真ん丸の青白い月が空に浮かぶその日、私は彼女と出会った。
湖畔にある一際大きな木の天辺の枝に腰掛けて月を眺める彼女の姿に、近くの茂みに身を隠していた私は思わず目を奪われた。
儚げな、今にも消えてしまいそうな空気を纏った彼女から目を離せずにいながら、感嘆の息が漏れる。
視線を外すことを許さない魅力を彼女は持っていた。
ふと気が付くと、紅い瞳がこちらへと向けられている。
「そこにいるのは誰かしら?」
凛とした良く通る声が耳に届く。
大きく翼を広げ、音も無く地に降り立った姿に私は少女が紅魔湖と呼ばれるこの湖の畔に建つ館の主だと、今更ながら気が付いた。
血の気が引く思いとはこの事か、と震える身体を必死に抑える。
今の私は端から見れば真っ青な顔をしていることだろう。
「覗き見なんて無粋な真似をする者にはお仕置きが必要かしら?」
何時までも出て来ない私に痺れを切らしたのか、殺気を伴った彼女の右手に深紅に染まった槍が現出する。
「ま、待ってください!」
意を決して慌てて茂みから姿を晒し、私は両手を上げた。
「勝手に覗き見ていたのは謝ります。ごめんなさい、悪気は無かったんです」
深々と頭を下げる。
よもや、これまでかと今までの妖精生を振り返る。
けれど、そんな私に放たれたのは深紅の槍ではなく、思ってもみなかった言葉だった。
「……ねえ、あなた名前は?」
「え? え、あ、大妖精です」
「そう。それじゃ大妖精、あなた、私の所でメイドをする気はないかしら?」
「はえ?」
唐突なその申し出に付いていけず、私は首を捻ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
紅魔館のメイド達は常に娯楽に飢えている。
決して娯楽が少ないわけではないけれど、この紅魔館のメイド達にとって娯楽の有無は死活問題だ。基本的に妖精は遊び好きだし。そんな妖精が多数を占めるメイド達にとって、噂話は楽しいことを見つけるための情報源となっている。
「レミリアお嬢様のお相手?」
目玉焼きに白パン、更にはソーセージまで付くという、湖の側で暮らしていた頃と比べると遙かに豪華な朝食を口に運びつつ首を捻る私に、同僚の彼女は瞳を輝かせて頷いた。
今私達のいるメイド用の食堂は採光の工夫された明るい石造りの部屋で、紅魔館内の部屋と比べてしまえばそれほど広くはないが、それでも私達妖精達が十にん以上座っても余裕をもって食事が出来る程度の広さがある。
その食堂の壁際に寄って対面に座る私に顔を寄せると、彼女は周囲に視線を向けて声を潜める。
周囲のメイド達はそれぞれにグループを作ってそれぞれの話題に花を咲かせていて、私達には見向きもしていない。
そして彼女は、自身の朝食はそっちのけで鼻息荒く話を始めた。
彼女の話をまとめてみれば、どうやらレミリアお嬢様は三ヶ月ほど前から私達メイドの住む寮棟へと足を運んでいるという。そんなお嬢様の様子を偶々見かけたメイド達が言うには、何処か浮かれた様に見えたのだとか。
そうして目の前の同僚が導き出した答えが、お嬢様が紅魔館で働くメイドの誰かに懸想しているというものだった。
「大ちゃんはどう思う? 私はメイド長が怪しいと睨んでいるんだけど」
「どう思うも何も、私はそんな話初めて聞いたよ。それに、お嬢様がメイドの誰かに恋しているだなんて話もただの憶測でしょう」
お嬢様が恋。
それもメイドの誰かにだなんて、あるはずがない。
「いいや、間違いないわね。私も寮棟内を歩くお嬢様のお姿を見かけたことはあるけど、あの眼は恋煩いね。お相手が誰か確認しようと後を追いかけたんだけど、あっさり撒かれたわ」
自信満々に言う彼女に呆れて息を漏らす。
「とにかく、私からは何も言えることは無いよ。それに、お嬢様のお相手なんて私達が面白半分に詮索していいことでも無いでしょう」
「大ちゃん、つれない」
不満そうな視線にを向けられるが、それ以上は何も言わず朝食を食べ切った私に、彼女も思い出したかのように慌てて自身の朝食を口に詰め込むのだった。
食堂に置かれた置き時計は、もうじき朝のお仕事を始める時間を指そうとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
本の塔が廊下を動いていた。
その周囲のメイド達の反応は、珍しいものを見たという表情と良いものを見ることを出来たという表情が大半だった。
私は手にしていた掃除用具を一旦脇に置くと、怪現象の元へと歩み寄る。
この紅魔館には、大図書館の主であるパチュリー様と並ぶ遭遇レア度の高い方がおられます。
曰く、その姿を最初に見た者はその日一日幸福が訪れるのだとか。『あの方にお会いしたら胸が大きくなりました』『あの方に声を掛けていただいたら彼女が出来ました』等々、彼女と出会ったメイド達に訪れた幸福は探せば簡単に聞くことが出来るくらいには多い。
「少しお持ちしましょうか?」
「ん、誰? って大ちゃんか。じゃあ、ちょっと持ってもらっていいかな。パチュリーの所から本を借りてきたんだけど、量が多くなっちゃって」
私の言葉に本の脇から覗くようにしてこちらを見るのはフランドールお嬢様。
自身の身長の優に三倍の高さにまで積み上がった本を抱えて、それでも崩すこと無く悠々歩くその力は流石と言うべきか、そうなる前に誰かを呼んでください、と叱るべきか。
頭を悩ませつつも、その場で飛び上がり私よりも頭半分程小さな背丈の彼女が抱えている塔から数冊を手に取る。その際にちらりと『今から始める花嫁修業~~入門編~~』とタイトルが見え、やっぱりフランドールお嬢様もそういうものに憧れる女の子なのだとひとり内心頷いてから、見なかったことにして本を抱え上げる。
高さにしてお腹の辺りから丁度顎の下まで。抱え上げるには私の力ではそれが限界だった。これ以上は重さに負けて本から手が離れてしまうのだ。
「どちらまでお運び致しますか?」
「私の部屋までお願い」
私の問いかけに、フランドールお嬢様は一度こちらに視線を向けると苦笑してから先を歩く私の後ろをゆっくりと、しっかりした足取りで付いて来るのだった。
少しだけ低くなった本の塔が再び移動を開始した。
「ありがとう、助かったわ」
「はい、では私はこれで」
「ちょっと待って、そんな急がなくても紅茶くらい飲んでいったら?」
本を無事フランドールお嬢様の私室まで運び込むと、直ぐに仕事に戻ろうと踵を返した私を彼女は呼び止める。
「い、いえ、そういうわけには」
私はただのメイドだ。そんな私が仕えるべき方と一緒に紅茶を飲むなんて出来るはずもない。
「私が構わないって言ってるんだから、気にしなくていいの。咲夜には私から話しておくから心配しなくても良いわ」
そう言うと、お嬢様は私の返事も聞かず手ずから紅茶の準備を始める。
「紅茶くらい私がご用意します!」
「いいのいいの、私がしたいんだから。大ちゃんは椅子に座っていて。咲夜には劣るけど、私の紅茶の味もなかなかのものだと思うわよ」
慌てて近づく私を押し留めて、彼女は部屋の壁際に備え付けられたキッチンに向かう。
そうしてあっという間に用意を済ませてしまう。メイド長に鍛えられたとはいえ、未だに手間取ることのある私からすれば理想に近い姿だ。
「血液は何型が良い?」
「……お砂糖をスプーン一杯でお願いします」
訂正。そうでもありませんでした。良い顔で棚から血液の入った小瓶を取り出すのはやめてください。
フランドールお嬢様は私の分の紅茶を差し出すと、対面の席に腰を下ろして一滴血液を垂らした紅茶にティースプーンで円を描いている。
私の紅茶にはちゃんとお砂糖が入っていました。
鼻腔をくすぐるジャスミンの香りを楽しみながら紅茶に口を付けていると、フランドールお嬢様の視線が私に向けられる。
「そういえば、大ちゃんはどうしてこの紅魔館に来たの?」
「それはレミリアお嬢様から直接お誘いを受けまして」
「うん、その辺りの経緯はお姉様から聞いたわ。だから私は、あなたがここに来ることを決めた理由を知りたいの」
その瞳は好奇心から来るものか、或いはそれ以外の意図があるのか、私には真意を推し量ることは出来なかった。
少しだけ考えに耽る。強大な妖怪の誘いを断るなんて事は、一介の妖精である私には断る事なんて出来なかった。それこそ、断ってしまえば私の命はあの時、永劫に尽きていただろう。だから、私はレミリアお嬢様のお誘いを受けるしか選択肢は無かった。
そう、当時の私であれば考えただろう。
けれど、今は違う。
『嫌ならば今この場で断ってもらっても構わない』
あの時、レミリアお嬢様はそう言葉を続けた。少しだけ寂しそうな顔をしながら。
何故かあの表情は、褪せることなく私の記憶に留まっている。それから、その後の嬉しそうな表情も。
「――レミリアお嬢様の色々な表情を見てみたかったから、でしょうか? ですが、お嬢様が何故私を雇おうなどと思ったのか、その理由は未だに分かりません。いったい何故なのでしょう」
「うん、ごめん。私が悪かったわ」
そう言うとフランドールお嬢様は予想以上に甘いものを食べ過ぎた時の様な顔をすると、紅茶を一気に口内に流し込む。
そんな彼女の様子に私はただ首を捻るばかりだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
私とレミリアお嬢様は、メイドと主。
ただそれだけの関係でしかない。
コツンコツンと扉が叩かれる音がする。
この紅魔館では珍しく質素な造りの木製の扉を開く。
「入っても良いかしら?」
扉の先に立っていたのは私の雇い主であり、この紅魔館の当主様。
「どうぞ、お嬢様」
小さな主を部屋へと招き入れる。
簡素なテーブルと椅子と小さな棚が一つ。
「ここでは、畏まる必要は無いわよ」
「そういうわけには参りません」
日傘を畳んで室内へと足を踏み入れた彼女の言葉に、私は首を横に振る。
お嬢様は少し残念そうな顔をして息を吐き出す。
そうして、室内を見回した。
「ここも随分綺麗になったわね」
「はい、ようやくですが家具も簡素なものですが新しいものと入れ替えました」
ここは時計塔の中にある小さな管理人室。
私がこの場所を見つけたのは偶然だ。広いこの館内を把握するために歩き回っている時に、時計塔の裏に隠れるようにして存在していたこの部屋の扉を見つけたのだ。
どれだけの間使われていなかったのか、壊れかけた机と椅子に踏み込めばくっきりと足跡が残るほどに埃の積もっていたこの部屋を、暇を見つけては掃除を進めること凡そひと月。今では私のちょっとした憩いの場だ。
「やっぱり、狭いものね」
「元々小さな管理人室ですから。なので申し訳ありません、紅茶を淹れられるような設備が無いので紅茶をお出しすることが出来ません」
「気にしなくて良いわ。押しかけてきたのは私なのだから」
そう言うとお嬢様は笑みを浮かべて椅子に腰掛ける。机の上に置かれたランプの明かりが微かに揺れる。
「お嬢様はどういったご用向きでしょうか?」
「今日は様子見といったところかしらね。この場所の使用許可は私が出しているのだし」
「でも、今更ですが本当に良かったのですか? この部屋を使ってしまって」
「ここを使っていた管理人はいなくなって久しいの。埋もれてしまうよりはこうして誰かに使ってもらうほうが良いわ。ただ、私も偶には使わせて欲しいわね」
「はい、それはもちろんです」
「それはそうと、こうしてふたりでいる時はレミリアで良いと言っているじゃない」
「レミリアお嬢様を呼び捨てになんて出来る訳ありません」
私にそんな恐れ多いことできるはずがない。
「残念ね」
寂しそうな表情を見せるお嬢様に胸の奥が僅かに痛む。
それを誤魔化すように視線を逸らして、棚から缶詰を一つ取り出す。
「ドロップ?」
缶の側面に書かれている文字を彼女は読み上げる。
「人里から紅魔館に行商に来ている方が一缶だけ扱っていたので買ってみました。お一ついかがですか?」
「貰うわ。でも、よく買えたわね」
「正確には物々交換ですが、応じてもらえましたので」
缶の蓋を開いて、差し出された掌の上で傾ける。転がり出たのは赤い色のドロップだった。
それを、口に入れ頬張る姿は見た目相応の少女の様で、その愛らしさに緩みそうになる口元を、心の中で彼女は主と念じつつ必死に抑える。
「イチゴ味ね。ありがとう、美味しいわ」
「それは良かったです」
表情を綻ばせるお嬢様の姿に癒しを覚えながら笑みを返す。
「それじゃ私はそろそろ戻るわ」
「え、もうですか?」
「仕事がまだ貯まっているのよ。そろそろ書類を手にした咲夜が私を捜しに来る頃合いだわ」
椅子から立ち上がった彼女は肩を竦めてみせると、ここを知られたくないしね、と一言。
「また来るわね」
「はい、その時は紅茶もご用意できるようにしておきます」
「楽しみにしているわ」
扉を開けて手にした日傘を広げると、お嬢様はのんびりとした足取りで戻っていった。
後には私ひとりが残されて、掌に缶を傾ける。転がり出たそれは、お嬢様と同じ赤いドロップだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「メイド長は、レミリアお嬢様が好きなんですか?」
キッチンの床にお皿が落ちる。けれど、陶器の砕ける音が響く事は無く、次の瞬間には食器はキッチンにある木製のテーブルの上に置かれていた。
「いきなり何を言うのかしら、大妖精?」
「私の同僚の娘が言うにはなんですけど、レミリアお嬢様が恋をしているように見えるとかで」
「つまり、私がお嬢様の求愛を受けていると?」
「は、はい」
頷いた私に咲夜さんは、一つ息を吐く。
「私がお嬢様の求愛を受けたことは一切無いわ。私にとってお嬢様は敬愛すべき主で多大な恩もある。愛情はあっても、そこに恋愛感情が入る隙は無いの」
一度私に視線を向けてから「それに」と彼女は続けた。
「私にはもう、お嬢様の他にも生涯を共にできる相手がいるから」
そう言って、笑ってみせたその顔とても幸せそうで、嘘偽りを語っているようには見えなかった。
「だから、もし仮にお嬢様からそのお話をされても、私は受けることは無いわ」
「そう……ですか」
「安心したという顔しているわね」
「え?」
首を傾げた私にメイド長は苦笑する。
と、そこで涼やかな鈴の音が頭の片隅に響く。
それはお嬢様の手元にあるコールベルの形をした魔具の効果で、予め登録している相手にどれだけ離れていてもその音色を届かせる事が出来るという代物だ。
「――お嬢様が呼んでいる様ね。私が行ってくるから、あなたはここで食事の用意をしていて頂戴」
言い残して、彼女は瞬きの間にこの場から文字通り消失した。
ひとりキッチンに残った私は、料理の支度のために調理器具の用意を始めた。
先ほどの会話の意味を考えながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「最近、面白い噂がメイド達の間に広まっているようね」
時計塔管理人室。そこに置かれた椅子に腰掛けて、私の淹れた紅茶を飲みつつレミリアお嬢様はそう切り出した。
「なんでも、私がメイドの娘に懸想しているとか」
私はここ一週間ほどでメイド達の間に広まっている噂を思い出す。『レミリアお嬢様は誰かに恋をしている』『その相手はこの館のメイドの誰か』と噂好きの者達が話しているのを何度か耳にしたことがある。
「確かに、そうですね。根も葉もない噂ですよ。申し訳ありません、噂好きの娘達が好き勝手に話しているんです」
「別に咎めたりはしないわよ。部下に娯楽を提供するのも主の勤めよ。行き過ぎたものであれば何か考えるけれど、今はまだそんな必要も無いわ」
紅茶を一口含み、小さな主は更に続ける。
「噂についてはあなたはどう思う?」
「私ですか?」
促され、彼女の対面の椅子に座りながら私は質問の内容に思考を巡らせる。
「……噂は噂です。私はここに来て、外聞なんて当てにならない事を知りました」
静かに耳を傾けるお嬢様に、言葉を続ける。
「紅魔館の主に出会えば人間、妖怪、妖精問わず機嫌次第で簡単に消されてしまう、とここに来るまではそんな話ばかり耳にしてきました。でも、私はお嬢様に誘われて本当の事を知りました。本当のお嬢様は、私の主様はこんなに愛らしくて、素敵で、優しい方でしたから」
視線と視線がぶつかり、ただジッとレミリアお嬢様は私を見据えていた。私の言葉を聞き逃さないとするかのように。
「だから、私は噂なんて気にしません」
「……そう」
ありがとう。
そう小さく呟き、お嬢様は何処か寂しげに微笑んでみせると、口を噤んだ。
「……大妖精、私は今とても欲しいものがあるの」
「はい、何ですか?」
唐突に切り出された言葉に私は首を傾げる。
「けれど、私がどれだけ手を伸ばしてもそれには届かないし、気付かれない。だから、私はいつも眺めているだけに留めているの」
「えと、お嬢様?」
「出来るものなら一気に手に入れてしまいたい。でも、今の私はそうすることが怖いの」
怖い。
夜の王たる彼女がいったい何を怖がることがあるのか。その一言に、私は思わず目を丸くしてしまう。
「怖い、ですか?」
「ええ、それは不用意に触れれば脆く壊れてしまいそうで、だから私は手を伸ばすのを躊躇してしまう」
私は臆病者ね、と彼女は笑う。
また、寂しげに。
それ以上お嬢様のそんな顔を見ていたくなくて、私は手を伸ばしていた。テーブルの上で掌と掌が重なる。冷えた体温が伝わってくる。そんな冷たさを暖めるように、もう片方の手を更に重ねた。
「お嬢様、私はあなたのそんな顔は見たくありません!」
「大妖精?」
お嬢様が呆けた表情を見せる。けれど、そんなことには構わずに言葉を続ける。
「私は、お嬢様の笑っている姿が好きです。でも、そんな寂しく笑う姿なんて嫌いです。だから、笑顔になれる様に私もお手伝いいたします」
「ありがとう、大妖精」
囁くように言うと、小さな主は重ねられた手に唇を寄せた。今はこれだけ、という言葉が聞こえたが、お嬢様の行動に頭が追いついていなかった今の私にはその意味を考えるだけの余裕は無かった。
「でも、もう少しだけ待って頂戴。その時にはあなたにも協力して貰うから」
小さな手が私の掌を滑っていく。
椅子から立ち上がった彼女の顔には笑みがあった。先ほどまでの寂しげなものでは無く、月夜の下の紅魔湖で差し出された手を取ったあの時と同じ表情だった。
それから数日後、私はレミリアお嬢様から告白の言葉を頂くこととなった。
To be continue
湖畔にある一際大きな木の天辺の枝に腰掛けて月を眺める彼女の姿に、近くの茂みに身を隠していた私は思わず目を奪われた。
儚げな、今にも消えてしまいそうな空気を纏った彼女から目を離せずにいながら、感嘆の息が漏れる。
視線を外すことを許さない魅力を彼女は持っていた。
ふと気が付くと、紅い瞳がこちらへと向けられている。
「そこにいるのは誰かしら?」
凛とした良く通る声が耳に届く。
大きく翼を広げ、音も無く地に降り立った姿に私は少女が紅魔湖と呼ばれるこの湖の畔に建つ館の主だと、今更ながら気が付いた。
血の気が引く思いとはこの事か、と震える身体を必死に抑える。
今の私は端から見れば真っ青な顔をしていることだろう。
「覗き見なんて無粋な真似をする者にはお仕置きが必要かしら?」
何時までも出て来ない私に痺れを切らしたのか、殺気を伴った彼女の右手に深紅に染まった槍が現出する。
「ま、待ってください!」
意を決して慌てて茂みから姿を晒し、私は両手を上げた。
「勝手に覗き見ていたのは謝ります。ごめんなさい、悪気は無かったんです」
深々と頭を下げる。
よもや、これまでかと今までの妖精生を振り返る。
けれど、そんな私に放たれたのは深紅の槍ではなく、思ってもみなかった言葉だった。
「……ねえ、あなた名前は?」
「え? え、あ、大妖精です」
「そう。それじゃ大妖精、あなた、私の所でメイドをする気はないかしら?」
「はえ?」
唐突なその申し出に付いていけず、私は首を捻ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
紅魔館のメイド達は常に娯楽に飢えている。
決して娯楽が少ないわけではないけれど、この紅魔館のメイド達にとって娯楽の有無は死活問題だ。基本的に妖精は遊び好きだし。そんな妖精が多数を占めるメイド達にとって、噂話は楽しいことを見つけるための情報源となっている。
「レミリアお嬢様のお相手?」
目玉焼きに白パン、更にはソーセージまで付くという、湖の側で暮らしていた頃と比べると遙かに豪華な朝食を口に運びつつ首を捻る私に、同僚の彼女は瞳を輝かせて頷いた。
今私達のいるメイド用の食堂は採光の工夫された明るい石造りの部屋で、紅魔館内の部屋と比べてしまえばそれほど広くはないが、それでも私達妖精達が十にん以上座っても余裕をもって食事が出来る程度の広さがある。
その食堂の壁際に寄って対面に座る私に顔を寄せると、彼女は周囲に視線を向けて声を潜める。
周囲のメイド達はそれぞれにグループを作ってそれぞれの話題に花を咲かせていて、私達には見向きもしていない。
そして彼女は、自身の朝食はそっちのけで鼻息荒く話を始めた。
彼女の話をまとめてみれば、どうやらレミリアお嬢様は三ヶ月ほど前から私達メイドの住む寮棟へと足を運んでいるという。そんなお嬢様の様子を偶々見かけたメイド達が言うには、何処か浮かれた様に見えたのだとか。
そうして目の前の同僚が導き出した答えが、お嬢様が紅魔館で働くメイドの誰かに懸想しているというものだった。
「大ちゃんはどう思う? 私はメイド長が怪しいと睨んでいるんだけど」
「どう思うも何も、私はそんな話初めて聞いたよ。それに、お嬢様がメイドの誰かに恋しているだなんて話もただの憶測でしょう」
お嬢様が恋。
それもメイドの誰かにだなんて、あるはずがない。
「いいや、間違いないわね。私も寮棟内を歩くお嬢様のお姿を見かけたことはあるけど、あの眼は恋煩いね。お相手が誰か確認しようと後を追いかけたんだけど、あっさり撒かれたわ」
自信満々に言う彼女に呆れて息を漏らす。
「とにかく、私からは何も言えることは無いよ。それに、お嬢様のお相手なんて私達が面白半分に詮索していいことでも無いでしょう」
「大ちゃん、つれない」
不満そうな視線にを向けられるが、それ以上は何も言わず朝食を食べ切った私に、彼女も思い出したかのように慌てて自身の朝食を口に詰め込むのだった。
食堂に置かれた置き時計は、もうじき朝のお仕事を始める時間を指そうとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
本の塔が廊下を動いていた。
その周囲のメイド達の反応は、珍しいものを見たという表情と良いものを見ることを出来たという表情が大半だった。
私は手にしていた掃除用具を一旦脇に置くと、怪現象の元へと歩み寄る。
この紅魔館には、大図書館の主であるパチュリー様と並ぶ遭遇レア度の高い方がおられます。
曰く、その姿を最初に見た者はその日一日幸福が訪れるのだとか。『あの方にお会いしたら胸が大きくなりました』『あの方に声を掛けていただいたら彼女が出来ました』等々、彼女と出会ったメイド達に訪れた幸福は探せば簡単に聞くことが出来るくらいには多い。
「少しお持ちしましょうか?」
「ん、誰? って大ちゃんか。じゃあ、ちょっと持ってもらっていいかな。パチュリーの所から本を借りてきたんだけど、量が多くなっちゃって」
私の言葉に本の脇から覗くようにしてこちらを見るのはフランドールお嬢様。
自身の身長の優に三倍の高さにまで積み上がった本を抱えて、それでも崩すこと無く悠々歩くその力は流石と言うべきか、そうなる前に誰かを呼んでください、と叱るべきか。
頭を悩ませつつも、その場で飛び上がり私よりも頭半分程小さな背丈の彼女が抱えている塔から数冊を手に取る。その際にちらりと『今から始める花嫁修業~~入門編~~』とタイトルが見え、やっぱりフランドールお嬢様もそういうものに憧れる女の子なのだとひとり内心頷いてから、見なかったことにして本を抱え上げる。
高さにしてお腹の辺りから丁度顎の下まで。抱え上げるには私の力ではそれが限界だった。これ以上は重さに負けて本から手が離れてしまうのだ。
「どちらまでお運び致しますか?」
「私の部屋までお願い」
私の問いかけに、フランドールお嬢様は一度こちらに視線を向けると苦笑してから先を歩く私の後ろをゆっくりと、しっかりした足取りで付いて来るのだった。
少しだけ低くなった本の塔が再び移動を開始した。
「ありがとう、助かったわ」
「はい、では私はこれで」
「ちょっと待って、そんな急がなくても紅茶くらい飲んでいったら?」
本を無事フランドールお嬢様の私室まで運び込むと、直ぐに仕事に戻ろうと踵を返した私を彼女は呼び止める。
「い、いえ、そういうわけには」
私はただのメイドだ。そんな私が仕えるべき方と一緒に紅茶を飲むなんて出来るはずもない。
「私が構わないって言ってるんだから、気にしなくていいの。咲夜には私から話しておくから心配しなくても良いわ」
そう言うと、お嬢様は私の返事も聞かず手ずから紅茶の準備を始める。
「紅茶くらい私がご用意します!」
「いいのいいの、私がしたいんだから。大ちゃんは椅子に座っていて。咲夜には劣るけど、私の紅茶の味もなかなかのものだと思うわよ」
慌てて近づく私を押し留めて、彼女は部屋の壁際に備え付けられたキッチンに向かう。
そうしてあっという間に用意を済ませてしまう。メイド長に鍛えられたとはいえ、未だに手間取ることのある私からすれば理想に近い姿だ。
「血液は何型が良い?」
「……お砂糖をスプーン一杯でお願いします」
訂正。そうでもありませんでした。良い顔で棚から血液の入った小瓶を取り出すのはやめてください。
フランドールお嬢様は私の分の紅茶を差し出すと、対面の席に腰を下ろして一滴血液を垂らした紅茶にティースプーンで円を描いている。
私の紅茶にはちゃんとお砂糖が入っていました。
鼻腔をくすぐるジャスミンの香りを楽しみながら紅茶に口を付けていると、フランドールお嬢様の視線が私に向けられる。
「そういえば、大ちゃんはどうしてこの紅魔館に来たの?」
「それはレミリアお嬢様から直接お誘いを受けまして」
「うん、その辺りの経緯はお姉様から聞いたわ。だから私は、あなたがここに来ることを決めた理由を知りたいの」
その瞳は好奇心から来るものか、或いはそれ以外の意図があるのか、私には真意を推し量ることは出来なかった。
少しだけ考えに耽る。強大な妖怪の誘いを断るなんて事は、一介の妖精である私には断る事なんて出来なかった。それこそ、断ってしまえば私の命はあの時、永劫に尽きていただろう。だから、私はレミリアお嬢様のお誘いを受けるしか選択肢は無かった。
そう、当時の私であれば考えただろう。
けれど、今は違う。
『嫌ならば今この場で断ってもらっても構わない』
あの時、レミリアお嬢様はそう言葉を続けた。少しだけ寂しそうな顔をしながら。
何故かあの表情は、褪せることなく私の記憶に留まっている。それから、その後の嬉しそうな表情も。
「――レミリアお嬢様の色々な表情を見てみたかったから、でしょうか? ですが、お嬢様が何故私を雇おうなどと思ったのか、その理由は未だに分かりません。いったい何故なのでしょう」
「うん、ごめん。私が悪かったわ」
そう言うとフランドールお嬢様は予想以上に甘いものを食べ過ぎた時の様な顔をすると、紅茶を一気に口内に流し込む。
そんな彼女の様子に私はただ首を捻るばかりだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
私とレミリアお嬢様は、メイドと主。
ただそれだけの関係でしかない。
コツンコツンと扉が叩かれる音がする。
この紅魔館では珍しく質素な造りの木製の扉を開く。
「入っても良いかしら?」
扉の先に立っていたのは私の雇い主であり、この紅魔館の当主様。
「どうぞ、お嬢様」
小さな主を部屋へと招き入れる。
簡素なテーブルと椅子と小さな棚が一つ。
「ここでは、畏まる必要は無いわよ」
「そういうわけには参りません」
日傘を畳んで室内へと足を踏み入れた彼女の言葉に、私は首を横に振る。
お嬢様は少し残念そうな顔をして息を吐き出す。
そうして、室内を見回した。
「ここも随分綺麗になったわね」
「はい、ようやくですが家具も簡素なものですが新しいものと入れ替えました」
ここは時計塔の中にある小さな管理人室。
私がこの場所を見つけたのは偶然だ。広いこの館内を把握するために歩き回っている時に、時計塔の裏に隠れるようにして存在していたこの部屋の扉を見つけたのだ。
どれだけの間使われていなかったのか、壊れかけた机と椅子に踏み込めばくっきりと足跡が残るほどに埃の積もっていたこの部屋を、暇を見つけては掃除を進めること凡そひと月。今では私のちょっとした憩いの場だ。
「やっぱり、狭いものね」
「元々小さな管理人室ですから。なので申し訳ありません、紅茶を淹れられるような設備が無いので紅茶をお出しすることが出来ません」
「気にしなくて良いわ。押しかけてきたのは私なのだから」
そう言うとお嬢様は笑みを浮かべて椅子に腰掛ける。机の上に置かれたランプの明かりが微かに揺れる。
「お嬢様はどういったご用向きでしょうか?」
「今日は様子見といったところかしらね。この場所の使用許可は私が出しているのだし」
「でも、今更ですが本当に良かったのですか? この部屋を使ってしまって」
「ここを使っていた管理人はいなくなって久しいの。埋もれてしまうよりはこうして誰かに使ってもらうほうが良いわ。ただ、私も偶には使わせて欲しいわね」
「はい、それはもちろんです」
「それはそうと、こうしてふたりでいる時はレミリアで良いと言っているじゃない」
「レミリアお嬢様を呼び捨てになんて出来る訳ありません」
私にそんな恐れ多いことできるはずがない。
「残念ね」
寂しそうな表情を見せるお嬢様に胸の奥が僅かに痛む。
それを誤魔化すように視線を逸らして、棚から缶詰を一つ取り出す。
「ドロップ?」
缶の側面に書かれている文字を彼女は読み上げる。
「人里から紅魔館に行商に来ている方が一缶だけ扱っていたので買ってみました。お一ついかがですか?」
「貰うわ。でも、よく買えたわね」
「正確には物々交換ですが、応じてもらえましたので」
缶の蓋を開いて、差し出された掌の上で傾ける。転がり出たのは赤い色のドロップだった。
それを、口に入れ頬張る姿は見た目相応の少女の様で、その愛らしさに緩みそうになる口元を、心の中で彼女は主と念じつつ必死に抑える。
「イチゴ味ね。ありがとう、美味しいわ」
「それは良かったです」
表情を綻ばせるお嬢様の姿に癒しを覚えながら笑みを返す。
「それじゃ私はそろそろ戻るわ」
「え、もうですか?」
「仕事がまだ貯まっているのよ。そろそろ書類を手にした咲夜が私を捜しに来る頃合いだわ」
椅子から立ち上がった彼女は肩を竦めてみせると、ここを知られたくないしね、と一言。
「また来るわね」
「はい、その時は紅茶もご用意できるようにしておきます」
「楽しみにしているわ」
扉を開けて手にした日傘を広げると、お嬢様はのんびりとした足取りで戻っていった。
後には私ひとりが残されて、掌に缶を傾ける。転がり出たそれは、お嬢様と同じ赤いドロップだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「メイド長は、レミリアお嬢様が好きなんですか?」
キッチンの床にお皿が落ちる。けれど、陶器の砕ける音が響く事は無く、次の瞬間には食器はキッチンにある木製のテーブルの上に置かれていた。
「いきなり何を言うのかしら、大妖精?」
「私の同僚の娘が言うにはなんですけど、レミリアお嬢様が恋をしているように見えるとかで」
「つまり、私がお嬢様の求愛を受けていると?」
「は、はい」
頷いた私に咲夜さんは、一つ息を吐く。
「私がお嬢様の求愛を受けたことは一切無いわ。私にとってお嬢様は敬愛すべき主で多大な恩もある。愛情はあっても、そこに恋愛感情が入る隙は無いの」
一度私に視線を向けてから「それに」と彼女は続けた。
「私にはもう、お嬢様の他にも生涯を共にできる相手がいるから」
そう言って、笑ってみせたその顔とても幸せそうで、嘘偽りを語っているようには見えなかった。
「だから、もし仮にお嬢様からそのお話をされても、私は受けることは無いわ」
「そう……ですか」
「安心したという顔しているわね」
「え?」
首を傾げた私にメイド長は苦笑する。
と、そこで涼やかな鈴の音が頭の片隅に響く。
それはお嬢様の手元にあるコールベルの形をした魔具の効果で、予め登録している相手にどれだけ離れていてもその音色を届かせる事が出来るという代物だ。
「――お嬢様が呼んでいる様ね。私が行ってくるから、あなたはここで食事の用意をしていて頂戴」
言い残して、彼女は瞬きの間にこの場から文字通り消失した。
ひとりキッチンに残った私は、料理の支度のために調理器具の用意を始めた。
先ほどの会話の意味を考えながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「最近、面白い噂がメイド達の間に広まっているようね」
時計塔管理人室。そこに置かれた椅子に腰掛けて、私の淹れた紅茶を飲みつつレミリアお嬢様はそう切り出した。
「なんでも、私がメイドの娘に懸想しているとか」
私はここ一週間ほどでメイド達の間に広まっている噂を思い出す。『レミリアお嬢様は誰かに恋をしている』『その相手はこの館のメイドの誰か』と噂好きの者達が話しているのを何度か耳にしたことがある。
「確かに、そうですね。根も葉もない噂ですよ。申し訳ありません、噂好きの娘達が好き勝手に話しているんです」
「別に咎めたりはしないわよ。部下に娯楽を提供するのも主の勤めよ。行き過ぎたものであれば何か考えるけれど、今はまだそんな必要も無いわ」
紅茶を一口含み、小さな主は更に続ける。
「噂についてはあなたはどう思う?」
「私ですか?」
促され、彼女の対面の椅子に座りながら私は質問の内容に思考を巡らせる。
「……噂は噂です。私はここに来て、外聞なんて当てにならない事を知りました」
静かに耳を傾けるお嬢様に、言葉を続ける。
「紅魔館の主に出会えば人間、妖怪、妖精問わず機嫌次第で簡単に消されてしまう、とここに来るまではそんな話ばかり耳にしてきました。でも、私はお嬢様に誘われて本当の事を知りました。本当のお嬢様は、私の主様はこんなに愛らしくて、素敵で、優しい方でしたから」
視線と視線がぶつかり、ただジッとレミリアお嬢様は私を見据えていた。私の言葉を聞き逃さないとするかのように。
「だから、私は噂なんて気にしません」
「……そう」
ありがとう。
そう小さく呟き、お嬢様は何処か寂しげに微笑んでみせると、口を噤んだ。
「……大妖精、私は今とても欲しいものがあるの」
「はい、何ですか?」
唐突に切り出された言葉に私は首を傾げる。
「けれど、私がどれだけ手を伸ばしてもそれには届かないし、気付かれない。だから、私はいつも眺めているだけに留めているの」
「えと、お嬢様?」
「出来るものなら一気に手に入れてしまいたい。でも、今の私はそうすることが怖いの」
怖い。
夜の王たる彼女がいったい何を怖がることがあるのか。その一言に、私は思わず目を丸くしてしまう。
「怖い、ですか?」
「ええ、それは不用意に触れれば脆く壊れてしまいそうで、だから私は手を伸ばすのを躊躇してしまう」
私は臆病者ね、と彼女は笑う。
また、寂しげに。
それ以上お嬢様のそんな顔を見ていたくなくて、私は手を伸ばしていた。テーブルの上で掌と掌が重なる。冷えた体温が伝わってくる。そんな冷たさを暖めるように、もう片方の手を更に重ねた。
「お嬢様、私はあなたのそんな顔は見たくありません!」
「大妖精?」
お嬢様が呆けた表情を見せる。けれど、そんなことには構わずに言葉を続ける。
「私は、お嬢様の笑っている姿が好きです。でも、そんな寂しく笑う姿なんて嫌いです。だから、笑顔になれる様に私もお手伝いいたします」
「ありがとう、大妖精」
囁くように言うと、小さな主は重ねられた手に唇を寄せた。今はこれだけ、という言葉が聞こえたが、お嬢様の行動に頭が追いついていなかった今の私にはその意味を考えるだけの余裕は無かった。
「でも、もう少しだけ待って頂戴。その時にはあなたにも協力して貰うから」
小さな手が私の掌を滑っていく。
椅子から立ち上がった彼女の顔には笑みがあった。先ほどまでの寂しげなものでは無く、月夜の下の紅魔湖で差し出された手を取ったあの時と同じ表情だった。
それから数日後、私はレミリアお嬢様から告白の言葉を頂くこととなった。
To be continue
いきなり終わってビビったけど続きがあるようで安心した!
昼と夜 闇と光 利己主義と利他主義
素晴しいものを読ませて頂きました。
面白かったです
レミ大も気になるのですが、昨夜さんの相手というのも…
この先ますます甘くなる未来しか見えない……!