Coolier - 新生・東方創想話

ひとり、ひとり

2014/01/04 05:07:57
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直感が働きかけてきた。
区切りはあまり良くはないけど別にいいかという雑な思考の下、落ち葉の掃き掃除を中断して霊夢は箒をそこら辺に立て掛け、住居を兼ねている社務所の中に引っ込む。
何かあったかしらと考えながら台所に向かうがあまり大したものはなかったような気がする。探すと普段霊夢が飲むようのとは別にしてある、来客用の値段が少しお上品なお茶の葉が残っていた。
最近頻繁に使うようになったからもうないと思っていたがそんなことはないようだった。
これだけあれば充分かと早速霊夢はふたり分お茶を淹れる準備をする。
手慣れた手つきで自分と来客用のお茶を淹れ終えてお盆に乗せるのと、

「こんにちは、霊夢。いるかしらー?」

というアリスの外からの呼びかけはほぼ同時だった。

「いるわ。丁度お茶を淹れたところだから座って待ってて」




「はい、淹れたてほやほやのあっついお茶よ。最近涼しくなってきたから丁度いいんじゃないかしら」

縁側にはアリスと上海人形が仲良くちょこんと座っていた。
お人形さんみたいだなと率直な感想が脳裏をよぎる。キレイで、不変で、生気がない。
その隣に霊夢は座る。

「ありがとう、霊夢。相変わらずすごいわね」
「何がよ」

改まった言い方をするアリスを霊夢は見る。

「だってあなた、私がここに来るのを事前に察知しているみたいに動いているじゃない。出来たてのお茶を私が来てすぐに用意するなんてこと、この時間に私がここに来るってわかっていないとできない芸当よ。なんで私が今日この時間に来るってわかったの。この日にち、この時間に、って遊びに行く日を決めているわけじゃないのに、毎回そう。絶対に私が持ってくるお土産と相性がいいものを用意して待ってる」

よほど気になっていたのか身を乗り出して問い詰めるアリス。顔近い。

「いっつもお菓子をお土産に持っていってるから私があえてお茶を用意してあなたのところに行った時はケーキがあったし。しかもそれ私が用意したお茶と凄くあってて美味しかったし……」
「あのケーキははたまたま紫がくれたのよ」
「なんでそんなたまたまが毎回続くの。前にも似たようなことがあったし」
「なんでって言われてもねえ。……なんとなく、としかねえ」

少し考えるもそうとしか説明の出来ない霊夢だった。

「なんとなくわかっちゃうのよ。あ、もうすぐ来るなって。それで私はてきとーに今用意できるものをものを用意してるだけだから」
「なる……ほど、ねえ? でも……あー、ごめんなさい。やっぱりいいわ」

理解はできたけど納得はできないという感じか。それともこれ以上問い詰めても無駄だと判断したか、言いかけた言葉を不自然にばっさり切ってアリスはこれ以上追求することをやめた。

「そういえば霊夢。これ、土産のお団子」

そうして誤魔化すようにどこからともなく小包を出す。この小包のデザインには見覚えがあった。人里の中でもとびきり美味し

いと評判の有名店のものだった。
前にそこで買い物をしたことがある。これほどのお団子を食べたのは初めてだと感動した。

「奇しくもまた霊夢が用意したお茶と合いそうね」
「そういえばこれって逆にアリスが私の用意したものに合わせて用意しているだって説あるよね」
「あー。そういう捉え方もあるわね。むむむ……まあ、今はお団子にしましょう。淹れたてのお茶が冷めちゃうわ」
「そうね」

弾んだ口調になるアリスに霊夢も合わせる。甘いお菓子に気分が弾まない乙女なんていません。
もむもむ。もしょもしょ。ごくりんこ。




「相変わらず閑散としているわね。参拝客のひとりでも来ないの? ここ、一応神社、なの……よね?」
「なんでそんな懐疑的なのよ。神社よ、神社。博麗神社。たしかに参拝客はほとんど来ないけど」
「ほとんど? 全くではなく?」
「あなたが来てくれてるじゃない。そういえば最近アリスの顔をよく見る気がする。3日に1回くらい?」
「ちょくちょく気分転換に出向いてるからね。私以外は? 誰か来たりしないの?」
「あー……」

時が止まったような無言。
たっぷり3分は続いた。うんうんうなり続ける霊夢に、それを呆れ顔で眺めるアリス。

「……前の異変の時、かな? 魔理沙とか来たような気がする」
「えっと……それってたしか宗教戦争の時のことよね? 何ヶ月前の話よ」
「えー、っと。1ヶ月……はたってないと思うんだけど」
「…………」
「アリスの無言が痛い! 怖い! やめて! だってほんとにアリス以外誰も来ないんだもんどうしようもないじゃん!」
「まあ、いいけど。霊夢、あなた本当に普段どんな生活しているのよ……」
「どんなって言われても。普通に朝起きて、顔洗って、朝ご飯食べて、境内の掃除して、空眺めて、お昼食べて、空眺めて、境内の掃除して、晩ご飯食べて、寝て、っていう感じかな……備蓄が少なくなって来たら人里に降りるってのが追加されるけど。あと客が来たらそれの対応」
「客なんて来ないじゃない。もうちょっとなにかすることないの?」
「ないかなあ。うーん……。あー、魔理沙といえばそういえば最近魔理沙見てない気がする。最近魔理沙見かけてない?」
「知らないわ。こもって研究三昧じゃないかしら?」
「そう……まあいいか。そんなことより何かすること、かあ」

何かあったっけ。本気で悩む。
しかしすることは思いつかないし、何よりもする必要性も感じられなかった。
日常に不満なんてなにひとつなかった。変えようとも思わなかった。
何もないおだやかな日常。たまに来るアリス
これでいいと思っている。

「友だちのところに遊びに行ったりしないの?」
「友だちいないしなあ」
「……そう」
「……」
「……」




「そういえばさーアリス。さっき何を言いかけたの?」
「……え。あ、ごめんなさい、聞いてなかったわ。もう一度お願いできるかしら」
「さっき何を言いかけたの?」
「さっき? いつのこと」
「私の直感が云々の時なにか言いかけたじゃん。その時のこと。妙にツッコんできた気がしたからなんとなく気になって」

自分でもわからないが妙に気にかかっていた。何事も無く流していいことではない気がした。
そう思ったのもいつもの根拠なき直感なのだけれど。
博麗の巫女の直感はよく当たる。根拠なく信ずるに値するものがある。これまで起きた異変もそうやって直感を以ってして解決してきた。
冷めたお茶で口の中の甘ったるい余韻を流しつつアリスを横目に見る。
アリスは何かをためるように口をつぐんでいた。言うべきか否かを悩んでいる。アリスの表情からそう判断した。
同時に霊夢はある困惑に囚われていた。
どうしてこんなにもアリスのことが気にかかったんだろうか。
気になったからと言ってしまえばそれまでだけど。しかし気になったからと言ってそれを誰かに問うた覚えはこれまであったか。なかった。そもそもこれまで誰かをこんな風に気にかけたことがあったのか。ない。
どうして。わからない。

「気になるの。なぜ」
「……そのまま流してなかったことにしてはいけないと思ったの。なにか、あるんでしょう」

じぃ、と霊夢を見るアリス。探るようにふたり見つめ合う。

「まあ……霊夢になら言ってもいいかな」
「……」
「大したことじゃあ、ないんだけどね」

上海人形の髪の毛を愛おしげにいじりながらアリスは語り始める。

「私ってね、人間のことがとても好きなの。とてもとても興味深い研究対象だと思っている。人の心やその有り様、そう至った根源にどうしても興味を惹かれしまうの。今思えばそれが人の心を知ることが必要だと思ったからだと思う。私の目標である完全な自律思考をする人形を創るその過程に、人の心を理解する必要があるから。
昔から、人間のことが好きなの。好きな人のことって知りたくなるじゃない。だから、いろいろ聞いたの。どうしてそれをしたのか。どうしてそこを見たのか。どうして晩ご飯にそれを食べたのか。そんななんでもない行動の逐一逐一に理由を求めて質問攻めにしたわ。どうして。どうして。どうして。どうしてと、訊き続けた。昔、そんな悪癖があったの」

好きな人の事を知りたくなる流れはよくわからなかったけど、少しは気にはなるのかなと思う。
それはさておきそんな風に質問攻めにされたら相手としてはたまったものではないだろう。
アリスは霊夢の思考を読み取ったように返事する。

「ええ、そうね。嫌がられて離れられるわよね。そんな人、鬱陶しいもの。そんな簡単なことにも私は最初気付かなかった。い

や……なんとなくだけど気付いていたわ。わかっていたわ。嫌がられていると理解していたわ。自分が鬱陶しがられていると感じていたわ。でも、訊くことをやめられなかった。どうしてもどうしても気になったから。行為に理由を求めていた。その時の私には人の心はわからないことだらけだったわ。私には人がどうしてこうするのかわからなかった。私は私であって、私以外にはなれない。私以外のことなんてわからなかった。
そうして気付けば私は独りになっていたわ。私が近づいても、みんな私から逃げて、離れていくようになった。ま、当然の結果なんだけどね」
「……」
「あ、今はもうその癖は矯正したから大丈夫よ。油断してるとたまにその癖が出ちゃいそうになる時があるけど。それがさっきのこと。逐一何事かを訊かれるのも答えるのも面倒くさいでしょう」
「たしかに面倒くさいわね。そんなの自分の勝手で、アリスには関係のないことなんだし」
「そういうこと。あ、その悪癖で得るものもあったけどね」
「へえ。なに」
「人の気持ちとかはよく察することが出来るようになったわ。人に嫌がられそうになったり避けられたりしていたらすぐわかる。空気を読めるようになったってことかしらね。ふふん」
「いつかのリュウグウノツカイみたいな能力?」
「雷は落とせないけどね。とにかくその得たもので苦手意識ができていた人付き合いもうまくいくようになったわ」
「よかったじゃない」
「そうね」

人付き合い。か。
生まれてから物心がついて、今に至るまで意識したことはないし、気にしたこともないし、困ったこともない。
ひとり。それが当然で、常で、日常で、当たり前だ。
当たり前なことをいちいち気にしたことなんてない。意識にものぼらない。
霊夢にとって他人はあくまで他人だ。自分以外の人間、妖怪、その他種族を指す。それだけだ。それだけでしかない。
異変が起きれば、人が神社に集う。みんなと異変を解決しに幻想郷を奔走する。
異変が起きなければ、それまでだ。それだけだ。他人は他人の日常を過ごし、霊夢は霊夢の日常を過ごす。
最近はアリスがよく遊びに来るがそうでなければ基本博麗神社には誰も来ない。
霊夢の日常と他人の日常が混ざることは先ずない。

「ねえ、霊夢。霊夢はひとりで寂しくないの?」

その質問の意図が、霊夢にはよくわからなかった。
寂しいってなに。ひとりぼっちは寂しいの?
自分がひとりぼっちだということ一点のみは理解したけれど。自覚していたけれど。
アリスは祈るように霊夢を見ていた。
アリスは何を思ってこんな質問をしたのだろうか。
何をそんなに必死そうな顔をしている。

「そんな感じの質問。だいぶ前にもされた気がするわね」

霊夢は前と同じように、なんでもないことのように、前と同じ解答を返す。

「私は今までひとりで生きてきたし、これからもひとりで生きていくわ。寂しくなんて、ない」




闇が降りてくる。
日が沈もうとしていた。

「あら。長居しすぎてしまったわね。そんなつもりはなかったのに。ごめんなさいね、霊夢」
「気にしてないわ」
「忘れ物は……ないわね、うん」

手早く身支度を整える。荷物が少ないから、片付けもすぐに終わる。

「またね、アリス」
「じゃあね、霊夢」

いつもどおりとは少しだけ違った別れの挨拶をかわしてふたりはそれぞれの居場所へと帰る。




「なんなのよ。なんなのよなんなのよ。なんなのよもう!」

3日に1回は遊びに来ていたアリスが博麗神社を訪れなくなって、1ヶ月を過ぎようとしていた。
我慢の限界に達して、苛立ったように霊夢は鳥居を蹴りそうになって、こらえて、代わりに念を込めて吐き捨てる。

「なんでアリス来てくれないのよ!」

ぼやける視界もそのままに地団駄を踏む。それに反応するものは、なにもなかった。
ただ土埃が少し舞っただけに終わった。
どうも、感染症ダーク!です
ひとりぼっちは、寂しいもんな

続きます
感染症ダーク!
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コメント



0.670簡易評価
1.無評価月柳削除
続く、だと!
このまま平凡に終わるのか、大作として成長するのか、評価は完結してからで・・・
2.80名前が無い程度の能力削除
続き物とは予想できず…
はてさて…?
3.80非現実世界に棲む者削除
何だかしみじみとしてますなあ。
見る限りバッドエンドしか想像できないのだが...
4.80名前が無い程度の能力削除
期待を込めて、この点数で
続き楽しみにしてます
6.80奇声を発する程度の能力削除
さて、これからどうなるか…
14.70名前が無い程度の能力削除
地団駄れいむかわいい。続き期待です。
19.70とーなす削除
しっとり霊アリごちそうさま……ってあら、続いちゃうのか。
このままさっくり終わってしまっても良かったと思ったけど、続くというのならば期待して待たせてもらっちゃおう。