幻想郷各地で武器が勝手に動き出す異変。
その中に置いて、天子もまた異変の影響を受けていた。
「おー、動いてる動いてる」
感心したように呟く天子の足元では、緋想の剣が気質を噴き出して、うっすらと緋色の霧を作りながら暴れていた。
天子が下界に降りてくるなり、緋想の剣にこのような症状が表れ始めたのだ。
「異変かしらね、でもなんかパワーアップしてる気がするけど狙いはなんなんだろ。意思はあるの? あったら地面に文字でも書いてみてよ」
しゃがみこんで話しかけてみると、緋想の剣は一瞬動きを止め、再び動き出すと地面にガリガリと文字を書き始めた。
『どーもヒソウのツルギです なんでもいいからバラバラにしたいぞ』
「おー、攻撃的で頼もしいわね」
物騒だと驚いたりしない、このくらいで物騒だと思うような輩はそもそも異変など起こさない。
「愛用の武器と言葉を交わすなんてそうない状況ね。どうよ、私に言いたいこととかある?」
『ユカリさんとの ノウコウなちゅっちゅを ねがいます』
「ブフォッ!?」
だが百合厨なのには驚いた。
「な、なにアホなこと言ってんのよ!?」
『またまた スきでスきでたまらないくせに どうせユカリさんもテンシさんのことスきだろうし とっととコクっちゃえYO!』
「YO! じゃないわよ!?」
軽快な文章で書き綴る緋想の剣を踏みつけて一度止めさせると、腕を組んでこの状況に頭を悩ませ始めた。
「あーもー、どうしようかなこれ。異変を解決するのが一番早いだろうけど、私が動いたらあのババアが人間の領分を奪うなってうるさいだろうしな。霊夢とかが解決するのを待つしかないか」
『ゆかてん! ゆかてん!』
「落ち着け」
結論を出すと、さっきからあらぶりっ放し緋想の剣を持ち上げる。
「他のやつはどうなってるのかな……霊夢ならお祓い棒がそうなってそうね。魔理沙は八卦炉で咲夜はナイフで」
まだ大人しくならない緋想の剣を指で遊んでブラブラさせながら、木漏れ日の下で散歩としゃれこむ。
「衣玖は羽衣でしょ、萃香は分銅かな? それと紫は傘かなぁ」
「待ってー! スキマー!!」
「いやー、スキマはないでしょ……ん?」
不可思議な悲鳴が聞こえてきて、天子は足を止めてそちらへ顔を向けた。
ピョン ピョン ピョン
「待って! スキマ待ってー!!!」
そこにはゴムのように全体を伸縮させることで跳ねて逃げ回るスキマを、必死に走って追いかける紫の姿があった。
「ブッ!? な、なにあれなにあれ!?」
「待って、まっきゃあ!!」
「あっ、転んだ」
何もないところでつまづいた紫が、全身でダイブをしてべったり地面にへばりついた。
「……う、うぅ……うえぇぇぇ…………」
そして聞こえる悲痛の泣き声、これには流石の天子もバカにするどころか「うわぁ……」としか言えない。
「ちょ、ちょっとどうしたのよ紫。しっかりしてよ」
「ぐすっ、天子?」
近寄って声を掛けると、紫がゆっくりと涙と土で汚れた顔を上げた。
「天子! 助けてー!!」
「わわわ!? だからなんなのよ一体!? 紫ってば落ち着いてよ!」
ただならぬ雰囲気で抱き付いた紫だったが、天子の説得で平静を取り戻してきて涙をぬぐった。
「ぐすん……取り乱して悪かったわ」
「あー、うん。それより一体どうしたのよ、こんな紫見るの初めてよ」
「それなんだけれどね、スキマが逃げた」
「は?」
思いがけない発言に天子が茫然と口を開く。
「だからスキマが逃げたのよ! 武器が動き出す異変のせいで、私のスキマが逃げ出したの!!」
「え、えぇぇぇぇぇ……」
スキマとは武器扱いでいいのかとか、そもそも動き出したからと言って逃すのはどうなのかとか色々言いたいことはある。
だがとりあえず自分のライバル(のはずだ)のこんな情けない姿を見ていたくはなかった。
「ウチ帰るわ。じゃあねー」
「待ちなさい!」
「うごっ!?」
背中を見せて帰ろうとする天子の髪を紫がむんずと掴んで、無理矢理その場に引きとめた。
「イッタいわね、やめなさいよ!」
「なんと言われようが手伝ってもらうわ。猫の手でも借りたい状況なの、このままじゃ幻想郷滅亡するから」
「知らないわよ、あんた一人でやっときなさいよ……ってん?」
何故かただごとならぬ単語が聞こえたような気がしたような。
「滅亡? 何が?」
「幻想郷が」
「何で?」
「スキマが逃げたせいで私の能力が消えて、幻と実体の境界が操作できなくなっているから、このままだと大結界がなくなって幻想郷が潰れるわ」
「はああああああ!!!?」
こんなバカみたいな話で幻想郷が滅亡するだなんて信じられないと、天子は声を上げた。
が、こと幻想郷のことに関しては真剣な紫だ、意味もなくこんな嘘を吐くとは思えない。
「ヤバイじゃないのよ!?」
「だから助けを求めてるんじゃない!」
「藍とか橙とかはどうしてるのよ!」
「二人は結界の維持に全力を注いでるわ。二人が持たなくなるまでにスキマを取り戻さなければならないの。猶予はあと三時間と言ったところね」
「が、ガチで幻想郷の危機じゃないのそれ!!」
「だからそう言ってるじゃないの!」
混乱する両者が意味もなく怒鳴り合うが、今はそんなことをしている場合ではない。
「くっ、わかったわよ手を貸すわ! とりあえずどうすればいいの」
「まずスキマを追い詰めてダメージを与えて頂戴。普通の手段じゃ無理だろうけど、あなたの緋想の剣なら十分可能だわ。後は私がやるわ、弱ってしまえばすぐ取り込める」
「ようは見敵必殺ね、でもどこ行ったのよあのスキマ!?」
「ちょっと待って、確かこの辺りは命蓮寺の近くだったわね」
興奮する天子をなだめて、改めて紫は周囲を見渡す。
「そう言えばそうだけど……あんたよく周りを見ただけでわかるわね。ここら辺、木しかないのに」
「幻想郷で私の知らない場所はないのよ。とにかく命蓮寺の方に行った可能性が高いわね」
「何でそんなことわかるの?」
「ま、まぁ私の能力だし」
「そっか、じゃあ行くわよ!」
「待ちなさい」
「ぶべっ!?」
天子は意気揚々と地を蹴り、宙へ飛び上がったところを紫に足を掴まれて墜落した。
さっきの紫のように地面に伏した天子は、痛みをこらえながら起き上がると中指立てて紫に詰め寄る。
「あんた何なのよ邪魔して!?」
「この周辺は木が多いから空から探しても見つかりにくいし、逆に向こうに見つかって逃げられる可能性があるわ。向こうの位置をある程度把握しているなら、地上から捜索するべきよ。それに」
「それに?」
「私、今は能力がないから空飛べないし……」
「今のあんたホントになにもできんのな……」
呆れる天子だが、状況ゆえ仕方なく木々を縫って命蓮寺のある方角へ向かい始めた。
音を立てないようにしながらも、極力急ぎながら歩を進めて行くと、命蓮寺近くに切り立った崖の上にスキマを見つけることが出来た。
「いた!」
「しっ、静かに」
スキマは崖の上から、命蓮寺の方をじっと見つめているようにも思える。
しかしその視線の先は天子たちがいる場所からは目が届かない位置にある。
「何を見てるのかしら」
「さぁ、とにかくこっそり背後から近付いてバックスタブを取ってきなさい」
「オーケィ、この際プライドは抜きよ」
忍び足でスキマの背後――こちら側に向いている面はギョロ目が閉じている――に近づいて行く。
いざ緋想の剣を突き刺そうとする直前、スキマが覗いていたもの、建物の開いた窓から見える光景が天子の目に飛び込んできた。
「あぁん、止めて下さい神子、こんな日の高いうちから……」
「ふふふ、何を言っているんだい聖。君だってもう待ちきれないだろうに」
「他の信徒にバレてしまったら」
「別の誰かのことを考えるなんて、そんな無粋なことはよしておくれ」
「そんな風にされたら、私マジックバタラフライしてしまいます」
「受け止めて、私のオーパーツ……」
思わず頭からずっこけた。
「こんなとこで何やってるのかと思ったら覗きかい!!!」
「きゃあ! 誰ですか覗いているのは!?」
「人の情事を覗き見ようとするとは不届き者め!」
「いやちが、私じゃなくてこいつが」
弁明しようとして時には、スキマは天子の脇を通り抜けて逃げ去っていた。
「魔神復誦!!!」
「十七条のレーザー!!!」
「うわわっ!?」
弾幕を放たれて、天子はすぐさま崖から飛び退いた。
「何をしているの天子。スキマはあっちの方へ逃げたわ」
「あんたはそこで何してたのよ、飛び付いて捕まえるくらいしなさいよ!」
「いや、ずっこけた時にもう少しで天子のスカートの下が見えそうだったから」
「くだらないことやってんじゃないわよ!!」
逃げるスキマを追いかける二人だが、これが以外に早く距離を詰められない。
「クッソ、こんな森の中じゃ飛んで追ったら上から見えないし……」
「天子、もうすぐ森を抜けて平地に出るわよ!」
「おっしゃ、わかった!」
紫の言葉通り、前方を疾走するスキマはいち早く森から出たようだ。
天子は一旦走る足を止めて、緋想の剣を逆手に構えると地面に突き刺した。
「オラァ! そっちは袋小路よ!!」
緋想の剣を伝って天子の能力が大地を奔る。
轟音を立ててスキマの前方と左右、三方向に石柱が隆起して目標を中に閉じ込めた。
さっきまでは木の根が邪魔でできなかったとこだが、森から出てくれたおかげで能力を発揮することが出来た。
「手間かけさせてくれたわね。でもこれで追い詰めたわよ。八つ裂きにしてやるわ」
「天子、あなた言葉使いが荒くなってない?」
「ん? あー、緋想の剣もさっきから変だし、その影響を私も受けてるのかも」
紫に言われて初めて天子は自分の変化に気が付いた。
思い返してみれば、なるほど確かに自分の精神に乱れが生じている。
「まぁ、今はどうでもいいことよ。ともかくまずはこいつを」
『ガ、ガギギ……』
天子は剣を構えて近寄ろうとするが、突如スキマから響いてきた謎の不協和音に警戒して足を止めた。
『ギ……ワ、ワタシハスキマ……』
「うわ、こいつ喋れるの!?」
「大丈夫よ天子。私の元を離れたスキマに、この状況をどうにかする力はないわ」
「う、うん、そうね」
紫から冷静な声を掛けられ、驚いて目を丸くしていた天子はジリジリと距離を詰め始めた。
「いい加減、私のところへ戻ってきなさい」
『断ル……モウ、アナタノ勝手ナ趣味ニ振リ回サレルノハイヤダ……』
「ん? 趣味?」
妙な単語に、再び天子は足を止めてスキマの言葉を待つ。
『暇ニナルタビ、天子ノ私生活ヲ、盗ミ見サセラレルノハ飽キタ……』
「……ほほーう、と言うことらしいですが紫さん?」
「な、なんのことかさっぱりわかりませんわ」
「目ぇ泳いでんぞババア」
呪いを込めた目でにらむ天子は、紫の頬を緋想の剣で撫でる。
『ワタシノチカラハ、モット有意義ナコトニ使ウベキナノダ』
「て、天子! そいつの言葉に耳を傾けてないで早くやって!!」
「どーしよっかなー、天子ちゃんやる気なくなってきちゃったなー」
「天子ー!?」
焦る紫を見て、続きが気になった天子は緋想の剣を揺らして完全に構えを解いてしまう。
紫が急かそうとするも、とうとうスキマは続く言葉を口にしてしまった。
『ソンナ絶壁娘ナドデハナク、幽々子ヤ藍ナドノおっぱいヲ見ルベキナノダ!!! 紅魔館ノ美鈴デモイイゾ! 永琳モ中々ノモノダシ、小町ヤ勇儀、ソレニ神奈子ヤ聖デモイイ! サッキミタイナ情事ガ最高ダガ贅沢ハ言ワン。前ミタイニ豊満ナ女性ノ風呂シーンヲモット見サセ』
「ふんっ」
『ウギャアアアアアアアアア!!!?』
言葉を遮ってスキマのギョロ目に緋想の剣が突き刺さった。
「ちょ、天子やりすぎ……」
『イダダダダダ! マテ! ワタシガ消滅スルトオ前ダッテ困ルノハズ』
「死ね」
『ギャアアアアアアアアアアアアアス!!!』
容赦なく慈悲なく、弱点特攻の緋想の剣がスキマを二度三度と串刺しにする。
あまりに無慈悲な行動に、さしもの紫も冷や汗を流し怯えを見せていた。
『イタイ! イタイヨオオオ!! モウ戻ルカラ勘弁シテクレエエエ』
「あっ、や、やったわ天子!」
緋想の剣に刺さっていたスキマは虚空に消え、その力は持ち主である紫の元へ戻っていった。
「ありがとうね天子、これで幻想郷も滅亡せずに済むわ」
「うん、よかったわね紫。それより、前は他の女のこと覗いてたって本当なの?」
紫の言葉をまるで他人事のように流し、天子は平坦な口調で問いかける。
「そ、そういう時期もあったというか、なんというか……」
「ふーん、そうなんだ」
いつもと様子が違い、目からハイライトが消えてしまった天子に、紫の第六感が危険だと告げていた。
もしかして、異変の影響で精神が変な方向に転んだんじゃ。
「……今度、他のやつ覗いたら殺す」
「ははは、そんな冗談を……」
「約束だからね」
「……わかりましたごめんなさい」
まさかのヤンデレ属性の発現に、紫は乾いた笑みを浮かべて約束を交わすしかなかった。
一方、天子の手にある緋想の剣は、天子病み攻め紫ヘタレ受けという新境地に興奮しっぱなしだった。
その中に置いて、天子もまた異変の影響を受けていた。
「おー、動いてる動いてる」
感心したように呟く天子の足元では、緋想の剣が気質を噴き出して、うっすらと緋色の霧を作りながら暴れていた。
天子が下界に降りてくるなり、緋想の剣にこのような症状が表れ始めたのだ。
「異変かしらね、でもなんかパワーアップしてる気がするけど狙いはなんなんだろ。意思はあるの? あったら地面に文字でも書いてみてよ」
しゃがみこんで話しかけてみると、緋想の剣は一瞬動きを止め、再び動き出すと地面にガリガリと文字を書き始めた。
『どーもヒソウのツルギです なんでもいいからバラバラにしたいぞ』
「おー、攻撃的で頼もしいわね」
物騒だと驚いたりしない、このくらいで物騒だと思うような輩はそもそも異変など起こさない。
「愛用の武器と言葉を交わすなんてそうない状況ね。どうよ、私に言いたいこととかある?」
『ユカリさんとの ノウコウなちゅっちゅを ねがいます』
「ブフォッ!?」
だが百合厨なのには驚いた。
「な、なにアホなこと言ってんのよ!?」
『またまた スきでスきでたまらないくせに どうせユカリさんもテンシさんのことスきだろうし とっととコクっちゃえYO!』
「YO! じゃないわよ!?」
軽快な文章で書き綴る緋想の剣を踏みつけて一度止めさせると、腕を組んでこの状況に頭を悩ませ始めた。
「あーもー、どうしようかなこれ。異変を解決するのが一番早いだろうけど、私が動いたらあのババアが人間の領分を奪うなってうるさいだろうしな。霊夢とかが解決するのを待つしかないか」
『ゆかてん! ゆかてん!』
「落ち着け」
結論を出すと、さっきからあらぶりっ放し緋想の剣を持ち上げる。
「他のやつはどうなってるのかな……霊夢ならお祓い棒がそうなってそうね。魔理沙は八卦炉で咲夜はナイフで」
まだ大人しくならない緋想の剣を指で遊んでブラブラさせながら、木漏れ日の下で散歩としゃれこむ。
「衣玖は羽衣でしょ、萃香は分銅かな? それと紫は傘かなぁ」
「待ってー! スキマー!!」
「いやー、スキマはないでしょ……ん?」
不可思議な悲鳴が聞こえてきて、天子は足を止めてそちらへ顔を向けた。
ピョン ピョン ピョン
「待って! スキマ待ってー!!!」
そこにはゴムのように全体を伸縮させることで跳ねて逃げ回るスキマを、必死に走って追いかける紫の姿があった。
「ブッ!? な、なにあれなにあれ!?」
「待って、まっきゃあ!!」
「あっ、転んだ」
何もないところでつまづいた紫が、全身でダイブをしてべったり地面にへばりついた。
「……う、うぅ……うえぇぇぇ…………」
そして聞こえる悲痛の泣き声、これには流石の天子もバカにするどころか「うわぁ……」としか言えない。
「ちょ、ちょっとどうしたのよ紫。しっかりしてよ」
「ぐすっ、天子?」
近寄って声を掛けると、紫がゆっくりと涙と土で汚れた顔を上げた。
「天子! 助けてー!!」
「わわわ!? だからなんなのよ一体!? 紫ってば落ち着いてよ!」
ただならぬ雰囲気で抱き付いた紫だったが、天子の説得で平静を取り戻してきて涙をぬぐった。
「ぐすん……取り乱して悪かったわ」
「あー、うん。それより一体どうしたのよ、こんな紫見るの初めてよ」
「それなんだけれどね、スキマが逃げた」
「は?」
思いがけない発言に天子が茫然と口を開く。
「だからスキマが逃げたのよ! 武器が動き出す異変のせいで、私のスキマが逃げ出したの!!」
「え、えぇぇぇぇぇ……」
スキマとは武器扱いでいいのかとか、そもそも動き出したからと言って逃すのはどうなのかとか色々言いたいことはある。
だがとりあえず自分のライバル(のはずだ)のこんな情けない姿を見ていたくはなかった。
「ウチ帰るわ。じゃあねー」
「待ちなさい!」
「うごっ!?」
背中を見せて帰ろうとする天子の髪を紫がむんずと掴んで、無理矢理その場に引きとめた。
「イッタいわね、やめなさいよ!」
「なんと言われようが手伝ってもらうわ。猫の手でも借りたい状況なの、このままじゃ幻想郷滅亡するから」
「知らないわよ、あんた一人でやっときなさいよ……ってん?」
何故かただごとならぬ単語が聞こえたような気がしたような。
「滅亡? 何が?」
「幻想郷が」
「何で?」
「スキマが逃げたせいで私の能力が消えて、幻と実体の境界が操作できなくなっているから、このままだと大結界がなくなって幻想郷が潰れるわ」
「はああああああ!!!?」
こんなバカみたいな話で幻想郷が滅亡するだなんて信じられないと、天子は声を上げた。
が、こと幻想郷のことに関しては真剣な紫だ、意味もなくこんな嘘を吐くとは思えない。
「ヤバイじゃないのよ!?」
「だから助けを求めてるんじゃない!」
「藍とか橙とかはどうしてるのよ!」
「二人は結界の維持に全力を注いでるわ。二人が持たなくなるまでにスキマを取り戻さなければならないの。猶予はあと三時間と言ったところね」
「が、ガチで幻想郷の危機じゃないのそれ!!」
「だからそう言ってるじゃないの!」
混乱する両者が意味もなく怒鳴り合うが、今はそんなことをしている場合ではない。
「くっ、わかったわよ手を貸すわ! とりあえずどうすればいいの」
「まずスキマを追い詰めてダメージを与えて頂戴。普通の手段じゃ無理だろうけど、あなたの緋想の剣なら十分可能だわ。後は私がやるわ、弱ってしまえばすぐ取り込める」
「ようは見敵必殺ね、でもどこ行ったのよあのスキマ!?」
「ちょっと待って、確かこの辺りは命蓮寺の近くだったわね」
興奮する天子をなだめて、改めて紫は周囲を見渡す。
「そう言えばそうだけど……あんたよく周りを見ただけでわかるわね。ここら辺、木しかないのに」
「幻想郷で私の知らない場所はないのよ。とにかく命蓮寺の方に行った可能性が高いわね」
「何でそんなことわかるの?」
「ま、まぁ私の能力だし」
「そっか、じゃあ行くわよ!」
「待ちなさい」
「ぶべっ!?」
天子は意気揚々と地を蹴り、宙へ飛び上がったところを紫に足を掴まれて墜落した。
さっきの紫のように地面に伏した天子は、痛みをこらえながら起き上がると中指立てて紫に詰め寄る。
「あんた何なのよ邪魔して!?」
「この周辺は木が多いから空から探しても見つかりにくいし、逆に向こうに見つかって逃げられる可能性があるわ。向こうの位置をある程度把握しているなら、地上から捜索するべきよ。それに」
「それに?」
「私、今は能力がないから空飛べないし……」
「今のあんたホントになにもできんのな……」
呆れる天子だが、状況ゆえ仕方なく木々を縫って命蓮寺のある方角へ向かい始めた。
音を立てないようにしながらも、極力急ぎながら歩を進めて行くと、命蓮寺近くに切り立った崖の上にスキマを見つけることが出来た。
「いた!」
「しっ、静かに」
スキマは崖の上から、命蓮寺の方をじっと見つめているようにも思える。
しかしその視線の先は天子たちがいる場所からは目が届かない位置にある。
「何を見てるのかしら」
「さぁ、とにかくこっそり背後から近付いてバックスタブを取ってきなさい」
「オーケィ、この際プライドは抜きよ」
忍び足でスキマの背後――こちら側に向いている面はギョロ目が閉じている――に近づいて行く。
いざ緋想の剣を突き刺そうとする直前、スキマが覗いていたもの、建物の開いた窓から見える光景が天子の目に飛び込んできた。
「あぁん、止めて下さい神子、こんな日の高いうちから……」
「ふふふ、何を言っているんだい聖。君だってもう待ちきれないだろうに」
「他の信徒にバレてしまったら」
「別の誰かのことを考えるなんて、そんな無粋なことはよしておくれ」
「そんな風にされたら、私マジックバタラフライしてしまいます」
「受け止めて、私のオーパーツ……」
思わず頭からずっこけた。
「こんなとこで何やってるのかと思ったら覗きかい!!!」
「きゃあ! 誰ですか覗いているのは!?」
「人の情事を覗き見ようとするとは不届き者め!」
「いやちが、私じゃなくてこいつが」
弁明しようとして時には、スキマは天子の脇を通り抜けて逃げ去っていた。
「魔神復誦!!!」
「十七条のレーザー!!!」
「うわわっ!?」
弾幕を放たれて、天子はすぐさま崖から飛び退いた。
「何をしているの天子。スキマはあっちの方へ逃げたわ」
「あんたはそこで何してたのよ、飛び付いて捕まえるくらいしなさいよ!」
「いや、ずっこけた時にもう少しで天子のスカートの下が見えそうだったから」
「くだらないことやってんじゃないわよ!!」
逃げるスキマを追いかける二人だが、これが以外に早く距離を詰められない。
「クッソ、こんな森の中じゃ飛んで追ったら上から見えないし……」
「天子、もうすぐ森を抜けて平地に出るわよ!」
「おっしゃ、わかった!」
紫の言葉通り、前方を疾走するスキマはいち早く森から出たようだ。
天子は一旦走る足を止めて、緋想の剣を逆手に構えると地面に突き刺した。
「オラァ! そっちは袋小路よ!!」
緋想の剣を伝って天子の能力が大地を奔る。
轟音を立ててスキマの前方と左右、三方向に石柱が隆起して目標を中に閉じ込めた。
さっきまでは木の根が邪魔でできなかったとこだが、森から出てくれたおかげで能力を発揮することが出来た。
「手間かけさせてくれたわね。でもこれで追い詰めたわよ。八つ裂きにしてやるわ」
「天子、あなた言葉使いが荒くなってない?」
「ん? あー、緋想の剣もさっきから変だし、その影響を私も受けてるのかも」
紫に言われて初めて天子は自分の変化に気が付いた。
思い返してみれば、なるほど確かに自分の精神に乱れが生じている。
「まぁ、今はどうでもいいことよ。ともかくまずはこいつを」
『ガ、ガギギ……』
天子は剣を構えて近寄ろうとするが、突如スキマから響いてきた謎の不協和音に警戒して足を止めた。
『ギ……ワ、ワタシハスキマ……』
「うわ、こいつ喋れるの!?」
「大丈夫よ天子。私の元を離れたスキマに、この状況をどうにかする力はないわ」
「う、うん、そうね」
紫から冷静な声を掛けられ、驚いて目を丸くしていた天子はジリジリと距離を詰め始めた。
「いい加減、私のところへ戻ってきなさい」
『断ル……モウ、アナタノ勝手ナ趣味ニ振リ回サレルノハイヤダ……』
「ん? 趣味?」
妙な単語に、再び天子は足を止めてスキマの言葉を待つ。
『暇ニナルタビ、天子ノ私生活ヲ、盗ミ見サセラレルノハ飽キタ……』
「……ほほーう、と言うことらしいですが紫さん?」
「な、なんのことかさっぱりわかりませんわ」
「目ぇ泳いでんぞババア」
呪いを込めた目でにらむ天子は、紫の頬を緋想の剣で撫でる。
『ワタシノチカラハ、モット有意義ナコトニ使ウベキナノダ』
「て、天子! そいつの言葉に耳を傾けてないで早くやって!!」
「どーしよっかなー、天子ちゃんやる気なくなってきちゃったなー」
「天子ー!?」
焦る紫を見て、続きが気になった天子は緋想の剣を揺らして完全に構えを解いてしまう。
紫が急かそうとするも、とうとうスキマは続く言葉を口にしてしまった。
『ソンナ絶壁娘ナドデハナク、幽々子ヤ藍ナドノおっぱいヲ見ルベキナノダ!!! 紅魔館ノ美鈴デモイイゾ! 永琳モ中々ノモノダシ、小町ヤ勇儀、ソレニ神奈子ヤ聖デモイイ! サッキミタイナ情事ガ最高ダガ贅沢ハ言ワン。前ミタイニ豊満ナ女性ノ風呂シーンヲモット見サセ』
「ふんっ」
『ウギャアアアアアアアアア!!!?』
言葉を遮ってスキマのギョロ目に緋想の剣が突き刺さった。
「ちょ、天子やりすぎ……」
『イダダダダダ! マテ! ワタシガ消滅スルトオ前ダッテ困ルノハズ』
「死ね」
『ギャアアアアアアアアアアアアアス!!!』
容赦なく慈悲なく、弱点特攻の緋想の剣がスキマを二度三度と串刺しにする。
あまりに無慈悲な行動に、さしもの紫も冷や汗を流し怯えを見せていた。
『イタイ! イタイヨオオオ!! モウ戻ルカラ勘弁シテクレエエエ』
「あっ、や、やったわ天子!」
緋想の剣に刺さっていたスキマは虚空に消え、その力は持ち主である紫の元へ戻っていった。
「ありがとうね天子、これで幻想郷も滅亡せずに済むわ」
「うん、よかったわね紫。それより、前は他の女のこと覗いてたって本当なの?」
紫の言葉をまるで他人事のように流し、天子は平坦な口調で問いかける。
「そ、そういう時期もあったというか、なんというか……」
「ふーん、そうなんだ」
いつもと様子が違い、目からハイライトが消えてしまった天子に、紫の第六感が危険だと告げていた。
もしかして、異変の影響で精神が変な方向に転んだんじゃ。
「……今度、他のやつ覗いたら殺す」
「ははは、そんな冗談を……」
「約束だからね」
「……わかりましたごめんなさい」
まさかのヤンデレ属性の発現に、紫は乾いた笑みを浮かべて約束を交わすしかなかった。
一方、天子の手にある緋想の剣は、天子病み攻め紫ヘタレ受けという新境地に興奮しっぱなしだった。
ごちそうさまでした。
あと暴走した武器が煩悩吐き出しすぎワロタw
緋想の剣には声を出して笑ってしまいましたww
電動ドリルさんのおかげでゆかてん(というか紫)に目覚めましたww
無能ゆかりんがかわいすぎてヤバイ
ヤンデレてんこが色々とヤバイ
ヤンデレゆかてんも良い……かな?
しかしヤンデレ天子とはなかなか。次の作品はこれで!
しかもヤンデレのおまけ付きときた
たまりませんな
ヤンデレとは言わないが天子はMというよりSだと思う派です。
漫画映えしそうな作品ですね
個人的に天子のデレに違和感があったのでこの点数で
でもゆかてんはいいものです