厚く重く垂れ込めた雲。景色はモノトーンに彩られた二色刷りの色。
そして、今の時期ーーー春には珍しく、雨ではなく、雪が振っている。もう、ずっと。
白の天幕に覆われたリンゴの花。川面は凍りつき、里の家は原型をかろうじて残したまま埋まっている。
その幾つかは潰れ、新しいオブジェを作り出していることだろう。
妖精さえ出てこない異常な寒さと雪。原因は誰も知らない。
その風景に溶け込むのも是と言わんばかりに、袖の白い濃紺の服に透き通るような白い外套を纏った少女が
時折、地吹雪の吹く雪原を静かに歩く。
その手に枝を拾い、木を軽く叩くと、それに積もっていた雪はたちまちのうちに地面へ落ちた。
凍りついた白い花と新芽は、その時を氷に封じられて枯れる事も萎れる事も無い。
「この季節はリンゴの花が咲き、川面に霞が立つ、もっとも憂鬱な季節。」
少女は笑みを浮かべて花を愛でる。
「春無き里にも、次の季節は忍び寄れるのかしらね?」
喜びに震えるその顔は、目を閉じ、この時間が永遠に続く事を願って止まない、恋する乙女の顔にも似ていた。
少女は枝を拾い変えて、今度は別の木を打った。
雪の外套を脱ぎ捨てたその木は、吉野桜の木。
「あなたに恨みは無いけど・・・今だけは、貴方のその色が、私の目には毒。」
そう呟いて、もう一度幹を打つと、桜の花は全て散り、霧氷と砕け散った。
同じように近くにあった桜の木を全て丸裸にすると、少女は楽しそうに歌う
『Ranran Ranran Shirokanipe Ranran Pishkan
Arwen Moshir Retaru Sime Wa En Kore Yan♪』
遥かに忘れられた歌を歌いながら彼女は行く。
『Ositciwtara Tanmata♪』
花を気に入った木の雪は払い、花が気に入らない木は雪ごと花を氷の屑へと変えて。
「このままこの陽気が続く事が、」
彼女は雪を氷柱に変えて、まだ凍っていない川面を打つ、と、川は一瞬で凍りついた。
「私の願い、そして夢。」
凍った川を渡り、一軒だけ建っている人家には、明かりも火の気配も無い。
「火を使ってまで私を嫌う人達、私の好きな空気を追い払う悪い人達、永遠におやすみなさい。」
その手の氷柱を屋根の雪に投げる、と、氷柱が刺さった雪は厚みを増し、家を押しつぶす。
その時ふと、空を見つめ、彼女は舞い踊る様に空に飛び上がった。
そして、彼女が止まったその先には、光る玉(ぎょく)を纏った巫女が一人。
巫女は少女に苛立ちを隠さず言う。
「いつもなら、もう眠る季節だと言うのに。」
少女はからかう様に返す。
「春眠暁を覚えず、かな?でも私は困るのよ。このままで無いとね。」
巫女はその眼光を鋭くする。
「どちらかと言うと、春眠よりあんた達の永眠を覚えたいわね。」
「山も眠る寒さに、何であなた達は冬眠しないの?」
完全に小バカにした挑発を、
「生憎と冬篭り止まりよ。私達は人間だしね。」
飄々と巫女は受け流す。
その言葉に、悪戯っぽく返す少女。
「ならば、私が安らかに眠らせてあげますわ。穏やかな春眠。棺は・・・下に川があるから、そこの清水で永久に溶けない特別なものを作って差し上げましょう。」
巫女は意に介さない。
「春眠はもっと温かくなってからにするわ。でないと色々滞るのよ。」
その言葉に、少女はやれやれと言った感じで応えた。
「『太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪降り積む 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪降り積む』って、寺子屋で習わなかったの?
この雪が降ってる間は、誰も起きてはいけないわ・・・私達を除いて。」
巫女が構える。
「小理屈ばかり煩いわね。あんたのようなモノが眠れば少しは温かくなるのよ・・・!!」
風が強くなり、雪が横殴りに変わる。
「とわの冬、私の好きな季節を脅かす悪い人。名前はなんと言うのかしら?」
巫女の纏う玉の輝きが増す。
「私に勝てたら教えてあげるわ。今は急いでるの。」
巫女の言葉を流すように少女は嗤う。
「貴方が負けたら教えてあげられないから、私は教えてあげるわ。私の名はレティ・・・レティ・ホワイトロック。
名前と綴りは違うけど、永遠の白にあなたを封じ込める、冬の忘れ物よ。覚えておきなさいな、礼儀知らずさん?」
それを皮切りに、冬を引きとめようとするものと、春を呼ぼうとするものと、二つの力が衝突してーーーー周りを閃光が染めた。
そして、今の時期ーーー春には珍しく、雨ではなく、雪が振っている。もう、ずっと。
白の天幕に覆われたリンゴの花。川面は凍りつき、里の家は原型をかろうじて残したまま埋まっている。
その幾つかは潰れ、新しいオブジェを作り出していることだろう。
妖精さえ出てこない異常な寒さと雪。原因は誰も知らない。
その風景に溶け込むのも是と言わんばかりに、袖の白い濃紺の服に透き通るような白い外套を纏った少女が
時折、地吹雪の吹く雪原を静かに歩く。
その手に枝を拾い、木を軽く叩くと、それに積もっていた雪はたちまちのうちに地面へ落ちた。
凍りついた白い花と新芽は、その時を氷に封じられて枯れる事も萎れる事も無い。
「この季節はリンゴの花が咲き、川面に霞が立つ、もっとも憂鬱な季節。」
少女は笑みを浮かべて花を愛でる。
「春無き里にも、次の季節は忍び寄れるのかしらね?」
喜びに震えるその顔は、目を閉じ、この時間が永遠に続く事を願って止まない、恋する乙女の顔にも似ていた。
少女は枝を拾い変えて、今度は別の木を打った。
雪の外套を脱ぎ捨てたその木は、吉野桜の木。
「あなたに恨みは無いけど・・・今だけは、貴方のその色が、私の目には毒。」
そう呟いて、もう一度幹を打つと、桜の花は全て散り、霧氷と砕け散った。
同じように近くにあった桜の木を全て丸裸にすると、少女は楽しそうに歌う
『Ranran Ranran Shirokanipe Ranran Pishkan
Arwen Moshir Retaru Sime Wa En Kore Yan♪』
遥かに忘れられた歌を歌いながら彼女は行く。
『Ositciwtara Tanmata♪』
花を気に入った木の雪は払い、花が気に入らない木は雪ごと花を氷の屑へと変えて。
「このままこの陽気が続く事が、」
彼女は雪を氷柱に変えて、まだ凍っていない川面を打つ、と、川は一瞬で凍りついた。
「私の願い、そして夢。」
凍った川を渡り、一軒だけ建っている人家には、明かりも火の気配も無い。
「火を使ってまで私を嫌う人達、私の好きな空気を追い払う悪い人達、永遠におやすみなさい。」
その手の氷柱を屋根の雪に投げる、と、氷柱が刺さった雪は厚みを増し、家を押しつぶす。
その時ふと、空を見つめ、彼女は舞い踊る様に空に飛び上がった。
そして、彼女が止まったその先には、光る玉(ぎょく)を纏った巫女が一人。
巫女は少女に苛立ちを隠さず言う。
「いつもなら、もう眠る季節だと言うのに。」
少女はからかう様に返す。
「春眠暁を覚えず、かな?でも私は困るのよ。このままで無いとね。」
巫女はその眼光を鋭くする。
「どちらかと言うと、春眠よりあんた達の永眠を覚えたいわね。」
「山も眠る寒さに、何であなた達は冬眠しないの?」
完全に小バカにした挑発を、
「生憎と冬篭り止まりよ。私達は人間だしね。」
飄々と巫女は受け流す。
その言葉に、悪戯っぽく返す少女。
「ならば、私が安らかに眠らせてあげますわ。穏やかな春眠。棺は・・・下に川があるから、そこの清水で永久に溶けない特別なものを作って差し上げましょう。」
巫女は意に介さない。
「春眠はもっと温かくなってからにするわ。でないと色々滞るのよ。」
その言葉に、少女はやれやれと言った感じで応えた。
「『太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪降り積む 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪降り積む』って、寺子屋で習わなかったの?
この雪が降ってる間は、誰も起きてはいけないわ・・・私達を除いて。」
巫女が構える。
「小理屈ばかり煩いわね。あんたのようなモノが眠れば少しは温かくなるのよ・・・!!」
風が強くなり、雪が横殴りに変わる。
「とわの冬、私の好きな季節を脅かす悪い人。名前はなんと言うのかしら?」
巫女の纏う玉の輝きが増す。
「私に勝てたら教えてあげるわ。今は急いでるの。」
巫女の言葉を流すように少女は嗤う。
「貴方が負けたら教えてあげられないから、私は教えてあげるわ。私の名はレティ・・・レティ・ホワイトロック。
名前と綴りは違うけど、永遠の白にあなたを封じ込める、冬の忘れ物よ。覚えておきなさいな、礼儀知らずさん?」
それを皮切りに、冬を引きとめようとするものと、春を呼ぼうとするものと、二つの力が衝突してーーーー周りを閃光が染めた。
これなら十分黒幕として活躍できそうです。
確かに雪女とアイヌ圏と相性が良さそうです。
まさに黒幕。