※フェティシズム全開な内容となっていますので、閲覧の際はご注意を。
人は理性を持った生き物である。それ故、人間は強いのだと私──霧雨魔理沙は常々思っている。
生き物には潜在的に身に付いた意識、いわゆる本能が付いて回る。
これは無意識の領域に中る所で、食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求は有名な話だろう。
本能は生き物の生に強く語り掛け、生きる為の行動を促す。
即ち、「健康に生き、長く暮らし、多くの子を成せ」と言うのだ。
しかし、人間は本能に対抗する力を持っている。それが理性である。
本能に逆らうとは何事か、という意見も上がるかもしれない。だが、人間は本能に唯々諾々と従うだけでも生きてはいけないのだ。
人間社会で育ち、学び、倫理や道徳を知ると、本能以上に理性が重要であると気付く。
何故か。理性ある生活を、人間は尊重するからだ。
生き物が最も力を発揮するときは、本能に従ったときだ。
しかし、人間はそれに抗う。
理性と本能の板挟みに遭い、力を弱めると知ってもである。
理性は人間に時間を与える。
刹那にも、生命を全うするその時までも続くそれは、思考の時間だ。
人間は思い、悩み、考えることで数々の障害を乗り越え、自分たちよりも力ある存在に勝ってきたのだ。
かつて人間を葦(あし)に例えた哲学者もいたが、私も概ね同意件である。
つまり、思考の有無がその他の生き物との絶対的な違いにして最大の勝因であり、思考を生む理性こそ人間を人間足らしめるのだ。
同じ人の形をして、理性も、思考するだけの頭も持ち、かつ人間の上位存在にあたる妖怪という例外もいる。
これはまぁ、妖怪とはそもそもが人間の恐怖から生まれた存在なので、人間よりも優れていても何らおかしくはない。人間至上主義者には憤慨ものかもしれんが。
しかし、例外も存在する。理性よりも本能に従い、上位存在である妖怪をも問答無用でしばき倒す、バグみたいな人間が。
それが──。
「すぅ……」
私の目の前で無防備を晒す楽園の素敵な巫女──博麗霊夢である。
晩飯目当てに神社を訪ねた所、酒が湧いて出たから付き合えと都合良く引き摺り込まれたのが数時間前。
うら若い乙女同士の宴会は、飲めや食えや歌えや踊れやの若干慎ましやかとは言えない状況が続き、野郎が見れば百年の片想いだって冷めかねない様相を呈していた。
この一室に限って台風が通り過ぎたのだと言えばうっかり信じられてしまう、そうな感じだった。
私もよく飲み食いしたが、霊夢ほどではない。こいつは何か箍(たが)でも外れたんじゃないかって位の暴飲暴食ぶりだった。
そして散々飲み食い散らかし、私にしこたま絡んで満足したのか、糸が切れたように机に突っ伏して寝息を立て始めた。
食欲の次は睡眠欲という訳である。これほど自分の本能に忠実な奴は、幻想郷狭しと言えど霊夢くらいのものだ。理性や何処へ行った。
さて、つい前(さき)にも述べたが、霊夢は眠っている。私の目の前で眠っているのだ。
となると、何か使命でも帯びたように目の前の霊夢の状態を仔細に観察しない訳にはいかず、穴が空く、むしろ空けとばかりに視線を霊夢に固定する。
左手は投げ出し、残った右腕を枕に眠る霊夢。
細い指先から肘、肩へと視線を移すと、お気に入り(らしい)の赤いリボンが映る。普段はピンと伸ばされたそれは、持ち主同様に力無く垂れ下がっている。
アイロン掛けなきゃなと思いつつ、赤のリボンが映える霊夢の髪も見やる。僅かに茶の混じる黒髪は、乱痴気のせいか乱れ気味だ。こちらも後で櫛を通しておこう。
乱れ髪は霊夢の顔を覆っている。少し伸び気味な前髪は目元を隠し、鼻にまで掛かりそうだ。これも私が手入れしてやらねば、などと思いながら視線を下にやっていたが、ある所でピタリと止まる。
それは半開きの口元、そしてそこから一筋垂れる涎の先だった。
ピピーッと、私の中の理性が警笛を鳴らす。あれは危険だ、と。
あれは涎である。しかし、あれは霊夢の涎でもあるのだ。
何処ぞの好事家相手に売れば高値で取引されるレア素材だ。
それが目の前で垂れ流しなのだ。浮き足立たない訳がなかった。
しかし、しかしである。だからといって、寝ている霊夢の口元から垂れるそれを採取してもいいものだろうか。
よく考えなくても変態だ。それを欲する方はどう考えても変態だ。馬の骨相手に霊夢を売るような真似はしたくない。
それに霊夢だって年頃の娘だ。知らぬ間に涎を垂れ流す姿を見られ、あまつさえ売り買いされているなんて知ったら引き籠ってしまうかもしれない。
引き籠る霊夢、世話役は私。……意外といいかもしれないが、霊夢の心に傷を作るようではいけない。世話役失格だ。
そう、ここは「しょうがない奴だなぁ」とか呟いて、毛布を肩に掛けてやって起きるまで寝顔を堪能するとか、そういうのが正解なのだ。危ない橋をわざわざ渡る必要はない。
あぁ、何て私は理性的なのだろうか。
あまりに人間らしい思考に反吐が出る。
だから私は、チャチな正義を謳う理性を、全力で、放り捨てた。
私は魔法使いなのだ。魔法使いとは探究の徒であり、自身の欲を満たす為であれば身内すら平気で売り飛ばす人でなしなのだ。
正義よりは邪道を、理性よりも本能に従ってこそ魔法使いである。霊夢には悪いが、私の目の前で寝たのが運の尽きと思ってもらうしかない。
しかし、安心して欲しい。霊夢の唾液を堪能するのは……私一人だ。
「……ん」
形の良い顎の少し上あたりを人指し指でなぞる。こそばゆそうに霊夢が声を上げたが、目を開ける気配はない。
少しホッとした気持ちになりつつ、人指し指の先を見る。透明で、粘性のある液体が付着している。
霊夢の涎だ。そう認識しただけで私の中に忌避感は一切無くなり、何の躊躇いもなく人指し指ごと口に含んでいた。
指先を、舌の上に押し込む。霊夢の唾液を、自身の舌に染み込ませるように。
たっぷり十秒はそうして、いい加減いいだろうと誰に言い訳するでもなく急いで指を抜き取り、代わりに味覚に意識を集中させる。
舌の上で霊夢のそれがゆらゆらと僅か揺れているのが分かる。粘っこくて、でも嫌悪感は無く、むしろ自身のものと混ざってしまうのが残念でならない。
そう、混ざってはいけない。他の食材なんて及ばない程、唾液というものは鮮度が命なのだ。
だから、舌先でそれを弄り、ゆっくりと口蓋へと擦り付けるようにして嚥下する。食道をするりと落ちていく感覚に、背筋が震えた。
さて、肝心の味についてである。
幾度となく味わってきた霊夢ソムリエの私には分かる。これは──寝た振りをしている味である、と。
急に部屋に漂う静寂が白々しいものに感じられて敵わない。よく聞けば、霊夢の寝息はどこか整い過ぎているようにも今さら思える。
んー、と顎に手を当てて暫し思案。これは俗に言う「据え膳食わぬは何とやら」の状況なのだろう。
性別から異なる私が恥を掻くというのもおかしな話だが、おそらく意を決して寝た振りを決め込んだであろう霊夢を放置すれば、霊夢の方が恥を掻くことになる。
それはいただけない。いただけるなら、やはり霊夢をいただきたい。
という訳で、心の中で、いただきますと呟く。
「……っぁ」
またも人指し指を近付ける。今度は顎辺りよりも上、口そのものへと。
荒れとは無縁の唇を、上からコの字になぞる。瑞々しさと弾力を楽しんだ後、半開きだったそこをこじ開ける。
僅かに声が上がるが、抵抗はない。ならばと私の指は蹂躙を開始する。
まずは第一関節までを侵入させると、コツンと固い感触を得た。霊夢の前歯がその先を防いでいる。
出鼻を挫かれた形だが、ここまでやらせておいて今さらこんな細やかな抵抗を、などと思うと愛しさ倍増である。
メインディッシュは置いて、代わりに頬と歯の間に指を差し込む。私から見て左、霊夢からすれば右頬の内側だ。
第二関節よりも少し先までを暖かい滑り気が覆う。他人の口に指を入れるなんて考えられなかったが、こいつ相手だと不快感を感じないのだから不思議だ。
ゆっくりと、指を前後させる。頬肉のしっとりとした柔らかさと、キュッキュと鳴る歯の硬さを同時に感じるのが何故か面白可笑しい。
まるで歯磨きをしてやってるみたいだ。一度指を抜き、反対側も同じように擦る。抜いた際、不意に「ぁ……」と漏れた霊夢の声に、私の指は執拗さを増した。
くぽこぽと、唾液と空気が撹拌される音が何とも生々しい。
ある程度堪能したところで、前菜は終わり。本格的に霊夢の口内を荒らすとしよう。
その為にも、頑なで、けれど一突きすればあっけなく崩れてしまうだろう守りを解く必要がある。
私は、真っ白い霊夢の前歯を、人指し指の先で軽くノックした。
コンコン、コンコン。悪いことはしません。だから入れてください、と。
扉はなかなか開かない。扉の向こうの相手が狼かどうか図りかねているみたいだ。
私は安心させるように、努めて優しく「開けて」と囁く。すると暫しの逡巡の後、おずおずとその象牙質の扉が開かれた。
当然、私は好機と見て、何の遠慮もなく指を侵入させる。今の私は寝込みを襲う狼そのもの。それを相手にこの無防備さ、お仕置きが必要だ。
「んぐっ!」
唐突な異物感に霊夢の身体に力が入ったのか、私の指は上下の歯に挟まれてしまった。痛くはないが、このまま徐々に力を込めて噛み切られたらどうしようと、ぼんやり考えたりする。
勿論そんなことはなく、私の指はあっさりと解放された。どころか、霊夢の舌によってぺろぺろと優しく舐め上げられている。謝っているつもりなのだろうか。
しかし、その動物的な行為は私の中の獣欲を一層掻き立てるだけだ。
指に掛かる霊夢の吐息は熱く荒いが、私のそれはより激しい。
「んぅ?」
指の上を這っていた霊夢の舌を押さえると、ビクッと身体を竦ませた。
別に舐め方が下手だった訳じゃない。むしろ心地良いくらいだ。だから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
ただ、お前の口内を好き勝手する為だけなんだから。
「むぅ、んむ!?」
まずはゆっくりと舌の上に指を這わせる。さっきの霊夢とは逆、私が霊夢の舌を舐(ねぶ)る。
決して強くはない快感に、もどかしげな表情を浮かべる霊夢。それでも頑なに目を開けないんだから、私だって悪乗りしたくなるというものだ。
「ひっ」
人差し指に加えて中指を追加、二本の指で舌をサンドする。
目を閉じていた霊夢は突然増えた指に怯えたような声を漏らす。普段見せない弱さが、こちらの嗜虐心をくすぐってくれる。
挟んだ舌をゆるゆると前後させる。慣れない感覚に霊夢は眉を顰める。だが、敏感な舌先を引っ掛けるように擦ると、強張る身体をさらに硬くした。
かと思えば、今度は表面を爪で軽く引っ掻いてみたり、上に下に引っ張ってみたり。柔軟な玩具を繰っているみたいだ。
霊夢が苦しそうな表情をしたところで舌を放してやる。別に苦しめる為にやっている訳じゃないから。
そのまま今度は外周――歯の裏側を指でなぞる。歯の一本一本を触診して回ると、歯科医にでもなった気分だ。
ついポロッと「あ、虫歯」なんて呟くと霊夢が恥ずかしがって口を閉じようとするから、いけないいけない。
ご機嫌直しに口蓋を人差し指で掻いてやると気持ちよさそうに鼻を鳴らす。猫みたいだ。
優しい指使いはここまで。それまでの人差し指と中指の二本に、さらに薬指を加えて計三本。霊夢の口の大きさを考えれば、これが限界である。
その三指を突き入れる。その勢いに遂に霊夢の目が開く。瞳には驚きがありありと浮かんでいた。前までの優しさはなりを潜めて、荒々しい律動が霊夢を襲う。
矢であったり知恵であったり、昔から三つ揃えば何かと優れたものに変わるとされている。霊夢の口に納まった私の指たちはどうだろう、その解はこいつの表情が物語っている。
少し苦しそうで、けれど蕩け切った瞳にその表情。博麗の巫女ともあろう者が何て顔をしてやがる。勝手に一人で盛り上がるんじゃないと軽く苛立つ。
湧いてきた唾液が舌の辺りにどんどんと溜まっていく。私はそれを潤滑油代わりにして、縦横無尽に口内へ指を走らせる。
霊夢はまともに息をしているかも怪しい。それだけ私の指使いは荒々しく、それでもなお、こいつはそれを受け入れる。
その健気さが劣情を催すのだと分かっているのか。私はその想いに応えるべく、三指をより奥にまで潜らせ――揺れる喉彦に触れた。
「むぐぅっ!?」
霊夢の喉が大きく蠕動(ぜんどう)したところで指を引き抜く。堪え、それでも咳き込む霊夢を尻目に、私は自分の指を見る。
てらてらと濡れた光を返す私の指は、霊夢の唾液に塗れていた。
首を上にして、上体を反らす。惚ける霊夢の視線を感じながら、見せ付けるように指を口に含む。
べったりと唾液の滲みた指からは霊夢の味がした。私の指なのに霊夢を感じられて、まるで前とは逆に私の口が乱暴されているみたいだ。
舌に、歯に、頬に、喉彦に。自分が触れた場所の一つ一つを思い出しながら、霊夢のそれを擦り付けていく。
余す所なく触れたら、名残惜しくも外へ。終いに唇に指を這わせ、拡げるように一舐めした。
膝が震えた。膝立ちの姿勢を保てず、目の前の机に向かって倒れ込む。
目の前に霊夢の顔があった。チョコレートのように甘く蕩けたその表情、きっと私も同じ顔をしている。
足りない。
足りない、足りない。
足りない、足りない、足りない足りない足りないたりないたりないたりない――こんなんじゃ、全然足りない。
私の胃の腑に落ちた唾液は、麻薬か何かか。
だって、こんなにも思考を鈍らせ、こんなにも高揚感を齎し、こんなにも渇きを与えている。即効性で強依存性のとんでもないオクスリだ。
舌が渇く。早く目の前の女からアレを摂取しろと身体が疼きと共に命令する。
あぁ、溺れる。溺れてしまう。私はこの快楽と飢餓に呑まれてしまっている。
私は、どうしてしまったんだろう。
「ふあ、うっ……。まり、さ……」
霊夢が私を呼ぶ。机に伏し、巫女装束を肌蹴た姿が、何故か蝶に見えた。
「魔理沙……」
その艶の籠る声を聞いて、あぁ、と得心した。
蝶。紅白の二色蝶。飛ぶ姿は何よりも美しく、そして蠱惑的で。
きっとこの蝶は蜜を吸わない。吸うのではなく吸わせる。吸わせて、相手を狂わせるのだ。
吸わせた相手をどうするのかは知らない。蟻のように小間使いにするのか、蟷螂のように喰らうのか。
でも、一つだけ分かることがある。私がもう手遅れだということだ。
私は存分にその蜜を浴びてしまった。それも一度や二度のことではない。
とっくに毒は回って、溜まっていたのだ。そして今日、それが閾値を超えた。
理性を失った狂人の出来上がり、と。
何だ、私はとっくに霊夢の術中だったという訳だ。本当に、こいつには敵わない。
あぁ、私の内でなけなしの理性が訴えているのが分かる。引き返すなら、ここが最後だと。
しかしまぁ、遅過ぎる警告だ。引き返すも何も、私はもう霊夢無しでは生きられない。霊夢が死ねば、きっと私も後を追って死ぬだろう。
生への安全装置も壊死した今、理性の介入する余地など最早スキマ程も存在しない。
元より私は魔法使い、理性に縋るなど今さら許されないのだ。
ならば本能の赴くまま、怪しく淫らに快楽を貪るケダモノへと身を堕とそうではないか。
「霊夢……」
磁力線に引かれるように、私は霊夢にひかれていく。
卵を思わせる白い顔が近付く。
明かりを無くした瞳は私の瞳と合わさる。
合わせ鏡のように展開して複眼を成している。
そして、真っ赤な口吻が、私の舌に伸びて絡み合った。
「――――ッ!!!」
甘美な蜜は、私の理性を完膚無きまでに叩き壊してくれた。
人は理性を持った生き物である。それ故、人間は強いのだと私──霧雨魔理沙は常々思っている。
生き物には潜在的に身に付いた意識、いわゆる本能が付いて回る。
これは無意識の領域に中る所で、食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求は有名な話だろう。
本能は生き物の生に強く語り掛け、生きる為の行動を促す。
即ち、「健康に生き、長く暮らし、多くの子を成せ」と言うのだ。
しかし、人間は本能に対抗する力を持っている。それが理性である。
本能に逆らうとは何事か、という意見も上がるかもしれない。だが、人間は本能に唯々諾々と従うだけでも生きてはいけないのだ。
人間社会で育ち、学び、倫理や道徳を知ると、本能以上に理性が重要であると気付く。
何故か。理性ある生活を、人間は尊重するからだ。
生き物が最も力を発揮するときは、本能に従ったときだ。
しかし、人間はそれに抗う。
理性と本能の板挟みに遭い、力を弱めると知ってもである。
理性は人間に時間を与える。
刹那にも、生命を全うするその時までも続くそれは、思考の時間だ。
人間は思い、悩み、考えることで数々の障害を乗り越え、自分たちよりも力ある存在に勝ってきたのだ。
かつて人間を葦(あし)に例えた哲学者もいたが、私も概ね同意件である。
つまり、思考の有無がその他の生き物との絶対的な違いにして最大の勝因であり、思考を生む理性こそ人間を人間足らしめるのだ。
同じ人の形をして、理性も、思考するだけの頭も持ち、かつ人間の上位存在にあたる妖怪という例外もいる。
これはまぁ、妖怪とはそもそもが人間の恐怖から生まれた存在なので、人間よりも優れていても何らおかしくはない。人間至上主義者には憤慨ものかもしれんが。
しかし、例外も存在する。理性よりも本能に従い、上位存在である妖怪をも問答無用でしばき倒す、バグみたいな人間が。
それが──。
「すぅ……」
私の目の前で無防備を晒す楽園の素敵な巫女──博麗霊夢である。
晩飯目当てに神社を訪ねた所、酒が湧いて出たから付き合えと都合良く引き摺り込まれたのが数時間前。
うら若い乙女同士の宴会は、飲めや食えや歌えや踊れやの若干慎ましやかとは言えない状況が続き、野郎が見れば百年の片想いだって冷めかねない様相を呈していた。
この一室に限って台風が通り過ぎたのだと言えばうっかり信じられてしまう、そうな感じだった。
私もよく飲み食いしたが、霊夢ほどではない。こいつは何か箍(たが)でも外れたんじゃないかって位の暴飲暴食ぶりだった。
そして散々飲み食い散らかし、私にしこたま絡んで満足したのか、糸が切れたように机に突っ伏して寝息を立て始めた。
食欲の次は睡眠欲という訳である。これほど自分の本能に忠実な奴は、幻想郷狭しと言えど霊夢くらいのものだ。理性や何処へ行った。
さて、つい前(さき)にも述べたが、霊夢は眠っている。私の目の前で眠っているのだ。
となると、何か使命でも帯びたように目の前の霊夢の状態を仔細に観察しない訳にはいかず、穴が空く、むしろ空けとばかりに視線を霊夢に固定する。
左手は投げ出し、残った右腕を枕に眠る霊夢。
細い指先から肘、肩へと視線を移すと、お気に入り(らしい)の赤いリボンが映る。普段はピンと伸ばされたそれは、持ち主同様に力無く垂れ下がっている。
アイロン掛けなきゃなと思いつつ、赤のリボンが映える霊夢の髪も見やる。僅かに茶の混じる黒髪は、乱痴気のせいか乱れ気味だ。こちらも後で櫛を通しておこう。
乱れ髪は霊夢の顔を覆っている。少し伸び気味な前髪は目元を隠し、鼻にまで掛かりそうだ。これも私が手入れしてやらねば、などと思いながら視線を下にやっていたが、ある所でピタリと止まる。
それは半開きの口元、そしてそこから一筋垂れる涎の先だった。
ピピーッと、私の中の理性が警笛を鳴らす。あれは危険だ、と。
あれは涎である。しかし、あれは霊夢の涎でもあるのだ。
何処ぞの好事家相手に売れば高値で取引されるレア素材だ。
それが目の前で垂れ流しなのだ。浮き足立たない訳がなかった。
しかし、しかしである。だからといって、寝ている霊夢の口元から垂れるそれを採取してもいいものだろうか。
よく考えなくても変態だ。それを欲する方はどう考えても変態だ。馬の骨相手に霊夢を売るような真似はしたくない。
それに霊夢だって年頃の娘だ。知らぬ間に涎を垂れ流す姿を見られ、あまつさえ売り買いされているなんて知ったら引き籠ってしまうかもしれない。
引き籠る霊夢、世話役は私。……意外といいかもしれないが、霊夢の心に傷を作るようではいけない。世話役失格だ。
そう、ここは「しょうがない奴だなぁ」とか呟いて、毛布を肩に掛けてやって起きるまで寝顔を堪能するとか、そういうのが正解なのだ。危ない橋をわざわざ渡る必要はない。
あぁ、何て私は理性的なのだろうか。
あまりに人間らしい思考に反吐が出る。
だから私は、チャチな正義を謳う理性を、全力で、放り捨てた。
私は魔法使いなのだ。魔法使いとは探究の徒であり、自身の欲を満たす為であれば身内すら平気で売り飛ばす人でなしなのだ。
正義よりは邪道を、理性よりも本能に従ってこそ魔法使いである。霊夢には悪いが、私の目の前で寝たのが運の尽きと思ってもらうしかない。
しかし、安心して欲しい。霊夢の唾液を堪能するのは……私一人だ。
「……ん」
形の良い顎の少し上あたりを人指し指でなぞる。こそばゆそうに霊夢が声を上げたが、目を開ける気配はない。
少しホッとした気持ちになりつつ、人指し指の先を見る。透明で、粘性のある液体が付着している。
霊夢の涎だ。そう認識しただけで私の中に忌避感は一切無くなり、何の躊躇いもなく人指し指ごと口に含んでいた。
指先を、舌の上に押し込む。霊夢の唾液を、自身の舌に染み込ませるように。
たっぷり十秒はそうして、いい加減いいだろうと誰に言い訳するでもなく急いで指を抜き取り、代わりに味覚に意識を集中させる。
舌の上で霊夢のそれがゆらゆらと僅か揺れているのが分かる。粘っこくて、でも嫌悪感は無く、むしろ自身のものと混ざってしまうのが残念でならない。
そう、混ざってはいけない。他の食材なんて及ばない程、唾液というものは鮮度が命なのだ。
だから、舌先でそれを弄り、ゆっくりと口蓋へと擦り付けるようにして嚥下する。食道をするりと落ちていく感覚に、背筋が震えた。
さて、肝心の味についてである。
幾度となく味わってきた霊夢ソムリエの私には分かる。これは──寝た振りをしている味である、と。
急に部屋に漂う静寂が白々しいものに感じられて敵わない。よく聞けば、霊夢の寝息はどこか整い過ぎているようにも今さら思える。
んー、と顎に手を当てて暫し思案。これは俗に言う「据え膳食わぬは何とやら」の状況なのだろう。
性別から異なる私が恥を掻くというのもおかしな話だが、おそらく意を決して寝た振りを決め込んだであろう霊夢を放置すれば、霊夢の方が恥を掻くことになる。
それはいただけない。いただけるなら、やはり霊夢をいただきたい。
という訳で、心の中で、いただきますと呟く。
「……っぁ」
またも人指し指を近付ける。今度は顎辺りよりも上、口そのものへと。
荒れとは無縁の唇を、上からコの字になぞる。瑞々しさと弾力を楽しんだ後、半開きだったそこをこじ開ける。
僅かに声が上がるが、抵抗はない。ならばと私の指は蹂躙を開始する。
まずは第一関節までを侵入させると、コツンと固い感触を得た。霊夢の前歯がその先を防いでいる。
出鼻を挫かれた形だが、ここまでやらせておいて今さらこんな細やかな抵抗を、などと思うと愛しさ倍増である。
メインディッシュは置いて、代わりに頬と歯の間に指を差し込む。私から見て左、霊夢からすれば右頬の内側だ。
第二関節よりも少し先までを暖かい滑り気が覆う。他人の口に指を入れるなんて考えられなかったが、こいつ相手だと不快感を感じないのだから不思議だ。
ゆっくりと、指を前後させる。頬肉のしっとりとした柔らかさと、キュッキュと鳴る歯の硬さを同時に感じるのが何故か面白可笑しい。
まるで歯磨きをしてやってるみたいだ。一度指を抜き、反対側も同じように擦る。抜いた際、不意に「ぁ……」と漏れた霊夢の声に、私の指は執拗さを増した。
くぽこぽと、唾液と空気が撹拌される音が何とも生々しい。
ある程度堪能したところで、前菜は終わり。本格的に霊夢の口内を荒らすとしよう。
その為にも、頑なで、けれど一突きすればあっけなく崩れてしまうだろう守りを解く必要がある。
私は、真っ白い霊夢の前歯を、人指し指の先で軽くノックした。
コンコン、コンコン。悪いことはしません。だから入れてください、と。
扉はなかなか開かない。扉の向こうの相手が狼かどうか図りかねているみたいだ。
私は安心させるように、努めて優しく「開けて」と囁く。すると暫しの逡巡の後、おずおずとその象牙質の扉が開かれた。
当然、私は好機と見て、何の遠慮もなく指を侵入させる。今の私は寝込みを襲う狼そのもの。それを相手にこの無防備さ、お仕置きが必要だ。
「んぐっ!」
唐突な異物感に霊夢の身体に力が入ったのか、私の指は上下の歯に挟まれてしまった。痛くはないが、このまま徐々に力を込めて噛み切られたらどうしようと、ぼんやり考えたりする。
勿論そんなことはなく、私の指はあっさりと解放された。どころか、霊夢の舌によってぺろぺろと優しく舐め上げられている。謝っているつもりなのだろうか。
しかし、その動物的な行為は私の中の獣欲を一層掻き立てるだけだ。
指に掛かる霊夢の吐息は熱く荒いが、私のそれはより激しい。
「んぅ?」
指の上を這っていた霊夢の舌を押さえると、ビクッと身体を竦ませた。
別に舐め方が下手だった訳じゃない。むしろ心地良いくらいだ。だから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
ただ、お前の口内を好き勝手する為だけなんだから。
「むぅ、んむ!?」
まずはゆっくりと舌の上に指を這わせる。さっきの霊夢とは逆、私が霊夢の舌を舐(ねぶ)る。
決して強くはない快感に、もどかしげな表情を浮かべる霊夢。それでも頑なに目を開けないんだから、私だって悪乗りしたくなるというものだ。
「ひっ」
人差し指に加えて中指を追加、二本の指で舌をサンドする。
目を閉じていた霊夢は突然増えた指に怯えたような声を漏らす。普段見せない弱さが、こちらの嗜虐心をくすぐってくれる。
挟んだ舌をゆるゆると前後させる。慣れない感覚に霊夢は眉を顰める。だが、敏感な舌先を引っ掛けるように擦ると、強張る身体をさらに硬くした。
かと思えば、今度は表面を爪で軽く引っ掻いてみたり、上に下に引っ張ってみたり。柔軟な玩具を繰っているみたいだ。
霊夢が苦しそうな表情をしたところで舌を放してやる。別に苦しめる為にやっている訳じゃないから。
そのまま今度は外周――歯の裏側を指でなぞる。歯の一本一本を触診して回ると、歯科医にでもなった気分だ。
ついポロッと「あ、虫歯」なんて呟くと霊夢が恥ずかしがって口を閉じようとするから、いけないいけない。
ご機嫌直しに口蓋を人差し指で掻いてやると気持ちよさそうに鼻を鳴らす。猫みたいだ。
優しい指使いはここまで。それまでの人差し指と中指の二本に、さらに薬指を加えて計三本。霊夢の口の大きさを考えれば、これが限界である。
その三指を突き入れる。その勢いに遂に霊夢の目が開く。瞳には驚きがありありと浮かんでいた。前までの優しさはなりを潜めて、荒々しい律動が霊夢を襲う。
矢であったり知恵であったり、昔から三つ揃えば何かと優れたものに変わるとされている。霊夢の口に納まった私の指たちはどうだろう、その解はこいつの表情が物語っている。
少し苦しそうで、けれど蕩け切った瞳にその表情。博麗の巫女ともあろう者が何て顔をしてやがる。勝手に一人で盛り上がるんじゃないと軽く苛立つ。
湧いてきた唾液が舌の辺りにどんどんと溜まっていく。私はそれを潤滑油代わりにして、縦横無尽に口内へ指を走らせる。
霊夢はまともに息をしているかも怪しい。それだけ私の指使いは荒々しく、それでもなお、こいつはそれを受け入れる。
その健気さが劣情を催すのだと分かっているのか。私はその想いに応えるべく、三指をより奥にまで潜らせ――揺れる喉彦に触れた。
「むぐぅっ!?」
霊夢の喉が大きく蠕動(ぜんどう)したところで指を引き抜く。堪え、それでも咳き込む霊夢を尻目に、私は自分の指を見る。
てらてらと濡れた光を返す私の指は、霊夢の唾液に塗れていた。
首を上にして、上体を反らす。惚ける霊夢の視線を感じながら、見せ付けるように指を口に含む。
べったりと唾液の滲みた指からは霊夢の味がした。私の指なのに霊夢を感じられて、まるで前とは逆に私の口が乱暴されているみたいだ。
舌に、歯に、頬に、喉彦に。自分が触れた場所の一つ一つを思い出しながら、霊夢のそれを擦り付けていく。
余す所なく触れたら、名残惜しくも外へ。終いに唇に指を這わせ、拡げるように一舐めした。
膝が震えた。膝立ちの姿勢を保てず、目の前の机に向かって倒れ込む。
目の前に霊夢の顔があった。チョコレートのように甘く蕩けたその表情、きっと私も同じ顔をしている。
足りない。
足りない、足りない。
足りない、足りない、足りない足りない足りないたりないたりないたりない――こんなんじゃ、全然足りない。
私の胃の腑に落ちた唾液は、麻薬か何かか。
だって、こんなにも思考を鈍らせ、こんなにも高揚感を齎し、こんなにも渇きを与えている。即効性で強依存性のとんでもないオクスリだ。
舌が渇く。早く目の前の女からアレを摂取しろと身体が疼きと共に命令する。
あぁ、溺れる。溺れてしまう。私はこの快楽と飢餓に呑まれてしまっている。
私は、どうしてしまったんだろう。
「ふあ、うっ……。まり、さ……」
霊夢が私を呼ぶ。机に伏し、巫女装束を肌蹴た姿が、何故か蝶に見えた。
「魔理沙……」
その艶の籠る声を聞いて、あぁ、と得心した。
蝶。紅白の二色蝶。飛ぶ姿は何よりも美しく、そして蠱惑的で。
きっとこの蝶は蜜を吸わない。吸うのではなく吸わせる。吸わせて、相手を狂わせるのだ。
吸わせた相手をどうするのかは知らない。蟻のように小間使いにするのか、蟷螂のように喰らうのか。
でも、一つだけ分かることがある。私がもう手遅れだということだ。
私は存分にその蜜を浴びてしまった。それも一度や二度のことではない。
とっくに毒は回って、溜まっていたのだ。そして今日、それが閾値を超えた。
理性を失った狂人の出来上がり、と。
何だ、私はとっくに霊夢の術中だったという訳だ。本当に、こいつには敵わない。
あぁ、私の内でなけなしの理性が訴えているのが分かる。引き返すなら、ここが最後だと。
しかしまぁ、遅過ぎる警告だ。引き返すも何も、私はもう霊夢無しでは生きられない。霊夢が死ねば、きっと私も後を追って死ぬだろう。
生への安全装置も壊死した今、理性の介入する余地など最早スキマ程も存在しない。
元より私は魔法使い、理性に縋るなど今さら許されないのだ。
ならば本能の赴くまま、怪しく淫らに快楽を貪るケダモノへと身を堕とそうではないか。
「霊夢……」
磁力線に引かれるように、私は霊夢にひかれていく。
卵を思わせる白い顔が近付く。
明かりを無くした瞳は私の瞳と合わさる。
合わせ鏡のように展開して複眼を成している。
そして、真っ赤な口吻が、私の舌に伸びて絡み合った。
「――――ッ!!!」
甘美な蜜は、私の理性を完膚無きまでに叩き壊してくれた。
こんなロックな台詞聞いたことない…えろい…死ぬ…レイマリえろい…
ごちそうさまでしたッ!
これは確かに全年齢とは行かない内容。まあ規約にはグレイズもしませんが。
あれですね。酔った勢い。前頭葉がいい感じに麻痺しております。あとは本能に身を任せ突っ走るのみ。
......あ、すいません、柄にもなく興奮してしまいました。すいませんでした、ハイ。
というのもついこのまえまで マリアリ>レイマリ だったのに最近になって マリアリ<レイマリ みたいな感じになってしまったのでレイマリ成分を補充できたからです。
甘くてえろいレイマリごちそうさまでした。
作者さんのレイマリ作品を今年も期待してます。
今年も作品楽しみにしてます
だが減点対象はそこしかなかった。
レイマリごちそうさまでした。
というか、霊夢も誘い受けなのかっ
>1
全力ストレート投げ込みました。
>2
食べれるものは鮮度が良い内に食すが一番ですからね(しれっ
>4,5
タグについては前書きと併せての保険です。内容がアレなのは私が一番理解しています。
>6
エロスは偉大。お粗末様です。
>8
投稿先には最後まで迷いました。本番も無しにあっちはマズイ、となればジェネだけど点数での評価も欲しい、と考えたらここしか無かった訳です。
>9
エロいは褒め言葉でございます。
>10
生きててエロ可愛い麻薬……溺れるしかない!
>13
このお話からエロスを感じてもらえたなら何よりです。
>17
毎度お読みいただき感謝です。
>18
あるとしたらあそこですが、続きの予定はないですねぇw
>19
色々と覚悟して投稿しました。皆さんの温かいコメントに泣きそうです。
>22
魔理沙ちゃんはむっつりスケベです。霊夢さん情事の時はネコっぽいって思うの私だけ?
二人で融けてしまえ
涎フォォ―――――ウ! フォオオオオオオオオオウ!
理性本能のくだりはさておいて、大変良いものを読ませていただきました。
まさかの涎から始まり驚異の寝たふりに続き衝撃のフィンガーオーラルセックス。これは流石に今まで感じたことのないフェティッシュを感じました。ところどころで挟まってくる名言が素晴らしいです。
好き、とはすごいものですね。