Coolier - 新生・東方創想話

最強と敗北

2013/05/07 23:10:00
最終更新
サイズ
9.14KB
ページ数
3
閲覧数
2697
評価数
4/14
POINT
760
Rate
10.47

分類タグ

 あまりにも暇だからといって、こんな湖に来たのは間違いだったかもしれない。
 そこらで毛玉が浮いていて、氷がちり紙の様に舞っている。
 今現在、晩夏であるにも関わらず、それが既に終わってしまったかのように寒い。
 そんな此処、氷の湖にはあいつがいる。いや、あいつしかいない。
 晩夏といえどもこの暑い時期には人が寄ってくると思われているかもしれないけど、涼む事もできない程に寒いのだ。それすらも、あいつのせいである。
 と、そこで私はそのあいつを見つける事ができた。
 一度認識してしまえばはっきりと彼女の姿が見え、放たれている弾幕も見える。彼女の向く方向に誰もいないので、見えない敵と戦っているとかいう事ではなく、ただスペルカードの練習をしているのだろう。
 しかし、遠目から見た感想だけど、簡単に避けれそうなスペルね。黄色い弾幕が出せなくなったら、彼女の正面にいるだけで弾幕を回避できそう。
「お?」
 と、そこで私は彼女に気付かれてしまう。
 彼女はすぐにスペルを解除して、嬉しそうに私の元に飛んできた。まだ全然近づかれていないのに、寒い。
「ルーミアじゃない。遊びに来たの?」
「いいえ別に。ただ気ままに飛んでいたらここに着いただけよ。それにしてもスペルカードの研究とは、熱心な事ね」
「ええ。あたいは最強を目指してるからね!」
「最強……」
 目の前にいる青い妖精――チルノは真っ直ぐな笑顔で言う。水色の髪に青いリボン。衣服さえ、青を基調にしている。
「なれるといいわね」
 私の力ない返事にも、チルノは間抜けにはにかんでいた。
「どうかしら。せっかくだから私と勝負でもする?」
 先程のスペルカード程度で、よくそんな自信があるものね。
 でも、今はそんな気分じゃあないのよ。
「遠慮しておくわ。最強を目指すなら、もっと強い人と戦ってきなさい」
 そう言って私は湖のほとりに降りる。
 と、そこでチルノも私と同じように地面に降りた。
「別に遠慮しなくていいのよ。せっかくならスペルの添削係にでもなるけど」
「いいよ。今はあたいもルーミアと喋りたいし」
 チルノは足をパタパタとさせて、私を見ながらまたもはにかむ。いったい何が楽しいのだろうか。
 私はチルノから目を逸らし、湖を見る。……それにしても、毛玉がよく浮いているわね。
「霊夢、吸血鬼を倒したんだって」
 チルノは足を地に着けて早々、私に話しかけてきた。
「吸血鬼って、あの霧の元凶の? さすがね。霊夢にでも勝負を挑めばいいんじゃないかしら」
「とっくに挑んだわよ、あっさり負けたけど。だからあたいはその教訓を生かして、黄色い弾幕も追加することにしたわ」
 ああ、やっぱり正面に潜り込まれたのね。
「でも、次に霊夢と戦った時にもあっさり負けた。私の目前で黄色い弾幕を簡単に避けられたのよ」
 ふむ、そんな避け方があるのね。遠目から見た初見じゃ気付かなかったわ。
 しかし心の中だけで言わせてもらうと、今のチルノは正直、最強にはほ遠い。とても霊夢や吸血鬼に勝てる程の実力があるとは思えないわね。
 それに、そもそも――
「あなたは、どうして最強を目指しているの?」
 その言葉を聞いた途端、チルノの笑みは止まる。
「?」
 それを妙に思った瞬間、チルノの方を見ていた私に湖側から何かがぶつかってきた。
 毛玉だ。さっきからずっと、大量の毛玉が湖中に漂っている。……気のせいか、どんどん増えている気もする。
 そんな私を見ていたチルノは「あ、もうそろそろ回収しなくちゃいけないわね」と言って、湖へと飛び上がった。
 ……回収?
 毛玉の群衆へと向かったチルノは、一番近くにあったそれを捕まえ、自分の胸元へと近づけていた。
 彼女に背を向けられている状態では何をしているのか分からなかったけど、正面に回り込むと理解できた。
 チルノは毛玉を取り込んでいた。胸元に当てられた毛玉は彼女の胸元へと沈むように取り込まれていっている。
 私に気付くと、どういうわけか彼女は気恥ずかしそうに笑い、他の毛玉を次々と取り込み始めていった。
 一時間程経って、それを岸でずっと見ていた私の元に、一仕事終えたチルノが降りてきた。
「そういえば、ルーミアに見られるのは初めてだったね」

コメントは最後のページに表示されます。