これは私、アリス=マーガトロイドが幼い頃の話です。
その頃、私は幻想郷ではない、遠い世界に住んでいました。
私が元居た世界も、魔法が当たり前にあり、身近な所には「科学」と言うオカルトなモノではなく、全てが魔法の理で作られた世界でした。
人は鳥のように、時折空を飛んで出かけ、指一本で大岩を持ち上げ、またはそれを切断し、結合させて建物やオブジェを作り、
ガラスの刃物で美術品を彫り上げる、そんな世界。
医術も言葉一つで傷を塞ぎ、指先を這わせるだけで皮膚を開いて悪いものを切り取るようなもので、包帯や絆創膏と言うものは
癒した傷跡に、ただ巻きつけるだけの代物でしかありません。昔の名残だとお医者さんは言っていた覚えがあります。
そんな世界ですから魚が空を泳ぎ、鳥が水の中を飛び回るような事も普通の出来事。
それが私の当たり前の風景でした。
小さい頃の私は、その頃から人形が好きで、良く外に出かける時は気に入った人形をおめかしして、一緒に出かけていました。
物心ついた頃からの私の友達、物言わぬ親友。
私の周りに少ないながらも友達は居ましたが、人形で遊んでる時間の方が友達と一緒にいる時間よりも長かったほどです。
夜は絵本で読んだように、ベッドの四隅に天使の人形を飾り、枕元に着せ替えた人形を置いて眠り、朝、起きると共に挨拶をする・・・。
私の毎日はそんな風に過ぎていたのでした。
ある日のこと、私は家の近くの丘に人形と共に出かけました。
いつも、そこで絵本を読んで、日が暮れるまで花飾りを作ったりして遊んで居たのです。
その日もいつものように人形を抱いて歩いていたのですが、ふとした拍子に足がもつれ、私は転んでしまいました。
人形が私の手から離れて、地面に叩きつけられ、鈍い音と共に腕と首が変な方向に向いてしまいます。
慌てて駆け寄って抱き上げた人形は、私の手では到底治せません。
抱き上げた人形を胸に私は泣きました。友達を傷つけた罪と、もしかしたら友達が捨てられてしまうかもしれない恐怖と寂しさに怯えながら。
そうやってどれくらいの時間泣いていたでしょうか?
不意に私に声が掛けられました。
「お嬢ちゃん、どうしたの。」
声の方向を見ると、優しげなお姉さんがそこで私を見下ろしています。
長い黒髪に茶色い目、異国の人ような雰囲気ですが、話す言葉は流暢です。
私はしゃくりあげながら人形を見せて、この子と別れるのは嫌だと言う事と、どうにかして元の姿に戻してやりたいと
心からお願いしたのです。
お姉さんは人形の壊れた部分を少し見てから
「部品を交換して少し組めば時間はかからず退院できるわ。まずは私の家にいらっしゃい。」
私は目の前のお姉さんが天使に見えました。
だって、私の友達を「治せる」とちゃんと言える人は私の近くに居ませんでしたから。
お姉さんは私に訊きました。
「私はカタン。人形作りのカタンと言うわ。お嬢ちゃんのお前は?」
「・・・アリス。」
お姉さん・・・カタンさんは私の頭をなでて、
「本当に人形を大事にしているのね。まずは私の工房へ一緒に行きましょう。今なら夕方までには治せるから。」
その言葉に喜びを隠さず、私はカタンさんの工房へ一緒に行く事になりました。
カタンさんの家は私の家とは反対側の、日当たりのいい丘のふもとにぽつんと建っていました。
家の扉をくぐると、そこにはケースに入った人形がエントランスホールに並べられて、付箋が付いています。
「このお人形、みんなお姉さんが作ったの?」
私は驚きながらケースの一つ一つを覗き込みます。
「それはね、私が治療したお人形。ここでずっと貴方みたいなご主人を待ち続けているのよ。」
カタンさんは悲しげに言います。
「でもね、いつか人は自分の一番身近な存在を、いつかは忘れてしまうこともあるのよ・・・。」
私は驚くと同時に、自分のお友達をいとも簡単に、忘れてしまえることに怒った事を覚えてます。
一番辛い時も、嬉しい時もその心を分かち合った友達を、なぜそうも関単に忘れられるのか。
そこに、別の声が聞こえてきました。
「カタン様、お帰りですか・・・あら、可愛いお嬢ちゃんね。こちらには何の御用で来たのかしら?」
そこに居たのは、栗毛色の短い髪をしたお姉さん、なんとなくカタンさんに似ています。
「モペット、私はこの子のお友達を治療するから、それまでこの子をお願いするわ。」
カタンさんの言葉にモペットさんは嬉しそうに、
「久しぶりのお客様ね。私は先ほども言われた通りモペットと言うのだけど、貴方のお名前は?」
「アリス・・・です。」
正直ここまで嬉しそうな歓迎は受けた事が無かったので、私は戸惑いました。
しかしその戸惑いも、モペットさんは気にする事無く、やはり私の頭をなでて、
「ではアリスちゃん、ちょっとお話して、落ち着いたら私の芸を見ていただきましょ。」
別の部屋に通されて椅子を勧められて、暫く待っていると、クッキーと暖めたミルクが運ばれてきました。
ミルクからは蜂蜜の香りがわずかにします。
お菓子とミルクを食べている間中、モペットさんは私にニコニコと質問をして、その答えを聞いていました。
そこで、私はモペットさんに訊いてみたのです。
「カタンお姉ちゃんと、モペットお姉ちゃんは姉妹なの?」
その問いにモペットさんは
「ええ、どちらかと言えば昔は親子だったんだけどね。今は姉妹。」
私の頭に途端に疑問が沸き起こります。
そんな私の顔を見て察したのか、モペットさんは言いました。
「いつか、貴方にも教えられる時が来るわ、今はその疑問を仕舞って、私の劇場を見ていただきましょう。」
次に通されたのは小さな椅子がいくつか並んで、その前には人形劇用の舞台がある部屋。
その隣には蓄音機が置いてあります。
マリオネット用のハンドルと、宙に浮く銀色の小さな球体を持ってきて設置し、モペットさんは蓄音機にレコードをセットします。
やがて始まったのは、動きが人間のそれと寸分たがわぬ人形劇。
むしろ、人間のやり取りをこちらが知らない世界で見ているような、そんな不思議な世界。
私にとっては夢のような時間でした。
やがて時間が過ぎ、蓄音機の音が鳴り止むと同時に、人形の登場人物たちは一斉に私に向かって一礼して、幕が下りました。
私は拍手が止まりません。
街の人形劇でも見た事の無い動き、無表情なのに生き生きとした人形の嬉しそうな表情。
「どうやら気に入っていただけたようね。アリスちゃん。」
モペットさんも心なしか嬉しそうです。
「モペットお姉ちゃん、この銀の球は何なの?」
私は先ほどから気になっていた事を訊いて見ました。
「これに操り糸を通して位置をこう・・・動かす事で動きの中に更に動きを加えるの。」
私には言葉の意味が判りません。
呆けてる私に、モペットさんは言いました。
「貴方もこの仕事をするようになればわかるわ。」と私の頭を撫でてくれます。
そこで、カタンさんが入ってきました。
「モペット、演目は終わった?」
「はい。カタン様は如何ですか?」
「こちらは既に終わったわ。腕と首の部品を交換するだけで他に怪我は無かったから、もう大丈夫よ。」
カタンさんは私に向かってにこやかにいい、バスケットに寝かせられた私の人形を見せてくれました。
私は二人に厚く礼を言って、訊きました。
「これから、遊びに来てもいい?」
二人は歓迎してくれて、私がお人形を自分で治せる様になりたい、と言うと、それも快諾してくれました。
それから暫く、私はカタンさんの家に足しげく通っては人形の基礎を習ったり、原型を作る手伝いをしたりと、今に生かされている原型を
そこで習ったのです。
その数年後、私は家の都合で街から遠く離れた国へ引っ越さなければならなくなりました。
二人は残念がりましたが、私も二人に泣きながら別れを告げるしかなかったのです。
しかし、カタンさんは言いました。
「貴方のその心があれば、独学でも出来ない事は無いわ。大丈夫よ。そしていつか私達を越えられる人形師になって、私の技を
未来に連れて行って頂戴ね。」
その目には優しさと、悲しさがありました。
それから数年、私は人形作りの腕を磨きつつ、魔法の勉強を始めました。
どんな人間でもこの世界ではある程度の歳が行くと、魔法の勉強をしなければならない決まりがあったからです。
その中で、魔法の力を核として、自立で行動できる人形の考案もしたのですが、当時の魔法の先生には、
「それは禁呪だ。人の命を犠牲にしなければならないような呪文で、いつか必ず自分をも食い殺すものになる。ゆめゆめ考えるな。」と
烈火の如く怒られました。
調べてみれば、なるほどグリモワール系の術以外にそのようなものは無く、その夢に取り憑かれたものは悉く非業の死を遂げている事と
その人形も人の魂を食らい、血肉をすする忌まわしいものになってしまった記述も有りました。
ただ、その中で一つだけ、その結末が記録にない事件が一つ。
とある人形師が禁呪の果てに作り上げるまでは書いてあるのですが、行方の知れない人形がある、と。
処分の記録も無く、かと言ってそれ以降のページは封印されて読めなかったので、すぐに忘れてしまったのですが。
そして十数年の時が経ち、私はある程度の魔法と、人形師の資格を持つ事が出来、久しぶりに故郷の街に帰りました。
私が会いたかった人たちに会うために。
十数年経てば街も人も変わるもの。私の住んでいた家も改造されて面影は無く、あの丘の上には風車が建って、魔力供給の為に
そのタービンを回しています。
私はその丘の上に立って、かつてのカタンさんの家の方角を見ました。
カタンさんの家はすぐに見つかりましたが、そこへ至る道は消え、草に埋もれる廃屋になっています。
空を飛んで玄関の前に行くと、家全体がツタに覆われ、ガラスはあちこち破れて、誰も住んでいないような雰囲気になっていました。
ドアのノブを回すと、簡単に開きます。
その目の前には、壊れたケースと、半分崩れたり、色あせた人形達が当時のままで並んでいました。
家の中を歩き回ると、床もあちこち痛んで草が顔をのぞかせ、かつてカタンさんに教えを受けた工房は、作りかけの人形がそのままで
放棄されていました。
一体何が起こったのか判らず、私は家中を探します。
そして、カタンさんの部屋と思しき、本とノートが棚を埋め尽くした真っ暗な部屋。
明かりを燈して入ると、かび臭いノートが棚一面を埋めています。
そのうち一つを手に取り、表紙を見ると「Regret」と掠れた文字が読み取れました。
月日は書いていませんが、日記帳のようです。
「修理をして、ケースに入れた人形の数が100を超えた。一番古いものは50年前。もう取りに来る事は無いのだろうが、いつか来世で思い出す事もあろう。
私はそれまで待ち続けることとする。」
また別の記述には。
「私は眠らないはずなのに、夢を見ているような気分になる。もしかしたら私も・・・モペットもその日が近づいているのかも知れない。」
「ご主人様は私達を作ったことで夢は叶えた、が私たちとそれを分かち合う事はできなかった。神でもないものがその真似をしたとき、その代償は本人の
魂自身だと言う事を軽く見ていたのだろう。しかしこの呪われた身でも、私は幸せを得る事が出来た。
・・・アリス、あの子が私のご主人様と同じ道を辿らない様に祈るだけだ。」
カタンさんが・・・人形?
私は一つ一つ、部屋を探しました。
客間、演劇場、厨房、物置・・・。
どうしても訊きたい事があったから、あの時読んだ記録の封印された本の事を。
しかし、二人の姿は何処にもありません。
廊下の壁に寄りかかってため息をつこうとした時、壁が後ろへと沈みました。
慌てて体勢を戻して振り返ると、そこには地下に続く階段が。
その先は果てしなく暗く、昔、巡回映画で見た惨劇の地下室への道に感じました、が、カタンさん達にどうしても会いたい私は、階段を降りていきます。
階段が途切れると、黒い鉄の扉。錆びもせず、ただ、そこに立ちはだかるだけ。
ノブを回すと、ここもまた、簡単に開きました。
明かりを燈してみると、そこには蓋の開いた棺と、蓋が閉じた棺。
蓋の空いた棺を覗き込むと、そこにはあの日のままの姿で、カタンさんが横たわっていました。
「・・・・・・誰?」
目を閉じたまま、カタンさんが言います。
私は腰を抜かさんばかりに驚きましたが、何とか答えました。
「覚えていますか?アリス・・・です。」
「アリス・・・。」
その言葉に、カタンさんはうっすらと目を開けて、言いました。
「懐かしい名前を聞いたわ。昔、私が人形を治した子で・・・私の所に良く遊びに来ていた・・・。でも、もう私もモペットもその力は無いわ。
人形を作るどころか、既に動けない。モペットが先に逝ってからは私も・・・。」
夢を見るようなカタンさんの言葉を私は遮りました。
「カタンさん、私、人形師になれたんです。あのアリスですよ。覚えていますよね?」
私は必死にカタンさんに話しかけます。
そのうち、かすかに失われた光が彼女の目に戻りました。
「ああ、あのアリス・・・アリスなのね・・・。大きくなったけど真っ直ぐ夢を追いかけていたのね。」
私はカタンさんに今までの出来事、そして・・・魔法学校の記録について訊きました。
「・・・そう、封印されて読めなかったの・・・。当たり前よね。私達は唯一の例外、『成功例』だったのだから。」
「成功例・・・?」
「ええ・・・私のご主人は、自分の家族を失った悲しみを私達を作ることで埋めようとした。」
カタンさんは再び目を閉じます。
「そして、色々な試行錯誤を経て、人形に人間の動きをさせるための研究に打ち込んだの。そうやって、時には墓荒らしの真似をしてまで。
骨格をアダマスで作って、人間の筋肉を利用し、防腐と保存の為のあらゆる魔法をかけた・・・。
そして出来たのが私とモペット。
私はご主人様の奥様、モペットはお嬢様がモデルだったのよ。そして私達の体には、その体の一部が使われていたの。」
私は言葉が出ませんでした。
まさか、そんな・・・。
「今までの人形師の作品の失敗は・・・他人の命を媒体に動かす事だった。理不尽に命を奪われて訳のわからないガラクタに
自分の命を封じられる、その時の魂は純粋に自分の感情に従って動くのよ。」
だから、皆、悲惨な死に方をして、人形も・・・。
「でもね、ご主人様は自分の思い出が共に生きられるなら、こんな不便な肉の塊などいらない、と、自分の命を使って私達に命を吹き込んだ。
私達が目覚めて最初に見たのは、ご主人様の亡骸だったわ。」
自分の幸せの為に、自分を犠牲にした、その皮肉。
「それももうそろそろ終わる。いかな魔法が万能に見えても、限界は必ず来るのよ。魔力の供給が無い状態なら、保存魔法も消える。
蝋燭が消えていくようにね・・・。」
私は一縷の望みをかけて言いかけました「ならば私が。」と
しかし
「貴方の魔力が私に合うかは未知よ。下手すればあなた自身の未来を閉ざしてしまうかもしれない。そんな生き方を私が是と思うと?」
私の言葉が詰まります。
「形あるモノも無きモノも、この世の理に照らせば皆同じ。人も私達も全て同じ鎖に縛られたモノなのよ。それは神も同じなのよ?」
そこまで言って、ある気配が私の背中に感じられました。
「あなた。」
「お父さん。」
そこにはセピア色の、カタンさんとモペットさんそのものの姿の二人の女性がいました。
「あなたを置いていってしまった事を悔やまぬ日は私にも、娘にも無かったわ。もう一人で苦しむ事は無いのよ。」
「お父さん、今まで本当にごめんなさい。私達はお父さんの近くにいたけれど、お父さんは私達に気づけなかったから、こんなにかかってしまった。」
カタンさんの声が男性の声に変わりました。
「ノナ、アリシア・・・迎えに来てくれたのか・・・いや、やっと私が気付けるようになった、と言った方が良いな。」
カタンさんとモペットさんの棺から、何かが立ち上って、一人の男性の姿を形作ります。
「魂を分けたのがいけなかったのかも知れぬな・・・お前達の存在に気付くのが遅れてしまってすまない。」
心底詫びる声に、二人は答えます。
「いいえ、あなた。私があの夜、意地を張ってアリシアを連れて行かねば、貴方がここまで苦しむ事は無かったのに。」
「お母さん、ずっと泣いていたのよ。もう三人で分かり合えたんだから、お父さんもお母さんを解ってあげて。」
哀願の声に男性はうなづき。
「お互いのすれ違いで、随分と損と遠回りをしてしまったな・・・。」
三人は互いに抱き合い、涙していました。
やがて、男性が振り向いて、私に小さなブローチを渡して、言いました。
「アリスさん、短い間とは言え、世話になった。そして私の事を覚えていてくれた事に感謝するよ。このブローチをあなたに贈ろう。」
金で縁取られた、紅い宝石のブローチ。
「いかな大事な人を失うようなことになっても、私のような過ちは絶対に犯してはならない。約束してくれるかね?」
私は、力強くうなづきました。
「絶対に、あなたと違う方法で、私は自分の夢を叶えます。邪法など使わなくても、胸を張って皆に夢を与えられるように。」
その言葉に満足したのか、彼は言いました。
「その言葉、私達は信じるよ。そのブローチは約束の証だ。くじけそうになったら、それがあなたの支えになってくれるだろう。
さあ、私達はもう、ここから居なくなる。貴方もお行きなさい。」
三人は深々と礼をし、私もそれに応え、階段を登っていきました。
「さようなら、もう会えないでしょうけど、あなたの通った道を行かないように、私は自分の道を切り拓いて見せます。」
そう行って家の外に出ると、家は夢が覚めるように、その姿が薄れて、消えてしまいました。
残されたのは、裏庭があったと思われる場所に建っている、二つの墓石。
エントランスの人形も、書架の本やノートも残っては居ませんでした。
時は経って、私は幻想郷であの人が犠牲無しに作れなかったものを完成させようと、今も試行錯誤を繰り返しています。
「疲れたわね。まだまだ完全自律は遠いか・・・。」
その声を聞いたのか、私のことを心配そうに見上げる小さな人形が一つ。
「上海、心配しなくても大丈夫よ。私はあなたを大事に思っているし、絶対に忘れないと約束したのだから。」
やっと作り上げた、半自律人形の『上海』。言葉は話せないけれど、ある程度の感情を表現する事はできる子。
そして、あの時のブローチは、机の上で今も穏やかに私を見つめています。
・・・・・・。
満ち足りて眠りつく 古びて壊れた からくり人形
輝きを秘めていた ガラスの瞳もひび割れて
暗い部屋の中に ほこりにまみれて さび果てた歯車 二度と動かない
人形は覚えてる 人々の心の暖かさ
それだけを胸に抱き 少しづつ 崩れ去ってく
満ち足りて眠りつく 古びて壊れた からくり人形
輝きを撒き散らす 銀糸の刺繍も破れ果て
部屋の隅の闇に 蜘蛛の巣まみれで 閉じられた瞼は 二度と開かない
人形は忘れない 人々の手のひらの温もり
それだけを胸に抱き 一人きり 崩れ去ってく
その頃、私は幻想郷ではない、遠い世界に住んでいました。
私が元居た世界も、魔法が当たり前にあり、身近な所には「科学」と言うオカルトなモノではなく、全てが魔法の理で作られた世界でした。
人は鳥のように、時折空を飛んで出かけ、指一本で大岩を持ち上げ、またはそれを切断し、結合させて建物やオブジェを作り、
ガラスの刃物で美術品を彫り上げる、そんな世界。
医術も言葉一つで傷を塞ぎ、指先を這わせるだけで皮膚を開いて悪いものを切り取るようなもので、包帯や絆創膏と言うものは
癒した傷跡に、ただ巻きつけるだけの代物でしかありません。昔の名残だとお医者さんは言っていた覚えがあります。
そんな世界ですから魚が空を泳ぎ、鳥が水の中を飛び回るような事も普通の出来事。
それが私の当たり前の風景でした。
小さい頃の私は、その頃から人形が好きで、良く外に出かける時は気に入った人形をおめかしして、一緒に出かけていました。
物心ついた頃からの私の友達、物言わぬ親友。
私の周りに少ないながらも友達は居ましたが、人形で遊んでる時間の方が友達と一緒にいる時間よりも長かったほどです。
夜は絵本で読んだように、ベッドの四隅に天使の人形を飾り、枕元に着せ替えた人形を置いて眠り、朝、起きると共に挨拶をする・・・。
私の毎日はそんな風に過ぎていたのでした。
ある日のこと、私は家の近くの丘に人形と共に出かけました。
いつも、そこで絵本を読んで、日が暮れるまで花飾りを作ったりして遊んで居たのです。
その日もいつものように人形を抱いて歩いていたのですが、ふとした拍子に足がもつれ、私は転んでしまいました。
人形が私の手から離れて、地面に叩きつけられ、鈍い音と共に腕と首が変な方向に向いてしまいます。
慌てて駆け寄って抱き上げた人形は、私の手では到底治せません。
抱き上げた人形を胸に私は泣きました。友達を傷つけた罪と、もしかしたら友達が捨てられてしまうかもしれない恐怖と寂しさに怯えながら。
そうやってどれくらいの時間泣いていたでしょうか?
不意に私に声が掛けられました。
「お嬢ちゃん、どうしたの。」
声の方向を見ると、優しげなお姉さんがそこで私を見下ろしています。
長い黒髪に茶色い目、異国の人ような雰囲気ですが、話す言葉は流暢です。
私はしゃくりあげながら人形を見せて、この子と別れるのは嫌だと言う事と、どうにかして元の姿に戻してやりたいと
心からお願いしたのです。
お姉さんは人形の壊れた部分を少し見てから
「部品を交換して少し組めば時間はかからず退院できるわ。まずは私の家にいらっしゃい。」
私は目の前のお姉さんが天使に見えました。
だって、私の友達を「治せる」とちゃんと言える人は私の近くに居ませんでしたから。
お姉さんは私に訊きました。
「私はカタン。人形作りのカタンと言うわ。お嬢ちゃんのお前は?」
「・・・アリス。」
お姉さん・・・カタンさんは私の頭をなでて、
「本当に人形を大事にしているのね。まずは私の工房へ一緒に行きましょう。今なら夕方までには治せるから。」
その言葉に喜びを隠さず、私はカタンさんの工房へ一緒に行く事になりました。
カタンさんの家は私の家とは反対側の、日当たりのいい丘のふもとにぽつんと建っていました。
家の扉をくぐると、そこにはケースに入った人形がエントランスホールに並べられて、付箋が付いています。
「このお人形、みんなお姉さんが作ったの?」
私は驚きながらケースの一つ一つを覗き込みます。
「それはね、私が治療したお人形。ここでずっと貴方みたいなご主人を待ち続けているのよ。」
カタンさんは悲しげに言います。
「でもね、いつか人は自分の一番身近な存在を、いつかは忘れてしまうこともあるのよ・・・。」
私は驚くと同時に、自分のお友達をいとも簡単に、忘れてしまえることに怒った事を覚えてます。
一番辛い時も、嬉しい時もその心を分かち合った友達を、なぜそうも関単に忘れられるのか。
そこに、別の声が聞こえてきました。
「カタン様、お帰りですか・・・あら、可愛いお嬢ちゃんね。こちらには何の御用で来たのかしら?」
そこに居たのは、栗毛色の短い髪をしたお姉さん、なんとなくカタンさんに似ています。
「モペット、私はこの子のお友達を治療するから、それまでこの子をお願いするわ。」
カタンさんの言葉にモペットさんは嬉しそうに、
「久しぶりのお客様ね。私は先ほども言われた通りモペットと言うのだけど、貴方のお名前は?」
「アリス・・・です。」
正直ここまで嬉しそうな歓迎は受けた事が無かったので、私は戸惑いました。
しかしその戸惑いも、モペットさんは気にする事無く、やはり私の頭をなでて、
「ではアリスちゃん、ちょっとお話して、落ち着いたら私の芸を見ていただきましょ。」
別の部屋に通されて椅子を勧められて、暫く待っていると、クッキーと暖めたミルクが運ばれてきました。
ミルクからは蜂蜜の香りがわずかにします。
お菓子とミルクを食べている間中、モペットさんは私にニコニコと質問をして、その答えを聞いていました。
そこで、私はモペットさんに訊いてみたのです。
「カタンお姉ちゃんと、モペットお姉ちゃんは姉妹なの?」
その問いにモペットさんは
「ええ、どちらかと言えば昔は親子だったんだけどね。今は姉妹。」
私の頭に途端に疑問が沸き起こります。
そんな私の顔を見て察したのか、モペットさんは言いました。
「いつか、貴方にも教えられる時が来るわ、今はその疑問を仕舞って、私の劇場を見ていただきましょう。」
次に通されたのは小さな椅子がいくつか並んで、その前には人形劇用の舞台がある部屋。
その隣には蓄音機が置いてあります。
マリオネット用のハンドルと、宙に浮く銀色の小さな球体を持ってきて設置し、モペットさんは蓄音機にレコードをセットします。
やがて始まったのは、動きが人間のそれと寸分たがわぬ人形劇。
むしろ、人間のやり取りをこちらが知らない世界で見ているような、そんな不思議な世界。
私にとっては夢のような時間でした。
やがて時間が過ぎ、蓄音機の音が鳴り止むと同時に、人形の登場人物たちは一斉に私に向かって一礼して、幕が下りました。
私は拍手が止まりません。
街の人形劇でも見た事の無い動き、無表情なのに生き生きとした人形の嬉しそうな表情。
「どうやら気に入っていただけたようね。アリスちゃん。」
モペットさんも心なしか嬉しそうです。
「モペットお姉ちゃん、この銀の球は何なの?」
私は先ほどから気になっていた事を訊いて見ました。
「これに操り糸を通して位置をこう・・・動かす事で動きの中に更に動きを加えるの。」
私には言葉の意味が判りません。
呆けてる私に、モペットさんは言いました。
「貴方もこの仕事をするようになればわかるわ。」と私の頭を撫でてくれます。
そこで、カタンさんが入ってきました。
「モペット、演目は終わった?」
「はい。カタン様は如何ですか?」
「こちらは既に終わったわ。腕と首の部品を交換するだけで他に怪我は無かったから、もう大丈夫よ。」
カタンさんは私に向かってにこやかにいい、バスケットに寝かせられた私の人形を見せてくれました。
私は二人に厚く礼を言って、訊きました。
「これから、遊びに来てもいい?」
二人は歓迎してくれて、私がお人形を自分で治せる様になりたい、と言うと、それも快諾してくれました。
それから暫く、私はカタンさんの家に足しげく通っては人形の基礎を習ったり、原型を作る手伝いをしたりと、今に生かされている原型を
そこで習ったのです。
その数年後、私は家の都合で街から遠く離れた国へ引っ越さなければならなくなりました。
二人は残念がりましたが、私も二人に泣きながら別れを告げるしかなかったのです。
しかし、カタンさんは言いました。
「貴方のその心があれば、独学でも出来ない事は無いわ。大丈夫よ。そしていつか私達を越えられる人形師になって、私の技を
未来に連れて行って頂戴ね。」
その目には優しさと、悲しさがありました。
それから数年、私は人形作りの腕を磨きつつ、魔法の勉強を始めました。
どんな人間でもこの世界ではある程度の歳が行くと、魔法の勉強をしなければならない決まりがあったからです。
その中で、魔法の力を核として、自立で行動できる人形の考案もしたのですが、当時の魔法の先生には、
「それは禁呪だ。人の命を犠牲にしなければならないような呪文で、いつか必ず自分をも食い殺すものになる。ゆめゆめ考えるな。」と
烈火の如く怒られました。
調べてみれば、なるほどグリモワール系の術以外にそのようなものは無く、その夢に取り憑かれたものは悉く非業の死を遂げている事と
その人形も人の魂を食らい、血肉をすする忌まわしいものになってしまった記述も有りました。
ただ、その中で一つだけ、その結末が記録にない事件が一つ。
とある人形師が禁呪の果てに作り上げるまでは書いてあるのですが、行方の知れない人形がある、と。
処分の記録も無く、かと言ってそれ以降のページは封印されて読めなかったので、すぐに忘れてしまったのですが。
そして十数年の時が経ち、私はある程度の魔法と、人形師の資格を持つ事が出来、久しぶりに故郷の街に帰りました。
私が会いたかった人たちに会うために。
十数年経てば街も人も変わるもの。私の住んでいた家も改造されて面影は無く、あの丘の上には風車が建って、魔力供給の為に
そのタービンを回しています。
私はその丘の上に立って、かつてのカタンさんの家の方角を見ました。
カタンさんの家はすぐに見つかりましたが、そこへ至る道は消え、草に埋もれる廃屋になっています。
空を飛んで玄関の前に行くと、家全体がツタに覆われ、ガラスはあちこち破れて、誰も住んでいないような雰囲気になっていました。
ドアのノブを回すと、簡単に開きます。
その目の前には、壊れたケースと、半分崩れたり、色あせた人形達が当時のままで並んでいました。
家の中を歩き回ると、床もあちこち痛んで草が顔をのぞかせ、かつてカタンさんに教えを受けた工房は、作りかけの人形がそのままで
放棄されていました。
一体何が起こったのか判らず、私は家中を探します。
そして、カタンさんの部屋と思しき、本とノートが棚を埋め尽くした真っ暗な部屋。
明かりを燈して入ると、かび臭いノートが棚一面を埋めています。
そのうち一つを手に取り、表紙を見ると「Regret」と掠れた文字が読み取れました。
月日は書いていませんが、日記帳のようです。
「修理をして、ケースに入れた人形の数が100を超えた。一番古いものは50年前。もう取りに来る事は無いのだろうが、いつか来世で思い出す事もあろう。
私はそれまで待ち続けることとする。」
また別の記述には。
「私は眠らないはずなのに、夢を見ているような気分になる。もしかしたら私も・・・モペットもその日が近づいているのかも知れない。」
「ご主人様は私達を作ったことで夢は叶えた、が私たちとそれを分かち合う事はできなかった。神でもないものがその真似をしたとき、その代償は本人の
魂自身だと言う事を軽く見ていたのだろう。しかしこの呪われた身でも、私は幸せを得る事が出来た。
・・・アリス、あの子が私のご主人様と同じ道を辿らない様に祈るだけだ。」
カタンさんが・・・人形?
私は一つ一つ、部屋を探しました。
客間、演劇場、厨房、物置・・・。
どうしても訊きたい事があったから、あの時読んだ記録の封印された本の事を。
しかし、二人の姿は何処にもありません。
廊下の壁に寄りかかってため息をつこうとした時、壁が後ろへと沈みました。
慌てて体勢を戻して振り返ると、そこには地下に続く階段が。
その先は果てしなく暗く、昔、巡回映画で見た惨劇の地下室への道に感じました、が、カタンさん達にどうしても会いたい私は、階段を降りていきます。
階段が途切れると、黒い鉄の扉。錆びもせず、ただ、そこに立ちはだかるだけ。
ノブを回すと、ここもまた、簡単に開きました。
明かりを燈してみると、そこには蓋の開いた棺と、蓋が閉じた棺。
蓋の空いた棺を覗き込むと、そこにはあの日のままの姿で、カタンさんが横たわっていました。
「・・・・・・誰?」
目を閉じたまま、カタンさんが言います。
私は腰を抜かさんばかりに驚きましたが、何とか答えました。
「覚えていますか?アリス・・・です。」
「アリス・・・。」
その言葉に、カタンさんはうっすらと目を開けて、言いました。
「懐かしい名前を聞いたわ。昔、私が人形を治した子で・・・私の所に良く遊びに来ていた・・・。でも、もう私もモペットもその力は無いわ。
人形を作るどころか、既に動けない。モペットが先に逝ってからは私も・・・。」
夢を見るようなカタンさんの言葉を私は遮りました。
「カタンさん、私、人形師になれたんです。あのアリスですよ。覚えていますよね?」
私は必死にカタンさんに話しかけます。
そのうち、かすかに失われた光が彼女の目に戻りました。
「ああ、あのアリス・・・アリスなのね・・・。大きくなったけど真っ直ぐ夢を追いかけていたのね。」
私はカタンさんに今までの出来事、そして・・・魔法学校の記録について訊きました。
「・・・そう、封印されて読めなかったの・・・。当たり前よね。私達は唯一の例外、『成功例』だったのだから。」
「成功例・・・?」
「ええ・・・私のご主人は、自分の家族を失った悲しみを私達を作ることで埋めようとした。」
カタンさんは再び目を閉じます。
「そして、色々な試行錯誤を経て、人形に人間の動きをさせるための研究に打ち込んだの。そうやって、時には墓荒らしの真似をしてまで。
骨格をアダマスで作って、人間の筋肉を利用し、防腐と保存の為のあらゆる魔法をかけた・・・。
そして出来たのが私とモペット。
私はご主人様の奥様、モペットはお嬢様がモデルだったのよ。そして私達の体には、その体の一部が使われていたの。」
私は言葉が出ませんでした。
まさか、そんな・・・。
「今までの人形師の作品の失敗は・・・他人の命を媒体に動かす事だった。理不尽に命を奪われて訳のわからないガラクタに
自分の命を封じられる、その時の魂は純粋に自分の感情に従って動くのよ。」
だから、皆、悲惨な死に方をして、人形も・・・。
「でもね、ご主人様は自分の思い出が共に生きられるなら、こんな不便な肉の塊などいらない、と、自分の命を使って私達に命を吹き込んだ。
私達が目覚めて最初に見たのは、ご主人様の亡骸だったわ。」
自分の幸せの為に、自分を犠牲にした、その皮肉。
「それももうそろそろ終わる。いかな魔法が万能に見えても、限界は必ず来るのよ。魔力の供給が無い状態なら、保存魔法も消える。
蝋燭が消えていくようにね・・・。」
私は一縷の望みをかけて言いかけました「ならば私が。」と
しかし
「貴方の魔力が私に合うかは未知よ。下手すればあなた自身の未来を閉ざしてしまうかもしれない。そんな生き方を私が是と思うと?」
私の言葉が詰まります。
「形あるモノも無きモノも、この世の理に照らせば皆同じ。人も私達も全て同じ鎖に縛られたモノなのよ。それは神も同じなのよ?」
そこまで言って、ある気配が私の背中に感じられました。
「あなた。」
「お父さん。」
そこにはセピア色の、カタンさんとモペットさんそのものの姿の二人の女性がいました。
「あなたを置いていってしまった事を悔やまぬ日は私にも、娘にも無かったわ。もう一人で苦しむ事は無いのよ。」
「お父さん、今まで本当にごめんなさい。私達はお父さんの近くにいたけれど、お父さんは私達に気づけなかったから、こんなにかかってしまった。」
カタンさんの声が男性の声に変わりました。
「ノナ、アリシア・・・迎えに来てくれたのか・・・いや、やっと私が気付けるようになった、と言った方が良いな。」
カタンさんとモペットさんの棺から、何かが立ち上って、一人の男性の姿を形作ります。
「魂を分けたのがいけなかったのかも知れぬな・・・お前達の存在に気付くのが遅れてしまってすまない。」
心底詫びる声に、二人は答えます。
「いいえ、あなた。私があの夜、意地を張ってアリシアを連れて行かねば、貴方がここまで苦しむ事は無かったのに。」
「お母さん、ずっと泣いていたのよ。もう三人で分かり合えたんだから、お父さんもお母さんを解ってあげて。」
哀願の声に男性はうなづき。
「お互いのすれ違いで、随分と損と遠回りをしてしまったな・・・。」
三人は互いに抱き合い、涙していました。
やがて、男性が振り向いて、私に小さなブローチを渡して、言いました。
「アリスさん、短い間とは言え、世話になった。そして私の事を覚えていてくれた事に感謝するよ。このブローチをあなたに贈ろう。」
金で縁取られた、紅い宝石のブローチ。
「いかな大事な人を失うようなことになっても、私のような過ちは絶対に犯してはならない。約束してくれるかね?」
私は、力強くうなづきました。
「絶対に、あなたと違う方法で、私は自分の夢を叶えます。邪法など使わなくても、胸を張って皆に夢を与えられるように。」
その言葉に満足したのか、彼は言いました。
「その言葉、私達は信じるよ。そのブローチは約束の証だ。くじけそうになったら、それがあなたの支えになってくれるだろう。
さあ、私達はもう、ここから居なくなる。貴方もお行きなさい。」
三人は深々と礼をし、私もそれに応え、階段を登っていきました。
「さようなら、もう会えないでしょうけど、あなたの通った道を行かないように、私は自分の道を切り拓いて見せます。」
そう行って家の外に出ると、家は夢が覚めるように、その姿が薄れて、消えてしまいました。
残されたのは、裏庭があったと思われる場所に建っている、二つの墓石。
エントランスの人形も、書架の本やノートも残っては居ませんでした。
時は経って、私は幻想郷であの人が犠牲無しに作れなかったものを完成させようと、今も試行錯誤を繰り返しています。
「疲れたわね。まだまだ完全自律は遠いか・・・。」
その声を聞いたのか、私のことを心配そうに見上げる小さな人形が一つ。
「上海、心配しなくても大丈夫よ。私はあなたを大事に思っているし、絶対に忘れないと約束したのだから。」
やっと作り上げた、半自律人形の『上海』。言葉は話せないけれど、ある程度の感情を表現する事はできる子。
そして、あの時のブローチは、机の上で今も穏やかに私を見つめています。
・・・・・・。
満ち足りて眠りつく 古びて壊れた からくり人形
輝きを秘めていた ガラスの瞳もひび割れて
暗い部屋の中に ほこりにまみれて さび果てた歯車 二度と動かない
人形は覚えてる 人々の心の暖かさ
それだけを胸に抱き 少しづつ 崩れ去ってく
満ち足りて眠りつく 古びて壊れた からくり人形
輝きを撒き散らす 銀糸の刺繍も破れ果て
部屋の隅の闇に 蜘蛛の巣まみれで 閉じられた瞼は 二度と開かない
人形は忘れない 人々の手のひらの温もり
それだけを胸に抱き 一人きり 崩れ去ってく
実際にありえそうで面白かったです。