竹炭を届けてくれた者への礼も済ませ、慧音と妹紅はのんびりと過ごしていた。
「それにしても、ああいう爆発って本当にしょっちゅう起こってるのね…」
「はは、まぁそれなりにな…」
先程の爆発を思い出しながら、改めて妹紅が尋ねると、慧音は困ったように笑いながら頷き返す。
信じられない事だが、実際にその光景を目のあたりにしており、
里の住人も気にした様子がない事は確認しているので認めざるをえない。
「けっこうマトモな場所だと思ってたけど、考えを改めた方が良さそうだわ」
博麗神社を筆頭に、紅魔館や魔法の森など、幻想郷には様々な変わった場所がある。
その中で、人間が暮らしている里が唯一普通の場所だと思っていた妹紅は、
改めてこの幻想郷は自分を含めて変わり者が多すぎる事を実感していた。
「あれでもいつもより大人しい方で…ん?」
「すいませーん!」
慧音がフォローを入れようとした所で、玄関の方から誰かの声が聞こえてくる。
どうやら、来客のようだ。
「あぁ、はい、今行きます…すまんな、妹紅」
「いいわよ、だらだらしてるだけだし」
来客への応対に行く慧音に気にするなといいながら、用意されたお茶を飲んで戻ってくるのを待つ。
暫く話し声が聞こえていたが、それが止むと部屋に戻ってくる足音が聞こえてきた。
「…阿求が遊びに来たのかしら?」
わざわざ慧音の家に上がり込む人物が阿求くらいしか思いつかず、ぼんやりとそんな事を考える。
「やっぱりここにいたのね、妹紅さん!」
「あぁ、あきゅ…じゃない!? な、何、まだ何か用?」
やってきた人物を阿求だと思い、振り返りながら挨拶をしたところで、自分の予想が外れていたことに気付く。
部屋の前に立っていたのは、小兎姫だった。
「あー、まぁなんだ…お前に話があるそうだ」
「は、はぁ。いやまぁ、話だけなら聞くけど…」
「ありがとうございます、助かるわ」
困った様子で説明する慧音を見て、話を聞かざるを得ない状況だと悟り、
妹紅も仕方なくといった様子で了承する。
「じゃあ、えーと…妹紅さん、警察の仕事に興味はないかしら?」
「ない」
どう切り出すかしばらく考えてから、小兎姫がそんな質問を投げかけた。
しかし妹紅は一瞬も悩む様子を見せずに、キッパリと断る。
「……実は、うちも人手が足りなくてね? 最近は里の近くでも危険そうな妖怪が目撃されてるし…
でも、有志の自警団とかに里の外を見て回れって言うのも酷な話じゃない」
「無視された…」
妹紅の返事を聞いて少し固まった小兎姫だが、すぐに気を取り直すと話を続けてきた。
どうやら断らせるつもりは無いらしく、妹紅はどうやって逃げるかを考えるのだった。
「そこで、大抵の妖怪を追い払える実力を持っている妹紅さんに、
里の周辺の見回りをお願いしたいと思って、こうして訪ねてきたんだけど…」
「この件については、私からもお願いしたい…
差し迫っての危険がある訳ではないが、いつどのような被害が出るとも知れないからな」
小兎姫に続いて、慧音からも手伝って欲しいと頼まれてしまう。
わざわざ家に入れたのは、これが理由だったのだろうと妹紅は推測していた。
「うぐ…慧音に頼まれたんじゃ、無下に断れないわね…」
日頃から世話になっている事もあり、妹紅も慧音に頼まれると断れない。
とは言え、他にもする事はあるので二つ返事で引き受ける訳にも行かなかった。
「…とりあえず、四六時中里に滞在するのは難しいけど…
時間を決めて見回りをする程度なら、手伝ってもいいわ」
「本当に!? 良かったぁ、これで私が無能だとか言われずに済むわね」
妹紅が提示した条件でも十分なのか、小兎姫が安堵しながら呟いた。
どうやら、里の人間からの評判はあまり良いとは言えないようだ。
「それで十分だ、無理を言ってすまないな…よろしく頼む」
「引き受けた以上、仕事はきっちりこなすわよ。私に任せておけば大丈夫」
すまなそうに言う慧音に力強く答えて、やる気をアピールする。
「じゃ、細かい部分を詰める為に一度私の家に移動しましょう」
「はいはい…じゃ、ちょっと行ってくるわ、慧音」
「あぁ、気をつけてな。私にも手伝える事があれば、いつでも言ってくれ」
気が変わらないうちに、と小兎姫がさっそく見回りの下準備をする為に妹紅を連れて行く。
その様子を頼もしく感じながら、慧音も可能な限りの手伝いを約束するのだった。
軽い仕事の打ち合わせが終わり、妹紅は警察署でくつろいでいた。
「そう言えば、気になったんだけど…なんで魔法使いと一緒に暮らしてるの?」
お茶をすすりながら、ふと疑問に思って小兎姫に尋ねる。
常識的に考えればまずあり得ないような組み合わせである為、
疑問に思うのも無理の無い事だろう。
「え? あぁ、それは少し前に色々あってね…成り行きよ、成り行き」
大した事じゃない、とでもいう風にひらひらと手を振りながら、小兎姫が答える。
「人を捕まえておいてよく言うな、まぁ別に困ってはないが」
「むしろ完全に利用してるわよね」
横で聞いていた理香子とカナが、その発言に突っ込みを入れた。
「へぇ…どうせ今はする事もないし、どんな経緯があったのかはちょっと気になるわね」
暇つぶしには丁度いいと思ったようで、妹紅が更に詳しく聞きだそうとする。
「あー、まぁ面白いかは保証しないけど隠すような事でもないし…時間つぶしにはなるか」
少し面倒ではあったが、話さない理由もない。
決して面白い話ではないと前置きしながら、小兎姫が語り出すのだった。
事の始まりは、博麗神社に古代遺跡が現れた異変まで遡る。
突如として神社に現れた現れた奇妙な建造物では、
もっとも強い人の願いを何でも叶えると言うチラシが配られていたらしく、
それを見て集まってきたのが彼女たちだった。
「私も警察と言う事を隠して、調査しに来ていたのよ」
「あぁ、そう言えば前に慧音に聞いた気がするわね…そんな出来事があったって」
当然ながら、大半の者は信じておらず無視していたのだが、ここの三人はまったく違ったようだ。
「もし本当に願いが叶えて貰えてたら、あの巫女さんが欲しいとか言ってみるつもりだったけど。
やっぱり弾幕ごっこの考案者だけあって素晴らしい弾幕を見せてくれるからね…ふふふ」
「まぁ、残念な事に負けちゃったんだけどね~」
さらっととんでもない発言をしながら、霊夢の弾幕を思い出した小兎姫が恍惚とした表情を見せていた。
カナの横槍も特に気にした様子はなく、そのまま話を続けてくる。
「で、その霊夢に負けた時に言われたのよ。私よりも、そこの異教徒でも捕まえればどうだって」
「…異教徒?」
「私がその異教徒よ。ちょっと科学の研究してるだけでこの扱いとか、酷い話だ」
異教徒と言う言葉に疑問を持った妹紅が尋ねると、小兎姫ではなく理香子が答えた。
当時は科学と言う物に馴染みなかったためか、そのような扱いを受けていたらしい。
「で、私も納得して捕まえた訳よ。ちょうど魔理沙にやられてたから」
「そんな理由で捕まえるんだ…」
やはり悪びれた様子もなく言い放つ小兎姫を見ていた妹紅は、
本当にこんなのが警察をやっていて大丈夫なのかと危機感を覚えていた。
「捕まえて檻に入れたまでは良かったんだけど、全然大人しくしてくれなくてねー。
しまいには、檻の中で科学の研究まで始める始末よ」
「当然だ、出るまで悠長に待ってられるわけがない」
「…と言うか、脱走するくらい簡単なんじゃ…」
飽きれた様子の小兎姫に対し、理香子が当然のように応える。
魔法使いなら簡単に逃げられると思っていた妹紅は、何故そうしなかったのか疑問に感じていた。
「そう思ったんだがな、ここにいると掃除とかをしなくて済むし何かと便利なんだ。
身の回りの事をやってくれる分、研究に打ち込めると言うものだよ」
「…本当に研究以外には無頓着なのね…」
魔法使いは大体、自分の事より魔法の研究を優先する連中だと妹紅は認識していた。
知ってる魔法使いもそんな感じなので、それ自体は納得できる理由ではあった。
もっとも、檻の中ですら構わないと言うのは予想していなかったが。
「はた迷惑な話でしょ? まぁ、その分私の仕事も手伝わせてるけど…魔法って便利だし」
「研究の成果を合法的に試せるからね、要は持ちつ持たれつという関係よ」
「良いのか警察がそんなんで…」
聞けば聞くほどこんなのが警察で大丈夫なのか、と不安になる妹紅だったが、当然二人は気にしていなかった。
これ以上は言うだけ無駄だと思った妹紅は、今度はカナについて聞いてみる事にした。
「とりあえず、貴方達の事は分かったけど…カナだっけ、そっちはどうして?」
「あぁ…カナはその事件以来、博麗神社の方に取り憑いていたのよ。賑やかそうだからってね」
「まるで騒霊みたいね、それ」
取り憑いていたという表現が比喩だと思ったのか、そんな感想を漏らす。
「あれ、言ってなかったっけ? 私はれっきとした騒霊よ」
「え…いや、私が見た事あるのはもっとうるさくて楽器をかきならしてた気がするんだけど…」
自分の持っていたイメージとは随分と異なる騒霊の姿に、妹紅が驚きながら尋ね返した。
そのイメージの元になった騒霊とも面識がある訳ではないが、宴会の席などでよくライブをしている姿を見かけている。
なのでてっきり、騒霊と言うのは総じてああいう存在なのだろうと思っていた。
「あぁ、プリズムリバー楽団かしら? 有名だしねー、私もたまに歌わせてもらってるわ」
「…たまに歌わせてもらってるって…」
「カナの歌は中々の物よ、滅多に歌わないけど…って、それは今の話と関係ないわね」
少なくとも妹紅は見かけた事が無いため、真偽の程は分からなかったが、騒霊なら歌が上手くても不思議は無い。
そんな風に考えて納得すると、話の続きを待った。
「で、まぁ神社に住み着いてたけど当然追い出されたのよね。先客もいたみたいだし。
で、行くアテもなく彷徨っていた時に、何の因果かここを見つけたらしくてね…」
「二人の言い合いとか定期的に起こる爆発とか、私にとってはすごく魅力的だったのよねー。
里なら人間が多くて妖怪もやって来るし、賑やかだから飽きないわ」
「…なんだかもう、警察って言うより第二の博麗神社みたいな状態ね…」
迷惑そうな口ぶりの小兎姫だが、言うほど悪くは思っていない事がその表情から見て取れる。
その姿がどことなく霊夢と似ているように感じて、若干飽きれながら言った。
「あちらほど妖怪ばかりではないし、圧倒的に里よりは近いので私たちが有利だな。基本的に暇だが」
「大した事件も起きないから仕方ないじゃない、元々それほど仕事なんか無いのよー」
何が有利なのかは分からないが、確かに里の中であり警察と言う立場なら、人間からは頼られるだろう。
それでも妖怪退治を霊夢が担当している辺り、双方共に依頼が競合するという事はなさそうだった。
「…なのに人手を増やしたの?」
「それはそれ、これはこれよ。神社だって近くないし、呼びに行ってる間に手遅れになりました、じゃ笑えないでしょ」
「まぁ、それはそうか…」
小兎姫の言ってる事は確かに正しいので、妹紅もそこは素直に頷いた。
要は自分に求められているのは、霊夢を呼びに行くまでの時間稼ぎという事なのだろう。
「あの立地だもんねー、新しく出来た病院もそうだけど、なんで便利な場所が近くにないのかしら」
「まったくだな、私は別に困らないが…合理的ではないわ」
幻想郷の東端にある博麗神社と、迷いの竹林の奥深くにある永遠亭を引き合いに出して、
どうしてこんなに離れているのかとカナが疑問を口に出していた。
それについては理香子も同意見なのか、同調するように頷く。
「騒霊と魔法使いがそんな心配するなんてね…ま、永遠亭は引き篭もりが頂点にいるし仕方ないでしょ」
「あら、詳しい…って、竹林に住んでて道案内もしてれば当然か。その頂点にいる人ってどんな人なの?」
「え? 過去の栄光にすがって自分では何もしないダメ人間よ、元姫なだけあって無駄に偉そうだけど。
死んだ方がマシだろうから何度も殺してるけど、まーしつこい事しつこい事」
永遠亭のリーダーである蓬莱山輝夜の事を聞かれて、嘲笑を交えながら妹紅が答えた。
「…え、殺してるの? それはいけないわね…」
「不老不死だから殺すだけ無駄な気が…って、そういう事か」
「あー、これは言い逃れできないわね」
その言葉を聞いた小兎姫が、不適な笑みを浮かべる。
理香子とカナはその様子で何を狙っているのか察したようで、口を挟むのを中断する。
「どうせ死んでも生き返るから、その都度殺して…ってちょっと、何よこの手錠は」
話している途中でいつの間にか手錠をかけられている事に気づき、妹紅が尋ねた。
「藤原妹紅、貴方を殺人罪で逮捕するわ!」
「な、なにぃっ!?」
この瞬間を待っていたと言わんばかりに、小兎姫が得意げに言い放つ。
確かに相手は警察である以上、たとえ相手が不死身でも殺していると言ったのはマズかった。
しかしいまさら気づいても、もはや手遅れである。
「ふっ、計画通りね…尋ねれば当然答えてくれると思ったわ!
そして今ここで刑を言い渡しますっ、当分の間警察の仕事を手伝うの刑よ!」
「やれやれ、最初から協力的だった相手によくもまぁ…」
「さすが小兎姫ね、これでまた賑やかになりそうだわ」
最初からこれが狙いだった小兎姫は満面の笑みを浮かべている。
その様子に理香子はあきれ、カナは嬉しそうにはしゃいでいた。
「ふ……ふざけるなぁぁぁぁっ!!」
さすがにこの扱いには妹紅も怒りを覚えたのか、大声で叫ぶと自分を中心に派手な火柱を上げる。
怒りに任せながらも周りに被害は出さないように調整された炎が、家に新たな天窓を作っていた。
ぽっかりと穴の開いた屋根から夕暮れの空を見上げながら、カナがのんびりと紅茶を口に運ぶ。
その周りには、白衣が若干焦げて不満そうな理香子と、煤けて気を失っている小兎姫がいる。
「それじゃあこれからよろしくね、妹紅さん」
「よろしくできるかぁぁぁーっ!!」
相変わらずの笑顔で言ってくるカナに、妹紅が全力で怒鳴り上げた。
こうして里の警察署は、爆発だけでなく火柱も上がる場所として更なる悪名が広まる事になったのだった。
やっぱりこのもこたんは姫折檻用の七つ道具を作ったりするんだろうか。見たい。
心綺楼見ると少女たちの決闘も花火大会の一種ぐらいの認識みたいだしw
win版とどう繋げていいか分からないし、そもそも旧作の人たちはどう過ごしているのか……