「さーくーやーぁぁぁぁぁ!!」
紅魔館の廊下に、フランドールの叫び声が響く。
それと共に響く、凄まじい速度の足音。
館の者であれば、その大多数はこれを耳にしただけで、何があったのかを、概ね把握する事だろう。
つまり、「レミリアとの間に何かあったのだ」と。
「妹様、どうされました?」
「すぐに大人のれでぃーになる方法、教えて!!」
しかし、フランドールの言葉は、咲夜も抱いたその予想を、裏付けるものではなかった。
「はい?」
とりあえず咲夜は、すぐに時間を停止させると、門に立っている美鈴を、この場に連れてきた。
ぐずっているままのフランドール、彼女を美鈴に落ち着かせ、その上で、何があったのかを訊ねると……
「あのね? お姉様と一緒に、歩いてたらね? ひっく」
まだ、完全に落ち着いた、という状況には遠く、声音は上ずり、時折しゃくりあげてしまっている。
「お姉様の方が、背が大きいの!」
(それだけでは、こうまで泣きは……しないわよね……)
胸中でそう呟く咲夜。
以前レミリア・フランドールの両名を、咲夜が仲直りさせてからは、連れ立って出かける事も、時折ある。
その時に、否応なしに、背丈の差は感じているはずだ。
「お嬢様から何か、言われたのですか?」
と、美鈴の質問に、フランドールは頷く。
「貴女は私より子供なんだから、背が小さいのも仕方ないわよ、って! 私、それ聞いたらなんだか悔しくて……!!」
やや落ち着き気味だったフランドールだが、思い返して悔しさが蘇ったのか、再び俯き、目に涙を溜めてしまう。
「うーん、それで、お嬢様には何か、言い返されました?」
次いで美鈴が問うと、フランドールはこれに対して首を横に振った。
「ううん、言い返しちゃったら、多分喧嘩になっちゃうって思って……でも悔しくて……だから、何も言わずに、泣きながら走って来ちゃった……」
咲夜は、ほんの一瞬時を止めると、フランドール・美鈴の両名に気づかれぬよう、密かに眉間を押さえた。
レミリアにとっては、悪気はないばかりか、気遣っての言葉だったのだろうが、どうもフランドールの機嫌が悪い時だったか何か、間の悪い言葉となってしまったようだ。
(でも、妹様の我慢は、有難いわね……)
こらえてくれたおかげで、仲介の行動は必要ないはずだ、咲夜はフランドールを抱きしめる。
「……? なぁに?」
「妹様、言い返さずにいて下さり、有難うございます」
その咲夜の行動に、一瞬混乱を見せた美鈴だったが、すぐ様ハッとした表情を浮かべて口を挟んだ。
「よかったですねフラン様、咲夜さんがこんな風にして褒めてくれるなんて、滅多にありませんよ?」
(その発言は、どうかと思うけれど……)
胸中で咲夜が突っ込むと……
「美鈴も、こうやって褒められる事が、あるの?」
「あ゛……いえ、その、抱きしめて、って事はー……無いですね、えぇ」
明後日の方向を見やって、困ったような反応を示す美鈴に、咲夜は密かに口の端を緩める。
「羨ましいー?」
ようやく、フランドールの表情に笑みが戻った……少し、意地悪な笑みだが。
「……ええ、羨ましいですねぇ」
「そう? じゃあ今度から、ご褒美はお菓子じゃなくて、ハグにするわね」
咲夜もまた、にやりと笑ってみせる。
「う……わ、解りました! 有難うございます!」
僅かに苦い顔を見せた美鈴だが、懸命に快活なお礼を返す。
その様を見た咲夜は、こっそり時を止めると「ちょっと多目に作ってあげるから、元気出しなさい」と、美鈴のポケットにメモを忍ばせた。
このやり取りで、機嫌を直したらしいフランドールだったが、このやり取りの最中でも、レミリアの言葉を思い返すと、悔しさがまた湧き起こってしまっていたのも事実。
咲夜が、レミリアの前でも、また泣いたりせずにいられるかを問うと、まだ自信がないという返答だったため、後の世話を美鈴に頼み「妹様の不満を解消する術を、探しに行ってまいります」と告げて、その場を離れた。
目指した先は図書館。
「あら、咲夜だけ?」
「ええ、ちょっと大人のレディになる方法を探しに」
それを聞いたパチュリーは、すぐ様書架へと目を向けるが……
「実はお嬢様と妹様が……」
続けて咲夜は、事情を説明した。
「成程、そういう事なら、手は幾つかあるわね……小悪魔、ちょっと頼むわ」
奥へと進みつつ、パチュリーは小悪魔へ、指差ししながら何かを言いつける。
然程時間をかけずに戻ってきた二名は、それぞれ本を携えていた。
片方は物々しい本、もう片方は年端も行かない少女が、何やら背伸びをしすぎた服装で、ポーズを決めた写真の本。
「とりあえず簡単なのは、魔法で姿を変えるか、化粧や服装で誤魔化すか、ね。 ……後者はお勧めしない」
「……ですね、私もそう思います」
後者の手段を取ればどうなるか……一応、本を持っては来たものの、それをやや遠ざけるように配したパチュリー同様に、咲夜もまた想像出来る。
「すると魔法で、ですか」
「それはそれで問題があるわね」
と、パチュリーは魔法の本(?)も、すっと咲夜の手元から遠ざける。
「……成程、確かに」
これもまた、咲夜も、パチュリーの懸念を想像し、納得した。
しかしお互い、その内容については、敢えて触れようとしていない、視線を合わせ、頷きあうのみ……
「では、如何致しましょう」
「貴女は何か、案はあるの?」
この図書館に来て、訊ねている時点で、その答えは明確だ……が、パチュリーの表情は普段のそれより、やや暗く……
「残念ながら……しかし、パチュリー様でも、角の立たない方法、すぐには浮かびませんか……」
「さっと浮かぶものじゃ、終わった後に何か、尾を引きそうね、またフォローしないといけなくなるわ……」
両名共に、唸ってしまう。
数分程、悩んでいると……
「あ、咲夜さん、こちらにいらしたんですね」
「美鈴?」
美鈴が、フランドールをおぶってやってきた。
先程別れてから、まだ十分も経っていない……恐らく、あの場でフランドールと少し話して、すぐにここへやってきたのだろう。
「フランも連れて来て……何かしようというの?」
パチュリーが問うと、美鈴は胸を張った。
「ええ、さっきは背の大きさの事しか、聞いていませんでしたが、なんでも「大人のレディになりたい」そうじゃないですか」
やけに得意気だが、美鈴はその願いをなんとかする術を、持っていないはずだ……一体何をするつもりなのか、咲夜の胸に、疑問がよぎる。
「ですが、そんなの……すぐになんとかなるものじゃありません!!」
きっぱりと、力強く、言ってのけた。
咲夜がそれとなく、フランドールの様子を伺うと、だからといって悔しがったりは、していないらしい。
「なので、代わりの案を、というわけでしてね、どうするのかはまだ秘密ですが、フラン様もご了承済みです」
「ふーん……」
気のない返事をするパチュリーだが、どうやら興味があるようだ。
「では皆さん、お嬢様の所へ参りましょう!」
「……あ、咲……って、みんなでどうしたの?」
フランドールが、泣いて走って行ってしまったと思えば、勢ぞろいでの登場、レミリアは疑問符を浮かべる。
「ええ、先程の事で少し……咲夜さん、お嬢様の隣へ」
美鈴がそう言うのに対し、咲夜は普段するように、レミリアのそばにつく。
「有難うございます。 では……フラン様、お嬢様はいつも、咲夜さんと一緒に行動されてますよね」
「うん、そうだけど……」
何をするつもりなのか、フランドールも解らず、少し戸惑いがあるらしい。
「それはいわば、お嬢様と咲夜さんが、日々協力して、過ごしている事とも言えます! ……ちょっと、フラン様、足を肩幅に開いて立って下さい」
「こう?」
言われるままに立つフランドール。
「はい、ではちょっと失礼して……」
「わ!」
美鈴は、フランドールに肩車をして立った。
「お嬢様と咲夜さんも、こうしてみて頂けます?」
「……そういう事ね、お嬢様、よろしくお願いします」
「え、ええ」
困惑しつつも、レミリアもそれに倣い、レミリア・咲夜タワーが出来上がる。
「フラン様、どうでしょう。 お嬢様と咲夜さん、お二人の協力と、私達の協力、どちらが大きいですか?」
「あ! 私達の方が大きい!」
フランドールはうれしそうに歓声を上げる。
「ええ、ですから、すぐに大人にだなんてなれませんけれども、お嬢様よりも大きくなりたければ、私に声をかけて頂ければ、お手伝い致しますよ」
「うん! 有難う美鈴!」
……満足したのか、フランドールはとんでもない勢いで、また館のどこかへと駆けていった。
「……正直、ちょっと無理やりすぎるかなーと思いましたが、なんとかなりましたね」
「そうね、あんなので喜ぶだなんて、フランドールも……」
「まだまだ子供、と、仰せになりたいのでしょうが、そういった言葉は避けておきましょう、今回の原因ですからね」
咲夜がそう付け加えると、レミリアは小さく肩を落とした。
「それにしても、こんな方法を取るだなんて、今回は貴女に救われたわね」
パチュリーが褒めると、美鈴は胸を張った。
紅魔館の廊下に、フランドールの叫び声が響く。
それと共に響く、凄まじい速度の足音。
館の者であれば、その大多数はこれを耳にしただけで、何があったのかを、概ね把握する事だろう。
つまり、「レミリアとの間に何かあったのだ」と。
「妹様、どうされました?」
「すぐに大人のれでぃーになる方法、教えて!!」
しかし、フランドールの言葉は、咲夜も抱いたその予想を、裏付けるものではなかった。
「はい?」
とりあえず咲夜は、すぐに時間を停止させると、門に立っている美鈴を、この場に連れてきた。
ぐずっているままのフランドール、彼女を美鈴に落ち着かせ、その上で、何があったのかを訊ねると……
「あのね? お姉様と一緒に、歩いてたらね? ひっく」
まだ、完全に落ち着いた、という状況には遠く、声音は上ずり、時折しゃくりあげてしまっている。
「お姉様の方が、背が大きいの!」
(それだけでは、こうまで泣きは……しないわよね……)
胸中でそう呟く咲夜。
以前レミリア・フランドールの両名を、咲夜が仲直りさせてからは、連れ立って出かける事も、時折ある。
その時に、否応なしに、背丈の差は感じているはずだ。
「お嬢様から何か、言われたのですか?」
と、美鈴の質問に、フランドールは頷く。
「貴女は私より子供なんだから、背が小さいのも仕方ないわよ、って! 私、それ聞いたらなんだか悔しくて……!!」
やや落ち着き気味だったフランドールだが、思い返して悔しさが蘇ったのか、再び俯き、目に涙を溜めてしまう。
「うーん、それで、お嬢様には何か、言い返されました?」
次いで美鈴が問うと、フランドールはこれに対して首を横に振った。
「ううん、言い返しちゃったら、多分喧嘩になっちゃうって思って……でも悔しくて……だから、何も言わずに、泣きながら走って来ちゃった……」
咲夜は、ほんの一瞬時を止めると、フランドール・美鈴の両名に気づかれぬよう、密かに眉間を押さえた。
レミリアにとっては、悪気はないばかりか、気遣っての言葉だったのだろうが、どうもフランドールの機嫌が悪い時だったか何か、間の悪い言葉となってしまったようだ。
(でも、妹様の我慢は、有難いわね……)
こらえてくれたおかげで、仲介の行動は必要ないはずだ、咲夜はフランドールを抱きしめる。
「……? なぁに?」
「妹様、言い返さずにいて下さり、有難うございます」
その咲夜の行動に、一瞬混乱を見せた美鈴だったが、すぐ様ハッとした表情を浮かべて口を挟んだ。
「よかったですねフラン様、咲夜さんがこんな風にして褒めてくれるなんて、滅多にありませんよ?」
(その発言は、どうかと思うけれど……)
胸中で咲夜が突っ込むと……
「美鈴も、こうやって褒められる事が、あるの?」
「あ゛……いえ、その、抱きしめて、って事はー……無いですね、えぇ」
明後日の方向を見やって、困ったような反応を示す美鈴に、咲夜は密かに口の端を緩める。
「羨ましいー?」
ようやく、フランドールの表情に笑みが戻った……少し、意地悪な笑みだが。
「……ええ、羨ましいですねぇ」
「そう? じゃあ今度から、ご褒美はお菓子じゃなくて、ハグにするわね」
咲夜もまた、にやりと笑ってみせる。
「う……わ、解りました! 有難うございます!」
僅かに苦い顔を見せた美鈴だが、懸命に快活なお礼を返す。
その様を見た咲夜は、こっそり時を止めると「ちょっと多目に作ってあげるから、元気出しなさい」と、美鈴のポケットにメモを忍ばせた。
このやり取りで、機嫌を直したらしいフランドールだったが、このやり取りの最中でも、レミリアの言葉を思い返すと、悔しさがまた湧き起こってしまっていたのも事実。
咲夜が、レミリアの前でも、また泣いたりせずにいられるかを問うと、まだ自信がないという返答だったため、後の世話を美鈴に頼み「妹様の不満を解消する術を、探しに行ってまいります」と告げて、その場を離れた。
目指した先は図書館。
「あら、咲夜だけ?」
「ええ、ちょっと大人のレディになる方法を探しに」
それを聞いたパチュリーは、すぐ様書架へと目を向けるが……
「実はお嬢様と妹様が……」
続けて咲夜は、事情を説明した。
「成程、そういう事なら、手は幾つかあるわね……小悪魔、ちょっと頼むわ」
奥へと進みつつ、パチュリーは小悪魔へ、指差ししながら何かを言いつける。
然程時間をかけずに戻ってきた二名は、それぞれ本を携えていた。
片方は物々しい本、もう片方は年端も行かない少女が、何やら背伸びをしすぎた服装で、ポーズを決めた写真の本。
「とりあえず簡単なのは、魔法で姿を変えるか、化粧や服装で誤魔化すか、ね。 ……後者はお勧めしない」
「……ですね、私もそう思います」
後者の手段を取ればどうなるか……一応、本を持っては来たものの、それをやや遠ざけるように配したパチュリー同様に、咲夜もまた想像出来る。
「すると魔法で、ですか」
「それはそれで問題があるわね」
と、パチュリーは魔法の本(?)も、すっと咲夜の手元から遠ざける。
「……成程、確かに」
これもまた、咲夜も、パチュリーの懸念を想像し、納得した。
しかしお互い、その内容については、敢えて触れようとしていない、視線を合わせ、頷きあうのみ……
「では、如何致しましょう」
「貴女は何か、案はあるの?」
この図書館に来て、訊ねている時点で、その答えは明確だ……が、パチュリーの表情は普段のそれより、やや暗く……
「残念ながら……しかし、パチュリー様でも、角の立たない方法、すぐには浮かびませんか……」
「さっと浮かぶものじゃ、終わった後に何か、尾を引きそうね、またフォローしないといけなくなるわ……」
両名共に、唸ってしまう。
数分程、悩んでいると……
「あ、咲夜さん、こちらにいらしたんですね」
「美鈴?」
美鈴が、フランドールをおぶってやってきた。
先程別れてから、まだ十分も経っていない……恐らく、あの場でフランドールと少し話して、すぐにここへやってきたのだろう。
「フランも連れて来て……何かしようというの?」
パチュリーが問うと、美鈴は胸を張った。
「ええ、さっきは背の大きさの事しか、聞いていませんでしたが、なんでも「大人のレディになりたい」そうじゃないですか」
やけに得意気だが、美鈴はその願いをなんとかする術を、持っていないはずだ……一体何をするつもりなのか、咲夜の胸に、疑問がよぎる。
「ですが、そんなの……すぐになんとかなるものじゃありません!!」
きっぱりと、力強く、言ってのけた。
咲夜がそれとなく、フランドールの様子を伺うと、だからといって悔しがったりは、していないらしい。
「なので、代わりの案を、というわけでしてね、どうするのかはまだ秘密ですが、フラン様もご了承済みです」
「ふーん……」
気のない返事をするパチュリーだが、どうやら興味があるようだ。
「では皆さん、お嬢様の所へ参りましょう!」
「……あ、咲……って、みんなでどうしたの?」
フランドールが、泣いて走って行ってしまったと思えば、勢ぞろいでの登場、レミリアは疑問符を浮かべる。
「ええ、先程の事で少し……咲夜さん、お嬢様の隣へ」
美鈴がそう言うのに対し、咲夜は普段するように、レミリアのそばにつく。
「有難うございます。 では……フラン様、お嬢様はいつも、咲夜さんと一緒に行動されてますよね」
「うん、そうだけど……」
何をするつもりなのか、フランドールも解らず、少し戸惑いがあるらしい。
「それはいわば、お嬢様と咲夜さんが、日々協力して、過ごしている事とも言えます! ……ちょっと、フラン様、足を肩幅に開いて立って下さい」
「こう?」
言われるままに立つフランドール。
「はい、ではちょっと失礼して……」
「わ!」
美鈴は、フランドールに肩車をして立った。
「お嬢様と咲夜さんも、こうしてみて頂けます?」
「……そういう事ね、お嬢様、よろしくお願いします」
「え、ええ」
困惑しつつも、レミリアもそれに倣い、レミリア・咲夜タワーが出来上がる。
「フラン様、どうでしょう。 お嬢様と咲夜さん、お二人の協力と、私達の協力、どちらが大きいですか?」
「あ! 私達の方が大きい!」
フランドールはうれしそうに歓声を上げる。
「ええ、ですから、すぐに大人にだなんてなれませんけれども、お嬢様よりも大きくなりたければ、私に声をかけて頂ければ、お手伝い致しますよ」
「うん! 有難う美鈴!」
……満足したのか、フランドールはとんでもない勢いで、また館のどこかへと駆けていった。
「……正直、ちょっと無理やりすぎるかなーと思いましたが、なんとかなりましたね」
「そうね、あんなので喜ぶだなんて、フランドールも……」
「まだまだ子供、と、仰せになりたいのでしょうが、そういった言葉は避けておきましょう、今回の原因ですからね」
咲夜がそう付け加えると、レミリアは小さく肩を落とした。
「それにしても、こんな方法を取るだなんて、今回は貴女に救われたわね」
パチュリーが褒めると、美鈴は胸を張った。
残念なとこは文章の粗さと読点を打ちすぎでちょっと読みにくいとこかな。
そのあたりは向上の余地ありと思えましたので、あえてやや低めの点数で。
たまにこういうのが読みたいときがあります
だけど、全体的になんとなく読みにくいかな
個人的には各シーンで描写や説明が丁寧でもよかったと思います