あっさりばれた。話を誤魔化そう。
「人里にいるような人間も、それはそれで面白いわよ。霊夢は人里の人間と関わらないのかしら?」
「別に必要ないわ。群れる気も起きないし」
「群れるって、動物じゃないんだから……」
「ルーミア。私は人間をとても優秀な存在だと思っているわ」
とてもそうは見えないけど……。
「いえ冗談とかじゃなくて。それこそ、妖怪と違って犬や猫みたいに増えるくせに、実力のある人間は、本当に強いわ。肉体的にも精神的にも。それこそ、一人で何でもできるくらいに。でもほとんどの人間は、自分が強くなることを諦めて、仲間を作るのよ。自分一人で百を出すことができる能力を秘めていても、そこまでの行程に挫折して、仲間を集めて百を求める。百を集めて千を目指す事なんて、端から眼中にないのよ」
「霊夢は、そういう人間が嫌いなの?」
「いいえ。興味がないだけで、そこについては嫌いじゃないわ。でも、たまに見かけるのよ。人間だけでしか群れていないのに。この幻想郷の全てを知った気でいる人間が。仲間内では偉そうな事を語っていたけど、一人でいるときに、チルノの悪戯に腰を抜かして逃げて。偶然それを見ていて、幻滅したわ」
そう言って夜空を見上げている霊夢の表情は、少し悲しんでいる様にも見える。
「でも、私はそんな人間も面白いと思うわ。犬とかと同じくらいいるのに、上から下まで、十人十色の人間がいる。味も人間によって違うし」
「それはあなたが、犬の言葉や心情を理解できていないだけじゃあないかしら。私も解らないけど、もしかしたら犬の何匹かも、力を付けて、幻想郷を支配する事を夢見ている奴がいるかもしれないわよ」
霊夢が言ったことがおかしく、思わず微笑んでしまう。
「ところで、好きとかいっておきながら、あなたにはいるのかしら。食べる事を躊躇するほど、面白いと思う人間が」
「目の前にいるわ」
私の言葉に、目の前にいる巫女は目を丸くする。後、顔を逸らした。
「それは、ただ食べることができないだけだからじゃないかしら」
「そうかもしれないわね。いつか食べてみたいわ、あなたの身体」
思わず、よだれが出てしまう。私のような妖怪はともかく、吸血鬼さえねじ伏せてしまうような力を秘めた身体。そんな肉は、どんな味がするのだろう。
……襲いたい。
「ねぇ、霊夢。私やっぱり今、あなたを食べてみたいわ」
「…………」
「せっかくだから右手……いえ、手の甲の皮ぐらい食べさせてくれないかしら? そこだけでいいから」
「……なるほど。確かに、欲望に忠実ね」
そう言って、霊夢は地に足を着け、私からある程度離れていった。
「スペルカードもいらないわ。あなたみたいな妖怪は、存在ごと消すのが手っとり早いわね」
その言葉を人間だったらどう思うのか一瞬気になったけど、すぐに消える。そんな事より、霊夢が私の申し出を受けてくれたことを心の中で喜んだ。
「嬉しい。こんなに早く、あなたを食べることができるなんて」
「どうして妖怪ってのは、こうまで自分を省みないのかしら」
「簡単な事よ。あなたは人間の中で誰よりも優しいのよ。あなたには、妖怪を殺す力を持ってても、妖怪を殺す事はできないわ」
霊夢は私に聞こえる程の舌打ちを響かせる。
「心配しなくても、殺す一歩手前まで痛めつけてあげるわ。私を食べようだなんて、二度と思わなくなるほどにね」
「その頃には、あなたは私のお腹の中にいるけどね」
そう言って、私は霊夢に突進する。
しかし――
「楽しそうね」
突然、横から霊夢ではない声が聞こえた。
「ほら、突然来たでしょう」
いつからそこにいたのか、境内の外れには魔法使いの人間である霧雨魔理沙が立っていた。
「私も混ぜなさいよ」
「…………」
「…………」
その暢気な態度に、霊夢はおろか、私も気分が萎え、境内に戻ることにする。
「……あれ」
「お茶を入れてくるわ。勝負はまたいつかにしましょう」
……逃げられた、という気分も不思議と起きなかった。
それにしても、誰よりも妖怪に優しい人間は、誰よりも人間が好きじゃないなんて、笑っちゃうわね。人里の人間が知ったら、どう思うのかしら。
あ、せっかくだから、さっきの謎を魔理沙にも聞いてみることにしよう。
人間は十人十色だから、きっと霊夢とは違った、素晴らしい答えが聞けるでしょうね。
ルーミアと霊夢のやり取りを通じて、妖怪と人間の関係性、あるいは人間のあり方という点について書き出そうという試みであるという風に概ね解釈しましたが、おおよそ茫漠としたテーマを、曖昧な描写で、さらに起伏無く書かれますと、結局捉えどころがなくなってしまったという気がします。
その割に霊夢の主張に響くものがないというか、この場面でそんな実社会でのおためごかし的一般論? という感想で、それに答が与えられるでもなくルーミアが霊夢を食べたくなっちゃう流れ。読んでいて、最後まで腑に落ちる部分が無かったんです。
描写としては、ルーミアの口調及び心情はまあよしとして、最後の魔理沙の台詞の違和感はぬぐえません。それに関する言及も無い。
作者さんの内面世界を読み手は共有できないのですから、まっさらの状態で文章のみを読んだ場合、どのように受け止められるだろうか? という視点をお持ち頂ければもっと楽しめる作品になるのではないでしょうか。
それから相変わらずテーマが見えないのが一つ、前作と並べて読まないと「人間との関わり」という主題すら見えないのは薄すぎる
あとこの霊夢が星終盤の早苗並みに共感できないのが一つ、ここの読者の多くはそういう悪い意味で原作臭い霊夢を見に来たんじゃないと思います、発言の節々から冷たさを感じさせるこの巫女は凄くドライな顔で妖怪を殲滅する姿しか想像できないのですが、それは優しさとは対極の姿ではないでしょうか?
面白かったです
レミリアの口調だと思うと違和感がさほどないんですけど、魔理沙の口調で考えると違和感がすごいです。たまに女口調で喋ってますけど、悪ふざけするでもなく普通にこの口調はないと思うんですけど
タイトル通り、登場キャラもストーリーもひねくれていて良かったと思うのですが。