Coolier - 新生・東方創想話

「どうして私を巻き込むの!?」

2013/05/25 19:03:02
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 藤原妹紅は、慧音に頼まれた竹炭を届ける為に、人間の里を訪れていた。
「まったく、量を聞くのを忘れてしまうとは…これで足りると良いけど」
 少し大きめの麻袋一つ分の量になった竹炭を眺めて、妹紅が呟く。
「ま、足りなかったらまた用意すれば良いわね」
 竹炭を作る事自体は大した手間ではない事もあって、とりあえず届ける事を優先する。
 普段と変わりない人里の様子を眺めながら、慧音の家へ向かって歩き出そうとした、その時──
突如として、遠くの方で爆発音が鳴り響いた。
「今のは爆発音…どこかの妖怪が攻撃でも仕掛けてきたか…?」
 こんな昼間から、それも里の中で爆発が起こった事に妹紅は驚いていた。
 人間の里を襲う様な思慮の浅い妖怪がいるとは考え難いが、とにかく確認しない事には始まらない。
 立ち込める煙の方角を確認すると、急いで爆発現場へと向かっていった。


 爆発したのはどうやら、普通の民家ではないようだった。
 あれだけ大きな爆発音が聞こえたと言うのに、周りに人だかりなどは出来ておらず、
妹紅が見た限りでは、洋服を着た異国のお嬢様のような雰囲気の少女が立っているだけだった。
「里の人間はともかく、慧音が見に来てないなんて…ちょっと、そこの貴方、何があったの?」
 どこに妖怪がいるかも分からないので、里の人間が様子を見に来ないのは理解できるが、
里の守人でもある慧音まで様子を見に来ていない事に違和感を感じていた。
 だが、今は妖怪の脅威を取り除く事が大事だと思い、佇んでいる少女に声を掛ける。
「あ、こんにちは~。何って、見ての通り…家が爆発したのよ」
 少女は呑気に挨拶を返しながら、爆発した建物の跡を指して答えた。
 音の割りに被害は大きくなかったようで、二部屋ほど吹き飛んで辺りが焦げてしまった程度のようだ。
「何をそんな呑気に…もしかして、貴方の仕業?」
「違うわよぉ、爆発の原因なら…ほら、そこで気絶してるし」
 その態度と人間ではない者の気配を感じた妹紅が、不信そうに尋ねる。
 それをあっさりと否定すると、爆発に巻き込まれて気絶している少女を指差した。
「原因って…気絶してるじゃないの」
 何者かからの攻撃だと思い込んでいる妹紅は、疑問に思いながらさらに詰め寄った。
 気絶している少女は白衣を着ていたようだったが、爆発に巻き込まれたのか見る影もなくボロボロの黒焦げになっている。
「そんなのいつもの事よ。理香子ったら、いつも実験に失敗して爆発を起こすんだもの。
あんまりしょっちゅうだから、見ての通り誰も気にしないようになっちゃったわ」
 理香子とは白衣を着ていた少女の名前のようで、気絶している姿に飽きれながら少女が言った。
 言われてから改めて周囲を見渡すと、確かに爆発の事を話してはいるようだが誰も心配する気配がない。
 その事から、少女が嘘を言っていないのは間違いないようだった。
「どうやらそうみたいね…って、それでも放っておくのはマズいんじゃないの?」
 いくらよくある事だと言っても、怪我をしている可能性があるのに放っておく訳には行かないだろう。
 そう思って理香子の方に駆け寄ろうとした妹紅が、家の焼け跡からこちらへ向かってくる人影に気付いて足を止めた。
「そのバカは放っておいて大丈夫よ、魔法使いだし…けほっ。殺したって死なないわ」
 理香子と同じく若干焦げた状態の少女が、飽きれた様子で言った。
 スーツのような服を着ていたようだが、やはりこちらもボロボロになっている。
「えーっと…貴方は?」
「私は小兎姫。一応、警察の仕事をしている者よ。で、ここは私の仕事場」
 戸惑いながら妹紅が尋ねると、小兎姫と名乗った少女が面倒そうに答えた。
「あ、良かったー、無事で。見当たらないから今度こそ死んだのかと」
「こんな程度で死んでたまるかって話よ…と言うかカナ、あんまり物騒な事口にしない」
 小兎姫の無事な姿を確認した少女が、安心した様子で言う。
 どうやら、こちらの少女はカナという名前らしい。
「それより丁度いいわ、せっかくだしアレを起こすの手伝ってちょうだい」
「え、あぁ…私が? まぁ良いけど」
 乗りかかった船だろうと言わんばかりに、小兎姫が妹紅に手伝うように促す。
 まだ状況は飲み込めなかったが、断る理由もないので素直に協力するのだった。


 助け出してから暫く待っていると、ようやく理香子が目を覚ました。
「うぅ、ん…また実験は失敗か…」
「失敗か、じゃないわよ! 一体何回壊せば気が済むの、いつも私まで巻き込んで!」
 目を覚ますなり実験の失敗を察した理香子を、小兎姫が怒鳴りつける。
「頭に響くから、もう少し静かに喋ってよ…それに、ちゃんと直すんだからいいだろう」
「そういう問題じゃないの! まったく、爆発は良いけど私を巻き込むなって言ってるのよ」
「爆発はいいんだ…」
 どこかずれた会話をしている二人に戸惑いながら、妹紅がそう呟いていた。
 カナはそんな二人の様子を、にこにこと笑いながら眺めているだけで仲裁に入る様子はない。
「まぁ、何とも無いみたいだし私はこれで帰るとしよう…」
 一先ず問題はなかったようなので、長居は無用だと思い妹紅が立ち去ろうとする。
 本音を言えば、面倒な事に巻き込まれそうな予感がしたからなのだが。
「あ、ちょっと待って。もしかして貴方、藤原妹紅さん?」
「どうして私の名前を…いや、珍しくはないか…」
 立ち去ろうとした妹紅に向かって、カナが思い出したように声を掛ける。
 どうして自分の名前を、と疑問に思った妹紅だったが、
阿求の書いた縁起に絵つきで載っている為、考えてみれば不思議な事ではなかった。
「なんですって!?」
 それを聞いて一番大きな反応を示したのは小兎姫で、理香子の事も忘れて妹紅の前に回りこんだ。
「うわっ!?」
「妹紅さんと言えば燃えるように熱く美しい炎の弾幕で有名なあの…
まさか本人に会えるなんて! ねぇねぇ、貴方の弾幕を見せて! と言うか体験させて!」
 目を輝かせながら迫ってくる小兎姫に、どうすれば良いのかと妹紅が理香子とカナを交互に見る。
 その視線に気付いた理香子は飽きれた様子で首を横に振り、カナは相変らずにこにこと笑っているだけだった。
「天狗の写真で見た事はあるけど、やっぱり実物じゃないとその美しさは分からないと思うの!
ね、だから良いでしょ!? 大丈夫、ちょっと民家が燃えたとしても不問にするから!」
「いや、あらゆる意味で良くないでしょ! と言うか落ち着いて、近い近い!」
 さらっと問題発言をする小兎姫に怒鳴りながら、妹紅が何とか落ち着かせようとする。
 しかしそんな事もお構いなしで、更に小兎姫が迫ってきていた。
「そんなつれない事言わないでよ、ここで会ったのも何かの縁だし! その記念に是非…」
「やれやれ、また悪い癖が出たか…妹紅が困っているだろうに」
 いつの間にか現れた上白沢慧音が、妹紅に迫る小兎姫を強引に離れさせる。
「止めないでよ先生、大事な瞬間がここにあるのよ!」
「…せいっ!」
「ふぎゅっ」
 止めても尚暴走を続ける小兎姫を見て、
何を言っても無駄だと判断した慧音が強烈な頭突きをお見舞いした。
「け、慧音…助かったわ。それにしても、どうしてここに?」
 動かなくなった小兎姫がカナに介抱されている様子を横目で見ながら、妹紅が尋ねる。
「あぁ、竹炭の入った袋を届けてくれた者に話を聞いたんだ。
それでここに来た事が分かったから、様子を見に来たんだが…来て正解だったようだな」
「そういえば、放って来たからなぁ…後で届けてくれた人にはお礼を言わないと」
 爆発した場所に向かった時の事を思い出し、
慧音に届けるはずだった竹炭の袋を置いてきてしまった事を反省していた。
 盗られても大きく困るような事はないが、多少なりとも損失はあるのだから当然だろう。
「ごめんなさいね、小兎姫も悪気がある訳じゃないの。ただちょっと弾幕マニアなだけで」
「あ、いや、別に何かされた訳でもないし…気をつけてくれればそれでいいわ」
 そんな二人のやり取りを聞きながら、カナが申し訳無さそうに言った。
 こういう所だけはしっかりしているのね、と感心しながら言葉を返す。
「建物の修復は終わったわよ…って、なんで小兎姫はまた寝てるんだ?」
 爆発して損壊した部分の修復を終えた理香子が、気を失っている小兎姫を見て不思議そうに言った。
「えーと…局所的緊急措置かな? またいつもの病気を発揮してたから」
「あぁ、なるほど…また頭突き食らったのか」
 分かり難い説明だったがそれで状況を把握したのか、理香子が納得する。
 慣れているからなのか、頭が良いからなのかは判断が難しい所だ。
「とりあえず、問題ないみたいだし私はこれで失礼するわ…また絡まれても困るし」
「ん、では私も戻るとしよう…妹紅、せっかく里まで来たんだから私の家で休んで行くといい」
「そう? じゃ、お言葉に甘えようかしら」
 事態も一段落した事を確認すると、二人は慧音の家へと向かって歩き出す。
「はーい、お疲れ様でーす」
「わざわざ悪かったわね、まぁ次からは特に気にしないでくれ」
 気絶している小兎姫を運びながら、カナと理香子が後姿に声を掛ける。
 これでようやく、爆発騒動は落ち着いたのだった。

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