「それを踏まえてあなたに質問するわ。兎が亀に勝つ確率は何パーセントかしら。別にこれは算数の問題ではないから、思ったままの意見でいいわよ」
魔女の問いに、妖怪の私は悩む。チルノならここで、私達を超越するような回答が思い浮かぶのだろうけど。率直に言って――
「一パーセント。……いえ、それ以下かしら」
「理由を聞かせてくれるかしら」
「単純に考えれば、確かに可能性は四分の一。でも、それは極端だと思ったわ」
「どうして」
「競争する程の距離を亀が先に歩ききる事ができる程、兎は眠らない」
魔女は吹き出した。
なるほど、そう考えるか。と彼女の顔に書いてあるように見えた。
「短すぎると兎は眠る前にゴールするだろうし、そうでなくても、兎は早々に眠ることはないわ」
「兎は夜行性のものもいる。昼なら、亀にも分があるわよ」
「でも、そうすると夜に競争する場合も考えないといけないから、実質何も変わらないはずよ」
「まぁ、正論ね。事象を増やすと亀が勝つ可能性は一応見える。でも、そうすればするほど、兎の勝率が遙かに大きいことを裏付けてしまうわね」
途端、お互い沈黙してしまい。紅茶を口に付けようとした魔女に問いかけることにする。
「で、それが魔理沙と何の関係があるの?」
「それくらいの差があるのよ。私とあの子にはね」
言って、横に伸ばした右手の平を上に向ける。
途端、太陽が出現した。それは比喩でしかないけど、暗闇と共に生きる私にとっては、そんな印象だった。
魔女は身長の三倍は軽くある太陽のようなエネルギー体を魔力によって生み出していた。
「ただ自分の中にある純粋な魔力だけで、あの子にこれ程の力を出せるかしら」
瞬間、私は魔女に襲いかかっていた。
しかし、爪で魔女の喉を引き裂く直前我に返り、腕を止める。
「ごめんなさい。あなたは闇の妖怪。少し眩しすぎるわね」
魔女は太陽を消し、私も身を乗り出した机から降り、席に戻った。
「私こそ。取り乱してしまったわ」
仕切直し、私は問いを続ける。
「魔理沙では、あなたに勝てないっていうの?」
「ええ。努力を否定する気はないわ。でも、努力が紙屑のようになる要素が溢れているのよ。人間はどんなに努力しても魔女を超える魔力を身につけられない。どんなに身体を鍛えても、鬼を超える力を身につけられない。どんなに勉学に励んでも、人間という種族を保ったまま妖怪を超える寿命を得ることはできない」
「でも、人間には人間で勝てる事が――」
「あるにはあるでしょうね。だからこそ滑稽なのよ。明らかに人間では勝てない領域に踏み込んで来る事に」
「人間には知恵があるわ。道具を駆使すれば、それを超えることだって――」
「仮にそれを良しとしても、私がさっき見せた魔力はほんの一割程度。この館に穴を空けることをあの子ができても、塵にすることは無理でしょうね」
私は妖怪であるにも関わらず、人間を養護するような発言をしてしまっていた。
「でも、あなたはスペルカードで魔理沙に負けた」
「そうね」
『魔力の差』という論点から外れた発言をしてしまったにも関わらず、魔女は微笑んでいた。
「博麗霊夢から聞かされたけど、あの子は止まらず自分の魔術を磨き続けていた」
だから。と言って、魔女は悔しそうに笑っていた。
「亀は私だったのよ」
魔女の言葉に、私は何も返せなかった。
「怠けず、眠らず。ただ努力をし続けた人間に、ゆっくり本を書いていただけの魔女が勝てる要因なんて、どこを探してもなかったのよ」
「…………」
「それとも順当に、魔理沙と私は、あなたの言う一パーセントの事象だったのかもしれないわね」
魔理沙は努力をし続けた兎で、魔女はのんびりと努力をした亀。
「あなたは、一割の魔力で魔理沙並だった。いくらあなたが亀だからって――」
「亀は十メートル先、兎はその十倍の距離。先にゴールできるのはどちらかしら」
「…………」
話しをコロコロと変えられる割には、私はたいした反論もできなかった。
言葉に詰まった私は、結論を急いでしまう。
「結局あなたは、何が言いたいの?」
「さぁ、私にも分からないわね」
「…………」
「退屈だったのよ」