夜空の下に建っている館――紅魔館。
今現在は私の能力で夜空になっているわけではなく、昼の時間が過ぎた後に訪れる正真正銘の夜。妖怪の時間。
「なんなんだお前は」
食卓の白い長テーブルで、彼女と私は数メートルの距離を挟んで夕食を共にしていた。前に霊夢の家で御馳走になった際にまるで箸を使えなかった私に配慮してか、フォーク一本で食べられるステーキを用意してくれたのは嬉しい。……何の肉かは、あえて聞かない事にする。
「咲夜にパチェに美鈴と来て、次は私の元に現れた。しかもこんな夕食時に。一体何の用があって、ただの一妖怪でしかないお前が私と夕食を共にする権利があるというのだ」
「別に大した用があるわけではないわ。でも私はどこかの魔法使いと違って、門番に館の中に入ることを許され、魔女の部屋に入っても追い出されることなく、あなたの後ろにいるメイドから夕食をご馳走になる許可をちゃんと得たわ」
私の言葉を聞いて、吸血鬼――レミリア・スカーレットは、自席の後ろで立っているメイドの方に顔を向けた。彼女がどんな表情をしているのか私の方からは分からなかったけど、メイドは申し訳なさそうに目を逸らしていた。
「まぁいい。で、お前は何について私と話したいというの」
特に何かあるわけではない。だから、この問いは今作った。
「どうしてあなたは、そのメイドを雇っているの?」
意味がわからない、と言いたげな表情で吸血鬼は私を睨みつける。メイドもやや目を丸くしていた。
「ごめんなさい、もう少し詳しく言うわ。どうして吸血鬼であるあなたは、人間である彼女をメイドとして、しかも側近として置いているの?」
説明した私の問いが自身にとって当たり障りのないものだったのか、吸血鬼は笑みを浮かべ、ナイフとフォークを置いて肘を付いた。
「簡単な事ね。咲夜に私をいつでも殺す機会を与えてるのよ」
「……詳しく聞かせてもらえるかしら」
「まぁ待て」
言って、吸血鬼は右手を低く上げる。それは合図であったようで、メイドは数歩先にある丸テーブルに置かれていた瓶を手に取り、こちらに持ってきた。
それは酒だった。夕食が始まっても常時空だった吸血鬼のグラスに赤い酒が注がれる。私はお酒に詳しくないから見た感じでしかものを言えないけれど、私のグラスに注がれたそれは、葡萄と言うよりは血に近い色をしていた。
「子供には少し強いかもしれないわね。しかし、私が注がせた酒も飲めないような奴と話をする気はない」
ケラケラと笑って、吸血鬼はグラスを手に取る。二口分はありそうな酒を一気に飲み干していた。
そういうことなら仕方がないので、私も紅い酒を口に含む。霊夢の所で飲んだような酒とは全く違う。なんというか、上品な苦さ、と言えばいいのかしら。一瞬だけ不味いと思った瞬間、濃い香りと味が私の喉と鼻を覆った。
「飲んだならそれでいいわ。話を続けましょう」
吸血鬼は肉を飲み込んで、話を再会する。
「こう見えても、咲夜は私に仕えるようになった初め、全く私に懐いていなかった。どころか、隙あらば私の命を狙うほどだったわ。あまりに言うことを聞かないものだから、殺して別の奴をメイドにしようかとも考えたけど、これはこれで悪くはないと私は思った。長年生きて、ここの妖怪共と戦争をしたことはあったけど、私との力の差を理解していながら私の命を狙った最初の人間は、咲夜が初めてだった」
吸血鬼は嬉しそうに言葉を綴り続ける。
「不思議と、殺すのは惜しいと思ったわ。この娘には私にとって必要な何かがある。そう思って、私は咲夜を側近として雇い続けているのよ。そう考えると、私の命を狙わせている、というさっき言った言葉も、私の表面上の人格がそう言っているだけで、本心は何を思っているのかしらね」
まぁ、あなたに分かるわけもないか。と言って吸血鬼は笑い、既に注がれていた二杯目の紅い酒を一口で飲み干した。
確かにそんな事、私に分かるわけもない。他人が他人を理解する事なんてできない。自分でさえ半分分かれば十分だと誰かが言っていた。
まぁ、それにしても――
「あなたほどプライドが高かったら、てっきり人間は毛嫌いしているものだと思ったけど」
今現在は私の能力で夜空になっているわけではなく、昼の時間が過ぎた後に訪れる正真正銘の夜。妖怪の時間。
「なんなんだお前は」
食卓の白い長テーブルで、彼女と私は数メートルの距離を挟んで夕食を共にしていた。前に霊夢の家で御馳走になった際にまるで箸を使えなかった私に配慮してか、フォーク一本で食べられるステーキを用意してくれたのは嬉しい。……何の肉かは、あえて聞かない事にする。
「咲夜にパチェに美鈴と来て、次は私の元に現れた。しかもこんな夕食時に。一体何の用があって、ただの一妖怪でしかないお前が私と夕食を共にする権利があるというのだ」
「別に大した用があるわけではないわ。でも私はどこかの魔法使いと違って、門番に館の中に入ることを許され、魔女の部屋に入っても追い出されることなく、あなたの後ろにいるメイドから夕食をご馳走になる許可をちゃんと得たわ」
私の言葉を聞いて、吸血鬼――レミリア・スカーレットは、自席の後ろで立っているメイドの方に顔を向けた。彼女がどんな表情をしているのか私の方からは分からなかったけど、メイドは申し訳なさそうに目を逸らしていた。
「まぁいい。で、お前は何について私と話したいというの」
特に何かあるわけではない。だから、この問いは今作った。
「どうしてあなたは、そのメイドを雇っているの?」
意味がわからない、と言いたげな表情で吸血鬼は私を睨みつける。メイドもやや目を丸くしていた。
「ごめんなさい、もう少し詳しく言うわ。どうして吸血鬼であるあなたは、人間である彼女をメイドとして、しかも側近として置いているの?」
説明した私の問いが自身にとって当たり障りのないものだったのか、吸血鬼は笑みを浮かべ、ナイフとフォークを置いて肘を付いた。
「簡単な事ね。咲夜に私をいつでも殺す機会を与えてるのよ」
「……詳しく聞かせてもらえるかしら」
「まぁ待て」
言って、吸血鬼は右手を低く上げる。それは合図であったようで、メイドは数歩先にある丸テーブルに置かれていた瓶を手に取り、こちらに持ってきた。
それは酒だった。夕食が始まっても常時空だった吸血鬼のグラスに赤い酒が注がれる。私はお酒に詳しくないから見た感じでしかものを言えないけれど、私のグラスに注がれたそれは、葡萄と言うよりは血に近い色をしていた。
「子供には少し強いかもしれないわね。しかし、私が注がせた酒も飲めないような奴と話をする気はない」
ケラケラと笑って、吸血鬼はグラスを手に取る。二口分はありそうな酒を一気に飲み干していた。
そういうことなら仕方がないので、私も紅い酒を口に含む。霊夢の所で飲んだような酒とは全く違う。なんというか、上品な苦さ、と言えばいいのかしら。一瞬だけ不味いと思った瞬間、濃い香りと味が私の喉と鼻を覆った。
「飲んだならそれでいいわ。話を続けましょう」
吸血鬼は肉を飲み込んで、話を再会する。
「こう見えても、咲夜は私に仕えるようになった初め、全く私に懐いていなかった。どころか、隙あらば私の命を狙うほどだったわ。あまりに言うことを聞かないものだから、殺して別の奴をメイドにしようかとも考えたけど、これはこれで悪くはないと私は思った。長年生きて、ここの妖怪共と戦争をしたことはあったけど、私との力の差を理解していながら私の命を狙った最初の人間は、咲夜が初めてだった」
吸血鬼は嬉しそうに言葉を綴り続ける。
「不思議と、殺すのは惜しいと思ったわ。この娘には私にとって必要な何かがある。そう思って、私は咲夜を側近として雇い続けているのよ。そう考えると、私の命を狙わせている、というさっき言った言葉も、私の表面上の人格がそう言っているだけで、本心は何を思っているのかしらね」
まぁ、あなたに分かるわけもないか。と言って吸血鬼は笑い、既に注がれていた二杯目の紅い酒を一口で飲み干した。
確かにそんな事、私に分かるわけもない。他人が他人を理解する事なんてできない。自分でさえ半分分かれば十分だと誰かが言っていた。
まぁ、それにしても――
「あなたほどプライドが高かったら、てっきり人間は毛嫌いしているものだと思ったけど」