Coolier - 新生・東方創想話

プリン密葬法

2013/07/14 14:10:50
最終更新
サイズ
9.01KB
ページ数
1
閲覧数
2312
評価数
7/20
POINT
1090
Rate
10.62

分類タグ

その満月の日、事件は起きた。


ここは永遠亭の一室、台所である。そこの冷蔵庫に保管されていた、最高級プリンが、安物にすり替えられていたのである。

「永琳、私じゃないよ。いくらプリン好きとはいえ。」
と輝夜が言う。
「師匠、私じゃありませんよ。」
と鈴仙も言う。
「何の話ウサ。私は関係ないウサ。」
とてゐが言う。
「あらあら。」
と紫が微笑む。

さあ、犯人は誰なのだろうか。





ここに至る経緯を説明しよう。
私、八意永琳は、弟子である綿月姉妹に、地上からプレゼントを贈ろうと思っていた。
不浄である地上のもの。
その魅力を少しでも伝えられるかもしれないと思ったのだ。

そのプレゼントに、永琳は厳選した素材で作るプリンを選んだ。

ではなぜプリンなのか。
実は特にこれといった理由がある訳ではなく、輝夜がプリンに凝っていたからそうしただけである。
最近では
「まろもプリン食べたいでおじゃる」
とかよく分からない語尾までつけ始める始末であった。



まぁ、そういうわけで、幻想郷の名だたる食材を集めて、プリンを作り始めた。
実に豪華な食材で、全部売れば家が建つ程貴重なものばかりであった。

そして最後に、その上にトッピングをかけることにした。
一つは蓬莱の玉の枝の実、もう一つは外の世界のものだった。

穢れによって咲く優曇華と、穢れ満載の外界のトッピング。

これこそ地上の持つ味であり、その味がおいしいというのを伝えたかったのだ。


そこで、そのトッピングを紫にとって来てもらうことにした。
紫が、報酬はプリンでどうだというので、普段うちで食べているものでよければと言って頼んだところ、
「ケチねぇ。」
と言ってにやにや笑いながら承諾してくれた。ウザい。



そして昨日、台所で、明日来る紫用のプリンを作り終えた鈴仙にも手伝ってもらい、最高級プリンを作り始めた。
途中で例のごとく表がドンパチ騒がしくなったので、鈴仙に作成を任せて、妹紅を追い出しに行った。
消火作業を終えた後、台所に戻ろうとすると、鈴仙が自分を呼びに来ていた。
ちょうどカラメルをかけ終わったようだった。
台所に戻ってみると、出来上がったプリンがおいてあった。
それを冷蔵庫にしまい、鍵をかけて、その日は寝ることにした。

今日、紫がトッピングを持ってきてくれるので、それをかけて完成のはずだったのだ。



しかし、冷蔵庫を開けてみると、そこにあったのはふつーのプリンである。一目瞭然だ。
一口食べてみたが、やはりふつーのプリンだ。



で、輝夜、鈴仙、てゐ、届けに来た紫を居間に集めて今に至るわけである。



「紫、あなたじゃないの?」

ふいに輝夜が尋ねる。

「どうして私だと思うの?」

実にわざとらしい言い方だった。

「胡散臭いから。」

と輝夜は即答した。

「あらあら、可憐な少女に失礼だこと。」

「どこが可憐なのよ…」


輝夜の呆れるような顔には、さすがの紫も傷ついたらしく、拗ねたように尋ね返した。

「大体私には犯行不可能じゃない。ご丁寧に結界まではっていただいて。あんたこそ、
 ついガマンできずに食べちゃったんじゃないの。」

「そ、そんなわけないじゃない。だいたい私だったら永琳にプリン食べたいって普通に頼むわ。」


そうなのである。
実は、冷蔵庫と台所にはある仕掛けがあった。

まず、永遠亭の冷蔵庫には二段ある。輝夜永琳用が上、下がてゐ鈴仙用である。そしてその上の段には
ロックがかけてあり(てゐ対策)、これは永琳か輝夜だけが開けられるものだった。
月の技術の一端を使用しているので、これは紫にも開けられないだろう。
その中にプリンは入れてあったのだ。

もう一つは、台所に張った結界である。
これは入口の戸を通らずに台所から物を出すことができないようにしたものだ。
今回紫を怪しんだ永琳が、一昨日即席でつけたのだ。
窓はもちろん、スキマから持ち出すことも不可能である。
そして、昨日の夜プリンをしまってから、台所に入ったというのはてゐのみだった。
しかもそのてゐは最高級プリンの存在を知らず、自分のプリンを取りに来ただけであったらしい。
冷蔵庫を開けられる輝夜は昨晩台所へ行っていないという。


そう、つまりこれは密室事件とも言えるのだ。


「姫様、本当に食べてないのですか?」

私はもう一度尋ねた。
最新の月の設備が破られたとは思えない。

「食べてないわよ。私は昨日妹紅と戦ってたでしょ。ていうか食べたとしてもすりかえないわよ。」

「じゃあてゐは? 姫様に開けてもらってから取り出したとか?」

「そんなことしてないウサ。ていうかそれにしたって姫様が台所に入る必要があるウサ。」

そうなのだが… 他に考えられないしなぁ。
あの鍵を破る方法はあるのだろうか。
紫には無理だしなぁ。




そんな感じで思考が行き詰っていたとき
紫が突如として口を開いた。

「永琳、昨日はあなた一人でプリンを作ったの?」

「いえ、私も一緒に作りましたよ。ちょうど自分たち用のプリンも作っていたので。」

鈴仙が横から答える。

「へぇ、じゃあ永琳、その偽物プリン見せてみて?」

「いいけど。」


すると、紫はそれを受けとって、じっと見つめた。

「なるほど納得。これ鈴仙が自分用に作ったやつよ。」

「ふぇ!?」

「だってほら、これ昨日作ったばっかりみたいな感じよ。ほら。」

みると確かにそのようである。
鈴仙はみるみる青くなった。

「ど、どうして…」

「おおかた永琳が途中でいなくなったんじゃないの?
 で、カラメルをかけ終えてから、永琳が来る前に自分のプリンとすり替えたっていうことでしょう。」

「鈴仙……… あなたなの?」

鈴仙はさらに青くなっていく。

「そ、そんなことしてませんよ! ていうか昨日作った紫さんの分も冷蔵庫にしまってあります!
 すり替えてなんかいませんよ!」

「どうせ後から作ったか、もともと持ってたやつでしょ。いい加減認めなさい、鈴仙。犯人はあなたよ。」

紫はご満悦そうに扇子で鈴仙を指す。

「なるほどね、しまう前にすり替えたと…
 なんでこんな簡単なことに気づかなかったのかしら。
 鈴仙には後でお仕置きが必要ね。」

「ひぃっ!?」

そう言って私が鈴仙に優しく微笑んでいると、
鈴仙の顔は青を通りこして紫色になっていった。

「鈴仙、正直見損なったわ。ばれたら正直に言いなさい。
 こっそり食べただけならまだしも。
 紫用のはあるって言ったわよね、とってきなさい。」

「でも、本当に食べてないんですよぅ。」

鈴仙はもう涙目である。


「ごめんなさいねぇ、紫。騒がしくて。」

「いいのよ。面白かったし。」


「持ってきました。」

鈴仙がちゃんとあるとばかりにプリンを持ってきた。



しかし、さすがにおかしい。

ここまで来て白状しないというのは鈴仙にはありえない。
っていうことは犯人じゃないのではないか。

なにかが変だ。

見落としがあると月の頭脳の勘が言っている。

どこか胡散臭い所はなかっただろうか…






あった。


というか、いた。

おもいっきり胡散臭いのが。

目の前でこれ見よがしにプリンを食おうとしているのが。



そうか。


そういうことか。



だとすれば、あの目の優越感に説明がつく。
それにあの発言…


ああ、こりゃ黒だわ。
うん。



待てよ、ということはあのプリンは……







「まって!」

そう言ったのと、紫が一口目を食べたのが同時だった。

紫は不自然なほど驚いていたが、
すぐに言った。


「うん、おいしい。 どうしたの、永琳?」

「紫、 真犯人はあなたね?」

「………」



さあどう出る、と考えていたところ、なんと紫はやけくそだと言わんばかりにどんどんプリンを食べ始めた。
そしてあっという間に完食。
もったいない。 もっと味わって食えよ。


丁寧にハンカチで口を拭いてから、紫は尋ねた。

「なぜ、そう思うの?」

「まず最初に怪しんだのは、ご丁寧に結界まではっちゃって、のところかな。
 確認しましたって言わんばかりだもの。」

「あ~。」


「まあ未遂に終わったんだろうと思ってたけどね。
 でも鈴仙がここまで意地を張るなら彼女は犯人じゃないだろうと思ったのよ。
 だけど、すり替えたプリンが鈴仙のものなのは間違いない。ならば鈴仙以外の誰かがすり替えたはず。
 そこで分かったのよ。」

私は苦々しげな顔をする紫に顔を近づけて言った。

「スキマを使って持ち出ししなくても『中にあるものをその中で動かす』ならOKだものね?
 あなたは鈴仙が私を呼びに行っている間にすり替えたわけだ。スキマから手だけ出して。
 それで指紋さえつけなきゃ証拠もないしね。
 そして後から私たちが自らあなたにプリンを渡す。 
 うん。 ものすごい優越感に浸れるでしょうね。」

しかし紫は不思議そうな顔をした。

「あれぇ?それでも私がすり替えたかどうかわからないじゃない。てゐかもしれないし。
 で、横取りするつもりだったのかも。」

私はここで満面の笑みを浮かべた。

「あなたも少しぼけてるみたいね。
 あなた言ったのよ、カラメルかけ終えてからって。それって、見てなきゃ分からないでしょ。」

紫は少し震えると、笑い出した。

「…ふふっ、ははは! 確かに! 我ながらバカみたいだわ! 本当に!
 だめだわ今日は。 失敗ばっかり。」

疲れたようにため息を吐く紫。

「いや、惜しかったわよ。」

そういうと紫は苦笑していた。
私も愛想笑いしていたが、紫が食べ終えたところで表情を変えた。

「さて、覚悟はできてる?」

「ええ。逃げも隠れもしないわ。」

「じゃあ罰として…」


何にしようか。並大抵のことでは懲りないだろうし。


…そうだ。
  
「うちに貯めてあるプリンをあと100個食べてもらおうかしら。今日中に。」


紫の顔が硬直した。


「…はぁ!? 何でそんなにあるのよ!?」

「姫様がはまってるからね。
 ほら、蓬莱人のブームって数十年周期だから。
 姫様の能力使って1000個ほど保存してあるのよ。鈴仙なんかが自作に挑戦してて一向に減らないし。」

「んなアホな………」

スキマ妖怪は珍しく恐怖に震えていた。








紫はその後プリンが苦手になったそうな。
 





で、






その一方、
席の向こうで紫が「もうムリもうムリ」と念仏のように言う中、
てゐは必死に笑いをこらえていた。


「どうしたの? てゐ。」

「フフッ、なんでもないウサ。ちょっと外の空気吸ってくるウサ。」





いやあ、鈴仙用冷蔵庫にプリンが入ってたから、
茶碗蒸しにカラメルかけたのとすりかえてみたんだが、
まさかあんな大物がかかるなんてなぁ。

しかも大物のプライドが邪魔して真犯人を言えないときた。
こりゃ傑作だね。


そんなことを考えながら、てゐは縁側で月見をしていた。
最高級プリンを食べながら。


どうも。星鍛冶鴉です。
2作目でしたが、いかがだったでしょうか。
今回は推理小説を目指してみました。
ちょいと無茶苦茶かもしれませんがお許しを。
伏線って敷くの難しいですね。

もともと書く予定だった妹紅のストーリーは少し後になりそうです。

アドバイスや訂正したほうが良い箇所があればコメントお願いします。
星鍛冶鴉
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.520簡易評価
4.80名前が無い程度の能力削除
まずメンツを確認して即座に「こりゃ紫が犯人だな」と思ってしまった私は心が醜いのでしょうか
まー別の人だったけど

それとアドバイスと言うかいち個人としての見解で感想を言わせて頂くと、
「ちょっと改行多すぎて見るのにストレスがかかる」
と言う点が少し
投稿してる身であればわかると思うんですけど、一回の改行でも結構隙間が空くんですよね
よほどの理由が無い限り、改行を多用するのは避けた方がいいかな、と
5.80名前が無い程度の能力削除
なかなか面白かったです
7.80奇声を発する程度の能力削除
面白味のあるお話でした
8.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
10.80名前が無い程度の能力削除
永遠亭ならではですな
12.無評価星鍛冶鴉削除
コメントありがとうございます!

>>4
読みやすいようこまめに改行してたら
かえって読みづらくなってしまったみたいです。
次回からもう少しまとめてみます。
ありがとうございました。
16.80名前が無い程度の能力削除
面白かったです
17.703削除
ちょっと盛り上がりが足りなかったかなという印象。