「ハッピーバースデイ!」
という言葉を初めて向けられたのは、少女が十歳を迎えた朝だった。
誕生日という、人が浮かれて殺しやすい日和の知識はあるけれど、それをなぜ自分にという疑念がある。
油断させて殺して食べる気か。やはり悪魔の館か。
身構えてナイフを抜こうとしたら、真っ赤なドレスを着込んだちっちゃなお嬢様が、少女の腕を掴んでグイッと引いた。
吸血鬼は獲物を逃がさないため強靭な握力を持つが、振りほどけないのは冷たいぬくもりのせいだ。
「な、なにをする。離せ吸血鬼」
「いいからいいから。お前、今日は仕事しなくていいわよ」
やはり食べられるのか。
他人事のように思い、連れて行かれた先は紅魔館の食堂で、あちこちにたくさんの薔薇が飾られていた。
甘い香りが場を満たし、食客のパチュリーと門番の美鈴がドレスアップして待っており、部屋の隅では悪魔の妹フランドールが薔薇のリースを抱えて座り込んでいる。
小悪魔と妖精メイド達がいっせいに拍手をして少女を迎え、レミリアお嬢様は誇らしげにほほ笑んだ。
「どうよ?」
「……なんだこれは」
「バースデイパーティーだ。まさか自分の誕生日も知らないのか? お前の、前の飼い主な、美鈴と一緒に自白させたから今日で間違いないぞ。まあ多分、お前以上にお前のコト知ってると思ってたけど、本当に知らなかったのか。今日がお前の、十歳の誕生日だよ」
知ってはいるけど。
少女の誕生日を祝う意味がわからない。
そもそも、人なぜ誕生日を祝うのかさえわからないのだから。
わざわざ殺されやすい日を作らなくてもいいのに、とさえ思う。
「ほら、バースデイケーキもある。私のお手製だ。私好みに作っておいたから、味をしっかり覚えておけ」
「なんでよ」
「メイドだろ。誕生日以外はお前が作るんだよ、私好みのケーキをな」
なんて身勝手。
見せつけるよう、あからさまに不満顔を作って睨みつけてやる。
ささやかな反抗心。
それに対しお嬢様のレミリアは、マニキュアの塗られた紅い爪を持ち上げた。
「そんな顔するな。紅魔館史上初の、人間のバースデイパーティーだからな。とっておきのプレゼントを用意してある」
「いらないわよ、そんなの」
「お前は私のメイドなんだ、拒否権は無いよ。さあ受け取れ」
紅い爪が、少女の額を軽くつつく。
レミリア・スカーレットは歌うような声色で、プレゼントを贈った。
「十六夜咲夜。今日からそれがお前の名だ」
イザヨ……サ……ヤ?
どこの国の名前だ。
近年中にジャパンのファンタジアとかいう場所に移住する予定なので、ジャパニーズネームにしてみたと説明を受けると、少女咲夜はそんな理由で名づけるなとお嬢様を怒鳴りつけるのだった。
十六夜咲夜、十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
日本の幻想郷に移住するから、という理由で十六夜咲夜という和名をつけられて早十年。
幻想郷にもすっかり馴染んで、十六夜咲夜は二十歳のバースデイを迎えた。
今年のバースデイケーキは、妖精メイド一同が協力して一生懸命に作り――失敗したので、咲夜が時間を操作して即興で作ることとなってしまった。
そのおかげかバースデイケーキは大好評。おいしいおいしいとみんなが食べてくれた。
「咲夜は私が育てた」
と偉そうに決めながらワインをガブ飲みしたお嬢様は今、パーティー会場で美鈴を物理的に振り回している。
咲夜はというと賑やかさをたっぷり堪能したため、今はバルコニーの手すりに身を預けて酔い覚ましだ。
夜風が涼しく心地よい。
一年に一日だけの、メイドの仕事をしなくていい日なので――というか、してはいけない日なので――今の咲夜はドレス姿。
黒いシックなパーティードレスは、二十歳に相応しい大人びた雰囲気をまとわせている。
「いやー、久々に楽しい夜だなー。どうだ咲夜、久々に楽しい弾幕撃ち合わないか?」
「あんたねぇ、まだそんなガキ臭い遊びやってんの?」
咲夜の左隣で、小柄な魔法使い霧雨魔理沙が笑っている。
咲夜の右隣で、咲夜の身長を追い越した霊夢が手すりに背中を預け夜空を見上げていた。
「スペルカードルール創始者がそれでいいのか」
呆れたように魔理沙がぼやくが、霊夢はどこ吹く風。
だが咲夜としては二十歳を迎えて成人した今、果たして弾幕ごっこを続けるべきか悩んでいたりする。
弾幕ごっこは楽しいけれど、やはり、あれは少女の遊びなのだ。
お嬢様につき合って紅魔館の中でするのはいいけれど、他所の目のあるところとなると少々恥ずかしくもある。
上白沢慧音のような立場なら、弾幕デビューをしようとする少女を監督する必要性もあるが、自分はそうではない。
だってスペルカードルールのキャリアは、お嬢様と同じなんだもの。吸血鬼異変のあとに作られたルールだし。
霊夢は彼氏ができるやすぐやめちゃったし、自分もきっかけがあれば、やめてしまうのだろう。
そのきっかけが、今日この日になるかもしれない。
少なくとも今日はまだ弾幕ごっこをしておらず、このまま明日を迎えれば、やめてしまうかもしれない。
だからもし、さっき、魔理沙に誘われた時、霊夢が茶々を入れなかったら。
やってたかも、ね。
どうしようか。
咲夜は思った。
もう一度誘われたら、霊夢にからかわれてもいい、弾幕ごっこに興じよう。
「ていうか、そろそろ彼氏の一人や二人、作ったら?」
だが声をかけてきたのは霊夢だった。
勝利者の余裕のためか、とても自然な態度でだ。
しかし、彼氏を作って処女を散らしては、お嬢様がなんと言うか。
処女でなくなっただけで捨てる薄情な主ではないけれど、仕える側の気持ちに問題があるのだ。
彼氏とプラトニックな関係を貫くというのも、うら若き乙女の情動が許しがたい。
「彼氏ねぇ……そういえば魔理沙、香霖堂の店主さんとはどうなの?」
とりあえず矛先をそらしておく。
ぎょっと身をすくめた魔理沙は、そっぽを向いて黙りこくった。
おや、なんだか様子が変だ。
「ああ、確かこないだ、いつまで経っても子供っぽいって言われてたわよねあんた」
霊夢は気安い口調だったが、結構グサリときたようで魔理沙はうなだれる。
「まっ、一度保護者ポジションに立ったら、いつまで経っても子供は子供に見えちゃうものよ」
保護する側とされる側を両立している咲夜は、からかうように告げた。
魔理沙は怒りに肩を震わせる。
「くっ……も、もうちょっと成長してから捨虫すべきだった」
「いやあんた、すでに成長止まってたじゃない。十何歳かそこらで」
「霊夢は背も胸もすくすく育ったけど、魔理沙は身長がちょっと伸びただけだったわね」
惨めな言い訳を即座に看破され、魔理沙はすっかり意気消沈。
しかし魔法使い霧雨魔理沙は不屈の闘志を持っているのだ。
拳を握りしめて咲夜と霊夢を睨み上げ、全身に魔力を漲らせる。
「くっ……こうなったら咲夜、霊夢! 夜が明けるまでスペルを叩き込んでやる!!」
きたきた、きましたよ。
咲夜は内心でほくそ笑んだ。
そしてああなんだ、やっぱり自分は弾幕ごっこを続けたいんだと理解する。
だったら仕方ない。霊夢がどう断ろうと、自分はやってやろう。
「あのねえ」
案の定、霊夢は呆れた顔で魔理沙を見やった。
まあ、今の霊夢が、弾幕ごっこをやる訳がない。
だって。
「この身体で、そんなくだらないことやれる訳ないでしょ」
ポンと、霊夢は自身の腹を叩いた。
まるまるとふくらんだそれは、早ければ今月には産まれる予定である。遅くても来月か。
夫にねだって買ってもらったマタニティードレスも、そろそろお役ごめんになる訳だ。
「ぐううっ……じゃ、じゃあ咲夜! やるぞ!」
「はいはい、しょうがないわねぇ」
いかにも面倒くさいと演じながら、手すりから身を離し、種無しマジックでナイフを取り出す。
魔理沙は手すりに立てかけてあった箒を掴んだ。
霊夢はお腹を押さえてうずくまる。
「……霊夢?」
顔は真っ青だ。
妊娠しているため今日もお酒は乾杯の一口しか飲んでいないので、酔いのせいではない。
特に持病も無く健康の塊のような霊夢が、なぜ急にこんな。
ひとつの予感が咲夜と魔理沙の脳裏に浮かぶとほぼ同時に、霊夢が呟く。
「き、きちゃったみたい」
早くても今月だと思っていたが、今月どころか今夜だったようで。
出産に時間がかからなければ、咲夜と同じ誕生日になる訳で。
「さささっ、サンバー! 産婆どこだぁー!?」
「おお、落ち着きなさい魔理沙! こういう時はお湯を用意するのよ! お湯で、えーと、紅茶を淹れて落ち着くのよ!?」
長年の友人の緊急事態を目の当たりにして、すっかりパニックに陥る二人。
騒ぎを聞きつけたレミリアがすぐ妖精メイドに指示を出して部屋とお湯を用意させ、産婆までこなしてくれたおかげで、無事、咲夜と同じ誕生日の赤ん坊が誕生した。
元博麗の巫女の子供が、悪魔の館で吸血鬼に取り上げられるという珍事は、多くの人妖に面白がられ、そして祝福された。
十六夜咲夜、二十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
そろそろ誕生日を笑顔で迎えにくい年齢になってきた。
と、普通の人間なら思うかもしれない。
けれど十六夜咲夜にとって、老いていくというのは奇妙な喜びを感じさせた。
老いていく姿を、永遠に紅い幼き月レミリア・スカーレットが楽しんでくれているから。
悲しんでもくれているから。
この特権は自分だけのもの。
妹君のフランドールでも、親友のパチュリーにも、最古の忠臣である美鈴にも、人間の老いは真似できない。
まばたきのような時間に一生をついやすことは。
それがとても愉快に思えて、今宵のバースデイパーティーもとても楽しいものだった。
みんなみんな祝福してくれて、とてもとても楽しいものだった。
それに今日は、十年振りの参加者もいることだし。
「ねえ。なんでうちにきたの?」
「きちゃダメだったか?」
「だっていつも、霊夢の方を優先してるじゃない」
霊夢の第一子は、咲夜と同じ誕生日。
親友の魔理沙はいつも、そっちの祝いに顔を出していた。
今の霊夢は三人目を腹に抱えているし、人手はいくらあっても困らないというのに。
「ン……プレゼントは贈っといた。たまにはお前も祝ってやらなきゃな」
十年前の誕生日もここで、バルコニーで夜風を浴びていた。
満天の星の下で、三人で語らっていた。
今は二人。
レミリアお嬢様? パーティー会場で小悪魔を物理的に振り回してるよ。
「人間同士の輪に、場違いを感じた?」
図星をピンポイントで突いてやると、魔理沙はさみしげにうつむいてしまった。
霊夢ももう三十近く、優しい夫との子宝にも恵まれ、幸せいっぱいの家庭を築いている。
もはや老いることのない魔法使いにとって、その光景は遠い。
「こっちは、悪魔と魔女がいるしな」
「今日は人間の私の誕生日ですけど」
「お前は悪魔の狗だからいいの」
どういう理屈なのやら。
おかしくなって、咲夜はクスクスと笑う。
悪魔の狗、大いに結構。
自分は多分一生、こんな風に生きていくのだ。
誰が言った言葉だったか、三十歳の時にしている仕事が、一生の仕事になるらしい。
一生メイドで、一生お嬢様のお側に。
それでいい、自分の人生は。
「つーか咲夜、よく平気だな? 紅魔館で、お前だけだろ? 年老いる人間って」
「刻んだしわの数だけ、人間は美しくなるの。フフッ。まだしわを刻めていないけれど、残念ね、あなたはもう刻めない」
「ちぇーっ……減らず口ばっかり増やしやがって。増やすのはしわだけにしろ」
咲夜は種無し手品でワイングラスをふたつ、ワイン瓶をひとつ出した。
「ビンテージワインを増やしてみたりして」
「おお、ナイス。何年物?」
「私と同い年ですわ」
「ハハッ、そりゃいいぜ!」
ワイングラスを真っ赤に満たし、空に輝く月に向かって乾杯をする。
重ねた歳がその味わいを深くした。
もちろん味わいが深くなったのは即席ビンテージの方ではなく、三十年を生きてきた完全で瀟洒なメイド長のことさ。
十六夜咲夜、三十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
十年前、刻んだしわの数だけ人間は美しくなると魔理沙に言った。
ちょっとした強がりではあったが、概ね本音でもあった。
年齢より若々しいと評判の咲夜も、三十ではまだしわはできていなかったが、今は、目尻に刻まれている。
厚化粧をすれば隠せるけれど、自分もお嬢様は薄化粧が好みだ。老いを誤魔化すのも嫌なので。
だから祝いの席でも、普段通り薄化粧。
今宵はテラスで優雅に紅茶を嗜みながら、庭に散らばった妖精メイドが各々の楽器を演奏しているのに、耳を傾ける。
静かな夜だ。
魔理沙はフランドールを誘って踊っているし、自分と同席しているのはレミリアとパチュリーなので。
ちなみに美鈴は酔っ払って小悪魔を振り回しながら、紅魔館の塀の上を駆け回っている。
庭に下りてこなければ迷惑がかからないのでよし。
「ふぅ……咲夜ももう四十か」
「美人になったでしょう?」
感慨深くレミリアがため息をついたので、咲夜は自慢げにほほ笑んだ。
しかしふいに、胸が切なくなる。
もう四十。
恐らく、人生の半分はとっくに通りすぎているのだろう。
それほどの時間を紅魔館ですごしてきた。
後悔は無い。さみしいと感じてしまうのは、人間という寿命の枠に囚われているから。
みずから望んだ道だけど、道を歩んでいれば、物思いに耽ることもある。
「私はまだ、老いが美しいっていう概念が理解できないのだけれど……」
水を差すのを承知でパチュリーが言う。
カーディガンを羽織って、紅茶のぬくもりで両手をあたためながら。
「まっ、パチュリーはまだ若いし、本ばっか読んでる頭でっかちだから、仕方ないんじゃない?」
五百をとうに超える悪魔が笑う。
百をとうに超える魔女は眉をしかめる。
「うーん、否定できないわ」
紅茶を一口。ちなみに淹れたのは新人の優秀なメイドだ。
飲み込みが早く精力的なので教えがいがあり、メイド長を継ぐのは彼女しかいないと皆が思っている。
そう、思っているのだ。
今のメイド長、十六夜咲夜はいずれ死ぬから。
もう数十年も経てば。
パチンと。
レミリアが高々と掲げた指を鳴らした。
「アイヨー。お呼びかいお嬢ー」
「デザート、なにか持ってきて。甘いのがいいわ」
「任されたぜー。パチュリーとメイド長はどーするー?」
やってきたのはメイド姿のお人形さん。金髪碧眼が愛らしい、自立人形って奴だ。
「ん、そうね……レミィと同じでいいわ」
「私も。それと倫敦、また言葉遣いが乱れてきてない?」
「おっとと、申し訳ない。気をつけてはいるんだけど、上海や魔理沙や蓬莱や魔理沙や妹紅や魔理沙のせーで、口調がね」
からからと笑う倫敦人形。
紅魔館のゴシックムードがお気に召したようで、去年から無給で雇われている。いつか有給になるかもしれない。
次期メイド長確定の新人メイドの正体だ。
「それじゃ、行ってきまーす」
倫敦人形はとっとこと館内に駆け込んだ。
自立してない人形だった頃からいっぱい働いていたので、実に働き者である。
ほほ笑ましく思いながら、咲夜は、もう数年もすればいつ自分がいなくなっても大丈夫なんだろうなと思った。
倫敦人形が一人前になるまでは、自分も現役でがんばらないと。
「おーい。倫敦様お手製ケーキ持ってきたぞー」
両腕を真っ直ぐ上に伸ばして、トレイに載ったケーキを持ってきた小さなメイド人形。
高性能バランサーのおかげで、そんなスタイルで駆け足でも実にスムーズだ。
「ああ、バースデイケーキ、大きかったものね」
楽しげにレミリアが笑った。
元々、アリスの家にいた頃も料理やお菓子作りをしていたためか、倫敦人形の料理の腕前はすでに一級品。
レミリアやパチュリーの味の好みも学習してきているし、料理に関してはもう教える必要は無いだろう。
テーブルに置かれたケーキを、咲夜、レミリア、パチュリーが口にする。
うん、おいしい。
本当にもう、教える必要は無い。
ただ。
十歳の誕生日に食べたあの、レミリアお嬢様が作ったケーキには、まだまだ及ばない。
自身が丹精込めての作ったケーキでさえも。
いつになったら作れるのだろう。人間の寿命では至れないのだとしたら、倫敦人形なら至れるのだろうか。
そう思うとやはり、人命の儚さを感じずにはいられない。
十六夜咲夜、四十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
誕生日にはメイドの仕事を休めるというのも、そろそろ限界らしい。
肉体の衰えを日に日に実感し始め、週休一日にしようか、いやいや二日にしようかと、お嬢様に言われてしまった。
いずれその言葉に甘える日はくるが、まだ意地を張っていたい。
そのために十年前から毎朝美鈴と一緒に太極拳をして美容と健康を保っているが、五十歳という区切りはとても大きい。
食べ物も脂っこいものがしんどくなってきた。
だというのに。
「どうですか咲夜さん! 今宵は中華料理フルコースですよー」
妙に張り切っちゃった美鈴が、飛びっきりがんばっちゃったよ。
パーティー会場はどこを見渡しても中華、中華、中華。
揚げパン、シューマイ、春巻き、焼き餃子に水餃子。蟹チャーハン。
麻婆豆腐、エビチリ、チンジャオロースや八宝菜、春雨スープにフカヒレスープ、北京ダックや子豚の丸焼き。
などなど。他にもたくさん、がっつり食べられる料理が盛りだくさん!
……正直きつい。
食前酒や烏龍茶なんか出されても、一皿食べれば胸焼けしそうな脂っこさだった。
今年も倫敦人形が作ってくれたバースデイケーキや、さっぱりした杏仁豆腐なんかでお腹をふくらませる手もある。
だが、瞳をきらきらさせている美鈴を見ると、食べねばならぬと心理的圧迫を受けてしまう。
「ヒャッハー! フカヒレだー! うまいうまい。エビチリもグーッ! おっ、そっちの肉はなんだ? うひょー!」
大喜びであちらこちらのテーブルに料理を食べに行っている魔理沙が、心底羨ましかった。
捨食の法で飲食が不要であるというのに、この白黒魔法使いはいつまで経っても食い意地が張っている。
今日は応援してやるから全部食べちゃって。
「まったく。魔理沙はいつもがっついてるわね。こないだも、ミスティアの屋台でさ……」
「あー、それ妹紅から聞いたわ。出禁とかマジ受けるし。天子の奴がガチギレして地震起こしたアレでしょ?」
「えっ、あの地震って魔理沙と天子のせいなの? あのせいでお嬢の皿を割っちゃったのに。あとで魔理沙えぐるわ」
上海人形と蓬莱人形と、副メイド長となった倫敦人形が近くの席でお喋りしている。
倫敦人形の姉妹である自立人形は、紅魔館へちょくちょく遊びにくるのだ。
人形なので中華料理対策として頼りにできないが。
ちなみに。
上海人形は紅美鈴と、蓬莱人形は藤原妹紅と仲がいい。
後者は妹紅に『蓬莱の人の形』というあだ名があるからわかりやすい縁だ。
だが前者はよくわからない。
一度、美鈴と弾幕ごっこを終えて一服中の上海人形に訊ねたことがある。
『明治十七年の上海アリスだからね。蓬莱に倣って上海つながりとゆー安直なことしてみた』
と、意味不明な返答をされた。
明治十七年にアリスが上海で暮らしてでもいたのだろうか。まったくもって謎だ。
まあ上海人形は置いといて、蓬莱人形が藤原妹紅を連れてきてくれたのはありがたい。
魔理沙と一緒になって色々と食べて回っているが、いざとなれば殺してでも食べさせればいい。
リザレクションすれば腹に余裕もできるだろう。
こっそり毒でも仕込んでおこうか。いや、蓬莱人に毒は効かなかったような?
視線に気づいたのか、妹紅がこちらを向いた。
にこやかに手を振ってきたので、こちらも礼儀として愛想笑いで手を振り返す。
咲夜はため息をついた。
あれこれ考えはしたけれど、魔理沙や妹紅にこの大量の料理を食べ尽くしてもらうというのは無理がある。
自分もがんばらなきゃ。
「あれー、咲夜さん箸が進んでませんよ? はい、どうぞ」
と、やる気になったタイミングで美鈴がやってきた。
お皿いっぱいに脂っこいアレやコレやソレを積み上げて。
自分の作った物を食べてもらいたい心理はとてもよくわかるけれど、もう少し人間を脆弱さを理解していたわってよ。
「あはは……いただくわ」
ひょいと、揚げパンがつままれる。
「こんなのばっか食べさせてちゃ、血が濁るわよ」
フランドール・スカーレットが、横から手を出していた。
揚げパンを一口かじり、その甘みを楽しんで咀嚼する。外はカリカリ、中はふわふわ。美鈴の揚げパンは上出来さ。
「妹様」
「美鈴。人間の味は、食生活がもろに出るのよ。咲夜が不味くなっちゃうでしょう?」
「食べるんですか?」
「食べないけどさ、不味い人間って不健康なんだもん」
「身体にいい物、作ったつもりなんですが」
「脂っこいのよ。もっとあっさりしたのないの?」
「それなら冷やし中華ありますよ」
「それ中華料理だっけ?」
「中華ってついてるから中華料理じゃないんですか?」
こいつ本当に中華妖怪?
なんて思わせる一幕。
妹様フランドールの気配りのおかげで、冷やし中華ですんだのはありがたかった。
だがそれ以上に、フランドールが他者をこんなにも自然に気遣えるよう成長したことが嬉しい。
藤原妹紅を生贄――もとい家庭教師として雇って、情操教育を数年ほどがんばったかいがあったというものだ。
リザレクションするたびに散らばった血肉や臓腑も消滅するから、掃除の手間がかからなかったのも助かった。
いつか、そう、自分や慧音が寿命を迎えたあとでいいから、妹紅が紅魔館のメイドになってくれたらもっともっと助かりそうだ。フランドール専属メイドにすれば紅魔館はますます平和になる。
それに妹紅が元は人間だったこともあり、人間の生態について結構詳しくもなってくれた。
もっとも不老不死の妹紅が相手だったせいで、人間の老いに関しては理解が浅いが。
一番理解してくれているのは、やはり、レミリアお嬢様だろうか。
そういえばお嬢様はどこにいるのだろうと、咲夜は会場に視線をめぐらせる。
博麗の巫女と歓談をしながらエビチリをつまみ老酒を飲んでいるのを見つけると、あちらもすぐこちらの視線に気づいた。
コップを持ち上げ、可愛らしいウインクをしてくる。
当代の巫女とは結構気が合うようで、毎日が楽しそうだ。
少しさみしさを感じながらも、お嬢様が幸せであれば、自分も幸せであると信じられた。
会場の中心で人のエビチリを横取りしたとかいう理由で魔理沙が妹紅を物理的に振り回してることなど些細なことだった。
あ、ぶん投げられた。見事なジャイアントスイングですっ飛んでいった妹紅は熱々スープに頭からダイブして悲鳴を上げる。
十六夜咲夜、五十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
ついに定年を迎えた十六夜咲夜。
ついにメイド長を引退する。
太極拳をし、野菜をたくさん食べ、健康に気遣って一日でも長く現役であろうとした。
けど隠居生活も悪くないかななんて、最近は思うのだ。
今回のパーティーは一際派手になっており、紅魔館の庭を全部使って、招待客をたくさん招いて大騒ぎ。
紅魔館の壁には大きな垂れ幕がみっつ飾ってある。
『十六夜咲夜、六十歳おめでとう』
『十六夜咲夜、メイド長お疲れ様でした』
『倫敦人形、新メイド長就任おめでとう』
要するにバースデイパーティーと、メイド長引退パーティーと、メイド長就任パーティー。
合同してのトリプルパーティーなのだ。
三回に分けるよりも、全部まとめて三倍、いや十倍派手に祝う方が楽しかろうというお嬢様の計らいである。
ガーデンパーティーにしたのは、客を大勢招くため、館内を歩き回られては危険だからだ。
魔理沙用トラップに引っかかられては、死ぬ人間も出るだろうし。
ステージではプリズムリバー楽団と妖精メイドのライブが行われている。
うるさい夜雀は、似つかわしくないパンクロックなんかやったら焼き鳥にすると脅しておいたので安心だ。
歓待のため、今日は美鈴も給仕をしている。両手と頭にお皿を載せてあっちへこっちへ大忙し。
倫敦人形の姉妹達も、今日はお手伝いに参加してくれた。
上海人形、蓬莱人形、仏蘭西人形にオルレアン人形。和蘭人形……他にも何人も何人もきてくれている。
人形達を代表して、西蔵人形がエイジャの赤石という宝石のネックレスをプレゼントしてくれた。
今は咲夜の胸元で輝いている。黒いシックなパーティードレスとの色合いもなかなかいい。
ちなみにメイド長就任の倫敦人形には、露西亜人形が代表して特注のコサック帽をプレゼントしていた。
とても喜んでおり、倫敦人形は大喜びで着用してパーティーに参加しているが、なんとも不思議なセンスだ。
今は魔理沙に見せびらかし自慢している。ふかふかだぞーもふもふだぞー羨ましいだろー、と。
そしてなぜか蓬莱山輝夜がとても羨ましがっており、コサック帽に夢中になっている。
おかげでエイジャの赤石を見せびらかす機会がやってこない。
魂魄妖夢と東風谷早苗には自慢できたからいいかもしれない。二人は今、どこかで料理を食べているだろう。
アリスはパチュリーに誘われて、テラスの隅でワインを飲みながら魔法談義に花を咲かせている。
射命丸文はあちこちで写真を撮っている。咲夜と倫敦人形も先ほどしこたま撮影された。
良くも悪くも新聞が楽しみだ。悪くなる予感がひしひしとするが。
風見幽香は薔薇園の中央で、なぜか比那名居天子を振り回している。
平和に薔薇を堪能していたはずだけど、ちょっと目を放した間になにがあったのだろうか。
ともあれ、今回はレミリアの狙い通りとても賑やかなパーティーとなっていた。
「久し振りね」
「元気そうでなによりです」
テラスの中心のテーブルで身体を休めていると、二人の人間に声をかけられた。
にっこりとほほ笑み返して同席を勧めると、二人はゆったりとした動作で腰掛ける。
「ええ、久し振りね霊夢。慧音。お孫さんは元気?」
「あっちでレミリアと遊んでいるわ」
頬のしわを深くして霊夢が笑った。
四十年も昔、咲夜の誕生日に突然産気づいて生まれた子供は、すでに親となって、子供を連れてパーティーに参加している。
そう考えると、人間というのは成長するのも老いるのも、とても早いのだと実感させられた。
「咲夜もついに引退か……」
三年前に教師を引退した慧音が、感慨深く述べる。
彼女の子供は教師の道を選ばなかったが、孫は選んでくれたようで、慧音はそれをとても喜んでいる。
霊夢同様、孫を連れてパーティーにきたはずだが、姿は見えない。
祖母の面倒は妹紅に任せておけばいい、ということか。
紅魔館の壁にもたれかかってワインをちびちび飲みながら、こっちの様子をうかがっている妹紅にはとっくに気づいている。
慧音の子供にも孫にもいいように使われていて不憫だと思う反面、それがとても羨ましい。
「倫敦はとっくに一人前だし、小悪魔も優秀になって、もう仕事の無い名誉職みたいなものだったしね」
咲夜は正直に言った。
この二人は古い馴染みというだけで別段交流が多い訳ではないが、人間の寿命を共有する同年代の女性ということで、親近感を抱かずにはいられない存在である。それはきっと、不老不死の少女と親しい慧音も同じ気持ちだろう――。霊夢は夫も子供も孫も純粋な人間ばかりで人里暮らしのため、そういった部分は共有できないでいるが。
魔法使いになった魔理沙や、半人半霊の妖夢、現人神の早苗なんかとも、弾幕ごっこと博麗の巫女を引退してからは交流がガクンと減り、結婚や子育ての忙しさでもう、滅多に顔を合わせることもなくなってしまって、もちろん紅魔館にだってこんな機会でも無ければやってこない。咲夜とは人里で顔を合わせれば挨拶し、暇があればたまにお茶をする程度だ。
博麗の巫女として光り輝いていた時期を思えば、今の霊夢はあまりにも人間的すぎて。
あの頃以上に眩しく、咲夜の瞳には映る。
刻んだしわの数が、本当に美しく感じられる。
お嬢様は咲夜の老いを美しいと褒めるが、霊夢と見比べたら、どちらを美しいと見るだろうか。
「これからは楽隠居を楽しませてもらうわ」
「そりゃ羨ましい。うちの宿六も、私を楽にしてくれないかしら」
「ふふっ。そんなこと言って、旦那の面倒を見るのが楽しいくせに。ほら、こないだも茶屋で仲むつまじく――」
昔話もいいけれど、今の話もやっぱり楽しい。
夫のこと、子供のこと、孫のこと。
霊夢と慧音から聞かされるそれはいつだって楽しくて眩しくて、切なくて。
十六夜咲夜、六十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
「ねえ咲夜」
「なぁに倫敦」
「なにしてんの」
「ケーキを焼いているの」
「なんのケーキよ」
「そりゃあもちろん、私のバースデイケーキよ」
「ねえ咲夜」
「なぁに倫敦」
「メイド長を引退してもう十年よね」
「あら、もうそんなになるのね」
「いつまでメイドやってんの」
「いつまででしょうねえ」
二十歳の頃から愛用している、ロングスカートのクラシックなメイド服。
今でも同じデザインの物を愛用しているし、メイドの仕事も自由気ままにやっている。
昔は誕生日にしか休みが無かったのに、十年前に完全なる年中無休を迎えて以来、ほぼ毎日仕事をしていた。
一日の仕事時間は減っているが、去年の誕生日も仕事をしていたし、そろそろ六百日くらい無休で働いていることになる。
六百日くらい前に仕事を休んだのは、確か風邪を引いたせいだったはずだ。
「ワーカーホリックかよ」
倫敦人形に呆れられながら、咲夜はオーブンの様子をうかがっている。
ケーキをおいしく焼き上げて、楽しいバースデイパーティーをしなくては。
「昔はね、仕事を趣味にしていたけれど、今は趣味を仕事にしているのよ」
咲夜は悪戯っぽく笑った。
しわの数は増えたのに、まるで子供のよう。
レミリアは面白がっているが、メイド長の倫敦人形としては、趣味の仕事とやらで要らぬトラブルが起きやしないかと心配でたまらない。それに、どんなに元気にしていたって人間は脆い。些細なことでぽっくりと逝ってしまわないか不安だった。あの霊夢でさえ呆気無いものだったから。
魔理沙に大泣きされるのも、また面倒だし。
そういえばここ数年、魔理沙の姿を見かけない。
魔法の森に閉じこもっているそうだが、一応、バースデイパーティーの招待状は送っておいた。
こないだろうなと咲夜は思っている。
「まあ、ケーキ焼くくらいならいいけどさ。しんどい仕事はメイドに任せてよ。妖精どもにサボり癖がついても困るんだから」
「あらあら、ごめんなさいね。でも、老後の数少ない楽しみなのよ」
「なにか他に趣味でも見つけなよ。読書とかさ、地下に本が腐るほどあるんだし」
「この歳になると、小さな字を読み続けるのはつらくてねぇ」
「じゃ、盆栽なんかどう?」
「紅魔館には似合わないわ。永遠亭みたいな、和風の場所でやらなくちゃ」
「んー……映画鑑賞、とか」
「途中で眠くなっちゃって」
「太極拳に本腰入れるとか」
「毎朝やってる分で満足よ」
「チェス」
「お嬢様もパチュリー様も上手すぎて、今さら私が始めたところでねぇ。恥ずかしいわ」
「ウマいヘタじゃないでしょ、そういうのはさ」
「ウマいケーキを、お嬢様に食べてもらいたいの」
そう。自分はまだ、あの味に届いていない。
だから多分、こんな歳になってもメイドを続けているのだろう。
「あー。例のあれね。昔、お嬢が直々に作ったっていうバースデイケーキ。言っちゃなんだけど胡散臭いなーって思うよ。だって、あのお嬢が料理できるなんて、ちょっと想像できない」
「そうね、もうずっと厨房に立っていないものね……あれ以来、お嬢様のケーキを食べたことが無いのよ」
「どんなケーキ? こないだ味覚プログラムつけたから、味覚の精密さには自信あるよ」
「レシピがあったから、その通りに再現はできているのよ。でも、なにかが足りない」
「隠し味って奴?」
「多分、ね」
腕組みをして考え込む倫敦人形。
まあ、食べてもいないのにそんな風に考えるだけで答えが出るはずもないが。
「隠し味は愛情です、かな」
出た。
「倫敦。その愛情っていうのは、料理を丁寧に作ることを言うのよ。愛情を持って、細かな作業もしっかり丁寧に。それが味に出るの。でも、そうね、愛情を込めて作られたものなら、おいしく感じるものよね」
霊夢が、孫の作ってくれた玉子焼きが甘すぎてきつかったという愚痴を漏らしていたことがある。
でも、とても楽しそうに話していて、とてもおいしく感じたのだろうと確信できた。
そういう簡単な話なのかもしれない。
「じゃ、今日のバースデイケーキは咲夜に任せていいかな?」
「ええ、任せてもらうわね」
「うん。他の料理は、私に任せてよ。隠し味をたっぷり入れとくからさ」
ウインクをして、倫敦人形は今夜の料理の準備に向かった。
その姿がとても頼もしくて、いつ自分がいなくなっても紅魔館は安泰だと安心する。
十六夜咲夜、七十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
シャリ、シャリ、シャリ。
一定のリズムを保つそれが、耳に心地よい。
シャリ、シャリ、シャリ。
とても器用に、リンゴの皮が剥かれていく。
シャリ、シャリ、シャリ。
リンゴを丸裸にした赤い皮は見事につながったままだった。
「具合はどう?」
「ええ、お陰様で。慧音が挨拶にきてくれました」
ブラックジョークで答えると、小さな淑女はからからと笑って、リンゴを切り分け小皿に載せる。
フォークを刺して、咲夜の口元へ。
「はい、あーん」
「あーん」
しゃくしゃくとした食感。
瑞々しいリンゴを食べると、自分の身体も瑞々しくなるような気がする。
今はもうしわくちゃで、かさかさの肌なのに。
「なに、ニヤニヤしてんのよ」
ベッド脇の椅子に腰掛けたレミリアがいぶかしげに眉をひそめる。
ベッドの上で半身を起こした姿勢の咲夜は、目尻のすっかり下がったふたつの眼差しを返す。
「いえね、お嬢様と二人きりなんて、随分……久し振りな気がして」
「ン……そうだったかな」
「皆さんに祝ってもらえるのも嬉しいですけれど、たまには、こんな誕生日もいいものですわ」
「……人を呼ぶと、人が減ってるのがさみしい?」
「お嬢様、パチュリー様、美鈴、倫敦、小悪魔や妖精メイドの皆さんがいてくれますから、そうですね、お嬢様が少しさみしそうで、心配ですわ」
「別に私は、さみしくなんか」
「もう二十年以上も前でしたっけねぇ、フランドール様が館を出たのは」
あれ以来、一度も顔を見ていない。
地底で鬼を相手に暴れているとの噂もあるが、はてさて、実際どこでなにをしているのやら。
苦々しくため息をついたのはレミリアだ。
「あの馬鹿妹……もう外でなにをやっても、かばってやれないわ」
「大丈夫ですよ、お嬢様の妹様なんですから」
だから余計に心配なのだと、当のレミリアが思っているのは、咲夜も承知である。
咲夜がまだ十代だった頃に比べ、レミリアはだいぶ落ち着き大人びてきたというのが、従者の贔屓目である。
身長は一センチしか伸びてないし、こないだも身勝手な異変を起こしたり、まだまだ有邪気なお子様に見えるけれど。
吸血鬼のゆるやかな成長を、咲夜は知っている。
フランドールお嬢様も、きっと――。
わずかにベッドが揺れた。
と認識した刹那、紅魔館が縦に大きく弾む。
雷鳴のような響きが館全体をつんざき、レミリアがゆっくりと振り向いた先の扉が破砕した。
「お久し振りでございますレミリアお姉様デストローイッ!」
真紅の剣が閃いた。
軌道上に存在する空気を破壊して迫りくる死の刃は、レミリアの首と皮一枚の距離で制止する。
「お嬢、様」
扉を破った闖入者の背後から、さらに声。
「妹様がお帰りになられました」
咲夜が出会った時より身長が一センチは伸びたであろう、フランドール・スカーレットが炎の魔剣を手に立っていた。
その後ろから、頼れる門番紅美鈴が、吸血鬼の怪力を両手で鷲掴みにしていた。
噂をすれば影と言うが、これはむしろ、タイミングを見計らっていたのではないかと邪推してしまう。
「おかえりフラン。病人の前でこの無作法、ぶち殺されたいのね」
「ただいまお姉様。地底土産の温泉饅頭、ひとつ残らず食べておいたので空箱をどうぞ」
美鈴に留められたのとは反対の手で、フランドールは空箱を投げ捨てた。
床に転がったそれは確かに温泉饅頭の箱で、綺麗にカラッポになっていた。
あまりにも安すぎる挑発に、レミリアは鼻を鳴らしあざ笑う。
「で?」
塵芥ほども動じぬ姉の姿に、フランドールの身体が塵芥ほど後ろへ引き下がった。
それを敏感に感じ取った美鈴は手を離し、しっかりと一歩分、後ろに下がった。
そんな二人を見て咲夜は、なんだか面白くなってきたと不謹慎な喜びにひたる。
「フラン。他に言うことはないの?」
「うーっ……」
バツの悪そうな顔をして、助けを求めるよう咲夜へ視線を向けてきた。
にっこりとほほ笑み返して、首を横に振る。
今度は後ろを向いて美鈴に助けを求めた。美鈴もにっこりとほほ笑み返して首を横に振る。
言い訳があるならご自分で、ってね。
目尻にちょっと浮かべた涙を隠すようにして、フランドールはうつむき、上目遣いでレミリアを見た。
「お、遅くなってごめんなさい。ただいま」
「はい、おかえり。あんまり心配かけるんじゃないの」
コツンと、フランドールの頭を小突いて笑顔で許すレミリア。
ほら、言った通り。
お嬢様の妹様だから、大丈夫ですってね。
「で、フラン、今までどこでなにしてたのよ?」
「あのね、地底に行って鬼とぶちのめし合ってたの。溶岩風呂に沈められたり、針山で冬眠させられたり、色んな修行もやったから、すでにお姉様より私の方がハイパー強くなったので、お姉様を抹殺して紅魔館を乗っ取ろうと思って帰ってきたの!」
その日。
グングニルを振り回すレミリアお嬢様と、レーヴァテインを振り回すフランドールお嬢様のせいで、紅魔館が爆発した。
病身の咲夜を、身を挺して守ってくれた美鈴には深く感謝せねばなるまい。
十六夜咲夜、八十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
紅魔館の敷地内にある優美な薔薇園。
赤薔薇ばかりが植えられており紅魔館に相応しい光景となっているが、そんな中、白い一角がある。
白薔薇に囲まれた白い石碑。
青空の下、太陽の光を浴びてきらきらと輝いているのは濡れているため。
門番と庭師を兼任している紅美鈴が石碑を水洗いをし、今は乾いた雑巾で拭いている最中だ。
例えその行為に虚しさを感じようとも、大切なものだから丁寧に。
怒られたくも、ないしね。
「んっ……美鈴?」
そこに、日傘をさした小さなレディがやってくる。
美鈴はかがんだまま振り返った。
赤薔薇の中にたたずんでいるのは紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
ピンクの唇は三日月を描き、真紅の瞳が艶やかに揺らめく。
「お嬢様、お散歩ですか?」
「美鈴の世話している薔薇を、ふいに見たくなってね」
「それは光栄。恐悦至極。綺麗でしょう? お嬢様に似合うよう、丹精込めてお世話してますから。倫敦も手伝ってくれてますし。休み時間なんか、よく遊びにきますよ」
「ククッ。倫敦は結構、乙女なキャラクターしてるしね。こないだ、フリルいっぱいのパーティードレスを縫っていたわ」
「パーティー、ドレスですか」
雑巾をバケツにかけると、美鈴は立ち上がって紅魔館を見上げた。
雄々しくそびえる赤レンガの館。
十年前の騒動で半壊してしまったが、鬼に手伝わせて建て直したおかげで昔よりうんと綺麗に仕上がっている。
頑丈さも折り紙つきだ。去年、比那名居天子に緋想の剣を振り回された時も損傷はほとんど無かったほど。
ああ、こうして歴史を重ねていくのだなと美鈴は感じ入った。
今日という日も確かに歴史の一幕なのだ。
「倫敦、今日も張り切ってました?」
「そりゃね。さっき言ってたパーティードレス、もうそれに着替えてるもの」
「今夜も騒がしくなりそうですね」
「そうね」
やわらかな風が吹き、薔薇園が赤々と波打ってきらめく。
しかしレミリアの目線は、美鈴の真っ赤な髪がそよぐ様を見つめていた。
風がやむと、視線は白い石碑へと移ろう。
釣られて美鈴も石碑を見、そこに刻まれた名前を読んだ。
『SAKUYA IZAYOI』
石碑は墓碑。
紅魔館で長らくメイド長を務めていた忠臣、完全で瀟洒なメイド、十六夜咲夜を葬るためのもの。
墓を欲しがるのは概ね人間で、妖怪の大半はそういったものを求めない。
美鈴も墓なんて死体を埋める目印くらいにしか認識していなかったが、アンデッドである吸血鬼にとっては人間以上に重要な意味合いを持つことを承知しているし、レミリアとフランドールの棺桶もよく知っている。綺麗な細工が施されていて一種の芸術品と言えよう。
この墓も、芸術品と言えば芸術品か。
真っ白な大理石を美しく磨き抜いた最高級かつ、こだわりの墓石。
あえてシンプルなデザインにすることで神秘性を得ることに成功しており、紅魔館の薔薇園の赤薔薇に囲まれた白薔薇に囲まれた白い墓碑という少々くどいシチュエーションも様になっていると思う。
こんなところに墓を建てたのは、墓参りのたびいちいち花を添えなくていいようという咲夜当人の配慮だ。
そんなことを気遣われてもなぁと美鈴は呆れたが、倫敦人形はナイスアイディアと言い、パチュリーは合理的だと評した。
レミリアは、咲夜がそれでいいならと笑って認めた。
フランドールは率先して地底まで墓石を注文しに行ってくれた。
そうして、十六夜咲夜の墓が完成したのだ。
完全で瀟洒なメイド、ここに眠る。
悪魔の狗の寝床。
紅魔館メイド咲夜グレイブ。
掘り返しちゃやーよ。
など、洒落た文句を刻もうかなんて意見も出たが、墓をオモチャにするなと至極真っ当な一喝をレミリアが放ったため、ただ名前をアルファベットで刻むのみに終わった。やはり吸血鬼にとって墓は大事なものなのだ。自分のものでなくとも。
いや、十六夜咲夜がレミリアのものであるのなら、十六夜咲夜の墓も十六夜咲夜のものではなく、レミリア・スカーレットのものであるのかもしれない。
紅い悪魔に刻まれた白い思い出。
それこそが、十六夜咲夜という一人の人間が生きた証。
それはきっと、薔薇よりも墓碑よりも美しく輝き誇るのだろう。
「美鈴、掃除はすんだの? あら、お嬢様。いらしてたのですか」
……十六夜咲夜が、墓の下で眠っていれば、だが。
新たに薔薇園に現れた人物に、美鈴とレミリアは呆れ顔を向ける。
そこにはしわくちゃの老婆が、杖をついて立っていた。
目尻が垂れ、頬の肉も垂れ、腰が曲がり、手足は痩せこけ、指は棒切れのよう。髪は真っ白に――これは元からか。
そして引退してなお、個人的趣味で着続けているクラシックなメイド服。
もちろん、紅魔館にいる人間のお婆さんと言えば、十六夜咲夜しかいない。
「……咲夜。今日で九十歳ね、おめでとう」
「はい、ありがとうございます。お陰様で、ええ、長生きできますとも」
咲夜の墓の前で、咲夜の誕生日を祝うという、なんとも矛盾めいたシチュエーションが、レミリアに倦怠感を与えた。
葬式や墓石の生前予約は、幻想郷でもマイナーな文化だ。
非常識の世界では、そんな縁起でもないことやっていられるかという風潮がある。
しかし縁起に背中を向けて生きているような悪魔の従者としては、面白そうな文化に見えたのだ。
だから十年前、八十歳の誕生日プレゼントとして、自分のお墓をおねだりした。
どうせフランドールの一件で紅魔館が半壊して、建て直さなくてはいけなかった時期だ。
墓の設置なら紅魔館再建のついでに、というのも本人が生きていておねだりしてきているという状況では、むしろ気安く行えてしまった。
完全で瀟洒なメイド、ここに眠る。
悪魔の狗の寝床。
紅魔館メイド咲夜グレイブ。
掘り返しちゃやーよ。
など、洒落た文句を刻もうかなんて言い出したのも、十六夜咲夜当人である。
レミリアに一喝されてしゅんとなった咲夜お婆ちゃんの姿は、なかなか愛らしいものがあった。
そんなほほ笑ましいエピソードを思い返しつつ、レミリアは眉間に指を当てて唸る。
「う~ん……ねえ咲夜。あなた、いつ死ぬの?」
「おやまあ、お嬢様ったら。私に死んで欲しいのですか?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ。墓建てて、もう十年でしょ? あの頃は体調も悪かったし、そのうちころっと……って、思ってたんだけどさ。いや、嬉しいよ? 咲夜が元気でいてくれて嬉しいよ? でもさ、なんか、大切ななにかが台無しになってる気がするのよ」
「そんなに私の墓の上で踊りたいんですか? 年寄りはいたわらなきゃですよ、お嬢様」
「小生意気な年齢二桁ね」
「ここまできたら三桁を目指しますわ。ですからお嬢様、来月の温泉旅行、お願いしますね」
「わかってるよ! 私と美鈴のポケットマネーで折半だよ!」
ちなみに、温泉の効能は美容と健康と長寿である。
倫敦人形の企画した慰安旅行で行って以来、咲夜はすっかり温泉にハマってしまった。
おかげで効果は抜群だ。九十歳なのに元気いっぱいだもの。
「とほほ。来月も素寒貧確定ですか」
美鈴の愚痴には、今月も咲夜の誕生日プレゼントを買ったおかげで素寒貧になってしまったという裏がある。
咲夜の長生きは嬉しいけれど、なんかもう、嬉しいやら悲しいやらだったりする。
いや、本当に嬉しいけれど。
まだまだ長生きして欲しいけれど。
けれど出費が厳しいのだ。咲夜の遊び代やら治療費やらなにやら。
「長生きの秘訣は、やりたいことをやる……ですからね。おつき合いしてくれるお嬢様と美鈴には、いつも感謝していますよ。お嬢様方と、もっともっと、一緒にいたいですから」
強烈な殺し文句だ。
これだからやめられない、咲夜の長生きにつき合うのを。
美鈴とレミリアは顔を見合わせて苦笑して共感する。
この老い先短い……短いよね? 短いはずの十六夜咲夜の望みは、できうる限りかなえてやりたい。
「ええ、ええ。お嬢様の花嫁姿を見るまでは死ねるものですか」
だがその望みは、かなえるのがちょっと大変そうだ。
またもや美鈴とレミリアは顔を見合わせ、共感の苦笑を浮かべる。
十六夜咲夜、九十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
今日この日はとてもよく晴れていた。彼女の気質とは裏腹に。
雲ひとつ無い快晴の空の下、紅魔館の広々とした庭を使って、十六夜咲夜のバースデイパーティーが開かれていた。
倫敦人形が姉妹全員とアリス・マーガトロイドを招待し、迷いの竹林からあまり出てこない藤原妹紅なんかもやってきて、暇をしていた比那名居天子や、ネタ探しをしていた射命丸文、古い馴染みの魂魄妖夢が主の西行寺幽々子を伴って、妖精メイドに間違われたサニーミルクとスターサファイアとルナチャイルドなんかも連れてこられたりしつつ、もちろん演奏のためプリズムリバー楽団も呼んであり、フランドールの喧嘩仲間の星熊勇儀や風見幽香も顔を出してくれて、六十歳の誕生日に匹敵するほどの大賑わいとなった。
決定的に違うのは、藤原妹紅や魂魄妖夢のような怪しいラインを除いて人間のお客さんがいないというところか。
そういう些細な面で時の流れを実感しつつ、十六夜咲夜が長生きしてくれてありがたい気持ちになるのがレミリアや美鈴である。
パチュリーはというと、頻繁に時を止めてメイド仕事をしていたのになぜこんなに長生きなのか時間停止中は老化しないのかなどとアレコレ考察しているのが日常だが、バースデイパーティーの時にそんな野暮は言わず楽しんでいる。小悪魔はその身の回りの世話で忙しい。
フランドールは自由気ままに星熊勇儀や風見幽香とじゃれ合って、それぞれレーヴァテインと酒に満ちたさかずきと日傘を振り回している。パーティー会場である庭を壊さないよう、ちゃんと空で弾幕ごっことしてやっているので、見上げればいつでも綺麗な弾幕が見えるので好評だ。
そんな賑やかなパーティーの中心には常に、二人の姿があった。
車椅子を押す紅美鈴と。
車椅子に座る十六夜咲夜である。
挨拶の時はちゃんと立っていたが、この歳になると立ちっぱなしというのは疲れてしまう。
百歳を迎えた咲夜は、主にかつて弾幕ごっこをした相手から声をかけられたが、耳が遠くなったのと記憶力の低下によって、その優しい妖怪達の半分くらいが思い出せなかった。けれど気を悪くした奴なんて一人もいない。いるはずがない。
ポーズで悪態をついた奴はいっぱいいたけど、咲夜がずっとニコニコしているので毒気がすぐ抜かれてしまった。
しばらくして、二人はテラスに戻った。
一息ついて烏龍茶を飲んだ美鈴は、ふと咲夜に訊ねる。
「咲夜さん、上機嫌ですね」
「ええ。九十年振りに、ご馳走を食べられましたから」
「もしかしなくてもアレですね」
美鈴はすぐに思い至った。
なにせレミリアお嬢様が直々に、バースデイケーキを作ったのだから。
そう、覚えている。九十年前の、名無しの少女のバースデイパーティーを。
気が向いた時にしか厨房に立たず、気が向くのは数十年に一度あるかどうかだから。
「九十年前と同じ味で……結局、一度もかないませんでしたね……」
「料理の腕はもう、咲夜さんが上だと思いますけど」
「それでも、私にとっての一番はずぅっと、あの味です」
「ありますよね、そういうの。出発点とか基準点とか、心の奥底に根づいた揺るぎないものって」
ろくに厨房に立てなかった少女のために。
もう厨房に立てなくなった老女のために。
まったくもってお優しいご主人様だこと。従者コンビは幸せを噛みしめるようにして笑い合った。
「楽しそうね」
そこに、我等がお嬢様がやってくる。
吸血鬼に似つかわしくない快晴の下、日傘をさして優雅に歩いてくるレミリア・スカーレット。
「ええ、お嬢様。人生最高の誕生日です。九十年振りにお嬢様のケーキを食べられましたし」
「ン? 九十年振り? なんでそんなの覚えてるの?」
「十歳のお祝いに、作ってくれましたよ」
「そうだっけ? プレゼントは覚えてるけど、ケーキなんて滅多に作らないし、いちいち覚えてもないわ」
出発点で基準点で、心の奥底に根づいた揺るぎないもの。
その価値は本人だけのものである。
他者から見たら、それは気まぐれであったり、些細な出来事にすぎなかったり、どうでもいいことかもしれない。
でも、だからこそ特別で、だからこそ尊いのだろう。
「だいたい、今日も私がケーキ作ったけどさ、咲夜の方が上手じゃない。とっくにさ」
その言葉を受けて、目尻の下がった咲夜の瞳がハッと開く。
「まあ、そんな……お世辞なんて言わなくても」
「世辞じゃないわよ。私の好みも完全に把握してさ、私好みのケーキを私以上に作るようになったからだぞ? 私がケーキ作らなくなったの……って、咲夜?」
すっかり垂れてしまった頬の肉を、透明のきらめきが流れ落ちる。
思いも寄らぬ事態にレミリアはぎょっとして、しかし、美鈴は涙の意味を共有するように優しくほほ笑んでいる。
――メイドだろ。誕生日以外はお前が作るんだよ、私好みのケーキをな。
十六夜咲夜の目標、願いは、とっくにかなえられていた。
そしてかなえ続けていたのだ。
ずっとずっと、お嬢様の望みを。
「ちょっと、大丈夫?」
「いやですねえ、歳を取ると涙もろくなってしまって」
「えっ、えーと、私、なんか琴線に触れる名台詞かなんか言っちゃった? 心当たり無いんだけど」
「うふふ。お嬢様の言葉は全部、そりゃあもう、ひとつ残らず名台詞ですよ」
突然惚気られて、レミリアは頬を朱に染めてたじろいだ。
そんな可愛らしいご尊顔を見て、咲夜と美鈴は同じようにして飛びっきりの笑顔を浮かべた。
その笑顔はまるで、吸血鬼の大嫌いなお日様のように輝いている。
その笑顔があまりにもあまりにも眩しくて。
吸血鬼は晴れを好きになった。太陽の下で見る人間の笑顔が好きだった。
そして。
今日この日もとてもよく晴れていた。
ああ。ひとつの人間の生き様の、なんと美しいことか。
こんなにも晴れた日がもうしばらく、続きますように――。
十六夜咲夜、百歳のバースデイであった。
FIN
という言葉を初めて向けられたのは、少女が十歳を迎えた朝だった。
誕生日という、人が浮かれて殺しやすい日和の知識はあるけれど、それをなぜ自分にという疑念がある。
油断させて殺して食べる気か。やはり悪魔の館か。
身構えてナイフを抜こうとしたら、真っ赤なドレスを着込んだちっちゃなお嬢様が、少女の腕を掴んでグイッと引いた。
吸血鬼は獲物を逃がさないため強靭な握力を持つが、振りほどけないのは冷たいぬくもりのせいだ。
「な、なにをする。離せ吸血鬼」
「いいからいいから。お前、今日は仕事しなくていいわよ」
やはり食べられるのか。
他人事のように思い、連れて行かれた先は紅魔館の食堂で、あちこちにたくさんの薔薇が飾られていた。
甘い香りが場を満たし、食客のパチュリーと門番の美鈴がドレスアップして待っており、部屋の隅では悪魔の妹フランドールが薔薇のリースを抱えて座り込んでいる。
小悪魔と妖精メイド達がいっせいに拍手をして少女を迎え、レミリアお嬢様は誇らしげにほほ笑んだ。
「どうよ?」
「……なんだこれは」
「バースデイパーティーだ。まさか自分の誕生日も知らないのか? お前の、前の飼い主な、美鈴と一緒に自白させたから今日で間違いないぞ。まあ多分、お前以上にお前のコト知ってると思ってたけど、本当に知らなかったのか。今日がお前の、十歳の誕生日だよ」
知ってはいるけど。
少女の誕生日を祝う意味がわからない。
そもそも、人なぜ誕生日を祝うのかさえわからないのだから。
わざわざ殺されやすい日を作らなくてもいいのに、とさえ思う。
「ほら、バースデイケーキもある。私のお手製だ。私好みに作っておいたから、味をしっかり覚えておけ」
「なんでよ」
「メイドだろ。誕生日以外はお前が作るんだよ、私好みのケーキをな」
なんて身勝手。
見せつけるよう、あからさまに不満顔を作って睨みつけてやる。
ささやかな反抗心。
それに対しお嬢様のレミリアは、マニキュアの塗られた紅い爪を持ち上げた。
「そんな顔するな。紅魔館史上初の、人間のバースデイパーティーだからな。とっておきのプレゼントを用意してある」
「いらないわよ、そんなの」
「お前は私のメイドなんだ、拒否権は無いよ。さあ受け取れ」
紅い爪が、少女の額を軽くつつく。
レミリア・スカーレットは歌うような声色で、プレゼントを贈った。
「十六夜咲夜。今日からそれがお前の名だ」
イザヨ……サ……ヤ?
どこの国の名前だ。
近年中にジャパンのファンタジアとかいう場所に移住する予定なので、ジャパニーズネームにしてみたと説明を受けると、少女咲夜はそんな理由で名づけるなとお嬢様を怒鳴りつけるのだった。
十六夜咲夜、十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
日本の幻想郷に移住するから、という理由で十六夜咲夜という和名をつけられて早十年。
幻想郷にもすっかり馴染んで、十六夜咲夜は二十歳のバースデイを迎えた。
今年のバースデイケーキは、妖精メイド一同が協力して一生懸命に作り――失敗したので、咲夜が時間を操作して即興で作ることとなってしまった。
そのおかげかバースデイケーキは大好評。おいしいおいしいとみんなが食べてくれた。
「咲夜は私が育てた」
と偉そうに決めながらワインをガブ飲みしたお嬢様は今、パーティー会場で美鈴を物理的に振り回している。
咲夜はというと賑やかさをたっぷり堪能したため、今はバルコニーの手すりに身を預けて酔い覚ましだ。
夜風が涼しく心地よい。
一年に一日だけの、メイドの仕事をしなくていい日なので――というか、してはいけない日なので――今の咲夜はドレス姿。
黒いシックなパーティードレスは、二十歳に相応しい大人びた雰囲気をまとわせている。
「いやー、久々に楽しい夜だなー。どうだ咲夜、久々に楽しい弾幕撃ち合わないか?」
「あんたねぇ、まだそんなガキ臭い遊びやってんの?」
咲夜の左隣で、小柄な魔法使い霧雨魔理沙が笑っている。
咲夜の右隣で、咲夜の身長を追い越した霊夢が手すりに背中を預け夜空を見上げていた。
「スペルカードルール創始者がそれでいいのか」
呆れたように魔理沙がぼやくが、霊夢はどこ吹く風。
だが咲夜としては二十歳を迎えて成人した今、果たして弾幕ごっこを続けるべきか悩んでいたりする。
弾幕ごっこは楽しいけれど、やはり、あれは少女の遊びなのだ。
お嬢様につき合って紅魔館の中でするのはいいけれど、他所の目のあるところとなると少々恥ずかしくもある。
上白沢慧音のような立場なら、弾幕デビューをしようとする少女を監督する必要性もあるが、自分はそうではない。
だってスペルカードルールのキャリアは、お嬢様と同じなんだもの。吸血鬼異変のあとに作られたルールだし。
霊夢は彼氏ができるやすぐやめちゃったし、自分もきっかけがあれば、やめてしまうのだろう。
そのきっかけが、今日この日になるかもしれない。
少なくとも今日はまだ弾幕ごっこをしておらず、このまま明日を迎えれば、やめてしまうかもしれない。
だからもし、さっき、魔理沙に誘われた時、霊夢が茶々を入れなかったら。
やってたかも、ね。
どうしようか。
咲夜は思った。
もう一度誘われたら、霊夢にからかわれてもいい、弾幕ごっこに興じよう。
「ていうか、そろそろ彼氏の一人や二人、作ったら?」
だが声をかけてきたのは霊夢だった。
勝利者の余裕のためか、とても自然な態度でだ。
しかし、彼氏を作って処女を散らしては、お嬢様がなんと言うか。
処女でなくなっただけで捨てる薄情な主ではないけれど、仕える側の気持ちに問題があるのだ。
彼氏とプラトニックな関係を貫くというのも、うら若き乙女の情動が許しがたい。
「彼氏ねぇ……そういえば魔理沙、香霖堂の店主さんとはどうなの?」
とりあえず矛先をそらしておく。
ぎょっと身をすくめた魔理沙は、そっぽを向いて黙りこくった。
おや、なんだか様子が変だ。
「ああ、確かこないだ、いつまで経っても子供っぽいって言われてたわよねあんた」
霊夢は気安い口調だったが、結構グサリときたようで魔理沙はうなだれる。
「まっ、一度保護者ポジションに立ったら、いつまで経っても子供は子供に見えちゃうものよ」
保護する側とされる側を両立している咲夜は、からかうように告げた。
魔理沙は怒りに肩を震わせる。
「くっ……も、もうちょっと成長してから捨虫すべきだった」
「いやあんた、すでに成長止まってたじゃない。十何歳かそこらで」
「霊夢は背も胸もすくすく育ったけど、魔理沙は身長がちょっと伸びただけだったわね」
惨めな言い訳を即座に看破され、魔理沙はすっかり意気消沈。
しかし魔法使い霧雨魔理沙は不屈の闘志を持っているのだ。
拳を握りしめて咲夜と霊夢を睨み上げ、全身に魔力を漲らせる。
「くっ……こうなったら咲夜、霊夢! 夜が明けるまでスペルを叩き込んでやる!!」
きたきた、きましたよ。
咲夜は内心でほくそ笑んだ。
そしてああなんだ、やっぱり自分は弾幕ごっこを続けたいんだと理解する。
だったら仕方ない。霊夢がどう断ろうと、自分はやってやろう。
「あのねえ」
案の定、霊夢は呆れた顔で魔理沙を見やった。
まあ、今の霊夢が、弾幕ごっこをやる訳がない。
だって。
「この身体で、そんなくだらないことやれる訳ないでしょ」
ポンと、霊夢は自身の腹を叩いた。
まるまるとふくらんだそれは、早ければ今月には産まれる予定である。遅くても来月か。
夫にねだって買ってもらったマタニティードレスも、そろそろお役ごめんになる訳だ。
「ぐううっ……じゃ、じゃあ咲夜! やるぞ!」
「はいはい、しょうがないわねぇ」
いかにも面倒くさいと演じながら、手すりから身を離し、種無しマジックでナイフを取り出す。
魔理沙は手すりに立てかけてあった箒を掴んだ。
霊夢はお腹を押さえてうずくまる。
「……霊夢?」
顔は真っ青だ。
妊娠しているため今日もお酒は乾杯の一口しか飲んでいないので、酔いのせいではない。
特に持病も無く健康の塊のような霊夢が、なぜ急にこんな。
ひとつの予感が咲夜と魔理沙の脳裏に浮かぶとほぼ同時に、霊夢が呟く。
「き、きちゃったみたい」
早くても今月だと思っていたが、今月どころか今夜だったようで。
出産に時間がかからなければ、咲夜と同じ誕生日になる訳で。
「さささっ、サンバー! 産婆どこだぁー!?」
「おお、落ち着きなさい魔理沙! こういう時はお湯を用意するのよ! お湯で、えーと、紅茶を淹れて落ち着くのよ!?」
長年の友人の緊急事態を目の当たりにして、すっかりパニックに陥る二人。
騒ぎを聞きつけたレミリアがすぐ妖精メイドに指示を出して部屋とお湯を用意させ、産婆までこなしてくれたおかげで、無事、咲夜と同じ誕生日の赤ん坊が誕生した。
元博麗の巫女の子供が、悪魔の館で吸血鬼に取り上げられるという珍事は、多くの人妖に面白がられ、そして祝福された。
十六夜咲夜、二十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
そろそろ誕生日を笑顔で迎えにくい年齢になってきた。
と、普通の人間なら思うかもしれない。
けれど十六夜咲夜にとって、老いていくというのは奇妙な喜びを感じさせた。
老いていく姿を、永遠に紅い幼き月レミリア・スカーレットが楽しんでくれているから。
悲しんでもくれているから。
この特権は自分だけのもの。
妹君のフランドールでも、親友のパチュリーにも、最古の忠臣である美鈴にも、人間の老いは真似できない。
まばたきのような時間に一生をついやすことは。
それがとても愉快に思えて、今宵のバースデイパーティーもとても楽しいものだった。
みんなみんな祝福してくれて、とてもとても楽しいものだった。
それに今日は、十年振りの参加者もいることだし。
「ねえ。なんでうちにきたの?」
「きちゃダメだったか?」
「だっていつも、霊夢の方を優先してるじゃない」
霊夢の第一子は、咲夜と同じ誕生日。
親友の魔理沙はいつも、そっちの祝いに顔を出していた。
今の霊夢は三人目を腹に抱えているし、人手はいくらあっても困らないというのに。
「ン……プレゼントは贈っといた。たまにはお前も祝ってやらなきゃな」
十年前の誕生日もここで、バルコニーで夜風を浴びていた。
満天の星の下で、三人で語らっていた。
今は二人。
レミリアお嬢様? パーティー会場で小悪魔を物理的に振り回してるよ。
「人間同士の輪に、場違いを感じた?」
図星をピンポイントで突いてやると、魔理沙はさみしげにうつむいてしまった。
霊夢ももう三十近く、優しい夫との子宝にも恵まれ、幸せいっぱいの家庭を築いている。
もはや老いることのない魔法使いにとって、その光景は遠い。
「こっちは、悪魔と魔女がいるしな」
「今日は人間の私の誕生日ですけど」
「お前は悪魔の狗だからいいの」
どういう理屈なのやら。
おかしくなって、咲夜はクスクスと笑う。
悪魔の狗、大いに結構。
自分は多分一生、こんな風に生きていくのだ。
誰が言った言葉だったか、三十歳の時にしている仕事が、一生の仕事になるらしい。
一生メイドで、一生お嬢様のお側に。
それでいい、自分の人生は。
「つーか咲夜、よく平気だな? 紅魔館で、お前だけだろ? 年老いる人間って」
「刻んだしわの数だけ、人間は美しくなるの。フフッ。まだしわを刻めていないけれど、残念ね、あなたはもう刻めない」
「ちぇーっ……減らず口ばっかり増やしやがって。増やすのはしわだけにしろ」
咲夜は種無し手品でワイングラスをふたつ、ワイン瓶をひとつ出した。
「ビンテージワインを増やしてみたりして」
「おお、ナイス。何年物?」
「私と同い年ですわ」
「ハハッ、そりゃいいぜ!」
ワイングラスを真っ赤に満たし、空に輝く月に向かって乾杯をする。
重ねた歳がその味わいを深くした。
もちろん味わいが深くなったのは即席ビンテージの方ではなく、三十年を生きてきた完全で瀟洒なメイド長のことさ。
十六夜咲夜、三十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
十年前、刻んだしわの数だけ人間は美しくなると魔理沙に言った。
ちょっとした強がりではあったが、概ね本音でもあった。
年齢より若々しいと評判の咲夜も、三十ではまだしわはできていなかったが、今は、目尻に刻まれている。
厚化粧をすれば隠せるけれど、自分もお嬢様は薄化粧が好みだ。老いを誤魔化すのも嫌なので。
だから祝いの席でも、普段通り薄化粧。
今宵はテラスで優雅に紅茶を嗜みながら、庭に散らばった妖精メイドが各々の楽器を演奏しているのに、耳を傾ける。
静かな夜だ。
魔理沙はフランドールを誘って踊っているし、自分と同席しているのはレミリアとパチュリーなので。
ちなみに美鈴は酔っ払って小悪魔を振り回しながら、紅魔館の塀の上を駆け回っている。
庭に下りてこなければ迷惑がかからないのでよし。
「ふぅ……咲夜ももう四十か」
「美人になったでしょう?」
感慨深くレミリアがため息をついたので、咲夜は自慢げにほほ笑んだ。
しかしふいに、胸が切なくなる。
もう四十。
恐らく、人生の半分はとっくに通りすぎているのだろう。
それほどの時間を紅魔館ですごしてきた。
後悔は無い。さみしいと感じてしまうのは、人間という寿命の枠に囚われているから。
みずから望んだ道だけど、道を歩んでいれば、物思いに耽ることもある。
「私はまだ、老いが美しいっていう概念が理解できないのだけれど……」
水を差すのを承知でパチュリーが言う。
カーディガンを羽織って、紅茶のぬくもりで両手をあたためながら。
「まっ、パチュリーはまだ若いし、本ばっか読んでる頭でっかちだから、仕方ないんじゃない?」
五百をとうに超える悪魔が笑う。
百をとうに超える魔女は眉をしかめる。
「うーん、否定できないわ」
紅茶を一口。ちなみに淹れたのは新人の優秀なメイドだ。
飲み込みが早く精力的なので教えがいがあり、メイド長を継ぐのは彼女しかいないと皆が思っている。
そう、思っているのだ。
今のメイド長、十六夜咲夜はいずれ死ぬから。
もう数十年も経てば。
パチンと。
レミリアが高々と掲げた指を鳴らした。
「アイヨー。お呼びかいお嬢ー」
「デザート、なにか持ってきて。甘いのがいいわ」
「任されたぜー。パチュリーとメイド長はどーするー?」
やってきたのはメイド姿のお人形さん。金髪碧眼が愛らしい、自立人形って奴だ。
「ん、そうね……レミィと同じでいいわ」
「私も。それと倫敦、また言葉遣いが乱れてきてない?」
「おっとと、申し訳ない。気をつけてはいるんだけど、上海や魔理沙や蓬莱や魔理沙や妹紅や魔理沙のせーで、口調がね」
からからと笑う倫敦人形。
紅魔館のゴシックムードがお気に召したようで、去年から無給で雇われている。いつか有給になるかもしれない。
次期メイド長確定の新人メイドの正体だ。
「それじゃ、行ってきまーす」
倫敦人形はとっとこと館内に駆け込んだ。
自立してない人形だった頃からいっぱい働いていたので、実に働き者である。
ほほ笑ましく思いながら、咲夜は、もう数年もすればいつ自分がいなくなっても大丈夫なんだろうなと思った。
倫敦人形が一人前になるまでは、自分も現役でがんばらないと。
「おーい。倫敦様お手製ケーキ持ってきたぞー」
両腕を真っ直ぐ上に伸ばして、トレイに載ったケーキを持ってきた小さなメイド人形。
高性能バランサーのおかげで、そんなスタイルで駆け足でも実にスムーズだ。
「ああ、バースデイケーキ、大きかったものね」
楽しげにレミリアが笑った。
元々、アリスの家にいた頃も料理やお菓子作りをしていたためか、倫敦人形の料理の腕前はすでに一級品。
レミリアやパチュリーの味の好みも学習してきているし、料理に関してはもう教える必要は無いだろう。
テーブルに置かれたケーキを、咲夜、レミリア、パチュリーが口にする。
うん、おいしい。
本当にもう、教える必要は無い。
ただ。
十歳の誕生日に食べたあの、レミリアお嬢様が作ったケーキには、まだまだ及ばない。
自身が丹精込めての作ったケーキでさえも。
いつになったら作れるのだろう。人間の寿命では至れないのだとしたら、倫敦人形なら至れるのだろうか。
そう思うとやはり、人命の儚さを感じずにはいられない。
十六夜咲夜、四十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
誕生日にはメイドの仕事を休めるというのも、そろそろ限界らしい。
肉体の衰えを日に日に実感し始め、週休一日にしようか、いやいや二日にしようかと、お嬢様に言われてしまった。
いずれその言葉に甘える日はくるが、まだ意地を張っていたい。
そのために十年前から毎朝美鈴と一緒に太極拳をして美容と健康を保っているが、五十歳という区切りはとても大きい。
食べ物も脂っこいものがしんどくなってきた。
だというのに。
「どうですか咲夜さん! 今宵は中華料理フルコースですよー」
妙に張り切っちゃった美鈴が、飛びっきりがんばっちゃったよ。
パーティー会場はどこを見渡しても中華、中華、中華。
揚げパン、シューマイ、春巻き、焼き餃子に水餃子。蟹チャーハン。
麻婆豆腐、エビチリ、チンジャオロースや八宝菜、春雨スープにフカヒレスープ、北京ダックや子豚の丸焼き。
などなど。他にもたくさん、がっつり食べられる料理が盛りだくさん!
……正直きつい。
食前酒や烏龍茶なんか出されても、一皿食べれば胸焼けしそうな脂っこさだった。
今年も倫敦人形が作ってくれたバースデイケーキや、さっぱりした杏仁豆腐なんかでお腹をふくらませる手もある。
だが、瞳をきらきらさせている美鈴を見ると、食べねばならぬと心理的圧迫を受けてしまう。
「ヒャッハー! フカヒレだー! うまいうまい。エビチリもグーッ! おっ、そっちの肉はなんだ? うひょー!」
大喜びであちらこちらのテーブルに料理を食べに行っている魔理沙が、心底羨ましかった。
捨食の法で飲食が不要であるというのに、この白黒魔法使いはいつまで経っても食い意地が張っている。
今日は応援してやるから全部食べちゃって。
「まったく。魔理沙はいつもがっついてるわね。こないだも、ミスティアの屋台でさ……」
「あー、それ妹紅から聞いたわ。出禁とかマジ受けるし。天子の奴がガチギレして地震起こしたアレでしょ?」
「えっ、あの地震って魔理沙と天子のせいなの? あのせいでお嬢の皿を割っちゃったのに。あとで魔理沙えぐるわ」
上海人形と蓬莱人形と、副メイド長となった倫敦人形が近くの席でお喋りしている。
倫敦人形の姉妹である自立人形は、紅魔館へちょくちょく遊びにくるのだ。
人形なので中華料理対策として頼りにできないが。
ちなみに。
上海人形は紅美鈴と、蓬莱人形は藤原妹紅と仲がいい。
後者は妹紅に『蓬莱の人の形』というあだ名があるからわかりやすい縁だ。
だが前者はよくわからない。
一度、美鈴と弾幕ごっこを終えて一服中の上海人形に訊ねたことがある。
『明治十七年の上海アリスだからね。蓬莱に倣って上海つながりとゆー安直なことしてみた』
と、意味不明な返答をされた。
明治十七年にアリスが上海で暮らしてでもいたのだろうか。まったくもって謎だ。
まあ上海人形は置いといて、蓬莱人形が藤原妹紅を連れてきてくれたのはありがたい。
魔理沙と一緒になって色々と食べて回っているが、いざとなれば殺してでも食べさせればいい。
リザレクションすれば腹に余裕もできるだろう。
こっそり毒でも仕込んでおこうか。いや、蓬莱人に毒は効かなかったような?
視線に気づいたのか、妹紅がこちらを向いた。
にこやかに手を振ってきたので、こちらも礼儀として愛想笑いで手を振り返す。
咲夜はため息をついた。
あれこれ考えはしたけれど、魔理沙や妹紅にこの大量の料理を食べ尽くしてもらうというのは無理がある。
自分もがんばらなきゃ。
「あれー、咲夜さん箸が進んでませんよ? はい、どうぞ」
と、やる気になったタイミングで美鈴がやってきた。
お皿いっぱいに脂っこいアレやコレやソレを積み上げて。
自分の作った物を食べてもらいたい心理はとてもよくわかるけれど、もう少し人間を脆弱さを理解していたわってよ。
「あはは……いただくわ」
ひょいと、揚げパンがつままれる。
「こんなのばっか食べさせてちゃ、血が濁るわよ」
フランドール・スカーレットが、横から手を出していた。
揚げパンを一口かじり、その甘みを楽しんで咀嚼する。外はカリカリ、中はふわふわ。美鈴の揚げパンは上出来さ。
「妹様」
「美鈴。人間の味は、食生活がもろに出るのよ。咲夜が不味くなっちゃうでしょう?」
「食べるんですか?」
「食べないけどさ、不味い人間って不健康なんだもん」
「身体にいい物、作ったつもりなんですが」
「脂っこいのよ。もっとあっさりしたのないの?」
「それなら冷やし中華ありますよ」
「それ中華料理だっけ?」
「中華ってついてるから中華料理じゃないんですか?」
こいつ本当に中華妖怪?
なんて思わせる一幕。
妹様フランドールの気配りのおかげで、冷やし中華ですんだのはありがたかった。
だがそれ以上に、フランドールが他者をこんなにも自然に気遣えるよう成長したことが嬉しい。
藤原妹紅を生贄――もとい家庭教師として雇って、情操教育を数年ほどがんばったかいがあったというものだ。
リザレクションするたびに散らばった血肉や臓腑も消滅するから、掃除の手間がかからなかったのも助かった。
いつか、そう、自分や慧音が寿命を迎えたあとでいいから、妹紅が紅魔館のメイドになってくれたらもっともっと助かりそうだ。フランドール専属メイドにすれば紅魔館はますます平和になる。
それに妹紅が元は人間だったこともあり、人間の生態について結構詳しくもなってくれた。
もっとも不老不死の妹紅が相手だったせいで、人間の老いに関しては理解が浅いが。
一番理解してくれているのは、やはり、レミリアお嬢様だろうか。
そういえばお嬢様はどこにいるのだろうと、咲夜は会場に視線をめぐらせる。
博麗の巫女と歓談をしながらエビチリをつまみ老酒を飲んでいるのを見つけると、あちらもすぐこちらの視線に気づいた。
コップを持ち上げ、可愛らしいウインクをしてくる。
当代の巫女とは結構気が合うようで、毎日が楽しそうだ。
少しさみしさを感じながらも、お嬢様が幸せであれば、自分も幸せであると信じられた。
会場の中心で人のエビチリを横取りしたとかいう理由で魔理沙が妹紅を物理的に振り回してることなど些細なことだった。
あ、ぶん投げられた。見事なジャイアントスイングですっ飛んでいった妹紅は熱々スープに頭からダイブして悲鳴を上げる。
十六夜咲夜、五十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
ついに定年を迎えた十六夜咲夜。
ついにメイド長を引退する。
太極拳をし、野菜をたくさん食べ、健康に気遣って一日でも長く現役であろうとした。
けど隠居生活も悪くないかななんて、最近は思うのだ。
今回のパーティーは一際派手になっており、紅魔館の庭を全部使って、招待客をたくさん招いて大騒ぎ。
紅魔館の壁には大きな垂れ幕がみっつ飾ってある。
『十六夜咲夜、六十歳おめでとう』
『十六夜咲夜、メイド長お疲れ様でした』
『倫敦人形、新メイド長就任おめでとう』
要するにバースデイパーティーと、メイド長引退パーティーと、メイド長就任パーティー。
合同してのトリプルパーティーなのだ。
三回に分けるよりも、全部まとめて三倍、いや十倍派手に祝う方が楽しかろうというお嬢様の計らいである。
ガーデンパーティーにしたのは、客を大勢招くため、館内を歩き回られては危険だからだ。
魔理沙用トラップに引っかかられては、死ぬ人間も出るだろうし。
ステージではプリズムリバー楽団と妖精メイドのライブが行われている。
うるさい夜雀は、似つかわしくないパンクロックなんかやったら焼き鳥にすると脅しておいたので安心だ。
歓待のため、今日は美鈴も給仕をしている。両手と頭にお皿を載せてあっちへこっちへ大忙し。
倫敦人形の姉妹達も、今日はお手伝いに参加してくれた。
上海人形、蓬莱人形、仏蘭西人形にオルレアン人形。和蘭人形……他にも何人も何人もきてくれている。
人形達を代表して、西蔵人形がエイジャの赤石という宝石のネックレスをプレゼントしてくれた。
今は咲夜の胸元で輝いている。黒いシックなパーティードレスとの色合いもなかなかいい。
ちなみにメイド長就任の倫敦人形には、露西亜人形が代表して特注のコサック帽をプレゼントしていた。
とても喜んでおり、倫敦人形は大喜びで着用してパーティーに参加しているが、なんとも不思議なセンスだ。
今は魔理沙に見せびらかし自慢している。ふかふかだぞーもふもふだぞー羨ましいだろー、と。
そしてなぜか蓬莱山輝夜がとても羨ましがっており、コサック帽に夢中になっている。
おかげでエイジャの赤石を見せびらかす機会がやってこない。
魂魄妖夢と東風谷早苗には自慢できたからいいかもしれない。二人は今、どこかで料理を食べているだろう。
アリスはパチュリーに誘われて、テラスの隅でワインを飲みながら魔法談義に花を咲かせている。
射命丸文はあちこちで写真を撮っている。咲夜と倫敦人形も先ほどしこたま撮影された。
良くも悪くも新聞が楽しみだ。悪くなる予感がひしひしとするが。
風見幽香は薔薇園の中央で、なぜか比那名居天子を振り回している。
平和に薔薇を堪能していたはずだけど、ちょっと目を放した間になにがあったのだろうか。
ともあれ、今回はレミリアの狙い通りとても賑やかなパーティーとなっていた。
「久し振りね」
「元気そうでなによりです」
テラスの中心のテーブルで身体を休めていると、二人の人間に声をかけられた。
にっこりとほほ笑み返して同席を勧めると、二人はゆったりとした動作で腰掛ける。
「ええ、久し振りね霊夢。慧音。お孫さんは元気?」
「あっちでレミリアと遊んでいるわ」
頬のしわを深くして霊夢が笑った。
四十年も昔、咲夜の誕生日に突然産気づいて生まれた子供は、すでに親となって、子供を連れてパーティーに参加している。
そう考えると、人間というのは成長するのも老いるのも、とても早いのだと実感させられた。
「咲夜もついに引退か……」
三年前に教師を引退した慧音が、感慨深く述べる。
彼女の子供は教師の道を選ばなかったが、孫は選んでくれたようで、慧音はそれをとても喜んでいる。
霊夢同様、孫を連れてパーティーにきたはずだが、姿は見えない。
祖母の面倒は妹紅に任せておけばいい、ということか。
紅魔館の壁にもたれかかってワインをちびちび飲みながら、こっちの様子をうかがっている妹紅にはとっくに気づいている。
慧音の子供にも孫にもいいように使われていて不憫だと思う反面、それがとても羨ましい。
「倫敦はとっくに一人前だし、小悪魔も優秀になって、もう仕事の無い名誉職みたいなものだったしね」
咲夜は正直に言った。
この二人は古い馴染みというだけで別段交流が多い訳ではないが、人間の寿命を共有する同年代の女性ということで、親近感を抱かずにはいられない存在である。それはきっと、不老不死の少女と親しい慧音も同じ気持ちだろう――。霊夢は夫も子供も孫も純粋な人間ばかりで人里暮らしのため、そういった部分は共有できないでいるが。
魔法使いになった魔理沙や、半人半霊の妖夢、現人神の早苗なんかとも、弾幕ごっこと博麗の巫女を引退してからは交流がガクンと減り、結婚や子育ての忙しさでもう、滅多に顔を合わせることもなくなってしまって、もちろん紅魔館にだってこんな機会でも無ければやってこない。咲夜とは人里で顔を合わせれば挨拶し、暇があればたまにお茶をする程度だ。
博麗の巫女として光り輝いていた時期を思えば、今の霊夢はあまりにも人間的すぎて。
あの頃以上に眩しく、咲夜の瞳には映る。
刻んだしわの数が、本当に美しく感じられる。
お嬢様は咲夜の老いを美しいと褒めるが、霊夢と見比べたら、どちらを美しいと見るだろうか。
「これからは楽隠居を楽しませてもらうわ」
「そりゃ羨ましい。うちの宿六も、私を楽にしてくれないかしら」
「ふふっ。そんなこと言って、旦那の面倒を見るのが楽しいくせに。ほら、こないだも茶屋で仲むつまじく――」
昔話もいいけれど、今の話もやっぱり楽しい。
夫のこと、子供のこと、孫のこと。
霊夢と慧音から聞かされるそれはいつだって楽しくて眩しくて、切なくて。
十六夜咲夜、六十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
「ねえ咲夜」
「なぁに倫敦」
「なにしてんの」
「ケーキを焼いているの」
「なんのケーキよ」
「そりゃあもちろん、私のバースデイケーキよ」
「ねえ咲夜」
「なぁに倫敦」
「メイド長を引退してもう十年よね」
「あら、もうそんなになるのね」
「いつまでメイドやってんの」
「いつまででしょうねえ」
二十歳の頃から愛用している、ロングスカートのクラシックなメイド服。
今でも同じデザインの物を愛用しているし、メイドの仕事も自由気ままにやっている。
昔は誕生日にしか休みが無かったのに、十年前に完全なる年中無休を迎えて以来、ほぼ毎日仕事をしていた。
一日の仕事時間は減っているが、去年の誕生日も仕事をしていたし、そろそろ六百日くらい無休で働いていることになる。
六百日くらい前に仕事を休んだのは、確か風邪を引いたせいだったはずだ。
「ワーカーホリックかよ」
倫敦人形に呆れられながら、咲夜はオーブンの様子をうかがっている。
ケーキをおいしく焼き上げて、楽しいバースデイパーティーをしなくては。
「昔はね、仕事を趣味にしていたけれど、今は趣味を仕事にしているのよ」
咲夜は悪戯っぽく笑った。
しわの数は増えたのに、まるで子供のよう。
レミリアは面白がっているが、メイド長の倫敦人形としては、趣味の仕事とやらで要らぬトラブルが起きやしないかと心配でたまらない。それに、どんなに元気にしていたって人間は脆い。些細なことでぽっくりと逝ってしまわないか不安だった。あの霊夢でさえ呆気無いものだったから。
魔理沙に大泣きされるのも、また面倒だし。
そういえばここ数年、魔理沙の姿を見かけない。
魔法の森に閉じこもっているそうだが、一応、バースデイパーティーの招待状は送っておいた。
こないだろうなと咲夜は思っている。
「まあ、ケーキ焼くくらいならいいけどさ。しんどい仕事はメイドに任せてよ。妖精どもにサボり癖がついても困るんだから」
「あらあら、ごめんなさいね。でも、老後の数少ない楽しみなのよ」
「なにか他に趣味でも見つけなよ。読書とかさ、地下に本が腐るほどあるんだし」
「この歳になると、小さな字を読み続けるのはつらくてねぇ」
「じゃ、盆栽なんかどう?」
「紅魔館には似合わないわ。永遠亭みたいな、和風の場所でやらなくちゃ」
「んー……映画鑑賞、とか」
「途中で眠くなっちゃって」
「太極拳に本腰入れるとか」
「毎朝やってる分で満足よ」
「チェス」
「お嬢様もパチュリー様も上手すぎて、今さら私が始めたところでねぇ。恥ずかしいわ」
「ウマいヘタじゃないでしょ、そういうのはさ」
「ウマいケーキを、お嬢様に食べてもらいたいの」
そう。自分はまだ、あの味に届いていない。
だから多分、こんな歳になってもメイドを続けているのだろう。
「あー。例のあれね。昔、お嬢が直々に作ったっていうバースデイケーキ。言っちゃなんだけど胡散臭いなーって思うよ。だって、あのお嬢が料理できるなんて、ちょっと想像できない」
「そうね、もうずっと厨房に立っていないものね……あれ以来、お嬢様のケーキを食べたことが無いのよ」
「どんなケーキ? こないだ味覚プログラムつけたから、味覚の精密さには自信あるよ」
「レシピがあったから、その通りに再現はできているのよ。でも、なにかが足りない」
「隠し味って奴?」
「多分、ね」
腕組みをして考え込む倫敦人形。
まあ、食べてもいないのにそんな風に考えるだけで答えが出るはずもないが。
「隠し味は愛情です、かな」
出た。
「倫敦。その愛情っていうのは、料理を丁寧に作ることを言うのよ。愛情を持って、細かな作業もしっかり丁寧に。それが味に出るの。でも、そうね、愛情を込めて作られたものなら、おいしく感じるものよね」
霊夢が、孫の作ってくれた玉子焼きが甘すぎてきつかったという愚痴を漏らしていたことがある。
でも、とても楽しそうに話していて、とてもおいしく感じたのだろうと確信できた。
そういう簡単な話なのかもしれない。
「じゃ、今日のバースデイケーキは咲夜に任せていいかな?」
「ええ、任せてもらうわね」
「うん。他の料理は、私に任せてよ。隠し味をたっぷり入れとくからさ」
ウインクをして、倫敦人形は今夜の料理の準備に向かった。
その姿がとても頼もしくて、いつ自分がいなくなっても紅魔館は安泰だと安心する。
十六夜咲夜、七十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
シャリ、シャリ、シャリ。
一定のリズムを保つそれが、耳に心地よい。
シャリ、シャリ、シャリ。
とても器用に、リンゴの皮が剥かれていく。
シャリ、シャリ、シャリ。
リンゴを丸裸にした赤い皮は見事につながったままだった。
「具合はどう?」
「ええ、お陰様で。慧音が挨拶にきてくれました」
ブラックジョークで答えると、小さな淑女はからからと笑って、リンゴを切り分け小皿に載せる。
フォークを刺して、咲夜の口元へ。
「はい、あーん」
「あーん」
しゃくしゃくとした食感。
瑞々しいリンゴを食べると、自分の身体も瑞々しくなるような気がする。
今はもうしわくちゃで、かさかさの肌なのに。
「なに、ニヤニヤしてんのよ」
ベッド脇の椅子に腰掛けたレミリアがいぶかしげに眉をひそめる。
ベッドの上で半身を起こした姿勢の咲夜は、目尻のすっかり下がったふたつの眼差しを返す。
「いえね、お嬢様と二人きりなんて、随分……久し振りな気がして」
「ン……そうだったかな」
「皆さんに祝ってもらえるのも嬉しいですけれど、たまには、こんな誕生日もいいものですわ」
「……人を呼ぶと、人が減ってるのがさみしい?」
「お嬢様、パチュリー様、美鈴、倫敦、小悪魔や妖精メイドの皆さんがいてくれますから、そうですね、お嬢様が少しさみしそうで、心配ですわ」
「別に私は、さみしくなんか」
「もう二十年以上も前でしたっけねぇ、フランドール様が館を出たのは」
あれ以来、一度も顔を見ていない。
地底で鬼を相手に暴れているとの噂もあるが、はてさて、実際どこでなにをしているのやら。
苦々しくため息をついたのはレミリアだ。
「あの馬鹿妹……もう外でなにをやっても、かばってやれないわ」
「大丈夫ですよ、お嬢様の妹様なんですから」
だから余計に心配なのだと、当のレミリアが思っているのは、咲夜も承知である。
咲夜がまだ十代だった頃に比べ、レミリアはだいぶ落ち着き大人びてきたというのが、従者の贔屓目である。
身長は一センチしか伸びてないし、こないだも身勝手な異変を起こしたり、まだまだ有邪気なお子様に見えるけれど。
吸血鬼のゆるやかな成長を、咲夜は知っている。
フランドールお嬢様も、きっと――。
わずかにベッドが揺れた。
と認識した刹那、紅魔館が縦に大きく弾む。
雷鳴のような響きが館全体をつんざき、レミリアがゆっくりと振り向いた先の扉が破砕した。
「お久し振りでございますレミリアお姉様デストローイッ!」
真紅の剣が閃いた。
軌道上に存在する空気を破壊して迫りくる死の刃は、レミリアの首と皮一枚の距離で制止する。
「お嬢、様」
扉を破った闖入者の背後から、さらに声。
「妹様がお帰りになられました」
咲夜が出会った時より身長が一センチは伸びたであろう、フランドール・スカーレットが炎の魔剣を手に立っていた。
その後ろから、頼れる門番紅美鈴が、吸血鬼の怪力を両手で鷲掴みにしていた。
噂をすれば影と言うが、これはむしろ、タイミングを見計らっていたのではないかと邪推してしまう。
「おかえりフラン。病人の前でこの無作法、ぶち殺されたいのね」
「ただいまお姉様。地底土産の温泉饅頭、ひとつ残らず食べておいたので空箱をどうぞ」
美鈴に留められたのとは反対の手で、フランドールは空箱を投げ捨てた。
床に転がったそれは確かに温泉饅頭の箱で、綺麗にカラッポになっていた。
あまりにも安すぎる挑発に、レミリアは鼻を鳴らしあざ笑う。
「で?」
塵芥ほども動じぬ姉の姿に、フランドールの身体が塵芥ほど後ろへ引き下がった。
それを敏感に感じ取った美鈴は手を離し、しっかりと一歩分、後ろに下がった。
そんな二人を見て咲夜は、なんだか面白くなってきたと不謹慎な喜びにひたる。
「フラン。他に言うことはないの?」
「うーっ……」
バツの悪そうな顔をして、助けを求めるよう咲夜へ視線を向けてきた。
にっこりとほほ笑み返して、首を横に振る。
今度は後ろを向いて美鈴に助けを求めた。美鈴もにっこりとほほ笑み返して首を横に振る。
言い訳があるならご自分で、ってね。
目尻にちょっと浮かべた涙を隠すようにして、フランドールはうつむき、上目遣いでレミリアを見た。
「お、遅くなってごめんなさい。ただいま」
「はい、おかえり。あんまり心配かけるんじゃないの」
コツンと、フランドールの頭を小突いて笑顔で許すレミリア。
ほら、言った通り。
お嬢様の妹様だから、大丈夫ですってね。
「で、フラン、今までどこでなにしてたのよ?」
「あのね、地底に行って鬼とぶちのめし合ってたの。溶岩風呂に沈められたり、針山で冬眠させられたり、色んな修行もやったから、すでにお姉様より私の方がハイパー強くなったので、お姉様を抹殺して紅魔館を乗っ取ろうと思って帰ってきたの!」
その日。
グングニルを振り回すレミリアお嬢様と、レーヴァテインを振り回すフランドールお嬢様のせいで、紅魔館が爆発した。
病身の咲夜を、身を挺して守ってくれた美鈴には深く感謝せねばなるまい。
十六夜咲夜、八十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
紅魔館の敷地内にある優美な薔薇園。
赤薔薇ばかりが植えられており紅魔館に相応しい光景となっているが、そんな中、白い一角がある。
白薔薇に囲まれた白い石碑。
青空の下、太陽の光を浴びてきらきらと輝いているのは濡れているため。
門番と庭師を兼任している紅美鈴が石碑を水洗いをし、今は乾いた雑巾で拭いている最中だ。
例えその行為に虚しさを感じようとも、大切なものだから丁寧に。
怒られたくも、ないしね。
「んっ……美鈴?」
そこに、日傘をさした小さなレディがやってくる。
美鈴はかがんだまま振り返った。
赤薔薇の中にたたずんでいるのは紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
ピンクの唇は三日月を描き、真紅の瞳が艶やかに揺らめく。
「お嬢様、お散歩ですか?」
「美鈴の世話している薔薇を、ふいに見たくなってね」
「それは光栄。恐悦至極。綺麗でしょう? お嬢様に似合うよう、丹精込めてお世話してますから。倫敦も手伝ってくれてますし。休み時間なんか、よく遊びにきますよ」
「ククッ。倫敦は結構、乙女なキャラクターしてるしね。こないだ、フリルいっぱいのパーティードレスを縫っていたわ」
「パーティー、ドレスですか」
雑巾をバケツにかけると、美鈴は立ち上がって紅魔館を見上げた。
雄々しくそびえる赤レンガの館。
十年前の騒動で半壊してしまったが、鬼に手伝わせて建て直したおかげで昔よりうんと綺麗に仕上がっている。
頑丈さも折り紙つきだ。去年、比那名居天子に緋想の剣を振り回された時も損傷はほとんど無かったほど。
ああ、こうして歴史を重ねていくのだなと美鈴は感じ入った。
今日という日も確かに歴史の一幕なのだ。
「倫敦、今日も張り切ってました?」
「そりゃね。さっき言ってたパーティードレス、もうそれに着替えてるもの」
「今夜も騒がしくなりそうですね」
「そうね」
やわらかな風が吹き、薔薇園が赤々と波打ってきらめく。
しかしレミリアの目線は、美鈴の真っ赤な髪がそよぐ様を見つめていた。
風がやむと、視線は白い石碑へと移ろう。
釣られて美鈴も石碑を見、そこに刻まれた名前を読んだ。
『SAKUYA IZAYOI』
石碑は墓碑。
紅魔館で長らくメイド長を務めていた忠臣、完全で瀟洒なメイド、十六夜咲夜を葬るためのもの。
墓を欲しがるのは概ね人間で、妖怪の大半はそういったものを求めない。
美鈴も墓なんて死体を埋める目印くらいにしか認識していなかったが、アンデッドである吸血鬼にとっては人間以上に重要な意味合いを持つことを承知しているし、レミリアとフランドールの棺桶もよく知っている。綺麗な細工が施されていて一種の芸術品と言えよう。
この墓も、芸術品と言えば芸術品か。
真っ白な大理石を美しく磨き抜いた最高級かつ、こだわりの墓石。
あえてシンプルなデザインにすることで神秘性を得ることに成功しており、紅魔館の薔薇園の赤薔薇に囲まれた白薔薇に囲まれた白い墓碑という少々くどいシチュエーションも様になっていると思う。
こんなところに墓を建てたのは、墓参りのたびいちいち花を添えなくていいようという咲夜当人の配慮だ。
そんなことを気遣われてもなぁと美鈴は呆れたが、倫敦人形はナイスアイディアと言い、パチュリーは合理的だと評した。
レミリアは、咲夜がそれでいいならと笑って認めた。
フランドールは率先して地底まで墓石を注文しに行ってくれた。
そうして、十六夜咲夜の墓が完成したのだ。
完全で瀟洒なメイド、ここに眠る。
悪魔の狗の寝床。
紅魔館メイド咲夜グレイブ。
掘り返しちゃやーよ。
など、洒落た文句を刻もうかなんて意見も出たが、墓をオモチャにするなと至極真っ当な一喝をレミリアが放ったため、ただ名前をアルファベットで刻むのみに終わった。やはり吸血鬼にとって墓は大事なものなのだ。自分のものでなくとも。
いや、十六夜咲夜がレミリアのものであるのなら、十六夜咲夜の墓も十六夜咲夜のものではなく、レミリア・スカーレットのものであるのかもしれない。
紅い悪魔に刻まれた白い思い出。
それこそが、十六夜咲夜という一人の人間が生きた証。
それはきっと、薔薇よりも墓碑よりも美しく輝き誇るのだろう。
「美鈴、掃除はすんだの? あら、お嬢様。いらしてたのですか」
……十六夜咲夜が、墓の下で眠っていれば、だが。
新たに薔薇園に現れた人物に、美鈴とレミリアは呆れ顔を向ける。
そこにはしわくちゃの老婆が、杖をついて立っていた。
目尻が垂れ、頬の肉も垂れ、腰が曲がり、手足は痩せこけ、指は棒切れのよう。髪は真っ白に――これは元からか。
そして引退してなお、個人的趣味で着続けているクラシックなメイド服。
もちろん、紅魔館にいる人間のお婆さんと言えば、十六夜咲夜しかいない。
「……咲夜。今日で九十歳ね、おめでとう」
「はい、ありがとうございます。お陰様で、ええ、長生きできますとも」
咲夜の墓の前で、咲夜の誕生日を祝うという、なんとも矛盾めいたシチュエーションが、レミリアに倦怠感を与えた。
葬式や墓石の生前予約は、幻想郷でもマイナーな文化だ。
非常識の世界では、そんな縁起でもないことやっていられるかという風潮がある。
しかし縁起に背中を向けて生きているような悪魔の従者としては、面白そうな文化に見えたのだ。
だから十年前、八十歳の誕生日プレゼントとして、自分のお墓をおねだりした。
どうせフランドールの一件で紅魔館が半壊して、建て直さなくてはいけなかった時期だ。
墓の設置なら紅魔館再建のついでに、というのも本人が生きていておねだりしてきているという状況では、むしろ気安く行えてしまった。
完全で瀟洒なメイド、ここに眠る。
悪魔の狗の寝床。
紅魔館メイド咲夜グレイブ。
掘り返しちゃやーよ。
など、洒落た文句を刻もうかなんて言い出したのも、十六夜咲夜当人である。
レミリアに一喝されてしゅんとなった咲夜お婆ちゃんの姿は、なかなか愛らしいものがあった。
そんなほほ笑ましいエピソードを思い返しつつ、レミリアは眉間に指を当てて唸る。
「う~ん……ねえ咲夜。あなた、いつ死ぬの?」
「おやまあ、お嬢様ったら。私に死んで欲しいのですか?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ。墓建てて、もう十年でしょ? あの頃は体調も悪かったし、そのうちころっと……って、思ってたんだけどさ。いや、嬉しいよ? 咲夜が元気でいてくれて嬉しいよ? でもさ、なんか、大切ななにかが台無しになってる気がするのよ」
「そんなに私の墓の上で踊りたいんですか? 年寄りはいたわらなきゃですよ、お嬢様」
「小生意気な年齢二桁ね」
「ここまできたら三桁を目指しますわ。ですからお嬢様、来月の温泉旅行、お願いしますね」
「わかってるよ! 私と美鈴のポケットマネーで折半だよ!」
ちなみに、温泉の効能は美容と健康と長寿である。
倫敦人形の企画した慰安旅行で行って以来、咲夜はすっかり温泉にハマってしまった。
おかげで効果は抜群だ。九十歳なのに元気いっぱいだもの。
「とほほ。来月も素寒貧確定ですか」
美鈴の愚痴には、今月も咲夜の誕生日プレゼントを買ったおかげで素寒貧になってしまったという裏がある。
咲夜の長生きは嬉しいけれど、なんかもう、嬉しいやら悲しいやらだったりする。
いや、本当に嬉しいけれど。
まだまだ長生きして欲しいけれど。
けれど出費が厳しいのだ。咲夜の遊び代やら治療費やらなにやら。
「長生きの秘訣は、やりたいことをやる……ですからね。おつき合いしてくれるお嬢様と美鈴には、いつも感謝していますよ。お嬢様方と、もっともっと、一緒にいたいですから」
強烈な殺し文句だ。
これだからやめられない、咲夜の長生きにつき合うのを。
美鈴とレミリアは顔を見合わせて苦笑して共感する。
この老い先短い……短いよね? 短いはずの十六夜咲夜の望みは、できうる限りかなえてやりたい。
「ええ、ええ。お嬢様の花嫁姿を見るまでは死ねるものですか」
だがその望みは、かなえるのがちょっと大変そうだ。
またもや美鈴とレミリアは顔を見合わせ、共感の苦笑を浮かべる。
十六夜咲夜、九十歳のバースデイであった。
◆◆◆ Ten Years Later... ◆◆◆
今日この日はとてもよく晴れていた。彼女の気質とは裏腹に。
雲ひとつ無い快晴の空の下、紅魔館の広々とした庭を使って、十六夜咲夜のバースデイパーティーが開かれていた。
倫敦人形が姉妹全員とアリス・マーガトロイドを招待し、迷いの竹林からあまり出てこない藤原妹紅なんかもやってきて、暇をしていた比那名居天子や、ネタ探しをしていた射命丸文、古い馴染みの魂魄妖夢が主の西行寺幽々子を伴って、妖精メイドに間違われたサニーミルクとスターサファイアとルナチャイルドなんかも連れてこられたりしつつ、もちろん演奏のためプリズムリバー楽団も呼んであり、フランドールの喧嘩仲間の星熊勇儀や風見幽香も顔を出してくれて、六十歳の誕生日に匹敵するほどの大賑わいとなった。
決定的に違うのは、藤原妹紅や魂魄妖夢のような怪しいラインを除いて人間のお客さんがいないというところか。
そういう些細な面で時の流れを実感しつつ、十六夜咲夜が長生きしてくれてありがたい気持ちになるのがレミリアや美鈴である。
パチュリーはというと、頻繁に時を止めてメイド仕事をしていたのになぜこんなに長生きなのか時間停止中は老化しないのかなどとアレコレ考察しているのが日常だが、バースデイパーティーの時にそんな野暮は言わず楽しんでいる。小悪魔はその身の回りの世話で忙しい。
フランドールは自由気ままに星熊勇儀や風見幽香とじゃれ合って、それぞれレーヴァテインと酒に満ちたさかずきと日傘を振り回している。パーティー会場である庭を壊さないよう、ちゃんと空で弾幕ごっことしてやっているので、見上げればいつでも綺麗な弾幕が見えるので好評だ。
そんな賑やかなパーティーの中心には常に、二人の姿があった。
車椅子を押す紅美鈴と。
車椅子に座る十六夜咲夜である。
挨拶の時はちゃんと立っていたが、この歳になると立ちっぱなしというのは疲れてしまう。
百歳を迎えた咲夜は、主にかつて弾幕ごっこをした相手から声をかけられたが、耳が遠くなったのと記憶力の低下によって、その優しい妖怪達の半分くらいが思い出せなかった。けれど気を悪くした奴なんて一人もいない。いるはずがない。
ポーズで悪態をついた奴はいっぱいいたけど、咲夜がずっとニコニコしているので毒気がすぐ抜かれてしまった。
しばらくして、二人はテラスに戻った。
一息ついて烏龍茶を飲んだ美鈴は、ふと咲夜に訊ねる。
「咲夜さん、上機嫌ですね」
「ええ。九十年振りに、ご馳走を食べられましたから」
「もしかしなくてもアレですね」
美鈴はすぐに思い至った。
なにせレミリアお嬢様が直々に、バースデイケーキを作ったのだから。
そう、覚えている。九十年前の、名無しの少女のバースデイパーティーを。
気が向いた時にしか厨房に立たず、気が向くのは数十年に一度あるかどうかだから。
「九十年前と同じ味で……結局、一度もかないませんでしたね……」
「料理の腕はもう、咲夜さんが上だと思いますけど」
「それでも、私にとっての一番はずぅっと、あの味です」
「ありますよね、そういうの。出発点とか基準点とか、心の奥底に根づいた揺るぎないものって」
ろくに厨房に立てなかった少女のために。
もう厨房に立てなくなった老女のために。
まったくもってお優しいご主人様だこと。従者コンビは幸せを噛みしめるようにして笑い合った。
「楽しそうね」
そこに、我等がお嬢様がやってくる。
吸血鬼に似つかわしくない快晴の下、日傘をさして優雅に歩いてくるレミリア・スカーレット。
「ええ、お嬢様。人生最高の誕生日です。九十年振りにお嬢様のケーキを食べられましたし」
「ン? 九十年振り? なんでそんなの覚えてるの?」
「十歳のお祝いに、作ってくれましたよ」
「そうだっけ? プレゼントは覚えてるけど、ケーキなんて滅多に作らないし、いちいち覚えてもないわ」
出発点で基準点で、心の奥底に根づいた揺るぎないもの。
その価値は本人だけのものである。
他者から見たら、それは気まぐれであったり、些細な出来事にすぎなかったり、どうでもいいことかもしれない。
でも、だからこそ特別で、だからこそ尊いのだろう。
「だいたい、今日も私がケーキ作ったけどさ、咲夜の方が上手じゃない。とっくにさ」
その言葉を受けて、目尻の下がった咲夜の瞳がハッと開く。
「まあ、そんな……お世辞なんて言わなくても」
「世辞じゃないわよ。私の好みも完全に把握してさ、私好みのケーキを私以上に作るようになったからだぞ? 私がケーキ作らなくなったの……って、咲夜?」
すっかり垂れてしまった頬の肉を、透明のきらめきが流れ落ちる。
思いも寄らぬ事態にレミリアはぎょっとして、しかし、美鈴は涙の意味を共有するように優しくほほ笑んでいる。
――メイドだろ。誕生日以外はお前が作るんだよ、私好みのケーキをな。
十六夜咲夜の目標、願いは、とっくにかなえられていた。
そしてかなえ続けていたのだ。
ずっとずっと、お嬢様の望みを。
「ちょっと、大丈夫?」
「いやですねえ、歳を取ると涙もろくなってしまって」
「えっ、えーと、私、なんか琴線に触れる名台詞かなんか言っちゃった? 心当たり無いんだけど」
「うふふ。お嬢様の言葉は全部、そりゃあもう、ひとつ残らず名台詞ですよ」
突然惚気られて、レミリアは頬を朱に染めてたじろいだ。
そんな可愛らしいご尊顔を見て、咲夜と美鈴は同じようにして飛びっきりの笑顔を浮かべた。
その笑顔はまるで、吸血鬼の大嫌いなお日様のように輝いている。
その笑顔があまりにもあまりにも眩しくて。
吸血鬼は晴れを好きになった。太陽の下で見る人間の笑顔が好きだった。
そして。
今日この日もとてもよく晴れていた。
ああ。ひとつの人間の生き様の、なんと美しいことか。
こんなにも晴れた日がもうしばらく、続きますように――。
十六夜咲夜、百歳のバースデイであった。
FIN
と安易な予想をしていた自分は作者様に土下座するべき。
所々殺しにかかられたけど、こんな終わりで良かった。
このゆるやかな雰囲気、大好きです。
咲夜が老いていくたびなんとも言えない焦燥感に駆られましたが、幸せなエンドで心底ほっとしました。
幻想郷中に愛される紅魔館の年老いたメイドの一生を堪能させていただきました。
ありがとうございます。
この咲夜さんはもう20年くらい長生きしそうな気がする。
いったいこの咲夜さんはいつまで生きるのか・・・いや、ずっと生きて欲しいですよね。
最後あたり、未練なくなっちゃった咲夜さんが
死んで終わるんじゃないかとハラハラしてました。
ところどころのネタが過去作と繋がってたり、いやはや読んでてよかった。
歳を重ねても愉快で楽しい日々を過ごしていて何よりです。
……でも20年以上も墓自慢されるのはかなりうざそうだw
こういうお話も良いものですな
イムスさんにはいつも意表を突かれます
予想を裏切る明るいシメで面白かったです
さわやかな結末を迎えているっていうのは他の小説ではなかなかない
ような気がします。面白かったです。
そんな感じでした。
パーフェクトです!
後半にオリジナルが増えたのに違和感がなかったのも素晴らしい
面白かったです
もう一押しあったらなけたんだけんなー
それでもよかった!
墓の生前予約は自分もやってみたいなあ。
そしてこの後「紅魔館メイド妹紅ヒストリー」のレミリア・妹紅・魔理沙へ続くのでしょうかね。あの物語も晴れがキーワードでしたっけ。
なんとも言えない読後感でした
こんなに明るい「いつか訪れる未来」の東方話は初めてでとても楽しく読めました。
咲夜さんおちゃめ可愛い。
地味に慧音が人間と同じ速度でおいている話も初めて読んだかもしれない。
色々と新しいものに触れることができる話でした。
しかしお嬢様はホンマ、理想の主やでぇ。
好きな話です
何というか、普通は年を取るにつれて年齢相応の活動をするようになるかと思うんですが、
この咲夜さんにはそんなこと関係なかったようですね。