今日は神社へ行く道辺りで、なんか探すかな。魔理沙がそう思ったのが朝早く。
考え出したらさっそくやってみる。魔理沙は朝食もろくに食べずに箒片手に外に出た。
昼は少し汗ばむ時節となったが、朝は程よく優しい太陽で過ごしやすい。
魔理沙は伸びをしてから箒に跨ったが、飛ぶ前にふと思いつく。
「たまには、ここから歩いていくか」
神社への道もそうたが、普段は飛んでしまうことも多く、いざじっくり見てみると小さな発見があるかもしれない。
魔理沙はせっかく思いついたから実行することにして、箒を再び片手に持って歩きはじめた。
暫く魔理沙は道を逸れ木々の間等を通ってみたりして、細やかな新鮮味を存分に堪能していた。
特に面白い物も見つけられず、当初の目的の地まで来た。
別段何を探すわけではないがこの辺りも境界が近いから外の物でも転がっているんじゃないか。と考えて辺りを探索し始める。
道から外れて暫くすると、魔理沙はすっかり幻想郷に馴染んだ緑の髪を見つけた。
守矢神社の巫女、早苗だった。しゃがみこんでごそごそと何か手を動かしている。魔理沙は気になって声をかける。
「お?早苗じゃないか。なにしてるんだ」
魔理沙が声を掛けると早苗はふうと息をつき、魔理沙の方を向く。両手で銀色の箱を持ち上げていた。
「あ、どうも。ちょっと近くを飛んでいたら変なものが見えたので、今拾ったんですよ」
「なんだその箱は……缶?ちょっと開けてみよう」
箱は綺麗だ。古いのか銀色は少し曇っているが、野晒にずっと置かれていた物には見えなかった。
魔理沙は早苗の手から箱を半ば強引に受け取った。
「お煎餅の缶ですかね、何だか懐かしいです」
「煎餅が入ってても食べたくは無いな」
「奇跡的に熟成されていて美味しいとか」
「ミラクル煎餅か、強そうだ」
本当は二人とも重さからして中に入っているのは煎餅では無いことは分かっていた。そんな他愛もない話をしながら、魔理沙は地面に置くと汚れるのも気にせず膝を着き、力を込めて蓋を開けた。
ばこっと音を立てて蓋が開かれると、少しだけ紙の匂いがした。
「おお、なんだこりゃ」
「なんか変な物ばっかり入ってますね」
中は二人が思った以上に不思議な物だった。まず目に入るのは本、表紙にはオカルト辞典。比較的新しい本のようだ。次に目に入るのは、透明な袋。中に珍妙な絵柄の紙が詰めてある。それに封筒が一つ。
そして最後に下の方はスプーンが二十本程乱雑に入っていた。しかし三四本程を残して後は首から見事に90度近く曲がっていた。
「ゴミか?」
「封筒を開けてみましょうよ」
早苗は封をしていない封筒を持つと、開けて中をのぞき込んだ。
「やややっ、これは写真の様ですね」
そのまま早苗は中の写真を人差し指と中指でつまみ出し、魔理沙に見せた。写真は半分程やぶられていたが、一人の男が写っていた。
魔理沙の見た限り日本人ではない。国は分からないが所謂西洋人という奴だ。年は三十路位で、目がちょっと爛々としている。
「この箱の持ち主なのかね、なかなか渋い奴じゃないか」
「うーん?何処かでこの人見たこと有るかもしれない……あ、良く見たらサインもありました。えーと何て書いてあるかわかります?」
早苗は写真を裏返すと筆記体の字が書かれていた。魔理沙は何とか書いてある部分は読めた。
「Uri g……あとは破れてて読めないな」
「あ!思い出しました、この人ユリゲラーって人ですよ!」
「ユリゲラー?」
「念力遣いというか、超能力者というか。手を触れずにスプーン曲げたりした人なんです、外の世界では一時期話題になりました」
「外の世界はスプーン曲げただけで話題になるのか」
「そりゃあもう、奇跡だなんだと。でも自分の写真にサイン書くって事は無いでしょうし。これはファンの人の持ち物でしょうかね」
「そうなのか……」
魔理沙は興味なさそうに透明な袋の方に目を移した。外の人間の話を聞いても対して役に立つとはとても思えなかった、そんな怪しげな人物なら尚更だ。
袋を軽く振って中を見てみると、何やら見覚えの有るような絵柄もあり、それを一つ取り出した。青い手形で、その手のひらに目が一つ描かれている。
「なんですか?それ」
今度は早苗が不思議そうに聞く。
「これはハムサって奴じやないか。邪視除けのお守りだったかな、目を手で止めているんだそうだ」
「へー、オカルトグッズみたいな……それステッカーぽいですね、めくれるんじゃないですか」
魔理沙はそれを聞いて指の間に挟んで擦ったり、目を細めて爪で端の方をカリカリと傷つかぬように引っかくとめくれた。指をつけて粘着性を確かめる。
「ほお!これで好きなところに貼れるのか。外の世界は魔法とかは廃れ気味と聞いたが、画期的な物もあるもんだな」
「いやあ、どうですかね。おもしろ半分な気もします。好きですけどねこういうの。ほらこれ、宇宙人のカードとかもあります。ウンモ星人懐かしいです」
早苗は袋の中から無造作に紙を引っ張りだすと、UFO、UMA、オーパーツ、ストーンヘンジ等の写真が載っているカード。そして666を重ねた縁起が悪そうな模様のハンカチやら、キョンシーのお札風のシール。
箱にはオカルト辞典なんてのもあったし、早苗には他愛も無い薄っぺらな意図で集めた様にしか思えなかった。
二人が缶を前にあれこれ中身を物色し始めると、突然二人の間を割るように頭が突っ込んできた。
「あんた達こんな所で何やってんの?」
霊夢だった。顔を早苗と魔理沙交互に向ける。魔理沙は霊夢の髪が顔に触れ、むず痒くて箱の前から退いた。
「びっくりさせるな、ちょっと落とし物を物色していただけだ」
「ちょっと前から見てたけど……置き引きって奴ね」
「違いますよ、中身が分からないとどうにも判断しかねて……。多分外の物だと思います」
「そうなの?ここらじゃ少し珍しいわね……って何これスプーンばっかじゃない」
「エスパーがやったのかもしれない貴重なスプーンだぞ」
「知らないわよ、でもこんな所にあると邪魔ね」
霊夢は曲がったスプーンを一つ持つと、無理やり食べるのに使えないかと持ち方を試すが、どうしようもないと分かると箱に投げ入れる。
「なに、ここで私たちが見つけたのも何かの縁だ。私たちが山分けしてもって帰ればいいじゃないか」
「え、私たちが持って帰るんですか?」
「ええ!うわー。要らない」
「幻想郷がゴミだらけになったらどうする。お前たちは幻想郷にゴミが溢れてもいいというのか、仕方ないから私が全部持って行ってやろう」
「なんかそう言われると悪いような」
霊夢は「んじゃこれだけ」と袋の中から青い手のステッカーを取った。早苗もUFOのカードを何枚か取ると、焦り顔で「これだけなら……」と言って懐に入れた。
魔理沙は自然な流れで全部自分で持って行く魂胆だったが、言葉を間違えたと少し後悔する。
取ったら取ったで、もう関係ないとばかりに霊夢と早苗は飛んでいってしまった。
「じゃあ残りは私の分だ」
と一人で宣言してから、箒に箱を括りつけて飛んで持ち帰った。
家に戻った魔理沙は中身を確かめた。そうはいってもさっき見た所から新しい発見は特にない。
封筒と袋はとりあえずそこら辺に置いて、スプーンだけになった缶を見つめる。
金属は何かと魔法に使えるかもしれない、つまり材料として悪くない。いざとなったら香霖堂に持って行って何かと交換してもらえるかもしれないし。
どうやって使おうか考えながら、魔理沙は何気なく曲がってないスプーンを持ちじっと見た。そういえばユリゲラーさんとやらは念でスプーンを曲げたと早苗が言っていたことを思い出す。
念じながら、手で曲げたわけではあるまい。曲がれと念じただけで曲げたということか?
ぼんやり考えながら、曲がれ、と試しに魔理沙は念じてみた。
ぐにゃり。
スプーンはだらけるような柔らかな動きで反るように曲がった。
「おお?」
あまりにも簡単に出来たことに魔理沙は驚いた。慌ててもう一本、曲がってないスプーンを取り出して、念じてみる。
曲がれ。
ぐにゃり。
魔理沙は胸が高鳴った。まさか、本当に。冷静にならなくてはと気を落ち着かせるために吸って吐いての深呼吸を繰り返す。
深呼吸が終わると、もしかしてスプーンの方が特殊なのでは?と思い魔理沙は普段使っているスプーンを持ってくる。
曲がれ。
ぐにゃり。
なんと、お気に入りのスプーンが寸秒で使い物にならなくなってしまった。とそれを自分の念でやったことに魔理沙は改めて驚く。
早苗の言う超能力者になってしまったと推測した魔理沙は色々試すことにした。
超能力と言ったら他に何ができるか、物を浮かせる事だろうか。その辺にあった丸めた紙屑を見て、動けと念じてみる。
動け。
動かない。再びは目をきゅっと瞑って念じてみる。
少しの間そうして魔理沙はそっと目を開けてみた……。紙屑は動いていなかった。
「できると思ったんだがなぁ」
もしかしたら手を触れていないとダメなのだろうかと、以前拾ってきた手ではとても曲げられない鉄の棒を部屋にあったガラクタの山から引き抜いて持って来た。
一度深呼吸をしてから魔理沙は念じる。曲がれ。
ぐにゃり。
鉄の棒は音もなく、くの字になった。どうやら予想は当たったらしい。超能力だという予想は確信に近くなるが、他のことは出来ないのだろうか。
魔理沙は色々想像してみるが、その手の事は疎く何も思いつかなかった。
「こういう時はやっぱりあそこがいいな――紅魔館の図書館」
魔理沙は一人頷いて肯定すると、早速箒を握りしめ外に出た。
紅魔館の図書館は何度も忍び込んでいる魔理沙は、門番やメイドに見つからずうまく潜り込むことが出来た。
咲夜は運が悪いとどうしても見つかってしまっていたが、今日は運が良かった。魔理沙はひとまず安堵して、エスパーとか超能力とか、そういう本が無いか順々に書架を眺める。細心の注意を払い、探して回る。
物音一つしない。図書館では静かに、は鉄則。魔理沙は心で反芻しながら進む。
慎重に擦り蟹歩きで横に横に本の背表紙を確認した。「図書館に訊け!」そんな本のタイトルが目に入る。
「まさに今、図書館に訊きにきてるぞ」
一人つぶやく。しかし独り言にはならなかった。
「じゃあ、私が答えて上げようか?本を返したらね」
魔理沙は顔を横に向ける。怒っているような、めんどくさそうな、いつものパチュリーの顔が魔理沙の目の前にあった。気まずくて魔理沙は視線をパチュリーから本に移す。
「いやあ、ここは本が山のようにあるな」
「それで、山に芝刈りに来たの」
「こりゃ一本とられたな」
「盗りに来たんでなくて?」
「待て待て、ちょっと本を借りに来たんだよ、超能力とか、エスパーとか、無いかな?」
「勝手に借りられたら困るし、返さない奴に教える義理は無い」
「私は急を要しているんだ……」
「返却も急を要してるんだけど?」
パチュリーは歯切れの悪い魔理沙に耐えかねて、少し下がると魔理沙に向けて臨戦態勢になった。
「待て!話せば分かる、不思議なことに私が……」
「もう話した。いい加減にしてよね」
パチュリーは手を翳して魔理沙に向けて魔法の弾を飛ばして来た。
魔理沙は反応仕切れず、どうにか逸れてくれと願って思わず目を閉じた。
次に目を開けたとき、魔理沙が見たのは床でも天井でも無くパチュリーの不機嫌そうな顔だけだった。
「貴女、何かした?」
魔理沙が周りを見ると弾は全て外れていた。さてはこれも超能力かと感づいて、どうにか話を付けられないか試みる。
「ちょっとお宅のメイドに習って、種無し手品をしただけだ。というより種が分からないだけなんだがな」
「そう……それが超能力とか、エスパーって事なのね」
「多分な、それでまあ。後世のためにもきちんと調べようと思って?」
パチュリーはその場でしばし思慮を巡らせる。相変わらず不機嫌そうでもある顔に、魔理沙はじれったさでいてもたっても居られなくなりそうだった。
「ちょっと来なさい」
パチュリーに連れられ、魔理沙はテーブルに着かされた。少なくとも図書館から追い出されなかったのは、幸いだと胸を撫でおろす。
パチュリーは魔理沙に待つように言い席を立つと、古びた木箱の上に本を何冊か積み、まとめて抱えてよろよろと戻ってきた。
本と木箱を別々に置き、席に着くとパチュリーは一息ついて魔理沙を見た。
「まず、最初に言うけど。協力するつもりはないから。でも私の研究の為に情報を提供してくれるなら、私も提供する」
「それは構わないが……」
「あと、本は貸さないから」
「分かった分かった」
いささか契約的な状況だが、超能力はパチュリーにも魅力的に映ったのか協力は得られそうだと魔理沙は口元を緩ませる。
魔理沙が簡単に起こったことを話すとパチュリーは木箱の中からスプーンを取り出しやって見せろと言った。魔理沙が軽く曲げるとパチュリーは少し驚いた表情を見せたが、直ぐにいつもの調子になった。
「なるほどね、確かにいわゆる超能力って奴みたい」
「だろう?これしかできないと思ってたが、さっきもどうやら私が念じたら弾がこっちに来なかったらしい」
「ESPの方は何か無いの?」
「ESP?」
魔理沙は聞いたこと有るような無いような単語で少し考える。
「色々説明した方がいいみたい……」
「軽く頼む」
下手に考えて間違った認識するよりは良いと結論した。
「超能力には色んな分類が成されている……分類の仕方は色々あるけど、有名なのがラインという博士が作ったPKとESP。纏めてPSIって呼ぶ奴」
「ああ、何か少し思い出したぞ、PKが今私のやったような奴で、ESPは透視とかテレパシーだったか」
「PKは物に働きかける力で、ESPは超感覚的な知覚。超能力者と一括りで言っても出来る物と出来ない物がある、まずは貴方が出来る事を見極めたい」
「そりゃいいが、どうやって調べるんだ?」
「明確な検査薬や判断基準なんて無い、一つずつテストして試すしかないわ」
先ずパチュリーは木箱の中からマッチ棒を取り出すと、適当な紙片を丸めて土台を作り、縦に立てた。
「これに火が付けと念じる。所謂パイロキネシスって奴だけど」
「何か人前でやるのは恥ずかしいな……火を付けるのはPKとESPどっちなんだ」
ぶつくさ言いつつも魔理沙は集中して念じてみる。
「PK。基本的に知覚的な受け身じゃなければ全部PK。念写や燃えてる石炭を掴んで火傷しないとかそういうのもPK」
「ほー、なんか単品では聞いたことあるような話だが」
「さっさと集中しなさい」
しばらく念じていたが、沈黙が流れるだけでマッチに火が付くことはなかった。
「あー、ダメだ。というかこれだったら魔法で付けた方が早いじゃないか」
「そんなことはない。念は距離を問わないとされているから、もし力があれば個々から神社に火を付けたりもできたかもね」
「物騒だな……。光と念とどっちが早いかな」
「さあね……光の届かない所にも火が付くのは間違いないけど」
「じゃあ出先から帰る前に火を付けて、帰ったら丁度いい具合に風呂を沸かしたりできるな」
次にパチュリーは木箱の中から、カードを取り出しテーブルに広げた。
「お、それも見たこと有るぞ、ESPカードとかいうやつ」
魔理沙は広げられたカードを見る。+、○、☆等の記号の書かれたカードが五枚並べられた。
「ゼナーカードって言うんだけどね。透視の検証に使われることが多い、ランダムに裏にするから図柄を当ててくれればいいわ」
「しっかりランダムにしてくれよ」
パチュリーは無言でカードをひとまとめにしてテーブルの下で、シャッフルして一枚を裏でテーブルの上に戻した。
「透視は只の勘とは少し違う。心でも目でも良いからしっかり見て答えなさい」
「ふーむ………○かな」
魔理沙は瞬きを三回して、透けるようなイメージでカードを見ると○が見えた気がした。
パチュリーがカードを裏返す。カードは○だった。
「幸先が良いな」
「まだまだ。偶然もあり得る」
パチュリーはカードを戻すと再びシャッフルして、最初とまったく同じ所作で一枚を裏にして出す。
「今度は、+っぽい」
カードが表になると、+。
「これはいけそうだぞ」
そのまま30回程繰り返した結果、全て的中した。
「どうやら透視はありそうね、透視は遠視……千里眼みたいな物とか、暗いところでも見えるとか、後ろが見えたりとかもあるけど、外の様子とか見える?」
「うーん、私自身の視線の範囲内の気がするな。それにちゃんと見えるって言うより分かるに近い気がする」
そう言うと魔理沙は一度テーブルの下に潜り込んだ。
「うむ、ここからでも集中すればテーブルの上のカードは見える。でもとても外は見えそうにない。あ、でも門番はさぼってるかな」
「それなら私でも分かる」
パチュリーはカードを片づけると、結果を紙片に書き入れた。
その後魔理沙は、瞬間移動しろやら、心が読めやら、頭に話しかけろやら、家の物を個々に出せやら、死んだ奴を呼べとか、予知しろやら、やれカエルの心臓を止めろという実験とも無茶ぶりとも付かない事を要求され念じてみるがまるで成果が無かった。
「何だか自信が無くなってくるな」
「様々な事が出来る超能力者はあまり居ないし、貴方は出来る方」
「そうかな、金属曲げられるのと、透視だけだぞ」
「多分、もう一つ有る」
「さっきの弾避けた奴か。お前がヘマしてたんじゃないのか」
魔理沙は物の過去を見るというサイコメトリの検証で木箱やら、持ってこられた霧の湖の水を触れたりとしていた。魔理沙はあまり奮わない結果の連続に退屈を感じ始めていた。
「確かに狙った。あれはPKMTだと思う」
「えむてぃー?マニュアル?」
「……ライン博士のPKは三種類に分けられるの。PK-ST、LT、MT。STはPK on Sationary Things、静止した物に対する念力、スプーン曲げとかはこれ。LTはLiving Things。生物に対する念力、念力で治療したりは例があるそうよ。MTはMoving Things、動いている物を念で動かす力。サイコロを投げて思った数字を出したりする力ね。これは誰でも持ってるらしいけど……今の魔理沙は凄い力を持ってるかもしれない」
「ほう、どうやって試すんだ。弾幕でやるのは心臓にに悪そうだから勘弁してほしいが」
「これは出来る限り同条件でサイコロを落とすのが簡単。でも数をこなさなくちゃ行けないし、簡易的なセブンスというのをやるわ。サイコロを二つ同時に振って、7が出るように念じるだけ」
そう言うとパチュリーは木箱の中からサイコロ二つと鉢を取り出して魔理沙の前に付きだした。
「サイコロも超能力のテストに使われるとは思うまい」
魔理沙は掌の上でサイコロを少し転がした。
「サイコロなんて乱数を出すためにしか存在しない。これで思った目を出せたなら、サイコロの価値は無くなるわね」
「私は見た目も嫌いじゃないが」
魔理沙は鉢の中にサイコロを投げた。
二五で七だった。
「一応、何を出すつもりかも言ってから投げて」
これも三十回程繰り返され、内魔理沙は二十五回、当てて見せた。途中からパチュリーと交互にサイコロを振ることになったが、それでも魔理沙が言う数字が高確率で出た
魔理沙が三十投目を終えると満足げに手をのばして伸びをした。
「んー。まさか、こんなに当たるとはな」
「弾幕遊びと違ってね」
「何だかんだ言っても皆結構当たってるぞ」
「案外これもそうかもしれないわよ」
パチュリーは静かに言うと結果を書いた紙を纏めて、使った道具を再び箱の中に納める。色々と出したままになっていたためテーブルの上はやや乱雑としていた。魔理沙も身を乗り出して手伝い、片づけるとまた席に着いた。
「実験はひとまず終了。貴方に有るのは特別と言うよりは、比較的ポピュラーな超能力の様ね」
「幻想郷の奴らなら出来そうな物ばっかりだな」
「超能力と魔術や神通力、霊験、妖怪の力の関係は一概には語れない。でも関係無いと言い切ることも出来ないと私は思うけどね」
「死んだ奴を呼べとか、イタコみたいなのもあったがああいうのも同列にできる超能力なのか?」
「そこが難しい。例えば霊媒は死後の何かを感知していたり、心を察したり、ESPとも言える……一方パイパー夫人という超能力者は遠感の際にあたかも人が───」
「ま、まて、そういう話はまた今度でいいからさ。とにかく私には超能力があるんだな」
魔理沙は口の端を上げて言う
「嬉しそうね、超能力と言っても対して役に立つものじゃないわよ。透視は色々使えるかもしれないけど」
それはつまらないと、魔理沙は腕を組んで考えた。
「さっきお前の弾を避けたじゃないか。ああしていれば絶対に負けないぞ」
「そんな事してたら誰からも相手にされなくなるわよ」
「う、それは嫌だな。じゃあ、飛んでいる蝿の動きを止めて箸で掴むとか」
「魔法使いが聞いて呆れるような事ね」
「私は魔法使い兼超能力者になったからいいんだ」
「あっそ」
「他には、そうだな、霊夢を運試しで負けさせるとか!」
魔理沙は椅子を揺らしながら立ち上がると、ガッツポーズを作って見せた。
「あら、ずいぶんと威勢がいい」
「だって霊夢は幸運のメカニズムだかなんだか知らないが、ナチュラルイカサマしてるじゃないか、時には負けたっていいだろう」
「変な言葉造らない。巫女のは、もっと複雑な物かもしれない」
「それを破ってやろうというわけじゃないか、善は急げだ」
魔理沙はそのまま席を離れ、立てかけていた箒を掴むと早速飛び上がった。
「待ちなさい、私も情報は欲しいのよ」
パチュリーもその場の本を一つ片手に飛び上がる。テーブルには木箱と数冊の本だけが残された。
二人が博麗神社に着くと、霊夢は縁側でぼーっとしていた。霊夢の前に二人が降り立ったところでようやく異変に気づく。
「不思議なペアが遊びに来たもんね」
「遊びに来たんじゃないぞ、勝負に来たんだ」
「勝負?」
「少しつきあって頂戴、大小とかで良い。私がサイコロを振る」
「サイコロの?宴会でもないのに、そんな事してどうすんのよ」
「今日は自信があってな。何か賭けたっていい」
「やっぱり遊びたいのね。正直退屈していたからやっても良いけど…」
霊夢は少し眠そうに目をこすりながら、魔理沙達をその場に待たせサイコロを三つ持ってきた。
「自慢じゃないけど私結構強いわよ」
「そう言ってられるのも今日までだ」
「自信満々ねぇ、大小ってゾロ目とか出目の大きさか、出目自体を一つか二つ当てるんだっけ。二と三はでそう、あと五かしら」
霊夢はパチュリーに渡さずにその場でサイコロ三つを同時に投げた。
魔理沙もパチュリーも転がるサイコロを目で追った。一つは飛び跳ねながら魔理沙の前に転がって二。一つは駆け回る様に小さく跳ねて三。一つはその場で落ちるように五。
「あら、今日はいつにもまして調子がいいかも」
宣言した楽々と出した霊夢は、座ったまま腰に手を当ててしたり顔をして見せる。
さも適当に投げて的中させたことに魔理沙は少しひるんだが、無言でサイコロを集めると。深呼吸した。
「私も今日は付いてる気がするんだよな、きっとゾロ目とかでる」
魔理沙は掌にサイコロを乗せると、軽く握って六でろと念じ込んでから、掌を斜にして三つを落とした。
散らばるように落ちた三つのサイコロは、軽くぴょこぴょこと跳ねて全て六の面で鮮やかに止まった。
「ほらな」
自慢げに言う魔理沙に霊夢は素直に驚いた顔を見せる。
「あれ?ゾロ目が出る感じじゃなかったけど……なんかイカサマしてるんじゃないでしょうね」
霊夢がむっと睨みつける。魔理沙は一瞬軋んだ心の音がばれないように平然を装い答える。
「ははは、霊夢の勘も時には調子が悪いこともあるだろ」
「その前にサイコロは私が振るって言ったじゃないの。勝手にやらないで頂戴」
「なんか引っかかるわねぇ。じゃあよろしく……今度は一四四かしら」
「こういうゲームは時に大きく張ったほうが、運が味方になるもんだ。また六のゾロ目でも出るんじゃないか」
霊夢は疑いの眼差しでサイコロと魔理沙を交互に見て疑る。パチュリーも魔理沙にそれはやり過ぎではないかとアイコンタクトを送った。
パチュリーは直ぐにサイコロ一つずつ拾い上げると、軽く手首を使って放った。
三人が息を飲んで見守る。ぱらぱらと転がり、出た目は全て六。
「おお、ついに勝ったぞ」
「ちょっと!流石にコレおかしいでしょ?」
軽くはしゃいだ魔理沙に霊夢は一声だけ大きくして、直ぐに訝しげな目で魔理沙を睨んだ。
「そんなパチュリーみたいな目するなよ」
パチュリーは魔理沙を無視して霊夢の方を向いた。
「貴方も少なからずこういう経験あるんじゃないの、時にはこういうこともある」
「知らないわよ。何か仕掛けがあるんでしょう、ちょっともう一回勝負しなさい」
「私はそれなりに満足できたんだがなぁ」
どうしても仕掛けを暴こうと霊夢は躍起になって魔理沙と勝負を繰り返す。魔理沙も初めは狙った数字を出していたが、四五回も繰り返すと緊張する場面で集中が切れたのか、思った数字が出なくなった。
本来の乱数が出る様になると、霊夢の予想の方が的中するようになる。
「もう勘弁してくれ、疲れたみたいだ」
「やっぱり。サイコロちょっと振ったくらいで疲れるわけ無いじゃない」
魔理沙は段々と追い詰められる。しかし同時にこのままでは結局負けたように成ってしまって癪だという気持ちも増していた。
「じゃあ、今度はサイコロじゃない勝負をしようじゃないか、そもそも運だけの様な勝負方法がいけない」
「あんたが言い出したんじゃないのよ。まぁ何だってやるなら受けて立つけどね」
「じゃあ数字ゲームでもしたら」
パチュリーがそっと仲裁に入る。
「数字ゲーム?
「お互いが四桁の別々の数字を決めて、それを当て合う。数字を予想して交互に言って、決めた数字があればボール、桁まであっているならヒットと言う。全部当てれば勝ち」
「何でも良いわよ」
「じゃあちょっと目隠しになる衝立みたいなの持ってきて頂戴。遠いとまた不正とか言うでしょう」
パチュリーがそうい言うと霊夢が衝立を取りに奥へ行った。さらにその間に魔理沙に耳打ちした。
「これなら多分透視で見える筈。数字なら判別もしやすいでしょうし」
「なるほど、助かったぜ」
「あくまで研究の為。ただちょっとやり過ぎ、いつでも完璧に超能力ができるかどうかも分からないのに」
パチュリーが手を差し出すと先までのサイコロの結果を記録した紙を魔理沙に見せた。
「何こそこそしてるのよ」
「ルール確認だ」
霊夢は衝立代わりに奥から座卓を持ってくると横にして立てた。パチュリーは霊夢と魔理沙に一枚ずつ紙片を渡し、簡単にルールを確認する。
「概ねさっき言った通り。あとは同じ数字は四桁内に入れないこと。霊夢は衝立で絶対紙片が見えないようにしておいて。魔理沙は不正出来ない様に霊夢から見える位置で手だけで紙片を隠す」
「ふーん、結局運な気もするけどね」
魔理沙は適当に思いついた1940を紙に書いた。霊夢も準備が出来ると、霊夢が先攻ということで始まった。
「四桁の数字言えばいいのよね、1097」
「えーっと、1ヒット2ボール……」
魔理沙は言い方が正しいのか分からずパチュリーの方を見た。パチュリーは軽く頷いた。
「じゃあ今度は私の番だ」
あからさまに目を凝らして、横になった座卓の奥にある紙片を見ようとする。魔理沙の目にはぼんやりと座卓の向こうにある紙片が見えてきた。
ちゃんと透視できるか出来るかという魔理沙の一抹の不安は解消された。でも一発で当てるとまたややこしいことになるかもしれないと思い、はっきりと数字が見える前に「9274」と答えた。
「2ヒット……」
霊夢は考えながら言った。何やら手元を動かしている、さては計算をしているらしいと魔理沙は見た。
一方魔理沙はちゃんと見えた左二つが合っているんだろうな、と適当に予想して霊夢が次の四桁を言うのを待つ。
「じゃあ、1987?」
「2ヒット」
流石というべきなのか霊夢はもう答えに迫っていそうだ。あまり遊んでいる余裕も無いと魔理沙は再び座卓の向こうを透視しようとした。
ところが、さっきと違って座卓は全く透けて見えなくなった。息を落ち着かせて見てみたが、座卓の木の自然な模様が目に焼き付くだけで、紙片は見えない。
先程は見えたのに一体どうなっているのか、魔理沙は焦って目をぱちくりとさせて凝視したが相も変わらず全く見えない。
「早く言ってよ」
霊夢が急かしてくる。
「えっと、9213」
「2ヒット1ボール」
「おい、透視できなくなったぞ」
とパチュリーに小声で知らせる。パチュリーも不思議そうな顔をする。
「急に?」
「さっきは見えたのに、今駄目になった」
「調子が悪いのかもしれない、これは見える?」
パチュリーは霊夢から見えないように、手を丸めながら紙片を一枚裏で見せた。
「さっきの結果のメモか、ちゃんと見える」
魔理沙は目を凝らして紙片の裏を透視した。その後キョロキョロと周りを見渡す。霊夢の向こうには座卓から降ろしたであろう本がある。
辛うじてその中の標題紙も透視できた。
「あそこの本も中が少し見える……でもだめだ、座卓が透視できない」
「ふむ……とりあえず続けるしかないでしょう、まだ貴方の勝ち目がなくなったわけではない……」
「あんた達共謀してんじゃないでしょうね。次は、1945」
「んっと、3ヒット」
霊夢は嬉しそうに笑った。もう検討はついたのだろう。魔理沙は益々焦燥感に駆られる。あと一回、勘で当てるというのは些か厳しい。
しかし、可能性は0じゃない、ここまで来たら自分の勘を信じるしか無い。
「92…35?」
「残念、ハズレ。もういいわよね、魔理沙の数字は1940でしょ」
「……正解」
あっさりと霊夢はいうと、ふふんと笑みを浮かべる。魔理沙は当てられたことよりも透視が出来なかったことが気になって、気抜けしていた。パチュリーも少し考えている。
「怪しいと思って貼ったこれが効いたのかしらね」
魔理沙達の様を見て霊夢は座卓の裏を二人に側に向けた。
そこにはあの箱の中に入っていた青い手のステッカー、ハムサが貼られていた。魔理沙は唖然とする。
「それ!お前が持って帰ったんだったか」
「あれは、ハムサ……?」
「邪視避けなんでしょう?手が目線を防ぐ図形なのかと思って。魔理沙がずっと座卓を睨んでいて怪しいから貼ったのよ」
「そういうことか……」
やっぱりあの時、無理に全部もって帰ってしまえばよかったなと魔理沙は後悔を通り越して落胆した。
「どんな種があるのか知らないけど、そんなんじゃ私は欺けないって事よ」
霊夢は怒りもせず、ただ満足気に笑った。
翌日。魔理沙は足場の無い家で適当な場所に座って、じっとスプーンを曲がっていないスプーンを睨んでいた。
じっと見つめていると、スプーンに写った逆さまの自分の後ろに人影が映る。振り向くとパチュリーが呆れ顔で魔理沙を見ていた。
「ここ少しは片付けたら、泥棒が入った後みたい。現在進行形で居るけど」
「必要な物の場所はわかる。それより訪ねてくるなんてどうしたんだ?」
「どうしたって……今日も検証するからに決まってるじゃない」
「ああ……悪いけど、それはもう出来ないと思う」
魔理沙は再びスプーン軽く見ると適当なガラクタの山の中に投げ入れた。
パチュリーはそれを見て足場を探り探り魔理沙の方を近づいた。
「もしかして……超能力使えなくなった?」
「みたいだ。昨日帰ってから。急に使えなくなってた」
神社で数字ゲームに負けた後、種が有ることがバレたも同然の魔理沙は再戦はせずにすぐに帰った。そして何となしにまたスプーンを曲げようとしたら、曲げられなかった。
サイコロも思った通りの数字が出ない。透視もまったくできない。調子が悪いとできなくなるとは聞いていたが、そういう一時的な感覚ではない。
念じてもうまくいく手応えが全く無く、力は失せていた。
「そう……」
「あんまり、驚かないんだな」
「直ぐに使えなくなるとは思ってた。まさか昨日の今日とは思わなかったけどね」
「なんだ、わかってたのか?」
「超能力は非常に不安定。ある日や、できごとを境に使えなくなることはよくあること。例えば二十歳になったら、結婚したら、メディアに出たら、欲を出して金儲けしたら、そんな変化で使えなくなったという人もいる。それに貴方はゲラリーニだから」
「ゲラリーニ?」
「ユリゲラーを見聞きした人が、超能力に目覚める人が多いから、そう呼ぶこともある。あまり長続きはしない事が多い」
「ふーん、確かに私がスプーン曲げの話聞く以前はスプーン曲げだけじゃくて、サイコロとかも思う通りには成ってなかったな」
「貴方こそ、意外と落ち込んでないのね」
「まあな。お前の話を聞いて納得もできた」
「……あと、ハムサの事だけど」
「わかってるよ、それも含めて納得できたという事だ」
魔理沙はパチュリーの言わんとする事が分かっていた。
家に戻った後に魔理沙は考えていた。
──あの時はハムサが透視を単に阻止したと納得した。しかし考えてみると邪視避けのハムサは元々ただの視線を防ぐ覗き見防止の物じゃない。
邪視は人を憎んだり妬んだりする視線が、悪影響を与えるという考えが元になっていた筈だ。それを受けてしまうのを防ぐのが邪視避けの持つ力。
ならば座卓の向こうの紙片を見るにあたって、ハムサが視線を防ぐなんてことは本来ありえない。
仮に視線を防ぐなら、私が憎んだり妬んでたという事になる。でも何の変哲も無い紙を憎むなんて乱心めいた事はしていない。
座卓の向こうには何があったのか。答えは一つ、本当は私は霊夢を見ようとしていたんだ。
超自然的な感覚を持つ霊夢に対し、良からぬ気持ちを持っていた……。そう考えるのが一番納得できる。
邪視的な物を感じ取ったハムサがその視線が届く前に止めてくれたのだ。幸か不幸か。
そういう気持ちがなければ、難なく透視出来ていたのかもしれない。敵は目の前でなく自分の中にいた、と言うと使い古された陳腐な言葉になってしまうが。
そんな誰しも知っていることを私は分かっていなかったのだろう。何にせよ霊夢は、昨日初めに会った時から既に勘を遺憾なく発揮していたらしい。
「これからは魔法の方しっかりやれって事かもね」
パチュリーは魔理沙の横に置かれた曲がったスプーンを手にして弄ってみる。
「超能力も私にとっては魔法だったけどな」
「超能力はまだ本質的な部分の解明ができていないわよ。魔法と違って再現性を求められない場合が多すぎる。だからこそ研究が必要」
「いや、そうじゃなくてさ。本当の魔法は、ボロの服をドレスにして、カボチャを馬車に、ネズミを馬に変えて、12時になったら消えちまうのかなってな」
「……どっかのお伽話じゃあるまいし」
「パーティーに参加したいとか、そんなちょっとした願いを叶えてくれるんだ。私も一応サイコロでは霊夢に勝てたからな」
「貴方らしい、下らない考えね」
「まあ、私の場合は王子様も来ないし、なんにも残らない意味のない話になってしまったがな」
魔理沙はそう言うと少し顔を伏せた。
「……そもそも、そのスプーンの入った箱は何で此処に来たのかしらね。私は持ち主もゲラリーニだったんだと思う」
パチュリーはスプーン弄りをやめて、
「んー?偶々だろ」
「外の世界では、超能力に懐疑的な人も多くいる。もしかしたらその関係で幻想郷に来たのかもしれない」
「そりゃこんな直ぐ無くなっちまうんだったら、信じるのは難しいかもしれないが」
「超能力が使えないのに使えると語る輩も居るし、実際に偽物と暴かれた記録も多い。だから外の世界では超能力者は常に奇異と疑いの目で見られている筈。自分には無い力と知ったら、それを疎む人も多い」
「私は人気者だったと聞いたがな。」
「ハムサも、中にあったんでしょ?」
「あ、そうか……」
魔理沙は頭の中で想いを巡らす。
箱の持ち主は超能力のせいであまり良い思いをしなかったのだろうか。
だからこそハムサを持っていた?スプーンを含めて全て隠すべく缶の箱に詰めた?写真を破くのも良いことには思えない、持ち主が写っていたとも考えられる。
そしてハムサ自体が入っていたという事はもう必要としていないのか……。
色々考えられるが、他にも色々入っていたし、無論断言は出来ない。
ただそう考えるならば、この缶は持ち主が現実から消し去りたかった物の集大成という事か?
消し去りたい記憶という事なのだろうか。いや、そう考えるよりは……
「この持ち主にしろ、貴方にしろ……シンデレラだって、魔法が解けてもガラスの靴は残った」
パチュリーは言いながら、曲がったスプーンを魔理沙に手渡して続ける。
魔理沙は受け取ったスプーンをじっと見つめた。
「仮にガラスの靴の事に誰も気が付かなくても、パーティーで何かを得たなら意義の有ることでしょう」
「それは、私を励ましてるのか?」
「……別に」
いつものしかめ面で言うパチュリーに、魔理沙もいつもの調子で応える。
「確かに超能力は私らしく無かったか」
箱の持ち主も、超能力を失ったんだ。
幻想郷にこの箱が来たのは、日常を非日常に変える儚くも奇妙な超能力が幻想的だから。と思う。
だからこそ、持ち主は力が無くなって全てを箱に詰めたんじゃないか。
超能力と決別し、良いこと悪いことでは無く何を得たのかを冷静に見る為に。
非日常を、日常に還元する為に……。魔法は解けてからが本当の始まりなのかもしれない。
「私も私なりの日常に戻らなくちゃいけないな」
魔理沙は曲がったスプーンを無理やり手の力で元の形に戻すと、肩越しに後ろに放り投げた。
考え出したらさっそくやってみる。魔理沙は朝食もろくに食べずに箒片手に外に出た。
昼は少し汗ばむ時節となったが、朝は程よく優しい太陽で過ごしやすい。
魔理沙は伸びをしてから箒に跨ったが、飛ぶ前にふと思いつく。
「たまには、ここから歩いていくか」
神社への道もそうたが、普段は飛んでしまうことも多く、いざじっくり見てみると小さな発見があるかもしれない。
魔理沙はせっかく思いついたから実行することにして、箒を再び片手に持って歩きはじめた。
暫く魔理沙は道を逸れ木々の間等を通ってみたりして、細やかな新鮮味を存分に堪能していた。
特に面白い物も見つけられず、当初の目的の地まで来た。
別段何を探すわけではないがこの辺りも境界が近いから外の物でも転がっているんじゃないか。と考えて辺りを探索し始める。
道から外れて暫くすると、魔理沙はすっかり幻想郷に馴染んだ緑の髪を見つけた。
守矢神社の巫女、早苗だった。しゃがみこんでごそごそと何か手を動かしている。魔理沙は気になって声をかける。
「お?早苗じゃないか。なにしてるんだ」
魔理沙が声を掛けると早苗はふうと息をつき、魔理沙の方を向く。両手で銀色の箱を持ち上げていた。
「あ、どうも。ちょっと近くを飛んでいたら変なものが見えたので、今拾ったんですよ」
「なんだその箱は……缶?ちょっと開けてみよう」
箱は綺麗だ。古いのか銀色は少し曇っているが、野晒にずっと置かれていた物には見えなかった。
魔理沙は早苗の手から箱を半ば強引に受け取った。
「お煎餅の缶ですかね、何だか懐かしいです」
「煎餅が入ってても食べたくは無いな」
「奇跡的に熟成されていて美味しいとか」
「ミラクル煎餅か、強そうだ」
本当は二人とも重さからして中に入っているのは煎餅では無いことは分かっていた。そんな他愛もない話をしながら、魔理沙は地面に置くと汚れるのも気にせず膝を着き、力を込めて蓋を開けた。
ばこっと音を立てて蓋が開かれると、少しだけ紙の匂いがした。
「おお、なんだこりゃ」
「なんか変な物ばっかり入ってますね」
中は二人が思った以上に不思議な物だった。まず目に入るのは本、表紙にはオカルト辞典。比較的新しい本のようだ。次に目に入るのは、透明な袋。中に珍妙な絵柄の紙が詰めてある。それに封筒が一つ。
そして最後に下の方はスプーンが二十本程乱雑に入っていた。しかし三四本程を残して後は首から見事に90度近く曲がっていた。
「ゴミか?」
「封筒を開けてみましょうよ」
早苗は封をしていない封筒を持つと、開けて中をのぞき込んだ。
「やややっ、これは写真の様ですね」
そのまま早苗は中の写真を人差し指と中指でつまみ出し、魔理沙に見せた。写真は半分程やぶられていたが、一人の男が写っていた。
魔理沙の見た限り日本人ではない。国は分からないが所謂西洋人という奴だ。年は三十路位で、目がちょっと爛々としている。
「この箱の持ち主なのかね、なかなか渋い奴じゃないか」
「うーん?何処かでこの人見たこと有るかもしれない……あ、良く見たらサインもありました。えーと何て書いてあるかわかります?」
早苗は写真を裏返すと筆記体の字が書かれていた。魔理沙は何とか書いてある部分は読めた。
「Uri g……あとは破れてて読めないな」
「あ!思い出しました、この人ユリゲラーって人ですよ!」
「ユリゲラー?」
「念力遣いというか、超能力者というか。手を触れずにスプーン曲げたりした人なんです、外の世界では一時期話題になりました」
「外の世界はスプーン曲げただけで話題になるのか」
「そりゃあもう、奇跡だなんだと。でも自分の写真にサイン書くって事は無いでしょうし。これはファンの人の持ち物でしょうかね」
「そうなのか……」
魔理沙は興味なさそうに透明な袋の方に目を移した。外の人間の話を聞いても対して役に立つとはとても思えなかった、そんな怪しげな人物なら尚更だ。
袋を軽く振って中を見てみると、何やら見覚えの有るような絵柄もあり、それを一つ取り出した。青い手形で、その手のひらに目が一つ描かれている。
「なんですか?それ」
今度は早苗が不思議そうに聞く。
「これはハムサって奴じやないか。邪視除けのお守りだったかな、目を手で止めているんだそうだ」
「へー、オカルトグッズみたいな……それステッカーぽいですね、めくれるんじゃないですか」
魔理沙はそれを聞いて指の間に挟んで擦ったり、目を細めて爪で端の方をカリカリと傷つかぬように引っかくとめくれた。指をつけて粘着性を確かめる。
「ほお!これで好きなところに貼れるのか。外の世界は魔法とかは廃れ気味と聞いたが、画期的な物もあるもんだな」
「いやあ、どうですかね。おもしろ半分な気もします。好きですけどねこういうの。ほらこれ、宇宙人のカードとかもあります。ウンモ星人懐かしいです」
早苗は袋の中から無造作に紙を引っ張りだすと、UFO、UMA、オーパーツ、ストーンヘンジ等の写真が載っているカード。そして666を重ねた縁起が悪そうな模様のハンカチやら、キョンシーのお札風のシール。
箱にはオカルト辞典なんてのもあったし、早苗には他愛も無い薄っぺらな意図で集めた様にしか思えなかった。
二人が缶を前にあれこれ中身を物色し始めると、突然二人の間を割るように頭が突っ込んできた。
「あんた達こんな所で何やってんの?」
霊夢だった。顔を早苗と魔理沙交互に向ける。魔理沙は霊夢の髪が顔に触れ、むず痒くて箱の前から退いた。
「びっくりさせるな、ちょっと落とし物を物色していただけだ」
「ちょっと前から見てたけど……置き引きって奴ね」
「違いますよ、中身が分からないとどうにも判断しかねて……。多分外の物だと思います」
「そうなの?ここらじゃ少し珍しいわね……って何これスプーンばっかじゃない」
「エスパーがやったのかもしれない貴重なスプーンだぞ」
「知らないわよ、でもこんな所にあると邪魔ね」
霊夢は曲がったスプーンを一つ持つと、無理やり食べるのに使えないかと持ち方を試すが、どうしようもないと分かると箱に投げ入れる。
「なに、ここで私たちが見つけたのも何かの縁だ。私たちが山分けしてもって帰ればいいじゃないか」
「え、私たちが持って帰るんですか?」
「ええ!うわー。要らない」
「幻想郷がゴミだらけになったらどうする。お前たちは幻想郷にゴミが溢れてもいいというのか、仕方ないから私が全部持って行ってやろう」
「なんかそう言われると悪いような」
霊夢は「んじゃこれだけ」と袋の中から青い手のステッカーを取った。早苗もUFOのカードを何枚か取ると、焦り顔で「これだけなら……」と言って懐に入れた。
魔理沙は自然な流れで全部自分で持って行く魂胆だったが、言葉を間違えたと少し後悔する。
取ったら取ったで、もう関係ないとばかりに霊夢と早苗は飛んでいってしまった。
「じゃあ残りは私の分だ」
と一人で宣言してから、箒に箱を括りつけて飛んで持ち帰った。
家に戻った魔理沙は中身を確かめた。そうはいってもさっき見た所から新しい発見は特にない。
封筒と袋はとりあえずそこら辺に置いて、スプーンだけになった缶を見つめる。
金属は何かと魔法に使えるかもしれない、つまり材料として悪くない。いざとなったら香霖堂に持って行って何かと交換してもらえるかもしれないし。
どうやって使おうか考えながら、魔理沙は何気なく曲がってないスプーンを持ちじっと見た。そういえばユリゲラーさんとやらは念でスプーンを曲げたと早苗が言っていたことを思い出す。
念じながら、手で曲げたわけではあるまい。曲がれと念じただけで曲げたということか?
ぼんやり考えながら、曲がれ、と試しに魔理沙は念じてみた。
ぐにゃり。
スプーンはだらけるような柔らかな動きで反るように曲がった。
「おお?」
あまりにも簡単に出来たことに魔理沙は驚いた。慌ててもう一本、曲がってないスプーンを取り出して、念じてみる。
曲がれ。
ぐにゃり。
魔理沙は胸が高鳴った。まさか、本当に。冷静にならなくてはと気を落ち着かせるために吸って吐いての深呼吸を繰り返す。
深呼吸が終わると、もしかしてスプーンの方が特殊なのでは?と思い魔理沙は普段使っているスプーンを持ってくる。
曲がれ。
ぐにゃり。
なんと、お気に入りのスプーンが寸秒で使い物にならなくなってしまった。とそれを自分の念でやったことに魔理沙は改めて驚く。
早苗の言う超能力者になってしまったと推測した魔理沙は色々試すことにした。
超能力と言ったら他に何ができるか、物を浮かせる事だろうか。その辺にあった丸めた紙屑を見て、動けと念じてみる。
動け。
動かない。再びは目をきゅっと瞑って念じてみる。
少しの間そうして魔理沙はそっと目を開けてみた……。紙屑は動いていなかった。
「できると思ったんだがなぁ」
もしかしたら手を触れていないとダメなのだろうかと、以前拾ってきた手ではとても曲げられない鉄の棒を部屋にあったガラクタの山から引き抜いて持って来た。
一度深呼吸をしてから魔理沙は念じる。曲がれ。
ぐにゃり。
鉄の棒は音もなく、くの字になった。どうやら予想は当たったらしい。超能力だという予想は確信に近くなるが、他のことは出来ないのだろうか。
魔理沙は色々想像してみるが、その手の事は疎く何も思いつかなかった。
「こういう時はやっぱりあそこがいいな――紅魔館の図書館」
魔理沙は一人頷いて肯定すると、早速箒を握りしめ外に出た。
紅魔館の図書館は何度も忍び込んでいる魔理沙は、門番やメイドに見つからずうまく潜り込むことが出来た。
咲夜は運が悪いとどうしても見つかってしまっていたが、今日は運が良かった。魔理沙はひとまず安堵して、エスパーとか超能力とか、そういう本が無いか順々に書架を眺める。細心の注意を払い、探して回る。
物音一つしない。図書館では静かに、は鉄則。魔理沙は心で反芻しながら進む。
慎重に擦り蟹歩きで横に横に本の背表紙を確認した。「図書館に訊け!」そんな本のタイトルが目に入る。
「まさに今、図書館に訊きにきてるぞ」
一人つぶやく。しかし独り言にはならなかった。
「じゃあ、私が答えて上げようか?本を返したらね」
魔理沙は顔を横に向ける。怒っているような、めんどくさそうな、いつものパチュリーの顔が魔理沙の目の前にあった。気まずくて魔理沙は視線をパチュリーから本に移す。
「いやあ、ここは本が山のようにあるな」
「それで、山に芝刈りに来たの」
「こりゃ一本とられたな」
「盗りに来たんでなくて?」
「待て待て、ちょっと本を借りに来たんだよ、超能力とか、エスパーとか、無いかな?」
「勝手に借りられたら困るし、返さない奴に教える義理は無い」
「私は急を要しているんだ……」
「返却も急を要してるんだけど?」
パチュリーは歯切れの悪い魔理沙に耐えかねて、少し下がると魔理沙に向けて臨戦態勢になった。
「待て!話せば分かる、不思議なことに私が……」
「もう話した。いい加減にしてよね」
パチュリーは手を翳して魔理沙に向けて魔法の弾を飛ばして来た。
魔理沙は反応仕切れず、どうにか逸れてくれと願って思わず目を閉じた。
次に目を開けたとき、魔理沙が見たのは床でも天井でも無くパチュリーの不機嫌そうな顔だけだった。
「貴女、何かした?」
魔理沙が周りを見ると弾は全て外れていた。さてはこれも超能力かと感づいて、どうにか話を付けられないか試みる。
「ちょっとお宅のメイドに習って、種無し手品をしただけだ。というより種が分からないだけなんだがな」
「そう……それが超能力とか、エスパーって事なのね」
「多分な、それでまあ。後世のためにもきちんと調べようと思って?」
パチュリーはその場でしばし思慮を巡らせる。相変わらず不機嫌そうでもある顔に、魔理沙はじれったさでいてもたっても居られなくなりそうだった。
「ちょっと来なさい」
パチュリーに連れられ、魔理沙はテーブルに着かされた。少なくとも図書館から追い出されなかったのは、幸いだと胸を撫でおろす。
パチュリーは魔理沙に待つように言い席を立つと、古びた木箱の上に本を何冊か積み、まとめて抱えてよろよろと戻ってきた。
本と木箱を別々に置き、席に着くとパチュリーは一息ついて魔理沙を見た。
「まず、最初に言うけど。協力するつもりはないから。でも私の研究の為に情報を提供してくれるなら、私も提供する」
「それは構わないが……」
「あと、本は貸さないから」
「分かった分かった」
いささか契約的な状況だが、超能力はパチュリーにも魅力的に映ったのか協力は得られそうだと魔理沙は口元を緩ませる。
魔理沙が簡単に起こったことを話すとパチュリーは木箱の中からスプーンを取り出しやって見せろと言った。魔理沙が軽く曲げるとパチュリーは少し驚いた表情を見せたが、直ぐにいつもの調子になった。
「なるほどね、確かにいわゆる超能力って奴みたい」
「だろう?これしかできないと思ってたが、さっきもどうやら私が念じたら弾がこっちに来なかったらしい」
「ESPの方は何か無いの?」
「ESP?」
魔理沙は聞いたこと有るような無いような単語で少し考える。
「色々説明した方がいいみたい……」
「軽く頼む」
下手に考えて間違った認識するよりは良いと結論した。
「超能力には色んな分類が成されている……分類の仕方は色々あるけど、有名なのがラインという博士が作ったPKとESP。纏めてPSIって呼ぶ奴」
「ああ、何か少し思い出したぞ、PKが今私のやったような奴で、ESPは透視とかテレパシーだったか」
「PKは物に働きかける力で、ESPは超感覚的な知覚。超能力者と一括りで言っても出来る物と出来ない物がある、まずは貴方が出来る事を見極めたい」
「そりゃいいが、どうやって調べるんだ?」
「明確な検査薬や判断基準なんて無い、一つずつテストして試すしかないわ」
先ずパチュリーは木箱の中からマッチ棒を取り出すと、適当な紙片を丸めて土台を作り、縦に立てた。
「これに火が付けと念じる。所謂パイロキネシスって奴だけど」
「何か人前でやるのは恥ずかしいな……火を付けるのはPKとESPどっちなんだ」
ぶつくさ言いつつも魔理沙は集中して念じてみる。
「PK。基本的に知覚的な受け身じゃなければ全部PK。念写や燃えてる石炭を掴んで火傷しないとかそういうのもPK」
「ほー、なんか単品では聞いたことあるような話だが」
「さっさと集中しなさい」
しばらく念じていたが、沈黙が流れるだけでマッチに火が付くことはなかった。
「あー、ダメだ。というかこれだったら魔法で付けた方が早いじゃないか」
「そんなことはない。念は距離を問わないとされているから、もし力があれば個々から神社に火を付けたりもできたかもね」
「物騒だな……。光と念とどっちが早いかな」
「さあね……光の届かない所にも火が付くのは間違いないけど」
「じゃあ出先から帰る前に火を付けて、帰ったら丁度いい具合に風呂を沸かしたりできるな」
次にパチュリーは木箱の中から、カードを取り出しテーブルに広げた。
「お、それも見たこと有るぞ、ESPカードとかいうやつ」
魔理沙は広げられたカードを見る。+、○、☆等の記号の書かれたカードが五枚並べられた。
「ゼナーカードって言うんだけどね。透視の検証に使われることが多い、ランダムに裏にするから図柄を当ててくれればいいわ」
「しっかりランダムにしてくれよ」
パチュリーは無言でカードをひとまとめにしてテーブルの下で、シャッフルして一枚を裏でテーブルの上に戻した。
「透視は只の勘とは少し違う。心でも目でも良いからしっかり見て答えなさい」
「ふーむ………○かな」
魔理沙は瞬きを三回して、透けるようなイメージでカードを見ると○が見えた気がした。
パチュリーがカードを裏返す。カードは○だった。
「幸先が良いな」
「まだまだ。偶然もあり得る」
パチュリーはカードを戻すと再びシャッフルして、最初とまったく同じ所作で一枚を裏にして出す。
「今度は、+っぽい」
カードが表になると、+。
「これはいけそうだぞ」
そのまま30回程繰り返した結果、全て的中した。
「どうやら透視はありそうね、透視は遠視……千里眼みたいな物とか、暗いところでも見えるとか、後ろが見えたりとかもあるけど、外の様子とか見える?」
「うーん、私自身の視線の範囲内の気がするな。それにちゃんと見えるって言うより分かるに近い気がする」
そう言うと魔理沙は一度テーブルの下に潜り込んだ。
「うむ、ここからでも集中すればテーブルの上のカードは見える。でもとても外は見えそうにない。あ、でも門番はさぼってるかな」
「それなら私でも分かる」
パチュリーはカードを片づけると、結果を紙片に書き入れた。
その後魔理沙は、瞬間移動しろやら、心が読めやら、頭に話しかけろやら、家の物を個々に出せやら、死んだ奴を呼べとか、予知しろやら、やれカエルの心臓を止めろという実験とも無茶ぶりとも付かない事を要求され念じてみるがまるで成果が無かった。
「何だか自信が無くなってくるな」
「様々な事が出来る超能力者はあまり居ないし、貴方は出来る方」
「そうかな、金属曲げられるのと、透視だけだぞ」
「多分、もう一つ有る」
「さっきの弾避けた奴か。お前がヘマしてたんじゃないのか」
魔理沙は物の過去を見るというサイコメトリの検証で木箱やら、持ってこられた霧の湖の水を触れたりとしていた。魔理沙はあまり奮わない結果の連続に退屈を感じ始めていた。
「確かに狙った。あれはPKMTだと思う」
「えむてぃー?マニュアル?」
「……ライン博士のPKは三種類に分けられるの。PK-ST、LT、MT。STはPK on Sationary Things、静止した物に対する念力、スプーン曲げとかはこれ。LTはLiving Things。生物に対する念力、念力で治療したりは例があるそうよ。MTはMoving Things、動いている物を念で動かす力。サイコロを投げて思った数字を出したりする力ね。これは誰でも持ってるらしいけど……今の魔理沙は凄い力を持ってるかもしれない」
「ほう、どうやって試すんだ。弾幕でやるのは心臓にに悪そうだから勘弁してほしいが」
「これは出来る限り同条件でサイコロを落とすのが簡単。でも数をこなさなくちゃ行けないし、簡易的なセブンスというのをやるわ。サイコロを二つ同時に振って、7が出るように念じるだけ」
そう言うとパチュリーは木箱の中からサイコロ二つと鉢を取り出して魔理沙の前に付きだした。
「サイコロも超能力のテストに使われるとは思うまい」
魔理沙は掌の上でサイコロを少し転がした。
「サイコロなんて乱数を出すためにしか存在しない。これで思った目を出せたなら、サイコロの価値は無くなるわね」
「私は見た目も嫌いじゃないが」
魔理沙は鉢の中にサイコロを投げた。
二五で七だった。
「一応、何を出すつもりかも言ってから投げて」
これも三十回程繰り返され、内魔理沙は二十五回、当てて見せた。途中からパチュリーと交互にサイコロを振ることになったが、それでも魔理沙が言う数字が高確率で出た
魔理沙が三十投目を終えると満足げに手をのばして伸びをした。
「んー。まさか、こんなに当たるとはな」
「弾幕遊びと違ってね」
「何だかんだ言っても皆結構当たってるぞ」
「案外これもそうかもしれないわよ」
パチュリーは静かに言うと結果を書いた紙を纏めて、使った道具を再び箱の中に納める。色々と出したままになっていたためテーブルの上はやや乱雑としていた。魔理沙も身を乗り出して手伝い、片づけるとまた席に着いた。
「実験はひとまず終了。貴方に有るのは特別と言うよりは、比較的ポピュラーな超能力の様ね」
「幻想郷の奴らなら出来そうな物ばっかりだな」
「超能力と魔術や神通力、霊験、妖怪の力の関係は一概には語れない。でも関係無いと言い切ることも出来ないと私は思うけどね」
「死んだ奴を呼べとか、イタコみたいなのもあったがああいうのも同列にできる超能力なのか?」
「そこが難しい。例えば霊媒は死後の何かを感知していたり、心を察したり、ESPとも言える……一方パイパー夫人という超能力者は遠感の際にあたかも人が───」
「ま、まて、そういう話はまた今度でいいからさ。とにかく私には超能力があるんだな」
魔理沙は口の端を上げて言う
「嬉しそうね、超能力と言っても対して役に立つものじゃないわよ。透視は色々使えるかもしれないけど」
それはつまらないと、魔理沙は腕を組んで考えた。
「さっきお前の弾を避けたじゃないか。ああしていれば絶対に負けないぞ」
「そんな事してたら誰からも相手にされなくなるわよ」
「う、それは嫌だな。じゃあ、飛んでいる蝿の動きを止めて箸で掴むとか」
「魔法使いが聞いて呆れるような事ね」
「私は魔法使い兼超能力者になったからいいんだ」
「あっそ」
「他には、そうだな、霊夢を運試しで負けさせるとか!」
魔理沙は椅子を揺らしながら立ち上がると、ガッツポーズを作って見せた。
「あら、ずいぶんと威勢がいい」
「だって霊夢は幸運のメカニズムだかなんだか知らないが、ナチュラルイカサマしてるじゃないか、時には負けたっていいだろう」
「変な言葉造らない。巫女のは、もっと複雑な物かもしれない」
「それを破ってやろうというわけじゃないか、善は急げだ」
魔理沙はそのまま席を離れ、立てかけていた箒を掴むと早速飛び上がった。
「待ちなさい、私も情報は欲しいのよ」
パチュリーもその場の本を一つ片手に飛び上がる。テーブルには木箱と数冊の本だけが残された。
二人が博麗神社に着くと、霊夢は縁側でぼーっとしていた。霊夢の前に二人が降り立ったところでようやく異変に気づく。
「不思議なペアが遊びに来たもんね」
「遊びに来たんじゃないぞ、勝負に来たんだ」
「勝負?」
「少しつきあって頂戴、大小とかで良い。私がサイコロを振る」
「サイコロの?宴会でもないのに、そんな事してどうすんのよ」
「今日は自信があってな。何か賭けたっていい」
「やっぱり遊びたいのね。正直退屈していたからやっても良いけど…」
霊夢は少し眠そうに目をこすりながら、魔理沙達をその場に待たせサイコロを三つ持ってきた。
「自慢じゃないけど私結構強いわよ」
「そう言ってられるのも今日までだ」
「自信満々ねぇ、大小ってゾロ目とか出目の大きさか、出目自体を一つか二つ当てるんだっけ。二と三はでそう、あと五かしら」
霊夢はパチュリーに渡さずにその場でサイコロ三つを同時に投げた。
魔理沙もパチュリーも転がるサイコロを目で追った。一つは飛び跳ねながら魔理沙の前に転がって二。一つは駆け回る様に小さく跳ねて三。一つはその場で落ちるように五。
「あら、今日はいつにもまして調子がいいかも」
宣言した楽々と出した霊夢は、座ったまま腰に手を当ててしたり顔をして見せる。
さも適当に投げて的中させたことに魔理沙は少しひるんだが、無言でサイコロを集めると。深呼吸した。
「私も今日は付いてる気がするんだよな、きっとゾロ目とかでる」
魔理沙は掌にサイコロを乗せると、軽く握って六でろと念じ込んでから、掌を斜にして三つを落とした。
散らばるように落ちた三つのサイコロは、軽くぴょこぴょこと跳ねて全て六の面で鮮やかに止まった。
「ほらな」
自慢げに言う魔理沙に霊夢は素直に驚いた顔を見せる。
「あれ?ゾロ目が出る感じじゃなかったけど……なんかイカサマしてるんじゃないでしょうね」
霊夢がむっと睨みつける。魔理沙は一瞬軋んだ心の音がばれないように平然を装い答える。
「ははは、霊夢の勘も時には調子が悪いこともあるだろ」
「その前にサイコロは私が振るって言ったじゃないの。勝手にやらないで頂戴」
「なんか引っかかるわねぇ。じゃあよろしく……今度は一四四かしら」
「こういうゲームは時に大きく張ったほうが、運が味方になるもんだ。また六のゾロ目でも出るんじゃないか」
霊夢は疑いの眼差しでサイコロと魔理沙を交互に見て疑る。パチュリーも魔理沙にそれはやり過ぎではないかとアイコンタクトを送った。
パチュリーは直ぐにサイコロ一つずつ拾い上げると、軽く手首を使って放った。
三人が息を飲んで見守る。ぱらぱらと転がり、出た目は全て六。
「おお、ついに勝ったぞ」
「ちょっと!流石にコレおかしいでしょ?」
軽くはしゃいだ魔理沙に霊夢は一声だけ大きくして、直ぐに訝しげな目で魔理沙を睨んだ。
「そんなパチュリーみたいな目するなよ」
パチュリーは魔理沙を無視して霊夢の方を向いた。
「貴方も少なからずこういう経験あるんじゃないの、時にはこういうこともある」
「知らないわよ。何か仕掛けがあるんでしょう、ちょっともう一回勝負しなさい」
「私はそれなりに満足できたんだがなぁ」
どうしても仕掛けを暴こうと霊夢は躍起になって魔理沙と勝負を繰り返す。魔理沙も初めは狙った数字を出していたが、四五回も繰り返すと緊張する場面で集中が切れたのか、思った数字が出なくなった。
本来の乱数が出る様になると、霊夢の予想の方が的中するようになる。
「もう勘弁してくれ、疲れたみたいだ」
「やっぱり。サイコロちょっと振ったくらいで疲れるわけ無いじゃない」
魔理沙は段々と追い詰められる。しかし同時にこのままでは結局負けたように成ってしまって癪だという気持ちも増していた。
「じゃあ、今度はサイコロじゃない勝負をしようじゃないか、そもそも運だけの様な勝負方法がいけない」
「あんたが言い出したんじゃないのよ。まぁ何だってやるなら受けて立つけどね」
「じゃあ数字ゲームでもしたら」
パチュリーがそっと仲裁に入る。
「数字ゲーム?
「お互いが四桁の別々の数字を決めて、それを当て合う。数字を予想して交互に言って、決めた数字があればボール、桁まであっているならヒットと言う。全部当てれば勝ち」
「何でも良いわよ」
「じゃあちょっと目隠しになる衝立みたいなの持ってきて頂戴。遠いとまた不正とか言うでしょう」
パチュリーがそうい言うと霊夢が衝立を取りに奥へ行った。さらにその間に魔理沙に耳打ちした。
「これなら多分透視で見える筈。数字なら判別もしやすいでしょうし」
「なるほど、助かったぜ」
「あくまで研究の為。ただちょっとやり過ぎ、いつでも完璧に超能力ができるかどうかも分からないのに」
パチュリーが手を差し出すと先までのサイコロの結果を記録した紙を魔理沙に見せた。
「何こそこそしてるのよ」
「ルール確認だ」
霊夢は衝立代わりに奥から座卓を持ってくると横にして立てた。パチュリーは霊夢と魔理沙に一枚ずつ紙片を渡し、簡単にルールを確認する。
「概ねさっき言った通り。あとは同じ数字は四桁内に入れないこと。霊夢は衝立で絶対紙片が見えないようにしておいて。魔理沙は不正出来ない様に霊夢から見える位置で手だけで紙片を隠す」
「ふーん、結局運な気もするけどね」
魔理沙は適当に思いついた1940を紙に書いた。霊夢も準備が出来ると、霊夢が先攻ということで始まった。
「四桁の数字言えばいいのよね、1097」
「えーっと、1ヒット2ボール……」
魔理沙は言い方が正しいのか分からずパチュリーの方を見た。パチュリーは軽く頷いた。
「じゃあ今度は私の番だ」
あからさまに目を凝らして、横になった座卓の奥にある紙片を見ようとする。魔理沙の目にはぼんやりと座卓の向こうにある紙片が見えてきた。
ちゃんと透視できるか出来るかという魔理沙の一抹の不安は解消された。でも一発で当てるとまたややこしいことになるかもしれないと思い、はっきりと数字が見える前に「9274」と答えた。
「2ヒット……」
霊夢は考えながら言った。何やら手元を動かしている、さては計算をしているらしいと魔理沙は見た。
一方魔理沙はちゃんと見えた左二つが合っているんだろうな、と適当に予想して霊夢が次の四桁を言うのを待つ。
「じゃあ、1987?」
「2ヒット」
流石というべきなのか霊夢はもう答えに迫っていそうだ。あまり遊んでいる余裕も無いと魔理沙は再び座卓の向こうを透視しようとした。
ところが、さっきと違って座卓は全く透けて見えなくなった。息を落ち着かせて見てみたが、座卓の木の自然な模様が目に焼き付くだけで、紙片は見えない。
先程は見えたのに一体どうなっているのか、魔理沙は焦って目をぱちくりとさせて凝視したが相も変わらず全く見えない。
「早く言ってよ」
霊夢が急かしてくる。
「えっと、9213」
「2ヒット1ボール」
「おい、透視できなくなったぞ」
とパチュリーに小声で知らせる。パチュリーも不思議そうな顔をする。
「急に?」
「さっきは見えたのに、今駄目になった」
「調子が悪いのかもしれない、これは見える?」
パチュリーは霊夢から見えないように、手を丸めながら紙片を一枚裏で見せた。
「さっきの結果のメモか、ちゃんと見える」
魔理沙は目を凝らして紙片の裏を透視した。その後キョロキョロと周りを見渡す。霊夢の向こうには座卓から降ろしたであろう本がある。
辛うじてその中の標題紙も透視できた。
「あそこの本も中が少し見える……でもだめだ、座卓が透視できない」
「ふむ……とりあえず続けるしかないでしょう、まだ貴方の勝ち目がなくなったわけではない……」
「あんた達共謀してんじゃないでしょうね。次は、1945」
「んっと、3ヒット」
霊夢は嬉しそうに笑った。もう検討はついたのだろう。魔理沙は益々焦燥感に駆られる。あと一回、勘で当てるというのは些か厳しい。
しかし、可能性は0じゃない、ここまで来たら自分の勘を信じるしか無い。
「92…35?」
「残念、ハズレ。もういいわよね、魔理沙の数字は1940でしょ」
「……正解」
あっさりと霊夢はいうと、ふふんと笑みを浮かべる。魔理沙は当てられたことよりも透視が出来なかったことが気になって、気抜けしていた。パチュリーも少し考えている。
「怪しいと思って貼ったこれが効いたのかしらね」
魔理沙達の様を見て霊夢は座卓の裏を二人に側に向けた。
そこにはあの箱の中に入っていた青い手のステッカー、ハムサが貼られていた。魔理沙は唖然とする。
「それ!お前が持って帰ったんだったか」
「あれは、ハムサ……?」
「邪視避けなんでしょう?手が目線を防ぐ図形なのかと思って。魔理沙がずっと座卓を睨んでいて怪しいから貼ったのよ」
「そういうことか……」
やっぱりあの時、無理に全部もって帰ってしまえばよかったなと魔理沙は後悔を通り越して落胆した。
「どんな種があるのか知らないけど、そんなんじゃ私は欺けないって事よ」
霊夢は怒りもせず、ただ満足気に笑った。
翌日。魔理沙は足場の無い家で適当な場所に座って、じっとスプーンを曲がっていないスプーンを睨んでいた。
じっと見つめていると、スプーンに写った逆さまの自分の後ろに人影が映る。振り向くとパチュリーが呆れ顔で魔理沙を見ていた。
「ここ少しは片付けたら、泥棒が入った後みたい。現在進行形で居るけど」
「必要な物の場所はわかる。それより訪ねてくるなんてどうしたんだ?」
「どうしたって……今日も検証するからに決まってるじゃない」
「ああ……悪いけど、それはもう出来ないと思う」
魔理沙は再びスプーン軽く見ると適当なガラクタの山の中に投げ入れた。
パチュリーはそれを見て足場を探り探り魔理沙の方を近づいた。
「もしかして……超能力使えなくなった?」
「みたいだ。昨日帰ってから。急に使えなくなってた」
神社で数字ゲームに負けた後、種が有ることがバレたも同然の魔理沙は再戦はせずにすぐに帰った。そして何となしにまたスプーンを曲げようとしたら、曲げられなかった。
サイコロも思った通りの数字が出ない。透視もまったくできない。調子が悪いとできなくなるとは聞いていたが、そういう一時的な感覚ではない。
念じてもうまくいく手応えが全く無く、力は失せていた。
「そう……」
「あんまり、驚かないんだな」
「直ぐに使えなくなるとは思ってた。まさか昨日の今日とは思わなかったけどね」
「なんだ、わかってたのか?」
「超能力は非常に不安定。ある日や、できごとを境に使えなくなることはよくあること。例えば二十歳になったら、結婚したら、メディアに出たら、欲を出して金儲けしたら、そんな変化で使えなくなったという人もいる。それに貴方はゲラリーニだから」
「ゲラリーニ?」
「ユリゲラーを見聞きした人が、超能力に目覚める人が多いから、そう呼ぶこともある。あまり長続きはしない事が多い」
「ふーん、確かに私がスプーン曲げの話聞く以前はスプーン曲げだけじゃくて、サイコロとかも思う通りには成ってなかったな」
「貴方こそ、意外と落ち込んでないのね」
「まあな。お前の話を聞いて納得もできた」
「……あと、ハムサの事だけど」
「わかってるよ、それも含めて納得できたという事だ」
魔理沙はパチュリーの言わんとする事が分かっていた。
家に戻った後に魔理沙は考えていた。
──あの時はハムサが透視を単に阻止したと納得した。しかし考えてみると邪視避けのハムサは元々ただの視線を防ぐ覗き見防止の物じゃない。
邪視は人を憎んだり妬んだりする視線が、悪影響を与えるという考えが元になっていた筈だ。それを受けてしまうのを防ぐのが邪視避けの持つ力。
ならば座卓の向こうの紙片を見るにあたって、ハムサが視線を防ぐなんてことは本来ありえない。
仮に視線を防ぐなら、私が憎んだり妬んでたという事になる。でも何の変哲も無い紙を憎むなんて乱心めいた事はしていない。
座卓の向こうには何があったのか。答えは一つ、本当は私は霊夢を見ようとしていたんだ。
超自然的な感覚を持つ霊夢に対し、良からぬ気持ちを持っていた……。そう考えるのが一番納得できる。
邪視的な物を感じ取ったハムサがその視線が届く前に止めてくれたのだ。幸か不幸か。
そういう気持ちがなければ、難なく透視出来ていたのかもしれない。敵は目の前でなく自分の中にいた、と言うと使い古された陳腐な言葉になってしまうが。
そんな誰しも知っていることを私は分かっていなかったのだろう。何にせよ霊夢は、昨日初めに会った時から既に勘を遺憾なく発揮していたらしい。
「これからは魔法の方しっかりやれって事かもね」
パチュリーは魔理沙の横に置かれた曲がったスプーンを手にして弄ってみる。
「超能力も私にとっては魔法だったけどな」
「超能力はまだ本質的な部分の解明ができていないわよ。魔法と違って再現性を求められない場合が多すぎる。だからこそ研究が必要」
「いや、そうじゃなくてさ。本当の魔法は、ボロの服をドレスにして、カボチャを馬車に、ネズミを馬に変えて、12時になったら消えちまうのかなってな」
「……どっかのお伽話じゃあるまいし」
「パーティーに参加したいとか、そんなちょっとした願いを叶えてくれるんだ。私も一応サイコロでは霊夢に勝てたからな」
「貴方らしい、下らない考えね」
「まあ、私の場合は王子様も来ないし、なんにも残らない意味のない話になってしまったがな」
魔理沙はそう言うと少し顔を伏せた。
「……そもそも、そのスプーンの入った箱は何で此処に来たのかしらね。私は持ち主もゲラリーニだったんだと思う」
パチュリーはスプーン弄りをやめて、
「んー?偶々だろ」
「外の世界では、超能力に懐疑的な人も多くいる。もしかしたらその関係で幻想郷に来たのかもしれない」
「そりゃこんな直ぐ無くなっちまうんだったら、信じるのは難しいかもしれないが」
「超能力が使えないのに使えると語る輩も居るし、実際に偽物と暴かれた記録も多い。だから外の世界では超能力者は常に奇異と疑いの目で見られている筈。自分には無い力と知ったら、それを疎む人も多い」
「私は人気者だったと聞いたがな。」
「ハムサも、中にあったんでしょ?」
「あ、そうか……」
魔理沙は頭の中で想いを巡らす。
箱の持ち主は超能力のせいであまり良い思いをしなかったのだろうか。
だからこそハムサを持っていた?スプーンを含めて全て隠すべく缶の箱に詰めた?写真を破くのも良いことには思えない、持ち主が写っていたとも考えられる。
そしてハムサ自体が入っていたという事はもう必要としていないのか……。
色々考えられるが、他にも色々入っていたし、無論断言は出来ない。
ただそう考えるならば、この缶は持ち主が現実から消し去りたかった物の集大成という事か?
消し去りたい記憶という事なのだろうか。いや、そう考えるよりは……
「この持ち主にしろ、貴方にしろ……シンデレラだって、魔法が解けてもガラスの靴は残った」
パチュリーは言いながら、曲がったスプーンを魔理沙に手渡して続ける。
魔理沙は受け取ったスプーンをじっと見つめた。
「仮にガラスの靴の事に誰も気が付かなくても、パーティーで何かを得たなら意義の有ることでしょう」
「それは、私を励ましてるのか?」
「……別に」
いつものしかめ面で言うパチュリーに、魔理沙もいつもの調子で応える。
「確かに超能力は私らしく無かったか」
箱の持ち主も、超能力を失ったんだ。
幻想郷にこの箱が来たのは、日常を非日常に変える儚くも奇妙な超能力が幻想的だから。と思う。
だからこそ、持ち主は力が無くなって全てを箱に詰めたんじゃないか。
超能力と決別し、良いこと悪いことでは無く何を得たのかを冷静に見る為に。
非日常を、日常に還元する為に……。魔法は解けてからが本当の始まりなのかもしれない。
「私も私なりの日常に戻らなくちゃいけないな」
魔理沙は曲がったスプーンを無理やり手の力で元の形に戻すと、肩越しに後ろに放り投げた。
霊夢と魔理沙の勝負は弾幕勝負が多いですから、たまにはこういった運試しでの勝負も良いかと思います。
ただ、もう少し白熱して欲しかったかなーと思ってもいます。
でも充分読んでいて楽しめましたし、なによりキャラ達の感情表現がよかったと思います(特に霊夢が驚いているところ)。
脱字報告 中盤辺りの霊夢の台詞で、最後に鍵括弧(」)が抜けています。
長文失礼いたしました。
次回も楽しみにしてます。
「マーズ・アタック」のB級っぷりについて熱く語り合っていた。なんて妄想。
意外で面白かったです。
この二人は先輩後輩って感じがいいですよね。
境に、でしょうか。
科学的な実証……再現性など確認できないものがあるとして、一概にそれが嘘である、とは言い切れないのかもしれない。そんなことを思いました。
思考実験の種になるだけじゃなく、「何かある」と思いたいですね。東方スキーとしては。
楽しませていただきました。
人物の描写がとてもよかったです
やっぱり基本はパワー(力技)なのか
とにかく掛け合いがいい。
そして霊夢が可愛い。
超能力。使えたら文字通り世界が一変したりするんでしょうか。