博麗神社の業務は暇そうに見えて忙しい。
そういう時もあるけど、やっぱり基本的には暇なのだ。
縁側に腰掛けていた霊夢は、手に持っていた湯飲みを傍らに置いた。
お日様はあと少しで真上にくる。
(…いい天気)
冬を越して春になる前の時期。寒さもひと段落してきて、日差しが暖かくなってきた。
やる事がない。
洗濯も境内の掃除も終わらせてしまった。
社屋にある博麗大結界の監視布陣も全く異常が見られない。警報もならない。予兆もない。
みんな何してんのかな、と足をブラブラさせながら思う。
魔理沙はいつも通り魔法の研究でもしてるんだろう。
暗くて埃っぽい部屋の中、雑然とした机に向かって何かを書き殴っている彼女が目に浮かぶ。
紫は間違いなく寝ている。ダメなやつだからだ。
藍は何をやっているのかわからない。
博麗結界の改良について考えているのかもしれないし、
妖怪か動物を料理しているのかもしれないし、橙と遊んでいるのかもしれない。
アリスは根暗だから人形を作るか人形で遊んでいるかと思ったが、あまり興味はないのでどうでもよかった。
さとりはきっと小説の続きを書いているのだろう。
河童のニトリは飽きもせず工房で何か便利な機械を作っているに違いない。
レミリアは…。咲夜は…。パチュリーは…。
みんな結構ライフワーク持ってるのよねぇ。偉いなぁ。私は特に何も興味はないけど。
何かに打ち込んでいる姿は美しいと、霊夢は昔から思っていた。
自分にはそこまで入れこむ対象が無かったから、余計に強くそれを感じる。
特に、魔理沙を見る度、口には出さないがそう思うのだ。
魔法の構成について語る時の、意思の強さを感じる瞳。計画した通りの魔法が発動してはしゃぐ姿。
ライバルとの弾幕勝負に負けて、霊夢の隣で泣く姿。そんな日の夜に見る彼女の身体。
出来不出来はあまり関係ないんだ。ただ何かに打ち込んでいる姿が美しいんだな。
色々と想像する事にも飽きて、霊夢は大きく伸びをする。
猫が境内を駆けていき、小鳥が飛び上がった。
そしてふっと思いつく。
日記でも書いてみようかしら。
自分の考えとは思えない。魔が差したみたいな思い付きだった。
小さい頃、そんな事をしたこともあった気がする。
まだほんの小さい頃、字を覚えたてくらいの頃、誰かに言われて書かされていた。
絵も描いた。面倒くさかったけど、一度手をつけてしまうと意外と楽しかった印象が残っている。
倉庫の中の経典だの書籍だの何だのが詰め込まれている戸棚の隅っこに、
端が少し茶色くなってしまった日記帳を発見した。懐かし過ぎる。
ペラペラめくると、大きく汚い字と大雑把な絵で色々と書いてあった。
「1●●き(読めない) 8月20日 ひまわりがさいていました。
大きくてきれいだけど、よくみたら中がボコボコしててきもちわるかった」
恥ずかしいやら微笑ましいやらで複雑な気持ちになり、霊夢はちょっと赤面して読むのをやめてしまった。
幻想郷では紙もそこそこ貴重な品だ。おいそれとは捨てられない。
新しい紙を買うのもお金がかかる。
お茶と古い日記帳を持って、霊夢は書斎に移動した。
霊夢は最後の記述から1ページめくり、そこに何か書いてみようと思った。
文机に日記帳を広げ、文鎮で固定する。
引き出しから抄と書かれた式符を一枚取り出して式神の出現を命じた。
ブン…と音がして、青い光で出来た額縁のようなものが目の前に浮かび上がる。
式神「抄(ショウ)」
これは筆述用の式神で、額縁の中に文字や絵を描いたり消したりできるものだ。
紙と違って書いた文字の修正や編集が容易で、納得するものが出来上がったら最後に紙に焼き付ける事ができる。
これなら墨で手を真っ黒にする必要もないし、間違えて黒く塗りつぶして見栄えが悪くなることもないし、
始めるのも片付けるのも容易で、何より自分で書くより綺麗に書ける。
枠の中の一部を拡大する等すれば筆と違って非常に精密に書けるし、霊的なエネルギーも込められるので、札や式符をこれで書いている。
そもそも式符を書くための式なのである。
面倒くさがりの紫が開発した。
式符は使いきりだから、抄を終了させる前に新しい抄の式符も作っておかなければならない。
ストックはまだまだあるけど、使えば使った分無くなるのだ。
書き物をした後に新しい抄の式符を作ろうと思っていると霊夢はいつも忘れてしまうので、最初に抄の式符を書いておく。
空中に浮かぶ青い額縁の前に未使用の抄の式符をかざしてその文字と霊力のデザインを読み込ませ、
別の引き出しから裁断された紙を取り出してそれに向かって指をさすと額縁の中の光の文字が紙に向かって飛んでいき、
バヂッと音がして抄の新しい式符が焼きあがった。
ついでだしそのまま連続でたくさん式符を量産しようかな。
日記を書こうとしたら、最低1日1回はこの式符を使わなくてはいけない。
…バヂッ…バヂッ…バヂヂッ…
のどかな境内に、少し不穏な音が響く。
ちなみに霊夢は弾幕勝負の時も主にこの式神を使っている。
相手に文字を焼き付けているのだ。
ちょっと熱いし痛いけどしばらくすれば文字も消えるし。
式神のエネルギーだから人外にもよく効く。
もっと昔の小さい頃は、硯に水を張り、墨をすり、筆で書いていたものだが、今はもっぱらこれしか使っていない。
式神とは便利なものだ。
こういった式神の恩恵に与れるものは訓練された巫女など霊力を扱える者のみである。
人里は墨と筆しか使うすべが無い。
一方、式神以外の術を用いる者もいる。
例えば魔法使いの魔理沙は、細い木の枝の中心だけをさらに細いビームで焼き焦がし、先端を尖らせて筆として使っている。
硯も水も墨も使わず手も汚れないので、とても便利だ。
霊夢も何本かもらっている。
式神と違い、使用にあたって仰々しい手間や集中力は必要ないため、思ったことをすぐに書き留めておくのにとても便利なのだ。
さて。
いよいよ本題の日記か何かを書こうと思うのだが、いざ書こうとすると何を書いていいか分からない。
霊夢はしばらく宙の青い額縁を眺めていた。
額以外はほとんど透明で後ろの壁が透けて見える。
顔を近づけて画面を見つめても時おり青白いノイズが見えるばかり。
藍はこの額縁の中の文字が表示される部分を確か、モニターとか言ってたっけ。
「むー」
足を崩してみた。
今度は遠くから眺めてみた。
額縁の左上と右下が濃く強調されたデザインになっており、式神の癖にお洒落な作りになっている。
流石は紫の作った式。美しさに抜かりは無い。ゆかりだけに。
「はは」
つまらなすぎる。
いやそんな事に気をとられている場合ではない。
「第128季 3月15日 まだ少し寒い。洗濯する時の水が冷たくって嫌になる。今日から日記を書こうと思う」
とりあえず思った事を書いてみた。
こういうのはきっと勢いが大事だ。
文章の作りなど、まだ自分には難しくてよく分からない。
とりあえずただただ書いてみればいいのだ。
変なところは後から直せばいい。
まずは自分の思うままに書いていこう。
このやり方は自動筆記とか何とか言う手法で、催眠やら妖しげな儀式を行う時にも使用される正当な手法なのだと紫がいつか言っていた。
「みんな何かに打ち込んでいる。魔理沙もさとりもニトリもアリスも文も…。
悔しいけどその姿はみんな美しいと思った。だから自分も何かをやってみようと思った。
とりあえず元手のかからない日記なんていいんじゃないかと思った。
自分には式神の抄もあるし、書き物はできるんじゃないかな。
それにしても私は文章を書く才能が無いんじゃないかしら。
何を書いていいかさっぱり分からないもの。それでも書いてみようと思う。
出来不出来は関係ないの。何かに打ち込んでる姿が美しかったのよ。
魔理沙がそうだったの。魔理沙。あの娘、最近あんまり家に来ないじゃないの。
何やってるのよ。あの馬鹿。寂しいじゃないの。死んでも言えないけど、私だって本当は寂しいのよ。
…死んでも言えないけど。あとご飯のおかずが少なくなっちゃってるじゃないの。
キノコ持ってきなさいよ馬鹿魔理沙。美味しく食べてあげる。
美味しく食べてあげているじゃないいつもいつもキノコも魔理沙も。魔理沙もきも」
「おーい霊夢何やってんだ?仕事か?珍しいな!」
「イィッ!?!?」
魔理沙!!!!
バヂヂヂッ!
本能丸出しの文章が霊夢の日記帳に焼きついてしまった。
ちょうど自動筆記の効果が出てきたところで無駄に筆が進んでいた。
「あわわわ」
「お?札作りか?何だー霊夢もたまには仕事してんだなー」
バタバタする霊夢の後ろの縁側から魔理沙が近づく。見られるとまずい!
とりあえず抄のモニターの文面は近くに落ちてたポチ袋をかざして上書きしておいた。
「大入」
それから日記帳!こんなの、存在そのものを知られるわけにはいかない。
でも隠すところは見つからない。時間も無い。
魔理沙はどんどん近づいてくる!
「お?ポチ袋作りか?何やってんだお前」
「ヅアァッ!」
博麗霊夢、振り向きざまに会心の目潰し!
「ンギャー!」
「わ、ま、魔理沙!あんた急に来たらびっくりしちゃうじゃないの!
私の後ろに立たないでって言ったでしょ!
ちょ、あんた目が3みたいになっちゃってるじゃない!ちょっと待って、いま手当てしてあげるから!」
「あ、明らかに殺意に満ちてたぜ…」
「そんなわけないでしょ!動かないでよね!今道具箱持ってくるから」
霊夢は日記帳を持ってその場をパタパタ離れ、代わりに治療用の式符を持ってパタパタ戻ってきた。
上手く誤魔化せた。
ちゃぶ台の脇に座る魔理沙に霊夢がお茶を持ってきた。
「ふー。全く大変な目にあったぜ」
「だからごめんって言ってるでしょ。ほら、お茶菓子あげる」
「お、栗羊羹」
「高かったのよそれ。万峰店のだもん。びっくりして魔理沙の目をつぶしちゃったからお詫び。食べて。
魔理沙、あなた久しぶりじゃない。どうしたのよ。心配したのよ、少しだけど」
「やー錬金術系の研究がやっと一段落したからさー。
悪いな霊夢。あんまり来れなくて。でもたまにはお前も家に来ていいんだぜ」
「いやよ。あんたの家行ってしばらく経つと家の中にキノコが生えるのよ。何なのよあの家」
「…どこにキノコが生えるんだよ」
「あっちの角っこにシメジみたいのが生えてた」
「どっちだ?」
「あっちよ」
「…ふうん。私がいいって言うまで食うなよそんなもん?」
「食べないわよ、失礼ね。一度お腹壊したもん。」
「食べたんだな…」
「一度だけよ。あら、このお茶美味しく淹れられたわ。魔理沙。あなた今日はキノコ持ってきたの?」
「そう言うと思ってな。持って来たぜー。いつものキノコ。お前これ好きだからなぁ」
背中のナップザックからキノコを取り出して見せる。
「あ、ほんとだ。ありがと。魔理沙、今日はご飯食べていくでしょ?」
「おぅ。悪いな。それより仕事中だったんじゃないのか?もういいのか?
私はこっちでお茶でも飲んでるから、キリのいいところまでやってていいぜ。
あーゆーのは勢いが大事だからな。それが出てるって事は、札か何か作ってたんだろ?」
魔理沙が文机の上に浮かんでいる式神「抄」を指さす。
ポワンと「大入」の文字が浮かんでいた。
「ああ、あれは、その、新しい式符を作ろうと思ってたのよ。
とりあえずポチ袋のデザインを元にして、それから色々加工して、
最終的には竜神を呼び出せたらいいなーとか思ってたの。あはは。試行錯誤してたの」
「竜神てお前。兵器か何かじゃねえかそれ。何してんだよ」
「この大入印のポチ袋、中が本当に少し多めに入る様になってるのよ。
印で空間をちょっと歪めてるの。
それを応用してこの中にどのくらい大きな空間が入るのかってのが最近藍から出された課題でね。
最終的には竜神様を収めたいんだって。
そんな事できるわけないのにね。
超面倒くさいの」
「お前地味に空間操るの得意だもんな」
「私自身を操るのが得意なだけで、私以外の空間だの何だのを操るのはすっごく苦手よ。
センスないわ。他人に興味ないもの」
「ふーん。…やっぱ万峰店の羊羹は格別だぜ。美味かった。お茶もな。流石は霊夢の淹れたお茶だ」
「ありがと。もうこれ以上何もでないわよ」
「それにしても、霊夢が日記なんか書いていたとはねー。驚いたぜ」
「ブーッ!!」
お茶を噴き出した。
「わ!!きったね!」
「あんた見てたのね!!」
「他人の研究を盗みあう魔法使いの目端を舐めてもらっちゃ困るぜ!ついでに私は手先が器用だ」
魔理沙が背中から霊夢の日記帳を取り出した。ひらひら。
最悪!盗られた!
「霊夢、久しぶりに弾幕勝負とでも洒落込もうか!お前の日記を賭けてな。」
面白がってる!ふざけやがって!
「殺す!」
「やってみろ!」
立ち上がった霊夢の袖からありとあらゆる式符が飛び出した。
ついでに霊夢の身体の回りに巨大な陰陽球が複数出現する。
式神の展開は僅かに時間がかかる。
その僅かな時間を稼ぐため、爆発する陰陽球を召還し相手に投げつけるのが霊夢のやり口だった。
先手必勝の開幕ボム。これだけで墜ちる相手も多い。
陰陽球が飛んで魔理沙の周囲を取り囲み、爆発の予兆を見せる。
魔理沙はちゃぶ台を蹴り上げて霊夢との間に即席の壁を作った。
同時に前後左右に何らかの魔方陣を出現させる。おそらく防御用のものだろう。
「用意してたの!?」
「お前怒ると思ってな!」
「あんた…ッ!!」
閃光、爆発、衝撃、熱風が吹き荒れ、陰陽球が次々に爆発した。
同時に霊夢の周囲に弾幕用式神が6機出現し、粉塵漂う霊夢の前方をなぎ払う。
煙でよく見えないが、分厚い一枚板のちゃぶ台に、子供の腕程もある巨大な針が突き刺さる重い音が連続して響く。
同時に木の表面のあらゆる箇所に「大入」という焼印がつけられていき、焦げた匂いが満ち満ちた。
霊夢は間髪入れずに左側に転がった。
位置を変えねば魔理沙にちゃぶ台ごとレーザーで打ち抜かれる。
一瞬の後、ちゃぶ台を貫通して細い光の筋が4本出現した。
さっきまで霊夢のいた空間を焦がして消える。
魔理沙の姿はまだ見えない。
爆煙とちゃぶ台が邪魔だ。霊夢は視線を集中させる。
ちゃぶ台が前後からの衝撃に耐えかねて、吹っ飛んで落ちた先には、
何もなかった。
「!?」
魔理沙がいない!目標を見失った!
目標を見失うどころではない。視界がゆがみ、何も見えなくなっている。
何だか分からないけど、やられた!
霊夢はどこからかレーザーが自分を貫く事を予感する。
瞬時にスペルカードを展開した。
自分の身に何かが触れた事を契機として、身体の表面から猛烈な数の札が撃ち出され、
相手の攻撃を押し返し逆に圧殺する必殺技。
効果時間は短いけれど、決まればカウンターとなり無防備な相手に確実にヒットする仕掛けだった。
そして通常弾幕の攻撃目標を前方ではなく、自分の周囲全方向に切り替える。
霊夢の式神達は複雑な弧を描きながら全く無差別に部屋中を撃ちまくった。
針と熱が荒れ狂い、一瞬で部屋の中が滅茶苦茶になる。
そして霊夢はその場で昏倒し全身を細かく痙攣させ始めた。
「おーおーやっと効いてきやがったか」
部屋の隅で対衝撃用の魔方陣を何重にも重ね合わせ、小さく身を屈めていた魔理沙が立ち上がった。
霊夢の開幕ボムを用意していた障壁でしのいだ後、全力でレーザーを放ってから、
これまた全力で後方に飛び退り、爆煙にまぎれて更に煙幕を張り、小さくなって防御魔法で身を固めていた。
どうせ薬が効いてきたら霊夢は無力になるのだ。あのお茶は美味しかっただろう。
5層も重ね掛けしていた対衝撃魔方陣が4層、3本の針に貫かれていた。
恐ろしい威力だ。
ついでに表面の2層は「大入」の焼印が無数に付けられほとんど原型が無くなっており、
床や壁や天井同様、焼けてボロボロに崩れていた。
鬼巫女というあだ名は伊達ではない。
「あいかわらず滅茶苦茶やりやがる」
部屋の中は文字通り針のムシロだった。
霊夢は強い。
弾幕ごっこの実力では、自分は霊夢に到底かなわないのだ。
幻想郷でかなう者などほとんどいないのだからそれは当たり前の事。
自分は普通の魔法使いなのだ。
そんな自分が霊夢に並ぶには、搦め手を使うしかない。
魔理沙は足元の針を蹴っ飛ばし、霊夢に近づいた。
部屋中の針は構成する霊力を既に失っており、次々と崩壊していく。
倒れている霊夢の袴は大きくめくれ、太ももが際どいところまであらわになって、妖しい筋肉の痙攣が見える。
目の焦点は合っておらず、ほとんど白目を剥いていた。
口からは少し泡が出てきている。
少し薬が効きすぎちゃったかもしれない。まぁ別に身体に毒になる成分は入っていないはずだから別に良いか。
それにしても。
あの強い霊夢が今、自分との弾幕勝負に負け、目の前で無防備な姿を晒しているのだ。
霊夢の背中に手を回し、上体を起こしてやる。痙攣はとまらない。
口の脇から泡交じりの涎がツーと流れた。
とりあえず寝室に霊夢を運んだ魔理沙は、襖を閉めた時、嗜虐的な征服欲に満たされ、感動で胸がいっぱいになるのを感じた。
霊夢は、美しい。
艶があり黒く長い髪、真珠みたいに白い肌、高い鼻筋、薄い唇、大きな黒い目。
どこを切り取っても素晴らしいコレクションになるだろう。
でももったいないから切り取るなんて事は絶対しないのだ。
せっかく素晴らしいパーツが、完璧な位置に配置されているのだから。
霊夢は一つに合わさった人体の総合芸術作品だった。
それが生きており、さらに自分の友達である事を、魔理沙はとてもとても幸運な事だと思っていた。
そして努力し、たまにはこうしてその身体を自由にできる関係となった。
でも霊夢は意識がある状態だったら、きっと恥ずかしがってこんな事はさせてくれないだろう。
うわー私ついに霊夢の身体に跨っちゃったぜー。
これからお前の身体を思うまんまに弄り回しちゃうんだぜー。
おわーほっぺたすべすべだなー。
ぺちぺち。
ちょっと頬を叩く。
霊夢は相変わらず白目を剥いてピクピクしているだけで、抵抗はしない。
腕は大の字を書いて床に落ちている。
この細腕で妖怪の胴体に風穴を空ける事もあるというのに。
通常だったら不可能な事をしている事に興奮する。
魔理沙は霊夢の口の端から溢れる泡を啜った。
「んー可愛いぜ霊夢」
霊夢の匂いと、そして慣れた味がする。
さらに、巫女服を剥がそうとしながら、久しぶりの霊夢の身体の感触を楽しんだ。
服の中で魔理沙の手が身体の頂点に触れるたび、収まりつつあった霊夢の痙攣が激しくなる。
「おー喜んでる喜んでる。そんなに気持ちいいのか。気持ちいいだろうな。
脳みその電気だか薬だかが暴走してんだもんな。
お前、好きだもんなコレ」
魔理沙は魔法使いだが、まだ人間で魔力も弱い。
そんな魔理沙が幻想郷で幅を利かせる事ができるのは、ひとえに魔力の使い方と、その補い方を研究し尽くしているからだった。
足りない魔力を補うというのは、自分の力を増やす事ではない。
他人の力を自分のものにできればよい。
魔理沙は他者の心を掌握する事が最も効率よく安全性を高める事だと思い、研究を続けてきた。
人の心は脳の作用で決まる。
脳の作用は物質でコントロールできる。
魔理沙は科学を得意としている。
あるキノコから快楽性と常習性のある物質を抽出し、人体に害にならない様に加工して、香水の要領で身体に吹き付けて対象に接近する。
そのキノコを食べさせても良い効果がある。
対象の身体に接触できる関係になれれば、直接粘膜に物質を塗りこむ事で更に劇的な効果を発揮する。
涙を流して絶叫しながら痙攣を起こすほどに。
これらの長年の研究の努力の甲斐により、霊夢もアリスもパチュリーも、魔理沙を大好きになってくれた。
そして魔理沙は、恋の魔法使いと呼ばれている。
魔理沙に危害を加えるということは、幻想郷でも力のある彼女らを敵に回すということだ。
そして、その秘密が自分の研究にある事は誰にも教えられない。
今日は、長年の夢が叶ったので真っ先に霊夢のところに飛んできた。
その快楽物質をキノコ等から抽出する方法ではなく、錬金術として産出する方法についに成功したのだ。
濃度と純度は段違いである。
結果がこれ。霊夢のお茶に微小な結晶片を混ぜただけで、僅かな時間でこのざまだ。
霊夢ばっかり喜ばせてもなんだ。自分も楽しもう。
魔理沙は良いアイディアを思いついた。
こいつに自分の日記を読み聞かせてやろうか。
グッチャグッチャに弄ってやりながら。
何日か続けてやったらパブロフの犬みたいになるんじゃないかな。うふ。うふふふ。
善は急げだ。さて、日記はどこにやったっけな。さっきの部屋か。
いったん霊夢の身体から手を離し、魔理沙は弾幕勝負が行われた部屋へ繋がる扉を開けた。
部屋の真ん中に、変な女が立っていた。
「っ!」
両腕と片足を少し上げたグリコのポーズ。
両手には霊夢の日記と、未使用の式符が数枚握られていた。
「美味しい美味しい魔理沙!」
「…こ…こいしか?」
「美味しいおいしい魔理沙!」
「おい、ビビらせんなよ…。ずっと居たのか?」
「キノコキノコキノコの魔理沙!」
こいしの瞳は完全に見開き、こっちを向いてはいるがどこを見ているか全くわからない。
たまに姿を見せるこいしの顔は、いつもこんな感じで狂気に満ちている事を思い出した。
「いやあの薬はキノコじゃねぇよ。錬金術で作ったもんだ。お前もやってみるか。
にしても相変わらず神出鬼没だな。今は言葉は通じるのか?」
「霊夢の弾幕って何なのかなって思ったの」
「…なあ、その霊夢の日記、返してくれないかな。それは霊夢の大事なもんなんだ」
こいしに見られないように、さりげなく八卦炉を手にする。
こいしが笑った。
「忘れちゃえ」
無意識を操る妖怪、古明地こいしの姿が認識できなくなった。
自分は縁側の雨戸を閉めに来たのだった。
まだ外はすこし寒い。
これから霊夢の服を剥ぐというのに、それでは少し可愛そうだった。
魔理沙は神社中の雨戸を閉めきると、霊夢が横たわる寝室に向かって歩いていった。
久しぶりに霊夢を抱くことを思うと、心臓は早鐘を打つようだった。
部屋に戻ると、霊夢は涙を流していた。
おそらく全身から体液が溢れ出ているのに違いない。
霊夢の涙は、しょっぱくて美味しかった。
あの慣れた味もする。
霊夢を虜にさせている物質の味。
魔理沙は自分にも薬が効いてくるのを感じながら、自分の服を脱ぎ始めた。
そういう時もあるけど、やっぱり基本的には暇なのだ。
縁側に腰掛けていた霊夢は、手に持っていた湯飲みを傍らに置いた。
お日様はあと少しで真上にくる。
(…いい天気)
冬を越して春になる前の時期。寒さもひと段落してきて、日差しが暖かくなってきた。
やる事がない。
洗濯も境内の掃除も終わらせてしまった。
社屋にある博麗大結界の監視布陣も全く異常が見られない。警報もならない。予兆もない。
みんな何してんのかな、と足をブラブラさせながら思う。
魔理沙はいつも通り魔法の研究でもしてるんだろう。
暗くて埃っぽい部屋の中、雑然とした机に向かって何かを書き殴っている彼女が目に浮かぶ。
紫は間違いなく寝ている。ダメなやつだからだ。
藍は何をやっているのかわからない。
博麗結界の改良について考えているのかもしれないし、
妖怪か動物を料理しているのかもしれないし、橙と遊んでいるのかもしれない。
アリスは根暗だから人形を作るか人形で遊んでいるかと思ったが、あまり興味はないのでどうでもよかった。
さとりはきっと小説の続きを書いているのだろう。
河童のニトリは飽きもせず工房で何か便利な機械を作っているに違いない。
レミリアは…。咲夜は…。パチュリーは…。
みんな結構ライフワーク持ってるのよねぇ。偉いなぁ。私は特に何も興味はないけど。
何かに打ち込んでいる姿は美しいと、霊夢は昔から思っていた。
自分にはそこまで入れこむ対象が無かったから、余計に強くそれを感じる。
特に、魔理沙を見る度、口には出さないがそう思うのだ。
魔法の構成について語る時の、意思の強さを感じる瞳。計画した通りの魔法が発動してはしゃぐ姿。
ライバルとの弾幕勝負に負けて、霊夢の隣で泣く姿。そんな日の夜に見る彼女の身体。
出来不出来はあまり関係ないんだ。ただ何かに打ち込んでいる姿が美しいんだな。
色々と想像する事にも飽きて、霊夢は大きく伸びをする。
猫が境内を駆けていき、小鳥が飛び上がった。
そしてふっと思いつく。
日記でも書いてみようかしら。
自分の考えとは思えない。魔が差したみたいな思い付きだった。
小さい頃、そんな事をしたこともあった気がする。
まだほんの小さい頃、字を覚えたてくらいの頃、誰かに言われて書かされていた。
絵も描いた。面倒くさかったけど、一度手をつけてしまうと意外と楽しかった印象が残っている。
倉庫の中の経典だの書籍だの何だのが詰め込まれている戸棚の隅っこに、
端が少し茶色くなってしまった日記帳を発見した。懐かし過ぎる。
ペラペラめくると、大きく汚い字と大雑把な絵で色々と書いてあった。
「1●●き(読めない) 8月20日 ひまわりがさいていました。
大きくてきれいだけど、よくみたら中がボコボコしててきもちわるかった」
恥ずかしいやら微笑ましいやらで複雑な気持ちになり、霊夢はちょっと赤面して読むのをやめてしまった。
幻想郷では紙もそこそこ貴重な品だ。おいそれとは捨てられない。
新しい紙を買うのもお金がかかる。
お茶と古い日記帳を持って、霊夢は書斎に移動した。
霊夢は最後の記述から1ページめくり、そこに何か書いてみようと思った。
文机に日記帳を広げ、文鎮で固定する。
引き出しから抄と書かれた式符を一枚取り出して式神の出現を命じた。
ブン…と音がして、青い光で出来た額縁のようなものが目の前に浮かび上がる。
式神「抄(ショウ)」
これは筆述用の式神で、額縁の中に文字や絵を描いたり消したりできるものだ。
紙と違って書いた文字の修正や編集が容易で、納得するものが出来上がったら最後に紙に焼き付ける事ができる。
これなら墨で手を真っ黒にする必要もないし、間違えて黒く塗りつぶして見栄えが悪くなることもないし、
始めるのも片付けるのも容易で、何より自分で書くより綺麗に書ける。
枠の中の一部を拡大する等すれば筆と違って非常に精密に書けるし、霊的なエネルギーも込められるので、札や式符をこれで書いている。
そもそも式符を書くための式なのである。
面倒くさがりの紫が開発した。
式符は使いきりだから、抄を終了させる前に新しい抄の式符も作っておかなければならない。
ストックはまだまだあるけど、使えば使った分無くなるのだ。
書き物をした後に新しい抄の式符を作ろうと思っていると霊夢はいつも忘れてしまうので、最初に抄の式符を書いておく。
空中に浮かぶ青い額縁の前に未使用の抄の式符をかざしてその文字と霊力のデザインを読み込ませ、
別の引き出しから裁断された紙を取り出してそれに向かって指をさすと額縁の中の光の文字が紙に向かって飛んでいき、
バヂッと音がして抄の新しい式符が焼きあがった。
ついでだしそのまま連続でたくさん式符を量産しようかな。
日記を書こうとしたら、最低1日1回はこの式符を使わなくてはいけない。
…バヂッ…バヂッ…バヂヂッ…
のどかな境内に、少し不穏な音が響く。
ちなみに霊夢は弾幕勝負の時も主にこの式神を使っている。
相手に文字を焼き付けているのだ。
ちょっと熱いし痛いけどしばらくすれば文字も消えるし。
式神のエネルギーだから人外にもよく効く。
もっと昔の小さい頃は、硯に水を張り、墨をすり、筆で書いていたものだが、今はもっぱらこれしか使っていない。
式神とは便利なものだ。
こういった式神の恩恵に与れるものは訓練された巫女など霊力を扱える者のみである。
人里は墨と筆しか使うすべが無い。
一方、式神以外の術を用いる者もいる。
例えば魔法使いの魔理沙は、細い木の枝の中心だけをさらに細いビームで焼き焦がし、先端を尖らせて筆として使っている。
硯も水も墨も使わず手も汚れないので、とても便利だ。
霊夢も何本かもらっている。
式神と違い、使用にあたって仰々しい手間や集中力は必要ないため、思ったことをすぐに書き留めておくのにとても便利なのだ。
さて。
いよいよ本題の日記か何かを書こうと思うのだが、いざ書こうとすると何を書いていいか分からない。
霊夢はしばらく宙の青い額縁を眺めていた。
額以外はほとんど透明で後ろの壁が透けて見える。
顔を近づけて画面を見つめても時おり青白いノイズが見えるばかり。
藍はこの額縁の中の文字が表示される部分を確か、モニターとか言ってたっけ。
「むー」
足を崩してみた。
今度は遠くから眺めてみた。
額縁の左上と右下が濃く強調されたデザインになっており、式神の癖にお洒落な作りになっている。
流石は紫の作った式。美しさに抜かりは無い。ゆかりだけに。
「はは」
つまらなすぎる。
いやそんな事に気をとられている場合ではない。
「第128季 3月15日 まだ少し寒い。洗濯する時の水が冷たくって嫌になる。今日から日記を書こうと思う」
とりあえず思った事を書いてみた。
こういうのはきっと勢いが大事だ。
文章の作りなど、まだ自分には難しくてよく分からない。
とりあえずただただ書いてみればいいのだ。
変なところは後から直せばいい。
まずは自分の思うままに書いていこう。
このやり方は自動筆記とか何とか言う手法で、催眠やら妖しげな儀式を行う時にも使用される正当な手法なのだと紫がいつか言っていた。
「みんな何かに打ち込んでいる。魔理沙もさとりもニトリもアリスも文も…。
悔しいけどその姿はみんな美しいと思った。だから自分も何かをやってみようと思った。
とりあえず元手のかからない日記なんていいんじゃないかと思った。
自分には式神の抄もあるし、書き物はできるんじゃないかな。
それにしても私は文章を書く才能が無いんじゃないかしら。
何を書いていいかさっぱり分からないもの。それでも書いてみようと思う。
出来不出来は関係ないの。何かに打ち込んでる姿が美しかったのよ。
魔理沙がそうだったの。魔理沙。あの娘、最近あんまり家に来ないじゃないの。
何やってるのよ。あの馬鹿。寂しいじゃないの。死んでも言えないけど、私だって本当は寂しいのよ。
…死んでも言えないけど。あとご飯のおかずが少なくなっちゃってるじゃないの。
キノコ持ってきなさいよ馬鹿魔理沙。美味しく食べてあげる。
美味しく食べてあげているじゃないいつもいつもキノコも魔理沙も。魔理沙もきも」
「おーい霊夢何やってんだ?仕事か?珍しいな!」
「イィッ!?!?」
魔理沙!!!!
バヂヂヂッ!
本能丸出しの文章が霊夢の日記帳に焼きついてしまった。
ちょうど自動筆記の効果が出てきたところで無駄に筆が進んでいた。
「あわわわ」
「お?札作りか?何だー霊夢もたまには仕事してんだなー」
バタバタする霊夢の後ろの縁側から魔理沙が近づく。見られるとまずい!
とりあえず抄のモニターの文面は近くに落ちてたポチ袋をかざして上書きしておいた。
「大入」
それから日記帳!こんなの、存在そのものを知られるわけにはいかない。
でも隠すところは見つからない。時間も無い。
魔理沙はどんどん近づいてくる!
「お?ポチ袋作りか?何やってんだお前」
「ヅアァッ!」
博麗霊夢、振り向きざまに会心の目潰し!
「ンギャー!」
「わ、ま、魔理沙!あんた急に来たらびっくりしちゃうじゃないの!
私の後ろに立たないでって言ったでしょ!
ちょ、あんた目が3みたいになっちゃってるじゃない!ちょっと待って、いま手当てしてあげるから!」
「あ、明らかに殺意に満ちてたぜ…」
「そんなわけないでしょ!動かないでよね!今道具箱持ってくるから」
霊夢は日記帳を持ってその場をパタパタ離れ、代わりに治療用の式符を持ってパタパタ戻ってきた。
上手く誤魔化せた。
ちゃぶ台の脇に座る魔理沙に霊夢がお茶を持ってきた。
「ふー。全く大変な目にあったぜ」
「だからごめんって言ってるでしょ。ほら、お茶菓子あげる」
「お、栗羊羹」
「高かったのよそれ。万峰店のだもん。びっくりして魔理沙の目をつぶしちゃったからお詫び。食べて。
魔理沙、あなた久しぶりじゃない。どうしたのよ。心配したのよ、少しだけど」
「やー錬金術系の研究がやっと一段落したからさー。
悪いな霊夢。あんまり来れなくて。でもたまにはお前も家に来ていいんだぜ」
「いやよ。あんたの家行ってしばらく経つと家の中にキノコが生えるのよ。何なのよあの家」
「…どこにキノコが生えるんだよ」
「あっちの角っこにシメジみたいのが生えてた」
「どっちだ?」
「あっちよ」
「…ふうん。私がいいって言うまで食うなよそんなもん?」
「食べないわよ、失礼ね。一度お腹壊したもん。」
「食べたんだな…」
「一度だけよ。あら、このお茶美味しく淹れられたわ。魔理沙。あなた今日はキノコ持ってきたの?」
「そう言うと思ってな。持って来たぜー。いつものキノコ。お前これ好きだからなぁ」
背中のナップザックからキノコを取り出して見せる。
「あ、ほんとだ。ありがと。魔理沙、今日はご飯食べていくでしょ?」
「おぅ。悪いな。それより仕事中だったんじゃないのか?もういいのか?
私はこっちでお茶でも飲んでるから、キリのいいところまでやってていいぜ。
あーゆーのは勢いが大事だからな。それが出てるって事は、札か何か作ってたんだろ?」
魔理沙が文机の上に浮かんでいる式神「抄」を指さす。
ポワンと「大入」の文字が浮かんでいた。
「ああ、あれは、その、新しい式符を作ろうと思ってたのよ。
とりあえずポチ袋のデザインを元にして、それから色々加工して、
最終的には竜神を呼び出せたらいいなーとか思ってたの。あはは。試行錯誤してたの」
「竜神てお前。兵器か何かじゃねえかそれ。何してんだよ」
「この大入印のポチ袋、中が本当に少し多めに入る様になってるのよ。
印で空間をちょっと歪めてるの。
それを応用してこの中にどのくらい大きな空間が入るのかってのが最近藍から出された課題でね。
最終的には竜神様を収めたいんだって。
そんな事できるわけないのにね。
超面倒くさいの」
「お前地味に空間操るの得意だもんな」
「私自身を操るのが得意なだけで、私以外の空間だの何だのを操るのはすっごく苦手よ。
センスないわ。他人に興味ないもの」
「ふーん。…やっぱ万峰店の羊羹は格別だぜ。美味かった。お茶もな。流石は霊夢の淹れたお茶だ」
「ありがと。もうこれ以上何もでないわよ」
「それにしても、霊夢が日記なんか書いていたとはねー。驚いたぜ」
「ブーッ!!」
お茶を噴き出した。
「わ!!きったね!」
「あんた見てたのね!!」
「他人の研究を盗みあう魔法使いの目端を舐めてもらっちゃ困るぜ!ついでに私は手先が器用だ」
魔理沙が背中から霊夢の日記帳を取り出した。ひらひら。
最悪!盗られた!
「霊夢、久しぶりに弾幕勝負とでも洒落込もうか!お前の日記を賭けてな。」
面白がってる!ふざけやがって!
「殺す!」
「やってみろ!」
立ち上がった霊夢の袖からありとあらゆる式符が飛び出した。
ついでに霊夢の身体の回りに巨大な陰陽球が複数出現する。
式神の展開は僅かに時間がかかる。
その僅かな時間を稼ぐため、爆発する陰陽球を召還し相手に投げつけるのが霊夢のやり口だった。
先手必勝の開幕ボム。これだけで墜ちる相手も多い。
陰陽球が飛んで魔理沙の周囲を取り囲み、爆発の予兆を見せる。
魔理沙はちゃぶ台を蹴り上げて霊夢との間に即席の壁を作った。
同時に前後左右に何らかの魔方陣を出現させる。おそらく防御用のものだろう。
「用意してたの!?」
「お前怒ると思ってな!」
「あんた…ッ!!」
閃光、爆発、衝撃、熱風が吹き荒れ、陰陽球が次々に爆発した。
同時に霊夢の周囲に弾幕用式神が6機出現し、粉塵漂う霊夢の前方をなぎ払う。
煙でよく見えないが、分厚い一枚板のちゃぶ台に、子供の腕程もある巨大な針が突き刺さる重い音が連続して響く。
同時に木の表面のあらゆる箇所に「大入」という焼印がつけられていき、焦げた匂いが満ち満ちた。
霊夢は間髪入れずに左側に転がった。
位置を変えねば魔理沙にちゃぶ台ごとレーザーで打ち抜かれる。
一瞬の後、ちゃぶ台を貫通して細い光の筋が4本出現した。
さっきまで霊夢のいた空間を焦がして消える。
魔理沙の姿はまだ見えない。
爆煙とちゃぶ台が邪魔だ。霊夢は視線を集中させる。
ちゃぶ台が前後からの衝撃に耐えかねて、吹っ飛んで落ちた先には、
何もなかった。
「!?」
魔理沙がいない!目標を見失った!
目標を見失うどころではない。視界がゆがみ、何も見えなくなっている。
何だか分からないけど、やられた!
霊夢はどこからかレーザーが自分を貫く事を予感する。
瞬時にスペルカードを展開した。
自分の身に何かが触れた事を契機として、身体の表面から猛烈な数の札が撃ち出され、
相手の攻撃を押し返し逆に圧殺する必殺技。
効果時間は短いけれど、決まればカウンターとなり無防備な相手に確実にヒットする仕掛けだった。
そして通常弾幕の攻撃目標を前方ではなく、自分の周囲全方向に切り替える。
霊夢の式神達は複雑な弧を描きながら全く無差別に部屋中を撃ちまくった。
針と熱が荒れ狂い、一瞬で部屋の中が滅茶苦茶になる。
そして霊夢はその場で昏倒し全身を細かく痙攣させ始めた。
「おーおーやっと効いてきやがったか」
部屋の隅で対衝撃用の魔方陣を何重にも重ね合わせ、小さく身を屈めていた魔理沙が立ち上がった。
霊夢の開幕ボムを用意していた障壁でしのいだ後、全力でレーザーを放ってから、
これまた全力で後方に飛び退り、爆煙にまぎれて更に煙幕を張り、小さくなって防御魔法で身を固めていた。
どうせ薬が効いてきたら霊夢は無力になるのだ。あのお茶は美味しかっただろう。
5層も重ね掛けしていた対衝撃魔方陣が4層、3本の針に貫かれていた。
恐ろしい威力だ。
ついでに表面の2層は「大入」の焼印が無数に付けられほとんど原型が無くなっており、
床や壁や天井同様、焼けてボロボロに崩れていた。
鬼巫女というあだ名は伊達ではない。
「あいかわらず滅茶苦茶やりやがる」
部屋の中は文字通り針のムシロだった。
霊夢は強い。
弾幕ごっこの実力では、自分は霊夢に到底かなわないのだ。
幻想郷でかなう者などほとんどいないのだからそれは当たり前の事。
自分は普通の魔法使いなのだ。
そんな自分が霊夢に並ぶには、搦め手を使うしかない。
魔理沙は足元の針を蹴っ飛ばし、霊夢に近づいた。
部屋中の針は構成する霊力を既に失っており、次々と崩壊していく。
倒れている霊夢の袴は大きくめくれ、太ももが際どいところまであらわになって、妖しい筋肉の痙攣が見える。
目の焦点は合っておらず、ほとんど白目を剥いていた。
口からは少し泡が出てきている。
少し薬が効きすぎちゃったかもしれない。まぁ別に身体に毒になる成分は入っていないはずだから別に良いか。
それにしても。
あの強い霊夢が今、自分との弾幕勝負に負け、目の前で無防備な姿を晒しているのだ。
霊夢の背中に手を回し、上体を起こしてやる。痙攣はとまらない。
口の脇から泡交じりの涎がツーと流れた。
とりあえず寝室に霊夢を運んだ魔理沙は、襖を閉めた時、嗜虐的な征服欲に満たされ、感動で胸がいっぱいになるのを感じた。
霊夢は、美しい。
艶があり黒く長い髪、真珠みたいに白い肌、高い鼻筋、薄い唇、大きな黒い目。
どこを切り取っても素晴らしいコレクションになるだろう。
でももったいないから切り取るなんて事は絶対しないのだ。
せっかく素晴らしいパーツが、完璧な位置に配置されているのだから。
霊夢は一つに合わさった人体の総合芸術作品だった。
それが生きており、さらに自分の友達である事を、魔理沙はとてもとても幸運な事だと思っていた。
そして努力し、たまにはこうしてその身体を自由にできる関係となった。
でも霊夢は意識がある状態だったら、きっと恥ずかしがってこんな事はさせてくれないだろう。
うわー私ついに霊夢の身体に跨っちゃったぜー。
これからお前の身体を思うまんまに弄り回しちゃうんだぜー。
おわーほっぺたすべすべだなー。
ぺちぺち。
ちょっと頬を叩く。
霊夢は相変わらず白目を剥いてピクピクしているだけで、抵抗はしない。
腕は大の字を書いて床に落ちている。
この細腕で妖怪の胴体に風穴を空ける事もあるというのに。
通常だったら不可能な事をしている事に興奮する。
魔理沙は霊夢の口の端から溢れる泡を啜った。
「んー可愛いぜ霊夢」
霊夢の匂いと、そして慣れた味がする。
さらに、巫女服を剥がそうとしながら、久しぶりの霊夢の身体の感触を楽しんだ。
服の中で魔理沙の手が身体の頂点に触れるたび、収まりつつあった霊夢の痙攣が激しくなる。
「おー喜んでる喜んでる。そんなに気持ちいいのか。気持ちいいだろうな。
脳みその電気だか薬だかが暴走してんだもんな。
お前、好きだもんなコレ」
魔理沙は魔法使いだが、まだ人間で魔力も弱い。
そんな魔理沙が幻想郷で幅を利かせる事ができるのは、ひとえに魔力の使い方と、その補い方を研究し尽くしているからだった。
足りない魔力を補うというのは、自分の力を増やす事ではない。
他人の力を自分のものにできればよい。
魔理沙は他者の心を掌握する事が最も効率よく安全性を高める事だと思い、研究を続けてきた。
人の心は脳の作用で決まる。
脳の作用は物質でコントロールできる。
魔理沙は科学を得意としている。
あるキノコから快楽性と常習性のある物質を抽出し、人体に害にならない様に加工して、香水の要領で身体に吹き付けて対象に接近する。
そのキノコを食べさせても良い効果がある。
対象の身体に接触できる関係になれれば、直接粘膜に物質を塗りこむ事で更に劇的な効果を発揮する。
涙を流して絶叫しながら痙攣を起こすほどに。
これらの長年の研究の努力の甲斐により、霊夢もアリスもパチュリーも、魔理沙を大好きになってくれた。
そして魔理沙は、恋の魔法使いと呼ばれている。
魔理沙に危害を加えるということは、幻想郷でも力のある彼女らを敵に回すということだ。
そして、その秘密が自分の研究にある事は誰にも教えられない。
今日は、長年の夢が叶ったので真っ先に霊夢のところに飛んできた。
その快楽物質をキノコ等から抽出する方法ではなく、錬金術として産出する方法についに成功したのだ。
濃度と純度は段違いである。
結果がこれ。霊夢のお茶に微小な結晶片を混ぜただけで、僅かな時間でこのざまだ。
霊夢ばっかり喜ばせてもなんだ。自分も楽しもう。
魔理沙は良いアイディアを思いついた。
こいつに自分の日記を読み聞かせてやろうか。
グッチャグッチャに弄ってやりながら。
何日か続けてやったらパブロフの犬みたいになるんじゃないかな。うふ。うふふふ。
善は急げだ。さて、日記はどこにやったっけな。さっきの部屋か。
いったん霊夢の身体から手を離し、魔理沙は弾幕勝負が行われた部屋へ繋がる扉を開けた。
部屋の真ん中に、変な女が立っていた。
「っ!」
両腕と片足を少し上げたグリコのポーズ。
両手には霊夢の日記と、未使用の式符が数枚握られていた。
「美味しい美味しい魔理沙!」
「…こ…こいしか?」
「美味しいおいしい魔理沙!」
「おい、ビビらせんなよ…。ずっと居たのか?」
「キノコキノコキノコの魔理沙!」
こいしの瞳は完全に見開き、こっちを向いてはいるがどこを見ているか全くわからない。
たまに姿を見せるこいしの顔は、いつもこんな感じで狂気に満ちている事を思い出した。
「いやあの薬はキノコじゃねぇよ。錬金術で作ったもんだ。お前もやってみるか。
にしても相変わらず神出鬼没だな。今は言葉は通じるのか?」
「霊夢の弾幕って何なのかなって思ったの」
「…なあ、その霊夢の日記、返してくれないかな。それは霊夢の大事なもんなんだ」
こいしに見られないように、さりげなく八卦炉を手にする。
こいしが笑った。
「忘れちゃえ」
無意識を操る妖怪、古明地こいしの姿が認識できなくなった。
自分は縁側の雨戸を閉めに来たのだった。
まだ外はすこし寒い。
これから霊夢の服を剥ぐというのに、それでは少し可愛そうだった。
魔理沙は神社中の雨戸を閉めきると、霊夢が横たわる寝室に向かって歩いていった。
久しぶりに霊夢を抱くことを思うと、心臓は早鐘を打つようだった。
部屋に戻ると、霊夢は涙を流していた。
おそらく全身から体液が溢れ出ているのに違いない。
霊夢の涙は、しょっぱくて美味しかった。
あの慣れた味もする。
霊夢を虜にさせている物質の味。
魔理沙は自分にも薬が効いてくるのを感じながら、自分の服を脱ぎ始めた。
まあとりあえず、相思相愛のようでなによりです。
でも自分は好きになれないなー
幻想卿←幻想郷 よくある誤字です。これで興ざめする人もいるのでご注意を。
もう少し深くてもよかったかも。
外道展開かミ?