キーンコーンカーンコーン………………
とある小さな小学校に、夕焼け小焼けのチャイムが鳴り響いた。
6月某日、朝から空を覆い尽くしていた灰色の雲は次第に厚くなり、お昼前は
ぽつぽつ、ぽつりと地面に水玉模様を描いていただけであったが、時計の針が午後二時を差す頃には
激しさを増し、下校時刻の頃になっても止む気配はなかった。それどころか、雷の音が遠くから聞こえていた。
置き傘をしていたり、朝から傘を持って行った児童はチャイムが鳴るとすぐに帰路に就く事が出来たが、
傘が手元にない児童は止むまで待つか、置き傘を無断で持ち出すしか術がなかったのであった。
大勢の児童が昇降口からぞろぞろと出る傍ら、数人の男子児童が困惑しきった表情で彼等を眺めながら、
誰もいない低学年用の下駄箱付近で屯していた。
「やっべぇ……、傘持ってきてねぇよ…………」
「俺もだよ…………、帰る頃までには止むと思ってた。」
「このまま濡れて帰らないといけないのかな…………」
『はぁー………………』
奇跡が起こって雨が止むわけでもなく、親が傘を持ってきてくれる筈もない。
少年たちは完全に参ってしまい、同時に溜息をついた。そんな少年たちを、物陰から誰かが見ていた事を彼等は知る由もなかった。
「こうなったらさ、置き傘パクって帰ろうぜ? 」
「持ち主にバレたらヤバくない? 先生にチクられたら…………」
「大丈夫だって、明日の朝元の場所に戻せばいいんだし。」
「そうだよ、バレなきゃ大丈夫だって。」
「じゃあ今から傘探しに行こうぜ! 」
「ちょっと待ってよ~…………」
彼等は幼い頭で考えた結果、忘れ物の傘を無断で持ち出すという結論に至った。
そうと決まれば少年たちの目は輝き出し、置き傘はないかという期待に胸が躍っていたいに違いない。
普段使う昇降口だけでなく、別の昇降口、渡り廊下を渡って別の教室棟の昇降口に行っても置き傘はなく、
少年たちは落胆しながら仕方なく濡れて帰ろうと萎えていた矢先、いつもの下駄箱に見慣れない傘が置いてあった。
「あ! 傘あった! 」
「うそ?! さっきはなかったよ? 」
下駄箱横の傘立て場には、現代の小学生には中々お目にかかる事のない茄子のような色をした和傘が一本だけ刺さっていた。
それも彼等が置き傘探しの旅に出る十数分前までは存在しなかった物だった。
「あれ? この傘ってアレだよな……、えっと…………よく時代劇に出てくるアレ…………」
「からかさ? 」
「そうそう! からかさ! 」
「ってゆーか、からかさって売ってたんだー…………」
「でもさ、コレって紙で出来てるから意味なくね? すぐボロボロになるぜ? あと色もダサいし。」
「ほんとだ……、変な色。こんなダサい傘使ってるヤツって一体どんな顔してるんだろ…………」
傘を見つけた喜びから一転、傘のデザインが気に食わないと彼等は傘に向かっていちゃもんを付け始めた。
可愛い、格好良い物が好きな年頃だから茄子色の和傘を良いと思えないのは無理もない。
「こんなダサい傘使ってんのをクラスのやつらに見られたら明日学校でいじられるかも…………」
「こうなったら濡れて帰るかー…………」
少年たちは、結局和傘を使う事なく雨の降り続く昇降口から家までの道を、無我夢中になって走り続けた。
彼等の姿が見えなくなった後も、和傘は傘置き場にぽつんと放置されたままであった。
少年たちは気付いていなかった。否、彼等には見えていなかったが、彼等の背後には少女が立っていた。
水色を基調とした服装に、水色の髪、左右違う色の目に、素足に下駄という日本人離れした容姿の少女が、
悲しげな瞳で彼等の姿をじっと見つめていた。
「また捨てられちゃった…………」
少女は茄子色の傘を手にとると、ふらふらと何処かに向かって歩いていった。
――――――翌日、昨日の雨とは打って変わって雲ひとつない透き通った青空が広がっていた。
「昨日のダサい傘なくなってる! 」
「見回りの人が捨てたんじゃね? 」
少年たちは登校するや否や傘置き場を見て驚いていた。
それもそのはずで、先日傘置き場にあった和傘が忽然と消えていたのだ。
「やっぱあんな変な汚い傘使う人なんているわけないんだよな。早く教室行こ? 」
「うん。」
少年たちは何事もなかったかのように、4階にある教室に向かって歩き出した。
茄子色の和傘は妖怪であったという事など、誰も知らない。
とある小さな小学校に、夕焼け小焼けのチャイムが鳴り響いた。
6月某日、朝から空を覆い尽くしていた灰色の雲は次第に厚くなり、お昼前は
ぽつぽつ、ぽつりと地面に水玉模様を描いていただけであったが、時計の針が午後二時を差す頃には
激しさを増し、下校時刻の頃になっても止む気配はなかった。それどころか、雷の音が遠くから聞こえていた。
置き傘をしていたり、朝から傘を持って行った児童はチャイムが鳴るとすぐに帰路に就く事が出来たが、
傘が手元にない児童は止むまで待つか、置き傘を無断で持ち出すしか術がなかったのであった。
大勢の児童が昇降口からぞろぞろと出る傍ら、数人の男子児童が困惑しきった表情で彼等を眺めながら、
誰もいない低学年用の下駄箱付近で屯していた。
「やっべぇ……、傘持ってきてねぇよ…………」
「俺もだよ…………、帰る頃までには止むと思ってた。」
「このまま濡れて帰らないといけないのかな…………」
『はぁー………………』
奇跡が起こって雨が止むわけでもなく、親が傘を持ってきてくれる筈もない。
少年たちは完全に参ってしまい、同時に溜息をついた。そんな少年たちを、物陰から誰かが見ていた事を彼等は知る由もなかった。
「こうなったらさ、置き傘パクって帰ろうぜ? 」
「持ち主にバレたらヤバくない? 先生にチクられたら…………」
「大丈夫だって、明日の朝元の場所に戻せばいいんだし。」
「そうだよ、バレなきゃ大丈夫だって。」
「じゃあ今から傘探しに行こうぜ! 」
「ちょっと待ってよ~…………」
彼等は幼い頭で考えた結果、忘れ物の傘を無断で持ち出すという結論に至った。
そうと決まれば少年たちの目は輝き出し、置き傘はないかという期待に胸が躍っていたいに違いない。
普段使う昇降口だけでなく、別の昇降口、渡り廊下を渡って別の教室棟の昇降口に行っても置き傘はなく、
少年たちは落胆しながら仕方なく濡れて帰ろうと萎えていた矢先、いつもの下駄箱に見慣れない傘が置いてあった。
「あ! 傘あった! 」
「うそ?! さっきはなかったよ? 」
下駄箱横の傘立て場には、現代の小学生には中々お目にかかる事のない茄子のような色をした和傘が一本だけ刺さっていた。
それも彼等が置き傘探しの旅に出る十数分前までは存在しなかった物だった。
「あれ? この傘ってアレだよな……、えっと…………よく時代劇に出てくるアレ…………」
「からかさ? 」
「そうそう! からかさ! 」
「ってゆーか、からかさって売ってたんだー…………」
「でもさ、コレって紙で出来てるから意味なくね? すぐボロボロになるぜ? あと色もダサいし。」
「ほんとだ……、変な色。こんなダサい傘使ってるヤツって一体どんな顔してるんだろ…………」
傘を見つけた喜びから一転、傘のデザインが気に食わないと彼等は傘に向かっていちゃもんを付け始めた。
可愛い、格好良い物が好きな年頃だから茄子色の和傘を良いと思えないのは無理もない。
「こんなダサい傘使ってんのをクラスのやつらに見られたら明日学校でいじられるかも…………」
「こうなったら濡れて帰るかー…………」
少年たちは、結局和傘を使う事なく雨の降り続く昇降口から家までの道を、無我夢中になって走り続けた。
彼等の姿が見えなくなった後も、和傘は傘置き場にぽつんと放置されたままであった。
少年たちは気付いていなかった。否、彼等には見えていなかったが、彼等の背後には少女が立っていた。
水色を基調とした服装に、水色の髪、左右違う色の目に、素足に下駄という日本人離れした容姿の少女が、
悲しげな瞳で彼等の姿をじっと見つめていた。
「また捨てられちゃった…………」
少女は茄子色の傘を手にとると、ふらふらと何処かに向かって歩いていった。
――――――翌日、昨日の雨とは打って変わって雲ひとつない透き通った青空が広がっていた。
「昨日のダサい傘なくなってる! 」
「見回りの人が捨てたんじゃね? 」
少年たちは登校するや否や傘置き場を見て驚いていた。
それもそのはずで、先日傘置き場にあった和傘が忽然と消えていたのだ。
「やっぱあんな変な汚い傘使う人なんているわけないんだよな。早く教室行こ? 」
「うん。」
少年たちは何事もなかったかのように、4階にある教室に向かって歩き出した。
茄子色の和傘は妖怪であったという事など、誰も知らない。
それにしてもこの少年ズ、人をイラつかせる天才である 特に置き傘パクろうとしたところとか
それで、はしゃいで振り回したりして多分壊すw
もう少し低学年の子だったら気にしないイメージですが。