僕は香霖堂の店主だ。
で、半妖を100年ほどやっている。
これだけ長いこと生きればいろんなことあったさ。時には命にかかわる窮地もあったが、なんとか切り抜けてきた。自慢じゃないが、これを読んでいる大抵の読者よりは経験値が高いと自負している。
さて。
そんな僕も今回ばかりは全くお手上げだ。
外には大勢、見たわけではないが、とにかく大勢の人間が店を囲んでいる。僕が逃げ出さないようにだ。
で、目の前に2人。1人は霧雨の親父さん。僕の師匠であり親でもある人だ。
1人は魔理沙。目を真っ赤にして泣き腫らしている。
そして・・・・・・、彼女が撫でているのは、彼女の若干膨らんだお腹だ。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
いや、断じて違いますよ。それは誤解です。魔理沙は僕にとって娘みたいなものでして。手を出すわけないじゃないですか。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
親父さんの早とちりですよ。確かに魔理沙は1,2か月ここで働いてました。はい、全くその通りです。けどそれだけで認知しろだなんて。そんなこと言ったら女性従業員なんて怖くて雇えませんよ。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
いや、父親が誰なのかは僕には分かりかねます。心当たりは全くないです。はい。けど僕じゃないんです。僕ではないんです。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
あのー、そろそろお開きにしてみては。いやぁもう遅くなってますし。ほら、最近物騒ですし、ね。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
あーーーーー、もう、だから!僕じゃないんです!本当なんです!信じてください!
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
親父 「で?」
霖之助「っ!!はいっ!?」
親父 「どう落とし前をつけるんだ。」
・・・どうやら僕の"心の"弁明は全く聞こえてないらしい。誰かさとり妖怪呼んできて。
・
・・
・・・
ことの経緯を説明する必要がある。いや、全くない。全く必要はないし、僕は無実だが、それを確認するために説明させてくれ。
今日の昼過ぎであったか。いきなりドアが開いて、親父さんと魔理沙が入ってきた。この時既に魔理沙は泣き腫らしていた。で、親父さんが、娘が妊娠した、どういうつもりだ、と恫喝してきて今に至るわけだ。
・・・いや、本当にこれだけ、本当にこれだけだ。読者の期待を裏切って悪いが、魔理沙とウフフの展開があったとかそういうのは全くない。
しかし魔理沙も魔理沙だ。僕の無実は彼女には分かっているはずだ。ん?そうだ!魔理沙だ!魔理沙だよ!!
僕は彼女に目を向ける。
頼む!親父さんに誤解だと説明してくれ!実際、本当に、真実、真っ白、何もないだろ!なぁ!
魔理沙「こーりん・・・。」
そうだ、そうだよ、魔理沙。やっと説明してくれる気になったか。僕は最初から魔理沙を信じてた。ただ少し遅い気がするが。
魔理沙「ふつつかものですが、よろしくお願いします(ペコッ)。」
(ペコッ)、じゃねぇぇぇぇえ!!!何だよ!何してくれてんだよ!そんなこと言ったら親父さん完全に、
親父 「やはり・・・霖之助ぇ・・・」
霖之助「ち、違います!!本当なんです!!」
ズカっ!!
視界が真っ暗になる。顔面を殴られたらしい。吹っ飛ぶ刹那、僕の脳裏に浮かんだのは、風見幽香も頭突きされた時、こんな感じだったのだろうか、ということであった。
魔理沙「こーりん!!やめて、パパ!!・・・親父。」
親父 「お前はこれほどまでに・・・。」
ここ、ドラマでは感動のシーンなんだろうけど、冤罪だ。読者の諸君、これは冤罪だ。それでも僕はやってない、だ。
というより、お前ら親子の縁切ったんじゃなかったのか。なんでこんな時だけ、父娘やってるんだよ。そういうのは本当の父親のところでやってくれ、頼むから。
親父 「・・・魔理沙に免じて、これで勘弁してやる。
・・・・・・式の段取りは任せておけ。」
魔理沙「ありがとう、パパ!!・・・親父。」
お任せしないでぇぇぇえ!!いや、完全無理です、無理無理!本当に無罪なんです、僕はぁぁ!!
魔理沙もキャラ変わりすぎ!!まずい!本当にマズイ!!
僕のそんな悲痛な"心の"叫びも空しく、親父さんは出ていく。残るのは僕と魔理沙だ。
僕は魔理沙を見る。この女、満面の笑みだ。というか、これ魔理沙じゃないよね。マミゾウさんだよね。化けてるだけだよね。
霖之助「マミゾウさん、流石に心臓に・・・」
魔理沙「何であの狸が出てくるんだ。」
霖之助「いや、本当に勘弁してください。こっち驚きましたから。」
魔理沙「・・・本当に認知しないつもりか?」
は?何ぬかしやがる、この不良娘がっ!!
霖之助「いったいどういうつもりだ!?やっていいことと悪いことの区別が・・・」
魔理沙「冗談、じゃないぜ。触ってくれ。」
彼女は僕の手をお腹に導く。
魔理沙「分かるだろ、私とコーリンの子供だぜ。」
霖之助「・・・・・・。」
いや、悪いけど全く分からん。本当に分からん。ただ腹パンする気にはなれなかった。したいけど。
霖之助「いいかい、魔理沙。冷静になって考えるんだ。子供を作るというのはね、然るべきプロセスを踏まなくてはならなくてね、」
魔理沙「コーリンは覚えていないのか。あの晩。」
・・・今、何つった?
霖之助「え、いや、あの晩、て、いつ?」
自分でも分かるほど血の気が引く。晩、ということは魔理沙が泊まった日、つまり宴会後にそのまま寝てしまった日で。いやいや早まるな森近霖之助。僕が一晩でも裸で目覚めた時があったか?ないよな。うん、ない。
魔理沙「私はあったぜ。」
は?え?それはつまり?
魔理沙「あの時、私は確信したぜ。こうなることを。」
いや、ねーよ、なんだよ、いつだよ。
霖之助「話が見えないのだが。それはいったい、」
霊夢 「霖之助さぁーん!!」
霖之助「霊夢!?」
ああ、そうだ、霊夢だ。幻想郷の巫女だ。異変を解決する巫女だ。さぁ霊夢、僕に起きている異変を解決してくれ。
霊夢 「話は聞かせてもらったわ!!祝詞は博麗神社が引き受けるわ!」
アリス「さぁ魔理沙。今すぐ寸法を測るわよ。ドレスができるころにはお腹が大きくなってるから少し難しいわね。」
萃香 「酒ならまかせろぉ。すんげぇ酒虫、つかまえてきてやる、ぜぇ?」
にとり「盟友!夜には花火を打ち上げてあげよう。何、遠慮はいらない!盟友と私の仲じゃないか。」
鈴仙 「できちゃったものはしょうがないですけど、魔理沙さんの年での妊娠は子宮が育ってなくて危険なんです。普段は人里の診療所でいいですが、一度は永遠亭にお越しください。帝王切開になったらこっちのほうが絶対いいですし。」
魔理沙「みんな。へへっ、ありがとよ。」
何だ、この波状攻撃。本当に誤解なんだ。誰か僕を信じてくれ。
そんなことを言い出せぬまま、宴会になってしまった。
--------------------------------------------------------------------
難しい問題に当たったらどうするか。
人は言う、教科書見ろ、参考書読め、マニュアル読め、と。
しかし事、医学に当たってはそんなものは役に立たない。患者の状態はそれこそ千差万別、それに対応する器量無くして医師は務まらない。
私、蓬莱の天才セクシー女医こと八意永琳はそれを承知で敢えて言う。
誰かマニュアル頂戴ぃぃ・・・!!
ことの経緯をざっと説明しよう。私が今持っているのはカルテ、霧雨魔理沙(職業:シーフ)の診断結果だ。このシーフは山の神社で窃盗行為をしでかしたものの直ぐに発覚、窮地に陥ったところを森近霖之助(職業:商人)に何とか救ってもらう。が、ただで助けると思ったら大間違い、シーフは商人の毒牙にかかって毎夜バッコンバッコンされてしまい、その甲斐あってめでたくオメデタ。それから幻想郷を巻き込んで、東方プロジェクト第※※弾:東方できっちゃったで抄がスタートし、その一環として永遠亭で診察を受け、現在に至る、と。
と、まぁこれが現在知られている流れだが、私の診断結果はその噂にノーを突きつけている。
永琳 「優曇華。」
優曇華「何でしょう、師匠。・・・まさかマズイ病気でも?」
永琳 「ああ、そうじゃなくて。魔理沙さんの式ってどれくらい進んでるの?」
優曇華「ああ、心配いりませんよ。幻想郷中それで持ちきりですよ。みんな魔理沙さんのことが・・・というよりお祭りが好きなんですね。紅魔館が披露宴会場の貸し出しを引き受けてくれましたし、萃香さんが至高の酒虫をグルメ界から取ってきてくれました。幽香さんが式場の設営に協力してくれて、アリスさんがドレス作ってくれて、白玉楼が・・・、どうしました師匠?」
あかん、これ、完全にあかんやつや・・・。
優曇華「師匠、何かまずいことでも」
永琳 「ええと、とりあえずこれ見て。」
私はカルテを渡す。魔理沙のエコー診断の結果だ。
優曇華「え、え~、うん、師匠~、ちょっと分からないんですが、この画像だとどれが赤ちゃんですか?」
我が弟子ながらいい質問だ。
永琳 「それは私も聞きたいわ。だって”いない”んだもの。」
優曇華「いない?」
想像妊娠、という言葉をご存じだろうか。今の外の世界(日本限定)では聞きなれない言葉かもしれない。その昔、男しか家督を継げない時代、女たちには子供、特に男子を生むことが求められた。しかし生物の都合上、なかなか妊娠できないケースも存在する。そのようなストレス下、妊娠したいと願う女性たちの強い思い込みで受精していないのにお腹が膨らんでしまう。そういう現象があるのだ。ちなみに外の世界(日本限定)では社会情勢の変化とエコー診断装置の発達で、そういう疾患はほとんど見られない。
が、ここは幻想郷だ。
優曇華「え、えと、つまり魔理沙さん?」
永琳 「ええ、想像妊娠。」
私たちは同時に待合室をみる。
喜色満面の魔理沙の隣にいるのが博麗霊夢、式の段取りをしている。その隣でドレスのデザインをするのがアリスだ。くたびれた様子の森近霖之助のそばで取材しているのがガセネタ文屋、更に離れたところで聖白蓮と豊郷耳神子が姓名判断で激論を交わしている、大方信者獲得に利用しようという腹だろう。
が、彼女たち全員の目論見は粉砕される。このたった一つの真実で。
私は優曇華をみる、優曇華は私を見る、そして二人で目を逸らす。
言いにくいっ・・・!!
・
・・
・・・
とりあえず、診断結果は後日ということで彼女たちには帰ってもらった。医師として業務上、非常に問題のある行為だが、そこは幻想郷だし。
で、我々は家族会議だ。
永琳 「議題はさっき言ったとおりよ。問題は"誰がこの真実を伝えるか"よ、もこたん。」
優曇華「魔理沙さんの結婚は幻想郷中に注目されています。診断結果は仕方ないとはいえ、各個人団体の盛り上がりをなるべく軟着陸させる必要があります、妹紅さん。」
輝夜 「これは相当高度な駆け引きが要求されるわね、伝達係の人選は慎重に行う必要があるわ、もこたん。」
てゐ 「もこたんがんばれうさ。」
妹紅 「・・・・・・。」
妹紅 「やんねーよ!!!」
・・・空気が読めない女だ。もこたんマジKY。
妹紅 「誰がKYだ!?」
永琳 「いちいち独り言に反応しないで、もこたん」
妹紅 「もこたん言うな!!」
輝夜 「もーーーーう、じゃあどうしろっていうのよ?」
妹紅 「お前がやれ!!てかさぁ、私、あれだぞ。永遠亭が緊急事態っていうから来たのにさ。」
輝夜 「うん、そうよ」
妹紅 「そうよじゃねぇよ!」
永琳 「まぁまぁ聞きなさい。」
妹紅 「あ?」
永琳 「私たちはね、月からきた新参者で。特に儚月抄以降は八雲の受けがよくないのよ。」
妹紅 「まぁ」
永琳 「でね、世間体がある私たちよりボッチに定評があるあなたに頼んだってわけ。」
妹紅 「ぶっ殺す!!」
輝夜 「痛っ!!なんで私ぶつのよ!?」
妹紅 「むかついたから。」
輝夜 「この・・・ボッチのくせに!」
妹紅 「けーねとかいるよ!というかさぁ、働いてないやついるじゃん。こういう時こそ働かせろよ。」
てゐ 「この任務、輝夜には荷が重いうさ」
永琳 「ほら、タケノコあげるから♪」
妹紅 「いらねーよ!!」
輝夜 「キノコ派だったの?」
妹紅 「そういう意味じゃねーよ!!」
てゐ 「じゃあ姫を3日間サンドパックにしていいうさ」
妹紅 「よし!」
輝夜 「ふぇ!?」
---------------------------------------------
全く嫌な役を押し付けられた。慣れてるが。
私の名前は藤原妹紅、健康マニアの焼き鳥屋だ。
私の目の前にいるのは好対照な2人。
1人は薀蓄メガネ男、やたらと勝ち誇った顔をしている。
1人は人里の爺さん、霧雨の親父らしい。今にも昇天しそうな顔だ。
親父 「今・・・のは・・・その」
妹紅 「冗談でこんなこと言いませんよ。」
親父 「バカな・・・」
それについては同情する。家出娘と妊娠を機に和解して結婚準備までしてたんだからな。初孫も楽しみにしてたんだろう。が、天国からつるべ落とし、て感じだろう。
霖之助「ですから言ったじゃないですか。僕とは何もないと。」
笑顔で言うなや。まぁこいつも身に覚えがない件で責任取らされかけたんだ。一言二言くらい言いたいのかもしれない。
親父 「この話、誰にも話してないな?」
妹紅 「先に言っとくが、そういうのには感心できねぇな。」
多少ぶっきらぼうに言っとく。男言葉と女言葉を使い分けるのも処世術の嗜みだ。
親父 「頼む!もう退けないところまで来てるのだ!どうかこのまま・・・」
妹紅 「黙ってどうこうなると思うか。想像妊娠という事実は変わらねぇって。」
丁寧語は決して使わない。この親父、相当やり手で隙を見つけて要望をねじ込んでくる奴だ。
霖之助「親父さん、ですから・・・」
親父 「そうだ!今から妊娠すれば」
妹紅 「アンタ、本当に父親か。」
この男には世間体しかないらしい。
親父 「世間体しか頭にないというのは誤解だぞ。」
自覚はあったのか。
親父 「今回の一件は幻想郷中でお祭り騒ぎだ。そしてその発端は娘の妊娠だ。で、もし、だ。今回の一件が娘の勘違いということになったらどうなる?娘は幻想郷中の笑いものだ。娘の今後の生活はどうなる?こんな事件を起こした娘を娶る奇特な男はいるか?私はな、娘の幸せを思ってだな。」
妹紅 「娘の幸せを思って、元弟子には婚前交渉の濡れ衣を着せるわけか。」
私は敢えて軽蔑したように言ってやった。というか、この事態は簡単に予測できた。どいつもこいつもわが身だけが可愛い。1000年前から何も変わりやしねぇ。
メガネ男は何も言わないが、目でよく言ってくれたと伝えてくる。今度何かふんだくってやろう。
親父 「頼む!この通りだ!どうか!どうか!今回のことは内密に!」
土下座する親父。が、読者の諸君、人生の先輩から言わせてもらおう。商人の土下座ほど価値がないものはない。
霖之助「さて、魔理沙には僕から話しておきましょう。」
妹紅 「ああ、頼む。」
親父 「霖之助!!」
土下座などなかったかのように霖之助は立つ。商人に土下座は通用しない。
親父 「待て、霖之助。お前は娘をどう思っている?」
霖之助「その手は僕には通じませんよ。」
妹紅 「私も帰るか。」
親父 「貴様らそれでも人間か!?」
霖之助「半妖です。」
妹紅 「健康マニアの焼き鳥屋だ。」
我々は部屋を後にする。ずいぶん無礼なように思われるかもしれないが、礼儀正しく接するととんでもない目に合う。これが過去の教訓だ。
霖之助「とは言ったものの。」
妹紅 「何だ、メガネ。」
霖之助「霖之助だ。」
妹紅 「何それ、キモい。いきなりファーストネームで呼べなんて。」
霖之助「そういう意図で行ったんじゃないんだが。」
妹紅 「冗談が通じないやつだな。」
霖之助「・・・話進めていいか。」
妹紅 「・・・すまん。」
これだから真面目系はやりにくい。
霖之助「魔理沙は何故妊娠したと思いこんだんだろう。」
妹紅 「さぁな。」
それは私も疑問だった。想像妊娠はストレス性の要因、つまり思い込みがかなり病態に影響する。思い込むにしても・・・
妹紅 「一服盛られてやられたんだろうな。」
霖之助「女性がそういうことをいうのはどうかと思うが。」
妹紅 「関係ねぇよ。男がどんな幻想もってるか知らないが、女はみんなこんな感じだ。」
霖之助「では外の世界の男の願望が幻想入りしてもおかしくないな。」
妹紅 「ちげえねぇや。」
霖之助「で、だ。」
真面目な空気だな。
霖之助「僕自身、魔理沙をあまり傷つけたくない。結婚する気もないが。」
妹紅 「ああ。」
霖之助「魔理沙には僕から話す。霊夢たちには君から話してもらえないか。」
妹紅 「だが、断る。・・・と言いたいところだがな。」
この男、意外に紳士だな。
ま、そうなるだろうとは思っていた。既にけーねに主だった人間を集めてもらってる。
妹紅 「サービス、だぞ。」
霖之助「それは違う人の動画ネタだ。」
フレーズにも著作権あるのかな。
霖之助「全てが終わったらいっぱいおごらせてくれ。」
妹紅 「おう。」
さて、寺子屋に行くか。気は進まないが。
・
・・
・・・
霊夢 「えーーーーーーー!?」
まぁこうなるよな。
霊夢 「じゃあお賽銭はどうなるのよ!?」
前言撤回。
アリス「どうしましょう。」
妖夢 「とりあえず式は中止でしょうね」
れみぃ「つまらないわね。・・・ん?なんで私、ひらがな表記なの?」
咲夜 「大人の都合です。」
幽香 「今からサクッとヤッちゃえばいいんじゃない?」
萃香 「いいねぇ。おっちゃん、鬼印のバイアグラあげちゃう。」
パンパン!私は大きく手を叩く。
妹紅 「ああ、いいか。とりあえず結婚はなしだ。で、想像妊娠というのはストレスで悪化する場合もある。みんな魔理沙をしばらくそっとしておくように。いいか?」
萃香 「バイアグラ・・・」
妹紅 「黙れ、燃やすぞ」
妖夢 「少しよろしいでしょうか?」
妹紅 「何だ。」
妖夢 「魔理沙さんは何故、」
妹紅 「ああ、却下。」
妖夢 「非常に残念です。」
とはいえ、彼女たちもぱらぱら帰り始める。事態が事態ならしょうがない、という感じだ。
妹紅 「霖之助、うまくやれよ」
誰とはなしにそう言った。
------------------------------------------------
僕が正座すると魔理沙も正座した。
まるで今から自害する姫君のようだ。
霖之助「魔理沙、大事な話がある。」
魔理沙「もういい。ばれてるんだろ。」
僕は若干鼻白む。まさか・・・
魔理沙「私もさ、そうかもしれないとは思ってたんだ。処女受胎なんて今時流行らないし。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「人里の医師が大騒ぎしてさ、親父にも伝わってさ、いろんな奴に問い詰められてさ。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「で、ちょっと思ったんだ。このままコーリンと結婚するのもいいかな、て。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「悪いことだとは思ってたさ。でも期待の方が勝っちまった。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「永遠亭に行ったとき、診断結果が出ない時点で分かってたんだ。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「ばれたなって。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙は泣かない。でも泣きそうなのは分かる。
魔理沙「なぁ霖之助。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「私のこと嫌いか?」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「・・・・・・。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「・・・・・・。」
沈黙が続く。
魔理沙「もういくぜ。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「もう顔を出さないから。」
彼女は背中を向けて退出していく。
霖之助「魔理沙。」
魔理沙「・・・・・・何だよ?」
霖之助「嫌いじゃない。」
魔理沙「じゃあ何だよ、結婚してくれるのか。」
霖之助「それは・・・・・・。」
魔理沙「してくれないんだろ。」
霖之助「魔理沙。」
魔理沙「そんなのはいらないんだよ。」
背中を向けているため、表情は見えない。が、泣いているのは分かる。
魔理沙「今から結婚してくれるのか?キスしてくれるのか?抱いてくれるのか?」
霖之助「魔理沙。」
魔理沙「肝心なところは全部だめじゃないか。」
霖之助「魔理沙。」
魔理沙「あるいは。」
彼女は振り向く。意外なことに泣いていない。
魔理沙「今から襲ってみるか。」
八卦路をこっちに向けている。至近距離。彼女がその気なら僕にはよけられないだろう。
魔理沙「選ばせてやるぜ。素直に私を抱くか、撃たれてから私に抱かれるか。」
霖之助「違うな。」
魔理沙「私は本気だぜ」
霖之助「そうじゃない。撃った後、君は僕を抱けないんだろ。」
魔理沙「・・・・・・気づいてたのか?」
霖之助「ハッタリだよ」
彼女は若干動揺する。
霖之助「あの晩、というのは僕にはいつかは分からないが。僕が察するに、僕に一服盛った後、君は既成事実を作ろうとしたのではないか?」
魔理沙「・・・・・・。」
霖之助「で、君はできなかった。できなかったことに相当なストレスを感じていた。それが想像妊娠の理由だ。」
妹紅には分かるまい。でも僕には分かる。彼女がストレスを感じるとしたら、行為の結果に対してではなく、行為そのものができなかったからだ。
魔理沙「分かってるならさ、」
霖之助「断る。」
僕は話を打ち切る。これ以上・・・・・彼女に惨めな思いをさせたくない。
その晩、魔理沙は僕の家に泊まった。もちろん、何もなく、だ。彼女のプライドからして最低限、男の家に泊まるくらいは達成しておきたいところだろう。でなくては霊夢たちに顔を合わせられない。
霖之助「しかし。」
今回の一件の気持ちの整理がつかない。でも前の日常には徐々に戻りかけている。魔理沙は僕の店で仕事をし、霊夢はお茶を飲みに来る。その他様々な人妖が冷やかしに来ては去っていく。元通りだ。
霖之助「このままの日が続きますように。」
僕は1人、神に祈った。特定の宗教は持ってないが、どこかの神様が聞いてくれるだろう。
ばぁーーーーん!!
早苗 「話は聞かせてもらいました!!魔理沙さん!ご結婚なら是非守矢神社で・・・」
その後、気絶する僕の目に最後に映ったのは夢想封印とマスタースパークのコンボ攻撃の光だった。
で、半妖を100年ほどやっている。
これだけ長いこと生きればいろんなことあったさ。時には命にかかわる窮地もあったが、なんとか切り抜けてきた。自慢じゃないが、これを読んでいる大抵の読者よりは経験値が高いと自負している。
さて。
そんな僕も今回ばかりは全くお手上げだ。
外には大勢、見たわけではないが、とにかく大勢の人間が店を囲んでいる。僕が逃げ出さないようにだ。
で、目の前に2人。1人は霧雨の親父さん。僕の師匠であり親でもある人だ。
1人は魔理沙。目を真っ赤にして泣き腫らしている。
そして・・・・・・、彼女が撫でているのは、彼女の若干膨らんだお腹だ。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
いや、断じて違いますよ。それは誤解です。魔理沙は僕にとって娘みたいなものでして。手を出すわけないじゃないですか。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
親父さんの早とちりですよ。確かに魔理沙は1,2か月ここで働いてました。はい、全くその通りです。けどそれだけで認知しろだなんて。そんなこと言ったら女性従業員なんて怖くて雇えませんよ。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
いや、父親が誰なのかは僕には分かりかねます。心当たりは全くないです。はい。けど僕じゃないんです。僕ではないんです。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
あのー、そろそろお開きにしてみては。いやぁもう遅くなってますし。ほら、最近物騒ですし、ね。
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
あーーーーー、もう、だから!僕じゃないんです!本当なんです!信じてください!
親父 「・・・。」
魔理沙「・・・。」
霖之助「・・・。」
親父 「で?」
霖之助「っ!!はいっ!?」
親父 「どう落とし前をつけるんだ。」
・・・どうやら僕の"心の"弁明は全く聞こえてないらしい。誰かさとり妖怪呼んできて。
・
・・
・・・
ことの経緯を説明する必要がある。いや、全くない。全く必要はないし、僕は無実だが、それを確認するために説明させてくれ。
今日の昼過ぎであったか。いきなりドアが開いて、親父さんと魔理沙が入ってきた。この時既に魔理沙は泣き腫らしていた。で、親父さんが、娘が妊娠した、どういうつもりだ、と恫喝してきて今に至るわけだ。
・・・いや、本当にこれだけ、本当にこれだけだ。読者の期待を裏切って悪いが、魔理沙とウフフの展開があったとかそういうのは全くない。
しかし魔理沙も魔理沙だ。僕の無実は彼女には分かっているはずだ。ん?そうだ!魔理沙だ!魔理沙だよ!!
僕は彼女に目を向ける。
頼む!親父さんに誤解だと説明してくれ!実際、本当に、真実、真っ白、何もないだろ!なぁ!
魔理沙「こーりん・・・。」
そうだ、そうだよ、魔理沙。やっと説明してくれる気になったか。僕は最初から魔理沙を信じてた。ただ少し遅い気がするが。
魔理沙「ふつつかものですが、よろしくお願いします(ペコッ)。」
(ペコッ)、じゃねぇぇぇぇえ!!!何だよ!何してくれてんだよ!そんなこと言ったら親父さん完全に、
親父 「やはり・・・霖之助ぇ・・・」
霖之助「ち、違います!!本当なんです!!」
ズカっ!!
視界が真っ暗になる。顔面を殴られたらしい。吹っ飛ぶ刹那、僕の脳裏に浮かんだのは、風見幽香も頭突きされた時、こんな感じだったのだろうか、ということであった。
魔理沙「こーりん!!やめて、パパ!!・・・親父。」
親父 「お前はこれほどまでに・・・。」
ここ、ドラマでは感動のシーンなんだろうけど、冤罪だ。読者の諸君、これは冤罪だ。それでも僕はやってない、だ。
というより、お前ら親子の縁切ったんじゃなかったのか。なんでこんな時だけ、父娘やってるんだよ。そういうのは本当の父親のところでやってくれ、頼むから。
親父 「・・・魔理沙に免じて、これで勘弁してやる。
・・・・・・式の段取りは任せておけ。」
魔理沙「ありがとう、パパ!!・・・親父。」
お任せしないでぇぇぇえ!!いや、完全無理です、無理無理!本当に無罪なんです、僕はぁぁ!!
魔理沙もキャラ変わりすぎ!!まずい!本当にマズイ!!
僕のそんな悲痛な"心の"叫びも空しく、親父さんは出ていく。残るのは僕と魔理沙だ。
僕は魔理沙を見る。この女、満面の笑みだ。というか、これ魔理沙じゃないよね。マミゾウさんだよね。化けてるだけだよね。
霖之助「マミゾウさん、流石に心臓に・・・」
魔理沙「何であの狸が出てくるんだ。」
霖之助「いや、本当に勘弁してください。こっち驚きましたから。」
魔理沙「・・・本当に認知しないつもりか?」
は?何ぬかしやがる、この不良娘がっ!!
霖之助「いったいどういうつもりだ!?やっていいことと悪いことの区別が・・・」
魔理沙「冗談、じゃないぜ。触ってくれ。」
彼女は僕の手をお腹に導く。
魔理沙「分かるだろ、私とコーリンの子供だぜ。」
霖之助「・・・・・・。」
いや、悪いけど全く分からん。本当に分からん。ただ腹パンする気にはなれなかった。したいけど。
霖之助「いいかい、魔理沙。冷静になって考えるんだ。子供を作るというのはね、然るべきプロセスを踏まなくてはならなくてね、」
魔理沙「コーリンは覚えていないのか。あの晩。」
・・・今、何つった?
霖之助「え、いや、あの晩、て、いつ?」
自分でも分かるほど血の気が引く。晩、ということは魔理沙が泊まった日、つまり宴会後にそのまま寝てしまった日で。いやいや早まるな森近霖之助。僕が一晩でも裸で目覚めた時があったか?ないよな。うん、ない。
魔理沙「私はあったぜ。」
は?え?それはつまり?
魔理沙「あの時、私は確信したぜ。こうなることを。」
いや、ねーよ、なんだよ、いつだよ。
霖之助「話が見えないのだが。それはいったい、」
霊夢 「霖之助さぁーん!!」
霖之助「霊夢!?」
ああ、そうだ、霊夢だ。幻想郷の巫女だ。異変を解決する巫女だ。さぁ霊夢、僕に起きている異変を解決してくれ。
霊夢 「話は聞かせてもらったわ!!祝詞は博麗神社が引き受けるわ!」
アリス「さぁ魔理沙。今すぐ寸法を測るわよ。ドレスができるころにはお腹が大きくなってるから少し難しいわね。」
萃香 「酒ならまかせろぉ。すんげぇ酒虫、つかまえてきてやる、ぜぇ?」
にとり「盟友!夜には花火を打ち上げてあげよう。何、遠慮はいらない!盟友と私の仲じゃないか。」
鈴仙 「できちゃったものはしょうがないですけど、魔理沙さんの年での妊娠は子宮が育ってなくて危険なんです。普段は人里の診療所でいいですが、一度は永遠亭にお越しください。帝王切開になったらこっちのほうが絶対いいですし。」
魔理沙「みんな。へへっ、ありがとよ。」
何だ、この波状攻撃。本当に誤解なんだ。誰か僕を信じてくれ。
そんなことを言い出せぬまま、宴会になってしまった。
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難しい問題に当たったらどうするか。
人は言う、教科書見ろ、参考書読め、マニュアル読め、と。
しかし事、医学に当たってはそんなものは役に立たない。患者の状態はそれこそ千差万別、それに対応する器量無くして医師は務まらない。
私、蓬莱の天才セクシー女医こと八意永琳はそれを承知で敢えて言う。
誰かマニュアル頂戴ぃぃ・・・!!
ことの経緯をざっと説明しよう。私が今持っているのはカルテ、霧雨魔理沙(職業:シーフ)の診断結果だ。このシーフは山の神社で窃盗行為をしでかしたものの直ぐに発覚、窮地に陥ったところを森近霖之助(職業:商人)に何とか救ってもらう。が、ただで助けると思ったら大間違い、シーフは商人の毒牙にかかって毎夜バッコンバッコンされてしまい、その甲斐あってめでたくオメデタ。それから幻想郷を巻き込んで、東方プロジェクト第※※弾:東方できっちゃったで抄がスタートし、その一環として永遠亭で診察を受け、現在に至る、と。
と、まぁこれが現在知られている流れだが、私の診断結果はその噂にノーを突きつけている。
永琳 「優曇華。」
優曇華「何でしょう、師匠。・・・まさかマズイ病気でも?」
永琳 「ああ、そうじゃなくて。魔理沙さんの式ってどれくらい進んでるの?」
優曇華「ああ、心配いりませんよ。幻想郷中それで持ちきりですよ。みんな魔理沙さんのことが・・・というよりお祭りが好きなんですね。紅魔館が披露宴会場の貸し出しを引き受けてくれましたし、萃香さんが至高の酒虫をグルメ界から取ってきてくれました。幽香さんが式場の設営に協力してくれて、アリスさんがドレス作ってくれて、白玉楼が・・・、どうしました師匠?」
あかん、これ、完全にあかんやつや・・・。
優曇華「師匠、何かまずいことでも」
永琳 「ええと、とりあえずこれ見て。」
私はカルテを渡す。魔理沙のエコー診断の結果だ。
優曇華「え、え~、うん、師匠~、ちょっと分からないんですが、この画像だとどれが赤ちゃんですか?」
我が弟子ながらいい質問だ。
永琳 「それは私も聞きたいわ。だって”いない”んだもの。」
優曇華「いない?」
想像妊娠、という言葉をご存じだろうか。今の外の世界(日本限定)では聞きなれない言葉かもしれない。その昔、男しか家督を継げない時代、女たちには子供、特に男子を生むことが求められた。しかし生物の都合上、なかなか妊娠できないケースも存在する。そのようなストレス下、妊娠したいと願う女性たちの強い思い込みで受精していないのにお腹が膨らんでしまう。そういう現象があるのだ。ちなみに外の世界(日本限定)では社会情勢の変化とエコー診断装置の発達で、そういう疾患はほとんど見られない。
が、ここは幻想郷だ。
優曇華「え、えと、つまり魔理沙さん?」
永琳 「ええ、想像妊娠。」
私たちは同時に待合室をみる。
喜色満面の魔理沙の隣にいるのが博麗霊夢、式の段取りをしている。その隣でドレスのデザインをするのがアリスだ。くたびれた様子の森近霖之助のそばで取材しているのがガセネタ文屋、更に離れたところで聖白蓮と豊郷耳神子が姓名判断で激論を交わしている、大方信者獲得に利用しようという腹だろう。
が、彼女たち全員の目論見は粉砕される。このたった一つの真実で。
私は優曇華をみる、優曇華は私を見る、そして二人で目を逸らす。
言いにくいっ・・・!!
・
・・
・・・
とりあえず、診断結果は後日ということで彼女たちには帰ってもらった。医師として業務上、非常に問題のある行為だが、そこは幻想郷だし。
で、我々は家族会議だ。
永琳 「議題はさっき言ったとおりよ。問題は"誰がこの真実を伝えるか"よ、もこたん。」
優曇華「魔理沙さんの結婚は幻想郷中に注目されています。診断結果は仕方ないとはいえ、各個人団体の盛り上がりをなるべく軟着陸させる必要があります、妹紅さん。」
輝夜 「これは相当高度な駆け引きが要求されるわね、伝達係の人選は慎重に行う必要があるわ、もこたん。」
てゐ 「もこたんがんばれうさ。」
妹紅 「・・・・・・。」
妹紅 「やんねーよ!!!」
・・・空気が読めない女だ。もこたんマジKY。
妹紅 「誰がKYだ!?」
永琳 「いちいち独り言に反応しないで、もこたん」
妹紅 「もこたん言うな!!」
輝夜 「もーーーーう、じゃあどうしろっていうのよ?」
妹紅 「お前がやれ!!てかさぁ、私、あれだぞ。永遠亭が緊急事態っていうから来たのにさ。」
輝夜 「うん、そうよ」
妹紅 「そうよじゃねぇよ!」
永琳 「まぁまぁ聞きなさい。」
妹紅 「あ?」
永琳 「私たちはね、月からきた新参者で。特に儚月抄以降は八雲の受けがよくないのよ。」
妹紅 「まぁ」
永琳 「でね、世間体がある私たちよりボッチに定評があるあなたに頼んだってわけ。」
妹紅 「ぶっ殺す!!」
輝夜 「痛っ!!なんで私ぶつのよ!?」
妹紅 「むかついたから。」
輝夜 「この・・・ボッチのくせに!」
妹紅 「けーねとかいるよ!というかさぁ、働いてないやついるじゃん。こういう時こそ働かせろよ。」
てゐ 「この任務、輝夜には荷が重いうさ」
永琳 「ほら、タケノコあげるから♪」
妹紅 「いらねーよ!!」
輝夜 「キノコ派だったの?」
妹紅 「そういう意味じゃねーよ!!」
てゐ 「じゃあ姫を3日間サンドパックにしていいうさ」
妹紅 「よし!」
輝夜 「ふぇ!?」
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全く嫌な役を押し付けられた。慣れてるが。
私の名前は藤原妹紅、健康マニアの焼き鳥屋だ。
私の目の前にいるのは好対照な2人。
1人は薀蓄メガネ男、やたらと勝ち誇った顔をしている。
1人は人里の爺さん、霧雨の親父らしい。今にも昇天しそうな顔だ。
親父 「今・・・のは・・・その」
妹紅 「冗談でこんなこと言いませんよ。」
親父 「バカな・・・」
それについては同情する。家出娘と妊娠を機に和解して結婚準備までしてたんだからな。初孫も楽しみにしてたんだろう。が、天国からつるべ落とし、て感じだろう。
霖之助「ですから言ったじゃないですか。僕とは何もないと。」
笑顔で言うなや。まぁこいつも身に覚えがない件で責任取らされかけたんだ。一言二言くらい言いたいのかもしれない。
親父 「この話、誰にも話してないな?」
妹紅 「先に言っとくが、そういうのには感心できねぇな。」
多少ぶっきらぼうに言っとく。男言葉と女言葉を使い分けるのも処世術の嗜みだ。
親父 「頼む!もう退けないところまで来てるのだ!どうかこのまま・・・」
妹紅 「黙ってどうこうなると思うか。想像妊娠という事実は変わらねぇって。」
丁寧語は決して使わない。この親父、相当やり手で隙を見つけて要望をねじ込んでくる奴だ。
霖之助「親父さん、ですから・・・」
親父 「そうだ!今から妊娠すれば」
妹紅 「アンタ、本当に父親か。」
この男には世間体しかないらしい。
親父 「世間体しか頭にないというのは誤解だぞ。」
自覚はあったのか。
親父 「今回の一件は幻想郷中でお祭り騒ぎだ。そしてその発端は娘の妊娠だ。で、もし、だ。今回の一件が娘の勘違いということになったらどうなる?娘は幻想郷中の笑いものだ。娘の今後の生活はどうなる?こんな事件を起こした娘を娶る奇特な男はいるか?私はな、娘の幸せを思ってだな。」
妹紅 「娘の幸せを思って、元弟子には婚前交渉の濡れ衣を着せるわけか。」
私は敢えて軽蔑したように言ってやった。というか、この事態は簡単に予測できた。どいつもこいつもわが身だけが可愛い。1000年前から何も変わりやしねぇ。
メガネ男は何も言わないが、目でよく言ってくれたと伝えてくる。今度何かふんだくってやろう。
親父 「頼む!この通りだ!どうか!どうか!今回のことは内密に!」
土下座する親父。が、読者の諸君、人生の先輩から言わせてもらおう。商人の土下座ほど価値がないものはない。
霖之助「さて、魔理沙には僕から話しておきましょう。」
妹紅 「ああ、頼む。」
親父 「霖之助!!」
土下座などなかったかのように霖之助は立つ。商人に土下座は通用しない。
親父 「待て、霖之助。お前は娘をどう思っている?」
霖之助「その手は僕には通じませんよ。」
妹紅 「私も帰るか。」
親父 「貴様らそれでも人間か!?」
霖之助「半妖です。」
妹紅 「健康マニアの焼き鳥屋だ。」
我々は部屋を後にする。ずいぶん無礼なように思われるかもしれないが、礼儀正しく接するととんでもない目に合う。これが過去の教訓だ。
霖之助「とは言ったものの。」
妹紅 「何だ、メガネ。」
霖之助「霖之助だ。」
妹紅 「何それ、キモい。いきなりファーストネームで呼べなんて。」
霖之助「そういう意図で行ったんじゃないんだが。」
妹紅 「冗談が通じないやつだな。」
霖之助「・・・話進めていいか。」
妹紅 「・・・すまん。」
これだから真面目系はやりにくい。
霖之助「魔理沙は何故妊娠したと思いこんだんだろう。」
妹紅 「さぁな。」
それは私も疑問だった。想像妊娠はストレス性の要因、つまり思い込みがかなり病態に影響する。思い込むにしても・・・
妹紅 「一服盛られてやられたんだろうな。」
霖之助「女性がそういうことをいうのはどうかと思うが。」
妹紅 「関係ねぇよ。男がどんな幻想もってるか知らないが、女はみんなこんな感じだ。」
霖之助「では外の世界の男の願望が幻想入りしてもおかしくないな。」
妹紅 「ちげえねぇや。」
霖之助「で、だ。」
真面目な空気だな。
霖之助「僕自身、魔理沙をあまり傷つけたくない。結婚する気もないが。」
妹紅 「ああ。」
霖之助「魔理沙には僕から話す。霊夢たちには君から話してもらえないか。」
妹紅 「だが、断る。・・・と言いたいところだがな。」
この男、意外に紳士だな。
ま、そうなるだろうとは思っていた。既にけーねに主だった人間を集めてもらってる。
妹紅 「サービス、だぞ。」
霖之助「それは違う人の動画ネタだ。」
フレーズにも著作権あるのかな。
霖之助「全てが終わったらいっぱいおごらせてくれ。」
妹紅 「おう。」
さて、寺子屋に行くか。気は進まないが。
・
・・
・・・
霊夢 「えーーーーーーー!?」
まぁこうなるよな。
霊夢 「じゃあお賽銭はどうなるのよ!?」
前言撤回。
アリス「どうしましょう。」
妖夢 「とりあえず式は中止でしょうね」
れみぃ「つまらないわね。・・・ん?なんで私、ひらがな表記なの?」
咲夜 「大人の都合です。」
幽香 「今からサクッとヤッちゃえばいいんじゃない?」
萃香 「いいねぇ。おっちゃん、鬼印のバイアグラあげちゃう。」
パンパン!私は大きく手を叩く。
妹紅 「ああ、いいか。とりあえず結婚はなしだ。で、想像妊娠というのはストレスで悪化する場合もある。みんな魔理沙をしばらくそっとしておくように。いいか?」
萃香 「バイアグラ・・・」
妹紅 「黙れ、燃やすぞ」
妖夢 「少しよろしいでしょうか?」
妹紅 「何だ。」
妖夢 「魔理沙さんは何故、」
妹紅 「ああ、却下。」
妖夢 「非常に残念です。」
とはいえ、彼女たちもぱらぱら帰り始める。事態が事態ならしょうがない、という感じだ。
妹紅 「霖之助、うまくやれよ」
誰とはなしにそう言った。
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僕が正座すると魔理沙も正座した。
まるで今から自害する姫君のようだ。
霖之助「魔理沙、大事な話がある。」
魔理沙「もういい。ばれてるんだろ。」
僕は若干鼻白む。まさか・・・
魔理沙「私もさ、そうかもしれないとは思ってたんだ。処女受胎なんて今時流行らないし。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「人里の医師が大騒ぎしてさ、親父にも伝わってさ、いろんな奴に問い詰められてさ。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「で、ちょっと思ったんだ。このままコーリンと結婚するのもいいかな、て。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「悪いことだとは思ってたさ。でも期待の方が勝っちまった。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「永遠亭に行ったとき、診断結果が出ない時点で分かってたんだ。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「ばれたなって。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙は泣かない。でも泣きそうなのは分かる。
魔理沙「なぁ霖之助。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「私のこと嫌いか?」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「・・・・・・。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「・・・・・・。」
沈黙が続く。
魔理沙「もういくぜ。」
霖之助「・・・・・・。」
魔理沙「もう顔を出さないから。」
彼女は背中を向けて退出していく。
霖之助「魔理沙。」
魔理沙「・・・・・・何だよ?」
霖之助「嫌いじゃない。」
魔理沙「じゃあ何だよ、結婚してくれるのか。」
霖之助「それは・・・・・・。」
魔理沙「してくれないんだろ。」
霖之助「魔理沙。」
魔理沙「そんなのはいらないんだよ。」
背中を向けているため、表情は見えない。が、泣いているのは分かる。
魔理沙「今から結婚してくれるのか?キスしてくれるのか?抱いてくれるのか?」
霖之助「魔理沙。」
魔理沙「肝心なところは全部だめじゃないか。」
霖之助「魔理沙。」
魔理沙「あるいは。」
彼女は振り向く。意外なことに泣いていない。
魔理沙「今から襲ってみるか。」
八卦路をこっちに向けている。至近距離。彼女がその気なら僕にはよけられないだろう。
魔理沙「選ばせてやるぜ。素直に私を抱くか、撃たれてから私に抱かれるか。」
霖之助「違うな。」
魔理沙「私は本気だぜ」
霖之助「そうじゃない。撃った後、君は僕を抱けないんだろ。」
魔理沙「・・・・・・気づいてたのか?」
霖之助「ハッタリだよ」
彼女は若干動揺する。
霖之助「あの晩、というのは僕にはいつかは分からないが。僕が察するに、僕に一服盛った後、君は既成事実を作ろうとしたのではないか?」
魔理沙「・・・・・・。」
霖之助「で、君はできなかった。できなかったことに相当なストレスを感じていた。それが想像妊娠の理由だ。」
妹紅には分かるまい。でも僕には分かる。彼女がストレスを感じるとしたら、行為の結果に対してではなく、行為そのものができなかったからだ。
魔理沙「分かってるならさ、」
霖之助「断る。」
僕は話を打ち切る。これ以上・・・・・彼女に惨めな思いをさせたくない。
その晩、魔理沙は僕の家に泊まった。もちろん、何もなく、だ。彼女のプライドからして最低限、男の家に泊まるくらいは達成しておきたいところだろう。でなくては霊夢たちに顔を合わせられない。
霖之助「しかし。」
今回の一件の気持ちの整理がつかない。でも前の日常には徐々に戻りかけている。魔理沙は僕の店で仕事をし、霊夢はお茶を飲みに来る。その他様々な人妖が冷やかしに来ては去っていく。元通りだ。
霖之助「このままの日が続きますように。」
僕は1人、神に祈った。特定の宗教は持ってないが、どこかの神様が聞いてくれるだろう。
ばぁーーーーん!!
早苗 「話は聞かせてもらいました!!魔理沙さん!ご結婚なら是非守矢神社で・・・」
その後、気絶する僕の目に最後に映ったのは夢想封印とマスタースパークのコンボ攻撃の光だった。