「おつかれー」
「「おつかれー」」
幻想郷での最UMA。幼少の子供にすらほとんど存在しない、下戸と言う属性を持つ私の為におかみすちーが特別用意したオレンジジュースを高く掲げ、乾杯する。
両脇の二人は、北海道から流れてきたという銘酒をぐいっと飲み乾した。
背の小さい方は黄色い帽子を被った神様で、名を諏訪子と言う。
発音は諏訪湖と違うのだが、注意しなければ直せそうにない。
背の高い、巨乳でグラマラスでナイスバディな方が臙脂の服を着ている神奈子という。
一発変換できなくて、PCでは加奈子を直さなければならない事は、外で実証済みだ。
「神様ってさー、合体攻撃とか覚えられないのかしらねえ」
また神奈子様が妙なことを言い出した。
そりゃあ美人で有能でエロティックな神奈子様なら、合体は余裕だろう。
しかしそこから攻撃となると、どうしても私が受ける側になってしまうので、嬌声を抑えながら攻撃を冷静に観察する余裕はない。
「神力とかさ、出来る気がするんだよね。私は」
「それってアレ? 神奈子的には、今日のお芝居から影響を受けていたりするのかな?」
諏訪子様が追加のがんもを呑みこんで、神奈子様に聞いた。
諏訪子様もしょうがない。お行儀が悪いと言っているのに、そんな食べ方をしていると汁がこぼれて痒くなるし、何より扇情的で私の理性がおかしくなる。
今日のお芝居というのは、人里で公開した「ハクレイ・モリヤ合同主催ヒーローショー」の事である。
出資や場所の融通を神社で行い、脚本を古明地さとりにお願いして作り上げたものだ。
半年の準備期間の間。河童とスキマ妖怪の協力の元で完成した実戦耐用スーツを着る出演者を捜したり、モブに演技指導など幅広い範囲のスタッフを募り漸くの事で完成。
主演・紅美鈴/雲居一輪/星熊勇儀。
悪の女幹部に風見幽香と今泉影狼を迎え、犬走椛の指導で完璧な殺陣に仕上がった。
「ううむ、だってかっこよかったじゃないか。こう、どじゃああんって」
「別世界に飛びそうなSEですね。いやそれはともかくとして」
合体攻撃か。
神奈子様のイメージしているところの合体攻撃とは、ようするに一つの武器にエネルギーを集中させてデカいレーザーを放つ感じなんだろう。
素敵だが、神様ってそういう職業だっけ?
「でも神奈子、レーザーよりもオンバシラの方が強くない?」
「あ、そうか。じゃあ良いわ」
「だよねー」
ですよねー。
あ、また諏訪子様がんも食べてる。
大好きですね、がんも。
「開けゴマって」
「は?」
「おーぷんせさみ」
「ああ」
神奈子様は、ゆっくりとお酒を飲む。
喉がキュート。
「あれ、由来とか誰も知らないんだってさ」
「へえ」
「不思議だよね」
「不思議だね」
とん、と私の前に新しい缶が置かれる。
女将はサービスだと、微笑んできた。
なるほど、良い屋台。
「外の世界の物だそうです。八雲運送の方から貰ったんですよ」
「ドクぺですか、なるほど」
私は缶を開けず、吐息をひゅうと吹いて缶の横に穴を開ける。
すぐにそこから液体が噴き出して来るので、私はそれをあんぐりと口を開けて呑んだ。
ううむ、あまり美味しいとは言えない。
爽健美茶の方が、私は好きかな。
「ねえ、早苗聞いてるの?」
「え?」
横からとんとんと叩かれて、私は神奈子様が話しかけて来ている事に気付いた。
迂闊。失態である。
「だからさ、私達の中で一番お風呂長いのは早苗でしょ? あれなにしてるの?」
「年頃の娘っていうのは分かるけどさ、幻想郷来てからこっち、かなり神側になっているでしょう。もうそろそろ外見の変化は自由に出来るんじゃないかしら」
そういう仕組みだったんですか、私。
なんだか変化って感じですね。
私としてはこう、土壇場で一気に変身できるものとばかり思っていた。
「残念ながら、その兆候はないですね。」
「そうなの。あ、それで風呂の中では何をしているの?」
「あ、そこは戻ってきます?」
戻って来ちゃった、話題。
私に気を使わなくてもいいのよ? 先に走って行っていいのよ、話題。あなたにはあなたのペースがあるんだもの。
なんて、かつてマラソン大会で私を追い抜いて行った、南条ちゃんを後ろから眺める当時小学生だった私の心境をうっかり再現してしまっていた。
今頃どうしているんだろうか、凄い体鍛えてたから鬼になれてても不思議はないのだが。
もしくは青春を駆け抜けて、フルーツを頭に取り付け変身しているんだろうか。
「だから早苗ってば」
「もう酔ってんじゃない?」
「あ、大丈夫です酔ってません」
小学五年生ほどには。
あの頃には『神様見えても普通の感性を持つ私かこいい』状態だった。
自分に酔っている。悪酔いである。
もうそろそろ、あの頃の私とは違う。新しい私に生まれ変わったのだって言っても許されると思うのだ。
「で、何をしているの?」
「……えーと」
仕方ない、仕方ないので私は立ち上がり、屋台から少し離れた位置に移動する。
なんだなんだと神奈子様も諏訪子様も椅子を回し、私の方へと視線を向けた。
女将でさえ作業を止めて、屋台の横へ移動してくる。
「すぅぅぅっ」
そして私は息を吸い、腰に両手を添えて構える。
一気に右手を前方に回し、逆の腰へ! 左手を前方に突き出すと同時に、右手を元の腰へ戻す!
そして丹田に込めた力を解放しながら叫ぶ!
新しい私へと!
「変身!」
しない。
勿論、変身は、しない。
「と、言う感じのを練習させていただいています」
「おおー」
「キレッキレですね、早苗さん」
「……うん、ありがとうみすちー」
うげあらああああはずかしいいいおいいい!!!!!!
そりゃあ普段恥ずかしい部位も痴態も見せっぱなしでもう生まれた時から生む場所まで曝け出している相手だけれどもしかしこういう行為を見せる相手では決してなかったのに! しかも結構真面目に練習していたバージョンを!
もういい! 服が汚れてもいいから転がりまわるううう!
じたばた、じたばた。
見よ、年齢的にはJKの巫女が地面を這い転がる珍しいこの生き様を!
「………………早苗さん、もう今日は屋台に入らないでくださいね」
「あ、はい」
衛生が立ちはだかったかー。じゃあしょうがないなー。
女将からの冷めた視線を食らいながら、私は立ち上がって服の汚れを叩き落とす。
「あ、そうだ早苗」
「はい? この芋虫の如く這いずり回る緑虫に何かご質問でございますか諏訪子様? あ、緑虫っていうより緑、無視と言う方が私に当て嵌まっているでしょうかね」
「かなちゃんどうしよう、早苗が凄い卑屈な子になってる」
「どうしようかねえ、本当」
神奈子様が困惑したように嘆息して、豚か何かの燻製肉を頬張る。
おい肉そこ代われ。
「あ、そうだ早苗。聞きたいことがあるのよ」
「なんでございましょう?」
「女子力って何?」
えーと、さてなんでしょう?
思いがけない質問だが、果たして私はその質問に答えることが出来るのだろうか。
というか女子力ってなんだ。
ネイルとかマッサージで増えるらしいこの謎の力は貯めるとモテたりモテたり色々凄いらしい、というのは聞いた事のある話だが、マヒャドとか撃てるようになるのだろうか。
そんなもんコミュ障や空気読めない奴は常に放っているぞ。
ちなみに私は女子力を貯めずとも、奇跡をガンガン起こせる。
いや、まさかそれが女子力だとでも言うのか!?
そうか、そういう事だったんだ。
「神奈子様、分かりましたよ! 女子力の正体!」
「え、ああうん? 女子力ってなんだい?」
「神の力ですよ! 神力こそが女子力の正体だったんです! そう、奇跡も魔法もあるんです!」
と、私は胸を張り上げ宣言する。
そう、つまり女子力を上げれば合体&攻撃も出来る!
「そうか、早苗そうだな。合体できるな、そうかそうか」
ん? あれ、神奈子様のリアクションが非常に薄い気がする。なんでだろう。
「ごめんね、早苗。今日はゆっくり休もうか」
「おかーみさんっ。お勘定お願い!」
「はい。あ、もう少し早苗さんに優しく接してあげてくださいね」
「え? え?」
この場の空気が一気に生暖かく変貌する。
どうにもいたたまれないが、私にはこの空気をどうにかする方法が思いつかない。
「さあ、帰ろうか早苗。今日も一緒にお風呂に入ろう、そして私が身体を洗ってあげるよ」
「あ……、はい。じゃあ、帰りましょうか」
もういいや、お風呂入って汚れを落とそう。
そしてお風呂でいつも通り、変身の練習をするのだ。
新しい未来への、新しい自分を解放する扉を。
「ひらけ、ごま」
「「おつかれー」」
幻想郷での最UMA。幼少の子供にすらほとんど存在しない、下戸と言う属性を持つ私の為におかみすちーが特別用意したオレンジジュースを高く掲げ、乾杯する。
両脇の二人は、北海道から流れてきたという銘酒をぐいっと飲み乾した。
背の小さい方は黄色い帽子を被った神様で、名を諏訪子と言う。
発音は諏訪湖と違うのだが、注意しなければ直せそうにない。
背の高い、巨乳でグラマラスでナイスバディな方が臙脂の服を着ている神奈子という。
一発変換できなくて、PCでは加奈子を直さなければならない事は、外で実証済みだ。
「神様ってさー、合体攻撃とか覚えられないのかしらねえ」
また神奈子様が妙なことを言い出した。
そりゃあ美人で有能でエロティックな神奈子様なら、合体は余裕だろう。
しかしそこから攻撃となると、どうしても私が受ける側になってしまうので、嬌声を抑えながら攻撃を冷静に観察する余裕はない。
「神力とかさ、出来る気がするんだよね。私は」
「それってアレ? 神奈子的には、今日のお芝居から影響を受けていたりするのかな?」
諏訪子様が追加のがんもを呑みこんで、神奈子様に聞いた。
諏訪子様もしょうがない。お行儀が悪いと言っているのに、そんな食べ方をしていると汁がこぼれて痒くなるし、何より扇情的で私の理性がおかしくなる。
今日のお芝居というのは、人里で公開した「ハクレイ・モリヤ合同主催ヒーローショー」の事である。
出資や場所の融通を神社で行い、脚本を古明地さとりにお願いして作り上げたものだ。
半年の準備期間の間。河童とスキマ妖怪の協力の元で完成した実戦耐用スーツを着る出演者を捜したり、モブに演技指導など幅広い範囲のスタッフを募り漸くの事で完成。
主演・紅美鈴/雲居一輪/星熊勇儀。
悪の女幹部に風見幽香と今泉影狼を迎え、犬走椛の指導で完璧な殺陣に仕上がった。
「ううむ、だってかっこよかったじゃないか。こう、どじゃああんって」
「別世界に飛びそうなSEですね。いやそれはともかくとして」
合体攻撃か。
神奈子様のイメージしているところの合体攻撃とは、ようするに一つの武器にエネルギーを集中させてデカいレーザーを放つ感じなんだろう。
素敵だが、神様ってそういう職業だっけ?
「でも神奈子、レーザーよりもオンバシラの方が強くない?」
「あ、そうか。じゃあ良いわ」
「だよねー」
ですよねー。
あ、また諏訪子様がんも食べてる。
大好きですね、がんも。
「開けゴマって」
「は?」
「おーぷんせさみ」
「ああ」
神奈子様は、ゆっくりとお酒を飲む。
喉がキュート。
「あれ、由来とか誰も知らないんだってさ」
「へえ」
「不思議だよね」
「不思議だね」
とん、と私の前に新しい缶が置かれる。
女将はサービスだと、微笑んできた。
なるほど、良い屋台。
「外の世界の物だそうです。八雲運送の方から貰ったんですよ」
「ドクぺですか、なるほど」
私は缶を開けず、吐息をひゅうと吹いて缶の横に穴を開ける。
すぐにそこから液体が噴き出して来るので、私はそれをあんぐりと口を開けて呑んだ。
ううむ、あまり美味しいとは言えない。
爽健美茶の方が、私は好きかな。
「ねえ、早苗聞いてるの?」
「え?」
横からとんとんと叩かれて、私は神奈子様が話しかけて来ている事に気付いた。
迂闊。失態である。
「だからさ、私達の中で一番お風呂長いのは早苗でしょ? あれなにしてるの?」
「年頃の娘っていうのは分かるけどさ、幻想郷来てからこっち、かなり神側になっているでしょう。もうそろそろ外見の変化は自由に出来るんじゃないかしら」
そういう仕組みだったんですか、私。
なんだか変化って感じですね。
私としてはこう、土壇場で一気に変身できるものとばかり思っていた。
「残念ながら、その兆候はないですね。」
「そうなの。あ、それで風呂の中では何をしているの?」
「あ、そこは戻ってきます?」
戻って来ちゃった、話題。
私に気を使わなくてもいいのよ? 先に走って行っていいのよ、話題。あなたにはあなたのペースがあるんだもの。
なんて、かつてマラソン大会で私を追い抜いて行った、南条ちゃんを後ろから眺める当時小学生だった私の心境をうっかり再現してしまっていた。
今頃どうしているんだろうか、凄い体鍛えてたから鬼になれてても不思議はないのだが。
もしくは青春を駆け抜けて、フルーツを頭に取り付け変身しているんだろうか。
「だから早苗ってば」
「もう酔ってんじゃない?」
「あ、大丈夫です酔ってません」
小学五年生ほどには。
あの頃には『神様見えても普通の感性を持つ私かこいい』状態だった。
自分に酔っている。悪酔いである。
もうそろそろ、あの頃の私とは違う。新しい私に生まれ変わったのだって言っても許されると思うのだ。
「で、何をしているの?」
「……えーと」
仕方ない、仕方ないので私は立ち上がり、屋台から少し離れた位置に移動する。
なんだなんだと神奈子様も諏訪子様も椅子を回し、私の方へと視線を向けた。
女将でさえ作業を止めて、屋台の横へ移動してくる。
「すぅぅぅっ」
そして私は息を吸い、腰に両手を添えて構える。
一気に右手を前方に回し、逆の腰へ! 左手を前方に突き出すと同時に、右手を元の腰へ戻す!
そして丹田に込めた力を解放しながら叫ぶ!
新しい私へと!
「変身!」
しない。
勿論、変身は、しない。
「と、言う感じのを練習させていただいています」
「おおー」
「キレッキレですね、早苗さん」
「……うん、ありがとうみすちー」
うげあらああああはずかしいいいおいいい!!!!!!
そりゃあ普段恥ずかしい部位も痴態も見せっぱなしでもう生まれた時から生む場所まで曝け出している相手だけれどもしかしこういう行為を見せる相手では決してなかったのに! しかも結構真面目に練習していたバージョンを!
もういい! 服が汚れてもいいから転がりまわるううう!
じたばた、じたばた。
見よ、年齢的にはJKの巫女が地面を這い転がる珍しいこの生き様を!
「………………早苗さん、もう今日は屋台に入らないでくださいね」
「あ、はい」
衛生が立ちはだかったかー。じゃあしょうがないなー。
女将からの冷めた視線を食らいながら、私は立ち上がって服の汚れを叩き落とす。
「あ、そうだ早苗」
「はい? この芋虫の如く這いずり回る緑虫に何かご質問でございますか諏訪子様? あ、緑虫っていうより緑、無視と言う方が私に当て嵌まっているでしょうかね」
「かなちゃんどうしよう、早苗が凄い卑屈な子になってる」
「どうしようかねえ、本当」
神奈子様が困惑したように嘆息して、豚か何かの燻製肉を頬張る。
おい肉そこ代われ。
「あ、そうだ早苗。聞きたいことがあるのよ」
「なんでございましょう?」
「女子力って何?」
えーと、さてなんでしょう?
思いがけない質問だが、果たして私はその質問に答えることが出来るのだろうか。
というか女子力ってなんだ。
ネイルとかマッサージで増えるらしいこの謎の力は貯めるとモテたりモテたり色々凄いらしい、というのは聞いた事のある話だが、マヒャドとか撃てるようになるのだろうか。
そんなもんコミュ障や空気読めない奴は常に放っているぞ。
ちなみに私は女子力を貯めずとも、奇跡をガンガン起こせる。
いや、まさかそれが女子力だとでも言うのか!?
そうか、そういう事だったんだ。
「神奈子様、分かりましたよ! 女子力の正体!」
「え、ああうん? 女子力ってなんだい?」
「神の力ですよ! 神力こそが女子力の正体だったんです! そう、奇跡も魔法もあるんです!」
と、私は胸を張り上げ宣言する。
そう、つまり女子力を上げれば合体&攻撃も出来る!
「そうか、早苗そうだな。合体できるな、そうかそうか」
ん? あれ、神奈子様のリアクションが非常に薄い気がする。なんでだろう。
「ごめんね、早苗。今日はゆっくり休もうか」
「おかーみさんっ。お勘定お願い!」
「はい。あ、もう少し早苗さんに優しく接してあげてくださいね」
「え? え?」
この場の空気が一気に生暖かく変貌する。
どうにもいたたまれないが、私にはこの空気をどうにかする方法が思いつかない。
「さあ、帰ろうか早苗。今日も一緒にお風呂に入ろう、そして私が身体を洗ってあげるよ」
「あ……、はい。じゃあ、帰りましょうか」
もういいや、お風呂入って汚れを落とそう。
そしてお風呂でいつも通り、変身の練習をするのだ。
新しい未来への、新しい自分を解放する扉を。
「ひらけ、ごま」
酒の席のナンセンスな感じが良く出ていて笑えました。早苗さんは天然極まる。
オレンジジュースと見せかけてオレンジチューハイかミモザなんですね
こういう小話大好きです。
三柱揃って酔ってますねー
それにしても炭酸飲料のその飲み方を未だにやる人がいるとはw
南条ちゃんは今頃どこで何してるんでしょうね
きっと元気にやっていることでしょう
お酒を飲みながら読みました。こういう話大好きです。
早苗さんの練習した変身ポーズは、クウガ、クウガなのかな?
いやはや、面白い物語でした。