季節は秋。うだるような暑さが続いた夏も終わり、涼しい風が吹き始めている。葉は色づき、見るものの目を楽しませ、栗や柿、秋刀魚に松茸、四季の味覚は食す者の舌を喜ばせる。宴会の数も増え、どことなく、妖怪の山が活気付いている。周りが浮かれた雰囲気の中、どんより沈んだ浮かない顔が一つ。
射命丸 文は悩んでいた。仕事も一段落し、特にこれといった予定もない。天気は良好、食欲も申し分なく、体調も良い。こころを除いてであるが。回転の速い文の頭の中を何度も、何度も同じ疑問がめぐっていた。
なぜ、なぜあの愛しい白狼は元気がないのだろうか。
文と椛は恋人であった。それはそれは甘い蜜月を過ごしていた。以前は不仲だった二人は、現人神が降り立った異変の折に打ち解け、あとは石が転げ落ちるようにしてとんとんと親密になっていった。椛を堅物で扱いにくいと思っていた文はその忠義心に惚れ込み、文を難破者だと揶揄していた椛は組織の一員としての自覚と誇りを持つ文に惹かれていた。二人は仕事の合間を縫って逢瀬を重ねていた、のであるが
「ああ、お久しぶりです。お元気そうで何よりです・・・」
この様子である。以前は少しの時間でも話は弾み歓談していたはずが、どこか態度は弱弱しくそっけない。気分が悪いというわけでもなさそうで、最近不幸があったわけでもなさそうである。恋人たる自分に原因があるのではと考えるが、思い当たる節がない文は途方に暮れたのであった。久しい再開とは言っても、長い間疎遠になったわけでもなく、手紙で近況は報告していた。というのも件の宗教戦争で文はその様子を記事にするのに奔走していたからである。ひと段落して、いざ睦みあわんと会いに来たところでこの様子で、乗り気ではない。前はしっぽを静かに振り、見え隠れする笑顔が可愛らしかったのに・・・
ああ、もふもふしたい。
時が解決してくれるだろうと、日を改めても椛の態度は依然変わらずで、むしろ時間が経ったところで、より疑問が強くなってしまった。椛に限って他の女に気が移ってしまった罪悪感ゆえということもなさそうで、かといって粗相をした覚えもない。頭の中を回る考えは不毛で、そして寂しさのみが募っていった。偶然会った折に話をしても、依然変わらず、生返事が多くなった。せっかくできた恋人が弱っているというのも存外辛いものである。一月が過ぎようとしたところで、結局文は椛に問い詰めることになった。
「椛、あなた何かあったんじゃない?」
「・・・」
「沈黙は卑怯よ。何も分からないでしょ」
「・・・」
多少言葉がキツイかもしれないと文は反省した。しかしこうもだんまりを決め込まれると、話が進まない。椛の柔らかい毛に覆われた耳と尻尾は心なしか元気がなく、垂れ下がっているようにも見え、こちらに顔を合わせようとしない。それでも一歩踏み込まなければと文は言葉を続けた。
「私が何かしたかしら」
「・・・」
「もう嫌いになった?やっぱり烏と狼では無理があったのかしら」
「それは!・・・それは違います!!」 予想外の即答に文は驚いた、と同時に安心した。どうやら嫌われたわけではないらしく、むしろ好意は強いようである。
「文様は・・・」 椛は言葉を続け、
「文様は私に魅力を感じませんか・・・?」
「え?」
「文様は他の女性をよく記事にされます。件の異変でいえばやれ巫女が勝っただの、尼公がすごいだの、と。記事が増えることは新聞記者にとっては喜ばしいことでしょう。と同時に私たち力のない者は飽きられてしまうのでは・・・と。また私はこのように女性らしい肢体も持ち合わせておりません。私では不釣り合いではないかと不安になってしまうのです。」
どうやら件の宗教戦争での記事や普段の取材活動が尾を引いているようで、文は苦笑した。できるだけ詳細に、かつ分かりやすく伝えようと記事を多く書いたのであるが、それが裏目になってしまった。普段あまり自分に自信の無い椛はそれを見るたびに、文が気移りしてしまうのではないかと不安になっていたようである。
「つまり椛は私が浮気しているのかを心配しているのね」
「そういうわけではないのですが、ただ文様は魅力的ですから・・・」
「ありがと。でもね私は弾幕の強さを好意の基準にしたことはないわ。私たち妖怪が必要とするのは心の強さだもの。椛、あなたあの異変の時、最後まで霊夢に立ち向かったでしょう。あの姿に私は惹かれたの。どんな状況でもぶれないあなたが。四季も景色も移ろいゆくものだけれど変わらないものもある。紅葉はいつだって美しい。椛が好きよ、私は。」
途中から椛は顔を真っ赤にしてしまったが、これで良い。伝えたいことは伝わったはずだ。
「なんだか少し安心しました。」
「そう、それは良かったわ。」
久しぶりに椛の笑顔を見ることができて、文も安堵した。
「お見苦しいところをお見せしました。」
「いいわよ、別に。恋人なんでしょ?」
「はい!!」
先ほどの弱弱しい態度とは正反対。元気いっぱいの尻尾ふりふりである。ひとまず、椛の不安の種は解消されたことを喜ぶべきであろう。雨降って地固まる。より一層絆は強固になったと文は感じていた。これにて一件落着。めでたしめでたしとくれば、だ。
「ねえ」
「??」
「もう我慢しないで良いよね・・・?」
「何がですか?」
「も」
「も?」
「もふらせろーーーーーーー!!」
一か月の禁欲であった。
射命丸 文は悩んでいた。仕事も一段落し、特にこれといった予定もない。天気は良好、食欲も申し分なく、体調も良い。こころを除いてであるが。回転の速い文の頭の中を何度も、何度も同じ疑問がめぐっていた。
なぜ、なぜあの愛しい白狼は元気がないのだろうか。
文と椛は恋人であった。それはそれは甘い蜜月を過ごしていた。以前は不仲だった二人は、現人神が降り立った異変の折に打ち解け、あとは石が転げ落ちるようにしてとんとんと親密になっていった。椛を堅物で扱いにくいと思っていた文はその忠義心に惚れ込み、文を難破者だと揶揄していた椛は組織の一員としての自覚と誇りを持つ文に惹かれていた。二人は仕事の合間を縫って逢瀬を重ねていた、のであるが
「ああ、お久しぶりです。お元気そうで何よりです・・・」
この様子である。以前は少しの時間でも話は弾み歓談していたはずが、どこか態度は弱弱しくそっけない。気分が悪いというわけでもなさそうで、最近不幸があったわけでもなさそうである。恋人たる自分に原因があるのではと考えるが、思い当たる節がない文は途方に暮れたのであった。久しい再開とは言っても、長い間疎遠になったわけでもなく、手紙で近況は報告していた。というのも件の宗教戦争で文はその様子を記事にするのに奔走していたからである。ひと段落して、いざ睦みあわんと会いに来たところでこの様子で、乗り気ではない。前はしっぽを静かに振り、見え隠れする笑顔が可愛らしかったのに・・・
ああ、もふもふしたい。
時が解決してくれるだろうと、日を改めても椛の態度は依然変わらずで、むしろ時間が経ったところで、より疑問が強くなってしまった。椛に限って他の女に気が移ってしまった罪悪感ゆえということもなさそうで、かといって粗相をした覚えもない。頭の中を回る考えは不毛で、そして寂しさのみが募っていった。偶然会った折に話をしても、依然変わらず、生返事が多くなった。せっかくできた恋人が弱っているというのも存外辛いものである。一月が過ぎようとしたところで、結局文は椛に問い詰めることになった。
「椛、あなた何かあったんじゃない?」
「・・・」
「沈黙は卑怯よ。何も分からないでしょ」
「・・・」
多少言葉がキツイかもしれないと文は反省した。しかしこうもだんまりを決め込まれると、話が進まない。椛の柔らかい毛に覆われた耳と尻尾は心なしか元気がなく、垂れ下がっているようにも見え、こちらに顔を合わせようとしない。それでも一歩踏み込まなければと文は言葉を続けた。
「私が何かしたかしら」
「・・・」
「もう嫌いになった?やっぱり烏と狼では無理があったのかしら」
「それは!・・・それは違います!!」 予想外の即答に文は驚いた、と同時に安心した。どうやら嫌われたわけではないらしく、むしろ好意は強いようである。
「文様は・・・」 椛は言葉を続け、
「文様は私に魅力を感じませんか・・・?」
「え?」
「文様は他の女性をよく記事にされます。件の異変でいえばやれ巫女が勝っただの、尼公がすごいだの、と。記事が増えることは新聞記者にとっては喜ばしいことでしょう。と同時に私たち力のない者は飽きられてしまうのでは・・・と。また私はこのように女性らしい肢体も持ち合わせておりません。私では不釣り合いではないかと不安になってしまうのです。」
どうやら件の宗教戦争での記事や普段の取材活動が尾を引いているようで、文は苦笑した。できるだけ詳細に、かつ分かりやすく伝えようと記事を多く書いたのであるが、それが裏目になってしまった。普段あまり自分に自信の無い椛はそれを見るたびに、文が気移りしてしまうのではないかと不安になっていたようである。
「つまり椛は私が浮気しているのかを心配しているのね」
「そういうわけではないのですが、ただ文様は魅力的ですから・・・」
「ありがと。でもね私は弾幕の強さを好意の基準にしたことはないわ。私たち妖怪が必要とするのは心の強さだもの。椛、あなたあの異変の時、最後まで霊夢に立ち向かったでしょう。あの姿に私は惹かれたの。どんな状況でもぶれないあなたが。四季も景色も移ろいゆくものだけれど変わらないものもある。紅葉はいつだって美しい。椛が好きよ、私は。」
途中から椛は顔を真っ赤にしてしまったが、これで良い。伝えたいことは伝わったはずだ。
「なんだか少し安心しました。」
「そう、それは良かったわ。」
久しぶりに椛の笑顔を見ることができて、文も安堵した。
「お見苦しいところをお見せしました。」
「いいわよ、別に。恋人なんでしょ?」
「はい!!」
先ほどの弱弱しい態度とは正反対。元気いっぱいの尻尾ふりふりである。ひとまず、椛の不安の種は解消されたことを喜ぶべきであろう。雨降って地固まる。より一層絆は強固になったと文は感じていた。これにて一件落着。めでたしめでたしとくれば、だ。
「ねえ」
「??」
「もう我慢しないで良いよね・・・?」
「何がですか?」
「も」
「も?」
「もふらせろーーーーーーー!!」
一か月の禁欲であった。
でも文の台詞がとてもよかった。
作者さんによっては、椛はグラマーだったり、スレンダーだったりするけど、もっと自信作ろうね。頑張れ椛。