それは食事中の事でした。レミリアさんが急に立ち上がり、外に出て行きました。それに続いてパチュリーさんと美鈴さんが。
一体何が起きたのでしょうか。
「阿求が自分の部屋に閉じこもってて。いいわね!」
「え? あ、はい」
何が起きたかも分からぬまま、自室に急いで駆け込む私。その途中で見たのはいつもの優しそうなレミリアさんからは想像もつかないような獰猛な顔つき。怒りによってかみ締められた歯は捕食者の笑みにも似ていて。
「阿求さん。コレを」
いつの間にか先回りしていた咲夜さんの手から渡されたのは
「銃?」
「安全装置、弾。全て確認しております。あとは引き金を引くだけで撃つ事ができます」
他者の命を簡単に奪う無慈悲な武器。それが手渡されたということは、おそらく、いやきっとそういう状況になったのだろう。
なぜ? そんなのは知れている。紫さんの行っていたとおりのことが起きたのだ。
「気休め程度ですが」
「ありがとうございます」
もし意味がなくても、気分的には少し楽になる。部屋へ駆け込み、恐る恐る窓をのぞく。見えるのは黒、黒、黒。空を覆いつくすカラスの群れ。それに混じって人のような物体も。
自分がしてきたことがこんなにも否定されるだなんて。
そんな事は知りたくなかった。
「人の家にこんなに大勢なんのようかしら? 宿泊なら他のところに言って頂戴。うちは団体様お断りなのよ」
こんなに早く来るとは。それに私の時間なのに挑みに来るなんてこいつは馬鹿なのかしら。いや、夜に力が上がるのは向こうも一緒か。確実性をあげるなら夜に来たほうが少しだけだけど良いのかもね。
どちらにせよ、ここを鴉一匹とて通すつもりはない。
「稗田阿求を差し出してもらおうか」
「なぜ?」
「あやつの存在がどれだけ害悪になるかを知っておろう」
「さぁ。私にとって有益にはなったけどね」
「………その小さな頭で理解できているかは知らんが。この幻想郷というのは」
カッチーン。パチェならともかく自分より下の偉そうな奴にここまで言われるのはしゃく。グングニルを創造し振りかぶる。
赤い軌跡を残して偉そうな事言ってる天狗に突き刺さり爆発した。
「いきなりね。まぁ、いいとは思うけど」
パチェが魔道書を構えると周囲に四つ、輝く魔法石が浮かぶ。パチェが手をかざすとそれらから光線が放たれ、鴉をなぎ払っていった。
いきなりの攻撃に戸惑いながらも憤慨する相手。もっと怒れ。余計なことを考えられないくらい。
「お姉さま! やっちゃっていいの!? 殺しちゃっていいの!?」
屋敷の中からうれしそうな笑顔を振りまき、私の愛しの妹。フランが咲夜を伴い飛び出してくる。その手にはレーヴァテイン。やる気はよし。なら否定する理由は何もなし。
「えぇ、やっちゃいなさい。フラン」
「いっくよー!!」
私以上の火力を撒き散らし、邪魔な羽虫を焼き尽くす。天狗には当たらなかったがうっとうしい鴉を減らせたのだから良し。私のこうもりじゃ鴉には勝てないからね。
「私とフランはオフェンス、咲夜はサポート、パチェは砲撃で、美鈴はディフェンス!」
「「「「了解」」」」
今宵の月は赤くないとは言え、友を守るためだもの。本気で殺すわよ?
凄い音が鳴り響いて撒き散らされる破壊。窓から見る景色はいつも私がいる平和な世界とは違う世界で。こんな世界があるなんて文献だけでしか知らなかった。
こんなに心強い皆さんがいても体の震えが止まらない。
――――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い、私が死ぬことが。怖い、私のせいでレミリアさんたちが傷つくことが。怖い、私のせいで誰かが死ぬことが。
こんなことになるならこな―――いや、そんな事は思ってはいけない。それはレミリアさんも否定することになるから。
震えを無理やり押さえつけながら窓際に立つ。
見たくない光景。だけどこの光景は私が見なければならない。他でもない私が見届けなければ意味がないのだ。
全てを破壊する膨大な魔力が軍を通り過ぎる。天狗にそれほど危害はないだろうが、何匹のカラスがやられたことだろう。いや、どうせ捨て駒だ。気にすることはない。今考えることはどうやって味方を欺きながら、生き残るか。来るかも分からない撤退命令まで生き延びるかだ。
誰かの影に隠れて、されど目立つ。この二律背反をこなさなければ私に未来はない。
剣を握り締めるとターゲットへと視線を送る。
なぜか窓際になっているターゲットと目が合った気がした。
「行くぞ!」
号令がかかり、特攻命令が下される。私のいる場所は比較的後ろの方なのでまだだとはいえ、前で味方が殺されていくのを見るのはぞっとする。
鴉も天狗も、あいつ等にとっては一緒か。なんという規格外の化け物。
勝てるはずがないというのになぜ向かうというのか。私達にとっての勝利とはターゲットの殺害のはずだ。ならば向かわずに全力で屋敷に突入をしたほうが良い。あの門番がそれを許すとは思えないが。そっちのほうが確率的には大分マシだろうに。
「おぉ。なんという力」
上司が感嘆の声を上げる。そんなに味方が死んでうれしいか。もしこの戦いに勝利したら大天狗への出世は確実だろう。だがそれのために多くの味方を犠牲にしてうれしいか。うれしいのか?
それは私以外の天狗も同じようで口元に獰猛な笑みを浮かべる。
狂ってるとしか言いようがない。自分があれを倒せると思っているのか。これは蟻対象なんてものじゃない。人間と災害ほどの差はあるのに。
「あぁ、もううっとうしいわね」
あたれば倒せるといっても数が多いしすばやい。咲夜が動きを止めてくれる瞬間に当てないと決定打にはなりにくい。フランのようななぎ払える武器があるなら別だけども。
群れに飛び込んで不夜城レッドでも撃てば別かもしれないけど、魔力効率は悪い。私も対軍勢の技を編み出したほうがいいのかもしれない。
オフェンスと言っておきながらあまり活躍できないことに対してイライラするのでグングニルと二本創造して出来るだけ多い場所へ投げる。止まっているのなら天狗とてこの速さは避けられないわ。
グングニルは数匹貫いて、爆発した。これであと何匹かしら。三割倒して撤退。してくれればいいのだけど。
悔しいけど、四匹ほど前衛を突破されたわ。全て、美鈴が叩き落したけど。やはり美鈴は防衛戦だと最強ね。
もう接近戦で行きましょう。そう思い速度を上げる。天狗は速い。だけど私だって天狗ぐらいのスピードならだせるのよ?
「お姉さまはやーい」
フランが感嘆の声を上げる。レミィは速い。とはいえこれじゃあ魔法が撃ちづらくなってしまう。拡散する魔法に切り替えて面で攻撃しよう。これならレミィに当たってもあまりダメージ行かないだろうし。
魔力回路を切り替え、威力より範囲を重視する。レミィ。お願いだからよけてよね。
魔力の光。それは天狗の動きを止めるのには効果があったようで、動きを止めた天狗がまた一匹また一匹とレミィの餌食になる。
この方法で行きましょう。レミィに華を持たせてあげるわよ。
物量戦が始まりもう一刻ほど経っただろう。戦況は芳しくない。あともうちょっとで私の出番だ。結局どうやって生き延びるかの覚悟は浮かばなかった。
冷や汗。助けて欲しい。文さん。
目の前の味方が飛んできた魔法にやられて消えた。戦慄。こんなのと戦うのか。
思案。家族や仲間を見捨てれば私は生き残れるのではないか。
恐怖。死ぬことと家族を裏切ることのどちらも。
思考が上手くまとまらない。
嫌だ。死にたくない。
――――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
震える。武者震いじゃない。恐怖。
上司が怒号を上げ向かっていく。仲間もそれに合わせて突撃。私も仕方なく突撃。
―――――っ
「また増えたっ」
もう敵は被害などなりふり構わずなだれのように向かってきた。力を見せ付けるような戦いをしてきたけれどそれが逆効果になったらしい。
「覚悟っ!」
私の首を狙ってきた天狗の首を逆に切り裂く。まぁいい。このまま私だけを狙ってくれれば。
しかし現実とは非情なものでそんな事はぜんぜんなく。むしろ突破される数が増えてきた。このままだと押し切られるかもしれない。
すでに突破された数は二桁。やばいわね。
「―――っ」
なんて考えてると突破されてしまった。もうなりふり構っていられない。限界近くまで速度を上げ、切り裂き続ける。もう魔力消費とかそんな事どうでもいい。最後まで動き続けることができたら私の勝ちだ。
突破した。出来てしまった。見ると仲間の何人かも一緒に突破していた。後ろの気配から吸血鬼はさらに本気をだしたらしくもうあれでは何人たりとも突破することは出来ないだろう。ギリギリだったか。
目の前の銀髪の女と赤髪の女をどう突破するか。それだけを考えよう。
銀髪の女のナイフが仲間の一人を捕らえる。仲間はもう無理だと悟った瞬間。避けることではなく当たることにし、こっちへナイフが飛ぶことを抑えた。
仲間の一人を赤髪の女の拳が捕らえる。当たった仲間はゴム鞠のように地面は弾んだ。即死だろう。
恐怖がさらに速度を上げる。
しかし私の速度よりもナイフのほうが速かった。背中に数本突き刺さる。
よろけたところに、赤髪の女の拳。身をひねって回避するが、かすっただけであばら数本が持ってかれる、そのうち二本が内臓を傷つけ激痛を発する。口の中にあふれ出す血を赤髪の女の顔に吹きかけた。
「―――っ!?」
目潰し成功。あとはこのナイフを受けながら転がるように屋敷内へ突入。もう満身創痍だが足を止めれば間違いなく死ぬ。ターゲットのいる場所まで全力で飛行。
妖精メイドの弾が今の私にはとても痛い。一発一発が意識を持っていきそうなほどだ。
左腕は動かない。右目はほとんど見えない。右足はすでに感覚がない。失血で頭がふらつく。死にそうだ。生きるためなのに死にそうだ。
あれがターゲットの部屋。右手で持った剣で部屋の扉を叩き割る。ふらつきながら中に入るとそこには思ってたよりもずっと小さい人間の少女がいた。
これが私が殺す相手? 冗談だろう。この少女を殺すためだけに仲間は死に、私はこんなにもぼろぼろだ。
上の連中とやら。お前達が直々に出てくれば被害はもっと少なかったはずだ。この少女を殺すということがそんなに大切なのなら。自分の体を傷つけてすればいいじゃないか。
剣を杖代わりに一歩一歩踏み出す。目の前の少女の瞳は絶望。おそらく私と同じ目。
一歩踏み出す。口の中に血があふれてきた。
一歩踏み出す。目の前が歪んできた。
一歩踏み出す。足がふらつく
剣を掲げる。振り下ろすだけで、終わる。
文さん、これでいいんですかね。
振り下ろす。
パンッ!
終わりの音は渇いてはじけるような音がした。
部屋の外から聞こえる音それは屋敷内に敵が侵入したということでしょう。窓に背を向け、扉を見つめる。
音が近くなる。それにつれて私の心臓の音も大きくなる。
握り締めた銃が汗で滑る。しっかりと引き金をいつでも引けるように握りなおす。
轟音。扉がはじけ飛ぶ。
現れたのは白い髪を赤で染めた少女だった。右足を引きずり、左腕をだらんと下げ。剣を杖代わりに歩いて来る少女。
見てて痛々しくなるほどの重傷。だけど私を殺すには十分すぎる。
はずしてはいけない。出来るだけひきつけ、そこで撃つ。
少女がふらつく。しかし倒れることはなく一歩踏み出す。
そして私の前に立つ。剣が振り上げられる。剣が振り下ろされるのが先か、私が引き金を引くのが先か。
少女の腕が振り落とされる。
パンッ!
私が放った弾丸は少女の胸辺りを貫き赤く染める。噴出した血が生暖かい。
振り下ろされた剣は私の右腕を少し切りつけ床に突き刺さった。
この体を染める血のほとんどは私の血でなく、この少女の血。
ふらり、少女の体が私のほうに倒れてくる。
避けることは出来ずべっとりと血潮を塗りつけながら彼女の体を受け止める。
ぴくりとも動かない彼女の体がひとつの真実を突きつけた。
巫女もしたことがない。魔理沙もしたことがない。
妖怪を殺したという事実。
「うわぁあああああああぁあああああああああああああ!!!!!!!!」
もう、私は人間と妖怪の架け橋になることはできない。
一体何が起きたのでしょうか。
「阿求が自分の部屋に閉じこもってて。いいわね!」
「え? あ、はい」
何が起きたかも分からぬまま、自室に急いで駆け込む私。その途中で見たのはいつもの優しそうなレミリアさんからは想像もつかないような獰猛な顔つき。怒りによってかみ締められた歯は捕食者の笑みにも似ていて。
「阿求さん。コレを」
いつの間にか先回りしていた咲夜さんの手から渡されたのは
「銃?」
「安全装置、弾。全て確認しております。あとは引き金を引くだけで撃つ事ができます」
他者の命を簡単に奪う無慈悲な武器。それが手渡されたということは、おそらく、いやきっとそういう状況になったのだろう。
なぜ? そんなのは知れている。紫さんの行っていたとおりのことが起きたのだ。
「気休め程度ですが」
「ありがとうございます」
もし意味がなくても、気分的には少し楽になる。部屋へ駆け込み、恐る恐る窓をのぞく。見えるのは黒、黒、黒。空を覆いつくすカラスの群れ。それに混じって人のような物体も。
自分がしてきたことがこんなにも否定されるだなんて。
そんな事は知りたくなかった。
「人の家にこんなに大勢なんのようかしら? 宿泊なら他のところに言って頂戴。うちは団体様お断りなのよ」
こんなに早く来るとは。それに私の時間なのに挑みに来るなんてこいつは馬鹿なのかしら。いや、夜に力が上がるのは向こうも一緒か。確実性をあげるなら夜に来たほうが少しだけだけど良いのかもね。
どちらにせよ、ここを鴉一匹とて通すつもりはない。
「稗田阿求を差し出してもらおうか」
「なぜ?」
「あやつの存在がどれだけ害悪になるかを知っておろう」
「さぁ。私にとって有益にはなったけどね」
「………その小さな頭で理解できているかは知らんが。この幻想郷というのは」
カッチーン。パチェならともかく自分より下の偉そうな奴にここまで言われるのはしゃく。グングニルを創造し振りかぶる。
赤い軌跡を残して偉そうな事言ってる天狗に突き刺さり爆発した。
「いきなりね。まぁ、いいとは思うけど」
パチェが魔道書を構えると周囲に四つ、輝く魔法石が浮かぶ。パチェが手をかざすとそれらから光線が放たれ、鴉をなぎ払っていった。
いきなりの攻撃に戸惑いながらも憤慨する相手。もっと怒れ。余計なことを考えられないくらい。
「お姉さま! やっちゃっていいの!? 殺しちゃっていいの!?」
屋敷の中からうれしそうな笑顔を振りまき、私の愛しの妹。フランが咲夜を伴い飛び出してくる。その手にはレーヴァテイン。やる気はよし。なら否定する理由は何もなし。
「えぇ、やっちゃいなさい。フラン」
「いっくよー!!」
私以上の火力を撒き散らし、邪魔な羽虫を焼き尽くす。天狗には当たらなかったがうっとうしい鴉を減らせたのだから良し。私のこうもりじゃ鴉には勝てないからね。
「私とフランはオフェンス、咲夜はサポート、パチェは砲撃で、美鈴はディフェンス!」
「「「「了解」」」」
今宵の月は赤くないとは言え、友を守るためだもの。本気で殺すわよ?
凄い音が鳴り響いて撒き散らされる破壊。窓から見る景色はいつも私がいる平和な世界とは違う世界で。こんな世界があるなんて文献だけでしか知らなかった。
こんなに心強い皆さんがいても体の震えが止まらない。
――――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い、私が死ぬことが。怖い、私のせいでレミリアさんたちが傷つくことが。怖い、私のせいで誰かが死ぬことが。
こんなことになるならこな―――いや、そんな事は思ってはいけない。それはレミリアさんも否定することになるから。
震えを無理やり押さえつけながら窓際に立つ。
見たくない光景。だけどこの光景は私が見なければならない。他でもない私が見届けなければ意味がないのだ。
全てを破壊する膨大な魔力が軍を通り過ぎる。天狗にそれほど危害はないだろうが、何匹のカラスがやられたことだろう。いや、どうせ捨て駒だ。気にすることはない。今考えることはどうやって味方を欺きながら、生き残るか。来るかも分からない撤退命令まで生き延びるかだ。
誰かの影に隠れて、されど目立つ。この二律背反をこなさなければ私に未来はない。
剣を握り締めるとターゲットへと視線を送る。
なぜか窓際になっているターゲットと目が合った気がした。
「行くぞ!」
号令がかかり、特攻命令が下される。私のいる場所は比較的後ろの方なのでまだだとはいえ、前で味方が殺されていくのを見るのはぞっとする。
鴉も天狗も、あいつ等にとっては一緒か。なんという規格外の化け物。
勝てるはずがないというのになぜ向かうというのか。私達にとっての勝利とはターゲットの殺害のはずだ。ならば向かわずに全力で屋敷に突入をしたほうが良い。あの門番がそれを許すとは思えないが。そっちのほうが確率的には大分マシだろうに。
「おぉ。なんという力」
上司が感嘆の声を上げる。そんなに味方が死んでうれしいか。もしこの戦いに勝利したら大天狗への出世は確実だろう。だがそれのために多くの味方を犠牲にしてうれしいか。うれしいのか?
それは私以外の天狗も同じようで口元に獰猛な笑みを浮かべる。
狂ってるとしか言いようがない。自分があれを倒せると思っているのか。これは蟻対象なんてものじゃない。人間と災害ほどの差はあるのに。
「あぁ、もううっとうしいわね」
あたれば倒せるといっても数が多いしすばやい。咲夜が動きを止めてくれる瞬間に当てないと決定打にはなりにくい。フランのようななぎ払える武器があるなら別だけども。
群れに飛び込んで不夜城レッドでも撃てば別かもしれないけど、魔力効率は悪い。私も対軍勢の技を編み出したほうがいいのかもしれない。
オフェンスと言っておきながらあまり活躍できないことに対してイライラするのでグングニルと二本創造して出来るだけ多い場所へ投げる。止まっているのなら天狗とてこの速さは避けられないわ。
グングニルは数匹貫いて、爆発した。これであと何匹かしら。三割倒して撤退。してくれればいいのだけど。
悔しいけど、四匹ほど前衛を突破されたわ。全て、美鈴が叩き落したけど。やはり美鈴は防衛戦だと最強ね。
もう接近戦で行きましょう。そう思い速度を上げる。天狗は速い。だけど私だって天狗ぐらいのスピードならだせるのよ?
「お姉さまはやーい」
フランが感嘆の声を上げる。レミィは速い。とはいえこれじゃあ魔法が撃ちづらくなってしまう。拡散する魔法に切り替えて面で攻撃しよう。これならレミィに当たってもあまりダメージ行かないだろうし。
魔力回路を切り替え、威力より範囲を重視する。レミィ。お願いだからよけてよね。
魔力の光。それは天狗の動きを止めるのには効果があったようで、動きを止めた天狗がまた一匹また一匹とレミィの餌食になる。
この方法で行きましょう。レミィに華を持たせてあげるわよ。
物量戦が始まりもう一刻ほど経っただろう。戦況は芳しくない。あともうちょっとで私の出番だ。結局どうやって生き延びるかの覚悟は浮かばなかった。
冷や汗。助けて欲しい。文さん。
目の前の味方が飛んできた魔法にやられて消えた。戦慄。こんなのと戦うのか。
思案。家族や仲間を見捨てれば私は生き残れるのではないか。
恐怖。死ぬことと家族を裏切ることのどちらも。
思考が上手くまとまらない。
嫌だ。死にたくない。
――――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
震える。武者震いじゃない。恐怖。
上司が怒号を上げ向かっていく。仲間もそれに合わせて突撃。私も仕方なく突撃。
―――――っ
「また増えたっ」
もう敵は被害などなりふり構わずなだれのように向かってきた。力を見せ付けるような戦いをしてきたけれどそれが逆効果になったらしい。
「覚悟っ!」
私の首を狙ってきた天狗の首を逆に切り裂く。まぁいい。このまま私だけを狙ってくれれば。
しかし現実とは非情なものでそんな事はぜんぜんなく。むしろ突破される数が増えてきた。このままだと押し切られるかもしれない。
すでに突破された数は二桁。やばいわね。
「―――っ」
なんて考えてると突破されてしまった。もうなりふり構っていられない。限界近くまで速度を上げ、切り裂き続ける。もう魔力消費とかそんな事どうでもいい。最後まで動き続けることができたら私の勝ちだ。
突破した。出来てしまった。見ると仲間の何人かも一緒に突破していた。後ろの気配から吸血鬼はさらに本気をだしたらしくもうあれでは何人たりとも突破することは出来ないだろう。ギリギリだったか。
目の前の銀髪の女と赤髪の女をどう突破するか。それだけを考えよう。
銀髪の女のナイフが仲間の一人を捕らえる。仲間はもう無理だと悟った瞬間。避けることではなく当たることにし、こっちへナイフが飛ぶことを抑えた。
仲間の一人を赤髪の女の拳が捕らえる。当たった仲間はゴム鞠のように地面は弾んだ。即死だろう。
恐怖がさらに速度を上げる。
しかし私の速度よりもナイフのほうが速かった。背中に数本突き刺さる。
よろけたところに、赤髪の女の拳。身をひねって回避するが、かすっただけであばら数本が持ってかれる、そのうち二本が内臓を傷つけ激痛を発する。口の中にあふれ出す血を赤髪の女の顔に吹きかけた。
「―――っ!?」
目潰し成功。あとはこのナイフを受けながら転がるように屋敷内へ突入。もう満身創痍だが足を止めれば間違いなく死ぬ。ターゲットのいる場所まで全力で飛行。
妖精メイドの弾が今の私にはとても痛い。一発一発が意識を持っていきそうなほどだ。
左腕は動かない。右目はほとんど見えない。右足はすでに感覚がない。失血で頭がふらつく。死にそうだ。生きるためなのに死にそうだ。
あれがターゲットの部屋。右手で持った剣で部屋の扉を叩き割る。ふらつきながら中に入るとそこには思ってたよりもずっと小さい人間の少女がいた。
これが私が殺す相手? 冗談だろう。この少女を殺すためだけに仲間は死に、私はこんなにもぼろぼろだ。
上の連中とやら。お前達が直々に出てくれば被害はもっと少なかったはずだ。この少女を殺すということがそんなに大切なのなら。自分の体を傷つけてすればいいじゃないか。
剣を杖代わりに一歩一歩踏み出す。目の前の少女の瞳は絶望。おそらく私と同じ目。
一歩踏み出す。口の中に血があふれてきた。
一歩踏み出す。目の前が歪んできた。
一歩踏み出す。足がふらつく
剣を掲げる。振り下ろすだけで、終わる。
文さん、これでいいんですかね。
振り下ろす。
パンッ!
終わりの音は渇いてはじけるような音がした。
部屋の外から聞こえる音それは屋敷内に敵が侵入したということでしょう。窓に背を向け、扉を見つめる。
音が近くなる。それにつれて私の心臓の音も大きくなる。
握り締めた銃が汗で滑る。しっかりと引き金をいつでも引けるように握りなおす。
轟音。扉がはじけ飛ぶ。
現れたのは白い髪を赤で染めた少女だった。右足を引きずり、左腕をだらんと下げ。剣を杖代わりに歩いて来る少女。
見てて痛々しくなるほどの重傷。だけど私を殺すには十分すぎる。
はずしてはいけない。出来るだけひきつけ、そこで撃つ。
少女がふらつく。しかし倒れることはなく一歩踏み出す。
そして私の前に立つ。剣が振り上げられる。剣が振り下ろされるのが先か、私が引き金を引くのが先か。
少女の腕が振り落とされる。
パンッ!
私が放った弾丸は少女の胸辺りを貫き赤く染める。噴出した血が生暖かい。
振り下ろされた剣は私の右腕を少し切りつけ床に突き刺さった。
この体を染める血のほとんどは私の血でなく、この少女の血。
ふらり、少女の体が私のほうに倒れてくる。
避けることは出来ずべっとりと血潮を塗りつけながら彼女の体を受け止める。
ぴくりとも動かない彼女の体がひとつの真実を突きつけた。
巫女もしたことがない。魔理沙もしたことがない。
妖怪を殺したという事実。
「うわぁあああああああぁあああああああああああああ!!!!!!!!」
もう、私は人間と妖怪の架け橋になることはできない。
どういう方向に話を持っていきたいのかさっぱりだ……
それにしても批判の多いこと多いこと。
序盤で見るの止めときゃいいのに
ここまで展開が読めないと、展開が気になって楽しいですね。次回も楽しみにしてます。
あっ、あと回を重ねるごとに誤字が目立ちはじめてますので、ちょっと時間をおいてから再推敲してみても良いかも知れません。
そそわじゃ命あるものが動かなくなっていくシーンの描写をしてるものは多くないから、ちょっと驚いた部分はある。
特にハッピーエンドでくると思っていただけに、これをどう収束させていくのか。
ですがもっと幸せな展開になるのを読みたかったという気持ちからこの点数を入れさせて頂きます。