ハッと机から頭を上げる。窓からは微かに太陽の光が差し込んでいた。どうやら、昨日の魔法の実験結果をノートに書き記していたら、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。頭の下敷きになっていたそれがくしゃくしゃになってしまっている。幸い、そのページには何も書かれていなかった。
「ふ、ふわぁあ・・・うぅ、寒い・・・」
今はもう神無月で、この前までのジメジメした暑さはどこへやら、朝方は結構冷え込んでしまう。そんな時期に温かい布団に入らず普通の服で寝てしまうだなんて、自分のことながら呆れるぜ。こんなことをしていては風邪をひいてしまうかもしれない。
寒いのは苦手なので、私はベッドの上に無造作に置かれている上着を取るために椅子から立ち上がった。
「あ、アイタタタ・・・」
変な姿勢で寝ていたからだろうか、腰に痛みが走る。その痛みと格闘しながらなんとか上着をとって着る。あぁ、温かい。私はそのままベッドへと倒れこんで、手足を伸ばしてリラックスした状態で天井を眺めた。静かだ。聞こえてくる音は、風に揺れる木葉や小鳥のさえずりぐらいである。
そんな静寂を腹の虫が破る。
「お腹、すいたなぁ。」
と言っても、多分私の空腹を満たせるものはこの家には無い。なぜなら、食材を買い出しに行くのを忘れてずっと実験に熱中していたから。良いキノコが手に入って、新鮮なうちに色々試したかったんだ。結果、なかなかいい成果をだすことができた。だが、お腹が空いているのには変わりない。どうしたらいいものか・・・
「・・・そうだ、香霖のところにたかりに行こう!」
きっと御飯があるに違いないと思った私は、そのままベッドから飛び起き、箒を手にとって玄関から外へ出た。
「こうりーーん!神様がやってきたぜ、丁重にもてなしてくれよな。」
ドアを開けて店の中へ入った。中にはいつもどおり香霖が座っていた。しかし、奴はいつもどおりに本を読んではいなかった。何か、小さな箱のようなものを手にして、それをじっと見つめていた。
「いらっしゃいま・・・なんだ、魔理沙か。泥棒から神様へ転職でもしたのかい?」
目線はその箱に向けながら、香霖は素っ気無く返事をした。
「昔から言うだろ、『お客様は神様』って。それに、私は泥棒なんて一度もしてないぜ?」
「『お客様は神様』っていうのは店側が言うものだ。客が自称するものじゃないよ。それより、どうしてこんな朝に来たんだい?」
「腹が減ってな、食料切らしてたからここへ御飯食べに来たんだ。なんか食わせろよー。」
「はぁ?身勝手なやつだな。・・・まぁ、今日の僕は上機嫌だからね。特別に朝御飯ぐらいご馳走してあげよう。」
「上機嫌?何かあったのか?」
「朝御飯を食べてる時に説明してあげるよ。」
そう言って香霖は台所の方へと向かっていった。
陽の光で照らされた目の前のテーブルに御飯とお味噌汁、それにお漬物が並べてある。どれも美味しそうだ。
「いっただっきまーす。」
箸を手に取り、挨拶をすると早速御飯を食べ始める。
「でさ、どうして上機嫌なんだ?」
「朝、店の周りを歩いてみたら落ちてたんだよ。ハイこれ。」
笑顔で香霖がさっきの箱みたいなのをいくつも出してきた。一つ一つ形状は違うが、同じ道具だというのはなんとなく想像がついた。
「小さな箱だな。一体何に使う道具なんだ?」
「これはね、携帯電話と言って遠く離れた友人と会話をする事ができる外の世界の道具だ。」
そう言って香霖は両手に携帯電話と呼ばれたものを持つとそれぞれ小刻みに揺らしたりした。
会話をしてる様子を表しているのか?
「携帯電話ねぇ・・・紫がそれっぽい単語を言ってたっけか。」
紫は外の世界と自由に行き来できる妖怪だ。だから外の道具も色々知っているらしい。香霖以上に。
「実はね、この携帯電話は少し前にも見つけてたんだよ。で、弄ってみようとした時に紫に全部とられてしまったんだ。」
「あいつが?なんでだろうな。」
「そんなことは今はどうでもいいんだ。これが手に入って弄れる、これだけで僕は満足さ。後は自由に使いこなせればいいんだけど・・・」
そう言って香霖は携帯電話いじりを始める。私はその様子を見ながら食事を続けた。
「・・・ふう、ごちそうさまでした。」
「お粗末さま。」
「どう?動きそうか、それ。」
「全然。試してみるかい?」
香霖に手渡されたそれをがっしりと掴んで私は椅子から立ち上がった。
「ああ。ついでに借りてくぜ。」
「え、あ、ちょっと、まだそれ非売品なんだぞ!」
「借りるだけだぜー。」
私はそう言ったあと、ドアを乱暴に開けて空へと飛んだ。
人里で食料調達をし終え、家についた私は、椅子に座って早速携帯電話をもう少し詳しく観察した。大体掌に乗るサイズで重くはない。パカパカ開くようになっていて、黒い窓のようなものと数字が1から9まで書いてあるボタンがあった。数字の書き方からして黒い板のほうが上らしい。
ボタンを押せば何か動くはずだと思い、1から順に押しまくっていったがうんともすんとも言わなかった。他にも香霖がさっきしていたように揺らしてみたり、黒い窓を凝視してみたりしたが携帯電話は何も反応を示さなかった。
「なーんだ、ダメか。」
やっぱり、普通の幻想郷の住人には外の道具を使いこなすことはできないのだろうか。潔く諦めた私は、携帯電話をベッドに投げて昨日の実験の続きでもやろうと準備を始めた。
その準備が半分ほど終わった時に、それは起こった。薬瓶を机に運んでいる時に、突如甲高い音が部屋中に鳴り響いたのだ。なんなんだと自分で思ったが、あまり身に覚えがない。もしかして携帯電話・・・?いやいや、そんなまさか。そう思いながら私はベッドの上に転がっているそれを見た。
携帯電話はまるで寒くて震えているように小刻みに動いていた。恐る恐る近づいてみたら音が大きくなった。音の源は十中八九携帯電話だ。それを手に取り、開いてみると黒い窓のところに数字の羅列が表示されていた。その下には『着信』という文字の隣に携帯電話のそれに似た記号らしき物が書いてあった。よく見ると下のボタンにも似たような物が書かれている。多分、押せということなのだろう。私は好奇心でボタンを押した。
甲高い音に小刻みの震えが止まり、代わりに小さな声が耳に入った。携帯電話を耳に近づけるとその音も大きくなっていった。ついには黒い窓を耳にくっつけるぐらいに近づけた。すると小さな声がだんだん聞き取れるようになった。
「・・・もしもし?もしもし?もしもし?もしもし?」
「だ、誰だ?」
「あ、貴方が魔理沙さんですか?」
声は男とも女とも言えない中性で、口調は少し早い。そして、なんとなくだが、普通の人間とはどこか違って聞こえた。言葉にしづらいが、どことなくあたたかみを感じない、冷たい声だった。
「いかにも私が魔理沙だが。あんたは誰だ?」
「よかったよかった、貴方が魔理沙さんですか。」
相手は私の問いを無視して、相手は一方的に喋ってくる。
「いやぁ、一度お話をしてみたかったんですよ。」
「だから誰なんだってば。」
「あ、すいません。私はこの世の様々な物事を知り尽くしている者です。」
「は?なんだそれ・・・」
様々なことって一体何を知ってるんだ?そもそも私の疑問の答えになっていないような・・・ん?もしかして・・・
「もしかすると、あんたは外の世界の道具の使い方もわかるのか?」
「勿論わかりますよ!」
「ほ、本当か!?」
予想外の答えに私は心が踊った。
「はい。例えば・・・そのパソコン。」
そう言われて私は真っ先にパソコンの方へと近づく。パソコンとは外の世界の式神らしい。これで動かし方がわかれば私もついに式神持ちの仲間いりである。
「・・・残念ながら幻想郷じゃあ使えません。」
「なんだそれ・・・期待させてそれかよ。」
「仕方がありません。幻想郷には電気がありませんからね。」
「電気?外の世界の魔術かなんかか?」
「まあ、そんな感じです。」
「ふーん、それじゃあ、私は実験で忙しくなる予定だから静かにしてろよ?」
法螺話に飽きたので、会話をやめて実験に取り掛かろうとした。しかし、次に相手が話した内容で私はそれを思いとどまった。
「それなら、実験のお手伝いをしましょう!右手の近くにある棚の一番左下に入っているキノコを用意してください。」
まるで私の部屋の中を今見ているかのような事を相手が喋った。そういえば、パソコンを持ってるだなんて一度も口にしてはいないはずだ。一体どういうことだ?
「机の上の真ん中にある中身のはいった薬瓶、それと空の小皿を一つを使います。」
その後も様々な道具を用意させられた。私が普段使っているような道具から、手に入れてからほったらかしにしてた道具まで。
あれから準備や実験でかなりの時間が経っていた。太陽光がは木々の隙間から部屋の中を照らしている。いつもなら一人また明日のことなどを考えて夕飯の支度をしているところだったが、今日は違っていた。
「いやあ、さっきのはすごかった!キノコと道具であんなこともできるのか!」
「だから言ったでしょう?私は色々なことを知っている、と」
「疑って悪かったな。すまん。」
「わかればいいんですよ。」
私は携帯電話を耳に当てながら、さっきの実験結果に喜び、それを手伝ってくれた話し相手に感謝していた。
「なあなあ、他の魔法とかも知っているんだろ?パチュリーとかアリスは自分のことばっかで全然相手してくれないんだ。な、もっと教えてくれよ。」
「勿論いいとも。しかし今日はもう遅い、また明日ぐらいに話そうじゃないか。」
「そうしてもらえると助かる。私もお腹が空いたからな。」
「それではまた明日。この携帯電話は誰にも渡さないように。」
相手がそう言った途端、プツンという音とともに部屋は静かになった。私はウキウキの気分で夕飯の支度を始めた。また明日、私の知らない魔法が知れる。早く明日が来ないかなぁ。
・・・数週間は過ぎただろうか。あの日から毎日、携帯電話で相手と話す日々が続いた。話す内容は大体魔法関連の事だが、世間話をすることもあった。何より驚くことは、会話をしているとあっという間に時間が過ぎていくということだ。朝方に話し始めたと思ったらすぐに夜になっていたりするのだ。時々、まるで一日中話していたと錯覚するぐらい話し込んだりもしたが、太陽がほんの少し傾いていただけだったりで、それにも驚いた。
今日もまた携帯電話が鳴り響く。今日はどんな事を教えてもらえるかな?私は上機嫌でそれを手にとった。
午前の掃除を終わらせて、私は縁側に腰掛けて一人御茶を飲んでいた。空は快晴だが、陽の光が当たらないところにいると肌寒く感じる。もうそろそろ秋が過ぎて冬が来るのだろう。どこぞの神様の悲しむ声が聞こえた気がした。
冬が来る前には落ち葉がもっと増えるから、掃除が大変になりそうだ。そう思っていたら急に吹いた風邪でせっかく集めた葉などがまた散り散りになっていまった。
「・・・はぁ、面倒な季節になったわね。そう思うでしょ魔理・・・」
よく時間帯にはいる黒白の魔法使いに向かって私は話しかけていた。しかし、彼女はいない。
最後に彼女を見てから数週間は経っている。二、三日顔を見せないことはよくあることだがこんな長い期間現れないのは珍しい、いや、初めてだと思う。
この前の宴会にも来てなかったし・・・さすがに心配になってきた。だからといってすぐに魔理沙の家に飛んで行くのも気まずい。もし普通に居たらおちょくられそう。
取り敢えず、あいつが行きそうなところでも行ってみよう。暇つぶし程度にはなるかしら?
「霖之助さんいるかしら?」
扉を開けながら店の中に言う。中は外と違って暖かかった。多分、外の世界のストーブを動かしているのだろう。羨ましい限りね。
「・・・・霊夢か。なにか用かい?」
「用ってわけでもないのだけれど・・・魔理沙見かけてない?」
「魔理沙?そういえば最近見てないな。」
「ここにも顔出してないの?なんだか怪しくなってきたわ・・・」
ここ、香霖堂を訪れる前に、紅魔館や人間の里やら山やら色々なところへ行ってみたが、誰一人最近魔理沙を見ていないのだという。
いくら外の世界なんかと比べたら狭い幻想郷でも全然目撃者がいないというのは変だ。第一、魔理沙は家でじっとしているタイプではない。魔法の研究と言ってはあちこちに何やら色々探しているようだったし。
「もしかして、霊夢のところにも来てないのかい?」
「ええ、そうよ。それどころか幻想郷のどこの人も皆最近見かけてないらしいのよ。」
「あの魔理沙が家でじっとしているとは思えないし・・・何か厄介事に巻き込まれているんじゃないか?」
「もしそうだとしたら、魔理沙の身が危ないわ・・・よし、魔理沙の家へ行きましょう。霖之助さんも来る?」
「いや、僕はいいよ。まだ店が開いているからね。」
「心配しなくてもお客も泥棒も入ってきやしないわ。それに、今まで盗まれてきた品々があるんじゃないの?取り返すチャンスじゃない。」
「よし、僕も行こう。」
久しぶりに魔理沙の家へと訪れた。少し前までと見た目は変わっていなかったが、誰の目から見ても異常だとわかる光景が目の前に広がっていた。
「な、なによこれ・・・」
彼女の家の周りに様々な霊が浮かんでいたのだ。幽霊と、そしてなぜだか怨霊。数は尋常じゃないほど多い。濃い霧がかかっているかのように、視界がぼやけていた。
一体どうしてこんなことが?そもそも霊のたぐいは、普段はこんなところにはよってはこないはずである。幽霊だけなら、かなり前香霖堂でわんさか集まっていたが、それは冥界の道具の仕業だったらしい。だが、怨霊はそもそも間欠泉の騒ぎで出た後は減少傾向にあったはずだ。それが、自然に膨大な数が一箇所に集まってくることなんてありえない。
まさか、魔理沙の奴、変な実験でもしてるのか?それとも地底の怨霊を管理している猫車でも飼い始めたのか?家の前で考えていても始まらない。もし、魔理沙が幽霊や怨霊に長時間接触していたらそれこそ命の危険もありえる。幽霊や怨霊は近くにいるだけで精神に何らかの作用を引き起こすからだ。こんな沢山の霊に囲まれていたら、精神崩壊もありえるかもしれない。
「魔理沙が危ない!」
「ど、どうするんだい霊夢。こんな数、どうやって退治するんだい?」
「霖之助さん。これ持ってて。」
私は袖から取り出した護身用の札を手渡した。
「これを持ってたら近くに霊が近づいてくることは無いはず。」
「わかった。とりあえず僕は霊夢の後ろをついていくよ。」
私達は家に近づいて、そっとドアを開けた。
中からは食べ物の腐った臭いがした。魔法の森は湿気が強く、食料などはちゃんとした保存状態を保たないとすぐに腐ってしまうのだ。それを怠っているということは、ろくに食べ物も食べていないということか?そして外と変わらずに霊が沢山浮かんでいた。幾ら近づいてこなくなっても、これだけの霊に囲まれていると気温が下がったように錯覚してしまう。幽霊や怨霊はとても冷たいからだ。
私達は霊をかき分けて彼女の部屋へと向かった。歩くたびに家に鳴り響く床の軋む音。それに反応するかのように例の頭の部分がふわふわ動く。霊のこともそうだが、今は何より魔理沙だ。彼女は大丈夫だろうか?
そんな心配をしているうちに、部屋についた。『私の部屋』と書かれたプレートがぶら下がっている扉の前に、私達が立つ。耳を澄まして中の様子を聞いてみると、彼女の声が聞こえた。でも、いつもの声じゃない。かなり小さく、か弱い。やはり、彼女の身に何かあったようだ。私はとっさにドアを押し開けた。
そこには変わり果てた魔理沙の姿があった。私達の方を向いてペタンと座っていた。いや、私達を見ているわけではないらしい。眼の焦点がこちらに合っていないのだ。そして、目にはくま、頬はハリがなくなり、痩せこけていた。何故か、右手で何かを耳に当てている。
「ま、魔理沙!」
私達は同時に彼女の名前を叫んで、そのまま側まで近づいた。
「ねえ、ちょっと魔理沙!あんた一体どうしちゃったのよ!!」
私が彼女の肩を掴み、激しく前後に揺すった。しかし、彼女から返答はない。左手には全然力が入っていなかったが、耳に何かを当てている右手の方はがっしりと、石のように動かなかった。
「その携帯電話、魔理沙が持ってったやつだ。でも、僕じゃいくらやっても動かなかったぞ・・・?」
すると彼女は突然一言だけ発した。
「・・・へぇ、他にはどんなのがあるんだい?」
どうやら、携帯電話とやらを使って何者かと話しているようだった。もしかして、原因はそれか?
「霖之助さん、私と一緒に携帯電話を取り上げるの手伝って!」
「わ、わかった!」
私達は一緒に力を合わせて彼女の右腕を引っ張った。右腕が少し耳からずれると、ポトンと携帯電話が床に落ちた。すかさずそれを取ろうとした所、そこから怨霊が飛び出てきた。どうやら、携帯電話に怨霊がとりつかれていたようだった。もう一度、他の怨霊が入るのを防ぐために御札を貼っておき、袖に入れた。
すると、魔理沙が突然、座った状態から、うつ伏せに倒れそうになったが、霖之助さんがキャッチした。
「うわ、とんでもなく軽いぞ。」
どうやら、本当に食べ物をろくに食べていないようだった。これでは栄養不足で命が危ない。
「魔理沙は私に任せて!永遠亭に連れて行くわ。」
「例の竹林の病院だね?わかった。」
私は持ってきたありったけの御札を渡して言った。
「霖之助さんはこの御札全部をこの家のあらゆるところに貼っておいて。」
「了解。魔理沙のこと、頼むよ。」
その言葉を聞いた直後に私は、窓から迷いの竹林を目指して飛び立った。
「危ないところだったわ。あと一日ぐらい見つかるのが遅かったら手遅れになってたかも。」
「そうだったの。よかった・・・」
あの後、無事に永遠亭に魔理沙を連れて行き、応急処置を行ってもらった。少し入院が必要だが、幸い命に別条はないそうだ。
「ところでなんでこんなに衰弱しきってたのかしら?普段の魔理沙じゃ、そんなことなさそうなのだけれど。」
「そうなのよ。でも、なぜそうなったかは、これが原因だと思うの。」
そう言って私は袖に入れておいた御札の貼ってある携帯電話を永琳に見せた。
「あら、携帯電話じゃない。」
「知ってるの?」
「月の都でかなり昔に流行ったものよ。今じゃほとんど廃れてるらしいけどね。外の世界にもあるのは知っていたわ。」
「後、それと幽霊とか怨霊とかが集まってたのよ。」
「ふーん・・・なるほどね。なんとなく分かったわ。どうして、魔理沙がこんなことになってしまったのか。」
永琳はこう言った。携帯電話は遠くの人と会話をする道具なのだそうだ。で、仕組みが『言霊』を目に見えない波に変換して相手に伝えるのだという。この『言霊』というのは文字通り言葉に宿る霊で、幽霊、怨霊と少しにているところがあるらしい。
つまり、携帯電話は言霊だけでなく、時々幽霊や怨霊の言葉も拾ってしまうのだ。外の世界や月の都には幽霊や怨霊のたぐいはほとんど見かけることがないが、幻想郷では普通に見かけることができるものだ。
そしてそれが今回の出来事につながるのだという。怨霊は自らの意思を自分の言葉で伝えようとする。しかし、霊の時点でそれはほとんどできないのだ。だからこそ、他の妖怪や道具に取り憑くのだという。そして今回、他の道具と比べて意思疎通のしやすい携帯電話に取り憑いたらしい。
また、霊のたぐいは精神に影響をおよぼす存在であり、意思疎通などをしてしまうと、物理的接触よりも大きく影響を受けてしまうらしかった。
それらが合わさった結果、携帯電話に取り憑いた怨霊と魔理沙が会話をしてしまい、精神に何らかの影響を与えてしまい、携帯電話の存在をどこからか知った霊達が我先にと集まったのだという。
「・・・ま、あくまで私の推測だけれどね。」
「うーん。なんとなく、それであってるかもしれないわね。真相は本人に聞いてみなければならないけど。」
その本人はまだ眠っている。当分は起きなさそうな雰囲気だ。
「取り敢えず、この危なっかしい携帯電話は封印して無縁塚にでも置いておこうかしら。」
「そうした方がいいわね。」
「それじゃあ私はこのへんで戻るわ。魔理沙が起きたら状況の説明よろしくね?」
「わかったわ。」
私はそのまま神社へと行き、霊専用の御札をありったけ持って魔理沙の家へと向かった。ついでに家の掃除もしてあげようかしら?
「ふ、ふわぁあ・・・うぅ、寒い・・・」
今はもう神無月で、この前までのジメジメした暑さはどこへやら、朝方は結構冷え込んでしまう。そんな時期に温かい布団に入らず普通の服で寝てしまうだなんて、自分のことながら呆れるぜ。こんなことをしていては風邪をひいてしまうかもしれない。
寒いのは苦手なので、私はベッドの上に無造作に置かれている上着を取るために椅子から立ち上がった。
「あ、アイタタタ・・・」
変な姿勢で寝ていたからだろうか、腰に痛みが走る。その痛みと格闘しながらなんとか上着をとって着る。あぁ、温かい。私はそのままベッドへと倒れこんで、手足を伸ばしてリラックスした状態で天井を眺めた。静かだ。聞こえてくる音は、風に揺れる木葉や小鳥のさえずりぐらいである。
そんな静寂を腹の虫が破る。
「お腹、すいたなぁ。」
と言っても、多分私の空腹を満たせるものはこの家には無い。なぜなら、食材を買い出しに行くのを忘れてずっと実験に熱中していたから。良いキノコが手に入って、新鮮なうちに色々試したかったんだ。結果、なかなかいい成果をだすことができた。だが、お腹が空いているのには変わりない。どうしたらいいものか・・・
「・・・そうだ、香霖のところにたかりに行こう!」
きっと御飯があるに違いないと思った私は、そのままベッドから飛び起き、箒を手にとって玄関から外へ出た。
「こうりーーん!神様がやってきたぜ、丁重にもてなしてくれよな。」
ドアを開けて店の中へ入った。中にはいつもどおり香霖が座っていた。しかし、奴はいつもどおりに本を読んではいなかった。何か、小さな箱のようなものを手にして、それをじっと見つめていた。
「いらっしゃいま・・・なんだ、魔理沙か。泥棒から神様へ転職でもしたのかい?」
目線はその箱に向けながら、香霖は素っ気無く返事をした。
「昔から言うだろ、『お客様は神様』って。それに、私は泥棒なんて一度もしてないぜ?」
「『お客様は神様』っていうのは店側が言うものだ。客が自称するものじゃないよ。それより、どうしてこんな朝に来たんだい?」
「腹が減ってな、食料切らしてたからここへ御飯食べに来たんだ。なんか食わせろよー。」
「はぁ?身勝手なやつだな。・・・まぁ、今日の僕は上機嫌だからね。特別に朝御飯ぐらいご馳走してあげよう。」
「上機嫌?何かあったのか?」
「朝御飯を食べてる時に説明してあげるよ。」
そう言って香霖は台所の方へと向かっていった。
陽の光で照らされた目の前のテーブルに御飯とお味噌汁、それにお漬物が並べてある。どれも美味しそうだ。
「いっただっきまーす。」
箸を手に取り、挨拶をすると早速御飯を食べ始める。
「でさ、どうして上機嫌なんだ?」
「朝、店の周りを歩いてみたら落ちてたんだよ。ハイこれ。」
笑顔で香霖がさっきの箱みたいなのをいくつも出してきた。一つ一つ形状は違うが、同じ道具だというのはなんとなく想像がついた。
「小さな箱だな。一体何に使う道具なんだ?」
「これはね、携帯電話と言って遠く離れた友人と会話をする事ができる外の世界の道具だ。」
そう言って香霖は両手に携帯電話と呼ばれたものを持つとそれぞれ小刻みに揺らしたりした。
会話をしてる様子を表しているのか?
「携帯電話ねぇ・・・紫がそれっぽい単語を言ってたっけか。」
紫は外の世界と自由に行き来できる妖怪だ。だから外の道具も色々知っているらしい。香霖以上に。
「実はね、この携帯電話は少し前にも見つけてたんだよ。で、弄ってみようとした時に紫に全部とられてしまったんだ。」
「あいつが?なんでだろうな。」
「そんなことは今はどうでもいいんだ。これが手に入って弄れる、これだけで僕は満足さ。後は自由に使いこなせればいいんだけど・・・」
そう言って香霖は携帯電話いじりを始める。私はその様子を見ながら食事を続けた。
「・・・ふう、ごちそうさまでした。」
「お粗末さま。」
「どう?動きそうか、それ。」
「全然。試してみるかい?」
香霖に手渡されたそれをがっしりと掴んで私は椅子から立ち上がった。
「ああ。ついでに借りてくぜ。」
「え、あ、ちょっと、まだそれ非売品なんだぞ!」
「借りるだけだぜー。」
私はそう言ったあと、ドアを乱暴に開けて空へと飛んだ。
人里で食料調達をし終え、家についた私は、椅子に座って早速携帯電話をもう少し詳しく観察した。大体掌に乗るサイズで重くはない。パカパカ開くようになっていて、黒い窓のようなものと数字が1から9まで書いてあるボタンがあった。数字の書き方からして黒い板のほうが上らしい。
ボタンを押せば何か動くはずだと思い、1から順に押しまくっていったがうんともすんとも言わなかった。他にも香霖がさっきしていたように揺らしてみたり、黒い窓を凝視してみたりしたが携帯電話は何も反応を示さなかった。
「なーんだ、ダメか。」
やっぱり、普通の幻想郷の住人には外の道具を使いこなすことはできないのだろうか。潔く諦めた私は、携帯電話をベッドに投げて昨日の実験の続きでもやろうと準備を始めた。
その準備が半分ほど終わった時に、それは起こった。薬瓶を机に運んでいる時に、突如甲高い音が部屋中に鳴り響いたのだ。なんなんだと自分で思ったが、あまり身に覚えがない。もしかして携帯電話・・・?いやいや、そんなまさか。そう思いながら私はベッドの上に転がっているそれを見た。
携帯電話はまるで寒くて震えているように小刻みに動いていた。恐る恐る近づいてみたら音が大きくなった。音の源は十中八九携帯電話だ。それを手に取り、開いてみると黒い窓のところに数字の羅列が表示されていた。その下には『着信』という文字の隣に携帯電話のそれに似た記号らしき物が書いてあった。よく見ると下のボタンにも似たような物が書かれている。多分、押せということなのだろう。私は好奇心でボタンを押した。
甲高い音に小刻みの震えが止まり、代わりに小さな声が耳に入った。携帯電話を耳に近づけるとその音も大きくなっていった。ついには黒い窓を耳にくっつけるぐらいに近づけた。すると小さな声がだんだん聞き取れるようになった。
「・・・もしもし?もしもし?もしもし?もしもし?」
「だ、誰だ?」
「あ、貴方が魔理沙さんですか?」
声は男とも女とも言えない中性で、口調は少し早い。そして、なんとなくだが、普通の人間とはどこか違って聞こえた。言葉にしづらいが、どことなくあたたかみを感じない、冷たい声だった。
「いかにも私が魔理沙だが。あんたは誰だ?」
「よかったよかった、貴方が魔理沙さんですか。」
相手は私の問いを無視して、相手は一方的に喋ってくる。
「いやぁ、一度お話をしてみたかったんですよ。」
「だから誰なんだってば。」
「あ、すいません。私はこの世の様々な物事を知り尽くしている者です。」
「は?なんだそれ・・・」
様々なことって一体何を知ってるんだ?そもそも私の疑問の答えになっていないような・・・ん?もしかして・・・
「もしかすると、あんたは外の世界の道具の使い方もわかるのか?」
「勿論わかりますよ!」
「ほ、本当か!?」
予想外の答えに私は心が踊った。
「はい。例えば・・・そのパソコン。」
そう言われて私は真っ先にパソコンの方へと近づく。パソコンとは外の世界の式神らしい。これで動かし方がわかれば私もついに式神持ちの仲間いりである。
「・・・残念ながら幻想郷じゃあ使えません。」
「なんだそれ・・・期待させてそれかよ。」
「仕方がありません。幻想郷には電気がありませんからね。」
「電気?外の世界の魔術かなんかか?」
「まあ、そんな感じです。」
「ふーん、それじゃあ、私は実験で忙しくなる予定だから静かにしてろよ?」
法螺話に飽きたので、会話をやめて実験に取り掛かろうとした。しかし、次に相手が話した内容で私はそれを思いとどまった。
「それなら、実験のお手伝いをしましょう!右手の近くにある棚の一番左下に入っているキノコを用意してください。」
まるで私の部屋の中を今見ているかのような事を相手が喋った。そういえば、パソコンを持ってるだなんて一度も口にしてはいないはずだ。一体どういうことだ?
「机の上の真ん中にある中身のはいった薬瓶、それと空の小皿を一つを使います。」
その後も様々な道具を用意させられた。私が普段使っているような道具から、手に入れてからほったらかしにしてた道具まで。
あれから準備や実験でかなりの時間が経っていた。太陽光がは木々の隙間から部屋の中を照らしている。いつもなら一人また明日のことなどを考えて夕飯の支度をしているところだったが、今日は違っていた。
「いやあ、さっきのはすごかった!キノコと道具であんなこともできるのか!」
「だから言ったでしょう?私は色々なことを知っている、と」
「疑って悪かったな。すまん。」
「わかればいいんですよ。」
私は携帯電話を耳に当てながら、さっきの実験結果に喜び、それを手伝ってくれた話し相手に感謝していた。
「なあなあ、他の魔法とかも知っているんだろ?パチュリーとかアリスは自分のことばっかで全然相手してくれないんだ。な、もっと教えてくれよ。」
「勿論いいとも。しかし今日はもう遅い、また明日ぐらいに話そうじゃないか。」
「そうしてもらえると助かる。私もお腹が空いたからな。」
「それではまた明日。この携帯電話は誰にも渡さないように。」
相手がそう言った途端、プツンという音とともに部屋は静かになった。私はウキウキの気分で夕飯の支度を始めた。また明日、私の知らない魔法が知れる。早く明日が来ないかなぁ。
・・・数週間は過ぎただろうか。あの日から毎日、携帯電話で相手と話す日々が続いた。話す内容は大体魔法関連の事だが、世間話をすることもあった。何より驚くことは、会話をしているとあっという間に時間が過ぎていくということだ。朝方に話し始めたと思ったらすぐに夜になっていたりするのだ。時々、まるで一日中話していたと錯覚するぐらい話し込んだりもしたが、太陽がほんの少し傾いていただけだったりで、それにも驚いた。
今日もまた携帯電話が鳴り響く。今日はどんな事を教えてもらえるかな?私は上機嫌でそれを手にとった。
午前の掃除を終わらせて、私は縁側に腰掛けて一人御茶を飲んでいた。空は快晴だが、陽の光が当たらないところにいると肌寒く感じる。もうそろそろ秋が過ぎて冬が来るのだろう。どこぞの神様の悲しむ声が聞こえた気がした。
冬が来る前には落ち葉がもっと増えるから、掃除が大変になりそうだ。そう思っていたら急に吹いた風邪でせっかく集めた葉などがまた散り散りになっていまった。
「・・・はぁ、面倒な季節になったわね。そう思うでしょ魔理・・・」
よく時間帯にはいる黒白の魔法使いに向かって私は話しかけていた。しかし、彼女はいない。
最後に彼女を見てから数週間は経っている。二、三日顔を見せないことはよくあることだがこんな長い期間現れないのは珍しい、いや、初めてだと思う。
この前の宴会にも来てなかったし・・・さすがに心配になってきた。だからといってすぐに魔理沙の家に飛んで行くのも気まずい。もし普通に居たらおちょくられそう。
取り敢えず、あいつが行きそうなところでも行ってみよう。暇つぶし程度にはなるかしら?
「霖之助さんいるかしら?」
扉を開けながら店の中に言う。中は外と違って暖かかった。多分、外の世界のストーブを動かしているのだろう。羨ましい限りね。
「・・・・霊夢か。なにか用かい?」
「用ってわけでもないのだけれど・・・魔理沙見かけてない?」
「魔理沙?そういえば最近見てないな。」
「ここにも顔出してないの?なんだか怪しくなってきたわ・・・」
ここ、香霖堂を訪れる前に、紅魔館や人間の里やら山やら色々なところへ行ってみたが、誰一人最近魔理沙を見ていないのだという。
いくら外の世界なんかと比べたら狭い幻想郷でも全然目撃者がいないというのは変だ。第一、魔理沙は家でじっとしているタイプではない。魔法の研究と言ってはあちこちに何やら色々探しているようだったし。
「もしかして、霊夢のところにも来てないのかい?」
「ええ、そうよ。それどころか幻想郷のどこの人も皆最近見かけてないらしいのよ。」
「あの魔理沙が家でじっとしているとは思えないし・・・何か厄介事に巻き込まれているんじゃないか?」
「もしそうだとしたら、魔理沙の身が危ないわ・・・よし、魔理沙の家へ行きましょう。霖之助さんも来る?」
「いや、僕はいいよ。まだ店が開いているからね。」
「心配しなくてもお客も泥棒も入ってきやしないわ。それに、今まで盗まれてきた品々があるんじゃないの?取り返すチャンスじゃない。」
「よし、僕も行こう。」
久しぶりに魔理沙の家へと訪れた。少し前までと見た目は変わっていなかったが、誰の目から見ても異常だとわかる光景が目の前に広がっていた。
「な、なによこれ・・・」
彼女の家の周りに様々な霊が浮かんでいたのだ。幽霊と、そしてなぜだか怨霊。数は尋常じゃないほど多い。濃い霧がかかっているかのように、視界がぼやけていた。
一体どうしてこんなことが?そもそも霊のたぐいは、普段はこんなところにはよってはこないはずである。幽霊だけなら、かなり前香霖堂でわんさか集まっていたが、それは冥界の道具の仕業だったらしい。だが、怨霊はそもそも間欠泉の騒ぎで出た後は減少傾向にあったはずだ。それが、自然に膨大な数が一箇所に集まってくることなんてありえない。
まさか、魔理沙の奴、変な実験でもしてるのか?それとも地底の怨霊を管理している猫車でも飼い始めたのか?家の前で考えていても始まらない。もし、魔理沙が幽霊や怨霊に長時間接触していたらそれこそ命の危険もありえる。幽霊や怨霊は近くにいるだけで精神に何らかの作用を引き起こすからだ。こんな沢山の霊に囲まれていたら、精神崩壊もありえるかもしれない。
「魔理沙が危ない!」
「ど、どうするんだい霊夢。こんな数、どうやって退治するんだい?」
「霖之助さん。これ持ってて。」
私は袖から取り出した護身用の札を手渡した。
「これを持ってたら近くに霊が近づいてくることは無いはず。」
「わかった。とりあえず僕は霊夢の後ろをついていくよ。」
私達は家に近づいて、そっとドアを開けた。
中からは食べ物の腐った臭いがした。魔法の森は湿気が強く、食料などはちゃんとした保存状態を保たないとすぐに腐ってしまうのだ。それを怠っているということは、ろくに食べ物も食べていないということか?そして外と変わらずに霊が沢山浮かんでいた。幾ら近づいてこなくなっても、これだけの霊に囲まれていると気温が下がったように錯覚してしまう。幽霊や怨霊はとても冷たいからだ。
私達は霊をかき分けて彼女の部屋へと向かった。歩くたびに家に鳴り響く床の軋む音。それに反応するかのように例の頭の部分がふわふわ動く。霊のこともそうだが、今は何より魔理沙だ。彼女は大丈夫だろうか?
そんな心配をしているうちに、部屋についた。『私の部屋』と書かれたプレートがぶら下がっている扉の前に、私達が立つ。耳を澄まして中の様子を聞いてみると、彼女の声が聞こえた。でも、いつもの声じゃない。かなり小さく、か弱い。やはり、彼女の身に何かあったようだ。私はとっさにドアを押し開けた。
そこには変わり果てた魔理沙の姿があった。私達の方を向いてペタンと座っていた。いや、私達を見ているわけではないらしい。眼の焦点がこちらに合っていないのだ。そして、目にはくま、頬はハリがなくなり、痩せこけていた。何故か、右手で何かを耳に当てている。
「ま、魔理沙!」
私達は同時に彼女の名前を叫んで、そのまま側まで近づいた。
「ねえ、ちょっと魔理沙!あんた一体どうしちゃったのよ!!」
私が彼女の肩を掴み、激しく前後に揺すった。しかし、彼女から返答はない。左手には全然力が入っていなかったが、耳に何かを当てている右手の方はがっしりと、石のように動かなかった。
「その携帯電話、魔理沙が持ってったやつだ。でも、僕じゃいくらやっても動かなかったぞ・・・?」
すると彼女は突然一言だけ発した。
「・・・へぇ、他にはどんなのがあるんだい?」
どうやら、携帯電話とやらを使って何者かと話しているようだった。もしかして、原因はそれか?
「霖之助さん、私と一緒に携帯電話を取り上げるの手伝って!」
「わ、わかった!」
私達は一緒に力を合わせて彼女の右腕を引っ張った。右腕が少し耳からずれると、ポトンと携帯電話が床に落ちた。すかさずそれを取ろうとした所、そこから怨霊が飛び出てきた。どうやら、携帯電話に怨霊がとりつかれていたようだった。もう一度、他の怨霊が入るのを防ぐために御札を貼っておき、袖に入れた。
すると、魔理沙が突然、座った状態から、うつ伏せに倒れそうになったが、霖之助さんがキャッチした。
「うわ、とんでもなく軽いぞ。」
どうやら、本当に食べ物をろくに食べていないようだった。これでは栄養不足で命が危ない。
「魔理沙は私に任せて!永遠亭に連れて行くわ。」
「例の竹林の病院だね?わかった。」
私は持ってきたありったけの御札を渡して言った。
「霖之助さんはこの御札全部をこの家のあらゆるところに貼っておいて。」
「了解。魔理沙のこと、頼むよ。」
その言葉を聞いた直後に私は、窓から迷いの竹林を目指して飛び立った。
「危ないところだったわ。あと一日ぐらい見つかるのが遅かったら手遅れになってたかも。」
「そうだったの。よかった・・・」
あの後、無事に永遠亭に魔理沙を連れて行き、応急処置を行ってもらった。少し入院が必要だが、幸い命に別条はないそうだ。
「ところでなんでこんなに衰弱しきってたのかしら?普段の魔理沙じゃ、そんなことなさそうなのだけれど。」
「そうなのよ。でも、なぜそうなったかは、これが原因だと思うの。」
そう言って私は袖に入れておいた御札の貼ってある携帯電話を永琳に見せた。
「あら、携帯電話じゃない。」
「知ってるの?」
「月の都でかなり昔に流行ったものよ。今じゃほとんど廃れてるらしいけどね。外の世界にもあるのは知っていたわ。」
「後、それと幽霊とか怨霊とかが集まってたのよ。」
「ふーん・・・なるほどね。なんとなく分かったわ。どうして、魔理沙がこんなことになってしまったのか。」
永琳はこう言った。携帯電話は遠くの人と会話をする道具なのだそうだ。で、仕組みが『言霊』を目に見えない波に変換して相手に伝えるのだという。この『言霊』というのは文字通り言葉に宿る霊で、幽霊、怨霊と少しにているところがあるらしい。
つまり、携帯電話は言霊だけでなく、時々幽霊や怨霊の言葉も拾ってしまうのだ。外の世界や月の都には幽霊や怨霊のたぐいはほとんど見かけることがないが、幻想郷では普通に見かけることができるものだ。
そしてそれが今回の出来事につながるのだという。怨霊は自らの意思を自分の言葉で伝えようとする。しかし、霊の時点でそれはほとんどできないのだ。だからこそ、他の妖怪や道具に取り憑くのだという。そして今回、他の道具と比べて意思疎通のしやすい携帯電話に取り憑いたらしい。
また、霊のたぐいは精神に影響をおよぼす存在であり、意思疎通などをしてしまうと、物理的接触よりも大きく影響を受けてしまうらしかった。
それらが合わさった結果、携帯電話に取り憑いた怨霊と魔理沙が会話をしてしまい、精神に何らかの影響を与えてしまい、携帯電話の存在をどこからか知った霊達が我先にと集まったのだという。
「・・・ま、あくまで私の推測だけれどね。」
「うーん。なんとなく、それであってるかもしれないわね。真相は本人に聞いてみなければならないけど。」
その本人はまだ眠っている。当分は起きなさそうな雰囲気だ。
「取り敢えず、この危なっかしい携帯電話は封印して無縁塚にでも置いておこうかしら。」
「そうした方がいいわね。」
「それじゃあ私はこのへんで戻るわ。魔理沙が起きたら状況の説明よろしくね?」
「わかったわ。」
私はそのまま神社へと行き、霊専用の御札をありったけ持って魔理沙の家へと向かった。ついでに家の掃除もしてあげようかしら?
「情報の世界との窓口となる」スマートフォンすら、「情報の世界と物理的世界を統合する」スマートグラスに取って代わられようとしている現在。ただ「通話をするためだけの」携帯電話は、今や幻想入りしてしまったわけですね。
その頃の携帯電話は、確かに魔理沙が言い当てていたように、時間を忘れる時間泥棒な性質を持っていて、食事も摂らずに話し込んでしまう人もいたものでした。携帯電話の特徴を捉えて、反映するのがうまいです。
はたてェ。カメラ付きケータイ(ガラパゴス仕様)も幻想入りですか。
全体的には面白かったです。
でも読みやすくて面白かったです。
文章のはじめを1個ずらすといいと思いますよ。
あと、魔理沙だと飯をたかりに行くよりも、勝手に台所と食材使って3人分の食事を作る方がらしいかも。
仮に幻想入りしたとしても基地局の無い幻想郷での使用は不可となる