えていきましょうか。」
「そうですねぇ…。バレンタインといえばチョコレートですが、ホワイトデーは何を送ればいいんでしょうか?」
「少し調べてみたのですが、ホワイトデーなら、クッキーとかマシュマロとか、あとはキャンディあたりがメジャーらしいですよ。」
「へぇ、そうなんですか。でも、ただ作って渡すだけじゃあ味気ないですからね。何か工夫できないものでしょうか。」
「それですよねぇ。改めて考えてみるとなかなか難しいものです。」
「うーん……。」
「できればインパクトとか欲しいですよねぇ。むむぅ……。」
二人してただうんうん唸っているだけではアイデアは出てきませんね。
ここは他の人たちにもアドバイスを求めに行きましょうか。
バレンタインで義理チョコを配った人たちならなんだかんだ言って協力してくれることでしょう。
個性的な発想の持ち主ならいくらでもいますし、その方が少しは建設的ですかね。
「幻想郷を回ってアドバイスでも貰いに行きますかねぇ。」
「……うー、私はまだ山の外に出るのは反対ですよ?」
「椛はもう少し融通をきかせてもいいと思うのです。そんなに固い考えじゃあ、見えるものも見えないかもしれませんよ。」
「……そうじゃないんですが………。ぶつぶつ……。」
「?椛?」
あやや、機嫌を損ねてしまったみたいです。
膨れてる椛もかわいいのですが、後を引かれては困ります。
どうしましょうと考えていると、椛が話し始めました。
「文様、私は規律で文様を縛り付けるのは良くない、とは思っています。恋人のすることに文句を言いたくはありませんし、そもそも私は文々。新聞のファンですから。
でも、やっぱり心配なんですよ?もし、文様に何かあったらと思うと、心配で仕方ありません。」
「椛……。」
どうしましょう。やっぱり椛かわいいです。
瞳をうるうるさせて上目遣いとか反則じゃないですかね。状況が状況なら写真を撮りたいくらいです。
しかも健気に私のことを心配してくれてたなんて、感動して涙が出てきそうなくらいです。
私は椛をぎゅっ、と抱きしめて
「椛、ありがと。でも、私は大丈夫です。今の幻想郷は、危険な場所なんかじゃありません。」
「ほんと、ですか?」
「もちろん。私だって椛に心配はかけたくありません。それに、いつも新聞を読んでくれているでしょう?」
「…………それなら…………。」
「………私を、連れて行ってください。」
「……いいんですか、椛?」
私も幻想郷を椛にちゃんと見せたい、と考えたことは何度もありました。
しかし、新聞作りのための取材、という建前が椛にはない以上、それは周りから非難されかねない行動でもあるのです。
「私は、大丈夫ですよ。文様がいてくれれば、どんなことがあっても。」
そう答えてくれることは純粋にうれしいのですし、椛の意思は尊重したいのですが……いえ、言い訳ばかりしていても仕方ないですね。
「わかりました。とはいえ椛、哨戒の仕事の方はどうするんですか?」
「多分、仕事時間を交代すれば一日くらいなら空けられます。」
「では、明々後日くらいなら大丈夫ですかね。」
「はい。では、楽しみにしてますね。」
「私もですよ。なにせ椛とのデートですよ、デート!」
「ふふっ。文様、子供みたいですよ?」
「いいじゃないですか。喜びを表現しているだけですよ。あ、そうだ椛。」
「なんですか?…………んむっ……。」
不意打ちで椛に軽く口づけます。
やっぱり椛とのキスは病み付きになってしまいそうです。
「ちゅっ………えへへ、椛分を補給です。少し会えなくなってしまうでしょ?」
「もう……少し寂しかったけど、今ので吹き飛んじゃいました。ありがとうございます。」
「お礼なんてやめてくださいよ。照れくさいです。」
そのあとも、結局未練がましく雑談を続けて、椛と別れた時にはかなり遅い時間になってしまっていました。
明日と明後日は暇になってしまいそうですし、にとりと話しながら椛を案内する場所でも考えましょう。





長いようで短い二日を越えて、椛とのデートの日がやってきました。
昨日はにとりにも応援されてしまいました。まあ、言われるまでもなく椛とイチャイチャするつもりですけどね。
ちなみに今は集合時間の30分前。集合場所にはあと5分くらいでつくでしょうか。
わざと少し早い時間に来ることによって椛を待つドキドキ感を味わうとともに、
「待った?」「ううん、今来たところ。」という定番のシチュエーションを楽しむためです。
そんな妄想に浸りながら集合場所へと飛んでいきます。
「椛はどんな反応をするでしょうか。楽しみですねぇ。」
「文様、私がどうかしたんですか?」
え?
「待ちきれなくて早く来すぎてしまったのですが、文様もみたいですね。……よかったぁ………。」
「あやややっ!?椛!?」
「はい、私ですよ?どうかしましたか?」
うわあ、早速予定がひとつ崩れてしまいました。
椛来るの早すぎますよ。おとなしく予定通りの時間に来てくれればよかったのにぃ…。
「うー……。なんでもありません。少し早いですが、もう出発してしまいましょう。」
「えーと、文様?本当に大丈夫ですか?」
心配されてもいろいろと困るので、努めて明るく、適当に話を変えましょうか。
「問題ありませんよ。それにしても、昨日とおとといはお疲れ様でした。」
「それこそ大丈夫ですよ。むしろ何か察されて応援されたくらいです。」
「それはなによりです。」
この様子だと、山がどうこうとかは杞憂だったのかもしれません。
無駄に心配するのは誰も得しませんし、このことは気にしなくていいでしょう。
「さて、行きますよ!幻想郷はそれほど広くなくても見せたい場所はいくらでもありますからね!」
「はい、行きましょう!」





文と椛がデートをしている、という事実に顔を綻ばせてしまうのは仕方のない事じゃないだろうか。
二人がそれだけ仲良くなった、というのは私にとってすごくうれしい事だから。
そんなことを考えながら、最近顔を合わせることが少なくなってしまった仲間の河童たちのところへ向かっている。
最近は機械いじりもお留守だったから、たまにはこういうのもいいかもね。
工房につき、扉を開けて中に入ると、珍しくここにやってきた私を友人が出迎えてくれた。
「久しぶり。珍しいじゃない、最近は文とか椛にご執心だったのに。」
「そうだね、久しぶり。ちょっと今日は二人がデートだっていうからさ。」
「へぇ~、あの二人、やっとくっついたの。さびしくなるじゃない、ねぇ、にとり?」
「いやいや、私からすればまだまだ甘いね。もっとバカップルになるまでは見守るつもりさ。なっても見守るけど。」
「あはは、にとりらしい。あ、そうだ。特にやることないなら私の作業手伝ってよ。ちょっと面倒なところが出てきてさ。それに、近況も聞きたいし。」
「いいよいいよ。今、何やってるところ?」
「ああ、外の世界から流れてきた機械をバラしてるとこなんだけどね。これがなかなか大きい割に複雑で……。」
「よしきた。大物が相手ならやる気も出るってものさ。」
「わかってるじゃない。じゃあ、はじめるわよ。」


その大物とやらを分解し始めてから数十分。
確かにこれを一人でやるのは骨が折れそうだった。というか多分一人じゃ無理。日が暮れちゃうね。
「しかし、これは何に使うのかな?」
「んー、それが、よくわからないんだよね。とりあえず中がどうなってるのかを見ればわかるかなー、と。」
「文に頼めば名前と用途は調べてもらえるんだけどね。なんかそういう知り合いがいるらしくて。」
「へぇ。どうしても手に負えないようだったら頼もうかな。そういえば、あんたら三人、最近はどうなのよ。結構気にしてるやつも多いのよ?」
「あれ、そうなんだ。とはいっても、平穏そのものだからなぁ。」
「結構あんたたちは山でも噂になってる方なのよ。三人ともルックスが良いし、いろいろと有名な文もいるしね。」
「へぇ。……文と椛はともかく、私が、ね。」
「……え、自覚無いの?」
「私なんてあの二人と比べたら霞むって。」
「何よ。あんたらしくもない。もうちょっと調子に乗ってくれないとやりづらいわ。」
「ひどいなぁ。ま、そうだね。とりあえず、文と椛がどうしてるか、いくらか話してあげようじゃないの。」
「あんたのことも、ね。私は三人の話が聞きたいの。」
「んー、そうだねぇ……。基本的には相も変わらず私と椛で将棋してるのを文が見てるだけだからねぇ。最近は文と椛でイチャイチャしてるってくらいしか……あっ、そうだ、この間さ……」
たったの半月なのに色々なことがあったなあ、と思い返しながらたくさんのエピソードを語っているうちに、私が文と椛のことが大好きなのを改めて自覚させられることになってしまった。
作業をしながらも適当に話を続けて、気づいたらもう昼過ぎになっていた。
「あれ、もうこんな時間。いやぁ、私ばっかり話しちゃってたね。」
「そうね、お昼食べてないのにもうお腹一杯な気分よ。文と椛がデート、なんていうから寂しくないのか、とか柄にもなく心配したのが馬鹿みたいね。」
「ふふ。文と椛は私の親友だからね。恋人同士になってたとしても、それは変わらないよ。ちょっと妬けちゃうこともあるけど、二人が幸せそうにしてるのを見ると私まで幸せになってくるのさ。」
「あてられてるわねぇ。」
「だねぇ。でも、それでいいかな。」
「うんうん、楽しそうで何より。まあ、たまにはこっちにも顔を出してくれると、私たち一同喜ぶよ。なんだったら文と椛を連れてきてもいいし。」
「考えとくよ。じゃあ、お昼ごはんにしよっか。」
私は、会うことが少なくなっても途切れないものを感じつつ、もう一人の親友にそう声をかけた。





本当に、たくさんの場所に行って、たくさんの人と会った。
紅い洋館、たくさんの桜が植えられたお屋敷、春が近づいてくることを感じさせる花畑(いわく、夏には一面にひまわりが咲くらしい。)途方もなく広い竹林、変わった気配のする森、そして人里。
どこも新聞で見たことのある場所ではあったけど、実際に見ることで感じられるものも多かった。
虫や鳥の声、気温や湿度。目で見るだけでなく、耳で聞き、肌で感じる雰囲気のようなものは、新聞ではわからないとても大事なものだと改めて思わされる。
そして、当然と言えば当然だけど、文様の知人の多さには驚いた。
どこへ行っても文様の知り合いと出会えた。ただ一度か二度取材した程度の関係の人もいれば、それなりに仲のよさそうな人もいた。
文様は、その相手の名前をすべて覚えていて、そして殆どの人に覚えられていたのだ。
「椛ー、考え事ですかー?もうすぐつきますよー。」
文様が声をかけてくる。
今は神社の前の長い階段を上っている最中。
確かに、やっと終わりが見えてきたみたい。
「ここは博麗神社。あの博麗の巫女が暮らしている神社ですね。やはり幻想郷を語るうえでここは無視することはできません。」
「異変解決の専門家、でしたっけ。確かにあの人は信じられないくらい強かったですね。」
「はい。妖怪退治を生業としている割には、私みたいなのが来ることを拒みませんが。それどころかかなりの数の妖怪が集まって宴会をしてるほどですね。」
「巫女に関する記事が多いのも頷けますね。」
「そうですね。彼女を中心にして、個性的な人たちが集まっているようにも思えます。……と、つきましたね。ここが博麗神社です。」
そこにあったのは、見た目はいたって普通の神社だった。
参拝客の姿はなく、閑古鳥が鳴いているように見えなくもない。
「れーいーむーさーん!清く正しい射命丸ですー!出てきてくださいなー!」
文様が呼びかけて少しすると、奥から紅白の衣装を着た巫女が出てきた。
「あーもう、うるさいわねぇ!新聞ならいらないわよ……って見かけない顔があるわね。そこの白いのは?」
「ああ、椛は私の恋人ですよ。」
「あー、今日は惚気に来たのね。それは新聞以上に間に合ってるから帰ってくれないかしら?」
「つれないですねぇ霊夢さん。椛のかわいさについて理解していただきたいところではありますが、今日はそれとは別で相談がありましてね。」
「なによ。新聞勧誘はお断りだって言ってるじゃない。」
「いえそうではなく。実はですね……。」
テンポよく続く二人の会話に呆気にとられて話に入りかねていると、目の前に黒い目のような裂け目ができて、そこから金髪の妖怪が出てきた。
「ふふふ、面白そうなことになってるじゃない。あなたがあのブン屋の恋人とやらね。」
現れた妖怪は、そう私に声をかける。
新聞でも見たことのあるその姿。確か、名前は……
「あなたは、八雲紫さん、ですか?」
「ご名答。新聞にも載ったことのある有名人だし、知っていてもおかしくないわね。あなたは、椛、と呼ばれていたわね。」
「はい、犬走椛です。」
「そう。……あの二人、話し始めると長いのよねぇ。ちょっと話し相手になってくれないかしら?」
「あ、私でいいなら構いませんよ。」
「ふふふ、まあ、馴れ初めとかを聞いてもいいのだけど、その前に、ね。」
紫さんは意味深な風に微笑んでいる。
その話しぶりや態度からきている胡散臭さは新聞にもある通りのものだった。
「まあ、単刀直入に言うとね……あなた、少し消極的すぎないかしら?」
「?……何の話ですか?」
「一つしかないでしょう。色恋沙汰の話よ。霊夢はあんまり好きじゃないみたいだけど、私は大好きよ、あなたみたいなのをからかうの。」
「からかうって何ですか、からかうって……」
「ふふ、それはともかく。あなた、もっとあのブン屋と二人だけの世界に入りたい、なんて思っているんじゃない?」
「……!…………。」
「沈黙は肯定とみなそうかしら。……でも、そうしてないわよね。人前だから、とか色々と言い訳をして、ね。」
「……それが、どうかしたんですか。節度を守るというのは大事だと思います。」
「そうねぇ。でも、別にいいんじゃないかしら?そういう考え方ができるなら、周りに迷惑をかけたりとかはしないでしょうに。」
「恥ずかしいじゃないですか。嫌ですよ、私は。」
「でも、あのブン屋の方からしてきたら、拒めるの?」
「う…………。」
「でしょう?なら、そんなことは言い訳に過ぎないわ。真に愛し合う二人なら、それは些細なことに過ぎないのだから。」
なんか言いくるめられてる気がする。
やっぱり節度を守ることは大事……のはず。
ああでも、文様を拒めないんじゃ同じなのかな……うーん……?
「まあ、あなたがそれでいいなら構わないけれど。あのブン屋、きっと喜ぶわよ?」
「………!」
「食いついたわね?少し考えてみることをお勧めするわ。……ところで、あなた、白狼天狗よね。」
「……そうですが、何でしょうか?」
「山の外に出たのは、今日が初めて?」
「はい。文様に色々なところを案内してもらいました。」
「そう。……そうね、どうかしら?この幻想郷は。」
そう問うてきた紫さんは、先ほどとは異なり胡散臭さが消え、真剣な様子に見えた。
「まだ、少ししか見ていませんが、とても素敵な場所だと思います。」
「そう、よね。良かったわ。」
「もっと深く知りたい、今はそう思っています。」
「ふふ、歓迎するわよ。私も、山だけじゃなく他のところのことも知ってほしいわ。」
「私は、この幻想郷を愛しているのだから。」
紫さんのその何かを慈しむような表情を見れば、その言葉が本心からのものであることがよくわかった。


「それでですね……。」
「ああ、もういいから、わかったから!」
「まだ話は終わっていないのですが。」
「何が言いたいのかは分かったからその惚気をやめてくれないかしら!?」
「それは良かったです。強引に聞かせてしまいすいません。」
「あー、はいはい。そのほとんど謝意を感じない謝罪はいいから。本当にそう思ってるなら賽銭でも入れてきなさい。……で、あんたらが恋人同士になるのに一役買った河童にお礼がしたいんだっけ?」
「はい、その通りです。ちゃんと聞いてくれてたみたいで安心しましたよ。」
「で、アドバイスが欲しいと。そうしたら、帰ってくれるのよね?」
「約束しましょう。」
「なら仕方ないわね……。まあ、そうね。私からできるアドバイスなんてそんなにないけど、一つだけ。」
「私に聞くな。」
「へ?」
「私に聞くなって言ってるの。あんたたちが考えて、あんたたちがやりたいようにやる。ロクに会ったことすらない私が考えたところで、それが何になるというの?……仲、いいんでしょ。どうしたら喜んでくれるか、一番わかってるのはあんたたちのはずよ。」
「……!そうですね。それもそうです。」
「ん。分かったなら、さっさと帰んなさい。そこの恋人さんも連れてね。」
「はい。ありがとうございました。椛ー、帰りますよー!」
「はーい、わかりましたー!」
霊夢さんのアドバイスは至極もっともなものでした。
こればかりは人に頼って何とかなるものでもありませんね。さて、また一から考えましょうか。
「文様、いいアドバイスはもらえましたか?」
「ええ。ばっちりです。明日から、また考えていきましょう。」
「と、いうことは今日のデートはもう終わり、ですか?」
「日も傾いてきましたしね。でも、最後に見てほしいところがもう一つだけあります。ついてきて下さい。」
そういって、私たちは神社を後にして、私が一番好きな景色が見られる場所に向かいました。




文様に案内されてやってきたのは、霧のかかった大きな湖。
「ここは……湖、ですね。」
「はい。昼間は霧がかかっています。夜になると霧が消えてしまうんです。」
「ここが最後に見てほしい場所、ですか?」
「はい。もう少し待っててくださいね。」
文様が立ち止まったので、私もそこで歩みを止める。
「椛、今日は色々なところを回りましたね。」
「そうですね。文様の知り合いともたくさん出会いました。」
「……どうですか、椛。幻想郷、いい場所でしょう?」
「はい。私も、そう思います。」
「私は、この素敵な幻想郷を改めてみんなに伝えるために新聞を作り続けてきました。そしてこれからも、作り続けることでしょう。」
「そしていつか他の天狗たちにもそれが伝わって、山がもっと外に対しても開放的になればいいなぁ、なんて、夢みたいなことを考えてもいるわけです。」
気づけば、湖を覆っていた霧は晴れていた。
視界に入るのは、不思議と眩しすぎない夕陽と、夕陽を反射する透き通った湖。
「わぁ……!」
「綺麗でしょう?ここは、夕暮れ時のほんの少しの間だけ、霧が殆ど晴れるんです。私はこんなにきれいな夕陽を、ここ以外で見たことがありません。この美しさを写真に撮れたことも、一度もないからこそ。」
「いつか、みんなにこの景色を見てほしいんです。ここだけじゃなく、記事にしたほかの場所も。」
「……あやさまっ!」
私は文様に飛びついた。胸の奥から湧き出る感情を抑えきれなかったから。
「わわ、椛?」
「文様は、やっぱり素敵です。素敵な幻想郷を素敵な新聞にしている文様は、とっても。」
「……ありがと。嬉しいです……。」
「あやさま、好きです。大好きなんです。言葉になんてできないくらいに。だから……。」
「私も、大好きです。もみじ……んゅっ!?」
「んん……ちゅう……ちゅ、ちゅ…んぁ……ちゅる………。」
はじめて、私の方からキスをする。何度も何度も。
「んむぅ……んっ……ちゅぅ………んはぁ……。もみじぃ……。」
「えへへ…………私から、キスしちゃいました。」
「びっくり、しましたよぉ……?んはぁ……。」
「はぁ、あやさまのそんな顔、初めて見ました……。かぁいいです……。」
「もみじだって、すごくかわいいですよ……。」
「……あやさま、私、いつでも応援してますよ。だから、がんばってください。」
「もちろんですよ。もみじの期待に、応えないはずがありません。……だから、もう少し、このままいさせてください。」
「……はい。私も、こうしてたいです。」
文様と抱き合ったまま、しばらくじっとしていた。
気づけば日は完全に沈み、星と月の明かりだけが、私たちを照らしていた。







文と椛がデートをして半月くらい経った。同じ半月でも、また違った日々が流れているようにも思えてくる。
何やら今日は二人して遅くなる、と椛から伝えられたから今は少し暇している。いったいどうしたんだろうか。
まさか椛の哨戒に文がついていく哨戒デートとかやってたりするんだろうか。それはそれで面白いけど。
「にとりー!ごめん、遅くなったー!」
「あぁ、だいじょーぶだよー!」
噂をすれば何とやら。椛と、少し遅れて妙な姿勢をして飛んでいる文がやってきた。
「それにしてもどうしたのさ。まさか哨戒デートなんてしてたわけじゃないよね?」
「哨戒デート?さすがにそれはちょっと……。」
「いいですねそれ。ナイスアイデアですにとり。」
「ちょっと文様?」
「冗談ですよ、たぶん。」
「で、どうしたの?二人とも。」
「ちょっと準備に時間がかかってしまいまして。」
「準備?」
「うん。ところでにとり、今日って何月何日だっけ?」
「え……?えっと、3月の……あ…………。」
「気づきましたね。そうです。今日は3月14日。私たちが付き合い始めてちょうど一ヶ月です。そして……。」
「ホワイトデーだよ。バレンタインのお返しをする日。だから、ね。」

「「ありがとう、にとり!!」」

そう言って文から差し出されたのは、少し小さめのショートケーキだった。
「……!!ありがとう、二人とも!」
「私たち二人がこうしていられるのも、にとりのおかげです。本当に、ありがとう。」
「ありがとね、にとり。じゃあ、食べて食べて」
「うん……!……っていや、流石にこれ私には食べきれないよ?」
少し小さめとはいっても1ホールまるまる。
一人で食べるには少し多すぎる。
「そういうと思ってたよ。それなら、一緒に食べよ?」
「え?いやそれってどうなの?」
「私もそう思ったのですがね。こういうのは機会であってルールにとらわれる必要なんてないと思うんです。それに、にとりはそうした方が喜んでくれそうだと思ったので。」
……どうしよう、視界がぼやけてきた。
二人とも、私のことを考えてくれてた。分かってくれてた。そう思ったら、途端に。
両手で涙をぬぐって、私は大きな声で伝える。

「ありがとう、本ッ当に、最高のお返しだよ!!」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
すこしでもお楽しみいただけたのなら幸いです。
コメントにて感想やアドバイスなどいただけたら飛び跳ねて喜びます。

なんとかホワイトデー当日に間に合わせることができました。
前作でコメントしてくださった方、本当にありがとうございました。
この作品が遅刻しなかったのはあなたのおかげかもしれません。
しがない名無し
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コメント



0.270簡易評価
2.80絶望を司る程度の能力削除
……爆発すればいいのに。
4.100名前が無い程度の能力削除
面白かった。
5.70奇声を発する程度の能力削除
良かったです
9.100百合中毒に陥る程度の能力削除
前作に続きとても面白かったです。

甘々大好き(笑)