アリス「チェックよ」
幽香 「く~」
金髪の美少女の宣言に私は何度目かのうなり声。
アリス「もう勝負ありよ。必至っていうのかしら。」
幽香 「今ので5敗目?」
アリス「じゃ、がんばってね。」
アリスの家での賭けチェス。これが最近の私の週1の習慣だ。
彼女にチェスを教えてもらってから私は何度も彼女の家に足を運んだ。いえ、別に他の友達がいないわけじゃないんだけど。
で、大分うまくなったと確信した私はチェス勝負を持ちかけたのだ。
恨めし気に契約書を見る。スカーレット印の契約書だ。ここに書かれている契約を反故にすれば吸血鬼を敵に回すという曰く付きのものだ。内容はこう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
契約書
甲:風見幽香
乙:アリス・マーガトロイト
甲と乙は所定のルールに基づき、決闘を行い、敗者は契約書記載項目を遂行しなければならない。
1.決闘方法
1-1.決闘方法はチェスにて行われ、代役は認められない。
1-2.チェスは5回勝負行われる。
1-3.乙は5回勝利することで、勝利する。
1-4.乙が1度敗北した時点で甲の勝利とする。
2.敗者遂行業務
2-1.上記、決闘の敗者は本項目を速やかに遂行する。
2-2.乙が敗者の場合、乙は※※※を甲に※※※※※し、※※※※によって※※※する。
2-2-1.乙は※※※状態で、※※※する。
2-2-2.乙は※※※にて、※※※で、※※※し、(中略)
2-3.甲が敗者の場合、乙のチョコレート製作に協力する。
2-3-1.協力内容は材料調達、製作、運搬の3つである。
2-3-2.材料調達は乙の求める量に十分な量を調達するものとする。
(以下省略、一部自主規制)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
要約すると、私は賭けに負けたのでアリスのチョコ作りに協力しなければならないわけだ。
幽香 「とは言え。」
アリス「?」
しかし、改めて見ると、ずいぶん私に有利な賭けだ、いや、負けたけど。
幽香 「まぁ負けたからにはしょうがないわ。まず材料集めね。まずは人里かしら」
アリス「あら、何するつもり?」
幽香 「う~ん、適当に因縁つけて、弾幕して、チョコをぶんどる。」
アリス「強盗じゃない。」
それは最もなご正論だけど。
幽香 「でもそれ以外に・・・。」
アリス「ふふふ、大丈夫、幽香にピッタリな方法があるわ。ないなら作ればいいのよ!」
幽香 「はい?」
彼女は植物図鑑を掲げて宣言する。植物図鑑にチョコレートの作り方なんて載ってたかしら。
アリス「このページ見て。このカカオという植物。」
幽香 「ええ、見るけど・・・。」
・
・・
・・・
幽香 「ちょっと待って。それって、話をまとめると・・・」
アリス「うん、材料調達のためにカカオ栽培を始めて。」
幽香 「話が違うじゃない。」
アリス「違わないわ。」
アリスが契約書を差し出す。
アリス「この2-3-2.甲が求めるのに十分な量、と記載しているわ。私が欲する量が幻想入りするチョコだけじゃ足りない以上、作るしかないわ。」
幽香 「まさか。」
嵌められた。私はよくよく契約書を見返す。アリスの契約の、量に関する項目は数値記載はなく、彼女のさじ加減になっていた。
幽香 「アリスさ~ん、その~、本気?」
アリス「でなきゃ、私がそんな契約するかしら。私も体を張って勝負したのだから幽香も張ってもらわないと。」
私は頭の中でカカオ栽培に必要な設備、その金額を試算する。ビニールハウス、水循環設備、燃料etc.・・・、私の持ち金で足りるかどうか。
というか冗談じゃない。たかがチェスじゃない。これでもし破産したらひまわり畑売り払って薄い本に出演しなきゃならないわ。
幽香 「アリス!お願い!友達でしょ!」
アリス「私に※※※※しようとした妖怪が今更友達?」
あ・・・あの女の目・・・
養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だ
残酷な目だ・・・「かわいそうだけどあしたの朝には
お肉屋さんの店先にならぶ運命なのね」ってかんじの!
・
・・
・・・
その後。おそらく3時間後。
私はとぼとぼと自宅に帰宅するのであった。
あ、忘れていたわ、自己紹介ね。
私は風見幽香、四季のフラワーマスターとも呼ばれているわ。
しかし今は人生の負け犬の方が似合うかしら。
-------------------------------------------------------------
香霖堂の店主は居心地悪そうにこちらをチラチラ見ている。
私は終始笑顔だ。心は冷や汗だらだらだけど。
あの後、家に帰って考え直してみた。私が取れる選択肢は2つ。アリスに契約撤回してもらうか、薄い本女優になるか。前者は無理そう、後者は断固拒否。で、どうしようかと思った私の抜け道案の一つはこれ。
香霖堂に出資させることだ。
自分の胸に手を当てて考えてみる。常識的に考えて店主が私のスポンサーになることはないだろう。残念だけど私も現実くらい見えてる。が、私に選択肢なんてないのだ。触手に襲われて悦がる日々なんて御免だ。ごめんなさい、店主、"また"犠牲になってもらうわ。
店主は今度はドアの方をチラチラ見ている。大方魔理沙に助けを求めているのだろう。ご愁傷様、魔理沙にはアリスの家で特製ハーブティーを御馳走してあげたわ。私の見立てではあと8時間はトイレから出てこれないわ。
幽香 「魔理沙ちゃんならあと8時間は来ないわよ。」
霖之助「・・・・・・。」
勝った!第3部完ッ・・・!!
いえ、勝ってないわね。というより勝負が始まってすらいないわ。
霖之助「今日はどのようなご用件で。」
幽香 「大丈夫よ、今回は比較的安全な方よ。」
ごめんなさい、一番危険です。主に金銭的な意味で。
霖之助「ラフレシアの件なら、もうお断りです。店にまで被害が出ましたので」
幽香 「流石にアレは私も後悔してるわ」
まさか世界で一番大きい花がゾンビの親玉みたいな悪臭を放つなんて思わないじゃない、普通。
霖之助「ケシは絶対取引しません。麻薬だなんて聞いてませんよ。」
幽香 「だって、アレだけは幻想入りしそうにないんだもん。」
ケシを麻薬にする人間が悪いのであって、ケシに罪はない。故に私にも罪はない。
・・・たぶん。
霖之助「というより、もうボーダー商事に直接取引して頂けませんか。中間業者がない方が安く取引できますし。」
幽香 「だってスキマ妖怪は私を警戒してるし。中間がいたところで安いから問題ないし。」
あちゃー、イメージ最悪ね。まぁ分かっていたけど。
幽香 「それに今回は危険じゃないわ。あなたにも利益があるわよ。」
霖之助「・・・伺いましょう。」
もちろんうまくいけばの話。というよりダメな気がする。二人揃って薄い本業界入りかしら。でもこのメガネ男に需要はなさそうね。
幽香 「カカオって知ってるかしら」
霖之助「幻想郷に麻薬はありませんよ」
幽香 「なんで麻薬って決めつけるの」
誤解のないように言っておくけど、私は今まで麻薬取引したことないわよ、蓬莱医師はモルヒネかなんかっていう麻薬を買っているらしいけど。スキマ妖怪は何で何も言わないのかしら。
幽香 「カカオっていうのはチョコレートの原料なのよ」
霖之助「チョコレートですって?・・・読めましたよ。チョコに麻薬を混ぜて一気に勢力拡大を・・・」
幽香 「いい加減、私と犯罪を直結させるのやめて下さる?」
貴様、マジふざけんなよ。調子のるなよ、痛い目見るか、コラ。
・・・ま、どの道見せるけど。
幽香 「カカオというのは熱帯、ん~、外の世界の高温多湿の環境でしか育たない植物なのよ。けど私なら機材さえあれば育てられる。十分に利益を出す自信があるわ。」
霖之助「つまり、多少値が張っても購入できるというわけですね。」
ですよねー、普通そう考えますよねー、ところがどっこい。
幽香 「何言ってるの?私は払わないわ。払うのはあなた。」
霖之助「は、話が見えませんが。」
幽香 「あなたに私のスポンサーになれと言ってるの。あなたが出資した設備で私が育てて分け前をあげるわ。いいでしょ。」
店主の顔が厳しくなる。
霖之助「そう申されましても設備費用は・・・」
幽香 「ビニールハウスに土地代、開墾用の重機も欲しいわね。ざっとこれくらいかしら」
私は見積もりを見せる。店主の顔が蒼白になるのが見てわかる。
霖之助「香霖堂ではそうしたものは引き受けかねまして・・・」
幽香 「話を聞いてなかった?私はスポンサーに『なれ』と言ってるの。意見は聞いてないわ。」
やはりそうきたか。"当初の予定通り"、実力行使ね。
霖之助「幻想郷でのカカオ育成可能性に疑問を感じます。スポンサーは引き受け兼ね、ぐわっ!?」
店主の脛に私の蹴りが炸裂する。
幽香 「私も手荒なことしたくないんだけど。」
信じてほしい。本当にしたくないの。本当にしたくないけど、もう片方の脛を蹴る。
霖之助「こんなことして許さ・・・がぁ!!」
幽香 「もう一度聞くわ。」
私は彼に近づきながら言う。
でも・・・なんだろう。私は本当に手荒な真似はしたくない。彼のことは心から同情しているはずなのに、痛みに悶絶する彼をみると・・・
興奮する。
幽香 「私もスポンサーにこんなことはしたくないんだけど。」
彼の膝の上に腰を下ろす。
霖之助「がぁぁぁ・・あぁぁぁ・・・」
ああ、いいわその顔。すっごくいい。鞭とか首輪とか持ってくればよかった。
霖之助「ぁぁぁ、何度聞かれたところで・・・」
幽香 「ところで脊髄反射って知ってるかしら」
霖之助「へ?」
幽香 「人間って膝のあたりにツボがあって。ここをつつくと自動的に足が動かされるのよね、こんなふうに!」
彼は足をバタバタさせている。もう少し彼の顔を見ていたいところだけど残念。私は自分の懐を探り、密にスペルカードを発動する。
香符”フェロモン・カモミール”
読者の中には私が己の嗜虐性癖が故にこんな手段をとっていると考える人がいるかもしれないけど、それは誤解よ。"心優しい"私は本当は他人を痛めつけるなんてできないけれど、やむを得ずヤッただけ。で、今回の理由はこのスペル。
私の能力は”花を操る程度の能力”。本来の季節に外れた花を咲かせることも可能。でもこの能力はガーデニングだけの能力じゃないわ。
例えばハーブを短時間で何世代も交配させて、目的に見合った種に品種改良することも可能。そしてそのハーブの香りをスペルに封じたものがこのカード。
カモミールはハーブティーでも用いられるリラックス効果の高い香りを放つ種。それを品種改良・強化した私のカモミールは一種の陶酔効果を持つわ。例えばこの香りの効果中なら”8時間くらいトイレにこもらなければならない程度の下剤入り紅茶”もゴクゴク飲めてしまう。更に強烈な痛みで精神衰弱した人間に使えば一種の暗示効果を発揮する。
店主がのけ反る。ふふふ、成功。今の彼ならどんな無茶な要求でも唯々諾々と従うだろう。さて、では”奴隷”に”ご主人様”が命令してあげますか。それにしても可愛いわね。さっきまで泣きじゃくって・・・
ズガッ・・・・ッ!?
幽香 「きゃっ!?」
突如ブラックアウトする。一体、何が!?
突き飛ばされる。腰が痛い。鼻も痛い。・・・鼻?
視界の上の方で顔を赤く染めた店主がどなっている。この赤、まさか私の血!?
幽香 「あなた、よくも、よくも・・・!!」
この店主、あろうことか私に頭突きをしたのか・・・ッ!?よくも!この私に!痛みつけてやるッ!徹底的に痛みつけて殺シテヤルッ!!ソシテ殺シタ後ニ・・・ッ!?
あ・・・。殺した後に私はどうすればいいの?
この店主を殺したところで私の窮地は変わらない。それどころか八雲が私と取引してくれない以上、店主以外に外の商品を買うすべはないのだ。
冷や汗が額から、いや全身から流れてきた。
霖之助「この店は僕の命だ。商売人は店を潰されて死ぬくらいなら戦って死ぬ!」
どうする、どうすればいいの?戦っても戦わなくても私は詰んでいるの!?
霖之助「いざ尋常に!」
だめだ、何とか彼をなだめないと、マズイッ!!!
幽香 「分かったわ!この件はあきらめるから!」
霖之助「いや、購入はしてもらう!!」
幽香 「!!!?」
へ?この男は何を言っているの。え、どういうこと?意味が分からない。
霖之助「カカオ生産自体に利益はある。が、僕にリスクだけ負わせるのは気に入らない。そちらも相応のリスクを負ってもらう。いいか!?」
幽香 「え?えぇ。」
え?どういうこと?つまり。どういうこと。
霖之助「ではビニールハウス一式!これは後に君の私有財産になるはずだ。これは全額払ってもらう。」
幽香 「え、えぇ。」
わからない、なにがすすんでいるのか、わからない、かんがえがまとまらない・・・
霖之助「重機!いきなり大規模な農業を始める必要はないだろう。これは不要だ。次!」
幽香 「えぇ。」
どうしよう、わたしはなにをすべきで、てんしゅはなにをすべ・・・
店主は何を?
店主は何かを書いていた。あれは・・・契約書ッ!!私を窮地に陥れた忌まわしき契約書ッ!!
破壊せねばッ!!破壊ッ!!破壊・・・ッ!!契約書なんて・・・ダメッ!!ゼッタイッ!!
同じ失敗は繰り返さないッ!!今すぐ破壊して・・・
待て。私は急に冷静になる。カシミールのリラックス効果だと気付く。リラックス効果が鎮痛作用を発揮し、痛みも引いていく。
この場を支配しているのは誰?契約書を書いている店主?
違う・・・。そう、違う。何故店主は私ほどの妖怪に攻撃を加えた後、すぐ冷静に商談を始められたか。彼の精神が強靭だから?違うわ。それは・・・
私は目を落とす。
香符”フェロモン・カモミール”
スペルは効力を発揮していたのだ。スペルのお蔭で店主はこの私に頭突きという大胆な戦術をとれたッ!スペルのお蔭で私は反撃という愚を犯さずにすんだッ!そして今ッ!スペルのお蔭であの店主は商談を始められているッ!では、私のなすべき行為は一つッ!
私は己の持ちうる全精神力を床のスペルカードに集中する。狭い店に高貴な香りが充満する。
そう、最上の勝利は戦わずして勝つこと。では、この場合の勝利は?店主が”己の意志で””私に有利な”契約を作ること!
気づけば店主の目の焦点が定まらなくなっている。私は身動きひとつせずに、しかし全神経はスペルに集中していた。
そして・・・
終わる。
霖之助「・・・ここにサインを。」
幽香 「ええ。」
私は笑みがこぼれそうになるのを我慢してサインする。
契約書には考えられる限り、私に有利な契約となっていた。全般的に私の負担が大きいものの、価格は良心的であり、また現地点で不要と思われる機材は削られていた。店主の農業の知識は皆無と思っていたが、商才だろうか、むしろ私が持ってきた見積書よりも現実的といえる。
幽香 「ではこれで。」
私は店を出る。店を出て、飛ぶ。森を越え、湖を越え、神社の上空に来たところで・・・
幽香 「アハハハハハハハッ!!」
笑った。気が狂ったように笑った。そう、私は人生の窮地から確かに一歩、一歩ではあるが確実に脱出に向けて歩みだしたのだ。
幽香 「でも、アリスには少しお仕置きしないと。」
元はと言えばアリスだ。アリスがこんなこと言うから大変な目にあったのだ。ここは一つ、きつーーーく懲らしめておかないと。
幽香 「さーて、帰るかしら。」
こんなに気分がいいのは久しぶり。あ、でも帰る前にアリスの家に寄らないと。
本日の教訓 ”いついかなる時も冷静さは忘れずに”ね。
エピローグ
幽香 「アリス?」
アリス「げ、幽香!?」
幽香 「げ、とは何よ。」
アリス「その、だから、違うの。仕方なかったのよ。」
彼女はいきなり泣き出した。会っていきなり泣かれるのは結構傷つく。
アリス「だからね、グスッ、仕方なかったの。だって魔理沙がいつまでも出ないから。」
幽香 「魔理沙?」
魔理沙?出ない?何のこと?
アリス「だから。グスッ、どうしようもなかったの。このままじゃ漏らしちゃいそうだし」
幽香 「漏らす?」
ふと強烈な悪臭が鼻につく。そしてよく見ると、足元には彼女のパンツ。
悪臭。パンツ。魔理沙。出ない。魔理沙。紅茶。8時間。
幽香 「まさか・・・」
魔理沙が出ない。どこから。紅茶。つまりトイレ。アリスは?魔理沙の紅茶を飲んだ?下痢をする。魔理沙はトイレから出ない。
残る彼女の選択肢は。
幽香 「アリス、あなた、まさか・・・野○○・・・」
アリス「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
幽香 「く~」
金髪の美少女の宣言に私は何度目かのうなり声。
アリス「もう勝負ありよ。必至っていうのかしら。」
幽香 「今ので5敗目?」
アリス「じゃ、がんばってね。」
アリスの家での賭けチェス。これが最近の私の週1の習慣だ。
彼女にチェスを教えてもらってから私は何度も彼女の家に足を運んだ。いえ、別に他の友達がいないわけじゃないんだけど。
で、大分うまくなったと確信した私はチェス勝負を持ちかけたのだ。
恨めし気に契約書を見る。スカーレット印の契約書だ。ここに書かれている契約を反故にすれば吸血鬼を敵に回すという曰く付きのものだ。内容はこう。
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契約書
甲:風見幽香
乙:アリス・マーガトロイト
甲と乙は所定のルールに基づき、決闘を行い、敗者は契約書記載項目を遂行しなければならない。
1.決闘方法
1-1.決闘方法はチェスにて行われ、代役は認められない。
1-2.チェスは5回勝負行われる。
1-3.乙は5回勝利することで、勝利する。
1-4.乙が1度敗北した時点で甲の勝利とする。
2.敗者遂行業務
2-1.上記、決闘の敗者は本項目を速やかに遂行する。
2-2.乙が敗者の場合、乙は※※※を甲に※※※※※し、※※※※によって※※※する。
2-2-1.乙は※※※状態で、※※※する。
2-2-2.乙は※※※にて、※※※で、※※※し、(中略)
2-3.甲が敗者の場合、乙のチョコレート製作に協力する。
2-3-1.協力内容は材料調達、製作、運搬の3つである。
2-3-2.材料調達は乙の求める量に十分な量を調達するものとする。
(以下省略、一部自主規制)
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要約すると、私は賭けに負けたのでアリスのチョコ作りに協力しなければならないわけだ。
幽香 「とは言え。」
アリス「?」
しかし、改めて見ると、ずいぶん私に有利な賭けだ、いや、負けたけど。
幽香 「まぁ負けたからにはしょうがないわ。まず材料集めね。まずは人里かしら」
アリス「あら、何するつもり?」
幽香 「う~ん、適当に因縁つけて、弾幕して、チョコをぶんどる。」
アリス「強盗じゃない。」
それは最もなご正論だけど。
幽香 「でもそれ以外に・・・。」
アリス「ふふふ、大丈夫、幽香にピッタリな方法があるわ。ないなら作ればいいのよ!」
幽香 「はい?」
彼女は植物図鑑を掲げて宣言する。植物図鑑にチョコレートの作り方なんて載ってたかしら。
アリス「このページ見て。このカカオという植物。」
幽香 「ええ、見るけど・・・。」
・
・・
・・・
幽香 「ちょっと待って。それって、話をまとめると・・・」
アリス「うん、材料調達のためにカカオ栽培を始めて。」
幽香 「話が違うじゃない。」
アリス「違わないわ。」
アリスが契約書を差し出す。
アリス「この2-3-2.甲が求めるのに十分な量、と記載しているわ。私が欲する量が幻想入りするチョコだけじゃ足りない以上、作るしかないわ。」
幽香 「まさか。」
嵌められた。私はよくよく契約書を見返す。アリスの契約の、量に関する項目は数値記載はなく、彼女のさじ加減になっていた。
幽香 「アリスさ~ん、その~、本気?」
アリス「でなきゃ、私がそんな契約するかしら。私も体を張って勝負したのだから幽香も張ってもらわないと。」
私は頭の中でカカオ栽培に必要な設備、その金額を試算する。ビニールハウス、水循環設備、燃料etc.・・・、私の持ち金で足りるかどうか。
というか冗談じゃない。たかがチェスじゃない。これでもし破産したらひまわり畑売り払って薄い本に出演しなきゃならないわ。
幽香 「アリス!お願い!友達でしょ!」
アリス「私に※※※※しようとした妖怪が今更友達?」
あ・・・あの女の目・・・
養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だ
残酷な目だ・・・「かわいそうだけどあしたの朝には
お肉屋さんの店先にならぶ運命なのね」ってかんじの!
・
・・
・・・
その後。おそらく3時間後。
私はとぼとぼと自宅に帰宅するのであった。
あ、忘れていたわ、自己紹介ね。
私は風見幽香、四季のフラワーマスターとも呼ばれているわ。
しかし今は人生の負け犬の方が似合うかしら。
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香霖堂の店主は居心地悪そうにこちらをチラチラ見ている。
私は終始笑顔だ。心は冷や汗だらだらだけど。
あの後、家に帰って考え直してみた。私が取れる選択肢は2つ。アリスに契約撤回してもらうか、薄い本女優になるか。前者は無理そう、後者は断固拒否。で、どうしようかと思った私の抜け道案の一つはこれ。
香霖堂に出資させることだ。
自分の胸に手を当てて考えてみる。常識的に考えて店主が私のスポンサーになることはないだろう。残念だけど私も現実くらい見えてる。が、私に選択肢なんてないのだ。触手に襲われて悦がる日々なんて御免だ。ごめんなさい、店主、"また"犠牲になってもらうわ。
店主は今度はドアの方をチラチラ見ている。大方魔理沙に助けを求めているのだろう。ご愁傷様、魔理沙にはアリスの家で特製ハーブティーを御馳走してあげたわ。私の見立てではあと8時間はトイレから出てこれないわ。
幽香 「魔理沙ちゃんならあと8時間は来ないわよ。」
霖之助「・・・・・・。」
勝った!第3部完ッ・・・!!
いえ、勝ってないわね。というより勝負が始まってすらいないわ。
霖之助「今日はどのようなご用件で。」
幽香 「大丈夫よ、今回は比較的安全な方よ。」
ごめんなさい、一番危険です。主に金銭的な意味で。
霖之助「ラフレシアの件なら、もうお断りです。店にまで被害が出ましたので」
幽香 「流石にアレは私も後悔してるわ」
まさか世界で一番大きい花がゾンビの親玉みたいな悪臭を放つなんて思わないじゃない、普通。
霖之助「ケシは絶対取引しません。麻薬だなんて聞いてませんよ。」
幽香 「だって、アレだけは幻想入りしそうにないんだもん。」
ケシを麻薬にする人間が悪いのであって、ケシに罪はない。故に私にも罪はない。
・・・たぶん。
霖之助「というより、もうボーダー商事に直接取引して頂けませんか。中間業者がない方が安く取引できますし。」
幽香 「だってスキマ妖怪は私を警戒してるし。中間がいたところで安いから問題ないし。」
あちゃー、イメージ最悪ね。まぁ分かっていたけど。
幽香 「それに今回は危険じゃないわ。あなたにも利益があるわよ。」
霖之助「・・・伺いましょう。」
もちろんうまくいけばの話。というよりダメな気がする。二人揃って薄い本業界入りかしら。でもこのメガネ男に需要はなさそうね。
幽香 「カカオって知ってるかしら」
霖之助「幻想郷に麻薬はありませんよ」
幽香 「なんで麻薬って決めつけるの」
誤解のないように言っておくけど、私は今まで麻薬取引したことないわよ、蓬莱医師はモルヒネかなんかっていう麻薬を買っているらしいけど。スキマ妖怪は何で何も言わないのかしら。
幽香 「カカオっていうのはチョコレートの原料なのよ」
霖之助「チョコレートですって?・・・読めましたよ。チョコに麻薬を混ぜて一気に勢力拡大を・・・」
幽香 「いい加減、私と犯罪を直結させるのやめて下さる?」
貴様、マジふざけんなよ。調子のるなよ、痛い目見るか、コラ。
・・・ま、どの道見せるけど。
幽香 「カカオというのは熱帯、ん~、外の世界の高温多湿の環境でしか育たない植物なのよ。けど私なら機材さえあれば育てられる。十分に利益を出す自信があるわ。」
霖之助「つまり、多少値が張っても購入できるというわけですね。」
ですよねー、普通そう考えますよねー、ところがどっこい。
幽香 「何言ってるの?私は払わないわ。払うのはあなた。」
霖之助「は、話が見えませんが。」
幽香 「あなたに私のスポンサーになれと言ってるの。あなたが出資した設備で私が育てて分け前をあげるわ。いいでしょ。」
店主の顔が厳しくなる。
霖之助「そう申されましても設備費用は・・・」
幽香 「ビニールハウスに土地代、開墾用の重機も欲しいわね。ざっとこれくらいかしら」
私は見積もりを見せる。店主の顔が蒼白になるのが見てわかる。
霖之助「香霖堂ではそうしたものは引き受けかねまして・・・」
幽香 「話を聞いてなかった?私はスポンサーに『なれ』と言ってるの。意見は聞いてないわ。」
やはりそうきたか。"当初の予定通り"、実力行使ね。
霖之助「幻想郷でのカカオ育成可能性に疑問を感じます。スポンサーは引き受け兼ね、ぐわっ!?」
店主の脛に私の蹴りが炸裂する。
幽香 「私も手荒なことしたくないんだけど。」
信じてほしい。本当にしたくないの。本当にしたくないけど、もう片方の脛を蹴る。
霖之助「こんなことして許さ・・・がぁ!!」
幽香 「もう一度聞くわ。」
私は彼に近づきながら言う。
でも・・・なんだろう。私は本当に手荒な真似はしたくない。彼のことは心から同情しているはずなのに、痛みに悶絶する彼をみると・・・
興奮する。
幽香 「私もスポンサーにこんなことはしたくないんだけど。」
彼の膝の上に腰を下ろす。
霖之助「がぁぁぁ・・あぁぁぁ・・・」
ああ、いいわその顔。すっごくいい。鞭とか首輪とか持ってくればよかった。
霖之助「ぁぁぁ、何度聞かれたところで・・・」
幽香 「ところで脊髄反射って知ってるかしら」
霖之助「へ?」
幽香 「人間って膝のあたりにツボがあって。ここをつつくと自動的に足が動かされるのよね、こんなふうに!」
彼は足をバタバタさせている。もう少し彼の顔を見ていたいところだけど残念。私は自分の懐を探り、密にスペルカードを発動する。
香符”フェロモン・カモミール”
読者の中には私が己の嗜虐性癖が故にこんな手段をとっていると考える人がいるかもしれないけど、それは誤解よ。"心優しい"私は本当は他人を痛めつけるなんてできないけれど、やむを得ずヤッただけ。で、今回の理由はこのスペル。
私の能力は”花を操る程度の能力”。本来の季節に外れた花を咲かせることも可能。でもこの能力はガーデニングだけの能力じゃないわ。
例えばハーブを短時間で何世代も交配させて、目的に見合った種に品種改良することも可能。そしてそのハーブの香りをスペルに封じたものがこのカード。
カモミールはハーブティーでも用いられるリラックス効果の高い香りを放つ種。それを品種改良・強化した私のカモミールは一種の陶酔効果を持つわ。例えばこの香りの効果中なら”8時間くらいトイレにこもらなければならない程度の下剤入り紅茶”もゴクゴク飲めてしまう。更に強烈な痛みで精神衰弱した人間に使えば一種の暗示効果を発揮する。
店主がのけ反る。ふふふ、成功。今の彼ならどんな無茶な要求でも唯々諾々と従うだろう。さて、では”奴隷”に”ご主人様”が命令してあげますか。それにしても可愛いわね。さっきまで泣きじゃくって・・・
ズガッ・・・・ッ!?
幽香 「きゃっ!?」
突如ブラックアウトする。一体、何が!?
突き飛ばされる。腰が痛い。鼻も痛い。・・・鼻?
視界の上の方で顔を赤く染めた店主がどなっている。この赤、まさか私の血!?
幽香 「あなた、よくも、よくも・・・!!」
この店主、あろうことか私に頭突きをしたのか・・・ッ!?よくも!この私に!痛みつけてやるッ!徹底的に痛みつけて殺シテヤルッ!!ソシテ殺シタ後ニ・・・ッ!?
あ・・・。殺した後に私はどうすればいいの?
この店主を殺したところで私の窮地は変わらない。それどころか八雲が私と取引してくれない以上、店主以外に外の商品を買うすべはないのだ。
冷や汗が額から、いや全身から流れてきた。
霖之助「この店は僕の命だ。商売人は店を潰されて死ぬくらいなら戦って死ぬ!」
どうする、どうすればいいの?戦っても戦わなくても私は詰んでいるの!?
霖之助「いざ尋常に!」
だめだ、何とか彼をなだめないと、マズイッ!!!
幽香 「分かったわ!この件はあきらめるから!」
霖之助「いや、購入はしてもらう!!」
幽香 「!!!?」
へ?この男は何を言っているの。え、どういうこと?意味が分からない。
霖之助「カカオ生産自体に利益はある。が、僕にリスクだけ負わせるのは気に入らない。そちらも相応のリスクを負ってもらう。いいか!?」
幽香 「え?えぇ。」
え?どういうこと?つまり。どういうこと。
霖之助「ではビニールハウス一式!これは後に君の私有財産になるはずだ。これは全額払ってもらう。」
幽香 「え、えぇ。」
わからない、なにがすすんでいるのか、わからない、かんがえがまとまらない・・・
霖之助「重機!いきなり大規模な農業を始める必要はないだろう。これは不要だ。次!」
幽香 「えぇ。」
どうしよう、わたしはなにをすべきで、てんしゅはなにをすべ・・・
店主は何を?
店主は何かを書いていた。あれは・・・契約書ッ!!私を窮地に陥れた忌まわしき契約書ッ!!
破壊せねばッ!!破壊ッ!!破壊・・・ッ!!契約書なんて・・・ダメッ!!ゼッタイッ!!
同じ失敗は繰り返さないッ!!今すぐ破壊して・・・
待て。私は急に冷静になる。カシミールのリラックス効果だと気付く。リラックス効果が鎮痛作用を発揮し、痛みも引いていく。
この場を支配しているのは誰?契約書を書いている店主?
違う・・・。そう、違う。何故店主は私ほどの妖怪に攻撃を加えた後、すぐ冷静に商談を始められたか。彼の精神が強靭だから?違うわ。それは・・・
私は目を落とす。
香符”フェロモン・カモミール”
スペルは効力を発揮していたのだ。スペルのお蔭で店主はこの私に頭突きという大胆な戦術をとれたッ!スペルのお蔭で私は反撃という愚を犯さずにすんだッ!そして今ッ!スペルのお蔭であの店主は商談を始められているッ!では、私のなすべき行為は一つッ!
私は己の持ちうる全精神力を床のスペルカードに集中する。狭い店に高貴な香りが充満する。
そう、最上の勝利は戦わずして勝つこと。では、この場合の勝利は?店主が”己の意志で””私に有利な”契約を作ること!
気づけば店主の目の焦点が定まらなくなっている。私は身動きひとつせずに、しかし全神経はスペルに集中していた。
そして・・・
終わる。
霖之助「・・・ここにサインを。」
幽香 「ええ。」
私は笑みがこぼれそうになるのを我慢してサインする。
契約書には考えられる限り、私に有利な契約となっていた。全般的に私の負担が大きいものの、価格は良心的であり、また現地点で不要と思われる機材は削られていた。店主の農業の知識は皆無と思っていたが、商才だろうか、むしろ私が持ってきた見積書よりも現実的といえる。
幽香 「ではこれで。」
私は店を出る。店を出て、飛ぶ。森を越え、湖を越え、神社の上空に来たところで・・・
幽香 「アハハハハハハハッ!!」
笑った。気が狂ったように笑った。そう、私は人生の窮地から確かに一歩、一歩ではあるが確実に脱出に向けて歩みだしたのだ。
幽香 「でも、アリスには少しお仕置きしないと。」
元はと言えばアリスだ。アリスがこんなこと言うから大変な目にあったのだ。ここは一つ、きつーーーく懲らしめておかないと。
幽香 「さーて、帰るかしら。」
こんなに気分がいいのは久しぶり。あ、でも帰る前にアリスの家に寄らないと。
本日の教訓 ”いついかなる時も冷静さは忘れずに”ね。
エピローグ
幽香 「アリス?」
アリス「げ、幽香!?」
幽香 「げ、とは何よ。」
アリス「その、だから、違うの。仕方なかったのよ。」
彼女はいきなり泣き出した。会っていきなり泣かれるのは結構傷つく。
アリス「だからね、グスッ、仕方なかったの。だって魔理沙がいつまでも出ないから。」
幽香 「魔理沙?」
魔理沙?出ない?何のこと?
アリス「だから。グスッ、どうしようもなかったの。このままじゃ漏らしちゃいそうだし」
幽香 「漏らす?」
ふと強烈な悪臭が鼻につく。そしてよく見ると、足元には彼女のパンツ。
悪臭。パンツ。魔理沙。出ない。魔理沙。紅茶。8時間。
幽香 「まさか・・・」
魔理沙が出ない。どこから。紅茶。つまりトイレ。アリスは?魔理沙の紅茶を飲んだ?下痢をする。魔理沙はトイレから出ない。
残る彼女の選択肢は。
幽香 「アリス、あなた、まさか・・・野○○・・・」
アリス「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
これだとアリスが酷い事になりませんか?
なるほど、最良の勝利とは相手に敗北したことを悟らせないということか。というか何時から幽香は波紋使いになったんだww