今朝、博霊霊夢が起床し新鮮な空気を吸いに外に出たところであった。彼女は何やら、神社の境内に穿たれた球状の漆黒を発見した。近づいてみるとわかったが、神社の石畳は綺麗にくり抜かれ、代わりに人一人横になっったくらいでは収まりきれないような大穴が開かれていた。
「スキマかな・・・?いや、違うわね」
彼女は四つん這いになり大穴を覗き込む。スキマ空間とは明らかに異なる異質な空間と瞬時に理解することができた。今日は快晴であるはずが、大穴は陽光を完膚無きまでに遮断している。いや、遮断しているという比喩は正しくない、穴の内部全体が暗闇どころではすまない、暗黒なのだ。
「おーーーい!誰か聞こえるーーー!?」
静寂。霊夢の呼びかけは虚しくも虚無の中に吸い込まれていった。底が確認できないソレからは、木霊すらも返ってはこない。どうやら、地底に繋がっているというわけではないらしい。穴の中を飛んで探検しようかとの発想も浮かび上がったが、得体の知れない地獄に身を投げ出す度胸と無謀は持ち合わせていなかった。
(この穴、どうしよう。何か有効活用できないかしらね。)
邪魔っけに、境内のど真ん中に穿たれたそれに活用を見出そうと逡巡する。
(うーん、邪魔くさいから塞いじゃおうか?見せ物にはならなそうだし、困ったものね。あ、塞ぐ前に生意気な妖怪でも落としてみようかしら)
ん、そういえば生ゴミが溜まっていたな。捨てに行くのも面倒だ、と霊夢はビニール袋パンパンの生ゴミを引っ張り出してきた。幻想境では特定のゴミ捨て場は定まっておらず、ゴミ捨てには住人たちがそれぞれ工夫しなくてはならない。
(でも、どうやって底なしの穴なんか塞げばいいのよ、紫あたりに頼めばどうにかしてもらえるかしら?あいつも穴を作るのは大の得意だし、逆も然りね)
ポイッチョ。生ゴミは暗黒の中にアッと言う暇もなく、消失してしまった。なんだ、紫にゴミ処理を頼むより早いしお手軽じゃない。
「・・・あっ」
お も い つ き ま し た。
次の日。
大穴の前には行列が待機していた。里の住人や妖怪、妖精たちまでもが列を構成している。そして、共通点としてはそれぞれがゴミ袋を抱えているという事だ。
「・・・・・・まるで魑魅魍魎の百鬼夜行ね」
「今は昼だけどな」
野暮なツッコミを掛けるのは魔理沙。霊夢はその傍らで長列を監視している。彼らがきちんと賽銭箱に奉納しているか監視しているのだ。
「そこー!間隔は空けないで列は詰める!ゴミを捨ておわったらお賽銭は忘れない!」
「商売上手だねぇ」
霊夢は神社に突如現れた底無しの大穴を天恵として受け取った。彼女は幻想境中にこれを宣伝ついでに拡散。これで、幻想境のゴミ問題は解消。おまけに自分の懐も潤うのだから笑いは止められない。
「あに言ってんのよ、人助けよ、人助け。お賽銭はあくまで感謝の印でしょ。ほれほれ見なさいよ、皆自分から進んで銭を賽銭箱に投げに来てるじゃない」
「お前が変なプラカード背負って巡回してるからじゃないか?なになに、ノーゴミ捨て、ノーマネー?やっぱり、金が欲しいんじゃないか」
ふん、ゴミ屋敷に住んでるくせに何を偉そうに。自分からモノを捨てられない社会不適合者には私の高尚な慈善事業は理解できないようね。
「うるせーわよ。大体あんた、ゴミ捨てに来たんじゃなかったら、何しに来たのよ?商売の冷やかし?」
あ、いかん。本音が出た。
「別にー?私はこのでっかいでっかい穴を見物にしに来ただけだぜ。それと、一つ試したいことがあるんだが、それは後でいいさ」
試したいこと?まさか、あの底無し穴の中を探検したいとか言い出すんじゃなかろうなこいつは。魔理沙なら言い出しかねないことではある。
「ま、何しようが私は構わないけどね、お賽銭は忘れないでよ。あぁ~、お賽銭の音が気持ちいいわ~。」
ちゃりんちゃりんちゃりん。お賽銭箱に小銭が放り込まれる。それも絶え間なく、一人一人確実に神社に貢いでくれるのだ。こんなに嬉しいことはない。
「おい、盟友。何やら楽しそうにしてるじゃないか。私も仲間に入れてくれよ~」
「あ?」
「ん?・・・何だ、にとりじゃないか。私と一緒に霊夢を冷やかしに来たのか?私の場合はそれはあくまで目的の一つだが」
何やらのっぴきならない発言が聞こえた気がしたが、霊夢はあえてスルーした。霊夢は己の寛大な菩薩心を自負したが 単に機嫌が良かっただけとでもいう。
「あー、違う違う。実は私もあの穴に捨てたい物があるんだけどさ、そのブツが危険すぎて・・・。ちょいと盟友に捨ててよいか確認しに来たんだよ」
やっぱり、お客じゃないか!霊夢は大穴をゴミ捨て場にする代わりに見返りを得るという商売がやはり正統であると同時に自らの先見の明に堅実な自信を持った。
「私はあんたが何を捨てようが別に構わないわよ。きちんとお賽銭さえしてくれるなら、文句の一つもこぼさないわ」
「あー、安心した。色々と危ないブツばっかでねぇ。どうやって処分するか悩んでたんだけど、これで頭痛のタネから解放されたよ。お金は奮発してあげるよ。何しろ、取り扱いを誤ったら一大事じゃ済まない代物ばかりだしね。不法投棄なんてした日にゃCDCレベル5不可避だね」
にとりは一体全体何を捨てるつもりなのだ?まぁ、何だっていいのだ、金さ入ればわたしゃ。
結局、河童は明日の朝イチにブツを運んでくることに決めたようだ。それなりのお布施を約束してくれたということもあり、私の気分も有頂天。魔理沙はというと、にとりの危険なブツとやらに興味を示したらしく、彼女もご一緒するご意向のようだ。
「私の用事?今日はなんだか白けちゃったし、明日の楽しみにしておくよ」
と言って、彼女は蜻蛉返りしてしまった。マイペースかつ気分屋である彼女だからこそ、ガサツな私と気が合うのかもしれないな。私は一人納得した。ちなみに、ゴミ捨てのために参拝しに来た人々の列はその後なかなか途切れることもなく、あらためて幻想境のゴミ問題が浮き彫りになった。
さらに次の日。
朝一番、太陽が昇り始めた頃であろうか。夜明けを皮切りに大勢の河童たちが大量のブツと、轟音と、おまけに重機までもが博霊神社に闊歩してきた。ゴミを処理する河童たちの身なりはとても奇抜な格好で、霊夢は予想を上回る珍事に流石に驚きを隠せなかった。
「ん?私たちの格好が変?そりゃ仕方ないでしょ、このハザードシンボルが見えないの?下手したら一大事だよ、これ」
「知らないわよ、そんなの。河童みんなして呼吸が煩い変なお面と雨合羽みたいなの羽織っちゃってさ。大勢で来るのは良いけど、朝から仮装大会のつもりなのかしら?」
あっ・・・。にとりは何かを察したのか、近くの河童たちに目配せすると霊夢に聞こえないよう気を配りながらひそひそ話を始める。霊夢はクライアントを無視するかのような彼女たちの態度にに機嫌を悪くしないでもなかったが、大事なお客なので我慢することにした。
「やーやー、すまんね盟友。私たちも一刻も早くこのゴミの山をぱっぱっと捨てたいからさ、ちょいと下がっててくれない?礼金ははずむからさ~頼むよ~」
下がるのは良いが重機の駆動音のせいで再び眠りに就くこともままならず、霊夢は河童の川流れを見物することにした。大人数で処理をしているからか、流石に処理の手際は好調で、この分では一時間足らずで山のようなゴミを捨て終えると彼女は見積もった。彼女は河童に奪われた睡眠時間を多少なりとも取り戻そうとうたた寝を始めた。
おーーーい!誰か聞こえるーーー!?
ん?彼女の眠りはけたたましい一声に阻害された。お客様身分だからと河童共が調子こいているのか?野郎共に渇を入れてやろうかと腰を上げようとした。
「おはようさん~。しっかしなんだかすっげぇことになってんぞ~。早起きは三文の得って本当かもな、まるで河童の川流れだぜ」
そして箒に跨がり飛んできたは魔理沙。早起きしたからとこのような早朝に出向く時点で彼女も人の迷惑は露知らずなのだろう。霊夢はさっきの一声について魔理沙に訪ねようと思ったが、もはや後の祭りなのでどうでもよくなった。
その刹那、霊夢は天から一つの隕石が降ってくるのを確認した。その隕石は神社の縁側に腰掛ける霊夢の目の前に落下し、特に衝撃もなく、それは中身をぶちまけた。
「なんだこりゃ・・・、汚い流星だなぁ。わたしゃ、日頃からこんなんに願い事してたのか?」
「これ・・・一昨日だかに私があの穴に捨てたゴミ袋じゃない。それが何で降ってきたのよ」
「んー?んなわけないだろ、実際に捨てたんならさ。あの底無しから回収なんて可能だとは思えないしさ。紫あたりが捨てといてねー、ってお前に任せたんだよ、たぶん」
物臭な紫なら、確かに有り得なくもない話であろうが、それにしても私が捨てたゴミと一致するのはあまりにおかしい。あまつさえ、ゴミを天高く落っことすなど、流石に不可解極まりないことである。
その時、河童の一言が霊夢の逡巡を遮った。
「御陰様で作業終わったよー。はい、礼金」
金一封。霊夢はにとりから手渡された厚みがある夢の封筒に心が躍った。河童の一団と機材の殆どが既に撤収済みの様子を見ると奴らもさっさと終わらせてしまいたかった作業のようでもあった。残ったにとりも彼女の憂いを処理できたという開放感からか、直ぐに自分のシマに舞い戻った。
「ひゃっほー!今夜はご馳走だな、霊夢!パーッとやろうぜ、パーッと!」
「あんたが舞い上がってどうすんのよ、奢ってもらう気でいるしほんと抜け目ないわよね、あんたは。で、何かやりたいことがあったんじゃなかったの?」
「おっ、そうだった。よーし、力試しだ。張り切っていくぜー」
魔理沙は大穴まで駆け出すと懐から八卦炉を取り出し、深淵に照準を合わせた。魔理沙は彼女の十八番を大穴に叩き込むつもりなのだ。
マスタースパーク。
八卦炉から最大出力で放たれた熱線が滝壺から降り注ぐ落水のように大穴に吸い込まれていく。滝壺とは比喩したが、水が水面にたたきつけられるような手応えはまるで感じられず、魔理沙の力試しは徒労に終わった。
「お疲れさま。あんたの力試しとやらは不発に終わったようね」
「私の全力がまるで通じなかったぜ・・・。あの穴をぶっ壊したかったんだが、もっと修練が必要なようだな!」
などと言って、落ち込んでるのかやる気を出したのか、彼女は箒に乗ってまたまたとんぼ返り。河童も魔理沙も台風のような存在だ。穴を壊すなど私にとっては言語道断な話だが、いくら魔理沙が修行を積もうとも、其れに至るのは到底不可能であろう。直感ではあるが、あの穴を破壊するのはこの世界の森羅万象でも至らないと思うのだ。
早朝の憂鬱と大穴の可能性に霊夢は一層鼓舞されると、此の上、穴の使い道をさらに模索し始めた。やがて、睡魔に導かれた彼女の寝顔は恍惚とも、安堵ともいえる表情をしていた。
「あややややや。にとりさん、おはようございます。今日も機械作りに精が出ますねぇ」
妖怪の山を流れる河川、川岸で機械いじりをしていたにとりは頭上から聞こえる落ち着きない声に挨拶を返した。
「やぁ、文じゃないか。今日はどうしたんだい?何時にもなく平静でないようだけど、何か大きなネタがあったのかい?」
文の確信を突いた台詞に嬉々を浮かべた表情で文は返答した。
「それはもう、小ネタじゃ済みませんよ、にとりさん。今、博霊神社は大変な事になってましてね。大惨事ですよ、大惨事。とてもじゃないけど臭くて近寄れませんね。あ、私はジャーナリズムに懸けて突貫取材を試みましたが」
「大惨事?まさかとは思うけど、何か流出でもしたのかい・・・?」
まさか、底無しの穴に捨てたはずのアレが漏れたとは考えられない、とはいってもにとりは事の詳細を文に訊ねずにはいられなかった。
「流出・・・?んんー、流出ではありませんねー。あれを言うには只のゴミの金山ですね、妖怪の山の他に博霊神社に新たに大山が築かれたというわけです。何故そうなったかは私にはわかりかねますが、霊夢さんは空からゴミの山が降ってきたと言ってました。まったく荒唐無稽な話ですよね」
空から降ってきた・・・?にとりは文の証言に困惑を覚えると同時に昨日捨てたアレが漏れたわけではないと確信し、ホッと胸をなで下ろした。
「私は今回の事件よりも、霊夢さんの様子の方が大変面白可笑しくてですね、あんな苦渋に満ちた顔をしている霊夢さんを見るのは初めてでしたので。おっと、話が逸れましたね。それで、これは私の見解ですが、ゴミが本当に空から大量に降ってきたならば、流石に偶然とは言い難い事象ではないかと。」
満面の笑みで語る天狗ににとりは天狗特有のゲスさを感じ取ったが、こんな女でも一応は友なのだ。にとりはさらに深く追求してみることにした。
「偶然ではないというと、人為的な、誰かの仕業だっていうのかい?霊夢が誰かに恨まれ、ゴミを投棄するという形で報復されたと?」
「それはわかりません。ですが、件の大穴を利用し、商売じみた事をしていた霊夢さんに何らかの落ち度があったのだと推測します。仮にもあそこは神社ですしねぇ。私が言うのもなんですが、強欲に生きるのと私みたいに自分の理想と義務に準じて生きるのは大きく異なりますからねぇ」
「ふーん、なかなか興味深い話だけどさ、彼女も懲りたようだし、これ以上の罰を受けるのは流石に無いと思いたいねぇ」
「ふっふーん、二度あることは三度あると言いますし、一度あることは二度ありますからどうなることやら。・・・おっと、長話が過ぎましたね、それでは私は関係者への取材があるのでこの辺でおいとまです。個人的には八雲紫あたりが怪しいかなと一眼を置いているのですよ」
彼女は喋り終わると同時に突風のように去ってしまった。にとりには八雲紫がこのようなイタズラじみたお仕置きを執るのは考えられなかった。あくまでも彼女は妖怪の賢者であるのだし、欲に目が眩んだ霊夢を諭すならば、より良い方法がいくらでも転がっていよう。
それにしても、文の話を聞いていてすっきりしない話だった。何か大変な事を見落としているような、朦朧としない不明瞭な感覚に襲われたにとりは目の前の機械を修理していたのだ、と思い出す。合点ならそのうちぴったりと当てはまるだろう、時が解決してくれる。取り返しがつかない事などこの幻想境においてはなかなかないことなのだ。脳天気な種族である河童故だろうか、にとりは考えても煮詰まらない物事は綺麗さっぱり捨て去る主義なのだ。それが幸いとなるか不幸となるかは誰も知るよしはなかった。
「明日も晴れるかな?」
明日ハレの日、ケの昨日
ただ、丸写しとネタ被りは違います。今回のは前者です。
ショートショートは如何に独自のオチを付けるかが重要なので
丸写しではオチが容易に予想出来てしまいます。
むしろ丸写し感を出さない為に文章を改変した結果として
元作品のシャープさがなくなってます。
星新一ファンとしては色々思うところがあります。
流石に幻想郷、しかも霊夢も紫も正体不明の『穴』をほっておくのはちょっとありえないなぁ
創想話に投稿してみたけど評価もらえないから他人の作品をそのままパクったんだね。
名前を上げるのは色々問題があるかも知れませんのでご自身で探してみてください。
原作へのリスペクトとオリジナリティが程良くブレンドされていますので参考にしてはいかがでしょう。
こちらの作品はむしろ作者様の独自性と星新一の作品のどちらの良さも完全に消えてしまっていると感じます。
案外幻想郷はゴミ問題があったりするかもしれませんね。
すいませんが、評価出来るのはその点だけです。
やるなら、より星新一チック(かつ、東方の世界観を壊さない)にするか、
もしくは「あ、あの作品か」と思わせておいて、実は更なるどんでん返しを持ってくるか……のどちらかではないでしょうか。