Coolier - 新生・東方創想話

幻想年礼考

2013/12/31 11:53:23
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 お餅も食べ飽き、鈴奈庵にもようやく日常のリズムが戻り始めた頃、阿求はいつものように一人でやってきた。

「いらっしゃ……あら、久しぶり」
「謹んで新春のお慶びを申し上げます」

 言い慣れた口調で阿求が優雅にゆったりと、完璧な角度で頭を下げる。
 おやおや。
 
「はいはい、アケオメコトヨロ」
「何それ?」
「外の世界じゃ新年の挨拶はこう言うらしいわよ」

 胡乱げな顔で、指を折り、合点がいったように頷く。

「随分と略してしまうのね」
「スピード社会? ってやつじゃないの」
「それなら、新年の挨拶自体止めちゃえばいいのに」

 気怠げにソファーに腰を下ろす。

「まあ気軽にやりたいって感覚もあるんじゃないの……疲れちゃった?」
「お正月はね。色々と挨拶しておかなきゃいけない、というのは分かるのだけれど」

 稗田の、あの仰々しいお屋敷の、途方もなく広いお座敷を思い出してみる。
 見る度にこんな何十畳もありそうなお座敷、本当に必要あるのだろうか? と思ってしまうのだけれど、“何か”があれば実際に必要となってしまうらしい。そして、多分、ただでさえ伝統ある家系に百数十年に一度の御阿礼の子がいる、という今の稗田家にとっては、年始というのはその“何か”に近い出来事なのだろう。
 そして、彼女は、その座の中心であろう御阿礼の子御本人。
 御阿礼の子はそういう存在である。
 それ以上は想像しない。不可能というのではなく、拒否したい。それに、

「お茶、飲む?」
「葉は?」
「お正月用のちょっと高いやつ」
「へえ」
「――は、飲んじゃったからいつものね」
「なあんだ」
「なにおう」
「まあ、それでいいわ」
「砂糖は?」
「いらないわ。ところで何か新しい本は入った?」
「机に置いてるのがそれ。ちょうど今朝流れてきた今年の初物よ」
「変な本じゃないでしょうね」
「まさか。いたって普通の外来本。ただ、面白そう。読んだら貸してあげる」
「なるべく早くね」

 必要もないだろうし。

 しっかりと蒸らした紅茶を、温めた二杯のカップに注ぎ、最後の一滴を阿求のカップに落とす。
 入れ終わった紅茶を、阿求のカップを右手に、私のカップを左手に持って、店へと戻る。
 すると抜け目なくというよりは、当然の成り行きというべきだろう。机にあった新刊本は、阿求の手に落ちていた。

「読み終わったら貸してあげる、って言わなかった?」
「大丈夫、読むの速いから」
「そういう問題じゃありません」
 
 紅茶をテーブルに置き、阿求のおデコを指で突付き、本を取り上げる。阿求はふくれっ面で目の前の紅茶をすする。
 味を尋ねると、いつもどおり、と返ってくる。

「ああ、そうだ、言い忘れてたわ。小鈴」
「ん、なに?」
「コトヨロ」

 うん、と頷き阿求の隣に座る。

 私にとって阿求はそういう存在である。

楽しんでいただけたら幸いです。
皆様よいお年を。
美尾
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コメント



0.1200簡易評価
1.100非現実世界に棲む者削除
のんびりとしてて良いですね。
作者さんも良いお年を。
2.無評価百円玉削除
普遍的な日常にキャラのすべてを落とし込むことは大変難しいと思います。
この作品では、取捨選択が過ぎる嫌いもありますが、それでもなお滲むものがあるかと感じました。作者さんの思い通り、ですね。
ほんわりしました。
3.90百円玉削除
ごめんなさい、点数入れてませんでした。(´;ω;`)
8.90奇声を発する程度の能力削除
のんびりしてて良かったです
11.100名前が無い程度の能力削除
雰囲気に癒やされました
31.100名前が無い程度の能力削除
じんわりきます。
こういう描写されない日常話は好きですねー
33.90名前が無い程度の能力削除
こういう話はとても好きです
34.100名前が無い程度の能力削除
非常に良かったです。阿求を対等な友人だと想う小鈴の気持ちがほのぼのとした雰囲気の中からも伝わってきました