朝の郷に雪が降り積もり、眩いばかりに輝いている。
幻想郷は冷たい白粉をその身に纏い、来たる新年に向け化粧をしているようであった。
大晦日の博麗神社は、色々と目出度い紅白巫女の意思を汲んでか、大して普段と変わりは無い。
……はずなのだが。
「くー、やっぱり炬燵ってのは堪らないねぇ」
ゆっくりまったりのんびりのうのうと、炬燵で一人だらけていた巫女は、
急な他人の声に驚き、蜜柑を危うく落とすところだった。
「何であんたが居るのよ。地底の方がよっぽど暖かいじゃない」
「あー……あそこは寧ろ熱すぎちゃってさぁ……お姉さんも行った事あるでしょ?」
早苗の処の神社が勝手をしたせいで面倒になったあの異変の事を思い出して、巫女はうんざりとした顔を見せた。
「って、それとこれとは関係ないでしょ。ほらほら早く、出てった出てった」
「炬燵暖めてあげてるじゃない。みのがしてー」
やはり寒さには勝てないらしく、そのまま巫女は炬燵の魔力に身を任せた。
「ところで、お姉さん、年越しに宴会とかしないのかい?」
「いいわねー。やっといてよー」
……どうやら炬燵にやる気まで吸い取られたようだ。
陽も昇り、いよいよ天のど真ん中を貫こうかとしている。
今年最後の南中が、過ぎようとしている。
すると、鳥居の向こうから不吉ではない白黒が飛んできた。
「おい、霊夢、まさか年の瀬だってのに掃除もしないでぐうたらしてないよな?」
「見ての通りさね、お姉さん」
霊夢は炬燵と一体化していると言っても過言ではない。
「お?いつぞやの猫か。珍しいな」
「おこたを暖めてあげてるのさ、優しいでしょ?」
「御屋敷に帰ってあげた方がもっと優しい気がするぜ」
会話を交わしつつ、我が物顔で白黒は炬燵に入った。
「おい、霊夢。蜜柑はもっと用意しとけよ」
「魔理沙が買ってきなさいよ。それに何でここに来たのよ」
そう訊かれると、魔理沙はにやりと笑って答えた。
「ここで宴会をするんだよ。年越しパーティーだ」
霊夢があからさまに面倒そうな顔をする。
「えー……食材とか用意してくれるならいいけど……」
「それは許可とみなすぜ、任せな」
言い終わるか終わらないか、魔理沙は箒に飛び乗り真冬のシューティングスターとなって郷を翔けていった。
「元気だねぇ、ぜひとも死体になったらあたいが運びたいねぇ」
猫耳はそういうと猫のように笑った。
「……あれ?霊夢さんと、猫?」
まったり閑なところを邪魔されたのが気に食わないのか、霊夢は次なる来客者にいい顔をしなかった。
「早苗じゃない。賽銭入れて帰ってよ」
「えー。商売敵にですかー…?って、それはそうと、今日の夜に宴会しませんか?場所はまだ決まってないですが」
「はぁ……。それならどうにかなるわよ。ここでやるから」
「?は、はい。伝えておきます」
「あたいにはお燐って名前があるんだからできればそう呼んでほしいねぇ」
にゃあ、と鳴いて言う。
「誰も地底の奴らの名前なんか知ろうとは思わないわよ。まぁ、知ったところで名前も呼ばないし」
「それはお姉さんが特別なんじゃ……」
「霊夢?年の終わりくらい掃除してるかしら?」
(霊夢にとっては)喧しい仙人が、仕事をさぼってないか確かめに来たようである。
「はぁ、代わりにやってよ」
「……その堕落した態度が今の実態に現れていると思いませんか?」
「思いたくない」
「……まぁそれは新年早々説教することになりそうですね。それはそうと」
仙人が宴会の話を切り出したので、霊夢は、準備は大丈夫だから夜まで来ないで、と、彼女を追いだした。
「ねぇ」
「何だい、お姉さん」
「どうしてここまで考えることが同じなのかしら」
「さぁ、幻想郷だから?」
「勘弁願いたいわ……」
___
結局宴会は飽きるほどの食材を鍋に突っ込む、豪快極まりないものとなった。
酒は、それだけで人里の風呂が埋まるのではないかというくらい沢山持ち込まれた。
要するに、神社は人妖で溢れかえっていた。
「やっぱり宴会よね!最高だわー」
やはり宴会自体は嫌いではないようだ。霊夢はすっかり出来上がっている。
そんな霊夢を横目に、魔理沙が言う。
「全く。誰が用意してやったと思ってるんだ……」
「まぁ、いいじゃないですか。年の終わりくらい霊夢さんに苦労させなくても」
早苗がお茶片手に宥める。
「仕方ないな。年の瀬くらい許してやるか」
「許す……?」
一年の愚行悪行に恩赦が下る。
恙無ければ来る年からつよくてニューゲーム。
誰もが騒ぎ、楽しむ。
里の人間でさえ、妖怪の存在を忘れ、或いは妖怪と共に宴を開く。
今年も、大晦日の名のもとに終わろうとしている。
人妖でごったがえす室内を見て早苗は問うた。
「ところで魔理沙さん、いくらなんでもこれはちょっと呼び過ぎじゃないですか?」
横にでもなれば、酔いつぶれている誰かに蹴られてしまうくらいだ。
「あー?私はそんな呼んでないぜ 面倒だしな」
「じゃあなんで示し合わせたように集まったのかしら……?」
魔理沙は笑ってこう言った。
「そりゃあ、幻想郷だからな」
幻想郷は冷たい白粉をその身に纏い、来たる新年に向け化粧をしているようであった。
大晦日の博麗神社は、色々と目出度い紅白巫女の意思を汲んでか、大して普段と変わりは無い。
……はずなのだが。
「くー、やっぱり炬燵ってのは堪らないねぇ」
ゆっくりまったりのんびりのうのうと、炬燵で一人だらけていた巫女は、
急な他人の声に驚き、蜜柑を危うく落とすところだった。
「何であんたが居るのよ。地底の方がよっぽど暖かいじゃない」
「あー……あそこは寧ろ熱すぎちゃってさぁ……お姉さんも行った事あるでしょ?」
早苗の処の神社が勝手をしたせいで面倒になったあの異変の事を思い出して、巫女はうんざりとした顔を見せた。
「って、それとこれとは関係ないでしょ。ほらほら早く、出てった出てった」
「炬燵暖めてあげてるじゃない。みのがしてー」
やはり寒さには勝てないらしく、そのまま巫女は炬燵の魔力に身を任せた。
「ところで、お姉さん、年越しに宴会とかしないのかい?」
「いいわねー。やっといてよー」
……どうやら炬燵にやる気まで吸い取られたようだ。
陽も昇り、いよいよ天のど真ん中を貫こうかとしている。
今年最後の南中が、過ぎようとしている。
すると、鳥居の向こうから不吉ではない白黒が飛んできた。
「おい、霊夢、まさか年の瀬だってのに掃除もしないでぐうたらしてないよな?」
「見ての通りさね、お姉さん」
霊夢は炬燵と一体化していると言っても過言ではない。
「お?いつぞやの猫か。珍しいな」
「おこたを暖めてあげてるのさ、優しいでしょ?」
「御屋敷に帰ってあげた方がもっと優しい気がするぜ」
会話を交わしつつ、我が物顔で白黒は炬燵に入った。
「おい、霊夢。蜜柑はもっと用意しとけよ」
「魔理沙が買ってきなさいよ。それに何でここに来たのよ」
そう訊かれると、魔理沙はにやりと笑って答えた。
「ここで宴会をするんだよ。年越しパーティーだ」
霊夢があからさまに面倒そうな顔をする。
「えー……食材とか用意してくれるならいいけど……」
「それは許可とみなすぜ、任せな」
言い終わるか終わらないか、魔理沙は箒に飛び乗り真冬のシューティングスターとなって郷を翔けていった。
「元気だねぇ、ぜひとも死体になったらあたいが運びたいねぇ」
猫耳はそういうと猫のように笑った。
「……あれ?霊夢さんと、猫?」
まったり閑なところを邪魔されたのが気に食わないのか、霊夢は次なる来客者にいい顔をしなかった。
「早苗じゃない。賽銭入れて帰ってよ」
「えー。商売敵にですかー…?って、それはそうと、今日の夜に宴会しませんか?場所はまだ決まってないですが」
「はぁ……。それならどうにかなるわよ。ここでやるから」
「?は、はい。伝えておきます」
「あたいにはお燐って名前があるんだからできればそう呼んでほしいねぇ」
にゃあ、と鳴いて言う。
「誰も地底の奴らの名前なんか知ろうとは思わないわよ。まぁ、知ったところで名前も呼ばないし」
「それはお姉さんが特別なんじゃ……」
「霊夢?年の終わりくらい掃除してるかしら?」
(霊夢にとっては)喧しい仙人が、仕事をさぼってないか確かめに来たようである。
「はぁ、代わりにやってよ」
「……その堕落した態度が今の実態に現れていると思いませんか?」
「思いたくない」
「……まぁそれは新年早々説教することになりそうですね。それはそうと」
仙人が宴会の話を切り出したので、霊夢は、準備は大丈夫だから夜まで来ないで、と、彼女を追いだした。
「ねぇ」
「何だい、お姉さん」
「どうしてここまで考えることが同じなのかしら」
「さぁ、幻想郷だから?」
「勘弁願いたいわ……」
___
結局宴会は飽きるほどの食材を鍋に突っ込む、豪快極まりないものとなった。
酒は、それだけで人里の風呂が埋まるのではないかというくらい沢山持ち込まれた。
要するに、神社は人妖で溢れかえっていた。
「やっぱり宴会よね!最高だわー」
やはり宴会自体は嫌いではないようだ。霊夢はすっかり出来上がっている。
そんな霊夢を横目に、魔理沙が言う。
「全く。誰が用意してやったと思ってるんだ……」
「まぁ、いいじゃないですか。年の終わりくらい霊夢さんに苦労させなくても」
早苗がお茶片手に宥める。
「仕方ないな。年の瀬くらい許してやるか」
「許す……?」
一年の愚行悪行に恩赦が下る。
恙無ければ来る年からつよくてニューゲーム。
誰もが騒ぎ、楽しむ。
里の人間でさえ、妖怪の存在を忘れ、或いは妖怪と共に宴を開く。
今年も、大晦日の名のもとに終わろうとしている。
人妖でごったがえす室内を見て早苗は問うた。
「ところで魔理沙さん、いくらなんでもこれはちょっと呼び過ぎじゃないですか?」
横にでもなれば、酔いつぶれている誰かに蹴られてしまうくらいだ。
「あー?私はそんな呼んでないぜ 面倒だしな」
「じゃあなんで示し合わせたように集まったのかしら……?」
魔理沙は笑ってこう言った。
「そりゃあ、幻想郷だからな」