Coolier - 新生・東方創想話

洋食器

2013/05/15 17:59:35
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今日も短くなり始めた日が落ち始める頃合いを見計らってそれは現れた。

「こんにちは、霊夢」

階段を上り、鳥居をくぐったそれはいつも通りの茜色の空に映える青色のドレスに白いケープを付けた繊細な西洋人形のような見た目をして、人形のようでないなめらかさでこちらに会釈をしてきた。その左手にはいつもの大きなバスケットが下げられていた。
今日もまたお節介を焼きに来たのか。

「この時間はもう“こんばんわ”よ、アリス」
「それは失敬したわね。本当は“こんにちは”のうちに来たかったんだけどね。今日もお掃除かしら?」
「うちの森の葉は四季いつでも落ちるからね」
「年中無休で大変ね。月並みだけどご苦労様」
「仕事の一環よ」
「私の家の傍の森や山みたいに秋に一気に落ちればいいのにね」
「そんなの鎮守の森じゃないわ」
「あら、そういうものなの?」
「図書館で本でも借りて出直しなさい。それで、」
「今日はなんの用事?でしょ」

先手を打たれて思わずむぅと唸った。
分かってるなら言わせるなとジトリとした目で睨んでもアリスは涼しい顔をしている。むしろ楽しそうでさえある。

「毎回も言われるんですもの。もう分かってるわ。ちょっと夕ご飯を作りに来たのよ」
「じゃあ次の台詞も分かってるわよね?」
「インドア派なら夕ご飯くらい自分の家で作りなさい、でしょ」
「分かってるのに何で来るのよ」
「今日はたまたま買い出しに来たら遅くなって寄っただけよ」
「よくこうも毎回たまたまが続くものね。この前も同じ理由だったわ」
「ふふふ、何のことかしら。ということで台所を借りるわ。お皿は棚のを適当に使うわ」
「こ、こら、勝手に上がるな!」

勝手知ったる他人の家とでも言わんばかりの素知らぬ顔で玄関へと向かっていくアリス。掃除をしている私は置いてけぼりになるのを防ぐために、その辺の木に箒を立てかけてその後を追った。

いつもこういった感じなのだ。
春の異変が終わって以来、月に一度は必ずうちにやってきては何かと理由をつけて夕食やらを一緒に食べるようになった。多い時は月に3回以上やってくる。それも時たま妖怪どもが勝手に集まってやっている宴会を除いて、である。
アリスは私の調理場を勝手に使用して勝手に料理を作りそれをさらに勝手に私に出す。私の好みも何も気にせずに、ほとんどが洋風。真夏なのにあつあつのぐらたんというものを出されたことさえある。
本当腹立たしい。本当に勝手まみれだ。親の顔が見てみたい。きっと人間できてないようなアホ毛の生えた輩なのだろう。
文句は数多あれど、しかし料理は粗末にするものでは無いのできちんと頂く。

アリスと一緒に家に入ってから早30分である。アリスが台所を使い始めてからは20分である。まだかまだかとアリスが居間に入ってくるのを待っていると、お盆を持ったアリスが居間に入ってきた。三角巾を頭に巻いているところを見ると作ってすぐに持ってきたらしい。
「お待たせ」
「待ってなんかないわよ」
「その割には早くからここにいてくれてたのね。掃除の続きはもういいの?」
「あんたが変な事しないか見張る義務があるのよ」
「はいはい」
アリスは三角巾を解いて、自分の分と私の分の皿を置いてちゃぶ台に着いた。
湯気の立つお茶も湯飲みに淹れて準備は完了である。

『いただきます』

「……、いただきますって言っておいてなんだけどこれ何?」
「これはナポリタンよ。霊夢は初めてかしら?」
「し、知ってたわよそれくらい!」

ふむふむ、今日のこの赤い餡?が絡められた麺はなぽりたんというらしい。たんという発音が妙に愛らしく感じた。
これまたアリスが勝手に私に使わせているふぉーくという三叉槍の親戚のような形の食器を右手に握りしめ、麺の山に差し込むとむわっと湯気が上がった。思わずびくりと顔を後退させてしまう。

「湯気は上がってるけど火傷はしないわ」

クスクスとアリスは私の醜態を笑ってくる。魔女というのは魔とつくだけあってみんなこういやらしいのだろうか?
こほんと空ぜきを1つして気を取り直し、再度なぽりたんに挑戦しようと身構え、私は気が付いた

箸 以 外 で 麺 を 食 べ た こ と が 無 い

今まで食べてきたのはラーメン焼きそばざるそばにうどん、考えてみれば洋食器とは縁のないものばかりだ!全て箸を使って食べている。むしろ箸以外で食べるなんてありえない。
うろたえるな、うろたえるな私。
よくよくアリスの食べ方を観察すれば、あとは博麗の巫女補正でなんとかなるはず――
見るとアリスはふぉーくの枝に麺を挟んでくるくるとそれを巻き取って食べている。
成程、そうすれば確かにこの珍妙な金属食器でも麺を食べることができる。
アリスの食べ方をまねるべくまず私は脇差で相手を刺すときのように持っていたふぉーくを、筆や箸を持つ時のように指で挟んだ。普段こんな平型の物をこうやって持つことは無いのだがここはその違和感も我慢しよう。今までの持ち方では食べれないのだから仕方ない。
見よう見まねで持ったおぼつかないふぉーくを赤い山にぶすりと刺して、回転させる。

くるくる、くるくる、くるくる?

どんどん大きくなる麺の玉を見てアリスが口を挟んでくる。
「ちょっと霊夢、巻き過ぎよ。巻きなおした方がいいわ」
「うるさい!これくらい簡単に食べれるんだから」

アリスの制止を無視して意地を張り、拳大に巻かれてしまった麺を無理やり開けた大口に突っ込む。巻き切れなかった端もくっついてきてかなりの量である。
ほぐほぐと口に無理やり突っ込んで私はリスのような顔になってしまった。
そのままがつがつと麺を噛み切り喉に流す。が

ごふっ、ごふっ

むせた。
言わんこっちゃないといった様子で苦笑いするアリスは私の後ろに回って背中をさすってくれる。不覚である。
アリスに背中をさすってもらって何とか全て呑み込むことができた自分が情けない。

「だから巻き直しなさいと言ったのに」
「だっていけると思ったんだもん、じゃなくて思ったんだから!」
「まだいけるは危険よ。グレイズ狙いで被弾したら目も当てられないわ」
「う…」
「それにあなた、口の周り真っ赤よ?」

アリスはどこからかお手拭を取り出してごしごしと私の口周りを拭いた。
いやいやと抵抗しても無駄でもう片方の手で糸を繰って私の手の自由を奪ってきた。
魔法使いは卑怯である。この年で口を拭かれるのもなんだか恥ずかしい。

「ほらこんなにつけて」

アリスは私の口を拭いたお手拭を見せてきた。
中央に紅でも塗ったかのような汚れがついてしまっていた。

「罪悪感でも誘うつもり?」
「こんなことで小言を言うつもりなんてないわ。ほら、フォーク持って」

そう言われていつの間にか自由になっていた右手でふぉーくを持ち直すと、陶器を思わせる白い腕がその上に這った。
アリスの手はいつでもひんやりと冷たい。断じて気持ちがいいとは思ってはいないが。

「持ち方はそれでいいわ。1つ進歩したわね」
「うるさい。博麗の巫女に死角はないわ」
「はいはい。それじゃあこうやって、二回くらい回して」

私の持っている取っ手の上の方をもってアリスがふぉーくを華麗に動かした

「ふぉーくだんす!?」
「それは違うわ、霊夢。それでは、召し上がれ♪」
アリスの腕に導かれるまま口に一口大に巻かれたなぽりたんを運ぶ。
今回は口にちょうど入るのでむせそうにない。
はぐはぐと噛んで飲み込む。
さっきは口いっぱいに入れてしまって別のことに必死でわからなかったがなぽりたんからはほのかな酸味がした。きっとこの赤色はトマトをどうにかこうにかしたものなのだろう。
「じゃあ続けて」
「もういいわよ」
「あら?自立が早いことで」
ジトリと睨めつけるとアリスはさわやかな笑みを零して私から離れた。
一度やったことなのだ。この私にできないはずなどない。
深呼吸をしてなぽりたんとの第二ラウンドに臨む。

~少女格闘中~

「ご馳走様でした」
「お粗末様。で、結局箸を使ったのね」
「うるさい」
「強がらなくても私と練習すればよかったじゃない。ナポリタンは箸で食べるものじゃないわ」
「私は西洋人じゃないからふぉーくなんて使えなくても箸で生きていけるわ!」
「あらあら」

決して私が不器用だとかそんなものでは無い。
私はふぉーくと相性が悪かっただけなのだ。アリスが苦笑しようが私には関係ない。

「霊夢も食べ終わったことだし、食器洗ってくるわ」
座ったままにアリスは盆に二枚の皿と揃いのふぉーくに朱塗りの箸一組を乗せて立とうとした。が、私が止めた
「それくらい私がやるわ」
「あら、そう?私がやるわよ?」
「いいから私がやるの!」

アリスがそれ以上何かを言う前に、そそくさとお盆を持って茶の間を後にする。
全く、調子が狂わされる。
もちろん、和食では無く洋食をむりやり食べさせられたことで、だ。
決してアリスに手を添えられてドキッとしてしまって何か負けた感じがしたとかそういう類のものでは無い。
流し台に皿等を置いて汲み置きの水で流そうと思い、ぼろの掛けられた水桶に手を伸ばした。
が、私の口を拭いたアリスの真っ赤に模様がついてしまったお手拭が去来した。
あの様子だとこのなぽりたんはなかなかにしつこそうである。
しつこいならわざわざぼろで拭き取るより漬け置きがいいだろう。
そう結論付けて伸ばした手を戻して、代わりに瓶から桶に水を汲み、桶にお盆の中身を突っ込んだ。
ゆらりゆらりと皿は泳いで、水底で折り重なるように落ち着いた。
やっぱりあのお手拭も借りて、洗って返した方がいいかもしれない。
汚したのはアリスのお節介が原因だろうがそもそもの原因は私にある。
きっとそんなことしなくていいと言ってくるだろうが、無理やり奪ってやろう。
そして綺麗に洗って見返してやるのだ。
そうと決まれば善(?)は急げ、早速アリスに言ってやろう
自然と足取りも軽くなる。鼻歌も混じり始めた

がらりと戸を開けて居間に入ると、そこにはアリスはいなかった。
「アリス?」
「こっちよ」
縁側の方からアリスの声がした。廊下とは反対側の障子を開け、縁側に出た。
ツンと冷たい夜気が私をくすぐった。アリスは縁側に腰掛けていた。目は空に向けられている。

「月が綺麗ね、霊夢」
「どういう意味よ」
「ふふ、霊夢には少し早かったかしら」

アリスはさもおかしそうに私を笑った。
月は今雲に隠れて島ているのに、月がきれいだなんていうアリスの方がおかしいに決まっている。
せめてこの場合は星がきれい、だろうに。

「変なアリス」
「いつか霊夢が分かってくれることを祈っておくわ」
「そんな出てない月のことはいいの。さっきのお手拭、出しなさい」
「欲しいって言ってもあげないわよ?お気に入りだし」
「あんたのもんなんか欲しがるわけないでしょ。私が汚したから洗ってあげるの」
「いいわよ、そんな。私が拭いたんだもの、霊夢に悪いわ」
「いいから渡しなさい!」

私が右の手を差し出すと、アリスはしぶしぶポケットから例のハンカチを取り出して、その上に置いた。
私はすぐにそれをぎゅっと握り、スカートのポケットに入れた。

「これで貸し借り無しよ」
「気にしなくてもいいって言ってるのに」
「それに」

台詞の続きを紡ごうとして、顔が熱くなってしまった。
幸い、障子から射す灯りのおかげで顔は影になってアリスには見えていないだろう。
その蒼い瞳に吸い込まれてしまいそうだったので、顔をできるだけアリスの方から逸らしつつ、しかし絶妙にアリスが見える角度に調整して言ってやる。

「これがあったらあんたがまたうちに来るでしょ」
月一で何か書こうと思ってたのに書けなかったでござるの巻。本当は違うものを書いていましたがうまくいかなかったので差し替えでこちらを投稿させていただきました。誤字脱字がありましたら是非ご指摘願います。
みすたーせぶん
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コメント



0.1210簡易評価
7.100ロドルフ削除
博麗の巫女補正ってwww
9.100名前が無い程度の能力削除
なんだよいちゃいちゃしやがって両想いじゃねえかちくせう
10.100非現実世界に棲む者削除
和やかな洋風気分で読ませていただきました。
やっぱりれむアリは良いですね。
どんな些細なことでもこの二人が絡んでくると途端に話が面白くなってしまいますね。

誤字報告「月が今雲に隠れて島ているのに」→「しまっている」でしょうか?

何はともあれ良いお話でした。
次回作も期待してます。
11.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙も和食派ですからね。紅魔館の立食パーティーくらいしか洋食を食べる機会は無いし、使い捨てフォークなど無いからにはそこでもフォークを使う料理はほとんど無かったことでしょう。そして、食器の使い方なんてものは幼少期に習得しないとなかなか難しい。
それはともかくラブラブである。
20.70みずあめ削除
口の周りを真っ赤にしてなぽりたんを楽しむ霊夢さんかわいかったです
22.100名前が無い程度の能力削除
これはいいレイアリ
29.100奇声を発する(ry in レイアリLOVE!削除
良いね!良いね!
33.803削除
デレた……! 霊夢さんの貴重なデレだ!
といいつつ二次創作では結構デレている気もしないでもない。