風を切る、という感覚が私は好きだ。
いや、実際は形ないものを切れるはずもなく、単なる比喩表現ではあるけれど。
それでも、この小さな身体が刃物にでもなって辻斬りして回るような気分は何とも言えず爽快で、好きだった。
シャーッ、という車輪の回転音が周囲に、私の耳に響いている。
ゴム製のタイヤは整備なんて言葉とは無縁の悪路を苦もなく駆け抜ける。小石なんて平気の平左だ。
とはいえ、こいつは乗り手がいなければ立つことすらままならない木偶なので、私がしっかりと乗った上で手綱を握ってやらなくてはいけない。
そう、こいつが地上を走れるのは全ては私のお陰であり、私の実力である。
空を飛ぶ時とこいつで地上を走る時では、どうにも空気を切る感じに違いを覚える。
かといって、それがもどかしいとかそういう訳ではない。これはこれで乙なものだと思っている。
例えるなら、空を飛ぶ時の感じが日本刀で紙を裂くようなもので、地上をこいつで走る時の感じはナイフでリンゴを剥くようなものだ。
自分でもよく分からん例えだとは思うが、こういうのはフィーリングだ。考えるな、感じろ。
思考を他所にやっていると身体に当たる寒風が弱まっていることに気付く。
少し気を抜くとこれだ。こいつは木偶の癖に乗り手の怠惰を酷く嫌う。生意気な奴めと思いもするし、それでこそ自分が乗るに値するとも思う。
足に力を込める。もっと速く、冷たい風を切り捨てるんだと足の回転を早くする。
応えるように車輪が、チェーンが、悲鳴を上げる。しかし、回りの寒々しい風景を置き去りにし、口からは白い吐息を漏らしながら、私はより強い風を感じていた。
ザマアミロ、と何処の誰とも知れない第三者を目掛けて心中で罵倒した。
悪路を抜けると、今まで走ってきた道よりは多少整った道に出て、ほんの二、三分も走れば見慣れた石段が見えてきた。
車輪を横滑りさせながら、その下で華麗に止まる。自分の技術にほんの少し気分を良くして、私は数十分ぶりに地に足を着けた。
目の前の雪に塗れた石段を見上げると、無駄に長く伸びたその先で、これまた見慣れた鳥居が私を見下ろしている。
いつもはその真上を飛んでいるのに、まさか普通にその下を潜る日が来るとは思いもしなかった。
それというのも、この木偶が階段を登るのに実に適さないからである。平地では威勢が良い癖に、登りとなると階段に限らず無能を晒すのだから勘弁して欲しい。
ならば、ここに捨て置いて別の物に乗り換えればいい、と普段の私なら迷わずそちらの脳内意見を採用するのだが、今日ばかりはそうもいかない。
何故なら、この石段の先に住む人物にこいつを紹介するのが本日の目的だからだ。
キツいだとか、面倒だとか、泣き言は言ってられない。
泣き言の一言でも言う暇があるなら──。
「こいつを担いで登れ、って話だよなぁ……!」
そうして、私──霧雨魔理沙の孤独な戦いが始まった。
# # #
「──で、わざわざ私に自慢する為にこんな物を担いで登ってきたって?」
「お、おう……」
「……馬鹿じゃないの?」
「お、お前……! それが、苦労して、ここまで持ってきた奴に、掛ける言葉かぁ? もっとこう、『頑張ったわね、魔理沙』みたいな、労いの言葉はないのかよ……」
「生憎と品切れみたいね」
「ち、ちくしょおっ……」
もこもこと冬服を着込んだ巫女の無慈悲な言葉に、ぜいぜいと息を切らしていた私は崩れ落ちた。
石段を登る決意をして、木偶を担いでいく為に自身に身体強化の魔法を掛けてまで挑んだ此度の戦いは、私を疲弊させるには十分過ぎた。
まず、担いだ物が重過ぎた。いくら魔法を掛けたって元の私の力はか弱い少女のそれなのだ。重い物を持ち続ければ、筋肉が酷使された上に乳酸が溜まって、疲れるのは当然のこと。
そして石段だ。まともに登ったことなんてなかったから知らなかったが、無駄に段数が多い。おまけに雪まで積もってるもんだから足元に余計な気まで回さなければならなくて、それが疲れに拍車を掛けた。
登っても登ってもなかなか終わりが見えず、自分は狸か狐かに化かされているじゃないかと胡乱になる頭の中で考えたりもした。
もうやめろ、私は頑張った、だからこんなお荷物捨てちまえ、と自分の弱い心が甘く語り掛けてきたりもした。
それでも、見せたい奴がいるんだと己を叱咤し、たっぷり半刻近く掛けて登り切ったのだ。もう日の入りも間近だというのに。
それを、この巫女──博麗霊夢は、「馬鹿じゃないの?」の一言で切り捨てたのだ。
「あんまりだろ、こんなの……。私は、お前に見せる為に頑張ったのに……」
膝を雪と玉砂利の冷たさに曝すのも構わず、私は理不尽を嘆いた。霊夢は鬱陶しそうな顔を隠しもしない。
「あー、その、それならわざわざ持って来なくても、私をあんたの家に呼べば良かったんじゃない」
「え? ……呼べば来てくれたのか?」
「まぁ、顔を覗かせるくらいはしてあげたわよ」
そして、その言葉を聞いて私は膝どころか両手まで着いて絶望を自らの身体で表現した。まさか、その手が使えるとは私は露とも思っていなかったのだ。
いやだって、相手はあの霊夢だ。こいつの不動ぶりというかグータラぶりを間近で見ていれば、呼べば来てくれるなんて安易な手段が通じるなんて思わないだろう。
霊夢の性格から考えてもドタキャンの一つや二つしたって何もおかしくはない。
そう考えれば、わざわざ足を運んできた私の努力は決して無駄ではなかったと言える訳で──。
「しないわよ」
「へぁ! なな、何がだ?」
「いや、あんたが失礼なこと考えてそうだったから、とりあえず否定してみたんだけど……今の反応じゃ、読み間違えではなさそうね?」
恐ろしい。相変わらずの勘もそうだが、向けてくる笑顔がもっと恐ろしい。
それは間違いなく仮面だ。その下には静かだが、確かな怒気が湛えてあるに違いない。
私にそれを鎮める術はない。だから、薄氷のようなそれを不用意に割らない為にも、多少強引にでも話題を反らすとしよう。
触らぬ巫女に祟りなし。霊夢の怒りを買うのは、龍神の逆鱗に触れるに等しいのだ。
「あー、うん。それで今日の用件なんだが……」
「まぁ、白々しい」
「やかましいぜ。で、用件なんだが、霊夢にこいつを自慢しに来た」
「それはさっき聞いた」
「ちなみに、私は乗れるぜ」
「はいはい」
「むっ。それじゃあ、霊夢にはこれが何だか分かるかな?」
「知らない」
即答だった。思考することを放棄したらしい。なまじ力があるだけに、霊夢が人間を辞めないか不安になる私である。
「ちっとは考える素振りくらいしても……いや、お前にそんなことを期待する方が間違ってたな。いいか、霊夢。こいつは自転車という乗り物だ」
「……あぁ、何か聞いたことあるかも」
名前くらいは知っていたのか、私が運んで、今は立て掛けてある自転車をペタペタと霊夢は触っている。
「実物を見るのは初めてか?」
「そうね。魔理沙はどうだったの?」
「私は親父が店で扱っているのを見たことがあったぜ」
「ふーん。って事は、これは魔理沙のお父さんからの贈り物とか?」
「……おいおい、気持ち悪いこと言ってくれるなよ。こいつは香霖から買ったんだよ」
「ツケで?」
「ツケで」
「あーあ、霖之助さんったら可哀想。それと魔理沙のお父さんも可哀想」
自分こそ香霖の奴にツケを貯めている癖にかわいそー、かわいそー、と霊夢は他人事のように言う。お前が言うな、という言葉がこれ程似合う奴もそうはいない。
あと香霖はともかく、親父はどうでもいいだろう。
「あんたがお父さんに贈り物貰ったー、ってそういう自慢に来たのかと思ったじゃない」
「アレが私に贈り物なんかする訳ないだろ」
「そんなことないと思うんだけどなー」
「そんなことあるんだよ」
勘の良い霊夢の言う事だから、つい期待──じゃない。あり得るのかも、とか考えてしまう。
犬猫のように頭を振って余計な思考を取り払う。話題は私じゃなくて、私の持ってきた自転車なんだから。
「で、どうよ」
「どうよって言われてもねぇ。とりあえず、空を飛べる私やあんたみたいなのには必要ないんじゃない?」
「あぁ、言うと思ったぜ」
霊夢の答えは、割りと予想していたものだった。
「──でもな、霊夢。私は自転車には空を飛ぶのとはまた違う良さがあると思ってるんだ」
私の言葉に、霊夢は紫でも見るような表情を浮かべた。
「違う良さねぇ。地面を走るってことは空を飛ぶほど自由でもないでしょうし、何よりこれって漕がないと動かないんでしょう? わざわざ疲れてまで得る良さなんてあるの?」
「あー、うん。実にお前らしい意見だし、間違っちゃいないな」
流石は努力を嫌い、地に足を着けずに日々を生きる巫女の言葉である。何というか、軽い癖に重味があるという矛盾した表現が当て嵌まる。
しかし、その言葉にいちいち怯んでいては霊夢の相手など勤まらない。自転車を必要とする人間がいるように、巫女の考えを正してやる人間も世の中には必要なのだから。
「でもさ、誰だって空を飛べる訳じゃない。大多数の人間は空を飛ぶ便利さなんて知らない。それを知っている私や霊夢の方が、むしろ少数派なんだ。
そう考えると、空を飛ぶ便利さを知らない多数派にとって自転車っていう物は、どれだけ革新的な物だったろうな? 普通に歩くよりも速く移動できるし、自分の足で走るよりは疲れも少なくて済む。
……ほら、これで自転車は移動手段としてとても良い物だって一つ証明できないか?」
「むぅ、それぐらい私だって分かるわよ」
言いながら、不貞腐れた顔をする。私が珍しく言い負かすと、霊夢は決まってこうなる。
私の頬は緩む。霊夢の眦が吊り上る。私は頬を引き締める。いつもの応酬。
「分かってもらえたようで何より。やる前から否定してちゃ人間、ロクな大人にならないからな」
そう言いながら私は、いまだに自転車のサドル辺りを撫でていた霊夢の手を取る。
私の突然の行動にきょとんとする霊夢はあまりに無防備で、思わず頬でも引っ張りたくなる。無論、しないけど。勇気と無謀は違うのだ。
「という訳で、霊夢。自転車、乗ってみようか?」
「は?」
「なに言ってんだ、こいつ?」という霊夢の表情は努めて無視して、私は笑みを浮かべて言い切る。
「何を驚いてるんだよ。いまさっき言ったばっかりだろう? やる前から否定してたらロクな大人にならないって」
「いや、それは聞いたけど」
「私は嫌だぜ? 霊夢がつまらん大人の仲間入りするなんて。そんなのは絶対に認めない。だから、お前がつまらない人間にならない為にも、私が教育を施してやる」
「意味が分かんないんだけど……」
「おやおや、指導者相手だってのに口の利き方がなってないな。自転車ついでにそっちも矯正してやろうかぁ?」
「……っ! ええい、離れろっ」
からかいが過ぎたか、霊夢の平手が私の顔を目掛けて振るわれるが、寸での所で避ける。長年の経験を活かした見切りの技術である。
避けた際にちらと霊夢を見れば、私に撫でられた手を後ろに庇っていた。自分でもどうかと思うくらいにいやらしい手つきをしていたので、この反応も当然か。愛い奴め。
「さっきから何なのよ、あんたは!」
「冗談だぜ、冗談。ほら、何もしない。何もしないから、ハンドルに手を置くんだ」
「……本当に?」
「本当だぜ」
「……ハンドルって?」
「この左右に出っ張ってる棒のこと。これでバランスを取るんだ。で、両手でそれを掴んだら、このサドルってのに跨がってみようか」
霊夢はまだこちらを警戒しながらも乗ること自体には拒否を示さず、珍しくおっかなびっくりとした様子でサドルの上に尻を乗せた。
乗る時は爪先で立つくらいがサドルの高さとしてちょうど良い、と自転車を快く譲ってくれた偏屈店主は言っていた。
……が、どうやら霊夢には低かったらしく、見れば踵が地面に着きそうである。サドルに関しては私に合わせているので仕方のないことだ。
そう、こいつの背が高いのが悪いのだ。決して私の背が低いとか足が短いとかそういうことではない。断じて、ない。
「けっ」
「ちょっと、蹴らないでよ!」
「うっさいぜ」
何となくムカついたので、まだ上手くバランスの取れない霊夢──は後が怖いので、霊夢の乗る自転車を蹴っておいた。
「どうだ? 意外と難しいもんだろう?」
「これくらい何ともないわよ」
「そりゃあ、両足着けてバランスを取るだけなら子どもだって出来るさ。問題はその後だ」
「漕いで動かすって事よね?」
「その通り。そのペダルってのに足を乗せて漕ぐことで自転車は推進力を得るんだ」
「足を地面から離さないと駄目なのね」
「当然、それが第一関門。ペダルを漕いで前に進むのが第二関門。そのままバランスを維持して走るのが最終関門だ。そして、その全てを為し得た暁には、お前も達成感ってやつを味わえるだろうぜ」
それもまた自転車の一つの良さだ。
誰の力も借りず、自分の手で自転車を初めて乗りこなした時の達成感は、初めて箒で空を飛んだ時と同じく忘れられない。
そうこうしている内に霊夢が覚悟を決めたのか、キッと前を見据える。
そのまま素早くペダルに足を乗せようとして──自転車はバランスを崩し、霊夢は慌てて足を地面に着け直した。
「むぅ……」
「流石の霊夢も一回じゃ無理か」
「うっさい。見てなさいよ、こんなのすぐに乗ってみせるんだから」
「おいおい、私の立つ瀬がないからやめてくれ」
おどけた風に私は言う。……本当に、切にそう思いながら。
しかし、長年霊夢を見続けてきた私には、こいつがこの程度の段階などものの数分で乗り越えてしまうだろうという確信があった。
実際、数回の失敗を挟んだ後、見事ペダルに足を乗せることに成功して、恐る恐る前に進もうとする霊夢が目の前にいた。
それを見て、安堵する私と歯軋りする私とが心の中に同居している。
「案外、難しい、じゃないの……わっ」
「とか言いながら余裕そうじゃないか」
表面上は凪のように穏やかに、しかし内心は大時化もいいところだ。
霊夢が着実に進歩しているのを見ると、腹の底がムカムカする。自転車ごと地面に倒れそうになると、何かを期待している私がいる。
それはここ数年ですくすくと立派に肥え太った醜い感情。さっきまであった霊夢に対する好感など、あっさりと負の方へと反転させてしまう。
こうやって──。
「……どうだ?」
「ん、意外と難しいけど、何となくコツは掴めたみたいだから。あとちょっとって感じかしらね」
「はっ、お前って奴は本当に……」
私なんか、軽々と飛び越えてくれるから。
相手は霊夢なのに──いや、霊夢だからこそこんな気持ちになるのか。
追い付こうと追い掛けても引き離され、ならばと転進すれば、いつの間にか追い付かれて……。
そんな身に染みる程に染み付いた私たちの日常が、また目の前で繰り返されている。
それだけのこと。こうなることなんて、簡単に予想できたじゃないか。
だというのに、どうして私はこんなにも悔しい気持ちでいっぱいなんだろう。
「ねぇ、魔理沙。ちょっと後ろで支えてくれない?」
「何だよ、コツは掴めたんじゃなかったのか?」
「あん……誰かが支えといてくれた方が早く乗れるかなって思っただけよ」
「そうか、違いない」
霊夢に言われて自転車の荷台部分を支える自分の何と滑稽なことか。丁稚にでもなったみたいだ。
そして、そんな卑屈な気持ちとは裏腹に、今みたいに霊夢に頼られて喜んでいる自分もいる。
本当に、我ながら馬鹿の極みで泣きたくなる。グローブ越しでもなお伝わる金属特有の冷たさが、尚更その想いに拍車を掛けてくれる。
「魔理沙、ちゃんと持ってくれてる?」
「持ってるから安心しろ」
「よっし、今度こそ乗りこなしてみせるんだから」
そう意気込む霊夢に問い掛けたい。
──私が今の霊夢と同じくらい乗りこなせるまでに、どれくらいの時間をかけたと思う、と。
どんな反応が返ってくるだろう。
一瞬でも真剣に考えてくれるか。それとも集中を切らすような真似をするなと切り捨てられるか。
まさかとは思うが、自分と同じくらいなんて答えはないだろう。言われたが最後、私は霊夢を自転車から引き摺り下ろさずにいられる自信がない。
「行くわよ、魔理沙」
「おう」
勘の良い霊夢なら気付いているのかもしれない。
私が普段よりも丈の長いスカートを履いていること。その下に隠れた膝や手袋の下に無数の擦り傷をこさえていること。
別に気付いてなくてもいいし、気付いて黙っているのなら、その気遣いをもっと普段の所に回して欲しいと思う。
ただ、私は霊夢のように何事もスマートにこなせるような人間ではないことだけは理解してもらいたい。
馴染みの香霖堂で懐かしい自転車を見付けたのが三日前。見付けてすぐに一人で練習したはいいが、傷を徒に増やすばかりだった。
ふらつきながらも自力で乗れるようになったのが一昨日。恥を偲んで香霖に指南を請うたりもした。
完全に乗りこなせたのが昨日。平坦な場所だけでなく、障害物のある土地や悪路も経験した。
そして今日この日、我が家から神社までを自分の力で駆け抜けた。
他人がどれくらいの早さで自転車に乗れるかなんて私は知らない。
私以外の乗り手は香霖くらいだが、あいつは私よりも時間が掛かったらしい。
それはつまり、今この幻想郷で自転車を一番早く乗りこなせたのは私だという証明でもある。
そう考えると、ほんの些末な事がとても誇らしい事のように思えて、だから霊夢にいの一番に伝えたかった。
憧れであり、目標であり、目の敵でもある霊夢に、私でも一番になれるのだと証明したかった。
「──沙?」
それが何だ、こいつは。私なんかよりもずっと早く上達していく。
まるきり兎と亀の関係だ。その癖、ずっと歩き続けていたはずの亀は、グータラ兎に追い付かれかけて冷や汗を流している。
昔話だと、ひた向きにゴールを目指す亀こそが勝利して報われるはずだろう。話が違うじゃないか。
亀が歩く速さで兎に追い付けないように、私も霊夢の上達する速さにはまるで敵わないという事なのか。
歳も、生まれも、体型も、日々を生きる為の糧さえも。私と霊夢の間に大した違いはないというのに、どうしてこうまで違うんだろう。
「──理沙!?」
……あぁ、グローブの下、かさぶたに覆われた傷口が痒む。じくじくじわじわと増していくそれが鬱陶しい。
苛立ちに任せて掻き毟れたらどれだけ良いだろう。きっとそれは私自身の妬み嫉みそのもので、赤い液体となって加減なく溢れ出す。
いっそ、かさぶたの下から湧き出すそれを、目の前の霊夢の巫女装束にでも擦り付けてやろうか。
霊夢の纏う神聖な衣装を劣等な自分の血が汚す。途端、想像することすら禁じられるような優越感に、心の内が満たされる思いがした。
しかし、この手を放せば霊夢はきっと私よりも先へ行ってしまう。
そう考えただけで、刹那的な愉悦なんてものは耐え難い恐怖によって容易く形成を逆転される。
凡百故の強者への拭え得ぬ恐怖が、図らずも私の両手に力を与えていた。
そうだ。この手を、自転車から放しさえしなければ、私が劣等感に苛まれることも、霊夢に負けることだって、ありはしないのだ──。
「──魔理沙っ!」
ハッ、と私の意識は霊夢の声に叩かれ目を覚ました。どうやら意識を飛ばしていたらしい。
身体だけは律儀に霊夢の補助をこなしていたようで、今は停止した霊夢の後ろで案山子よろしく突っ立っている。
視線を上げて、最近はお帰りの早い太陽からの逆光に目を眇めた。霊夢の顔が、よく見えない。
霊夢は今、どんな顔をしているんだ。呆けていた私に怒っているのか、それとも笑っているのか。
「どうしたの、ボーっとしちゃって」
「……あぁ、ごめん」
「もう、放してって言っても放してくれないし」
「そうだな。ごめん、ごめんな、霊夢……」
「ちょっと、魔理沙?」
網膜を焼くような山吹色に慣れた私の目に映ったのは、困惑顔の霊夢だった。
私が予想したそのどちらでもない。私の行動に戸惑い、どこか気遣うような色を乗せていた。
途端に罪悪感なんてものが湧いてくる。同時に、何を今更、という自分に対する嫌悪感も。
霊夢は私を信頼とまで言わなくても、信用くらいはしてくれていたはずだ。それは補助に私を頼ったことが証明してくれている。
そう、霊夢は少なからず私を信じてくれていた。自転車を乗りこなすには私の力が必要だと、そう思ってくれていたのだ。
それを、私は裏切った。醜い嫉妬に駆られ、霊夢からの信用に背を向けた。
あまつさえ、一瞬とはいえ、霊夢という存在を汚すことに心を躍らせた。
下衆、という言葉は今の私のような人間のことを指すのだろう。人様に顔見せなど許されない、汚れた心の持ち主のことを。
当然、私に霊夢と顔を合わせる資格などない。陽の光を嫌う生き物のように自然と顔は下を向いていた。身を縮めて下を向く私の姿は、傍から見れば許しを請う罪人のように映ることだろう。
しかし、それは間違いだ。許しを請おうにも、肝心の霊夢は私のしたこと、思ったことを知らない。そもそも私は許されたいなどとも思っていない。
ただ、全てを無かったことにしたかった。
自転車で神社まで来た事実も、二人で交わした言葉も、自分がしでかした行いも全て。
なぁなぁに、有耶無耶に、その日一日なんて無かったように過ごして、またいつも通りの明日を迎えたかった。
そうでもないと、私の心は容易く折れてしまいそうで……。
霊夢から目を逸らしてどれだけ経っただろうか。十秒か、一分か。さすがに十分は経ってないだろう。緊張が時間の感覚を鈍らせる。
目の前の霊夢からは戸惑う気配が顔を伏せていても伝わってくる。急に黙られたら、困惑するのも当然か。
暫く「あー」とか「うー」だのと言葉にならない言葉を上げていた霊夢。それが、ふっと深呼吸を一つ吐いたかと思うと、意を決したような雰囲気に変わった。
そして、視界の端で霊夢の腕が上がるのを見た。これを私は、殴られる前兆と察した。
何度も言うが、霊夢は勘の良い巫女だ。私の様子から何か後ろめたいことをしたのだと悟ったとしても何もおかしくはない。
粗相をしたのであれば罰を与える。里の子どもでも知っている当たり前のこと。
許されたいとは思わないが、罰を与えてくれるのであれば甘んじて受け入れる覚悟だ。
自罰なんてもっと惨めになるだけだし、霊夢以上の適任はこの場にいない。
頭をさらに深くし、目を閉じる。覚悟はできていた。
その二、三秒後、頭に感触を得た。
慣れた霊夢からの拳骨の衝撃──ではなく、全く正反対の柔らかな感触だった。
「へ……?」
霊夢が私の頭を撫でていた。それも子猫でも撫でるような優しさで、だ。
帽子越しだというのに、眠くたくなるような温かさが伝わってくる。夕陽を背にする霊夢が太陽そのものに思えた。
困惑を隠しきれない私と、自分でやっておきながら恥ずかしげな霊夢の瞳が交錯する。
そこに憤怒や糾弾の意思は無い。それを証明するように、霊夢はポンポンと私の頭を叩いたついでに言った。
「大丈夫だから」
「…………」
そして、何が、と私が問う前に霊夢はペダルを漕ぎ始めてしまった。
前進する自転車。流される私。ギシギシと部品たちの奏でる和音が、暮れなずむ博麗神社に響いていた。
私が意識を飛ばしていた僅かな間に、霊夢の動きはかなり洗練されていた。
もう、ほんのあと一押し。私がこの手を放しさえすれば、霊夢の運転技術は完成するだろう。
放せ、と叫ぶ私がいる。放すな、と囁く私もいる。
そして、そんな私の複雑な心中など気にせず脚の回転を速める霊夢がいた。
自転車が完全にスピードに乗った。支える私の身体が限界を告げる、その絶妙なタイミングで──。
「今っ!」
叱咤するような霊夢の言葉が、魔法みたく私の手から力を抜き去った。
「あ……」
手から放れた自転車と霊夢が、前を行く。
一瞬、横に大きくふらついたが、それだけ。すぐさまハンドルを返すことでバランスを取り戻した。
体勢を立て直した霊夢の姿は完璧だった。猫背の自分と違って霊夢の背はいつ見ても真っ直ぐで、自転車に乗る姿勢すら美しく思えてしまう。
ほんの数十分ほど前にはサドルに足を乗せることも出来なかったのに。今は雪混じりの玉砂利をタイヤで踏み締め鳴らしながら、軽快に自転車を使いこなしている。
これが、これこそが天才。そして、天才を見て唇を噛む私はどうしようもなく凡才。
自転車程度のことでも実感させられる才能の差。
それは私から気力を奪うには十分過ぎる力を持っていた。
自分の中から大事な何かが漏れていくのを感じる。
それはきっと私をこれまで突き動かしていた原動力で、これからの私を形作っていくはずだった何か。言葉に当て嵌めるならば、情熱や執着、克己心や反骨心といったものだろうか。
時に燻り、時に烈火の如く燃え盛っていたそれが、勝手に冷や水を浴びて灰混じりの汚水に変わって流れていく。
流れの果ては目元に。視界が情けなくも滲む。瞳だけが水で満たされた硝子容器に移されたみたいだ。
揺れる視界の中で霊夢の姿を捉える。
気ままに空を飛んでいる時とはまた違う、自転車を駆る霊夢は無邪気そのものな笑みを浮かべている。
それがとても尊くて、眩しいもののように思えて、また下を向きそうになる。でも、それはまた霊夢を裏切るみたいで気力をもって前を向いた。
……そうだ。何を下を向く必要があるというのか。
私は霊夢に自転車に乗る達成感というやつを教えてやりたかった。
自転車に乗って、境内の端から折り返してくる霊夢は嬉しそうだ。私の目論見は成功したのだ。
誇れよ、霧雨魔理沙。お前はあの博麗霊夢にものを教えたんだ。多少なりとも真っ当な人間に導いたかもしれないんだから。
だから、泣くな。下を向くな。いつもの笑みを浮かべて、あいつを迎え入れろ。
そう、何故かサドルから尻を浮かせて、代わりに両足を乗せるなんて曲芸じみた体勢でこちらに向かってくる霊夢を──。
「……って、おいっ!! なな、何てことしてんだお前はっ!!」
視覚から得た情報を脳が認識した瞬間、目元に浮いた水滴も、鬱屈とした感情も一気に吹き飛んだ。
あいつは一体、何をやっているんだ。自転車に乗れたのが嬉し過ぎて、最高にハイにでもなってしまったのか。だとしたら勧めた私もビックリの奇行ぶりだ。
ここは女の子なのに何てはしたないことをしてるんだとか、そんな事を言うべきなのか。
いや、まずは一般的に誰もが言うべき事を口にしよう。
「あぶ、危ないからっ! 足じゃなくて尻をサドルに乗せろ! 私はそんな危険な乗り方を教えた覚えはないぜっ!」
私が霊夢に教えたのはごく一般的な乗り方……だと思う。
私に教えた香霖が間違っていた可能性も無きにしも非ずだが、安定性を考えれば霊夢の今の乗り方が間違っていると考える方が正しいだろう。そもそもアレを一つの乗り方と言っていいのか分からない。
そして、私の注意など何のその。霊夢は変わらず楽しそうな笑顔を浮かべたまま、しかしサドルに尻を降ろす気配は無かった。
どころか遂にはハンドルから手まで放し、器用にもサドルの上で直立してみせた。ひょー、と気持ちよさげな声を霊夢が上げ、わーわー、と情けない声を私が上げる。
いよいよ曲芸じみてきたが自転車とは本来、乗り手の推進力によって支えられる物。前にも述べたが、それが無ければあっさり木偶と代すのだ。
勿論、如何に霊夢といえどサドルに足を乗せたままペダルを漕ぐなんて真似は出来ない。推進力を失った自転車は次第に勢いを失くして左右にフラフラと揺れ出す。その虚ろな挙動に、私も霊夢も翻弄される。
そして、まさに横転寸前のそのタイミングで。
「とうっ」
なんて軽い言葉と共に、霊夢は跳んだ。私目掛けて、跳んできた。
「ぐえっ」
こういう状況下でのうめき声は轢かれたカエルのそれに例えられることが多いが、私のものはもう少しお上品であったと弁解させて欲しい。
霊夢の奴がもう少し軽ければ──いや、今でも病的に軽いのだけど──「ぐえっ」ではなくて「くえっ」とかもっと可愛らしい悲鳴も上げられたかもしれない。
……いや、問題はそんな事ではない。問題は私の胸の上でえへえへにへにへ笑っているこいつである。何が可笑しいんだ、この馬鹿巫女め。
「ごほ、げほっ!」
「大丈夫?」
「……大丈夫な訳、あるか。無茶な乗り方しやがって。壊れてたらどうしてくれる」
「それは自転車? それともあんた?」
「両方」
「あんたが怪我でもしてるんなら治療の一つでもしてあげるわよ。自転車の方は……」
つい、と間近にあった霊夢の視線が横を向く。釣られて私も視線をそちらに移す。
その先にはカラカラと寂しげに車輪を回す愛用の自転車が。前籠が歪んでいるようにみえなくもない。
「霖之助さんに診てもらいましょう?」
「その前に私に謝罪しやがれ。あと、いい加減に退け」
ごめんごめん、とヘリウム並みに軽い言葉を聞き流しながら上に乗った霊夢を退かす。
立ち上がり、身体に付いた埃やら雪やらを払ってから霊夢に問い掛ける。
「で、何であんな危ない真似をした? 一歩間違えばお前でも怪我したかもしれないんだぞ」
「んー、嬉しかったからって理由じゃダメ?」
「気持ちは分からんでもないが、だからってやって良いことと悪いことがあるだろ」
「うん、ごめんなさい」
「……お前に素直に謝られると違和感しかないな」
そもそも、本当に謝るべきは私の方だし。
「でも、あんたの言ってた自転車の良さとか達成感ってやつ? 何となく分かった気がする。こういうのも、たまにはいいものね」
「そっか……」
突然の奇行や言動に振り回されはしたものの、やはり私の思惑は達成されていたらしい。
つまりそれは、私はもうお役後免という事。後はいつも通り、家に帰って枕を泣き濡らす作業に耽るだけだ。もっと別の目的があった気もするけれど、最早どうでもいい。
「でも……」
しかし、こういった時のお約束として、せめて負け惜しみの一つくらいは置いていこう。
「やるじゃないか」とか「この程度で勝ったと思うなよ」とか、そんな言葉を。いつも通り飄々と、いけしゃあしゃあと言ってのけよう。
それこそがきっと──博麗霊夢の思う霧雨魔理沙らしさだろうから。
「私なんてまだまだね」
「……何だって?」
だというのに、霊夢は言う。まだ自分には上があると言う。頬が引き攣るのを感じた。
「お前は、十分乗れてるじゃないか。それ以上、何を鍛える必要があるって言うんだ?」
スピードか、安定性か、脚の回転数か。霊夢が必要としているのは何だ。
そしてそれが揃った時、またこいつは、私なんかじゃ届かない領域まで行くつもりなのだろうか。
そんな私の顔に不安を読み取った霊夢は、呆れたように口を開いた。
「あんたがそれを言う? 私にできないことをやってみせてる、あんたが」
今度は頭の中に疑問符が湧いた。霊夢にできないようなことを私がやってみせている、そんな魔法みたいなことがあると言うのか。
あまりに信じられなくて、つい反論を口にしてしまう。
「世辞はやめろよ。お前は私なんかよりずっと上手だ」
「それはそうかもね」
「……お前の方が、私よりもずっと早く乗れたし」
「あれ、そうなの? じゃあ、私の方が上手なのは間違いないかもね」
これはケンカを売られていると取っていいだろう。
「なに構えてんのよ。ケンカで私に勝てないのは分かってるでしょうが」
それでも魔法使いには受けなければいけない戦いがあるのだ。
「はぁ、話がズレてる。鍛えるとか、そういう事じゃないの。謂わば感性の問題ってやつ」
「かんせい?」
「そ、感性」
私が構えを解いて会話から該当する言葉を探している中、霊夢は横倒しになった自転車の方へとてっくらてっくら浅い雪を踏みしめ歩いていた。
「さっきも言ったけど、あんたが教えたがってた達成感については何となくだけど理解したつもり。思ってた以上に楽しめたしね」
「はぁ? それはさっき聞いた……」
「黙って聞きなさい。……でもね、私だけじゃその程度なのよ」
言っている事が分からない。察しの悪い私に呆れるでもなく、霊夢は淡々とした動きで自転車を起こし、続ける。
「あんたがどう思うかはこの際置いて言うけどね、何でもできるって、それはそれで不便なのよ。
私の身体はとにかく合理的にできてるの。何をしようと、何時だって最速最短最高の結果を叩き出してくれる。
あんたはそれを羨ましいと思う? 私はむしろ誰かに譲りたいくらいよ。思い返してみれば、何かに打ち込んだっていう記憶が無いもの。
それって人としてどうなのかなってたまに思うの。夢中になれるだけの暇も得られず、そこに楽しさも見出だせない。私は何てつまらない人間なんだろう、って」
それに比べて、と自転車に向いていた霊夢の身体が、私と対になる。
「あんたは何時だって楽しそう。魔法の研究なんて一筋縄じゃいかないことも挫けずに、それでいて生き生きとしてみせている。
自転車だってそうなんでしょう? 乗るのに時間は掛かったかもしれない。でもその時間の分、これの楽しさってやつを味わって知ったはず。
私があんたに敵わないのは、そんな所。言葉にすると難しいわね。……『人生を楽しもうとする力』とでもしましょうか。それが、あんたの強み。私に無くて、あんたに有る力」
言われて、自分の中で反芻する。人生を楽しもうとする力──確かに、それに関しては自負する所はある。
人生は楽しんでこそだ。楽しくない人生に価値なんて見出せないし、楽しくないなら楽しくなるように努力すべきだと思っている。
現に私はそうして生きてきた。それを実践してきた今までの人生は辛いことも多いが、それなり以上に楽しいものだ。
そんな自分の中で当たり前に思っていた事を、霊夢の奴がその、何だ、羨んでいるとは露とも思わなかった。喜んでいいのやら、悪いのやら。
戸惑う私に、霊夢がイタズラっぽく言う。
「実を言うとね、魔理沙がこれで走り回ってる姿はもう見てるの」
「は、はぁ!? いつ!?」
「あんたがえっちらおっちら階段登り始める少し前。里からの買い物帰りに飛んでたら、見慣れた奴が見慣れない物に乗ってるんだものねぇ」
自慢じゃないが、私は全く気付けなかった。
「前ばかり見てるから気付かないのよ」
「前を見てなきゃ危ないだろ」
「上から来たらどうするの」
「何が」
「私が」
「襲うのか?」
「襲わないけど」
「なら問題ないだろ」
「馬鹿ね」
微笑は崩さず、霊夢は私を貶す。
「でも、あんたのそういう馬鹿っぽい所が羨ましくもあるのよね、私は」
「本当に羨ましく思ってるのか? からかってるんじゃないのか?」
「本当だってば。私、魔理沙のそういう所は好きだもん」
「……ふん」
確証の無い言葉だが、悪い気はしなかった。
「私はね、何事もじっくりと楽しみを味わいたいって思ってるの。できるなら、あんたみたいに失敗続きでもいいからさ」
「人を駄目人間みたいに言うんじゃないぜ」
「だからね、そんな駄目人間の魔理沙に教えて欲しいの」
「おいこら、何だ言ってみろ」
「あんたの知ってる自転車の良さ、楽しさ──それを私に教えて欲しい」
顔の前で手を組むでも、瞳に涙を溜めるでもなく、ごく自然体で霊夢は私に乞うてきた。
それに対して私は……戸惑っていた。
ついさっきまで偉そうに自転車の乗り方について講釈を垂れていた癖に、技術とは別の部分を教えることには臆してしまう。今の私なんかに教えられるのか、そんな疑念が付き纏う。
でも、霊夢は断言する。
「魔理沙ならできる」
「……何でお前の方が自信満々なんだ」
「勘、って言えばそれまでなんだけど……何度も言うけど、私はあんたの、私が持ち得ないその力が羨ましい。その力には可能性すら感じてる。
つまり、私はあんたに期待してるの! あんたなら、私に新しい楽しみを教えてくれるって!」
だからと、霊夢が今まで見せたこともない表情で告げてくる。
「私の期待に応えてよ、魔理沙」
あぁ、こんな台詞を言われたなら──。
「……その期待に応えなきゃ、霧雨魔理沙の名が廃るわな」
私は思い違いをしていた。悩んでいたのは私だけじゃなかった。
霊夢だって悩みを抱えていた。私のようにコンプレックスに塗れたようなものじゃない。むしろ逆ベクトルのものを。
自分の才能が凄過ぎて人生に味気がない、なんて私からすれば贅沢な悩みだが、霊夢にとっては立派な悩み。
霊夢はさっさか高みへ行ってしまって、私は目の前の道を見て歩いているだけだった。
前だけじゃなく、私は上も見るべきだったんだ。顔を上げて、少し先を見れば気付けたはずなんだ。
霊夢がずっと、私を待っていたことに。
私は霊夢が言うように馬鹿だから、それにも気付けないで諦めて、勝手に卑屈になっていた。霊夢も呆れて、私の事を見限ろうとしたかもしれない。
でも、いま気付けたのは決して悪いことじゃない。手遅れなんかじゃないんだ、絶対に。
私は歩みこそ止めない。けど、これからは少し上を向いて歩こうと思う。
歩いて、歩いて、その先で待つそいつの隣に立って、また歩き始めるんだ。今度は、二人で。
この世には、兎と亀が並んで一緒にゴールする話があったっていいと思うんだ。
「いいだろう、霊夢。こんな狭っ苦しい神社なんて飛び出してさ、お前に私の楽しみってやつを教えてやるぜ」
「狭っ苦しいは余計よ」
サドルに跨り、その後ろを叩く。冷たい金属のそれに、ぶつくさ文句を垂れながら、けれど嬉しそうな顔の霊夢が横向きに座る。
霊夢の腕が私の腰に巻き付くのを確認して、ペダルを漕ぎ始める。軌道は鳥居と素敵な賽銭箱とを直線で結ぶ参道に乗るように。
それと同時、私は一つの魔法を掛ける。
──さぁ木偶よ、仕事の時間だ。
言霊に乗せて魔力を注ぐ。脚は止めない。代わりにギアを一段下げる。
五から四、ペダルが少し軽くなった。
──お前は今から馬となれ。夢想家の姫を遠く攫う、雄壮な運び手に。
玉砂利から参道に乗り換える。神様の通り道をカタパルトに見立て、走る。
ちんたら道の真ん中でも歩いている神様がいれば轢き倒してやるのに、ここは年中不在らしい。
舌打ちを一つ飛ばしてギアは四から三、脚はさらに軽くなる。
──駄馬から天馬へと身を変えろ。想いを乗せて、駆けろ、羽ばたけ。
加速、加速、まだ速さが足りない。だから加速、加速、加速、より加速──!
腰に回された腕に力が籠る。それを感じながらもギアは三から二、速さと共に回転が増していく。
──鉄屑のお前に一時の生命を預ける。
参道は残りあと僅か。目と鼻の先には鳥居があって、その先にはあの忌まわしき階段が大口を開けて手招きしている。
誰が食われてなどやるものか。私は、いや、私たちはその向こうに行くんだ。
ギアは遂に二から一へ。もはやペダルを踏む感覚も久しく感じる。
カウントダウンのようなギアの動きに連動するように、あと一節、それで魔法は完成する。
さぁ、声を高らかに唱えよう。即ち──、
──即ち、恋色の魔女の心臓を。
瞬間、私と自転車が繋がり、私と霊夢の身体は宙へと待った。
「……っ」
背筋の冷える感覚と一瞬気の遠くなるような倦怠感。
これは魔法を発現させた副作用。今では味わい慣れた違和。つまりは……成功である。
眼下には茜色に染まり始めた幻想郷の風景。その中で、雪のグラデーションを纏った石段が宙の私たちを見上げていた。
私の目には、獲物を逃がして悔しげな怪物の姿に映った。
ザマアミロ、と口の中だけで呟いておいた。
「ふ、わぁ……」
後ろから霊夢の感嘆とした声が聞こえる。是非とも振り向いてご尊顔を拝みたいものだが、万が一にも見とれて脚を止めた結果、墜落なんて間抜けは御免なので泣く泣く前を向く。
何たって、私たちは空を飛んでいるのだから。それも生身じゃなく、自転車を介してだ。
落ちないようにせっせと脚を動かす私に、霊夢が声を掛けてくる。心なしか、感心したような声音で。
「へえぇ、あんたってこんな真似もできたんだぁ」
「そりゃあ日頃っから箒を乗りこなしてるんだから、できない方がおかしいって話だろ」
「壊したり盗んだりばっかりが能じゃなかったって訳ねぇ」
緊張が解けたのか、それと同時に霊夢の腕が腰から離れた。途端、お腹回りが急に寒くなった気がする。
まだ弥生を迎えたばかりの時分、おまけに今は空の上。肌寒いのも当たり前だが、それにしても寒暖差が激しくて、このままではお腹を下してしまいそうだ。
もう一度霊夢にお願いすれば済む話だが、わざわざ口にするのは恥ずかしい。それを指摘でもされようものなら尚更だ。
もどかしさに口を揺らすしかできない私のことなど露知らず、霊夢の方はといえばご機嫌だ。
「んー、自分で飛ばなくて済むのがこんなに楽だとはねぇ。……ねね、魔理沙ぁ」
「毎日はやんないぜ。私が疲れるばっかりじゃないか」
「ふん、ケチな奴ね」
その台詞、霊夢にだけは言われたくない。
「そんな事より、お前は感じないかよ」
「ん、何を?」
「風だ」
「風? さっきから嫌ってほど浴びてるけど……」
「それだ」
後ろできっと眉を顰めているだろう霊夢を想像しながら、私なりの楽しみを告げた。
「私はさ、霊夢。歩いている時とも、走っている時とも、箒で飛んでいる時ともまた違う。自転車を走らせてる時にだけ浴びる風、それを感じる瞬間が好きなんだ」
そして、自転車で風を切り裂いて回る自分も。
笑われるかな、なんて不安が心中で顔を覗かせる。
霊夢は、笑わない。一つゆっくりと息を吐いた後は、平素と変わらぬ口調でいつもの言葉。
「それはまた、けったいな趣味を持ったもんね。私には普段と同じに感じられるけど」
「その違いを感じるのが醍醐味なんだ。私は誰かさん曰く、楽しむことに掛けては天才だそうだからな。違いを分かり、嗜むんだぜ」
「ま、生意気。誰も天才とまでは言ってないのにねぇ」
「でも、気持ちいいもんだろ?」
「……そうね。これはこれで乙なのかも。楽して感じる風って気持ちいいものだったんだ」
答えは何とも霊夢らしく、それはそれで良いんだろう。
かくいう私も空を飛びながらの自転車は初めてで、いつもとは逆に冷たい風に頬を斬られそうだと感じていた。
それでも霊夢の手前、何となく強がりたくはなる。
「けど、ちょっと肌寒いかも」
「そうか? 運動してる私には気持ちいい風なんだがな」
「うぅ、ズルい。……あんた、その熱ちょっと寄越しなさい!」
「うわ、無茶なこと言うんじゃないぜっ」
そんな事を言ったら、霊夢が背中にへばり付いてきた。でっかいカイロを背負ったみたいで非常に温かい。
嫌がるフリだけはして、私はその温かみを甘受することにした。
じゃれ合う私たちを窘めるように、西の空へと沈み行く夕の陽が顔を舐めた。
片手で顔を覆い、隙間からそれを見送る。水平線に身を浸しながら、それでもなお燃え続ける夕焼けは余りに美しく、それでいてどうしようもなく終わりに満ちていた。
神が没して世界が崩壊する、そんな光景を目の当たりにしたような気分だった。
「綺麗だな……」
「そうね……」
そう呟き合って、不意に涙しそうになる。
あの夕陽が沈んだ時、それがこの二人の時間の終わりだ。誰が決めたでもない、口にしたでもない。でも、きっとそれが刻限なのだ。
魔法は、いつか解ける。それがどの世界にも通ずる「お約束」だから。
それを察してしまったから、私はあえておどけた風に霊夢に問い掛けた。
「ところでお姫様、行き先はどちらまで? 今だけ何処へでも送ってやるぜ?」
「それなら……向こうまで」
「え?」
「あの地平線の、向こうまで」
そして、霊夢の答えにあっさりと道化の仮面は剥がれ落ちた。
「地平線の向こうって……とんでもなく遠いじゃないか」
「かもね」
「かもねじゃなくて、絶対に遠いぞ」
「絶対に遠いでしょうね」
「それでも行きたいのか」
「行きたいわね」
「どうして?」
「そしたらさ、ずっとこうしていられるじゃない?」
この時、私は自分の頬を水滴が伝うのを感じた。本当に無意識なことで、落ちたそれを見付けるのはこの私を以てしても不可能だった。
少なくとも、あの地平線の向こう側を拝むよりは困難なことだろう。
「太陽を追うのか。完全に沈みきる前に」
「そう。終わらないイタチごっこの始まり」
「壮大なイタチごっこがあったもんだ。きっと結界なんかも越えちゃうぜ?」
「そしたら二人して外の世界か」
「それでも追うか? それとも外で一緒に住むか?」
「冗談」
「冗談だ」
「ふっ、ふふふ……」
「はっ、ははは……」
二人して笑い合う。
自転車に乗る私たちは誰よりも自由だ。
誰にも何にも邪魔をされない私たちは誰よりも無敵だ。
そんな私たちに、この箱庭の世界は狭過ぎる。
ならば飛び出してしまおう。
いっそ誰の目も届かぬ場所に。
そして、より広い世界で新しい風を身体一杯に感じるんだ。
二人でなら、きっとできる。
私たちは飛んでいく。
風を感じながら。
最果ての地平線の彼方へと──。
いや、実際は形ないものを切れるはずもなく、単なる比喩表現ではあるけれど。
それでも、この小さな身体が刃物にでもなって辻斬りして回るような気分は何とも言えず爽快で、好きだった。
シャーッ、という車輪の回転音が周囲に、私の耳に響いている。
ゴム製のタイヤは整備なんて言葉とは無縁の悪路を苦もなく駆け抜ける。小石なんて平気の平左だ。
とはいえ、こいつは乗り手がいなければ立つことすらままならない木偶なので、私がしっかりと乗った上で手綱を握ってやらなくてはいけない。
そう、こいつが地上を走れるのは全ては私のお陰であり、私の実力である。
空を飛ぶ時とこいつで地上を走る時では、どうにも空気を切る感じに違いを覚える。
かといって、それがもどかしいとかそういう訳ではない。これはこれで乙なものだと思っている。
例えるなら、空を飛ぶ時の感じが日本刀で紙を裂くようなもので、地上をこいつで走る時の感じはナイフでリンゴを剥くようなものだ。
自分でもよく分からん例えだとは思うが、こういうのはフィーリングだ。考えるな、感じろ。
思考を他所にやっていると身体に当たる寒風が弱まっていることに気付く。
少し気を抜くとこれだ。こいつは木偶の癖に乗り手の怠惰を酷く嫌う。生意気な奴めと思いもするし、それでこそ自分が乗るに値するとも思う。
足に力を込める。もっと速く、冷たい風を切り捨てるんだと足の回転を早くする。
応えるように車輪が、チェーンが、悲鳴を上げる。しかし、回りの寒々しい風景を置き去りにし、口からは白い吐息を漏らしながら、私はより強い風を感じていた。
ザマアミロ、と何処の誰とも知れない第三者を目掛けて心中で罵倒した。
悪路を抜けると、今まで走ってきた道よりは多少整った道に出て、ほんの二、三分も走れば見慣れた石段が見えてきた。
車輪を横滑りさせながら、その下で華麗に止まる。自分の技術にほんの少し気分を良くして、私は数十分ぶりに地に足を着けた。
目の前の雪に塗れた石段を見上げると、無駄に長く伸びたその先で、これまた見慣れた鳥居が私を見下ろしている。
いつもはその真上を飛んでいるのに、まさか普通にその下を潜る日が来るとは思いもしなかった。
それというのも、この木偶が階段を登るのに実に適さないからである。平地では威勢が良い癖に、登りとなると階段に限らず無能を晒すのだから勘弁して欲しい。
ならば、ここに捨て置いて別の物に乗り換えればいい、と普段の私なら迷わずそちらの脳内意見を採用するのだが、今日ばかりはそうもいかない。
何故なら、この石段の先に住む人物にこいつを紹介するのが本日の目的だからだ。
キツいだとか、面倒だとか、泣き言は言ってられない。
泣き言の一言でも言う暇があるなら──。
「こいつを担いで登れ、って話だよなぁ……!」
そうして、私──霧雨魔理沙の孤独な戦いが始まった。
# # #
「──で、わざわざ私に自慢する為にこんな物を担いで登ってきたって?」
「お、おう……」
「……馬鹿じゃないの?」
「お、お前……! それが、苦労して、ここまで持ってきた奴に、掛ける言葉かぁ? もっとこう、『頑張ったわね、魔理沙』みたいな、労いの言葉はないのかよ……」
「生憎と品切れみたいね」
「ち、ちくしょおっ……」
もこもこと冬服を着込んだ巫女の無慈悲な言葉に、ぜいぜいと息を切らしていた私は崩れ落ちた。
石段を登る決意をして、木偶を担いでいく為に自身に身体強化の魔法を掛けてまで挑んだ此度の戦いは、私を疲弊させるには十分過ぎた。
まず、担いだ物が重過ぎた。いくら魔法を掛けたって元の私の力はか弱い少女のそれなのだ。重い物を持ち続ければ、筋肉が酷使された上に乳酸が溜まって、疲れるのは当然のこと。
そして石段だ。まともに登ったことなんてなかったから知らなかったが、無駄に段数が多い。おまけに雪まで積もってるもんだから足元に余計な気まで回さなければならなくて、それが疲れに拍車を掛けた。
登っても登ってもなかなか終わりが見えず、自分は狸か狐かに化かされているじゃないかと胡乱になる頭の中で考えたりもした。
もうやめろ、私は頑張った、だからこんなお荷物捨てちまえ、と自分の弱い心が甘く語り掛けてきたりもした。
それでも、見せたい奴がいるんだと己を叱咤し、たっぷり半刻近く掛けて登り切ったのだ。もう日の入りも間近だというのに。
それを、この巫女──博麗霊夢は、「馬鹿じゃないの?」の一言で切り捨てたのだ。
「あんまりだろ、こんなの……。私は、お前に見せる為に頑張ったのに……」
膝を雪と玉砂利の冷たさに曝すのも構わず、私は理不尽を嘆いた。霊夢は鬱陶しそうな顔を隠しもしない。
「あー、その、それならわざわざ持って来なくても、私をあんたの家に呼べば良かったんじゃない」
「え? ……呼べば来てくれたのか?」
「まぁ、顔を覗かせるくらいはしてあげたわよ」
そして、その言葉を聞いて私は膝どころか両手まで着いて絶望を自らの身体で表現した。まさか、その手が使えるとは私は露とも思っていなかったのだ。
いやだって、相手はあの霊夢だ。こいつの不動ぶりというかグータラぶりを間近で見ていれば、呼べば来てくれるなんて安易な手段が通じるなんて思わないだろう。
霊夢の性格から考えてもドタキャンの一つや二つしたって何もおかしくはない。
そう考えれば、わざわざ足を運んできた私の努力は決して無駄ではなかったと言える訳で──。
「しないわよ」
「へぁ! なな、何がだ?」
「いや、あんたが失礼なこと考えてそうだったから、とりあえず否定してみたんだけど……今の反応じゃ、読み間違えではなさそうね?」
恐ろしい。相変わらずの勘もそうだが、向けてくる笑顔がもっと恐ろしい。
それは間違いなく仮面だ。その下には静かだが、確かな怒気が湛えてあるに違いない。
私にそれを鎮める術はない。だから、薄氷のようなそれを不用意に割らない為にも、多少強引にでも話題を反らすとしよう。
触らぬ巫女に祟りなし。霊夢の怒りを買うのは、龍神の逆鱗に触れるに等しいのだ。
「あー、うん。それで今日の用件なんだが……」
「まぁ、白々しい」
「やかましいぜ。で、用件なんだが、霊夢にこいつを自慢しに来た」
「それはさっき聞いた」
「ちなみに、私は乗れるぜ」
「はいはい」
「むっ。それじゃあ、霊夢にはこれが何だか分かるかな?」
「知らない」
即答だった。思考することを放棄したらしい。なまじ力があるだけに、霊夢が人間を辞めないか不安になる私である。
「ちっとは考える素振りくらいしても……いや、お前にそんなことを期待する方が間違ってたな。いいか、霊夢。こいつは自転車という乗り物だ」
「……あぁ、何か聞いたことあるかも」
名前くらいは知っていたのか、私が運んで、今は立て掛けてある自転車をペタペタと霊夢は触っている。
「実物を見るのは初めてか?」
「そうね。魔理沙はどうだったの?」
「私は親父が店で扱っているのを見たことがあったぜ」
「ふーん。って事は、これは魔理沙のお父さんからの贈り物とか?」
「……おいおい、気持ち悪いこと言ってくれるなよ。こいつは香霖から買ったんだよ」
「ツケで?」
「ツケで」
「あーあ、霖之助さんったら可哀想。それと魔理沙のお父さんも可哀想」
自分こそ香霖の奴にツケを貯めている癖にかわいそー、かわいそー、と霊夢は他人事のように言う。お前が言うな、という言葉がこれ程似合う奴もそうはいない。
あと香霖はともかく、親父はどうでもいいだろう。
「あんたがお父さんに贈り物貰ったー、ってそういう自慢に来たのかと思ったじゃない」
「アレが私に贈り物なんかする訳ないだろ」
「そんなことないと思うんだけどなー」
「そんなことあるんだよ」
勘の良い霊夢の言う事だから、つい期待──じゃない。あり得るのかも、とか考えてしまう。
犬猫のように頭を振って余計な思考を取り払う。話題は私じゃなくて、私の持ってきた自転車なんだから。
「で、どうよ」
「どうよって言われてもねぇ。とりあえず、空を飛べる私やあんたみたいなのには必要ないんじゃない?」
「あぁ、言うと思ったぜ」
霊夢の答えは、割りと予想していたものだった。
「──でもな、霊夢。私は自転車には空を飛ぶのとはまた違う良さがあると思ってるんだ」
私の言葉に、霊夢は紫でも見るような表情を浮かべた。
「違う良さねぇ。地面を走るってことは空を飛ぶほど自由でもないでしょうし、何よりこれって漕がないと動かないんでしょう? わざわざ疲れてまで得る良さなんてあるの?」
「あー、うん。実にお前らしい意見だし、間違っちゃいないな」
流石は努力を嫌い、地に足を着けずに日々を生きる巫女の言葉である。何というか、軽い癖に重味があるという矛盾した表現が当て嵌まる。
しかし、その言葉にいちいち怯んでいては霊夢の相手など勤まらない。自転車を必要とする人間がいるように、巫女の考えを正してやる人間も世の中には必要なのだから。
「でもさ、誰だって空を飛べる訳じゃない。大多数の人間は空を飛ぶ便利さなんて知らない。それを知っている私や霊夢の方が、むしろ少数派なんだ。
そう考えると、空を飛ぶ便利さを知らない多数派にとって自転車っていう物は、どれだけ革新的な物だったろうな? 普通に歩くよりも速く移動できるし、自分の足で走るよりは疲れも少なくて済む。
……ほら、これで自転車は移動手段としてとても良い物だって一つ証明できないか?」
「むぅ、それぐらい私だって分かるわよ」
言いながら、不貞腐れた顔をする。私が珍しく言い負かすと、霊夢は決まってこうなる。
私の頬は緩む。霊夢の眦が吊り上る。私は頬を引き締める。いつもの応酬。
「分かってもらえたようで何より。やる前から否定してちゃ人間、ロクな大人にならないからな」
そう言いながら私は、いまだに自転車のサドル辺りを撫でていた霊夢の手を取る。
私の突然の行動にきょとんとする霊夢はあまりに無防備で、思わず頬でも引っ張りたくなる。無論、しないけど。勇気と無謀は違うのだ。
「という訳で、霊夢。自転車、乗ってみようか?」
「は?」
「なに言ってんだ、こいつ?」という霊夢の表情は努めて無視して、私は笑みを浮かべて言い切る。
「何を驚いてるんだよ。いまさっき言ったばっかりだろう? やる前から否定してたらロクな大人にならないって」
「いや、それは聞いたけど」
「私は嫌だぜ? 霊夢がつまらん大人の仲間入りするなんて。そんなのは絶対に認めない。だから、お前がつまらない人間にならない為にも、私が教育を施してやる」
「意味が分かんないんだけど……」
「おやおや、指導者相手だってのに口の利き方がなってないな。自転車ついでにそっちも矯正してやろうかぁ?」
「……っ! ええい、離れろっ」
からかいが過ぎたか、霊夢の平手が私の顔を目掛けて振るわれるが、寸での所で避ける。長年の経験を活かした見切りの技術である。
避けた際にちらと霊夢を見れば、私に撫でられた手を後ろに庇っていた。自分でもどうかと思うくらいにいやらしい手つきをしていたので、この反応も当然か。愛い奴め。
「さっきから何なのよ、あんたは!」
「冗談だぜ、冗談。ほら、何もしない。何もしないから、ハンドルに手を置くんだ」
「……本当に?」
「本当だぜ」
「……ハンドルって?」
「この左右に出っ張ってる棒のこと。これでバランスを取るんだ。で、両手でそれを掴んだら、このサドルってのに跨がってみようか」
霊夢はまだこちらを警戒しながらも乗ること自体には拒否を示さず、珍しくおっかなびっくりとした様子でサドルの上に尻を乗せた。
乗る時は爪先で立つくらいがサドルの高さとしてちょうど良い、と自転車を快く譲ってくれた偏屈店主は言っていた。
……が、どうやら霊夢には低かったらしく、見れば踵が地面に着きそうである。サドルに関しては私に合わせているので仕方のないことだ。
そう、こいつの背が高いのが悪いのだ。決して私の背が低いとか足が短いとかそういうことではない。断じて、ない。
「けっ」
「ちょっと、蹴らないでよ!」
「うっさいぜ」
何となくムカついたので、まだ上手くバランスの取れない霊夢──は後が怖いので、霊夢の乗る自転車を蹴っておいた。
「どうだ? 意外と難しいもんだろう?」
「これくらい何ともないわよ」
「そりゃあ、両足着けてバランスを取るだけなら子どもだって出来るさ。問題はその後だ」
「漕いで動かすって事よね?」
「その通り。そのペダルってのに足を乗せて漕ぐことで自転車は推進力を得るんだ」
「足を地面から離さないと駄目なのね」
「当然、それが第一関門。ペダルを漕いで前に進むのが第二関門。そのままバランスを維持して走るのが最終関門だ。そして、その全てを為し得た暁には、お前も達成感ってやつを味わえるだろうぜ」
それもまた自転車の一つの良さだ。
誰の力も借りず、自分の手で自転車を初めて乗りこなした時の達成感は、初めて箒で空を飛んだ時と同じく忘れられない。
そうこうしている内に霊夢が覚悟を決めたのか、キッと前を見据える。
そのまま素早くペダルに足を乗せようとして──自転車はバランスを崩し、霊夢は慌てて足を地面に着け直した。
「むぅ……」
「流石の霊夢も一回じゃ無理か」
「うっさい。見てなさいよ、こんなのすぐに乗ってみせるんだから」
「おいおい、私の立つ瀬がないからやめてくれ」
おどけた風に私は言う。……本当に、切にそう思いながら。
しかし、長年霊夢を見続けてきた私には、こいつがこの程度の段階などものの数分で乗り越えてしまうだろうという確信があった。
実際、数回の失敗を挟んだ後、見事ペダルに足を乗せることに成功して、恐る恐る前に進もうとする霊夢が目の前にいた。
それを見て、安堵する私と歯軋りする私とが心の中に同居している。
「案外、難しい、じゃないの……わっ」
「とか言いながら余裕そうじゃないか」
表面上は凪のように穏やかに、しかし内心は大時化もいいところだ。
霊夢が着実に進歩しているのを見ると、腹の底がムカムカする。自転車ごと地面に倒れそうになると、何かを期待している私がいる。
それはここ数年ですくすくと立派に肥え太った醜い感情。さっきまであった霊夢に対する好感など、あっさりと負の方へと反転させてしまう。
こうやって──。
「……どうだ?」
「ん、意外と難しいけど、何となくコツは掴めたみたいだから。あとちょっとって感じかしらね」
「はっ、お前って奴は本当に……」
私なんか、軽々と飛び越えてくれるから。
相手は霊夢なのに──いや、霊夢だからこそこんな気持ちになるのか。
追い付こうと追い掛けても引き離され、ならばと転進すれば、いつの間にか追い付かれて……。
そんな身に染みる程に染み付いた私たちの日常が、また目の前で繰り返されている。
それだけのこと。こうなることなんて、簡単に予想できたじゃないか。
だというのに、どうして私はこんなにも悔しい気持ちでいっぱいなんだろう。
「ねぇ、魔理沙。ちょっと後ろで支えてくれない?」
「何だよ、コツは掴めたんじゃなかったのか?」
「あん……誰かが支えといてくれた方が早く乗れるかなって思っただけよ」
「そうか、違いない」
霊夢に言われて自転車の荷台部分を支える自分の何と滑稽なことか。丁稚にでもなったみたいだ。
そして、そんな卑屈な気持ちとは裏腹に、今みたいに霊夢に頼られて喜んでいる自分もいる。
本当に、我ながら馬鹿の極みで泣きたくなる。グローブ越しでもなお伝わる金属特有の冷たさが、尚更その想いに拍車を掛けてくれる。
「魔理沙、ちゃんと持ってくれてる?」
「持ってるから安心しろ」
「よっし、今度こそ乗りこなしてみせるんだから」
そう意気込む霊夢に問い掛けたい。
──私が今の霊夢と同じくらい乗りこなせるまでに、どれくらいの時間をかけたと思う、と。
どんな反応が返ってくるだろう。
一瞬でも真剣に考えてくれるか。それとも集中を切らすような真似をするなと切り捨てられるか。
まさかとは思うが、自分と同じくらいなんて答えはないだろう。言われたが最後、私は霊夢を自転車から引き摺り下ろさずにいられる自信がない。
「行くわよ、魔理沙」
「おう」
勘の良い霊夢なら気付いているのかもしれない。
私が普段よりも丈の長いスカートを履いていること。その下に隠れた膝や手袋の下に無数の擦り傷をこさえていること。
別に気付いてなくてもいいし、気付いて黙っているのなら、その気遣いをもっと普段の所に回して欲しいと思う。
ただ、私は霊夢のように何事もスマートにこなせるような人間ではないことだけは理解してもらいたい。
馴染みの香霖堂で懐かしい自転車を見付けたのが三日前。見付けてすぐに一人で練習したはいいが、傷を徒に増やすばかりだった。
ふらつきながらも自力で乗れるようになったのが一昨日。恥を偲んで香霖に指南を請うたりもした。
完全に乗りこなせたのが昨日。平坦な場所だけでなく、障害物のある土地や悪路も経験した。
そして今日この日、我が家から神社までを自分の力で駆け抜けた。
他人がどれくらいの早さで自転車に乗れるかなんて私は知らない。
私以外の乗り手は香霖くらいだが、あいつは私よりも時間が掛かったらしい。
それはつまり、今この幻想郷で自転車を一番早く乗りこなせたのは私だという証明でもある。
そう考えると、ほんの些末な事がとても誇らしい事のように思えて、だから霊夢にいの一番に伝えたかった。
憧れであり、目標であり、目の敵でもある霊夢に、私でも一番になれるのだと証明したかった。
「──沙?」
それが何だ、こいつは。私なんかよりもずっと早く上達していく。
まるきり兎と亀の関係だ。その癖、ずっと歩き続けていたはずの亀は、グータラ兎に追い付かれかけて冷や汗を流している。
昔話だと、ひた向きにゴールを目指す亀こそが勝利して報われるはずだろう。話が違うじゃないか。
亀が歩く速さで兎に追い付けないように、私も霊夢の上達する速さにはまるで敵わないという事なのか。
歳も、生まれも、体型も、日々を生きる為の糧さえも。私と霊夢の間に大した違いはないというのに、どうしてこうまで違うんだろう。
「──理沙!?」
……あぁ、グローブの下、かさぶたに覆われた傷口が痒む。じくじくじわじわと増していくそれが鬱陶しい。
苛立ちに任せて掻き毟れたらどれだけ良いだろう。きっとそれは私自身の妬み嫉みそのもので、赤い液体となって加減なく溢れ出す。
いっそ、かさぶたの下から湧き出すそれを、目の前の霊夢の巫女装束にでも擦り付けてやろうか。
霊夢の纏う神聖な衣装を劣等な自分の血が汚す。途端、想像することすら禁じられるような優越感に、心の内が満たされる思いがした。
しかし、この手を放せば霊夢はきっと私よりも先へ行ってしまう。
そう考えただけで、刹那的な愉悦なんてものは耐え難い恐怖によって容易く形成を逆転される。
凡百故の強者への拭え得ぬ恐怖が、図らずも私の両手に力を与えていた。
そうだ。この手を、自転車から放しさえしなければ、私が劣等感に苛まれることも、霊夢に負けることだって、ありはしないのだ──。
「──魔理沙っ!」
ハッ、と私の意識は霊夢の声に叩かれ目を覚ました。どうやら意識を飛ばしていたらしい。
身体だけは律儀に霊夢の補助をこなしていたようで、今は停止した霊夢の後ろで案山子よろしく突っ立っている。
視線を上げて、最近はお帰りの早い太陽からの逆光に目を眇めた。霊夢の顔が、よく見えない。
霊夢は今、どんな顔をしているんだ。呆けていた私に怒っているのか、それとも笑っているのか。
「どうしたの、ボーっとしちゃって」
「……あぁ、ごめん」
「もう、放してって言っても放してくれないし」
「そうだな。ごめん、ごめんな、霊夢……」
「ちょっと、魔理沙?」
網膜を焼くような山吹色に慣れた私の目に映ったのは、困惑顔の霊夢だった。
私が予想したそのどちらでもない。私の行動に戸惑い、どこか気遣うような色を乗せていた。
途端に罪悪感なんてものが湧いてくる。同時に、何を今更、という自分に対する嫌悪感も。
霊夢は私を信頼とまで言わなくても、信用くらいはしてくれていたはずだ。それは補助に私を頼ったことが証明してくれている。
そう、霊夢は少なからず私を信じてくれていた。自転車を乗りこなすには私の力が必要だと、そう思ってくれていたのだ。
それを、私は裏切った。醜い嫉妬に駆られ、霊夢からの信用に背を向けた。
あまつさえ、一瞬とはいえ、霊夢という存在を汚すことに心を躍らせた。
下衆、という言葉は今の私のような人間のことを指すのだろう。人様に顔見せなど許されない、汚れた心の持ち主のことを。
当然、私に霊夢と顔を合わせる資格などない。陽の光を嫌う生き物のように自然と顔は下を向いていた。身を縮めて下を向く私の姿は、傍から見れば許しを請う罪人のように映ることだろう。
しかし、それは間違いだ。許しを請おうにも、肝心の霊夢は私のしたこと、思ったことを知らない。そもそも私は許されたいなどとも思っていない。
ただ、全てを無かったことにしたかった。
自転車で神社まで来た事実も、二人で交わした言葉も、自分がしでかした行いも全て。
なぁなぁに、有耶無耶に、その日一日なんて無かったように過ごして、またいつも通りの明日を迎えたかった。
そうでもないと、私の心は容易く折れてしまいそうで……。
霊夢から目を逸らしてどれだけ経っただろうか。十秒か、一分か。さすがに十分は経ってないだろう。緊張が時間の感覚を鈍らせる。
目の前の霊夢からは戸惑う気配が顔を伏せていても伝わってくる。急に黙られたら、困惑するのも当然か。
暫く「あー」とか「うー」だのと言葉にならない言葉を上げていた霊夢。それが、ふっと深呼吸を一つ吐いたかと思うと、意を決したような雰囲気に変わった。
そして、視界の端で霊夢の腕が上がるのを見た。これを私は、殴られる前兆と察した。
何度も言うが、霊夢は勘の良い巫女だ。私の様子から何か後ろめたいことをしたのだと悟ったとしても何もおかしくはない。
粗相をしたのであれば罰を与える。里の子どもでも知っている当たり前のこと。
許されたいとは思わないが、罰を与えてくれるのであれば甘んじて受け入れる覚悟だ。
自罰なんてもっと惨めになるだけだし、霊夢以上の適任はこの場にいない。
頭をさらに深くし、目を閉じる。覚悟はできていた。
その二、三秒後、頭に感触を得た。
慣れた霊夢からの拳骨の衝撃──ではなく、全く正反対の柔らかな感触だった。
「へ……?」
霊夢が私の頭を撫でていた。それも子猫でも撫でるような優しさで、だ。
帽子越しだというのに、眠くたくなるような温かさが伝わってくる。夕陽を背にする霊夢が太陽そのものに思えた。
困惑を隠しきれない私と、自分でやっておきながら恥ずかしげな霊夢の瞳が交錯する。
そこに憤怒や糾弾の意思は無い。それを証明するように、霊夢はポンポンと私の頭を叩いたついでに言った。
「大丈夫だから」
「…………」
そして、何が、と私が問う前に霊夢はペダルを漕ぎ始めてしまった。
前進する自転車。流される私。ギシギシと部品たちの奏でる和音が、暮れなずむ博麗神社に響いていた。
私が意識を飛ばしていた僅かな間に、霊夢の動きはかなり洗練されていた。
もう、ほんのあと一押し。私がこの手を放しさえすれば、霊夢の運転技術は完成するだろう。
放せ、と叫ぶ私がいる。放すな、と囁く私もいる。
そして、そんな私の複雑な心中など気にせず脚の回転を速める霊夢がいた。
自転車が完全にスピードに乗った。支える私の身体が限界を告げる、その絶妙なタイミングで──。
「今っ!」
叱咤するような霊夢の言葉が、魔法みたく私の手から力を抜き去った。
「あ……」
手から放れた自転車と霊夢が、前を行く。
一瞬、横に大きくふらついたが、それだけ。すぐさまハンドルを返すことでバランスを取り戻した。
体勢を立て直した霊夢の姿は完璧だった。猫背の自分と違って霊夢の背はいつ見ても真っ直ぐで、自転車に乗る姿勢すら美しく思えてしまう。
ほんの数十分ほど前にはサドルに足を乗せることも出来なかったのに。今は雪混じりの玉砂利をタイヤで踏み締め鳴らしながら、軽快に自転車を使いこなしている。
これが、これこそが天才。そして、天才を見て唇を噛む私はどうしようもなく凡才。
自転車程度のことでも実感させられる才能の差。
それは私から気力を奪うには十分過ぎる力を持っていた。
自分の中から大事な何かが漏れていくのを感じる。
それはきっと私をこれまで突き動かしていた原動力で、これからの私を形作っていくはずだった何か。言葉に当て嵌めるならば、情熱や執着、克己心や反骨心といったものだろうか。
時に燻り、時に烈火の如く燃え盛っていたそれが、勝手に冷や水を浴びて灰混じりの汚水に変わって流れていく。
流れの果ては目元に。視界が情けなくも滲む。瞳だけが水で満たされた硝子容器に移されたみたいだ。
揺れる視界の中で霊夢の姿を捉える。
気ままに空を飛んでいる時とはまた違う、自転車を駆る霊夢は無邪気そのものな笑みを浮かべている。
それがとても尊くて、眩しいもののように思えて、また下を向きそうになる。でも、それはまた霊夢を裏切るみたいで気力をもって前を向いた。
……そうだ。何を下を向く必要があるというのか。
私は霊夢に自転車に乗る達成感というやつを教えてやりたかった。
自転車に乗って、境内の端から折り返してくる霊夢は嬉しそうだ。私の目論見は成功したのだ。
誇れよ、霧雨魔理沙。お前はあの博麗霊夢にものを教えたんだ。多少なりとも真っ当な人間に導いたかもしれないんだから。
だから、泣くな。下を向くな。いつもの笑みを浮かべて、あいつを迎え入れろ。
そう、何故かサドルから尻を浮かせて、代わりに両足を乗せるなんて曲芸じみた体勢でこちらに向かってくる霊夢を──。
「……って、おいっ!! なな、何てことしてんだお前はっ!!」
視覚から得た情報を脳が認識した瞬間、目元に浮いた水滴も、鬱屈とした感情も一気に吹き飛んだ。
あいつは一体、何をやっているんだ。自転車に乗れたのが嬉し過ぎて、最高にハイにでもなってしまったのか。だとしたら勧めた私もビックリの奇行ぶりだ。
ここは女の子なのに何てはしたないことをしてるんだとか、そんな事を言うべきなのか。
いや、まずは一般的に誰もが言うべき事を口にしよう。
「あぶ、危ないからっ! 足じゃなくて尻をサドルに乗せろ! 私はそんな危険な乗り方を教えた覚えはないぜっ!」
私が霊夢に教えたのはごく一般的な乗り方……だと思う。
私に教えた香霖が間違っていた可能性も無きにしも非ずだが、安定性を考えれば霊夢の今の乗り方が間違っていると考える方が正しいだろう。そもそもアレを一つの乗り方と言っていいのか分からない。
そして、私の注意など何のその。霊夢は変わらず楽しそうな笑顔を浮かべたまま、しかしサドルに尻を降ろす気配は無かった。
どころか遂にはハンドルから手まで放し、器用にもサドルの上で直立してみせた。ひょー、と気持ちよさげな声を霊夢が上げ、わーわー、と情けない声を私が上げる。
いよいよ曲芸じみてきたが自転車とは本来、乗り手の推進力によって支えられる物。前にも述べたが、それが無ければあっさり木偶と代すのだ。
勿論、如何に霊夢といえどサドルに足を乗せたままペダルを漕ぐなんて真似は出来ない。推進力を失った自転車は次第に勢いを失くして左右にフラフラと揺れ出す。その虚ろな挙動に、私も霊夢も翻弄される。
そして、まさに横転寸前のそのタイミングで。
「とうっ」
なんて軽い言葉と共に、霊夢は跳んだ。私目掛けて、跳んできた。
「ぐえっ」
こういう状況下でのうめき声は轢かれたカエルのそれに例えられることが多いが、私のものはもう少しお上品であったと弁解させて欲しい。
霊夢の奴がもう少し軽ければ──いや、今でも病的に軽いのだけど──「ぐえっ」ではなくて「くえっ」とかもっと可愛らしい悲鳴も上げられたかもしれない。
……いや、問題はそんな事ではない。問題は私の胸の上でえへえへにへにへ笑っているこいつである。何が可笑しいんだ、この馬鹿巫女め。
「ごほ、げほっ!」
「大丈夫?」
「……大丈夫な訳、あるか。無茶な乗り方しやがって。壊れてたらどうしてくれる」
「それは自転車? それともあんた?」
「両方」
「あんたが怪我でもしてるんなら治療の一つでもしてあげるわよ。自転車の方は……」
つい、と間近にあった霊夢の視線が横を向く。釣られて私も視線をそちらに移す。
その先にはカラカラと寂しげに車輪を回す愛用の自転車が。前籠が歪んでいるようにみえなくもない。
「霖之助さんに診てもらいましょう?」
「その前に私に謝罪しやがれ。あと、いい加減に退け」
ごめんごめん、とヘリウム並みに軽い言葉を聞き流しながら上に乗った霊夢を退かす。
立ち上がり、身体に付いた埃やら雪やらを払ってから霊夢に問い掛ける。
「で、何であんな危ない真似をした? 一歩間違えばお前でも怪我したかもしれないんだぞ」
「んー、嬉しかったからって理由じゃダメ?」
「気持ちは分からんでもないが、だからってやって良いことと悪いことがあるだろ」
「うん、ごめんなさい」
「……お前に素直に謝られると違和感しかないな」
そもそも、本当に謝るべきは私の方だし。
「でも、あんたの言ってた自転車の良さとか達成感ってやつ? 何となく分かった気がする。こういうのも、たまにはいいものね」
「そっか……」
突然の奇行や言動に振り回されはしたものの、やはり私の思惑は達成されていたらしい。
つまりそれは、私はもうお役後免という事。後はいつも通り、家に帰って枕を泣き濡らす作業に耽るだけだ。もっと別の目的があった気もするけれど、最早どうでもいい。
「でも……」
しかし、こういった時のお約束として、せめて負け惜しみの一つくらいは置いていこう。
「やるじゃないか」とか「この程度で勝ったと思うなよ」とか、そんな言葉を。いつも通り飄々と、いけしゃあしゃあと言ってのけよう。
それこそがきっと──博麗霊夢の思う霧雨魔理沙らしさだろうから。
「私なんてまだまだね」
「……何だって?」
だというのに、霊夢は言う。まだ自分には上があると言う。頬が引き攣るのを感じた。
「お前は、十分乗れてるじゃないか。それ以上、何を鍛える必要があるって言うんだ?」
スピードか、安定性か、脚の回転数か。霊夢が必要としているのは何だ。
そしてそれが揃った時、またこいつは、私なんかじゃ届かない領域まで行くつもりなのだろうか。
そんな私の顔に不安を読み取った霊夢は、呆れたように口を開いた。
「あんたがそれを言う? 私にできないことをやってみせてる、あんたが」
今度は頭の中に疑問符が湧いた。霊夢にできないようなことを私がやってみせている、そんな魔法みたいなことがあると言うのか。
あまりに信じられなくて、つい反論を口にしてしまう。
「世辞はやめろよ。お前は私なんかよりずっと上手だ」
「それはそうかもね」
「……お前の方が、私よりもずっと早く乗れたし」
「あれ、そうなの? じゃあ、私の方が上手なのは間違いないかもね」
これはケンカを売られていると取っていいだろう。
「なに構えてんのよ。ケンカで私に勝てないのは分かってるでしょうが」
それでも魔法使いには受けなければいけない戦いがあるのだ。
「はぁ、話がズレてる。鍛えるとか、そういう事じゃないの。謂わば感性の問題ってやつ」
「かんせい?」
「そ、感性」
私が構えを解いて会話から該当する言葉を探している中、霊夢は横倒しになった自転車の方へとてっくらてっくら浅い雪を踏みしめ歩いていた。
「さっきも言ったけど、あんたが教えたがってた達成感については何となくだけど理解したつもり。思ってた以上に楽しめたしね」
「はぁ? それはさっき聞いた……」
「黙って聞きなさい。……でもね、私だけじゃその程度なのよ」
言っている事が分からない。察しの悪い私に呆れるでもなく、霊夢は淡々とした動きで自転車を起こし、続ける。
「あんたがどう思うかはこの際置いて言うけどね、何でもできるって、それはそれで不便なのよ。
私の身体はとにかく合理的にできてるの。何をしようと、何時だって最速最短最高の結果を叩き出してくれる。
あんたはそれを羨ましいと思う? 私はむしろ誰かに譲りたいくらいよ。思い返してみれば、何かに打ち込んだっていう記憶が無いもの。
それって人としてどうなのかなってたまに思うの。夢中になれるだけの暇も得られず、そこに楽しさも見出だせない。私は何てつまらない人間なんだろう、って」
それに比べて、と自転車に向いていた霊夢の身体が、私と対になる。
「あんたは何時だって楽しそう。魔法の研究なんて一筋縄じゃいかないことも挫けずに、それでいて生き生きとしてみせている。
自転車だってそうなんでしょう? 乗るのに時間は掛かったかもしれない。でもその時間の分、これの楽しさってやつを味わって知ったはず。
私があんたに敵わないのは、そんな所。言葉にすると難しいわね。……『人生を楽しもうとする力』とでもしましょうか。それが、あんたの強み。私に無くて、あんたに有る力」
言われて、自分の中で反芻する。人生を楽しもうとする力──確かに、それに関しては自負する所はある。
人生は楽しんでこそだ。楽しくない人生に価値なんて見出せないし、楽しくないなら楽しくなるように努力すべきだと思っている。
現に私はそうして生きてきた。それを実践してきた今までの人生は辛いことも多いが、それなり以上に楽しいものだ。
そんな自分の中で当たり前に思っていた事を、霊夢の奴がその、何だ、羨んでいるとは露とも思わなかった。喜んでいいのやら、悪いのやら。
戸惑う私に、霊夢がイタズラっぽく言う。
「実を言うとね、魔理沙がこれで走り回ってる姿はもう見てるの」
「は、はぁ!? いつ!?」
「あんたがえっちらおっちら階段登り始める少し前。里からの買い物帰りに飛んでたら、見慣れた奴が見慣れない物に乗ってるんだものねぇ」
自慢じゃないが、私は全く気付けなかった。
「前ばかり見てるから気付かないのよ」
「前を見てなきゃ危ないだろ」
「上から来たらどうするの」
「何が」
「私が」
「襲うのか?」
「襲わないけど」
「なら問題ないだろ」
「馬鹿ね」
微笑は崩さず、霊夢は私を貶す。
「でも、あんたのそういう馬鹿っぽい所が羨ましくもあるのよね、私は」
「本当に羨ましく思ってるのか? からかってるんじゃないのか?」
「本当だってば。私、魔理沙のそういう所は好きだもん」
「……ふん」
確証の無い言葉だが、悪い気はしなかった。
「私はね、何事もじっくりと楽しみを味わいたいって思ってるの。できるなら、あんたみたいに失敗続きでもいいからさ」
「人を駄目人間みたいに言うんじゃないぜ」
「だからね、そんな駄目人間の魔理沙に教えて欲しいの」
「おいこら、何だ言ってみろ」
「あんたの知ってる自転車の良さ、楽しさ──それを私に教えて欲しい」
顔の前で手を組むでも、瞳に涙を溜めるでもなく、ごく自然体で霊夢は私に乞うてきた。
それに対して私は……戸惑っていた。
ついさっきまで偉そうに自転車の乗り方について講釈を垂れていた癖に、技術とは別の部分を教えることには臆してしまう。今の私なんかに教えられるのか、そんな疑念が付き纏う。
でも、霊夢は断言する。
「魔理沙ならできる」
「……何でお前の方が自信満々なんだ」
「勘、って言えばそれまでなんだけど……何度も言うけど、私はあんたの、私が持ち得ないその力が羨ましい。その力には可能性すら感じてる。
つまり、私はあんたに期待してるの! あんたなら、私に新しい楽しみを教えてくれるって!」
だからと、霊夢が今まで見せたこともない表情で告げてくる。
「私の期待に応えてよ、魔理沙」
あぁ、こんな台詞を言われたなら──。
「……その期待に応えなきゃ、霧雨魔理沙の名が廃るわな」
私は思い違いをしていた。悩んでいたのは私だけじゃなかった。
霊夢だって悩みを抱えていた。私のようにコンプレックスに塗れたようなものじゃない。むしろ逆ベクトルのものを。
自分の才能が凄過ぎて人生に味気がない、なんて私からすれば贅沢な悩みだが、霊夢にとっては立派な悩み。
霊夢はさっさか高みへ行ってしまって、私は目の前の道を見て歩いているだけだった。
前だけじゃなく、私は上も見るべきだったんだ。顔を上げて、少し先を見れば気付けたはずなんだ。
霊夢がずっと、私を待っていたことに。
私は霊夢が言うように馬鹿だから、それにも気付けないで諦めて、勝手に卑屈になっていた。霊夢も呆れて、私の事を見限ろうとしたかもしれない。
でも、いま気付けたのは決して悪いことじゃない。手遅れなんかじゃないんだ、絶対に。
私は歩みこそ止めない。けど、これからは少し上を向いて歩こうと思う。
歩いて、歩いて、その先で待つそいつの隣に立って、また歩き始めるんだ。今度は、二人で。
この世には、兎と亀が並んで一緒にゴールする話があったっていいと思うんだ。
「いいだろう、霊夢。こんな狭っ苦しい神社なんて飛び出してさ、お前に私の楽しみってやつを教えてやるぜ」
「狭っ苦しいは余計よ」
サドルに跨り、その後ろを叩く。冷たい金属のそれに、ぶつくさ文句を垂れながら、けれど嬉しそうな顔の霊夢が横向きに座る。
霊夢の腕が私の腰に巻き付くのを確認して、ペダルを漕ぎ始める。軌道は鳥居と素敵な賽銭箱とを直線で結ぶ参道に乗るように。
それと同時、私は一つの魔法を掛ける。
──さぁ木偶よ、仕事の時間だ。
言霊に乗せて魔力を注ぐ。脚は止めない。代わりにギアを一段下げる。
五から四、ペダルが少し軽くなった。
──お前は今から馬となれ。夢想家の姫を遠く攫う、雄壮な運び手に。
玉砂利から参道に乗り換える。神様の通り道をカタパルトに見立て、走る。
ちんたら道の真ん中でも歩いている神様がいれば轢き倒してやるのに、ここは年中不在らしい。
舌打ちを一つ飛ばしてギアは四から三、脚はさらに軽くなる。
──駄馬から天馬へと身を変えろ。想いを乗せて、駆けろ、羽ばたけ。
加速、加速、まだ速さが足りない。だから加速、加速、加速、より加速──!
腰に回された腕に力が籠る。それを感じながらもギアは三から二、速さと共に回転が増していく。
──鉄屑のお前に一時の生命を預ける。
参道は残りあと僅か。目と鼻の先には鳥居があって、その先にはあの忌まわしき階段が大口を開けて手招きしている。
誰が食われてなどやるものか。私は、いや、私たちはその向こうに行くんだ。
ギアは遂に二から一へ。もはやペダルを踏む感覚も久しく感じる。
カウントダウンのようなギアの動きに連動するように、あと一節、それで魔法は完成する。
さぁ、声を高らかに唱えよう。即ち──、
──即ち、恋色の魔女の心臓を。
瞬間、私と自転車が繋がり、私と霊夢の身体は宙へと待った。
「……っ」
背筋の冷える感覚と一瞬気の遠くなるような倦怠感。
これは魔法を発現させた副作用。今では味わい慣れた違和。つまりは……成功である。
眼下には茜色に染まり始めた幻想郷の風景。その中で、雪のグラデーションを纏った石段が宙の私たちを見上げていた。
私の目には、獲物を逃がして悔しげな怪物の姿に映った。
ザマアミロ、と口の中だけで呟いておいた。
「ふ、わぁ……」
後ろから霊夢の感嘆とした声が聞こえる。是非とも振り向いてご尊顔を拝みたいものだが、万が一にも見とれて脚を止めた結果、墜落なんて間抜けは御免なので泣く泣く前を向く。
何たって、私たちは空を飛んでいるのだから。それも生身じゃなく、自転車を介してだ。
落ちないようにせっせと脚を動かす私に、霊夢が声を掛けてくる。心なしか、感心したような声音で。
「へえぇ、あんたってこんな真似もできたんだぁ」
「そりゃあ日頃っから箒を乗りこなしてるんだから、できない方がおかしいって話だろ」
「壊したり盗んだりばっかりが能じゃなかったって訳ねぇ」
緊張が解けたのか、それと同時に霊夢の腕が腰から離れた。途端、お腹回りが急に寒くなった気がする。
まだ弥生を迎えたばかりの時分、おまけに今は空の上。肌寒いのも当たり前だが、それにしても寒暖差が激しくて、このままではお腹を下してしまいそうだ。
もう一度霊夢にお願いすれば済む話だが、わざわざ口にするのは恥ずかしい。それを指摘でもされようものなら尚更だ。
もどかしさに口を揺らすしかできない私のことなど露知らず、霊夢の方はといえばご機嫌だ。
「んー、自分で飛ばなくて済むのがこんなに楽だとはねぇ。……ねね、魔理沙ぁ」
「毎日はやんないぜ。私が疲れるばっかりじゃないか」
「ふん、ケチな奴ね」
その台詞、霊夢にだけは言われたくない。
「そんな事より、お前は感じないかよ」
「ん、何を?」
「風だ」
「風? さっきから嫌ってほど浴びてるけど……」
「それだ」
後ろできっと眉を顰めているだろう霊夢を想像しながら、私なりの楽しみを告げた。
「私はさ、霊夢。歩いている時とも、走っている時とも、箒で飛んでいる時ともまた違う。自転車を走らせてる時にだけ浴びる風、それを感じる瞬間が好きなんだ」
そして、自転車で風を切り裂いて回る自分も。
笑われるかな、なんて不安が心中で顔を覗かせる。
霊夢は、笑わない。一つゆっくりと息を吐いた後は、平素と変わらぬ口調でいつもの言葉。
「それはまた、けったいな趣味を持ったもんね。私には普段と同じに感じられるけど」
「その違いを感じるのが醍醐味なんだ。私は誰かさん曰く、楽しむことに掛けては天才だそうだからな。違いを分かり、嗜むんだぜ」
「ま、生意気。誰も天才とまでは言ってないのにねぇ」
「でも、気持ちいいもんだろ?」
「……そうね。これはこれで乙なのかも。楽して感じる風って気持ちいいものだったんだ」
答えは何とも霊夢らしく、それはそれで良いんだろう。
かくいう私も空を飛びながらの自転車は初めてで、いつもとは逆に冷たい風に頬を斬られそうだと感じていた。
それでも霊夢の手前、何となく強がりたくはなる。
「けど、ちょっと肌寒いかも」
「そうか? 運動してる私には気持ちいい風なんだがな」
「うぅ、ズルい。……あんた、その熱ちょっと寄越しなさい!」
「うわ、無茶なこと言うんじゃないぜっ」
そんな事を言ったら、霊夢が背中にへばり付いてきた。でっかいカイロを背負ったみたいで非常に温かい。
嫌がるフリだけはして、私はその温かみを甘受することにした。
じゃれ合う私たちを窘めるように、西の空へと沈み行く夕の陽が顔を舐めた。
片手で顔を覆い、隙間からそれを見送る。水平線に身を浸しながら、それでもなお燃え続ける夕焼けは余りに美しく、それでいてどうしようもなく終わりに満ちていた。
神が没して世界が崩壊する、そんな光景を目の当たりにしたような気分だった。
「綺麗だな……」
「そうね……」
そう呟き合って、不意に涙しそうになる。
あの夕陽が沈んだ時、それがこの二人の時間の終わりだ。誰が決めたでもない、口にしたでもない。でも、きっとそれが刻限なのだ。
魔法は、いつか解ける。それがどの世界にも通ずる「お約束」だから。
それを察してしまったから、私はあえておどけた風に霊夢に問い掛けた。
「ところでお姫様、行き先はどちらまで? 今だけ何処へでも送ってやるぜ?」
「それなら……向こうまで」
「え?」
「あの地平線の、向こうまで」
そして、霊夢の答えにあっさりと道化の仮面は剥がれ落ちた。
「地平線の向こうって……とんでもなく遠いじゃないか」
「かもね」
「かもねじゃなくて、絶対に遠いぞ」
「絶対に遠いでしょうね」
「それでも行きたいのか」
「行きたいわね」
「どうして?」
「そしたらさ、ずっとこうしていられるじゃない?」
この時、私は自分の頬を水滴が伝うのを感じた。本当に無意識なことで、落ちたそれを見付けるのはこの私を以てしても不可能だった。
少なくとも、あの地平線の向こう側を拝むよりは困難なことだろう。
「太陽を追うのか。完全に沈みきる前に」
「そう。終わらないイタチごっこの始まり」
「壮大なイタチごっこがあったもんだ。きっと結界なんかも越えちゃうぜ?」
「そしたら二人して外の世界か」
「それでも追うか? それとも外で一緒に住むか?」
「冗談」
「冗談だ」
「ふっ、ふふふ……」
「はっ、ははは……」
二人して笑い合う。
自転車に乗る私たちは誰よりも自由だ。
誰にも何にも邪魔をされない私たちは誰よりも無敵だ。
そんな私たちに、この箱庭の世界は狭過ぎる。
ならば飛び出してしまおう。
いっそ誰の目も届かぬ場所に。
そして、より広い世界で新しい風を身体一杯に感じるんだ。
二人でなら、きっとできる。
私たちは飛んでいく。
風を感じながら。
最果ての地平線の彼方へと──。
そしてレイマリはジャスティス!
素晴らしいレイマリをありがとうございました!
いいレイマリ
でも、これからはもう大丈夫でしょうけどね。末永くお幸せに。
読んでるこっちが小っ恥ずかしくなるレベルで青くて春いオーラが満開。しかしレイマリの魅力はまさにこんな若さにあるのも確か。良いじゃないですか、思春期なレイマリも。
はにかみ屋2人が寄り添い、少しすれ違い、また向き合って少しずつくっついていく。
そんな移り変わる姿が瞼の裏にありありと浮かぶ様な、素敵な一作でした。
でも一人のんびり読むのすら若干恥ずかしいです。
>4
人気投票がなければお蔵入りしてたかもしれない今作でした。二人の友情に乾杯。
>5
青春ですね(しみじみ
>6
ありがとうございます。
>7
レイマリジャスティス! こちらこそ読んでいただき、ありがとうございます。
>8
2828できましたか。それは良かった。書いた甲斐があるというものです。
>12
闇堕ちかは分からないですけど、病んでたかもしれないですね。霊夢がいれば大丈夫でしょう。
>14
青さこそがレイマリの真骨頂。若さっていいですよねぇ……。
>20
そ、そんなに恥ずかしい内容でしたかねぇ? いやまぁ、書いてた私はとても恥ずかしかったですけど! いつも通り!
>21
どうせ恥ずかしい内容ですよ! ありがとうございます!
>22
ちゅっちゅちゅっちゅ。
読んでてこっちが恥ずかしくなるぐらい甘々なお話でした。イイ。
自転車で空をとぶのはお約束ですねw
魔理沙の心中は察するにあまりありますが、これこそが恋だということにいずれ気付くはず。自転車とは恋で進むもの、なんつって。
鈴奈庵魔理沙のイメッジですよねこれ。あの娘の抱える劣等感は有形無形存在することは間違いないのでしょう。だけど上手いことバランスを取って進むんじゃないですかね。だといいな。よかったです。