妹様が「今夜あのラストボスみたいな名前のシチューを食べたい」というので
ことこととラストボスを鍋で遊ばせながらキッチンの机で手芸雑誌などを眺めます。
ぼうと眺めているとああこの雑誌はもう一字一句覚えてしまうほど読んだなあと
うんざりしてしまいましたが、かといって図書館に行くのもなんか面倒だと究極的瀟洒風ため息をつくも
牛すじ肉を煮込む五時間ほどを手持ちぶたさんで待つのももったいないと感じ
仕方なく重い腰を持ち上げて図書館へ向かうことにしました。
鍋はとろ火にしているしまさか今日び
完璧で完全で瀟洒でパーフェクトでエキセントリックでエキゾチックで淫靡でエロティックなメイドである私が
うっかりこの鍋を焦がしてしまい
「やってしまいました☆ てへっ ドジっ子可愛いメイドさんは今日もドジっ子であったのでした。ちゃんちゃん」
でこの話のオチをつけるなど90年台のビデオ・アニメーションのような失態失敗を犯すのも考え難いので
火はつけっぱなしで行くことにします。
「もちろん私の心の火も常時点灯中なんですけどね。なんちゃって」
図書館へ向かう足がなぜか少し重い気がするのは
先程わけの分からない台詞を発した故の自己嫌悪からのこっ恥ずかしさのせいでしょうか。
一人の時にテンションが暴発するのはよくあることですが、冷たい汗が流れ出るのを抑えられません。
地下図書館の扉も何故かいつもより冷たく、重く感じます。
しかし、図書館に入った瞬間それが気のせいではないのがわかります。
空気が違いました。
いつもなら小悪魔の入れる紅茶の香りかそれとも無精のせいで臭う紅魔の魔女特有の
ぞうきんみたいな匂いがするはずですが、今日は違います。
風の流れが早い。
地下の密室した臭くてジメジメしてネチャネチャしている部屋とは思えないほど
空気が動いています。
「魔理沙がまた風穴でも開けたのでしょうか」
そうつぶやいてから今日は一度も爆発音を聞いてはいないのでそれは無いなという
反対意見が自分の中で主張しました。
問います。
じゃあなぜ。
その答を出すのは簡単です。
ここの住人に聞けばいいのです。
なるほどう。
私は頭の中で一切逆転しない裁判所を開廷してにやにや笑みを浮かばせながら歩みを進めます。
一体、この図書館には何が起きているのでしょうか。
「これは予想してなかったわ」
パチェアー(※)があるひらけた所まで到達すると私の予想を遥かに超える光景が広がっていました。
(※パチェアー パチュリーのチェアー)
ここの主であるパチュリー様が踊っていました。
両の手を盆踊りの如くひらひらと舞い散らせながら腰をくいくいとリズムよく小刻みに震わせています。
必死に汗をかきながら腰をくねらせています。
それを間近で体操座りで見ているのは従者の小悪魔。
ただただ真剣にパチュリー様の踊りを眺めています。
そもそもパチュリー様が床に立っている所見るのも久方ぶりなような気もします。
その上、踊っている。
こんな奇異なことがあって良いのでしょうか。
なんとなく特に寂れてもなくしかし「都会」というまでもない
微妙にショッピング・モールなどが展開されている駅で
ギターやらトランペットやらを演奏している若者と、その数少ないフアンの想起させる光景です。
「これは?」眺めているフアンもとい小悪魔の横に立って聞いてみるも
小悪魔は目の前の踊る魔女に夢中のようで一切こちらを見る気がありません。
「ねね、これは?」もう一度、今度は座っている小悪魔の肩を叩き聞いてみます。
やっと気づいたのかそれともわざと無視していたのか小悪魔は私の方をめんどくさそうに振り向き
「座ってください」とそうつぶやくだけでした。
私は少しむっと思いながらも並んで体操座りをして踊る魔女を眺めてみます。
少し見上げるとたった一メートルほど先に必死な顔で汗を流しながら踊っている魔女がいます。
悔しいことにその胸板に付いている無駄な肉は、自身を必死にアッピールしており唇を噛み締めざるを得ません。
こちらに並んでいる二人の観客などまるでいないかのように、音楽など流れているわけでもなく踊り続けています。
ただただ必死に両の手を落ちゆく桜の花弁のごとくひらつかせて肩と腰でリズムを刻んでいます。
なぜ踊っているのでしょうか。
「運が良かったですね」「え?」「まだ、始まったばかりですよ」
一体だからどうしたというのだろうか。
私を一瞥した視線もすでに踊る魔女へと戻っています。
こう見えても私は頭の回転は早い。
いろいろな解釈をし、状況を客観視してみます。
もしかしたらパチュリー様は普段から踊っていたのでしょうか。
それで展覧会ならぬ発表会のようなものが週に何回か、私がお嬢様の日記を隠し読みする頻度くらいで行われており
今日はたまたま私が出くわしただけなのでしょうか。
これはお嬢様も知らない二人だけの秘密なのでしょうか。
二人で私をからかっている可能性も考えてみます。
二人はなかなかにおちゃめでいたずら好きな所もあるのは既知ですし、小さい時に何度かやられてきました。
私が小さい頃にされたいたずらの数々は忘れたくても忘れられません。
確かあの時は私の股間にまあいいか。今は重要ではありません。
話を戻しましょう。
ですが、お風呂に入るのも億劫に感じて普段ぞうきん臭を撒き散らすほどの運動無精が
私をからかうためだけに踊ったりする事があるでしょうか。
ありえません。
私のメイド人生を賭けても有り得ないといえるでしょう。
体操座りしている小悪魔に目を向けてみます。
ぷるぷるの唇とその幼くもあり少々の色香を持つ横顔を見ると口の中に涎が溜まっていくのはなぜでしょうか。
当の小悪魔は私の激変する涎の量とは対称に一切動きがありません。
ただ踊る魔女をじいっと穴が空くほど見つめています。
まあ穴はいくつか開いているのだけど、という無駄な思考は排除しつつ魔女に視線を移します。
あいも変わらずです。
なぜ彼女は踊っているのでしょうか。
わからず、時は過ぎていきます。
カップラーメンが4つか5つほど作れる時間はたったでしょうか。
その間ぼうとしながら自分の爪などを眺めながら
レモン70個分のビタミンCを誇るCCレモンのことを考えていると小悪魔が突然言葉を発しました。
「おめが」
最初は小悪魔が何を言ったか分かりませんでした。
そしてそれが「オーマイゴッド」だといったのだろうと思いました。
ただ常套句とはいえ仮にも悪魔である存在が「オーマイゴッド」などといっていいものだろうかと
私は急におかしくなってしまいます。
が、当の本人は私の薄ら笑うイケメンフェイスなど気にせずに驚いた顔をしながらもう一度「おめが」と呟きました。
不思議に思い、踊る魔女に視線を移します。
踊りが変わっていました。
そして、小悪魔の言葉をやっと理解しました。
それは「おめが」でした。
先ほど咲き狂う花びらを表現していた両手は腰に当てられています。
以前までの踊りが「乱」だとしたら今度は「穏」。
手の甲を腰にあて、足は動かさずに腰だけ左右に揺れる踊り。
そう、それは完全に「Ω」でした。
魔女はΩになっていました。
どこを見つめるわけでもなくいちにーいちにーと腰を左右に揺らしています。
「おめが」
呟いたのが自分だと気づくのに数秒かかりました。
私はその揺れるおめがに完全に魅入られていました。
揺れるおめがは見つめる私達などに目もくれず腰を横に揺らし続けます。
目は半目、出かかった太陽を逆さにしたようなじっと虚空を見つめる目。
口は三角、いや、「A」です。
魔女の陰湿さやネチョネチョ感を存分に表した「A」の口をしています。
一体、どういうことなのでしょうか。
見つめる私の体も揺れてきます。
小悪魔が私の方へ振り向きました。
その顔は笑顔で。
自然と私も笑顔になります。
私たちは体操座りのままおめがと一緒に揺れ続けました。
「あっ」
小悪魔と私は思わず同時に声を上げてしまいます。
おめがのリズムが崩れました。
いちにーいちにー
が
いちいちにーにー
に変化したのです。
こうなると私たちはもう声を上げて笑ってしまいます。
何しろおめがはいちいちにーにーとリズムをうっているからです。
いちいちにーにー
いちいちにーにー
いちいちにーにー
いちいちにーにー
そのあいくるしくも陰湿でネチャネチャで必死の魔女を見たら誰だって笑うし
クララだって立ち上がります。
もちろん小悪魔が立ち上がりました。
魔女の真似をして、彼女もおめがになろうとしています。
手の甲を腰に当て、腰をいちいちにーにーと揺らします。
小悪魔の顔がこちらへ向きます。
「さあ」
「……ええ」
言わなくてもわかります。
私たちは魔女と一緒に踊りました。
3つのおめがが出来上がりました。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
「キャラメルー」「コーラ」「何観よっか」「面白いの」
「咲夜いる?」「たぶん」「あ、本当だここだ」「さくやー」「さくやー」
ばたばたと図書館に吸血鬼姉妹が入って来ました。
一時は妹君を閉じ込めたりとだいぶ家庭内のヴァイオレンスがあったりした紅魔の館ですが
それも過去のこと。
今では二人でネットリバーシで対戦しながら今度里の映画館に二人で行ってみようか、なんて仲良く話すほどの仲です。
キャラメル・ポップコーンとコーラを頬張りつつ足をぶらつかせる吸血鬼姉妹の愛らしいデート風景など里で見かけたら
みなは驚くか写真に収めようとすることでしょう。
最も吸血鬼は写真に写らないので脳内アルバムに収めようとするのでしょうが。
きゃあきゃあとデートを想像しながら二人ではしゃいで盛り上がった所で
さあ後はメイドの許可だけだと姉はメイドを呼びますが
いつも一秒もかからずに来るはずのメイドが一向に自分の元へ現れません。
はてと不思議がる姉に対し「これは事件ね」と姉の真似をして盛り上がるのは妹君。
「アームチェア・デチチチブに私もなりたい」と舌っ足らずな妹の台詞に悶えながらも
妹のごっこ遊びには姉は付き合ってあげないとな、しょうがないなと
さもめんどくさそうにニヤけながら付き合う姉の姿はうずうずとし、爆発する寸前のダイナマイトを思わせるほどでした。
さあいざ探しに行くぞとしてもメイドは外出時にはどのような時にも声がかかるので
探す場所は館内に限られ、館内でメイドのいそうな所といったら台所にいないとなるとやはり行く場所など図書館くらいしかなく
推理する必要などなかったりしたのですが。
アームチェア・デチチチブが動きまわっていいものかというのはご愛嬌で。
「さくやー」「さくやー」「えいがー」「ポップコーン」「いなくない?」
「とりあえずパチェのところに行きましょう」「パチェー」「パチェー」
「で、ででっで」「で、ででっで」「で、ででっで」「で、ででっで」
「みょーんみょみょみょ、みょーん」「みょ、みょーんみょみょみょ、みょーん」
まるで五歳児のような言動行動である彼女らですが実際は495くらい足してもらうと正しい年令になります。
ちなみに後半の彼女らの台詞は半霊剣士のことではなく
紅魔郷一面道中BGMの出だしであるが、それを分かるのはこの吸血鬼姉妹とメイドだけでいいです。
さあ二人がパチェアーの所まで行くとなんとも奇妙な光景が広がっています。
思わずサビ直前のBGMも止まってしまうほどです。
そこには
「Ω」と
「K」と
「出」がいました。
姉も妹もぽかんとその光景を眺めます。
「Ω」は相変わらずいちいちにーにーと腰を揺らしています。
背中から羽を生やした赤髪の「K」は両手を伸ばし交互に上げ下げしています。
膝でリズムを揃え両手を上下に振り続けます。
メイド姿の「出」はラジオ体操の一部分のようにいちにーさんハイで両手両足を同タイミングでガニ股に曲げ
「出」の文字を強調します。
あんぐりと吸血鬼姉妹は口を開けます。
姉妹にとっていわゆる「静」を思わせる三人の淑女が無言で奇妙なダンスを踊っていたら
それはもうただぽかんと口を開けるしか無いでしょう。
しばらく踊る三人呆然二人の図が続きます。
その時間は前者の三人は一瞬、後者の二人は永遠に感じられていました。
その場には服の擦れる音と踊る三人のかすかな息遣いが聞こえるのみです。
メイド姿の「出」は思いました。
(お嬢様がいらっしゃる)
「出」はいちにーさんハイでがに股キメフェイスを二人に向かって決め込み続けます。
(ふたりとも、私達を見ていらっしゃる。さぞ不思議な光景でしょうね)
「出」は無言で踊り続けます。
(今にわかります)
「出」の踊りもキレが増していきます。
(私達が踊っている理由が。ああ、パチュリー様は先程までずっとこんな気持ちだったのですね)
赤髪の「K」は思いました。
(ふふふ、二人とも見ていますね)
「K」は両手を上下に振り続けます。
(パチュリー様は……)
「Ω」は先程と同様、一心フランドールに腰を揺らし続けています。
吸血鬼姉妹はというといつの間にか開けていた口を閉じ、食い入るように三人を眺めていました。
(ふふふ、二人は何になるのでしょうか)
「K」は笑みを浮かべながら二人を待ち続けました。
踊る「Ω」は思いました。
(ああ)
(ああ)
(ふうふう)
(疲れてきたわ)
(ふうふう)
(けど)
(踊るのって楽しいわ!)
そう。
踊るのは楽しいのです。
魔女は、楽しいから踊っていました。
メイドと小悪魔は、楽しそうだから踊り始めました。
ただそれだけのことでした。
そうして、太陽が出るまで六人は踊り続けたのでした。
もちろんビーフ・ストロガノフは焦げていました。
ドジっ子可愛いメイドさんは今日もドジっ子であったのでした。ちゃんちゃん
『踊る魔女』
終わり
ことこととラストボスを鍋で遊ばせながらキッチンの机で手芸雑誌などを眺めます。
ぼうと眺めているとああこの雑誌はもう一字一句覚えてしまうほど読んだなあと
うんざりしてしまいましたが、かといって図書館に行くのもなんか面倒だと究極的瀟洒風ため息をつくも
牛すじ肉を煮込む五時間ほどを手持ちぶたさんで待つのももったいないと感じ
仕方なく重い腰を持ち上げて図書館へ向かうことにしました。
鍋はとろ火にしているしまさか今日び
完璧で完全で瀟洒でパーフェクトでエキセントリックでエキゾチックで淫靡でエロティックなメイドである私が
うっかりこの鍋を焦がしてしまい
「やってしまいました☆ てへっ ドジっ子可愛いメイドさんは今日もドジっ子であったのでした。ちゃんちゃん」
でこの話のオチをつけるなど90年台のビデオ・アニメーションのような失態失敗を犯すのも考え難いので
火はつけっぱなしで行くことにします。
「もちろん私の心の火も常時点灯中なんですけどね。なんちゃって」
図書館へ向かう足がなぜか少し重い気がするのは
先程わけの分からない台詞を発した故の自己嫌悪からのこっ恥ずかしさのせいでしょうか。
一人の時にテンションが暴発するのはよくあることですが、冷たい汗が流れ出るのを抑えられません。
地下図書館の扉も何故かいつもより冷たく、重く感じます。
しかし、図書館に入った瞬間それが気のせいではないのがわかります。
空気が違いました。
いつもなら小悪魔の入れる紅茶の香りかそれとも無精のせいで臭う紅魔の魔女特有の
ぞうきんみたいな匂いがするはずですが、今日は違います。
風の流れが早い。
地下の密室した臭くてジメジメしてネチャネチャしている部屋とは思えないほど
空気が動いています。
「魔理沙がまた風穴でも開けたのでしょうか」
そうつぶやいてから今日は一度も爆発音を聞いてはいないのでそれは無いなという
反対意見が自分の中で主張しました。
問います。
じゃあなぜ。
その答を出すのは簡単です。
ここの住人に聞けばいいのです。
なるほどう。
私は頭の中で一切逆転しない裁判所を開廷してにやにや笑みを浮かばせながら歩みを進めます。
一体、この図書館には何が起きているのでしょうか。
「これは予想してなかったわ」
パチェアー(※)があるひらけた所まで到達すると私の予想を遥かに超える光景が広がっていました。
(※パチェアー パチュリーのチェアー)
ここの主であるパチュリー様が踊っていました。
両の手を盆踊りの如くひらひらと舞い散らせながら腰をくいくいとリズムよく小刻みに震わせています。
必死に汗をかきながら腰をくねらせています。
それを間近で体操座りで見ているのは従者の小悪魔。
ただただ真剣にパチュリー様の踊りを眺めています。
そもそもパチュリー様が床に立っている所見るのも久方ぶりなような気もします。
その上、踊っている。
こんな奇異なことがあって良いのでしょうか。
なんとなく特に寂れてもなくしかし「都会」というまでもない
微妙にショッピング・モールなどが展開されている駅で
ギターやらトランペットやらを演奏している若者と、その数少ないフアンの想起させる光景です。
「これは?」眺めているフアンもとい小悪魔の横に立って聞いてみるも
小悪魔は目の前の踊る魔女に夢中のようで一切こちらを見る気がありません。
「ねね、これは?」もう一度、今度は座っている小悪魔の肩を叩き聞いてみます。
やっと気づいたのかそれともわざと無視していたのか小悪魔は私の方をめんどくさそうに振り向き
「座ってください」とそうつぶやくだけでした。
私は少しむっと思いながらも並んで体操座りをして踊る魔女を眺めてみます。
少し見上げるとたった一メートルほど先に必死な顔で汗を流しながら踊っている魔女がいます。
悔しいことにその胸板に付いている無駄な肉は、自身を必死にアッピールしており唇を噛み締めざるを得ません。
こちらに並んでいる二人の観客などまるでいないかのように、音楽など流れているわけでもなく踊り続けています。
ただただ必死に両の手を落ちゆく桜の花弁のごとくひらつかせて肩と腰でリズムを刻んでいます。
なぜ踊っているのでしょうか。
「運が良かったですね」「え?」「まだ、始まったばかりですよ」
一体だからどうしたというのだろうか。
私を一瞥した視線もすでに踊る魔女へと戻っています。
こう見えても私は頭の回転は早い。
いろいろな解釈をし、状況を客観視してみます。
もしかしたらパチュリー様は普段から踊っていたのでしょうか。
それで展覧会ならぬ発表会のようなものが週に何回か、私がお嬢様の日記を隠し読みする頻度くらいで行われており
今日はたまたま私が出くわしただけなのでしょうか。
これはお嬢様も知らない二人だけの秘密なのでしょうか。
二人で私をからかっている可能性も考えてみます。
二人はなかなかにおちゃめでいたずら好きな所もあるのは既知ですし、小さい時に何度かやられてきました。
私が小さい頃にされたいたずらの数々は忘れたくても忘れられません。
確かあの時は私の股間にまあいいか。今は重要ではありません。
話を戻しましょう。
ですが、お風呂に入るのも億劫に感じて普段ぞうきん臭を撒き散らすほどの運動無精が
私をからかうためだけに踊ったりする事があるでしょうか。
ありえません。
私のメイド人生を賭けても有り得ないといえるでしょう。
体操座りしている小悪魔に目を向けてみます。
ぷるぷるの唇とその幼くもあり少々の色香を持つ横顔を見ると口の中に涎が溜まっていくのはなぜでしょうか。
当の小悪魔は私の激変する涎の量とは対称に一切動きがありません。
ただ踊る魔女をじいっと穴が空くほど見つめています。
まあ穴はいくつか開いているのだけど、という無駄な思考は排除しつつ魔女に視線を移します。
あいも変わらずです。
なぜ彼女は踊っているのでしょうか。
わからず、時は過ぎていきます。
カップラーメンが4つか5つほど作れる時間はたったでしょうか。
その間ぼうとしながら自分の爪などを眺めながら
レモン70個分のビタミンCを誇るCCレモンのことを考えていると小悪魔が突然言葉を発しました。
「おめが」
最初は小悪魔が何を言ったか分かりませんでした。
そしてそれが「オーマイゴッド」だといったのだろうと思いました。
ただ常套句とはいえ仮にも悪魔である存在が「オーマイゴッド」などといっていいものだろうかと
私は急におかしくなってしまいます。
が、当の本人は私の薄ら笑うイケメンフェイスなど気にせずに驚いた顔をしながらもう一度「おめが」と呟きました。
不思議に思い、踊る魔女に視線を移します。
踊りが変わっていました。
そして、小悪魔の言葉をやっと理解しました。
それは「おめが」でした。
先ほど咲き狂う花びらを表現していた両手は腰に当てられています。
以前までの踊りが「乱」だとしたら今度は「穏」。
手の甲を腰にあて、足は動かさずに腰だけ左右に揺れる踊り。
そう、それは完全に「Ω」でした。
魔女はΩになっていました。
どこを見つめるわけでもなくいちにーいちにーと腰を左右に揺らしています。
「おめが」
呟いたのが自分だと気づくのに数秒かかりました。
私はその揺れるおめがに完全に魅入られていました。
揺れるおめがは見つめる私達などに目もくれず腰を横に揺らし続けます。
目は半目、出かかった太陽を逆さにしたようなじっと虚空を見つめる目。
口は三角、いや、「A」です。
魔女の陰湿さやネチョネチョ感を存分に表した「A」の口をしています。
一体、どういうことなのでしょうか。
見つめる私の体も揺れてきます。
小悪魔が私の方へ振り向きました。
その顔は笑顔で。
自然と私も笑顔になります。
私たちは体操座りのままおめがと一緒に揺れ続けました。
「あっ」
小悪魔と私は思わず同時に声を上げてしまいます。
おめがのリズムが崩れました。
いちにーいちにー
が
いちいちにーにー
に変化したのです。
こうなると私たちはもう声を上げて笑ってしまいます。
何しろおめがはいちいちにーにーとリズムをうっているからです。
いちいちにーにー
いちいちにーにー
いちいちにーにー
いちいちにーにー
そのあいくるしくも陰湿でネチャネチャで必死の魔女を見たら誰だって笑うし
クララだって立ち上がります。
もちろん小悪魔が立ち上がりました。
魔女の真似をして、彼女もおめがになろうとしています。
手の甲を腰に当て、腰をいちいちにーにーと揺らします。
小悪魔の顔がこちらへ向きます。
「さあ」
「……ええ」
言わなくてもわかります。
私たちは魔女と一緒に踊りました。
3つのおめがが出来上がりました。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
「キャラメルー」「コーラ」「何観よっか」「面白いの」
「咲夜いる?」「たぶん」「あ、本当だここだ」「さくやー」「さくやー」
ばたばたと図書館に吸血鬼姉妹が入って来ました。
一時は妹君を閉じ込めたりとだいぶ家庭内のヴァイオレンスがあったりした紅魔の館ですが
それも過去のこと。
今では二人でネットリバーシで対戦しながら今度里の映画館に二人で行ってみようか、なんて仲良く話すほどの仲です。
キャラメル・ポップコーンとコーラを頬張りつつ足をぶらつかせる吸血鬼姉妹の愛らしいデート風景など里で見かけたら
みなは驚くか写真に収めようとすることでしょう。
最も吸血鬼は写真に写らないので脳内アルバムに収めようとするのでしょうが。
きゃあきゃあとデートを想像しながら二人ではしゃいで盛り上がった所で
さあ後はメイドの許可だけだと姉はメイドを呼びますが
いつも一秒もかからずに来るはずのメイドが一向に自分の元へ現れません。
はてと不思議がる姉に対し「これは事件ね」と姉の真似をして盛り上がるのは妹君。
「アームチェア・デチチチブに私もなりたい」と舌っ足らずな妹の台詞に悶えながらも
妹のごっこ遊びには姉は付き合ってあげないとな、しょうがないなと
さもめんどくさそうにニヤけながら付き合う姉の姿はうずうずとし、爆発する寸前のダイナマイトを思わせるほどでした。
さあいざ探しに行くぞとしてもメイドは外出時にはどのような時にも声がかかるので
探す場所は館内に限られ、館内でメイドのいそうな所といったら台所にいないとなるとやはり行く場所など図書館くらいしかなく
推理する必要などなかったりしたのですが。
アームチェア・デチチチブが動きまわっていいものかというのはご愛嬌で。
「さくやー」「さくやー」「えいがー」「ポップコーン」「いなくない?」
「とりあえずパチェのところに行きましょう」「パチェー」「パチェー」
「で、ででっで」「で、ででっで」「で、ででっで」「で、ででっで」
「みょーんみょみょみょ、みょーん」「みょ、みょーんみょみょみょ、みょーん」
まるで五歳児のような言動行動である彼女らですが実際は495くらい足してもらうと正しい年令になります。
ちなみに後半の彼女らの台詞は半霊剣士のことではなく
紅魔郷一面道中BGMの出だしであるが、それを分かるのはこの吸血鬼姉妹とメイドだけでいいです。
さあ二人がパチェアーの所まで行くとなんとも奇妙な光景が広がっています。
思わずサビ直前のBGMも止まってしまうほどです。
そこには
「Ω」と
「K」と
「出」がいました。
姉も妹もぽかんとその光景を眺めます。
「Ω」は相変わらずいちいちにーにーと腰を揺らしています。
背中から羽を生やした赤髪の「K」は両手を伸ばし交互に上げ下げしています。
膝でリズムを揃え両手を上下に振り続けます。
メイド姿の「出」はラジオ体操の一部分のようにいちにーさんハイで両手両足を同タイミングでガニ股に曲げ
「出」の文字を強調します。
あんぐりと吸血鬼姉妹は口を開けます。
姉妹にとっていわゆる「静」を思わせる三人の淑女が無言で奇妙なダンスを踊っていたら
それはもうただぽかんと口を開けるしか無いでしょう。
しばらく踊る三人呆然二人の図が続きます。
その時間は前者の三人は一瞬、後者の二人は永遠に感じられていました。
その場には服の擦れる音と踊る三人のかすかな息遣いが聞こえるのみです。
メイド姿の「出」は思いました。
(お嬢様がいらっしゃる)
「出」はいちにーさんハイでがに股キメフェイスを二人に向かって決め込み続けます。
(ふたりとも、私達を見ていらっしゃる。さぞ不思議な光景でしょうね)
「出」は無言で踊り続けます。
(今にわかります)
「出」の踊りもキレが増していきます。
(私達が踊っている理由が。ああ、パチュリー様は先程までずっとこんな気持ちだったのですね)
赤髪の「K」は思いました。
(ふふふ、二人とも見ていますね)
「K」は両手を上下に振り続けます。
(パチュリー様は……)
「Ω」は先程と同様、一心フランドールに腰を揺らし続けています。
吸血鬼姉妹はというといつの間にか開けていた口を閉じ、食い入るように三人を眺めていました。
(ふふふ、二人は何になるのでしょうか)
「K」は笑みを浮かべながら二人を待ち続けました。
踊る「Ω」は思いました。
(ああ)
(ああ)
(ふうふう)
(疲れてきたわ)
(ふうふう)
(けど)
(踊るのって楽しいわ!)
そう。
踊るのは楽しいのです。
魔女は、楽しいから踊っていました。
メイドと小悪魔は、楽しそうだから踊り始めました。
ただそれだけのことでした。
そうして、太陽が出るまで六人は踊り続けたのでした。
もちろんビーフ・ストロガノフは焦げていました。
ドジっ子可愛いメイドさんは今日もドジっ子であったのでした。ちゃんちゃん
『踊る魔女』
終わり
姉妹二人がこれ以上なくかわいい。
咲夜さんはつるぺた。異論は認めん
もちろんいい意味で
そしてそんなSSを最後まで読んでしまった自分も同類だー!