「いつつつつ……」
「ん?」
いつも豪快に入り口を開けて現れる魔理沙が、いやに静かに店内に入ってきた。
「どうしたんだい魔理沙」
「助けてくれよ香霖」
「何があったんだい?」
あの魔理沙が進んで助けを求めてくるなんて余程の事態である。
「……痛いんだ」
「痛い?」
尋ね返しながらも、魔理沙が頬に手を当てていることでだいたいの察しがついていた。
「歯が……」
「そうかい。竹林の医者にでも診てもらうんだね」
さて、この間途中まで読んでいた本の続きでも読もうとしようか。
「そんな冷たいこと言わないで助けてくれよ香霖」
必死な様子で僕の袖を掴んでくる。
「痛みを感じるようになったらもう手遅れさ。その前に処置しておけばよかったのに」
「そんな事言ったって……痛くならなきゃ気づかないだろ?」
「そんなに痛いのかい」
「痛いぜ」
「……はぁ。仕方ない。そこに座ってくれ」
僕は自在腰掛、通称リクライニングシートを指差した。
「さすが香霖。話が分かる」
魔理沙は頼りない笑顔を見せて椅子に座った。
「しかし何で竹林の医者のところには行きたくないんだい」
シートを倒しながら尋ねる。
「あいつの治療は痛いんだよ」
「僕がやったって同じだと思うんだがね」
しかも僕は専門家ではない。こういうことは専門家に任せたほうがいいんじゃないだろうか。
「同じ痛いでも香霖のほうが上手くやれるだろ? 他に頼めそうな奴もいないんだよ」
「そうかな……」
アリスやパチュリーのほうがよっぽどなんとかしてくれそうだと思うのだが。
「ちなみに、外の世界では虫歯はドリルで削ったり神経を抜いたりして治すらしいよ」
「うへえ、ぞっとしないぜ」
魔理沙は露骨に嫌そうな顔をした。
早苗に聞いた話だが、歯医者というのは恐怖の象徴であり、どこもかしこも阿鼻叫喚地獄で、それはもう恐ろしい場所のようだった。
「とりあえず口を開けてくれ」
「あー」
口を思いきり開かせ、中を覗き込む。
前歯の裏にぽっかりと大きな穴が開いていた。
「これか」
「いだだだだ!」
軽く突いただけで叫び声を上げる魔理沙。
「これじゃあどうしようもないな……よく見ると前の歯と後ろの歯に穴が出来てる」
「そんな事言うなよ……触られたせいでもう動く気力が無いぜ」
「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ」
もっと早くに言ってくれれば対処の仕様もあっただろうに。
「だってさあ……」
「だっても何もないだろう。これからはちゃんと歯磨きをするんだ。いいね?」
僕はずっと昔、小さな頃の魔理沙にそう言い聞かせたはずだ。
「……今度からは善処するぜ」
善処なあたり反省の余地が伺えない。
「こんな状態でよくそんな口が聞けるなぁ」
「いひゃい! いひゃい!」
穴の空いた歯を軽く突いてやると魔理沙は悲鳴を上げた。
「うう……毎日ちゃんとするから……許してくれよぅ。痛いのはもう嫌だ。助けて……」
すっかり怯えた表情で、瞳には涙が滲んでいる。少しやりすぎただろうか。
「助けろと言われてもな……」
僕は魔理沙と違って魔法使いじゃないんだぞ。
「……ああいや、待てよ」
魔法という言葉で思い出した。
「ちょっと待っててくれ。いいものがある」
「ほんとか……?」
「口を閉じて待っててくれ。八卦炉を借りていくよ」
僕は台所へと向かった。
「待たせたね」
「ずいぶん待ったけど何してたんだ……?」
「これだよ」
「……何だそれ?」
魔理沙は皿の上に乗ったそれを見て怪訝な顔をしている。
「これは歯磨き粉をペースト状にしたものさ。これそのものも歯磨き粉と呼ぶみたいだがね」
いつか見たことのあるそれを、僕がアレンジして再現したものである。
再現度が低くてねばつきが強くなってしまったが効果はあるだろう。
「磨いた程度で治るのか……?」
「治らないよ。普通は」
僕がそんな普通のものを用意するわけがないじゃないか。
「これには痛み止めの薬草、治療薬、キシリトール、フッ素、カルシウムその他諸々歯に良いと言われているものをたくさん調合してあるんだ。その上ヒヒイロカネを使って調合したから魔法的効果も加わっている」
単語の意味は道具から読み取っただけなのでよく分からないが、用途として読み取れたからには効果はあるものなのだろう。
「ああ、それで八卦炉を持っていったのか」
「その通り。完全に治すことは出来ないが、一時的な措置くらいなら出来ると思うよ」
「一時的?」
「これで痛みが消えたらすぐに永遠亭に行くこと。いいね?」
「えー」
「いいね?」
「いひゃい! いく! いきます! いくからああ!」
あの魔理沙が丁寧語になるくらいだから余程のことなのだろう。
「……このまま直さないのもいいかもしれないな」
「うー、今日の香霖は怖いぜ」
「そうかもね」
これくらい厳しくしないと魔理沙は反省しないだろうから、心を鬼にしてやっているのだ。
「さて治療だ」
僕は一緒に持ってきた細い金属の棒の先端に思い切り歯磨き粉を塗りたくった。
これを薬代わりにして悪い歯の局部につけ治療するのである。
「最初は痛いかもしれないけど我慢してくれ」
直接これを塗らないことには話にならないのだ。
「や、優しくしてくれよ……」
おどおどした目をしている魔理沙。
僕は容赦なく口の中にそれを突っ込んだ。
「~~~~~~~っ!」
声にならない悲鳴。
しかし構わず反応の強い場所に擦りつけていく。
「や、あ、うう、いぐっ!」
「我慢してくれ、すぐ良くなるから」
「うういぁ、ぐっ」
苦しそうに口を歪め、唾液がぽたぽたとこぼれ落ちる。
「我慢してくれったら……」
僕は指で唾液を拭ってやり、穴の奥に先端を擦りつけていった。
「あう、う……うう……えうっ……」
動かしている間に潤んだ瞳の魔理沙と目が合い、罪悪感が心に広がっていく。
「いぎっ!」
奥に達した所で魔理沙の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
額には汗が滲み、顔は紅潮して激しい痛みを我慢しているのが分かる。
僕は一旦引き、動きを止めた。
「……すまない、もう少しだから……」
動かし続けたら彼女も辛いはずだ。緩急をつけてやらなければ。
「もう少し、頑張れるかい」
僕の問に魔理沙は小さく頷いた。
「我慢する……」
「そうか……」
再び先端を当て、ゆっくりと動かし始める。
「少し激しくするが、我慢してくれよ」
「や、優しく……っぁっ!」
「あとちょっとだから……」
奥から掘り起こすように上下運動を繰り返す。
ぐちゃぐちゃに混ざり合った濁った粘液が散乱するが、気にしている余裕はない。
「こう、り、だめ、いた……」
「ここだな……」
僕は最深部に向けて先端を強く押し付けた。
「ん~~~~~~~っ!」
魔理沙の足がびくっと跳ねた。
「……ふう……」
「……はぁっ……はあっ……」
穴からこぽりと白く濁った泡が溢れ出てくる。
「……終わった……の……か?」
「……」
無言で魔理沙に先端を向けると、びくっと怯えた様子を見せる。
「ま、まだするのか……?」
「当たり前だ。徹底的にやるぞ」
「や、やだ……」
「やだじゃない。ほら、今度は後ろの穴だ」
抵抗させる間もなく広げ、突っ込む。
「そっちの穴はもうい……んむっ……!」
両目を閉じて痛みを堪えようとしている魔理沙。
「ほら、縁がこんなに黒ずんでる……やっぱり後ろのほうが使い込んでるのか?」
「うう……」
「しかし穴が広がってる分入りやすそうだ……」
「ひゃぃいっ!」
先端が触れるだけで魔理沙の体が震えた。
「暴れないでくれよ……」
「ら、らってぇ……」
「こっちが弱いのは分かるんだが、その分我慢してくれないと困るよ」
「ううう……もうやらぁ……」
ひっくひっくと嗚咽をあげ、瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「……ならやめるかい?」
「……ううー」
あまりにも魔理沙が嫌がるようだったら、ここで止めなければいけないだろうか。
「やだ……我慢するから……最後まで……ちゃんと……して……」
「いい子だ」
「いぎぃっ!」
僕は魔理沙の悲鳴に構わずひたすらに擦り続けた。
「う、あぐ、ううああああ! うううっ!」
やはり相当に痛いのか、先程よりも悲鳴が強くなっている。
小刻みに震える魔理沙の体。
僕が動く度に体液と入り混じったぬめった液体が散らばっていく。
「ひっ……えぐっ……あ、あうぅ……」
魔理沙はやがて叫ぶ気力も無くなったのか、うつろな目を泳がせていた。
再び物凄い罪悪感が僕の心に広がっていく。
彼女のためにしていることだというのに。
「魔理沙……すまない……」
僕は涙と涎でぐじょぐじょに濡れた顔をそっと拭ってやった。
「……う?」
そうして暫く経つと、魔理沙の目に生気が蘇ったと同時に、困惑の表情が浮かんでいた。
「魔理沙?」
「なんか……痛く無くなって来た……」
どうやら薬が馴染んできたようだ。
「……なら、これくらいでいいだろう。後は洗うだけだ」
「っ……?」
僕は先端で穴の側の辺りを軽く擦った。
「どうだ?」
「あれ……? なんか気持ちいい……」
痛みは消え、場所によっては快楽をも感じるはずである。
「すまない。前の穴のほうが具合がよかったみたいだな。もう少し慣らしてからやるべきだった」
「……先に後ろからしてくれれば、前も痛くなかったかもしれないぜ……」
「かもね」
そのまま全体で撫で回すように擦ってやる。
「んー……あ……そこ……もっと……」
魔理沙の額からは汗が消え、安堵したような表情に変わっていた。
僕もそれでようやっと安心し、優しく彼女を満たしてやることにした。
「よし、と。ほら、吐き出してうがいして」
「うえー」
泡を吐き出させ、たっぷりの水で口をゆすがせる。
「はー……最初は死ぬかと思ったぜ……」
「ここまで悪化してなきゃもっと楽だったと思うよ。それに僕のしたのは一時的な処置だけだ。早く何とかしないと……」
「……よーく分かった。すぐに永琳のところに行くよ」
どうやら素直に僕の言葉を聞く気になってくれたようだ。
「しかし香霖に歯磨きして貰うのは久々だがやっぱり上手いなー」
「そうかな」
確かに子供の頃の魔理沙の歯を磨いてやったりしたことはあるが。
「気が向いたらまた……してくれよ。へへ」
「まあ、タイミングが合えばね」
「へへっ」
にかっと嬉しそうに笑う。
やはり魔理沙には泣き顔より笑顔のほうが似合っている。
「さーてそうと決まったらさっさと医者に行ってくるかなぁ」
魔理沙は立ち上がって箒を手にとった。
「速度には気をつけるんだぞ。それと衝撃にも要注意だ」
「分かってるよ」
来た時と同じようにそっと入口を開く。
「ん? 霊夢?」
「霊夢?」
見ると確かに霊夢が座っていた。
いつもだったら有無を言わさず中に入ってくるはずなのに。
「あ、うん……こんにちわ」
何故だろう。霊夢が目を合わせてくれない。
「なんだ、どうしたんだ。調子悪いのか?」
「そういうんじゃないんだけど……」
霊夢は頬を両の手で抑えていた。
そしてその頬は紅潮しているようにみえる。
ははぁ。どうやら霊夢も虫歯になってしまったんだろうか。
「なあ、香霖」
魔理沙も同じ事を考えたのか、僕に向かってにやりと邪悪な笑みを浮べている。
「ああ。よかったら霊夢もやるかい?」
どうせ魔理沙のついでだ。霊夢の歯も磨いてやろうじゃないか。
「うええっ?」
「どうした霊夢。恥ずかしいこっちゃないぞ? 私も初めての時はアレだったが……」
「最初は酷かったもんな。触ってもいないのに嫌がって……」
魔理沙の初めての虫歯となると何年前だろうか。
その時はもう一日中ぴーぴー泣いていた気がする。
全く、あの頃からちっとも進歩してないじゃあないか。
「わ、私はその……巫女だし……」
「巫女なんて関係あるか。私だって魔法使いだぜ。まー、死ぬほど痛かったけどさぁ」
「……そうよね。悲鳴が外まで聞こえたもの」
なんだ、聞いていたのか。それならばもっと話が早い。
「ならさっさと中に入ってそこに寝てくれ」
「え、でも、ええっ?」
「大丈夫だって。香霖は上手いからな。ヌルヌルした奴を塗りたくったら痛くなくなって、むしろ気持ちよくなるぜ」
「最後はもっとして欲しそうな顔をしていたくらいだからね」
「そういう事言うなよなー」
魔理沙は苦笑いをしていた。
「で、でも、私、そんな……」
「なんだよ。本当に霊夢らしくないな。どうしたんだ?」
「……」
霊夢は僕と魔理沙を交互に見て、それから覚悟を決めたかのような真剣な表情をした。
「魔理沙はいいのね?」
「構わないぜ?」
「霖之助さんも?」
「僕はいつでも構わないさ」
「そう……」
大きく息を吐き、霊夢は意を決したように僕に告げた。
「それじゃあ……魔理沙と同じ事……して……」
「ああ」
歯磨きが終わった後、僕は何故か無言で霊夢に殴られた。
エロ同人みたいに!!
でもそれが良い作品でした。
これは霊夢ちゃん勘違いしてもしょうがないですね。
むっちゃドキドキした! もう、作者さんのいけず!
あ……素晴らしかったという意味です(汗)
明らかに確信犯だろwwww
おいw
堪能させていただきました
やっぱり歯磨きは大事なんやね!
霊夢も魔理沙も可愛いw
\えろい/
しかし、霖之助が魔理沙の歯を磨くだけとは実に健全な内容ですね、ふぅ…
どうやら違っていたようだ
霊夢さん勘違いしてる割にすごいこと言ってますね
面白かったです。
何もおかしいところなんてアリマセンヨ
まあやったもの勝ちですわな
初心な魔理沙にテクニシャン香霖
何が始まるのかと思ったらナニが始まっていた
霊夢がどんな気持ちで聞いていたのか想像すると笑いが止まりません
楽しく読ませていただきました