Coolier - 新生・東方創想話

時代親父と怪力乱神。酒は道連れ酔は情け

2013/09/23 19:27:35
最終更新
サイズ
3.76KB
ページ数
1
閲覧数
1511
評価数
2/12
POINT
540
Rate
8.69

分類タグ

ーー中秋の名月という言葉がある。
そのままの意味に秋の月は美しい。
けれどその時期は降水確率が高く、
雨降りの中人はそれを雲月、または
雨月と呼び、見えない月を想像して
今となっては薄れてきている
趣を感じていたそうである。粋である。


ここは幻想郷。
その中でも人里に位置する寺がある。
その名も命蓮寺。
その一員である雲の、ありふれた話。

何故だか秋の夜は変に目が冴えて、
寝床からむんと這い出て
外をぶらぶらと歩いてみようか、
となった経験は無いだろうか。

少なくとも、ここに一人、いや一体、
はたまた一雲。

その思いに駆られた者がいた。

「うむ、このぬるいとも涼しいとも言えぬ
ほどほどの空気。
なかなかどうして、秋じゃのう」

秋は良い。

早朝の冷え込みに冬を感じ、
真昼の日射に夏を感じ、
夕方の涼気に秋を感じる。
....花粉に春を感じるという者も
もしや、居るやも知れない。
三つの季節を薄めて一度に感じられる季節。
どうだろう、これはなかなかに
贅沢ではなかろうか。

この季節は地味だと言うものも居るが
かといって嫌いかと言われれば
そうではないはずである。
芸術の秋、読書の秋、
スポーツの秋、食欲の秋。
果たして他の季節と比べてみても、
秋はなにも見劣りすることは
無いのではなかろうか。

と、そんなとりとめのない事を
垂れ流しに考えているうち、雲山は
一人、いや一雲で人里をも抜け出し、
月のよく見える丘に辿り着いた。
そしてなにやら水の流れる音がする。
なにしろ月明かりのみなので
何処にあるのか定かでは無いが
....いや、見つけた。
月明かりにちらちら、ぱっぱと控えめな
反射をする沢。
今夜は雲も薄めで月がよく見える。
それに静けさをより引き立てる沢の音。
遠くに草木の生い茂る原でもあるのか、
こおろぎのリー、リー、という音も
微かに聴こえて。
月を見ている雲山の背中側に位置するために
煌めきも眼にうるさくなく、ただ無音の空間に
さらさら、リリ、リリ、と、
より静寂を強く味わせてくれる。

ーーそんな、不思議と高揚する夜に。

「やぁ、一人でこんな所に
こんな時間で何してるんだい?」

と、声を掛けたのは単純な力においてなら
幻想郷でも一、二を争う鬼、星熊勇儀。
またの名を怪力乱神。

一人という言葉に突っ込むこともなく
雲山はただ、

「なぁに。
目が冴えましてな。
この不思議と得をしたような気分に
させてくれる月を
ただ眺めておっただけじゃよ」

「ふむ、そうかい。
そりゃあ風流な事だ。
私も、今日はなんだか寝付けなくてね」

ちょいと出てきたんだ、と言いながら
勇義は雲山の隣に胡座でどかっと座る。
その手には真っ赤な瓢箪。
その瓢箪に雲山がちらりと目をやったのを
勇儀は見逃さない。

「んん?
お前さんもなかなか分かってるじゃないか
風流ついでに一杯、ってか?」

にっ、とした笑顔を雲山に向けつつ
ちゃぷんと瓢箪を振る勇儀。

対する雲山は頬をぽりぽり掻きながら、

「んむ、まぁの。
得てしてこういう場には酒が合うものじゃ」

「はっはっは!そう!そうなんだよ!
いやー最近のやつぁどうしてこう
酒を、それも本酒を楽しめないかと
嘆いていたがあんたは違うな!
くっく、これは鬼の酒。
無限に出てくる。どうだ、一杯」

「ほっほ。良いですなあ。
では頂きましょう」

こういう時の遠慮はむしろ無遠慮に値する。
そのまま受け入れるべし。
特に、この幻想郷においては。

「おっと、杯が無いな、どうするよ?」

「おお、
お気になさらず。
自前の物が有りますゆえ。」

そう言うと雲山は空の雲を操り、
その中の冷気と氷の粒を集め、
見事なぐい呑みを作り上げたではないか。

「わしはみぞれ酒が好きでな。
杯はいつもこれじゃよ」

「はっは!いやますます気に入った!
どれ、呑みねい呑みねい!」

おっとっと、と酒を受けるときの
定型文を発しつつ雲山はその大きめの
ぐい呑みになみなみと入った酒を眺める。

「どうした?そら、呑まないか」

「ふふ。
いやこの酒の透き通りに見蕩れての。
では、呑ませて頂きますがその前に」

と言うと勇儀の瓢箪をゆるりとした
仕草で持ち上げると、
勇儀の巨大な杯にとっとっと、と注ぐ。

「お、こりゃどうも、
んじゃ、あとはすることは一つだね」

微笑みながら雲山は頷き、

ーー乾杯。

秋の夜長。
秋というのは始まりと終わりが特に
曖昧に感じるものの、だからこそ
秋だなぁ、と感じたときの感慨も大きい。
二人は、感慨に浸りつつ、杯を干す。

秋は、訪れた。
内容とは関係無いですが、
こういったSS等を読むとき、
ページ全体を見てがらっと
画面を一新する派ですか?
それとも三行ほどずつページを
ずらしていく派ですか?
SSによっては、
この2つの読み方で
印象が随分かわりそうですよね。

読了、ありがとうございました。

2013.9.23.21.28
誤字修正しました。
ご報告ありがとうございます

2013.9.25.7.50
誤字修正しました。
ご報告ありがとうございます

名無しの権米
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.400簡易評価
1.無評価非現実世界に棲む者削除
設定ガン無視だなほんと。単純な誤字までしてるし。
明→命
相方が萃香だったらまだ点は入れれたんだけどなあ...
2.70名前の無い程度の能力削除
いい雰囲気
9.無評価名前が無い程度の能力削除
勇義ではなく勇儀、です
12.70とーなす削除
素敵な雰囲気
ただ、雰囲気だけでなく、もうちょいアクションが欲しかったかも