Coolier - 新生・東方創想話

「詩人に降りかかる災い・その2」

2013/03/19 03:00:45
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私の名は○○。
外界で売れない詩人をしていたが、ネタに詰まって出かけた先で、何故か幻想郷に迷い込んだ。
帰ることも出来たのだが、妖精や神、妖怪とバラエティに富んだこの世界が気に入って、人里の外れの廃屋に住み着いている。

ここでも生業は詩人として、「文々。新聞」にコーナーを作ってもらって、週2回ほどの連載でボチボチ食べている程度だ。
先だって、締め切りに追われて外にネタ探しに出た所、氷の妖精チルノに出会い、事情を話したら彼女自らが考えた「リャナン・シー作戦」の被害にあって
1ヶ月以上の入院を余儀なくされた。

流石に慧音先生や永琳先生に雷を落とされたのが効いたのか、ものすごい落ち込みようで見舞いに来てくれたが、
こちらも妖精の性格や、一つの事を考えると他に気が回らないと言うチルノの直情をを知っているが故に怒る事もせず
見舞いに来た方が逆に見舞われると言う奇妙な光景があったりと楽しかった。

連載の方は最初の頃は意識不明だった故、休載だったが、意識が戻ってからは口述筆記をお願いしてすぐに再開した。
なので他の見舞い客はベッドの上でミイラ男になっている自分を見て驚くやら腰を抜かすやら。
おかげで色々ネタが出来て連載は滞らなかった。
連載先の新聞を編集する射命丸さんも、私の入院をエッセイにして売り上げが好評だったと恵比須顔だ。

退院後、外出できるほどに回復した私を待っていたのは春の息吹だった。
ちょうど入稿も終わって少し暇が出来たので、入院と自宅療養で鈍った感性を磨こうと外に出た。

気持ちのいい風が流れ、それに乗って春の妖精が何処へとも無くふわふわと飛んでいく。
持ち主の手から離れた風船を思い出した。
妖怪の山は霞みがかってまだ眠るが如く。

「春の霞は見るまいものよ、か。」
「何で見ちゃいけないの?」
声にびっくりして振り返っても誰もいない。
「上だよー。」
チルノが悪戯っぽく笑って見下ろしている。
「やあ、元気そうで何より。」
「あたいはさいきょーだからいつでも元気なのだ。」
いつものポーズを決めて、チルノは私に訊いて来る。
「○○はまたシメきりに追われてるの?」
私は苦笑する。
「そうそうネタが降りてこないわけでは無いよ。最近家に篭りっ放しだったんでね・・・頭をすっきりさせようと思っていたのさ。」
「んー、よく言うところのリフレックス?」
「リフレッシュ、だよ。」
私が訂正すると、チルノは「あ、そうか」と屈託なく笑って「りふれっしゅりふれっしゅ・・・」と復唱している。
この娘は一緒にいると楽しい。外界の子供でもここまで飛びぬけて前向きなのはそんなに居ない。
「あ、そうだ。」復唱をやめて彼女は私に訊いてきた。
「○○、がちょうおばさんの本、借りられないかな?」
「いいけど、何か気に入ったのがあるのかい?」
「んー、前に○○を病院送りにしたから汚名をばんかい?するためにお手伝いがしたいのだ。」
それ汚名返上、だがこれ以上の訂正は彼女が困るのでしない。
「私は君の気持ちだけで大丈夫だよ。とりあえず本は貸すから今から家に寄っていくかい?」
「うん!」
満面の笑みでチルノは元気のいい返事をした。

チルノに本を貸してしばしの時間、外界で聴いていた春の歌を思い出しながら小声で歌ったり、本屋で買った絵物語を見ているうち、私は眠ってしまった。
どれくらい経ったか、まどろみに意識を漂わせていた時・・・。

ドガーン!!

轟音が響き、戸や家の置物が僅かに振動する。
夢の残滓も消し飛んで否応無しに現実に引き戻される。
表に出て見回すと、遠くのほうで小さなキノコ雲が立ち上って、その下では何か色々な光が乱舞している。
「あの方向は・・・霧の湖の方じゃないか。」
嫌な予感がしたが、どうも光の方は弾幕とかの物ではなさそうだ。
魔法の森に住んでいる白黒の魔法使いが怪しい実験でもしたのではあるまいな、と思ったが魔法の森の方向から黒い人影が飛んでいくのが見えた。
それを皮切りに、紅白の服を着た人影や、九尾の使いの影が集まり始めたので私は様子を見る。

暫く経っても何も起きないのでどうやら異変ではないと判断して家に引っ込む。
引っ張り出した地図でアタリをつけると、湖の近くの森が発生源らしい。
チルノは湖の小島に住んでいるので、よほどの事が無い限り巻き込まれはしないだろう。
あれでも妖精の中では最強の力を持っていると慧音先生が言っていたのもあり、私はそんなに心配もせず、読みかけのままの絵物語を読み始めた。

その夜。

複数の音が扉を乱打する。
「開けて開けて早く開けてー開けないとこちらから押し込む!」
やっぱりチルノか。
昼の事もあって幾分ほっとしながら鍵を開けると、スパーン!と勢い良く扉がスライドする。が・・・。
目の前のチルノ達を見て私は言葉を失った。

チルノを含めて4人の妖精は、服はボロボロ、しかも所々が焼け焦げて穴が開き、破れているところもある。
しかも頭は実験に失敗したマッドサイエンティストの如くアフロだ。そして何故か所々から花が咲いている。
「どうしたんだい?その惨状は・・・。」
「○○の為になるものを作っていたら失敗しちゃったのだ!でもあたいはさいきょーなので心配は無し!」
この底抜けの自信はどんな事態でも揺らがない、が・・・。
「まさか、昼の爆発事故って・・・。」
その言葉に、4人の妖精はいっせいにフンス!と胸を張り、
「そのとおーり!私達が起こしました!!」
自慢げに言う事でもない事態を自慢する、その無鉄砲さに眩暈がする。そんな私の胸中を全く無視してチルノがずい、と前へ出る。
そして差し出したのは一個のティーポット。
「これは?」
私が問うと、チルノはウキウキした風に、
「あたし達が、がちょうおばさんの本をもとに作ったきゅーきょくのお茶!飲むと気分がリフレックス!」
このポットの中身はSNRIでも入っているのか?私はうつ病でもなんでも無いぞ?
「とにかく、飲めばあたまが春になれるのだ!さーぐぐっと一気に!」
念の為、ポットの中身を見ると、桜のような、春の花と日なたの匂いが漂ってくる。昔読んだ「たんぽぽのお酒」の現物を見ているようだ。
これは前回の汚名を本当に返上できるかも知れないな。
「チルノ、良く頑張ったね。あと、後ろの3人もありがとう。」
この言葉を待っていたかのように、4人の顔がぱあっと明るくなる。
「じゃあ、今ここで飲んで見て!」
「わかった。いまコップを持ってくるよ。」

4人をとりあえず家に上げて、お茶をコップに注ぐと光り輝く液体が春の香りを漂わせながら満ちていく。
私は香りを楽しみ、一口飲む。ちょうどいい甘さの、僅かに香る蜂蜜の香り。タンポポ、春風、日なたのにおい、桜の香り、若草のさわやかさ。
「これは・・・美味い・・・。」
「でしょー!!」
4人がハイタッチをして喜ぶ。
私の頭の中も心なしかすっきりとする。明かりも暗闇も同じように見えるような感覚。
流石に魔法を直に体感すると、この郷が常若の国のように思える。
4人のはしゃぐ姿を見ながら、私は茶を一気に飲み干した・・・その瞬間。

びしっ!ぴきぴきぴき・・・。
頭の中で電流がショートしたような音が響き、続いて全身に感電したような感覚が走った。
体が酷く重くなり、視界が歪む。次いでやってくる悪寒と熱の繰り返し。私は堪らず横倒しになる。
歪む視界の中で、4人の声が酷く反響して聞こえる。
それが遠ざかると共に、私の意識も視界も闇に染まった。

目が覚めると、見知った天井があった。どうやらまた、永遠亭に入院してしまったらしい。
起き上がる気力も無く、長いため息をつく。
その余韻が消える頃、病室のドアが開き、見覚えのある顔が入ってきた。
「あなたも懲りないわねえ。」
永琳先生は心から呆れたように私を見る。
「今回は命に別状無かったし、退院はいつでも出来るんだけど・・・。」
その濁した言葉尻が気になる。
「まあ、自分で見た方が手っ取り早いわね。」
そう言うと、病室の鏡を外して私に手渡す。私は恐る恐る鏡を覗き込み・・・絶句した。
少し垂れ目気味の目、長いまつげ、白い肌にカラスの濡れ羽色の長い黒髪・・・。
慌てて自分の胸に手をやると、どう考えてもありえない、柔らかい感触がある。
「あの・・・先生・・・ッ!?」
声までその姿に似合うように変わっていた。
私のうろたえようを見ながら永琳先生が言う。
「ここに運ばれた時は普通にあなただったのに、一晩経ったらこうなっていたのよ。」
原因はあのお茶以外ありえない。
「先生、チルノ達から何か話を聞いてますか?」
「ええ、あなた、3日間眠っていたんだけど、その間に捕まえて事情を聞いたらあなたに借りた本の中の歌を魔法にしたって言ってたわ。」
確か貸したのはマザーグース・・・。
「材料に砂糖とスパイスと蜂蜜、そして彼女達の素敵なものを隠し味として入れたそうよ。世の中の素敵な何もかもそう言うもので出来ているって書いてあるからって。」
それって・・・。
「私も見せて貰ったけど、あの子達、あの材料で世の中の素敵なもの『以外』に構築されてるものを読み飛ばして作ったのね。だからそうなったのよ。」

【・・・女の子って、なんで出来てる?】

この一節か・・・。迂闊だった。
「先生・・・私は元に戻れるんですか?」
私の祈るような問いに、先生は難しい顔をした。
「4人の魔法やそれ以外にも魔法が絡んでるから、それを解き明かさない限り無理ね。でもあなた、随分と元の姿とはかけ離れたイメージになったわね。」
鏡を改めて見直し・・・思い当たった。
私が理想とする女性の姿そのものだ。あのお茶はつまり、私にとって素敵なものにも影響を与えて、それを基本にして私の体を再構築したのだ。
「すぐに退院できるけど、その姿での生活は不味いと思うわ。」
当たり前だ。「私を食らって家に住み着いた妖怪」と勘違いされでもしたらこちらの命が危ない。

その翌日、文々。新聞に「朝の詩」休載のお詫びと共に
『幻想郷のオイディウス?妖精達の魔法が神話の奇跡を再現!』と言う見出しと、得意げな顔の4人の写真とインタビュー、毛布で必死に顔を隠して顔だけは撮られまいと
むなしい抵抗をする私の写真が大判で掲載されていた。
しかも寝巻きはピンクと白のストライプのパジャマに着替えさせられて。これはてゐの悪乗りの結果なのだが。

私が元の姿に戻る予定は、今のところ未定である。


あとがき
マザー・グース読んで思いついたものです。ギリシア神話の「転身の物語」では男が女になる話は無いのですが、合体して半陰陽になってしまう話はあります。
サルマキスとヘルムアプロディトスの話がそれです。
ギリシア神話の本編の中には、絡み合った蛇を棒で叩いて女性になってしまった男の話が出てきます。
幾月かの後に、同じところで同じく絡み合う蛇を再び棒で叩いて元に戻るのですが、その後、ゼウスとヘラが「男女の快楽はどちらが深いのか」と言う議論をした時に
「女性の方が快楽が深い」と答えてヘラから祝福を貰うことにもなります。

幻想郷の世界はマザーグースや神話に共通する「光と闇」が存在し、決してエリュシオンやティル・ナ・ノーグのような世界では無いと、東方の関連文献を読んでいて感じました。
みかがみ
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コメント



0.300簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
オリキャラが詩人である特色をよく生かしている作品。
6.70名前が無い程度の能力削除
妖精らしいかわいくて素敵な魔法
10.80奇声を発する程度の能力削除
らしくて可愛かったです
16.90名前が無い程度の能力削除
なぜ評価が低いのか…。
17.703削除
ちょっとした小話ですね。
チルノトラブルメイカーだなぁ。