Coolier - 新生・東方創想話

「泣けるぜ」と彼女は言いたい

2013/06/06 21:26:14
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※パロディネタ多用と、意図的なキャラ崩壊が満載です。苦手な方はブラウザバックをおすすめします













「なんでわたしを拉致したのか言ってみろよ」
「霊夢とイチャコラしたいからよ」
「答えになってないぜ」
 魔理沙は鼻息を荒げて詰め寄ってくる紫にそう突っ込んだ。
 縁側に接している部屋に、敷かれた座布団に座りながら二人は向かい合っている。
「いやね、霊夢ったらツンデレじゃない?」
「わたしに聞かれても困るんだが」
「いくら私を信用してるからといっても素直になれないのがあの子のかわいいところよね」
「聞いてねえし」
 人の関節を持っているはずなのに、まるで蛇のように身をくねらせる紫を魔理沙はど突きたくなった。しかし、紫からある取引を持ちかけられている今、取引先とのトラブルは避けておきたかったため、目の前に広がる名状しがたい紫の奇行をただ眺めているしかできないでいるのだ。
「でね、私がいくらアプローチしても振り向いてくれないから、一体どうしたらいいのか一晩考えてみたの」
「とりあえずお前が気持ち悪くなくなればいいんじゃないか?」
「私は今霊夢成分を補給しようとしているわ。だからどんな形であれイチャつければ勝ちなのよ」
「何に対してだよ」
「つまり……」
 紫が指を鳴らした。スキマでも開くのか、と魔理沙は思っていたのだが、あの気持ち悪い裂け目は空間の何処にも現れなかった。
(……何がしたいんだこいつは……)
 胸を堂々と張りどや顔を繰り出している紫に魔理沙が白い目を向けた、

「……っ!」

 瞬間、魔理沙に衝撃が走った。
 一つ、今見ている顔が自分のものであったこと。一つ、自分でない誰かがニヤリと口元を歪めたこと。一つ、見下ろしてみると、自分のポリシーである黒白の魔女姿ではなく、六十四卦の刻まれた導師服だったこと。そして、自分の面をしている奴が手鏡を渡してきて、そこに写っていたのが今しがた変態的な言動をとっていた八雲紫だったこと。
 その全てを同時に理解したおよそ三分後、
「はああああああああああああああああああああああああ!?」
 魔理沙はようやく叫ぶことができた。

「成功してるみたいね」
 手を握ったり開いたり、あるいは肩を回したり、襟をつまんで丘陵地帯を眺め明らかに喜色めいた声音で魔理沙に笑いかける誰か。
「どっ、どういうことだよ、これ!」
 訳もわからぬまま自分の姿をした存在の肩につかみかかる魔理沙だが、偽物であるはずの魔理沙は魔理沙の行動を予測していたかのようにひらりとその手をかわした。
「少しの間貴女の体、借りるわよ。……あの子の親友である魔理沙の姿なら存分にヌフフなことできるからね」
 紫は、魔理沙の少し幼さの残る顔立ちには似合わない妖艶な微笑みを浮かべた。
 そう、二人は入れ替わっているのだ。
「ちょ、返してくれよわたしの身体!」
「そんなに心配しなくても、数時間もしたら勝手に戻るから安心しなさい。それまでわたしの身体は好きにしてもらって構わないから。スキマ作って移動するくらいなら貴女でもできるし」
「いやそういう問題じゃなくてさぁ!」
「藍や橙には話は通してあるから! なにか困ったことがあったら二人に言ってちょうだぃ……」
 あまりに突飛的な行動に固まる魔理沙を他所に、紫は転びそうになりながらも走って部屋を飛び出し、箒にまたがり飛び立っていった。
 遠ざかっていく紫の、声質的には魔理沙の叫びが虚しく響き渡る。
 その間魔理沙は指一本動かすこともできなかった。五分ほど脳が現状を整理し、納得はいかないが諦められたのかようやく体を動かすことが可能となった。
 しかし魔理沙はそれでも動かない。背筋が脱力しきり、両手はだらしなくだれ下がり口は半開きになっている。
 一体どれだけ経った頃だろうか、放心しながらも持ち続けていた手鏡を顔の前に持ってきて、しばらくそこに写る紫の姿を見つめ始めた。
「……………………」
 魔理沙は無性に腹がたって、思いっきり鏡を大空に投げ捨てた。パリンと何かが割れた音は八雲家の周りの森に染み渡り、また魔理沙のいる部屋にその残滓をこだまさせ、溶けて消えていった。



 半時間の間、魔理沙はその部屋を出ようともしなかった。確かに今すぐにでも紫を止めに行きたかったのだが、なぜか屋敷の外に出ることが出来なかったからだ。結界があるのかもしれないし、紫が細工をしていった恐れもある。
 故に、魔理沙は一秒一分毎に反比例して増加されていく焦りと怒りを消化する術を持ち合わせていないのだ。
 部屋を出て藍か橙を探すのもありだが、二人に話を通してあるならば、無理に探さずとも彼女たちから来る可能性も高い。二人も、自分達の主人の奇行に巻き込まれた被害者を放っておくほど不真面目でもないはずだ。彼女らが、主に藍が面白がっているなら話は別だが。
 部屋の隅から隅まで何往復しているだろうか。魔理沙はもしかしたら行けるかもしれない、と外に出ようとして諦め、堪忍したように座り込み藍たちを待つ。しかし徐々に体を揺さぶり始め、小さく鋭く唸るとまた立ち上がり部屋の中を回り始める。
「……別に霊夢と紫がイチャイチャしてるのがムカつく訳じゃないんだが……それでもこの滾る気持ちは一体どうすればいいんだぁ!」
 魔理沙は座ったまま大きく体をのけ反らせ、ドサリと背中から倒れこんだ。ようやく怒りのローテーションとは違う行動を見せた彼女だが、循環する憤怒が収まったわけではない。
 今、想像するだけで殴りたくなってくる顔が自分の物で、作った拳も紫の物。じゃあ自傷行為でもすればいいのか、そう魔理沙は思い、試しに一発殴ってみた。物凄い痛かった。
 魔理沙はなんとなく今しがた紫の顔を殴った拳をかざし、ゆっくりと指を開きしげしげと眺め始めた。
 箒を握ったり薬品を使ったりで荒れがちな自分の手とは違う、細く滑らかな指を、魔理沙は羨ましく思った。 それだけではない。紫ももちろん妖怪で、人間離れした力の持ち主なのは確かだが、肉体的外見は全くといっていいほど少女と変わらない。
 キメの細やかな肌も、女性として魔理沙にとっては羨ましいものだ。魔理沙の、幼さによる弱さではない、女としての華奢さもまた、嫉妬心というものを胸の奥から引き出させている。
 顔に少しかかってきている金糸をつまんで、魔理沙は小さくため息をついた。紫も魔理沙も同じ金髪とは言っても違いはある。、魔理沙の赤みがかった金髪と、どちらかと言うと檸檬色のような紫の金髪。どちらも周囲からは人気があるが、魔理沙にとってみれば、自身のカールのかかった髪に自信を持っているのにも関わらず、紫のやわらかくも纏まった髪の方が羨ましいと思っていたりしている。
 更に、胸部にたわわに実らせている乳房と、年長者としての艶やかさと上品さをもつ動きが紫を見た目よりも老けさせて見せるが、その実彼女も少女としての魅力をこれでもかというほど詰め込まれている。魔理沙はぼんやりとそんなことを考えていた。
 これで悪趣味じゃなかったらなぁ、とありえもしない仮定をしながらぼんやりと天井を眺めていると、襖の開く音が魔理沙の頭上から聞こえてきた。
 猫を連想させるような俊敏な動きでそちらを振り替えると、待ち望んだ、八雲藍が非の打ち所の無い綺麗な正座をして魔理沙の方を向いていた。魔理沙に不安すら、抱かせるくらいに。
「あ、あー、紫から聞いてるよ、な?」
 妙な威圧感に魔理沙もどもってしまう。
「ええ、聞いていますよ、紫様」
「だからわたしは魔理沙だって」
「ええ、存じておりますとも。紫様も心配性ですね」
「八雲家は人の話を聞けないやつばっかか」
 物腰や振る舞いはまるで違うのに、魔理沙はなぜか紫との会話を連想してしまった。
 藍が無駄の無い動作で魔理沙の側に近づいてくる。機械みたいな動作に魔理沙も言い知れぬ不安を感じたが、音もなく自分の隣に座った藍を見て、魔理沙はさらなる危機感を募らせていた。
「……おい」
「なんでしょう」
「なんでこんなに近いんだ?」
 藍と魔理沙の間の距離はわずか十センチ。しかも藍はわずかに身を乗り出しているので、彼女の吐息が魔理沙の、紫の顔にかからんとしているのだ。
 直視の出来ないほどに恐ろしい無表情の藍。魔理沙はピクリとも動けなかった。
 無音が、しばらくの間この空間を支配した。
「……ぅ……ん」
「ど、どうしたんだよ」
 藍が俯き、何かを呟いたのを魔理沙は聞き取ったが、その内容まではわからない。藍の前髪が彼女の目元を隠しているので表情も読み取ることができず、戦慄を覚えつつある魔理沙はゆっくりと藍のそばから離れんとした、その時だった。
「もう我慢できないっ!」
 藍が虚空に吠えた。魔理沙はいきなりの出来事に思わず体を硬直させるが、それがいけなかった。
「ちょっ、うわ!」
 藍が猛獣のごとく魔理沙の腕をつかみ、そのまま畳に押し倒した。魔理沙が後頭部に走る衝撃に悶えている隙に、気高き九尾からただの獣になり下がった藍は紫の身体のマウントポジションを奪い取った。
「紫さまぁ、ボーッとし過ぎですよ……思わず襲ってしまったじゃないですか」
「だ、違う! 紫から聞かなかったのか、私は魔理沙だって!」
 焦点の合わない目を紫のボディに向ける藍に、魔理沙は必死に呼び掛ける。しかし、ゆらりゆらりと不気味に揺れる藍には届いていないようだ。
「今しか、今しかないんですよ。紫様をいただくチャンスが」
「中身は私だぞ、いいのかよっ」
 藍の動きが止まった。しばらく考え込むように視線を辺りに巡らせ、
「脳内補完余裕ですよ」
 と言って口の端から垂れる涎を袖で拭き取った。
「さあ紫様、一つになりましょう」
「だ、誰か、助けて……!」
 魔理沙と藍の唇が触れ合いそうになる。魔理沙は慣れない体で上手く力も出せず、藍にされるがままになりながら、他人の体で初めてが奪われたくないと願い続け、

 その願いは、聞き届けられた。
「やめろ!」

「こ、この声はっ」
「まさか、橙?」 
 藍が理性を取り戻し、素早い動きで魔理沙から飛び退いた。
 藍が入ってきた襖を二人が見ると、目をつり上げ牙をむき出しにして威嚇をしている橙が腰低く構えていた。
 橙は目にもとまらぬ早さで魔理沙と藍の間に割って入り、魔理沙を庇うようにして藍と対峙した。
「なぜ邪魔をする、橙」
 藍は男女問わず虜にさせる美貌を歪め、橙を睨みつけた。
「紫様の命令を無視しているあなたを止めるためです」
 橙もまた、気迫に負けじと一歩、足を踏み出す。
「ハッ、私の式であるお前が、本能を解放している私を止められるとでも?」
「それでも、です」
 橙の勇気を鼻で笑う藍を見て、橙は自分の主人と話し合って解決するのは無理だと悟った。
「魔理沙、早く行って。張られている結界は私たちのどちらかが許可をしないと通り抜けられないの。だから今なら行ける。早く紫様のところに逃げて」
「あ、ああ。ありがとう、橙!」
 自分を他所に始められたよくわからない茶番に呆然としていた魔理沙は急に話しかけられても咄嗟に反応できなかったが、事態を飲み込むとすぐに縁側から飛び出し、一か八か、空を飛ぼうとした。
 飛ぶ、という強い意思に身体が応えたのか、不安定ながらも浮かび上がることができ、魔理沙は遠くに見える博麗神社を一目散に目指した。
「チッ、橙が邪魔しなければ」
 忌々しげに空を睨む藍は、殺気を放ち続けている自分を目の前にしても動じていない橙を目にし、更なるプレッシャーを彼女に与えた。
「今の私には紫さまのご加護があります。いくら藍様でもそう簡単には破れません」
 初めて目の当たりにする藍の本気を前に、橙は必死に恐怖を押さえ込んでいる。それは使命感や、紫の与えた恩恵がそうさせているのも間違いない。しかしそれ以上に、普段の藍に戻ってほしいという、切実な願いがあるから、橙は今こうして立ち向かっている。
「では教育してやろう。悲鳴をあげろ、豚のようなっ」
「逝きます紫さま、逝きます!」
 それぞれの想いを胸に、主従が激突した。




「大丈夫かなぁ、わたしの身体」
 そう魔理沙は呟いた。
 神社の境内が見えてきた頃、スキマを使えばもっと早かったんじゃ、と彼女は後悔した。が、一発で、しかもあの状況では使うことはできなかっただろう、だからこれは最善の手段だ、と魔理沙は思い込むことにした。
 霊夢がいつもボケッとしている場所に回り込み、二人の様子をうかがってみようと魔理沙は計画を練る。私に被害が及ぶ行為でなければ、事が終わってからマスタースパークをぶちこんで清算終了だろうと、魔理沙は考えていた。

 ところがどっこい、魔理沙の身体が、煙をあげて倒れていた。
「わたしの身体ぁっ!」
 慌てて紫が入っている自分の身体を抱き起こすが、ピクリともしない。幸い脈はあるようだが、白目を向いている自分の顔を直視し続けることは魔理沙にはできなかった。
「あら、魔理沙じゃない。そろそろ来る頃だと思っていたけど」
 屋内の廊下から、霊夢が歩いてきた。その顔には罪悪感もなく、少しだけホッとしたように肩を下げている。
「いやわたしは紫じゃなくて魔理沙……え?」
 入れ替わっていることを霊夢に説明しようとした魔理沙だが、その先を告げることはできなかった。
「霊夢、今なんて」
「そろそろ来る頃だと思っていたけど」
「その前だ」
「この前賽銭箱……あれ……久しぶりにみた時……なんていうか……その……遺憾ですが……フフッ……泣いて……しまいましてね」
「そんな長い台詞言ってないだろ! ほら、わたしのこと魔理沙って」
「言ったわね」
 それが何か? と首をかしげる霊夢と、なぜ自分が魔理沙だとこいつが知っているのかわからない魔理沙。見事にすれ違ってしまっている。
 困惑する魔理沙の顔を眺めてようやく得心がいったのか、魔理沙に部屋へ上がるよう勧めた。魔理沙は自分の身体を大事そうに抱えたまま、ちゃぶ台を挟んで霊夢に向き合った。
「勘よ」
「お前は勘で親友の姿をした奴をぼこぼこにするのか」
「あんたの姿をした奴が妙にベタベタ触ってくるなって思って、それでこいつ魔理沙じゃないなって気がついたの。で、聞いてみたら反応も怪しいしヤっちゃえって。そしたらベラベラと正体話してくれたから」
「きちんとばらしたやつに容赦ないなお前」
「だって紫だし、キモいし」
「一応言っとくけどそれ私の身体だからな。元に戻ったら結局被害受けてるの私だからな」
「……これで紫もこりたでしょ」
「目をそらすな、バカ」
 魔理沙は思いっきり、身体から魂が抜けていくように嘆息をした。霊夢当人が気づいているからマシだったものの、そうでなかったとしたらもっとめんどくさい事態になっていた。そういう意味では、霊夢に感謝をしなければならないだろう。赦すつもりはないが。
「で、いつ戻るのよ」
「さあ、時間が経てば戻るって言ってたし、心配しなくてもいいだろ」
 顔を上げることなく手だけをヒラヒラと振り霊夢に答える魔理沙。ずいぶん楽観的だな、と霊夢は魔理沙を見下ろすが口には出さなかった。紫はなんだかんだ言って、言ったことはだいたい守ることを知っていたからだ。
 霊夢はお茶を淹れに奥に引っ込み、魔理沙は静かに時間が過ぎるのを待ち望んでいた。




 九時間が経過した。二人一緒に昼飯を食べ、昼寝もした。
「なんで戻ってないんだよ!」
「私に聞かないでよ」
 魔理沙は未だ自分の身体を取り戻すことができずにいた。明らかに異常だ、と魔理沙は判断した。元凶である紫に聞こうも目を覚ます気配を見せない。つまり、どん詰まりだということだ。
「あー、なんでこんなことに……早く戻ってくれよ」
「ズズズ……」
 色素がだんだんと抜けていく魔理沙の隣で、霊夢はたんたんと緑茶をすすっている。
「橙が来てくれたら……」
 一瞬魔理沙の脳裏に、八雲家の二人の式が浮かんだが、片方のエロ狐は恐らく役に立ちそうにないので、あの場で自分を助けてくれた化け猫がいてくれたら、と切に願った。彼女なら何かがわかるかもしれない。そんな淡い希望を魔理沙は抱いた。
「誰かいるわね」
 霊夢の少し緊張した声色を聞いて、魔理沙は何事かと身構えた。
 しかし、魔理沙はなにも感じない。ということは、霊夢の持つ巫女の勘ということか、と彼女は分析した。
 近くの茂みが揺れ、葉と葉が擦れる音がして、ようやく魔理沙もその来客に気がつくことができた。
「とうっ!」
 茂みから何かが飛び出してきた。人影が四つ。しかも、二人のよく知る面子だった。
 胸に鎮座する大きな目と、漆黒の羽に被さるマントが特徴的な地獄烏、霊烏路空。
「トカマク1、交戦」
 赤髪を三つ編みにし、二又の尻尾と猫耳を持つ火車、火焔猫燐。
「オリン11、交戦」
 胸元にもう一つ、瞳を持った幼い少女が二人肩を組んでいた。嬉々としているのが古明地こいしで、恥ずかしそうに肩をすくめているのが姉のさとりだ。
《こちらサードアイ。貴官らは私たちの指揮下にある。交戦は許可しない。繰り返す、交戦は許可しない》
 よくわからないことを口走る四人を目の前にして、魔理沙は頭の欠陥が切れそうになるのを必死に堪えた。こいしを除いた地霊殿メンバーが皆困惑した表情を浮かべていて、何か事情があると思ったからだ。……ふざけた口調を含めて。
《パープル1、ワキミコ1、異変よ。口調と性格が明らかにおかしいのよ。私たちは意図してないのに》
 さとりとこいしが口を揃えて言う。
「そうね、確かに異変だわ」
 神妙そうに霊夢がうなずいた。
「ああ、そうだな、確かに異変だな。わたしは認めんが」
「だってあんたの状態もたぶんそうでしょう?」
「……なんでそう思う」
「さっきから結界の調子が悪そうだもの」
 魔理沙は訳がわからないといったように霊夢を眺め、霊夢は肩が凝っているみたいに、と違和感を説明した。もちろん魔理沙には理解ができなかった。
 しかし、魔理沙もほんの少し居心地の悪さというのは感じていた。魔理沙自身ストレスのせいだろ、と思っていたのだが、今の身体が幻想郷の管理者の物であることを思いだし、異常を察知していたのか、と気づく。異変であることは認めようと魔理沙は思った。
「オリン11、イジェークト!」
「オリン11!」
《オリン11がレーダーから消失した》
 と、そうこうしている内にお燐が目眩を起こし崩れ落ちてしまった。その場にいた全員が彼女に駆け寄った。さとりが命に別状はないと告げると、安堵の雰囲気が流れた。
「くそっ、ストーンヘンジからの砲撃かっ!」
「砲撃もなにも立ちくらみだろうが」
「橙色中隊……いつか必ず!」
「敵がすり変わってねえか? それ」
 平和な空に敵意を込めた視線を送るお空に、魔理沙は突っ込みをいれた。
「もしかすると……」
 魔理沙は唐突に嫌な気配を感じ、紅魔館や守矢神社など、色々なところで起きているのではないかと不安に駆られた。
 そこで紫が簡単なスキマ程度は使えると言っていたことを思い出し、なんとかスキマを開く手段はないかと考えた。
「何してるのよ魔理沙」
「他の知り合いがどうなってるのか気になってな。少し覗いてみようと」
「……スキマ使えるの?」
「わからん」
 魔理沙は霊夢との会話をこなしつつ、感覚で開きはしないかと試してみる。目の前が一度暗転し、よくわからない数式が浮かび上がったと思いきや鋭い痛みが魔理沙の頭を蹂躙した。
「っ……」
 食い縛った歯の隙間から声が漏れるも、視界が回復した頃には数個の隙間が空間に浮かんでいた。
「よ、よし、成功だ」
 魔理沙の口元からニヤリと笑みがこぼれる。
 ガンガンする頭を押さえつつ、幻想郷が現在どうなっているのか、魔理沙は霊夢共々次々とスキマを覗きこんでいった。

「Hina、ロケーターの更新を頼む」
 金属制のスーツを着た背の低い人型の何かが建物の中を歩いている。頭にのっている帽子と、胸にかかっている鍵を見ると、にとりだろうと推測できる。手には工具と思しき物を持っているが、それにしては物騒に見える。
「もう石村はこりごりだ」

 妖怪の山だろうか、やたら広いところに三人が集っていた。
 そのうちの一人、早苗はなぜかマントを羽織り、四角いサングラスを着用していた。
 早苗の後ろには神である秋姉妹が二人ならんで弾幕を展開しようとしている。
「ウロボロスで幻想郷を救うのです!」
 そう言って早苗は二人にサングラスを投げつけた。

「騙して悪いが仕事なんでな、死んでもらおう」
 射命丸文が紅魔館の門前で小悪魔に戦いを挑んでいた。
「だがしかし、この力があれば、ナンドデモォ!」
 豊聡耳神子は先程から同じ台詞を繰り返し、
「仏になったつもりではない、わたしは、仏です」
 聖白蓮は妙に小物っぽさを滲み出し、何かに取り憑かれたような奇行を皆がしていた。
 別の意味で頭が痛くなるのを魔理沙は感じた。

「大変よ、霊夢!」
 切羽詰まった声が二人を呼ぶ。その正体は、服や身体の一部を焦がしつつ行きを切らしている橙だった。
 橙のやつ、藍を倒してきたのか、と魔理沙は驚愕した。と同時に、ようやくまともな奴が来たと安堵した。魔理沙は正直、もう望みをかけていなかったのだが、ボロボロになりながらも博麗神社にやって来た橙を見て、涙がこぼれそうになった。
「どうしたのよ橙」
「結界に穴が開いて幻想郷全体に影響が……!」
「やっぱり……多分外の思念が流れ込んでいるんだわ。任せなさい、そいつは私がしめておくわ。安心して、魔理沙、すぐに終わるから」
 橙の説明を聞いて、霊夢が魔理沙に微笑みかけながら諭すように語りかけた。あまりの急展開に魔理沙の思考は追い付いていない。
「ちなみに手がかりとかは?」
「あるよ。……これ、鏡の破片」
 霊夢に聞かれた橙が取り出したのは手のひらもないぐらい小さな鏡だった。鋭利に尖っていて、故意に割られたのがわかる。
「家の近くに落ちてたから、犯人は私たちに気づかれずに結界を割って異変を起こしたことになるわ」
「相当の実力者ってことね。厄介だわ」
 博麗の巫女としての顔つきに変わっていく霊夢と、立派に管理者見習いとして頑張っている橙の姿は、これがとてつもないことだというのが周りにいるものにも伝えるものであった。
「……」
 それを体験している魔理沙も例外ではなかったが、“鏡、破片、八雲家の近く、結界、割れた、”等々、色々な単語が頭に巡っていた。最悪の可能性を否定したいがために、現実を否定したいがために。
 彼女が自棄になって手鏡を投げた、あの行為がもしかしたら、魔理沙の運命を分けたものだったかもしれない。
「あ、あのさ」
 おずおずと律儀に手をあげ二人に発言をしようとする魔理沙。
「ん? どうしたの」
「私が解決するから大丈夫だっていってるじゃないの」
 魔理沙は、自らの過ちを告白した。
















「ちくしょう……全部あいつのせいだ」
「私語を挟まずきちんと働け。でないと襲うぞ」
 夜、魔理沙は藍の指導の元自分の手で結界を修復していた。
 過失はないものの、魔理沙が投げた手鏡が発端となり異変が起きたという事実は残り、霊夢にしばかれ、またその代償として気絶したままの紫の代わりに作業をしているのだ。
「元に戻ったら紫のことぜってー泣かす」
「そんなに私と合体したいのかお前は」
「……ちくしょう」
 魔理沙の呟きは誰に聞こえることもなく、虚しさとなって星空に召されていった。

レミリウム星とか紅魔式自動制圧冥土サクヤとかもっとネタを入れたかったけど諦めました。
正直、調子に乗りすぎたと反省をしていますが、後悔はしていません。どうにでもなっちまえ

ハーメルンでも(r y
八衣風巻
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コメント



0.320簡易評価
1.80非現実世界に棲む者削除
ある意味、面白かったのだが、もう少しボリュームが欲しかったかなと思う所存。
ゆかりんがあれだけ長い時間気絶してるってことは霊夢はそれなりに本気でやったということか・・・恐ろしい。
ゆかりんのファンに対して申し訳ないが、一言言わせていただきます。

ゆかりん、自業自得だ。
2.80名前が無い程度の能力削除
入れ替わりもの好き
ただ後半の部分はもっと詳細に書いてほしかったですね
4.70名前が無い程度の能力削除
タイトルでクマさんのストラップを想像したのに出てなかった。そぅきゅーと。
しかしそういえば、アイアンマンにとりは見た事あるけど、アイザックにとりは見た事無いなぁ。
スネークにとりは絶対増えるだろうけどね。
8.70フォックス2削除
なかなか面白かったです。ただせっかくの入れ替わりも、あまり意味がなかったように見えるのが残念。正体はすぐばれるんじゃなくて、気づかないまま誤解が広がっていくのが入れ替わりの醍醐味かなと。
あと全然関係ないかもしれませんが、なんとなく地霊殿組のコントでエスコンを彷彿してみたり。
10.80奇声を発する程度の能力削除
こういうの良いですね
13.90名前が無い程度の能力削除
>「そんなに私と合体したいのか」
はい、是非とも藍様t(ピチューン
14.80名前が無い程度の能力削除
確かにアイザックにとりは見たことないなw
16.803削除
もったいない。何がもったいないって変なパロディネタを入れなくても十分に面白いところです。
これくらいの量がちょうどいいんじゃないですかね。これ以上多いと食傷気味になります。