なあ、これは私が見聞きした話なんだが、今大丈夫か?
済まない。最近できたあの道教の寺院、神霊廟ってあるだろ、
そこの青い服の仙人、霍青娥の事なんだが、あいつの行動に違和感があってな。
いや、あいつも霊夢も、私だって変わり者と言やあそうなんだが、
この前里で長患いしていた女の子が亡くなっただろ?
病を得るまでは結構美人で、体型もすらりと細くて、声も喋り方もとっても綺麗で、
その子と道ですれ違うやつは、必ず振り返らずには居られない娘だったんだ。
悔しいが私より美少女!って感じだったんだぜ。ああ、お前も知っていたか。
美人薄命を地で行く人生だったな。で、その子は霍青娥と親しかったんだ。
あいつも相当美人で、そこらの茶屋に入ってお茶を飲んでいると、
必ずその場が華やいだ雰囲気になってさ、お前もそのコミュ力分けてもらえばいいのにな。
いや怒るな、だって事実だろ、たまには生身の人間とも話した方がいいぞ、私以外の。
じゃ閑話休題、これは話の本筋から外れる時じゃなく、戻る時に使う言葉なんだぜ、
知ってたか?
その仙人は男にはあまり興味がなさそうで、可愛い女の子好きだったんだ。
当然その女の子にも近づいていてな、ときどき家に入って親しくしていたんだ。
やがてその子は病を得て、寝込むようになった。
私も時々お見舞いに行っていたんだが、日増しにやつれていって、気の毒だった。
その子の家から帰る頃にはもう陽が暮れてたが、途中で仙人とすれ違ったんだ。
嫌な予感がして、その仙人の後をついて行くと、やっぱり女の子の家に入った。
ただ家に入るだけなら、ただのお見舞いに見えたんだが。
そいつはあの不思議な鑿をつかって壁に穴を開け、忍び込んだんだ。
ちょうどあの子が寝ている部屋に近い所で。心臓が跳ねあがったぜ。
もしかして、あいつが女の子に目を付けていたのは、ただ可愛いからじゃなくて、
自分の所のキョンシーの材料にするつもりじゃないかと思ったんだ。
こっそり毒を飲ませ続けて、病死に見えるようにしたんじゃないかって。
人里の結界の外なら、油断した人間が食われるのは仕方がない、
私もその点は割り切れるようになってしまっている。
もっとも文によると、幻想郷全体でも、人食いの件数は減っているらしいがな。
ところがこれは人里の中だ、里の中では人は襲ってはいけない掟のはずだ。
これはこいつを退治しなければ、と思った。
でも状況次第でマジの殺し合いもありうる。そう思ったとたん……膝が震えてな、
情けないが自警団や慧音の助けを呼ばなけりゃと思い、そっちの方角へ急ごうとした。
笑いたければ笑え。でも、その子や、回復を願う家族の顔を思い出して、
いても立っても居られなくなって、震える自分の膝をどやしつけてその子に家に戻ったんだ。
びっくりした家人を無視してその子の部屋に踏み込むと、
まさにそいつが何かを女の子に飲ませようとする寸前だった。
「魔理沙ちゃん、どうしたの」
「あら、こんばんは魔理沙さん」
「おい、邪仙。その子に何を飲ませようとした!」
「何って、病気に聞く仙丹ですわ」
「嘘つけ! その子をキョンシーにするため毒を盛ってたんだろ」
「まあ人聞きの悪い。この子に薬を差し上げるのはこれが最初ですわ」
「何だと、本当か?」
「本当よ、青娥さんは親切な人で、私に毒なんて盛る人じゃない」
その子がしきりに青娥は悪い奴じゃないと言うんで、それ以上追及する気になれなくなっちまった。
その後、仙人が私に、途中まで一緒に帰ろうと言いだした。
歩きながらあの仙人は、あの子はおそらくもう長くない、と言った。
あの薬もいくらか体力をつける程度でしかないとも言っていた。
こいつは本当にその子を気に掛けていたんだと思って、もう一度謝る事にした。
そいつは笑って、それほどまでにこの子を気にかけていたのか、と言って許してくれた。
それから、その子は奇跡的に回復して、元どおり生活できるようになったんだ。
ええ、死んだんじゃないかって? 話を最後まで聞いてくれ。
ガリガリに痩せていた容姿も体型も元どおりになった所で、あっさり死んじまった。
私もみんなも、何で? って驚いたよ。
…………ちょっと紅茶おかわり、サンキュー。
それで、久々に神霊廟に忍び込んで見たら、墓場にキョンシーが二人いた、
一人はすっかりおなじみの宮古芳香、もう一人が、その……あの女の子そっくりだったんだ。
私はその子の所に駆け寄って、ビックリした芳香の弾幕を適当にあしらって、
そのキョンシーに近づいて顔を見たら、確かにその女の子だったんだ。
でもそれはもうその子じゃなくなっていた。生前の記憶を失くしていたんだ。
「あなただーれ? よしかーせいがーへんなひときたー」
そん時の喪失感と言ったらたまらないぜ。やべ、涙じゃねえぞ。見んな見んな。
でそこに青娥がいた、もちろんとっ捕まえて聞いた。そいつは事もなげに白状しやがった。
「あの子の病気は本当でしたわ、私の仙丹で完治させるのも不可能ではなかったのですけれどもね」
「じゃあ何故そうしなかった!」
「それは、彼女が元の美少女に戻ったのを見て、なんかこう、なんかこう……ああ、独り占めしたくてたまらなくなったのですわ」
霍青娥は身もだえして、キョンシーとなったその子にキスした。
歪んだ愛ってヤツが具現化したように見えた。
「それで殺してキョンシーにしたのか」
「永遠の存在にして差し上げた、と言って下さいな」
「何て奴だよ……、殺さなくたっていいじゃないか?」
「あら、ではこう考えてはどうですか、あの子の以前からの病気は本当でした、
私が仙丹を飲ませなければ、もうとっくに亡くなられていたのです」
「でもお前もこの子の事が好きだったんだろ?」
「ええ、でもいずれこの子も老いていった事でしょう。それにご家族もこの子を不死の存在にする事に同意して下さいましたわ」
どんな手練手管を使ったのかは知らん。この子の元気な姿を見られるなら、
と家族も仙人の行為を認めたらしい。
確かに、彼女は仙人が何もしなければガリガリに痩せ衰えて死んでいっただろう。
だから仙人があの子の寿命を延ばした事に変わりはないだろう。
でも、結局あいつは自分の都合で彼女を殺した。
きっと霍青娥はその子の人柄とか関係性を愛していたんじゃなくて、
ただ美しい人形として愛していただけだったんだ。
あの後茨華仙や慧音や霊夢にも相談して、そいつを怒りにいっても、
はぐらかされたり逃げられたりしてうまくいかなかった。
そのうちみんな、この子は一応意志の疎通もできるし、まだ生きているとも言えるので、
あいつは誰も殺していないと解釈する事も出来る、霍青娥にこの子の保護を任せ、
無暗に人を襲わない限り監視にとどめておこうと言う事になったんだ。
もっとも、罰しようとしても、巧みに壁をすりぬけて逃げられるし、
みんなどこかで、人外が人を襲うのは当たり前と言う意識もあった。
それで、この事件も不思議な出来事のワン・オブ・ゼムと言う事にされたんだ。
私自身、時折墓場に来る家族とキョンシーになったあの子が親しく会話していたり、
結構芳香や他の妖怪からも好かれているのを見て、これはこれでアリかなという気分にもなってきているんだ。
でも理不尽な気持ちが抜けきらなくて、この事をどうしても誰かに話さずにいられなくなって、
話したところでどうにもならないと分かっていても話したくて、
そしたら安心して話せそうな相手と言えばお前ぐらいしか思いつかなくてな、
聞いてくれてありがとうな、まあ、だからどうしたと言われればそれまでなんだが、
いくらかすっきりしたぜ。
おい、別に抱きしめてくれなんて言ってないぞ、おいやめろ、私はガキじゃないぜ。
しょうがないな、好きにしろい。
お前って、人間辞めても結構あったかいんだな。
済まない。最近できたあの道教の寺院、神霊廟ってあるだろ、
そこの青い服の仙人、霍青娥の事なんだが、あいつの行動に違和感があってな。
いや、あいつも霊夢も、私だって変わり者と言やあそうなんだが、
この前里で長患いしていた女の子が亡くなっただろ?
病を得るまでは結構美人で、体型もすらりと細くて、声も喋り方もとっても綺麗で、
その子と道ですれ違うやつは、必ず振り返らずには居られない娘だったんだ。
悔しいが私より美少女!って感じだったんだぜ。ああ、お前も知っていたか。
美人薄命を地で行く人生だったな。で、その子は霍青娥と親しかったんだ。
あいつも相当美人で、そこらの茶屋に入ってお茶を飲んでいると、
必ずその場が華やいだ雰囲気になってさ、お前もそのコミュ力分けてもらえばいいのにな。
いや怒るな、だって事実だろ、たまには生身の人間とも話した方がいいぞ、私以外の。
じゃ閑話休題、これは話の本筋から外れる時じゃなく、戻る時に使う言葉なんだぜ、
知ってたか?
その仙人は男にはあまり興味がなさそうで、可愛い女の子好きだったんだ。
当然その女の子にも近づいていてな、ときどき家に入って親しくしていたんだ。
やがてその子は病を得て、寝込むようになった。
私も時々お見舞いに行っていたんだが、日増しにやつれていって、気の毒だった。
その子の家から帰る頃にはもう陽が暮れてたが、途中で仙人とすれ違ったんだ。
嫌な予感がして、その仙人の後をついて行くと、やっぱり女の子の家に入った。
ただ家に入るだけなら、ただのお見舞いに見えたんだが。
そいつはあの不思議な鑿をつかって壁に穴を開け、忍び込んだんだ。
ちょうどあの子が寝ている部屋に近い所で。心臓が跳ねあがったぜ。
もしかして、あいつが女の子に目を付けていたのは、ただ可愛いからじゃなくて、
自分の所のキョンシーの材料にするつもりじゃないかと思ったんだ。
こっそり毒を飲ませ続けて、病死に見えるようにしたんじゃないかって。
人里の結界の外なら、油断した人間が食われるのは仕方がない、
私もその点は割り切れるようになってしまっている。
もっとも文によると、幻想郷全体でも、人食いの件数は減っているらしいがな。
ところがこれは人里の中だ、里の中では人は襲ってはいけない掟のはずだ。
これはこいつを退治しなければ、と思った。
でも状況次第でマジの殺し合いもありうる。そう思ったとたん……膝が震えてな、
情けないが自警団や慧音の助けを呼ばなけりゃと思い、そっちの方角へ急ごうとした。
笑いたければ笑え。でも、その子や、回復を願う家族の顔を思い出して、
いても立っても居られなくなって、震える自分の膝をどやしつけてその子に家に戻ったんだ。
びっくりした家人を無視してその子の部屋に踏み込むと、
まさにそいつが何かを女の子に飲ませようとする寸前だった。
「魔理沙ちゃん、どうしたの」
「あら、こんばんは魔理沙さん」
「おい、邪仙。その子に何を飲ませようとした!」
「何って、病気に聞く仙丹ですわ」
「嘘つけ! その子をキョンシーにするため毒を盛ってたんだろ」
「まあ人聞きの悪い。この子に薬を差し上げるのはこれが最初ですわ」
「何だと、本当か?」
「本当よ、青娥さんは親切な人で、私に毒なんて盛る人じゃない」
その子がしきりに青娥は悪い奴じゃないと言うんで、それ以上追及する気になれなくなっちまった。
その後、仙人が私に、途中まで一緒に帰ろうと言いだした。
歩きながらあの仙人は、あの子はおそらくもう長くない、と言った。
あの薬もいくらか体力をつける程度でしかないとも言っていた。
こいつは本当にその子を気に掛けていたんだと思って、もう一度謝る事にした。
そいつは笑って、それほどまでにこの子を気にかけていたのか、と言って許してくれた。
それから、その子は奇跡的に回復して、元どおり生活できるようになったんだ。
ええ、死んだんじゃないかって? 話を最後まで聞いてくれ。
ガリガリに痩せていた容姿も体型も元どおりになった所で、あっさり死んじまった。
私もみんなも、何で? って驚いたよ。
…………ちょっと紅茶おかわり、サンキュー。
それで、久々に神霊廟に忍び込んで見たら、墓場にキョンシーが二人いた、
一人はすっかりおなじみの宮古芳香、もう一人が、その……あの女の子そっくりだったんだ。
私はその子の所に駆け寄って、ビックリした芳香の弾幕を適当にあしらって、
そのキョンシーに近づいて顔を見たら、確かにその女の子だったんだ。
でもそれはもうその子じゃなくなっていた。生前の記憶を失くしていたんだ。
「あなただーれ? よしかーせいがーへんなひときたー」
そん時の喪失感と言ったらたまらないぜ。やべ、涙じゃねえぞ。見んな見んな。
でそこに青娥がいた、もちろんとっ捕まえて聞いた。そいつは事もなげに白状しやがった。
「あの子の病気は本当でしたわ、私の仙丹で完治させるのも不可能ではなかったのですけれどもね」
「じゃあ何故そうしなかった!」
「それは、彼女が元の美少女に戻ったのを見て、なんかこう、なんかこう……ああ、独り占めしたくてたまらなくなったのですわ」
霍青娥は身もだえして、キョンシーとなったその子にキスした。
歪んだ愛ってヤツが具現化したように見えた。
「それで殺してキョンシーにしたのか」
「永遠の存在にして差し上げた、と言って下さいな」
「何て奴だよ……、殺さなくたっていいじゃないか?」
「あら、ではこう考えてはどうですか、あの子の以前からの病気は本当でした、
私が仙丹を飲ませなければ、もうとっくに亡くなられていたのです」
「でもお前もこの子の事が好きだったんだろ?」
「ええ、でもいずれこの子も老いていった事でしょう。それにご家族もこの子を不死の存在にする事に同意して下さいましたわ」
どんな手練手管を使ったのかは知らん。この子の元気な姿を見られるなら、
と家族も仙人の行為を認めたらしい。
確かに、彼女は仙人が何もしなければガリガリに痩せ衰えて死んでいっただろう。
だから仙人があの子の寿命を延ばした事に変わりはないだろう。
でも、結局あいつは自分の都合で彼女を殺した。
きっと霍青娥はその子の人柄とか関係性を愛していたんじゃなくて、
ただ美しい人形として愛していただけだったんだ。
あの後茨華仙や慧音や霊夢にも相談して、そいつを怒りにいっても、
はぐらかされたり逃げられたりしてうまくいかなかった。
そのうちみんな、この子は一応意志の疎通もできるし、まだ生きているとも言えるので、
あいつは誰も殺していないと解釈する事も出来る、霍青娥にこの子の保護を任せ、
無暗に人を襲わない限り監視にとどめておこうと言う事になったんだ。
もっとも、罰しようとしても、巧みに壁をすりぬけて逃げられるし、
みんなどこかで、人外が人を襲うのは当たり前と言う意識もあった。
それで、この事件も不思議な出来事のワン・オブ・ゼムと言う事にされたんだ。
私自身、時折墓場に来る家族とキョンシーになったあの子が親しく会話していたり、
結構芳香や他の妖怪からも好かれているのを見て、これはこれでアリかなという気分にもなってきているんだ。
でも理不尽な気持ちが抜けきらなくて、この事をどうしても誰かに話さずにいられなくなって、
話したところでどうにもならないと分かっていても話したくて、
そしたら安心して話せそうな相手と言えばお前ぐらいしか思いつかなくてな、
聞いてくれてありがとうな、まあ、だからどうしたと言われればそれまでなんだが、
いくらかすっきりしたぜ。
おい、別に抱きしめてくれなんて言ってないぞ、おいやめろ、私はガキじゃないぜ。
しょうがないな、好きにしろい。
お前って、人間辞めても結構あったかいんだな。
よりにもよって交友関係が幻想郷随一のキーパーソン、魔理沙を敵に回してしまった青娥が、今後生き残れるか不安です。…なるほど、だからみんなが幸せになって「終わる」話なんですね。
薬を使って元の姿に戻した後、自分の物にする大義名分?になりますからね。
結末でわ皆幸せになっているみたいですけど、ちょっとひっかかりました。
それに反発する魔理沙もまた彼女らしいです