Coolier - 新生・東方創想話

ゆめであえたら

2013/11/11 03:24:54
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時折、夢を見る
夢と言っても将来の夢だのそんな未来溢れる様な妬ましいものではない。
単純に辞書で引っ張ってきたような言葉で言うと「眠っている時に見るもの」そのものだ。
そんな事を言うと大抵私を知る奴らはぽかんとした後こちらを張り飛ばしたり逃げたりする、解せぬ。
柄に合わないってなんだ、気味が悪いってなんだ、そんなに私は夢からほど遠い性格をしているのか。

「してますね」
「さいで」

まあそうだ、事実そうだ。
私のこれまではきっと夢なんてものと程遠いドロドロとした底なし沼のようなものだったのに違いない。
そこから脱出できなかったのだからここに居る訳で、そうするとここは底なし沼の底なのだろうか。
これ以上ちんぷんかんぷんな事を考えると脳みそが沼のように粘ついた液体になりそうだったのであっさりと切り捨てる。
あれなんだっけ、何考えてたんだっけ私。

「夢ですよ夢、忘れたんですか」
「ちょっと迷子になってただけよ」

そう夢
ドリームの方の夢、断じてアメリカンドリームではない。
こんな人でなしの体になってもどうやらきちんと処理はされるらしく私は寝ている時に夢を見る。
まあ毎日ではない、頻度で言えばしばしばといったところだろうか。
人間でそれなりに身なりの良い女だった時もそのぐらいの頻度だった気がする。
どんなへんちくりんな事になっても変わらない事のだなと変な感慨に耽る事だってあることはある。
試しに勇儀に聞いてみると「酒飲んだ後の事は覚えてない」だそうで、聞いた私がばかだったんだろう。

まあ、私のちゃらんぽらんな頭の中身はともかくとして夢だ。
夢に共通性もくそもない。
それは異世界物だったりやけに生々しくリアリティものだったり様々。
変な洋服を着て授業を受けていた時もあったがあれは何なのだろう、気になる。
ただ周りがきゃいのきゃいの言ってあまりの姦しさに妬ましゲージが振りきれた事も覚えている。
そう言えばなんだか知らんが世界を護る騎士だか何だかになった夢もあった。
後々気付いて死にそうになったが、あれは自分でも結構ノリノリだった気がする。

まあ自分が主人公である夢も見るっちゃ見る、大抵覚えているのはそういう夢だ。
だが大抵は、私が見る夢にそんな大役が回ってくることはあまりない。
せめて自分の夢だから主役にさせてくれよと思うがよく考えると私がそうなったところで碌な事が無いに違いない。
性格:嫉妬深い
性別:一応女
能力:嫉妬 分身 緑色 あと嫉妬
やべえ死にてえ、自分で考えておいてあれだがあんまりだ。
女は昔捨てた気がするし緑色ってなんだ、戦隊ものでも出ない不人気色だぞ。

「まあ確かに陰気ではありますね」
「シット!」
「欧米ですか」

でも、あれだ
私は主役には成れないだろう事ぐらい、はっきりと分かっている。
そんな事になったらきっと私は自分の炎で焼き尽くされてしまうだろう。
後に残るのは灰か、塵か、それとも抜け殻か。
どうせ碌な物ではないだろう。
私が断言するから間違いない。

あれ、涙が。

「拭いてあげましょうか?」
「いらん」

涙は心の汗だなんて嘘だろうと思う。
だとしたら、私の涙はあの橋の上でとうに枯れているだろうから。

「あ、このケーキ美味しい」
「なんでそこでケーキが出るのよ」
「そこにケーキがあるからです」
「一人で見せびらかす様に…妬ましいわね」

ああ、もう
こいつはどうしていつもこうなのだ。
マイペース極まりなく自分勝手だ。
悩みなんてないみたいに振舞って、実際悩みなんてないのかもしれない。

「ありますよ、悩みぐらい」
「あの妹の事?」
「それも悩みです」

こてんと小首を傾げる。
あざとい、女の私が見てもあざとい、妬ましい。
だからこいつは嫌いだ。

「心外ですね」
「妬むのに理由なんてないのよ」
「流石妬みマスター、言う事が違う」

何だ妬みマスターって、訳が分からん。
そもそもこいつ自体が訳わからん。
なんで私、こいつと付き合ってるんだろう。

「さあ、それは私も分かりません」
「私にも分からないわよ」

私は夢を見る
なんでこんな事を考え出したからって理由がある。

「一つ上げましょうか?」
「…早く出しなさい」

どんな夢を見ても、どんな役どころに居ても変わらない事が一つある。
それは一種の呪いのように私に付き纏い、離れない。
まるで粘り気のある底なし沼の様に私を捉えて放さない。

「人気の店で買ってきたんですよ、これ」
「ふぅん、妬ましいわね」

まるで、呪い

「並ばせる部下がいるって事ね、自分はここでゆったり暮らしながら」
「それが上司ってもんです」
「妬ましいわ、本当に」

その呪いは、人の形をしている。
桃色の髪に何を考えているか分からない笑み。
そして胸元にたゆらせるサード・アイ

「ねえさとり、私はあんたが妬ましいわよ」
「それはまた、怖いですね」

古明地さとり
呪いの名前だ
どんな夢であってもこいつは出てくる
それが呪いの効果だ




▽▲▽



始めて夢を見たのはいつだったのか覚えていない。
ただ暗闇の中をひたすら歩くだけの単調な、それ故に苦痛を伴う夢だった気がする。
私にお似合いの夢だ、そう思って私は歩き始めた。

「いやですね、私体力ないのに」

まあ、それが一人であればだが。
夢の始まりから暫く経って、私は別の意味で苦痛に耐えねばならなくなっていた。

「あれ?貴方なんで私が居るのかって疑問ですか?ねえ疑問ですか?」
「あんた…うるさい、とってもうるさい」

隣でドヤ顔しながら私と合わせて歩く奴がいる。
暗闇の中なので姿は見えないが存在感をまるで弁当の中のひじきが如く主張しながら。
今考えてもあれは精神衛生上非常に悪い夢だった。

「大体あんた誰よ」
「忘れちゃったんですか?」
「どうでもいい奴の事は忘れる主義なの、それに声だけだし」
「傷つきます、傷つきました」
「へぇ」

そうして、大分歩いた。
終わりのない責め具の様な夢は唐突に終わった。
まあその苦痛の大半はこいつの世間話に無理矢理付き合わされることだったのだが。
適当に流そうにもしつこくて厄介だった、すっぽん並のしつこさだった。

「あ」

唐突に、私ではない声が聞こえる。
何だと思い前を向けば、暗闇の中にいつの間にか一条の光が指していた。

「夢の終わりですね」
「そうかもね」

きっとそうかもしれない、そうなのだろう。
なぜだか知らないけどそう思った。
一人きりだけの苦痛を味わうはずの夢は、いつの間にか終わってしまっていた。
そう思うと、とてつもなく癪だが私はこの横に居る奴に救われたことになる、妬ましい。

「ねえ、あんた」
「はい?」
「…いや、なんでもないわ」

一瞬だけ礼を言いそうになって、慌てて引っ込める。
それを言ってしまえばなんだか負けた気がした、何に負けるかよく分からないけど。

「照れ屋さんなんですね」
「はぁ?」
「なんでもありません」

いらっとした。
だからこいつの顔を一目見てやろうとした。
どうせ夢だからきっと見ず知らずの奴だろうとは思ったが、どうしても見なければ気が済まなかった。


結果として、それが古明地さとりであることに私が気付くのは夢から覚めて緑茶を飲んでいる最中の事だった。
思い出したのではない、こいつとその妹が私の家の入口を蹴破りながら突撃してきたからだ。



▽▲▽



ある夢で、私は鳥だった。
比喩ではなく、鳥だ。
吾輩は鳥である、名前は当然ない。
ぴーちくぱーちく言っていた気がするがそこのところは覚えていない。

鳥ではあった、だが生憎その夢はメルヘンチックな現実性のない夢ではなかった。
そもそも私の見る夢は大抵変なリアリティがあるものが多い。
春夏秋はいいが冬になれば雪が降り、寒い、猛烈に寒い。
おまけに石まで投げられて翼が傷つき身動きが出来なくなる。
冷えた路地裏に転がっているうちに段々体が動かなくなり、冷たくなっていく。
ああ、これは死ぬなと体と同様に冷えきった頭で私は考えた。
どうやら私は夢の中でさえ私を虐めたいようだった、マゾか。
まあこんな夢を見てしまったんだ、諦めて死のうと考える私の頭は死に対して麻痺していた。

「あら、こんなところに鳥が」

丁度よく振ってくる声、それならまだいい。
しかしそれは聞き覚えのある声だ、と言うか一番聞きたくない声だ。

「可愛そうだから連れて帰ってあげましょうそうしましょう」

古明地さとりだった、大体わかっていた。
と言うより私の夢でこいつが出てこない事は無かった。
偶々今回は出てこないと思った私が甘かったようだ、猛烈に後悔した。


その後私はこいつに飼われて色々屈辱的な目に合って最終的には老衰で死んだ気がする。
あそこで普通に死んでおけばよかったと何度か後悔した。



▽▲▽



ある夢で私は勇者だった。
いや、自分でも訳が分からない。
ともかく私は勇者だった、魔王を倒しに行けと言われて大人しく従う事にした。
それ以外の選択肢はなかったし、その時点で嫌な予感はひしひしとしていた。

分かった事がある。
私は悪夢以外見る事が出来ない。
少なくとも覚えている限りで、私が碌な目に合ったことは一度も無かった。
お嫁さんの夢を見れば寝取られる、まあ生まれからして当然だが気分は悪い。
まあ寝取られたのがなぜかさとりなので微妙な気分だったが。
王様になった夢を見れば側近のさとりにからかわれるし革命が起きる。
誰かに逃げる手はずが整えられていたので無事逃げ切れたが。
化け物になった夢なんて追われる運命にある、なんかさとりが着いてきたが話し相手にはなった。
村人Aになった日には安心したが隣に住んでるのがさとりだったりごだごだに巻き込まれて死にかけるしで散々だ。

どうやら私の中の夢を見る部分は、私の事を許せないらしいのだった。
あの時一瞬でも愛して裏切った男と、その子供を殺したことが許せないらしいのだった。
だから私に悪夢を見せるのだ、私が夢を見るたびに反芻するように。
自分ながらなんて甘い事だ、そう溜息をつく。
だから、今回も碌な目に合わない事は分かっていたので半分諦め気味に旅を開始した。

「勇者様、私をお供に」
「やだ」

案の定だった、僧侶役がさとりだった。

「そんな事を言わずに」
「やだ」
「そんな事を言わずに」
「やだ」
「そんな事を言わずに」

しかも拒否できないパターンだった。
諦めてさとりをパーティーに加えて出来るだけ見ないようにしながら旅をする。
道中色々な事があって楽しかった、仲間も増えた。

まあ、最終的には裏切られて何もかも失う事になる。
追っ手から逃げつつ私の心は冷め切っていた。
久々にくる夢だ、幸せな気分にさせておいて上げて落とすとはなかなかやる。
そんな事を考えて笑いが出ない程度には、堪える夢だった。

「いやあ、逃亡生活も良いもんですね」
「さっさと行きなさい、そこで立ち止まられると邪魔」

しかも最終的についてきたのさとりだけだし、なんでさとりだし。
どうせならイケメンの戦士とかについてきてほしかったし。

そんな事を思いつつも、胸を撫で下ろしている私が居た。
一人だけでも付いてきてくれてよかった、正直今の状況で一人は辛い。

「あ!わにですよわに!食糧になります?」
「ならない」

まあ馬鹿だが、馬鹿だが。
それでも、居ないよりはいい。


最終的に、私もさとりも死んだ。
多分追いつかれたのだと思う。
それでも、一人で泥にまみれて死ぬよりは救われていたのかもしれない。



▽▲▽



一通りの回想を終えて、やっぱり碌な夢を見ない事に溜息を吐く。
かちゃんとティーカップを置く音だけが虚しく館に響いた。

「本当に、碌な夢を見ませんね貴方は」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「はて、誰のせいでしょう」

とぼけているのだろうか、それとも本当に何もやっていないのだろうかこいつは。
どちらにせよ私はこいつの真意を知る事は出来ないのだ、妬ましい。
そう思いつつ皿を見ると既にケーキは腹の中、無意識に食べてしまうぐらいならこんな事考えなきゃよかった。
後悔先に立たず、覆水は盆に返らず、さとりは相変わらずよく分からない。

「お開きにしましょうか」
「とは言ってもあんたが私を呼んだんだけどね」
「でも、ちゃんと来てくれるんですよね」
「甘いものに飢えてるのよ、妬ましい」

ああ、今夜も夢を見るのだろうか。
まごう事なき悪夢を見るのだろうか、見るのだろう。

「願わくば、夢なんて見ませんように」

きっとその夢には、あの桃色の食えない妖怪も出てくるだろうから。
「願わくば 貴方が夢を見ますように」
その声も真意も、誰一人として知らない。
芒野探険隊
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コメント



0.790簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
たぶん犯人はこいし。
7.80名前が無い程度の能力削除
さとりの使い方が巧い。オチもよし
8.90フェッサー削除
さとりちゃんがお嫁さんすぎてとてもつらい(楽しい
9.80奇声を発する程度の能力削除
さとりの感じが良かったです