序
どうも、毎度おなじみ、射命丸文です。新聞配達と同時に、はがきや封書を送達することにしました!
仕組みは至って簡単。新聞配達時に私に手渡すだけ。幻想郷最速の名の通り、すぐにお届けします。
皆さん、是非ともご利用ください!
詳細は文々。丸新聞を参照にしてくださいね。
一
稗田阿求様へ
拝啓
こんなふうに書くのはかなり久し振りで、ちゃんと書けるかなぁ……って思いながら筆を執ったわ。そうしたら、すらすらと書きたいことがでてきて、自分でもびっくりしたわ。私の腕も落ちていないみたい。
そうそう、貴方は、私からこんな手紙が送られてきて大層驚いているでしょ?
「は、はぁ、本当に私に?」
なんて、文に確認を取る姿が思い浮かんじゃう。それから文の嬉しそうな笑みも浮かぶ。知っている? あの子、手紙を受け取る時、すっごく嬉しそうなの。きっと、文も受け取ったことがあるんでしょうね。ラブレターかしら? 貰ったことある?
こんなふうに書いているのは、いよいよ「幻想郷縁起」を書くために部屋に籠りがちになったって知ったからよ。これから書くことはちゃんと守りなさい。分かった?
一:適宜休むこと。身体が弱いんだから、無理をしちゃだめ。
二:ちゃんと食事を摂ること。このちゃんとは、三食、ってことよ。何よりもまず、身体が大事なんだからね。
体調を崩したら、「幻想郷縁起」を書くどころじゃないじゃない。ね? 貴方の命は貴方だけのものじゃないんだから。
こんなことを書くと、困ったように笑う阿求の顔が浮かぶわ。私は家政婦でも何でもないからね。貴方があまりに詰め込むからよ。そう! 原因は貴方にあるの!
これを読んだら、取り敢えず、休憩でもしなさい。息抜きは大事だからね。
今度、遊びに行った時に、紅茶の茶葉でも持って行くわ。
敬具
藤原妹紅より
二
稗田阿求へ
拝啓
この手紙は、貴方と別れた夜に書いてるわ。私、案外、筆まめなのよ。知らなかったでしょう?
一緒に食べた甘い西瓜の味が蘇ってきそうね。でもね、言ったけど、紅茶と西瓜の組み合わせは難ありだわ。余った西瓜は慧音の所に持って行ったわ。お陰で、西瓜のお姉さん、なんて呼ばれるザマよ。健康マニアの焼き鳥屋、なのにね。
そうそう、返事はいらないからね。
「幻想郷縁起」を書く方が大事なんだから。仕事なんだからね。仕事をほっぽり出して、返事を書くようなことはしてほしくないわ。そうね、どうしても「幻想郷縁起」を書きたくない、って時に、私に返事をちょうだい。その方がきっとお互いに、気分が楽でしょう?
まだまだ暑くなって、もうそろそろ夏本番になるからね。倒れないように、麦茶を大量に作っておきなさい。後、そうね、英気を養えるような物は作ればいいわ。……料理ってできる?
敬具
藤原妹紅より
三
稗田阿求様へ
敬具
取り急ぎ、ごめんね。「幻想郷縁起」は貴方のライフワークだからね。マイペースに行きましょうよ。
敬具
藤原妹紅より
四
稗田阿求様へ
拝啓
幽香の所で、この手紙を書いているわ。幽香が「書いてみたら?」と提案したからよ。別に書くために行ったわけじゃないの。詳しくは、そっちに行く、幽香から聞いてちょうだい。
敬具
藤原妹紅より
五
稗田阿求様へ
拝啓
良い句、ありがとう。やっぱり、知っていたのね。白牡丹のプレゼントは幽香、句は私。幽香の出来心で、句は即興だから下手でごめんなさい。でも、笑っちゃ嫌よ。
余暇は発句に費やそうかしら? 貴方に読まれても恥ずかしくないものが詠めるようになりたいものね。
幽香のことは冗談で受け取ったらいいわ。じゃ、また何かあったら書くわ。これから急に冷え込むことがあるから、寒暖の差には気をつけてね。
敬具
藤原妹紅より
六
風見幽香様へ
阿求が喜んでくれて良かったわ。「幻想郷縁起」の執筆で忙しいし、引き籠もって、だから上手く息抜きしてもらわないとね。ありがとう。
阿求、花に詳しいのね。庭にある花を、すらすらと……。あの庭、幽香は見て? もし見ていないのなら、一回見てみてはどう? 温かい色を中心に、ゆっくりできるわよ。今は新緑かしら? なんて、書いてみたけど、これは貴方の分野ね。
拙作、一句。
黒髪に牡丹挿したる乙女かな
藤原妹紅より
七
稗田阿求様へ
拝啓
長いお手紙ありがとう。夜長に読んで、朝日が目にしみる。一度寝てから返事を書こうかなって思ったけど、このまま返事を送ることにしたわ。心配だから。きっと、阿求は布団の中で、私がいつ返事を書くか、そもそも返事を書くのだろうか、なんてことを考えていたと思うわ。大丈夫よ。私、筆まめだから。前も書いたでしょう?
私、今、とっても嬉しいのよ。貴方、突然死んでしまうんじゃないかな、って思っていたから。丁度、花が散るように、自然と、何も言わず、時の流れにだけ身を任せ、一人静かに死んでしまうとばかり思っていたの。
だから、そんな悩みを打ち明けてくれて、嬉しいわ。でも、きっと、貴方も分かっていることだと思うけど、何て答えたらいいか悩むわ。
ごめんなさいね。力になれなくて。じゃ、こうしましょう。一緒に考えましょう? これから向かうから待っておいてね。
敬具
藤原妹紅より
八
風見幽香へ
これを読むのが早いか私と会うのが早いか分からないけど、一応送るわ。そういうわけだから返事は書かなくていいから。
阿求の家にお見舞いに行くから、適当に花を見繕ってくれないかしら?
用件はそれだけ。それだけだと怒りそうだから一句。
新緑や乙女の頬に宿らぬか
藤原妹紅より
九
射命丸文様へ
拝啓
配達人の貴方に、こんなことを書くのはおかしいのだけど、それでも書くわ。貴方、阿求の所へ行ったのなら、様子だけでも見てきてほしいの。もちろん、私も行くわ。でも、あの子、私の顔を見ると気丈に振る舞うから……。貴方相手でも強がるのかな? それでも、お願いね。
そろそろ一気に冷え込むから、暖だけはちゃんとするように、ってのも伝えておいてくれないかしら? ごめんなさいね、頼み事ばかりで。
敬具
藤原妹紅より
十
稗田阿求様へ
拝啓
お見舞いから帰って、すぐに書いているわ。別れた途端に訪れる淋しさを誤魔化すみたいにね。
思ったより元気そうで安心したわ。でもね、阿求、そんなに無理をしなくて良いじゃない。書いて、書いて、書きまくって、それで身体を壊したら、元も子もないじゃない。
私がこんなことを言うのは酷いかもしれないけど、もっとゆっくり、穏やかに生きましょう。花火のような人生じゃなくて、もっとゆっくり、それこそ牛みたいに。難しいかしら?
後、十五年も生きられないことが恐ろしいのは分かるわ。泣かないで、なんて無理ね。ずっと泣いていてはだめよ。だからといって、そういうことを忘れるために書き殴るは、本当に良いことなのかしら? 酷いことを訊いて、ごめんなさい。
ねぇ、阿求、明日、明日が難しいなら、明後日、近いうちに話さない? 二人だけで。ゆっくり、一緒にいつまでも話しましょう。悲しい時は二人で悲しんで、苦しい時は苦しんで。でも楽しい時や嬉しい時は二人で分かち合いましょう。
敬具
藤原妹紅より
十一
風見幽香へ
おはよう。
阿求とずっと遠く、二人だけの、それこそ楽園のような所で話していて、それが夢だと気付いて、猛烈に悲しくなったから、筆を執っているわ。
今日だけじゃないわ。阿求の夢を見るのは。阿求も私の夢を見ているのかしら? それだったら幸せね。
朝起きる度、阿求もこの空を見ているのかしら? って思うわ。ねぇ、阿求は後どれくらい生きられるのでしょうね? 今年は大丈夫なのかしら? 永琳は大丈夫と言うけど、急変するかもしれないじゃない。……もっと確かなものがほしいわ。
霜募る百合の樹二人寄れるかな
藤原妹紅より
十二
八意永琳様へ
拝啓
急に手紙なんて出して、ごめんなさい。大切なお願いだから、本当なら直接会って、話したいのだけど、輝夜とかに聞かれたくないから、こうして書面で告白するわ。
ねぇ、私は、阿求のためにどれほどのことができるのかしら?
阿求がそっちで過ごすことになったら、温かくしてあげてね。
敬具
藤原妹紅より
十三
藤原妹紅様へ
拝啓
こんな文書に、拝啓、だなんて可笑しいかもしれませんが、それでも書きました。そうしないとくすぐったくて。
この手紙を読んでいる頃、なんてことは書きたくありません。でも、書かないといけない時期になっています。私の最期の言葉が、妹紅さんに届かないのは嫌ですから。
はっきり書きます。何もかも包み隠さず、子供っぽくなりますけど、書きます。
私は、貴方を愛しています。それだけではなくて、貴方から愛されていた自覚もあります。
沢山のお手紙、嬉しかったです。全部、大切にしまっています。沢山の時間を共にできて、楽しかったです。私だけこれほど幸せで良いのでしょうか? 全てを思い返してみると、妹紅さんにとって謝りたい気持ちで一杯です。涙すらこみ上げてきます。
もし時間が戻るのでしたら、過去の自分に、もっと正直になれ、って言いたいです。
大切にしていただき、ありがとうございます。私からも何かお返しできたらと思い、牡丹の簪を同封しました。妹紅さんの髪に必ず合うと思います。綺麗な髪をしていますから。
最期になりますが、貴方を愛し愛されたこの時だけは、永遠に覚えていようと思います。運命すら越えて。
敬具
「幻想郷縁起」を書き上げた稗田阿求より
更に場面に応じてわざと日付を無くしたりして、焦り等の心情を表現してみたり…
所々、季語があるから別に無くても困らないんだけど