Coolier - 新生・東方創想話

郷で冬待つ星見草

2013/08/25 17:53:14
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山は紅く、空は碧い。
幻想郷はいよいよ秋めいて、気の早いものは冬の準備すらはじめそうだ。

だからと言って博麗神社の呑気な巫女は普段と変わりはしない。
「あーもう。何でおとなしく木にくっ付いて居られないのかなー落ち葉ってのは」
日ごろからやる気のない巫女はさらにやる気をなくしているようだ。

「樹木が栄養を無駄に放出させない為に葉を落とすらしいですよ?」
「あら華扇じゃない」
「さすがに衣替えはしましたか?なんか気になって」
「そんなぐうたらじゃないわよ」
前例を嫌と言うほど見てきたから、この巫女の言葉を肯定するわけが無かった。
と、そこにいつものモノトーンな少女が現れる。
「おい、星見草を知らんか?」

__

「星見草?なにそれ?」
怪訝そうに霊夢が尋ねる。
「菊のことでしょう?でもなんで今それを?」
「あー、ちょっと入用でな それで探したんだが中々見つからなくてな」

菊と言えば誰もが同じイメージを持つだろう、黄色い煙をぱっと吹いた格好のあの花の事である。
菊の文字だけを辿れば、それは日本書紀、伊弉諾が黄泉比良坂で伊弉冉と話した時に出てくるという。
その後、度々歌に詠まれるが、秋を代表する花として決定的な地位を築いたのは、
この菊の意匠が天皇家の家紋に使用されたという頃からだ。
それから、その名と姿を広く知られることになった。
今では観賞用、薬用などと幅広く親しまれる、日本の花と言っても遜色ないだろう。

「ここらへんじゃ見ないわよ。どっちかというと栗ね」
「食欲の秋か。俗っぽい巫女だな」
魔理沙がせせら笑っている所に華扇が訊く。
「そんなに菊が無かったの?」
「あぁ。里の花屋にさえ小菊しかなかったからな。他の花はしっかりあったが」
花が一寸くらいのあの小菊だけしか無い?
「例え不作だとしてもそこまで一種の花が無いのはおかしいですね……」
「外で集団自殺とか?葬式でさ」
霊夢が適当に言う。
「なんで集団で自殺するんだよ。殉教者か?」
「ですが、もしあったとして幻想郷にまで影響があるとは考えにくいですね……」
「そうだな……」
魔理沙が頭を掻く。様子を察するに、菊が相当欲しいようだ。
「菊が無いなら女郎花で我慢すれば?」
あまり花の話には興味が無いようで、ぶっきらぼうに霊夢が言い放つ。
「うーん…… あまり言いたくなかったんだがな……」


「菊の酒?」
「ああ、寿命が延びるという伝説の菊の酒だ」
霊夢は、なんだ、真面目に聞いて損した、と言わんばかりである。
しかし華扇は仙人だからなのか、人柄なのか、割と話に食い入っていた。
「前借りた本で見つけたんだ」
「盗んだ本ねぇ」
「またか。借りたんだよ。それで、その資料にはこうあったんだ」

__菊花を用いて、焼酎中に浸し、数日を経て煎沸し、甕中に収め貯え、氷糖を入れ数日にし成る。
つまり、氷砂糖と共に、寝かせた菊の花を焼酎に漬け込むと、菊の酒ができるというのだ。

魔理沙の説明を受けて、呑み気が逸る目出度い巫女は興味がわいたようだ。
「美味しそうね。でも、それで寿命が延びるのかしら?」
「伝説では、虚弱な皇帝がそれを呑んだところ忽ち強健になったそうだ」
少し霊夢の目が輝いた気がした。
魔理沙は華扇に訊く。
「しかし不老長寿に滋養強壮、と来たら仙人の得意分野じゃないのか?霊夢に先を越されたくなかったからあとでお前にこっそり聞こうとしたんだが」
「まぁ仙人は色んな修行の方法がありますからね。他の仙人なら知ってたかもしれません」
残念ながらそれはカバーできません、と仙人は笑って受け流した。

__

「むぅ。これじゃ女郎花の薬草止まりになっちまうぜ」
「来年を待てばいいんじゃない?」
「一日千秋だな。長いぜ」
そういえば、と思いついたように霊夢が起き上がって言った。
「幽香(あいつ)に訊いてみたら?菊が欲しいって」
「私は存じ上げない だとよ。花を慈しむのと無理に繁殖させるのは違うって言ってな」
「じゃあ来年を待つしかないわね。運よく死なないようにね」
「私は幻想郷一の悪運もちだからな。心配しなくていいぜ」
いつか会話は他愛のない話に変換されていった。


その時、あまり見覚えのない天狗が神社に飛び降りた。
「お?お前はいつかの念写天狗か?」
魔理沙がそういうと、念写天狗が答えた。
「名前も覚えて貰えると有難いわね。姫海棠はたてって言うのよ」
「そうか。そのうち何かを借りに行くかもしれん」
「御名前が有名だから貸さないことにするわ。それより本題があるの」
霊夢ははたての言葉に耳すら傾けない風だ。
「ほう。天狗の新聞大会とか言うなよ」
「あー、花果子念報をよろしくね。……紅魔館でパーティーがあるから、来たいなら来いって」
華扇が少し訝しむ様に訊く。
「今頃そんなパーティーするような行事なんてありましたか?」
生真面目なそれを笑ったのか軽く嘲笑したのかどうかはさておき、魔理沙が笑って答える。
「あいつらは行事を深く考えるやつらじゃないぜ。……尤も、それなりに練り込まれたらしい行事もあるけどな」
通常運転の巫女が何か想う節があるらしくおもむろに呟いた。
「あー…… 今日、重陽だったっけ」


__


普通夜と言うと人間の殆どが活動をやめ、明日の準備のために休眠をとったりする。
したがって、一般の感覚で言えば、夜の里は暗くて静かなはずだ。
だが夜の紅魔館はその通りではない。
なんせ、主が吸血鬼なのだから。

乾杯、と言う威勢のいい掛け声が大分前に聞こえた。
館の庭には人間、妖怪、普通じゃない人間、妖怪と人間以外などが大勢いた。
もはやこのパーティーは宴会と言った方が近いかもしれない。
「しかし吸血鬼が重陽とはどういう風の吹き回しだ?」
酒が入って魔理沙の頬が心なしか紅い。
「邪気払いよ。いくらタフネスな吸血鬼だって偶にはリフレッシュしなきゃあ」
レミリアが菊酒の入ったグラス片手に答える。
「お前の場合毎日がリフレッシュ日和だろ」
「なんだと?やるか?」
「やらねーよ」
そこまで言って二人は笑いあった。

「やっぱりお酒って最高ね」
霊夢が高揚して言う。
それに華扇が受け応える。
「まあ、悪くは無いですね。……ところで、問題の根本的な解決にはなってないと思うのですが」
「菊の事?うーん。別にいいじゃん。それに咲夜なら割と幻想郷中の菊を集めてきそうだし」
「それでいいんですかね?」
「いいの、いいの。ほら、お酌してあげるから」
「あ、ありがとうございます」


重陽は人日、上巳、端午、七夕と共に、五節句としてその名を知られている。
元々は陽の気が強いこの日に厄を払うとして節句が行われていたという。
それが次第にお酒と祭りが好きな後世の人間に段々と祝い事にされていった。

__邪気を払い、長寿を祝う。
菊の花を飾り、菊の酒を皆で酌み交わす。

ぐうたれた幻想郷に相応しい、素晴らしい行事だと言えるだろう。

ところで、咲いていた菊の花は、やはり殆どが吸血鬼のメイドに取られたと云う。
しかし、菊の季節はまだまだこれからだ。
あの鮮やかな大輪は、まだ郷で冬を待っている。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
植物観賞は嫌いではないですが、割かし世話を面倒くさがってしまうのでなんとかその体質を直したいです。
適当な文章ですいません。
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コメント



0.340簡易評価
1.70非現実世界に棲む者削除
面白かったですが後味が少し足りないなと思いました。
2.90名前が無い程度の能力削除
薀蓄を語りまくるあたりが茨華仙原作っぽくて良かったです。
より正確には、2話構成の前半部分、という感じでした。

ところで、秋って幻想入りしてしまったのでしょうか…。
3.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が茨華仙と似てて面白かったです
6.70絶望を司る程度の能力削除
後味が少し薄かったかな。おもしろかったです。
12.70名前が無い程度の能力削除
蘊蓄がたくさん。菊の花を星見草というとは、昔の人は洒落てますな。
13.703削除
9月9日のことを重陽と呼ぶのですか。知りませんでした。
菊の花の酒が全体を通してテーマになるのかと思いきや、そんなことはなく。
これはこれで、とりとめのない感じが出ていると思います。