Coolier - 新生・東方創想話

もしも妖々夢の自機が霖之助だったら

2013/08/18 22:38:49
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設定がハチャメチャです。
気を付けていってらっしゃいです。























ここは幻想郷。
五月になっても暖かくなるどころか
よりいっそう寒さが厳しくなっている。
生命の音は聞こえず、
冬花もとうにその花弁を閉じ、
湖は凍てつきそして。

「コークスも切れるさ。そりゃあ」

雪原。
見渡す限り白銀の大地が広がる場所。

「はぁ......はぁ......はぁ......」

そこに男が一人。
名前は霖之助。半妖である。

「まったく、こんなのは僕の
ガラじゃないんだがね」

そう、この男は冬の終わらないこの異変
により、いつもは拾ってきた物で
店内がごったがえしている商店を
営んでいるのだが、通常でも客は
少ないのにこの異変のせいで更に
客足が遠のき、それだけなら
本でも読んでいるさ、どうせ誰かが
解決するだろう、とたかを括ってていたのだが、
とうとうストーブの燃料が尽き、
流石に危機感を覚えた霖之助は
異変を解決させるために
乗り出したのであった。

「はぁ。それにしても寒い。
貴重なカイロを数枚使っているのに
ちっとも温まりやしない」

そしてこの男、異変の解決の際において
最も重要なことが出来ない。
飛べないし弾幕も打てない。
目利きが良いとか
人間よりは寿命が長いだとか、
そんな異変解決には必要ない程度の
能力しかないのだ。

「ふー。もうこの異変の黒幕に
登場頂きたいもんだね」

ぼやいているとにわかに吹雪の強さが増し、
霖之助が目を閉じ、開くとそこに。

「くろまく~」

「ああ、君がそうなのかい」

「いいえ違うわ。でも、
この異変を終わらせようだなんて
考えているようならちょっと
痛い目みてもらうわよ~」

「ふむ。僕は昔から荒っぽいのは苦手でね。ところで、君、名前はなんというんだい」

「冬の忘れ物、レティ・ホワイトロックよ
さぁ、貴方の全てを止めてあげる」

「僕の名前は森近霖之助。
レティ、こんなものがあるんだがどうだい」

そう言うと霖之助は背負った鞄から
小瓶を取り出した。

「これはね、外の世界から流れてきた物で、
どうやら俗に言うダイエットに効果が
あるらしいんだ。
名前はサプリメント」

とか言いつつ同時に流れてきた
このサプリメントの効能を示すための
写真を二枚、取り出す。

「さぁ、これがこのサプリメントを
一ヶ月間使った結果だよ
(明らかに始めと終わりで姿勢変えてるだけだけど)」

「.......(この男、私にケンカ売ってるのかしら
売ってるのよね?
...でも、所詮は半妖。私ならいつでも
殺せるわ。それに...まぁこのさぷりめんと
とかいうやつを試してからでも
遅くは無いわよね)
.......で、それを私に見せてどうしようっていうのかしら?」

「これはなかなかの高級品でね。
(そんなこと知らないけれど)
でも、僕はこのサプリメントの効能を
試してみたい。
そして貴女は女性。
女性ならば誰しもスタイルは気にするだろう。
そこでだ、僕はこれを無償で提供する
代わりにここを通してもらい、
貴女は今よりも素晴らしいスタイルを
手に入れる。
WIN-WINの関係と言うわけさ
どうだい?こんな半妖一人通すだけで
貴女は素晴らしいボディになれるわけだが」

「.......そうね
確かに悪くないわ。
でも貴方の事はまだ信用に値しない。
もしかしたら毒かもしれないしね。
というわけで貴方に付いていくことにするわ
良いかしら?」

「つまりは通して?」

「くれるわ」

「では成立だ。
付いてくるのならまぁ好きにするといい」

「ふふ。
聞き分けの良い人は嫌いじゃないわ」

こうして、半人半妖、森近霖之助と
冬の忘れ物、レティ・ホワイトロックの
奇妙な旅路は始まるのであった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

次に来たるはマヨヒガ。
なんでもここの物を持ち帰ると
金持ちになれるとか。

「ふむ。
どうやらここはマヨヒガのようだね。
どれ、僕も一つ長者になってみようか」

「あら?
そんな邪な考えを持つ人がくれた
物なんてきっと毒に違いないわ」

「........冗談だよ」

「あら、遠慮しなくたって良いのに
まぁそこまで言うなら仕方無いわねぇ」

「ふん。」

とは言えこの男は年中本さえ読めていれば
割とどうでもよかったりする。
因みに出てくる雑魚妖精どもは
なんでも小さい子供にしか聞こえない
高い音を出す道具で遠ざけているとか。
なかなかに不快なものらしい。
霖之助、そこそこに外道である。

「しかしここは雪が降ってなくて
先程の場所より幾分温かいな」

「貴方にとっては過ごしやすくても
私にとっては少し暑いわぁ。
なにか涼しくなるものはないかしら?」

霖之助、下手な事を言うとろくな目に
合わないと言うことを知る。

「はいはい、じゃあこういうのはどうだい」

知った代償に小瓶を取り出す。

「あら?
これは........液体?」

「ああ、揮発性の強い液体さ。
首筋なんかに塗ってみると良い」

「あら涼しい。
今度チルノちゃんにもあげたいわ」

「.......店に来たらあげるよ」

「あらあら気が利くわねぇ。
それにしてもここは広いのね」

「ふむ。
噂によるとここは八雲の式の式が
棲んでいるんだとか」

「あら、じゃあ出会わないうちに
抜けちゃいましょうよ」

まぁ.......出会わない訳無かったのだった。

「ここはマヨヒガ。
一度迷い来んだら二度と出られない」

八雲の式の式。
吾輩は猫である。
名前は橙。
姓はまだない。

「あら、いってるそばから。
仕方無いわねぇ」

「まるで君が呼び込んだようだね。
はぁ、厄介だよこの連中は.......
.......む。」
「どうかしたのかしら?」

「君。」

霖之助はなにやら四角い
手に収まるほどの物を橙に向けつつ、
呼び掛けた。

「なに?」

と、言うか言わないかで。

カシャリ。

霖之助の手に持っていたものが
なにやら音を出した。
間髪入れず、ジ~~~、と紙を吐き出す。

「おや!これは不思議な物を
手にいれてしまったぞ」

と、あからさまな棒読みで霖之助が
手にしているのは橙が写りこんだ紙。

「あら、何かしら
初めて見るわねそれ」

レティが霖之助に訪ねる。

「これはカメラと言う。
用途は見た方がはや「ちょっと!」

「なんだい?」

「そんな呑気にしてて良いの?
撃つよ?挨拶も無しに撃っちゃうよ?」

「まぁこれを見てくれたまえ。
これは君をこの紙に写し取った物だ」

レティは、あ~そう言えばこないだ
天狗がそれっぽいもの持ってたなぁ、
新聞についてるあれと同じものかしら、
なんてふわふわ考えていた。

「でだ、君、確か八雲の式に
身だしなみは厳しくしつけられていただろう?
けどこれを見てくれ。
耳に大きなピアスは付けるわ、
爪は真っ赤だわ、
これを八雲の式が見たら何て言うかな」

橙、戦慄。

「お、丁度油揚げを持っていたんだった
どれ一つ八雲の式でも呼んでみようか」

らんしゃまに。
らんしゃまに、叱られる.......!
ハハッ、叱られる。
叱られる叱られる叱られる叱られる叱られる叱られるシカラレルシカラレルシカラレル

「らららんしししややややゃままま
叱られる叱られるしかかかかかか」

「流石にかわいそすぎるわ霖之助さん。」

レティがジト目で言う。

「分かってるとも。ここで呼んだところで
すぐに抜けられるとは思えない。
それよりもここはやはり.......
なぁ式の式よ」

「LAN謝真LANシャマLaLaLaLaLaLa」

橙、最早喋る事ができる状態ではない。

「おい!」

「ひゃい!?」

霖之助が渇を入れると
尻尾をビシ!とさせて気をつけの
姿勢になる橙。

「良いかい、僕はこの先に用があるんだ」

「は、はい」

「そこでだ、交渉といこうじゃないか
この写真。
ここを通してくれれば破り捨てる
通してくれなければ八雲の式を呼ぶ。
さぁどうする」

「どうぞ!
お通りください!」

五体倒地で尻尾は出口にしゃきーん。

「ふむ。聞き分けがよくて助かるよ」

「貴方には情というものが無いのかしら」

「あるさ。
誰も傷付かず穏便に丸く納めるには
これしかなかったのさ」

レティの突っ込みも軽く流しつつ
二人は進む。
遠くでびりびりと何かを破く音。
約束は守る霖之助であった。
.......しかし、油揚げとカメラだけで
ここを切り抜けるとはデキル男である。
心が傷付ついていまだ土下座の橙を
除けば概ね問題はないようだ。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

マヨヒガを抜けた先、
生命の息吹を感じぬ林。
時折枝から雪が落ちるドサリとした音。
それ以外は二人分の息づかいとギュ、ギュ、と
雪を踏み締める音。

「光が届かないぶん一層冷えるな」

「貴方も寒がりねぇ。
私には適温なのに」

「冬妖怪と一緒にしないでくれ。
....ああ、カイロがあと数枚だ」

「私がそんなもの使ったら溶けちゃいそう」

「そうかもね。」

「ああ疲れたわ。
こうも歩きっぱなしだとくたびれるわ。
そこにちょうどいい切り株があるわね」

「もう休むのは決定みたいだね。
まぁいいさ、ひと休みしていこうか」

「よいしょ、と。
はぁーそれにしても暗いわね」

「ランプがある。
....うむ、多少明るくなったか」

辺りに動物の気配はなく、
静かな場所が好きな二人にとって
休息をとるには適していた。

しばらくして。

「そろそろ行こうか」

「そうね、じゃあいきましょう。
........うぅ~ん。」

かふ、と欠伸。
呑気なものだ。
それから二人が歩き出そうとしたその時。

「人の縄張りに入っておいて挨拶も無し?
都会派の私からすれば考えられないわね」

「........」

「あら自己紹介が遅れたわね。
私は七色の人形使い、アリス・マーガトロイドよ」

「........霖之助だ。」

「....レティ・ホワイトロックよ。」

「なんだか元気が無いわねぇ。
悩みが多いのかしら。
まぁ私は多いどころか悩みなんて無いけれど」

「....さぁいこうか。
休憩もとれたことだし」

「そうね。行きましょう」

「あらあら初対面の相手にそんな態度をとるだなんて。
貴方たちには常識が無いのかしら?」

「「........何も見なかった。」」

ハモりながら歩き出す二人。

「あらそう!
そんなに私の弾幕を喰らいたいってわけね!
それならお望み通り嫌ってほど撃ち込んであげる!」

いきなさい、上海ーー。

しかし、自称七色の人形使いの弾幕は
出ることはなく静寂が広がるのみ。

アリスは自身から弾幕を撃つことも出来るが
スペルカード弾幕はもっぱら人形から発射される。
上海、アリスの要請を受け、しかし動かず。

いや違う。

「バカジャネーノ」

そこにはいつもはアリスの糸に繋がれ
浮遊している上海ではなく、
雪に半ば沈んでいる状態でアリスに悪態をつく
上海があった。

「は?どうしたのよ上海!」

「バカジャネーノ!バアッカジャネーノ!」

訳ー寒すぎて糸が凍りついて切れてんだよ!
ついでに私の関節もガタガタなんだよ!
バカじゃねーの!

「な、じ、じゃあ蓬莱!」

「........ホラーイ...」

訳ー上海が動けないのに私が動けるわけないじゃない...

「むわあああああ!
だらしないわね!
ほら上海!
う、ご、き、な、さいっ....てば!」

「バババババカカジャジャネネネネ」

なんとアリスは上海を糸でぐるぐる巻きにして
無理くり動かそうとしている。
こんなことでは魔界のあの人が心配するのも無理はない。

「シャ,シャン....」

「....ラーイ」

糸ですっかり簀巻きにされ、最早人形が
動いているのか糸が動いているのか。

....因みに、アリスが現れたときから
背後の人形達は皆このような様だったのだ。
その状態で威張られたところでまともな
相手を霖之助達がするはずもなく。
アリスがようやく霖之助達がいた方を
振り返ったときは既に切り株しか残されてはいなかった。

「....ふ、ふふふ。
私に怖じ気づいて逃げ出したようね。
やはり私にとってあんなやつら敵じゃ無いわね!」

高笑いをしているアリスの背後には
糸の塊が二つ。

「シャー....」

「ホーーラーーーイー....」

「ん?」

ピチューン

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「困った」

開口一番、まだここの説明もないうちに
霖之助は途方に暮れていた。
それもそのはず、どうやら黒幕は
空を飛んで行かなければ会えないからである。
知っての通り霖之助は半人半妖であるが、
空は飛べない。
目の前には端が霞むほどの大結界。
無論、これを砕く程の力なぞない。

「これでは先に進めないじゃないか
僕に凍死しろとでも言うのか」

ぶつくさ文句を言っていると。

「仕方無いわねぇ。
ほら、乗りなさいな」

「.......ん?」

「ほら早く」

そこにはこちらに背を向けて
しゃがみこむレティ。
これはもしかしなくても。

「僕におぶされと?」

「そうよ。
この先に進みたいんでしょう?
さぁ早くしなさいな。
これ以上女性を待たせる気かしら?」

「し、しかしだな
女性におぶさるというのは
流石に男として許されないと言うか.......」

「はぁ。
意気地無しねぇ
じゃあこうしましょう」

と、言うが早いかレティは
霖之助を抱き抱え、飛び上がる。

「お、おい」

「良いからじっとしてなさいな
半妖とは言えこの高さから落ちれば
死ねるわよ」

確かに、最早地面は霞がかっており、
霖之助はごくりと喉を鳴らす。

「.......すまない」

「良いわよ。
それよりまた私を驚かせるような物を
出してみてよ」

「あ、ああ、今は持ち合わせが
無いから今度僕の店に来ると良い。
あっと驚かせて見せるさ」

「ふふ。それは楽しみね。」

そのまま登り続けること数分、
大結界を飛び越えようという所で
プリズムリバー三姉妹が現れたが、
最近楽器の調子が悪いとの事だったので
今度霖之助が調律をしてあげると言うことで
通してもらった。
.......何故か三姉妹が赤面していた事に
ついては描写しない方が霖之助の為だろう。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ここは白玉楼前、
登るだけで覚りを開けそうな
長い階段の入口である。

「ふぅ、随分と遠いところまで来たな
ありがとう、助かったよ」

「良いのよ。
それよりも寒いでしょう?
先を急ぎましょう」

「.......ああ。」

そして二人は登る。
登る登る、どんどん登る―――。
もう何百何千登ったか知れない頃。

「.......着いた」「着いたわね」

壮大。

威風堂々。

だだっ広い。

そんな言葉では言い尽くせない。

ここは楼。

亡霊の姫の住まう白玉楼。

「そこまでよ」

半人半霊庭師
魂魄妖夢。

さらり、と刀を抜きつつこちらを
警戒する。
抜き出した刀を体の前でピタリと止める。
ただそれだけの動きで魅入られる。

「幽々子様は桜を咲かせようと
しているのよ」

邪魔をするな、と言わんばかりの眼光。

「ふむ。
しかしだね、こちらもそろそろ
暖気が欲しいのだよ」

「私はむしろこのままが良いけれど」

「.......見たところ貴方は半妖ね
貴女は妖怪....それも冬妖怪ね。
何故、そこの半妖の味方に付くのかしら」

「ふふ、そうねぇ。
新しい自分を手に入れる為、かしら」

「新しい自分ね。
意志のある者は幾度も
自分を変えようとするわ。
あたかも変えることが最善手かのように。
その先に何が起こるかなんて誰にも
わからないというのに。」

「あらあら、
端から見ても私から見ても
大した変化じゃないわ。」

「....では何故」

「己を変えようとせぬものに先は無いわ。
変わる事自体が重要ではないのよ。
己を変えようと、より良くする力。
そして変わった結果何が起きるか。

それが悪手であったならば原点へ帰る力。

良手であったならば更なる高みへ昇る力。

手を打った後の悪手良手を見極める力。

これらの力を伸ばす為に必ずしも
大きな変化が必要という訳ではないのよ」

「.......」

それに、とレティは付け加える。

「貴女、私達を見るやいなや刀を抜いたわね。
それは威嚇の為?
あるいはそうかもしれない。
または迎撃する為?
答えは否。
貴女は中段に構えた。
最も基本的な、かつ守りに強い構え。
なるほど、主を守る従者としては
それが適しているのかもしれない。
けれど。
私達は丸腰。
妖怪か否かを見極めるその眼があれば
私達が大した力を持っていないことを
知るには過ぎるものよ。
けれども貴女は出会い頭に守りを固めた。
何故か....分かるかしら?」

「....確かに貴女の言う通り、
貴女達に私を超える力があるとは
思わなかった。けれど見間違いだったら?
もしも貴女達が私を超え「違うわ」

はっきりと

レティは言う。

「仮に、私達が貴女を超えていたとします。
ですが私が貴女の立場ならば刀を抜くことは
しなかったでしょう。」

そんな――。
余りに刀の間合いから離れている所で。

「.......!」

「この距離で貴女と私達が近距離戦を
瞬時に始める事なんて出来ない。
あるとすれば遠距離。
弾幕を避けるのに刀を構えるのは悪手。
貴女はどう考えても不利な選択をしたのよ」

「それは....」

「言い忘れたわ。
私が先に言った四つの力の五つめ。
いえ、厳密には四つめの更に先。
貴女は、行動を起こした先に何があるか
分からないと言ったわね。
正解よ。半分ね。
でも――


























何が起こるか分かるとしたら?







貴女の答えは最善ではない」

「で、ではどうすれば!」

「ここまで言ってまだ分からないの?
でも良いわ。教えてあげる。
きっと貴女は、これまで途方も無い時間
修練を積んできたのでしょう。
でもそれだけ。
貴女は不測の事態に対応出来ない。
実戦を知らない。
経験、自信、なにもかも不足」

「.......」

「貴女は未熟、半人前。
変えなさい。自分を」

「.......自分を変える....」

「そうよ。
些細な事からで良いの。
それがきっと貴女の糧になる」

妖夢。
レティ。
両者に言葉は無くなった。
そして。

「.......ーーーっ」

妖夢、退く。

「これからは貴女が決めること。
他人がとやかく言うことではないわ。
....行くわよ、霖之助さん。」

「........あ、ああ」

こうして、この永き冬の異変も
残るは黒幕ただ一人。

死を操る亡霊の姫。
その名も西行寺幽々子。

西行妖はただ目の前に。


★☆★☆★☆★☆★☆★

西行妖。
今にもその花弁を開かんとする
蕾は数えきれなくて。

辺りは闇。
けれども無数の亡霊がじわりと光り。
ああ、その美しくも妖しい桜は。

まだ春を告げない。

「さぁ、覚悟は良いかしら霖之助さん」

「覚悟も何もないさ。
僕はただ寒がりなだけなんだから
暖かくしに行くだけさ」

二人は歩く。
そして見た。
行く末に。
死を振り撒く姫を。

「あら。
お客様ももう随分と久しいわねぇ。
花見は如何かしら?」

「生憎私は桜は嫌いなのよ。
でも記念にそうね、その大きな桜の
枝でも頂こうかしら」

「花見だなんてそんな粋な事を
しに来たんじゃ無いんだよ。
僕は葉桜の方が好きでね」

「あらあらつれないわね。
でもそれではおもてなしが出来ないわ。
そうそう、ここの蝶は綺麗なのよ」

突如幽々子の背後から放射状に舞散る蝶。
紫色の強い七色のその蝶々が
レティと霖之助に迫る。

「人生に疲れたのならあれにさわると良いわ」

「生憎僕は読みかけの本を店に残してるんだ。
まだ読み疲れてなんかいないさ」

「ふふ。
さぁこれらをどうしましょうか」

「君、楽しんでいるだろ。
まったくしょうがないな。」

ーーーけれど。
もう、勝敗は決まりきっていた。

「幽々子様。」

妖夢、
刀を抜く。
その先には。

「........なんのつもりかしら妖夢」

幽々子。

「私は産まれたときからここで従者として
生きてきました。
それになんの不満も有りません。
ですが私はこれまでの生涯受け入れる
ばかり、流されるままに生きてきました。
ですから。
私は死の覚悟を持って貴女を切る。
自分を、変えるために!
己を、試すためにっ!」

「........」

しゃらん。

瞑目し幽々子は大振りの太刀を抜き。

からん。

鞘を放り。

「そう。
貴女も成長したのね。
最早貴女は半人前ではない。
対等な相手。
従者、主。
そんな肩書きは必要ない。」

ゆっくりと目を開き。

貴女自身をーー。

見せてみなさい。

妖夢、駆ける。
二振りの刀を左右の腕に。
腕をだらんと垂らし。
がぎりりりりりりり
鋒が地面を削る音が近づく毎に大きくなる。
そして互いの間合い
あと三歩
妖夢、更に加速
あと二歩
地を蹴り
あと一歩
双眸炯炯に幽々子を見
互いが重なりそして離れる
限りなく短い時の間に、
勝敗は決した。

素人目からすればこの状況は理解できない。
地にその身体を横たえているのは幽々子。
その先に立つ、妖夢。
実際、霖之助とレティには全く理解できない。
何故........
妖夢の刀が幽々子の前に突き刺さっている?

何故........
妖夢は背に刀傷を受けている?

何故........
身体の何処かを切られたはずの幽々子が
起き上がり、外傷が無い?

妖夢は、勝負決す半歩前に。
刀をなんの躊躇いもなく後方へ放った。
否、地面に突き刺し、更に推進力を得て。
無刀のその身体で幽々子に痛恨の当て身を
見舞ったのだ。
無論幽々子の刀は妖夢の背を捉えたが、
直前での加速、何よりも刀を打ち捨てたその
行動が、幽々子に動揺を与え、浅手となった。

「........私の負けね。」

ふらり、と立ち上がり幽々子は言う。

「さぁ妖夢、私を討ちなさい。
なにも抵抗はしないわ。」

「........も」

「......?」

「申し訳ごさいませんでしたぁぁぁぁぁ!
切腹する所存でごさいます!
どうぞ、どうぞこの私めの介錯をぉぉぉぉ!」

言うやいなや懐刀を取りだし始め
切腹の準備を進める妖夢。

「................は?」

「いいえやはりお手は取らせません!
私一人で自害を!」

「ちょちょちょ妖夢!
もっと自分の行動に責任持ちなさいな!」

「自分を高めようとして守るべき主に
刃を向け挙げ句卑怯な戦法を取るなど
不肖魂魄妖夢、 生きる資格無し!」

「だから待ちなさいってば!
勝っておいて死ぬなんてそれこそ
従者として最悪よ!
いい?これは命令よ!生きなさい!」

「いいえ!
最早生き恥晒すこと堪えられません!
死にます!」

ぎゃーすかぎゃーすか。

「........で、どうすればいいんだいこれ」

「残念。解らないわね。
一つ言えることはあそこに割って入るのは
憚られるって事だけね。」

「まったくだ。
........どうしようか」

「ま、物事に終わりの区切りを無理に
付けることも無いわ。
二人とももう異変を続けるような事は
しないと思うし、そっとしておきましょう」

「そうか........そうだな。」

こうして、妖々夢異変と呼ばれた
冬の終わらない異変は幕を閉じた。
しかし、この異変の結末だけは
この四人しか、知ることは無かった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆


後日。

春も無事戻ってきて、暖かくなった幻想郷。
次の冬にまたくるわ、
と言い残して何処かへいってしまった
レティや、従者として大きく成長した妖夢。
その従者を一人前と認め、さらに冥界から
外へ旅出たせた幽々子。
異変解決に関わり、様々な経験をした霖之助。
それぞれ変化はあったものの、本質は変わらない。
時はゆっくりと過ぎてゆくものだ。
ちぇぇぇぇぇぇぇぇん!今日も可愛いね!

らんしゃまー!

.....あれ?耳に穴が....?

....しかかかかかかかかかか........



どうも権米です。
お久しぶりです。
前作の編集キーを失念してしまい編集が
出来てないです。
なんという失態。

まぁそんな下らないことは置いておいて。
ここまで見てくださりありがとうございました!

名無しの権米
[email protected]
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コメント



0.420簡易評価
4.60奇声を発して喉を痛める程度の能力削除
霖乃助ならではの解決の仕方が欲しかった
8.403削除
前作との違いは、霖之助が自身の力で解決しているかどうか、ですね。
「霖之助が異変を解決する物語」とは書かれていないのですから、別に詐欺とかでは無いのですが、
一読者としてはそのような場面をもっと多く読みたかったな、というのが本音です。