「え?」
「回収作業」
恥ずかしそうに頬をかくチルノの元に、未だ湖中に浮いている毛玉の一つが当たる。
「これ、元々はあたいと同じ氷精なのよ」
「……は?」
毛玉が氷精? ……ついにおかしくなったのかしら。
「妖精は、自分の属性ではない自然にとても弱いわ。暑さや寒さ。台風に、空気のバランスが崩れる事。そうすると妖精はこういう核だけの状態になって、新しい器が見つかるまでこのままよ。まぁ、こういう毛玉っぽくなるのは氷精だけで、他がどうなるのかはしらないけどね」
へぇ、あの毛玉一つ一つが氷精だったものだなんて、にわかには信じられないわね。
でも魔理沙は、あれを楽しそうに吹き飛ばしていた気もするけど。
そこまで思って、私は突然頭に浮かんだ一つの疑問をチルノに投げ掛けた。
「あの毛玉の量……いくらなんでも死にすぎじゃないかしら」
この湖で、寒さ以外の災害なんてないだろうし。
「私のせいなの」
私が振り向いた時には、チルノの表情は沈んだものになっていた。
「……あなたのせい?」
「ほら、あたいは最強を自負しているくらい強いじゃない? だから……周りの妖精がそれに耐えられないのよ」
「…………」
本来大人の人間に蹴散らされる程の力しか持っていない妖精の中で、彼女は例外的に強い力を持っている。先ほど言ったように彼女からは、自分で抑えきれない程の冷気が漏れている。チルノがその気になれば、一秒足らずで周辺を氷点下にすることも不可能ではないはず。
でも、少し矛盾染みた謎が私の中に生まれた。
「それだとまずいんじゃないかしら。あなたのせいで同族の氷精が死んでいるのに、あなたがその中身を吸収するのは。更に、あなたの力が強くなって――」
「わかってるよ」
チルノは、最初に見せたものとは全然違う、悲しそうな表情をしていた。
「でもあたいは最強にならないといけないんだ。負けるために」
「え?」
負けるために……強くなる?
「あたいには、とっても仲の良い妖精がいるんだ。氷精じゃあないけどね」
チルノは恥ずかしいのか、私と目を合わせようとしない。
「その子も私程じゃないけど強い力を持っていて、一緒に遊ぶようになったわ。でも、最近はその子さえも、辛そうにしてるの。でも、強い奴に負ければ、あたいの力は散らばる事になる」
強い者に敗れれば、チルノは力を失い、親友を危険な目に遭わせなくて済む。つまりはそういうことだろう。
でも、それって――
「初めから、毛玉を吸収しなければいい話なんじゃないの?」
「駄目よ。確かに放っておいても再生はするけれど、その際に強い自然の力を生み出すのよ」
ほら。と言ってチルノは湖の中空を指さす。
毛玉に混ざってちり紙のように氷が飛んでいるけど、まさか――
「ああいう形になってそこら中に飛んだり、寒さが湖の外にまで及んだり。そもそも私が原因で消失した妖精なんだから、復活してもまた消失するだけよ」
「じゃあ、あなた以外の氷精が力を吸収すれば……」
「力を取り込むという手段事態、そもそも強い力を持ってないといけないの。一応私以外にもそれができる妖精はいるけど、とても間に合わないわ」
「…………」
「だから、矛盾しているかもしれないけど、私にはこれしかないのよ。もっと強くなれば、あたいと戦う事を望む奴らが来て、あたいを倒してくれる。幸い、決闘方法がスペルカードルールになった。単純に力を上げなくても勝つことができるのよ」
チルノの言葉に反論する気は、あまりない。しかし、何かが間違っているという感じも否めなかった。第一、今私と相対しているチルノの表情が嬉しそうではない事が、引っかかっていた。
「チルノ。あなたは本当は……どうしたいの?」
「え?」
「言うだけなら自由よ。あなたのわがまま、せっかくだから聞いてあげるわ」
するとチルノは困ったように頭を動かしつつも、あくまで私の方は見ずに口を開いた。
「そりゃあ、その子を護りながら、もっと強くなりたいわよ」
「ん、強くなるのはその子のため、じゃないの?」
「最強を掲げたいっていう気持ちも別にあるわ。だからこそあたいはこの方法を思いついたの。理想とは少しかけ離れてるけどね」