青空をとても妖精とは思えない速度で飛んでいく、青い服に青いリボンの妖精。
霧の湖の妖精、最強の氷の精、名前はチルノと言う。
その手に抱えているのはマザーグースの詩集。
「詩人さんにあたいのさいきょーの魔法をプレゼントするのだ!」
1ヶ月とちょっと前、ネタが切れて締め切りに追われた詩人に、紅魔館の住人に「お願いして」教えてもらった
「リャナン・シー」作戦を敢行するも、大失敗して詩人に大怪我を負わせ、病院送りにしてしまった失点を取り戻すために
彼女は流星の速さで霧の湖へ飛んでいく。
あとから聴けば
「リャナン・シーは取り憑いた詩人に素晴らしい詩を作る力を与えるが、取り憑かれた詩人は必ず死んでしまう」という。
紅魔館の連中に文句を言ったら
「それを言う前に飛び出したのはチルノの方だ。」と不機嫌そうに言われた。
しかしそれで凹む妖精ではない。
なので今度は危険が無いように、前に読んだマザーグースの詩集の一編を思い出し、詩人からその本を借りて
詩人が「リフレックスできる」ような薬を作ろうと思った。
霧の湖のほとり。
一生懸命に文字の列に目を通す。
「えーと、あ、ここだここだ、『おさとうと、スパイスと、世の中のすてきな何もかもみんなそんなもので出来ている』、ここだ!」
いそいそとチルノは準備に取り掛かった。
魔法の薬を作るのに使う調合壺、火種、砂糖と蜂蜜・・・。
「スパイスって、なに入れればいいんだろ?」
「あ、チルノちゃんだ!」
「面白そうな事やってるの?」
「わたし達もまぜてー」
そこに居たのは、三月精の面々。ルナチャイルド、サニーミルク、スターサファイア。
「あ、三月ちゃんたちだ!ちょうど手伝いが欲しかったんだ!」
「どうしたの?」
サニーの質問に、チルノは今までの経緯を話して、ついでに本も見せた。
「ふーん、世の中の素敵な何もかもって、あたし達の手で作れるんだ。」
「面白そう、やるやる。手伝わせて!」
残りの二人も乗り気で食いついてくる。
「じゃあねー、このスパイスって言うのが良く解らないから集めてきて欲しいんだ。でも、ちゃんと人が食べられるものじゃないとダメね。」
「うん、わかった。!」三人の元気な声が重なり、チルノを残して方々に飛んでいった。
「じゃあ、あたしはその間にさいきょーに素敵なものでこれを作るのだ!」
調合釜を火にかけて、能力で作った氷を溶かしていく。
「えーと、まずはおさとう・・・。スパイスは後で入れるとして、次ははちみつ・・・。」
焦がさないようにかき混ぜながら、慎重に蜂蜜を入れる。
暫くとろ火で煮詰めていると、三月精が帰ってきた。
「チルノちゃーん、色々手に入ったよー!」
各々、一抱えもある袋を持って飛んでくる。
「これだけあれば色々作れるかも!みんなおつかれ!次はこの鉢でスパイスすりつぶして。」
三妖精は各々、持ってきた材料を乳鉢ですりつぶし始める。
「・・・スターアニスと、カルダモンと・・・。」
「こっちはナッツとクミンシードと・・・。」
「これはナツメグ~♪そしてターメリックを少々~♪クローブとコショウは隠し味~♪」
十数分後。
「チルノちゃん、こっち終わったけどどうするの?」
サニーミルクの質問に、汗を拭きながらチルノが楽しそうに言った。
「へっへー、これからが重要な作業!スパイスは一番最後に入れます!その前に・・・。」
拳を振り上げるチルノ。
「みんなが一番すてきだと思ったものを春の光にまぜまぜします!」
チルノが取り出したのは模様が魔法文字になっている壺。
そこには溢れんばかりに輝く液体が満ちている。
「チルノちゃん、これは何?」
スターサファイアが目を細めて液体を見る。どうやら彼女達も初めての魔法らしい。
「森の魔法使いからぬす・・・借りてきた、光を飲み物に出来る壺なのだ!」
「へー、良く借りてこられたね。」驚いた顔でルナチャイルドがチルノを見た。
「あたいはさいきょーだからこれくらい何のことも無くぬす・・・借りられるのだ!」
そう言うと、チルノは調合壺に液体を半分ほど入れて、そのまま魔法の壺を前に置く。
「まず、あたいの氷に当たって散ってる太陽の光を入れてー。」
澄んだ青空の色と混ざり合う光が淡く色を添える。
次にサニーミルクが壺に手をかざす。
「あたしは牛乳の白さと天の川の光と・・・白いはなみずきの光!さくらの色もいれときましょ。」
乳白色の光が手からこぼれおち、空の色を薄めていく。白い中にほのかに浮かぶ桜の花の色。
最後にスターサファイア
「石から目覚めたスターサファイアの光と、シリウスの輝きと、北極星のらしんばんの光ー。」
氾濫しそうな輝きが穏やかに治まっていく。
「あとはこれを」「何かおいしそうなもの作ってる?」
不意に声を掛けられて四人が振り向くと、春の妖精、リリーホワイトが居た。
「あ、リリーちゃんきてたんだ!実はかくかくしかじか・・・。」
四人の説明に、リリーホワイトは目を輝かせて
「じゃあ、私もお手伝いする。春の息吹と芽吹く草と咲き誇る花の力を入れまーす。」
数秒後、出来た液体はタンポポのような、命に満ちた輝き・・・。
「これを入れて、後は少したったらスパイスと、このハーブを入れればかーんぺきー!」
「チルノちゃん、そのハーブってなに?」
「えーとね、あの本に書いてあったんだけど、パセリとタイムとローズマリーとセイジ!
これを魔法のシメに使うと、ぬい目も針あとも無い上着を作れたり、しお水とすなはまのあいだの土地をたがやして畑を作ったり出来るんだって!」
「あたらしい魔法の本みたいだね、今度かして?」
興味津々にスターサファイアが訊くが、チルノは
「これ、借りものだし、また貸しはダメだって言われたから、あたいが読み終わったら訊いてみるといいよ!」
五人がにぎやかに話していると、もうひとつ近づいてくる影があった。
「みんな楽しそうでおいしそうだけど、なにかつくってるの?」
「あ、ルーミアだ。」
金髪に赤いリボン、黒を基調としたワンピース。宵闇の妖怪ルーミア。
「なんかおいしそうだけど、ひとくちくれる?」
その目は火にかかっている調合壺に向いている。
「んー、これ、魔法の薬だから食べ物じゃないよ?」
「そーなのかー?」
「うん、光の魔法入れてあるから、ルーミア飲めないかも。」
ルーミアはそれを聞いて暫く考えていたが、やがて調合壺の方に飛んでいって、手をかざす。
あせりだす五人
「ちょっと、ルーミア、なにするつもり!?」
「んー、私の宵闇を入れれば飲めるかなって。」
「まって!、それは直接入れちゃダメ!夕暮れの魔法がかかってないから入れたら・・・」
止める間もなく、ルーミアの手から漆黒の球体が調合壺に吸い込まれる。
相反する性質の魔法が中和無しに混ざればどうなるか・・・。
壺から光と闇の混ざった不吉な虹彩があふれ出す。中身も沸騰した湯の如く泡を噴き、調合壺にひびが入った。
「みんな逃げて!じゃないとここは・・・アッー!!!」
チルノ達の視界がホワイトアウトした。
轟音が響き、霧の湖の森の一部は跡形も無く更地になった。
煙が晴れたあとに残っているのは、上半身が土にめり込んで足だけ出ている者や、湖に力なく漂って居る者
テルテル坊主よろしく木の枝に引っかかって揺れている者、黒焦げになって放心して居る者と目を覆わんばかりの惨状・・・。
同時刻
ドガーン!!
午睡のまどろみをかき消され、跳ね起きた詩人は慌てて庭に出る。
爆発源らしいその方向には、小さなキノコ雲が立ち上り、その下では多々の色彩が乱舞している。
「アレは・・・霧の湖の方向じゃないのか?」
不吉な予感に胸が騒いだ、が、現場に幻想郷の実力者が集まり始めたので、彼は地図でそれが湖の近くの森で起こった事を確認し、安堵した。
しかし、それが彼にとって、また厄介な出来事の狼煙になる事を、彼はまだ知らない。
霧の湖の妖精、最強の氷の精、名前はチルノと言う。
その手に抱えているのはマザーグースの詩集。
「詩人さんにあたいのさいきょーの魔法をプレゼントするのだ!」
1ヶ月とちょっと前、ネタが切れて締め切りに追われた詩人に、紅魔館の住人に「お願いして」教えてもらった
「リャナン・シー」作戦を敢行するも、大失敗して詩人に大怪我を負わせ、病院送りにしてしまった失点を取り戻すために
彼女は流星の速さで霧の湖へ飛んでいく。
あとから聴けば
「リャナン・シーは取り憑いた詩人に素晴らしい詩を作る力を与えるが、取り憑かれた詩人は必ず死んでしまう」という。
紅魔館の連中に文句を言ったら
「それを言う前に飛び出したのはチルノの方だ。」と不機嫌そうに言われた。
しかしそれで凹む妖精ではない。
なので今度は危険が無いように、前に読んだマザーグースの詩集の一編を思い出し、詩人からその本を借りて
詩人が「リフレックスできる」ような薬を作ろうと思った。
霧の湖のほとり。
一生懸命に文字の列に目を通す。
「えーと、あ、ここだここだ、『おさとうと、スパイスと、世の中のすてきな何もかもみんなそんなもので出来ている』、ここだ!」
いそいそとチルノは準備に取り掛かった。
魔法の薬を作るのに使う調合壺、火種、砂糖と蜂蜜・・・。
「スパイスって、なに入れればいいんだろ?」
「あ、チルノちゃんだ!」
「面白そうな事やってるの?」
「わたし達もまぜてー」
そこに居たのは、三月精の面々。ルナチャイルド、サニーミルク、スターサファイア。
「あ、三月ちゃんたちだ!ちょうど手伝いが欲しかったんだ!」
「どうしたの?」
サニーの質問に、チルノは今までの経緯を話して、ついでに本も見せた。
「ふーん、世の中の素敵な何もかもって、あたし達の手で作れるんだ。」
「面白そう、やるやる。手伝わせて!」
残りの二人も乗り気で食いついてくる。
「じゃあねー、このスパイスって言うのが良く解らないから集めてきて欲しいんだ。でも、ちゃんと人が食べられるものじゃないとダメね。」
「うん、わかった。!」三人の元気な声が重なり、チルノを残して方々に飛んでいった。
「じゃあ、あたしはその間にさいきょーに素敵なものでこれを作るのだ!」
調合釜を火にかけて、能力で作った氷を溶かしていく。
「えーと、まずはおさとう・・・。スパイスは後で入れるとして、次ははちみつ・・・。」
焦がさないようにかき混ぜながら、慎重に蜂蜜を入れる。
暫くとろ火で煮詰めていると、三月精が帰ってきた。
「チルノちゃーん、色々手に入ったよー!」
各々、一抱えもある袋を持って飛んでくる。
「これだけあれば色々作れるかも!みんなおつかれ!次はこの鉢でスパイスすりつぶして。」
三妖精は各々、持ってきた材料を乳鉢ですりつぶし始める。
「・・・スターアニスと、カルダモンと・・・。」
「こっちはナッツとクミンシードと・・・。」
「これはナツメグ~♪そしてターメリックを少々~♪クローブとコショウは隠し味~♪」
十数分後。
「チルノちゃん、こっち終わったけどどうするの?」
サニーミルクの質問に、汗を拭きながらチルノが楽しそうに言った。
「へっへー、これからが重要な作業!スパイスは一番最後に入れます!その前に・・・。」
拳を振り上げるチルノ。
「みんなが一番すてきだと思ったものを春の光にまぜまぜします!」
チルノが取り出したのは模様が魔法文字になっている壺。
そこには溢れんばかりに輝く液体が満ちている。
「チルノちゃん、これは何?」
スターサファイアが目を細めて液体を見る。どうやら彼女達も初めての魔法らしい。
「森の魔法使いからぬす・・・借りてきた、光を飲み物に出来る壺なのだ!」
「へー、良く借りてこられたね。」驚いた顔でルナチャイルドがチルノを見た。
「あたいはさいきょーだからこれくらい何のことも無くぬす・・・借りられるのだ!」
そう言うと、チルノは調合壺に液体を半分ほど入れて、そのまま魔法の壺を前に置く。
「まず、あたいの氷に当たって散ってる太陽の光を入れてー。」
澄んだ青空の色と混ざり合う光が淡く色を添える。
次にサニーミルクが壺に手をかざす。
「あたしは牛乳の白さと天の川の光と・・・白いはなみずきの光!さくらの色もいれときましょ。」
乳白色の光が手からこぼれおち、空の色を薄めていく。白い中にほのかに浮かぶ桜の花の色。
最後にスターサファイア
「石から目覚めたスターサファイアの光と、シリウスの輝きと、北極星のらしんばんの光ー。」
氾濫しそうな輝きが穏やかに治まっていく。
「あとはこれを」「何かおいしそうなもの作ってる?」
不意に声を掛けられて四人が振り向くと、春の妖精、リリーホワイトが居た。
「あ、リリーちゃんきてたんだ!実はかくかくしかじか・・・。」
四人の説明に、リリーホワイトは目を輝かせて
「じゃあ、私もお手伝いする。春の息吹と芽吹く草と咲き誇る花の力を入れまーす。」
数秒後、出来た液体はタンポポのような、命に満ちた輝き・・・。
「これを入れて、後は少したったらスパイスと、このハーブを入れればかーんぺきー!」
「チルノちゃん、そのハーブってなに?」
「えーとね、あの本に書いてあったんだけど、パセリとタイムとローズマリーとセイジ!
これを魔法のシメに使うと、ぬい目も針あとも無い上着を作れたり、しお水とすなはまのあいだの土地をたがやして畑を作ったり出来るんだって!」
「あたらしい魔法の本みたいだね、今度かして?」
興味津々にスターサファイアが訊くが、チルノは
「これ、借りものだし、また貸しはダメだって言われたから、あたいが読み終わったら訊いてみるといいよ!」
五人がにぎやかに話していると、もうひとつ近づいてくる影があった。
「みんな楽しそうでおいしそうだけど、なにかつくってるの?」
「あ、ルーミアだ。」
金髪に赤いリボン、黒を基調としたワンピース。宵闇の妖怪ルーミア。
「なんかおいしそうだけど、ひとくちくれる?」
その目は火にかかっている調合壺に向いている。
「んー、これ、魔法の薬だから食べ物じゃないよ?」
「そーなのかー?」
「うん、光の魔法入れてあるから、ルーミア飲めないかも。」
ルーミアはそれを聞いて暫く考えていたが、やがて調合壺の方に飛んでいって、手をかざす。
あせりだす五人
「ちょっと、ルーミア、なにするつもり!?」
「んー、私の宵闇を入れれば飲めるかなって。」
「まって!、それは直接入れちゃダメ!夕暮れの魔法がかかってないから入れたら・・・」
止める間もなく、ルーミアの手から漆黒の球体が調合壺に吸い込まれる。
相反する性質の魔法が中和無しに混ざればどうなるか・・・。
壺から光と闇の混ざった不吉な虹彩があふれ出す。中身も沸騰した湯の如く泡を噴き、調合壺にひびが入った。
「みんな逃げて!じゃないとここは・・・アッー!!!」
チルノ達の視界がホワイトアウトした。
轟音が響き、霧の湖の森の一部は跡形も無く更地になった。
煙が晴れたあとに残っているのは、上半身が土にめり込んで足だけ出ている者や、湖に力なく漂って居る者
テルテル坊主よろしく木の枝に引っかかって揺れている者、黒焦げになって放心して居る者と目を覆わんばかりの惨状・・・。
同時刻
ドガーン!!
午睡のまどろみをかき消され、跳ね起きた詩人は慌てて庭に出る。
爆発源らしいその方向には、小さなキノコ雲が立ち上り、その下では多々の色彩が乱舞している。
「アレは・・・霧の湖の方向じゃないのか?」
不吉な予感に胸が騒いだ、が、現場に幻想郷の実力者が集まり始めたので、彼は地図でそれが湖の近くの森で起こった事を確認し、安堵した。
しかし、それが彼にとって、また厄介な出来事の狼煙になる事を、彼はまだ知らない。
特別何か盛り上がるわけでもなく、コメントに困る作品でした。