お昼間の人間の里を、お気に入りの傘を差して練り歩く。
偶に此処には来るのだけれど、一人でゆっくり見て回るのは中々無いから新鮮な気持ちだわ。みんな空を飛んで移動するけれど、こうして歩くのも悪くないわね。
でも、さっきから人の視線が痛いわ。誰だってジロジロ見られたらあまり良い気分にはならないでしょう?
やっぱこの格好は目立っちゃうのかしら。此処の人間は見たところ質素な服を着てるし。まぁそうでなくても、人からかけ離れた存在がいたら気にするのは無理も無いし仕方ないか。
先程から上から下まで見られて癪だから、逆転の発想で見つめ返してるのだけれど結構楽しいわね。大通りをざっと見渡しただけでも、慌しく生きる人間の暮らしが手に取るように分かるわ。私達からすれば一瞬の時間を、こうも精一杯に生きる人間は見てて飽きないわね。
田畑へ行く者、作った食物などの物資を売る者、井戸端会議をする者、里の安全を守る者……ってあの人影は………。
「む、お前が此処にいるとは珍しいな」
ええっと確か、半獣半人の先生だったかしら。こんにちはーっと。
腕一杯に紙束持って、今日は寺子屋で試験でもするのかしらね。
「ああ、こんにちは。何かおかしな事を企んでいたりしないだろうな?」
挨拶の後にそんな事言われるなんて心外だわ。散歩よ、散歩。此処でそんな事したら、誰であろうと幻想郷から追放されちゃうわ。それに私がそこらの人間を襲って食べるように見える?
「言われてみれば、確かにそうだな。だが怪しい事に変わりは無いんだ、何かしようものなら容赦はしないよ」
おお、怖い怖い。怪しまれない様に頑張って気を付けなきゃね。
……って、そんな怖い目で睨まないでよ。何もしないってば。
ほらほら、貴女は仕事があるんでしょ? 教師ともあろう者が生徒を待たせちゃいけないわ。悪さはしないから、安心して行ってらっしゃいな。
ふぅ、行ったわね。ああいう堅物は何だか苦手だわ。常識に囚われず、もう少し柔らかくなって欲しいわねぇ。そうじゃなきゃ、見ていて面白味がないわ。
もしかして、周りが常識に囚われない奴等ばかりだから、ああなっちゃったのかしら。それはそれで、変わり者なのかもね。
人間観察に飽きたし、ちょっと裏道にでも入ってみましょうか。お腹も空いてきたし、御飯処があったらお昼にしたいのだけれど。
人の目を避けて、路地裏へ。こういう所にこそ、隠れた名店があるのが通説でしょう?
ほら、良い匂いがしてきたわ。あっちの方かしら。
ありゃ、御飯処じゃなくて甘味処だったわ。まぁ、この空腹が満たせるなら何だっていいわ。甘いもの大好きだし。差していた傘を閉じて、暖簾をくぐる。こういうのって、未知の領域に踏み込んでるみたいでドキドキするわ。
店内は意外と広いわね。テーブル数的にそれなりに繁盛してるみたい。今は人はあまりいないみたいだけれど。
ま、視線気にせず落ち着いて食べれるから、ラッキーね。
すみませーん、オススメのお団子下さいなー。
少しして運ばれてきた三色のお団子。先の方からピンクに白に蓬色。そういえば、もうすぐそんな季節だったわね。忘れないうちに雛壇を飾らなきゃ。
さてと、ではではいただきますか!
はむっ………
ふおおおお、これは、イケる! とっても美味しいわ!
お団子をそれなりの頻度で食べてる私の舌を唸らせるとは! ぐぬぬ、侮れん……!!
それに、お団子が程好くもちもちしてて温かい……出来立てほやほやね。最近は作り置きのを出してくる店があると聞くけれど、野菜や魚と一緒で和菓子も鮮度が大事よね。
その点、この店は好感が持てるわ。この落ち着いた空気も自分好みだし。
もぐもぐ……
ご飯を食べる時って、袖が長いのは不便なのよね。こういった軽いものなら平気なんだけれど、豪勢な料理を食べようとすると……言わずもがな、袖がご飯について汚れちゃいそうになるのよ。
本気で服を新調しようかしら。邪魔にならなくて、簡素で目立たないやつ。
んん? そんな事を考えていたら、同じ袖仲間が来たわ。
どうも、こんにちは。えっーと、名前なんだっけ?
「阿求です。私は何事も忘れないというのに、貴女が忘れっぽいと皮肉にしか聞こえないですよ」
まぁまぁ、そう怒らないの。長生きの秘訣は笑顔って聞いたわ。そうプリプリしてたら、元から短い寿命がもっと縮まるわよ?
「今度、縁起を訂正しておこうかしら。貴女は嫌みたらしい奴だって」
それは嫌ねぇ。せっかく良い感じに書いてもらったのに、評判を落としたくはないわ。社会的に相手を潰すなんて、稗田の娘には怖い武器があるのね。
「いやまぁ、そんな事はしないんですけどね。稗田の名に関わりますし。あ、みたらし下さい」
三色団子も美味しいわよ?
「私は此処のみたらし団子が好きなんです。三色団子は三月になったら食べます」
ふーん。みたらし団子は今度食べようかな。
「とってもオススメですよ。このお店のはどれも美味しいですが、みたらし団子は光一です」
そういえば、貴女が此処にいるって何だか意外だわ。大きなお屋敷に籠って、豪華な料理を食べてそうなイメージだったわ。
「その言葉、そのままお返ししますよ。私も貴女が此処にいてビックリです」
ちょっとお散歩してたら偶々この店を見付けて、一休みがてら軽いお昼をね。
「私もそんな感じです。人が大勢いる所では気が休まりませんし、此処はお気に入りの場所です」
あら、そうなの。私も気に入ったから、また会うかもしれないわね。
すみません、お勘定いいですかー?
「私は静かな方が好きなんですけどね」
つれない事言っちゃって。今は持ち合わせが少ないから無理だけれど、次会った時は奢ってあげるわ。暇潰しに付き合ってくれたお礼よ。
「次は桃の節句に来るつもりです」
現金な人間ねぇ。そのくらい図々しいなら長生きするわ、きっと。
「じゃあ、もう少し欲張ってみようかな。お団子お代わり下さい」
何事も程々が一番よ。
……さてと、私はそろそろ行くことにするわ。お団子ご馳走様でした。
じゃ、お先に失礼。
「はい、また今度会いましょう」
阿求に別れを告げて、店を出る。さっきまで明るかった空が、もう薄暗くなってきてるわ。意外と時間が経つのが早いわねぇ。
逢魔時が過ぎたら、あっと言う間に妖怪の時間。良い子は帰らなきゃね。
でも私は良い子じゃないのかも。せっかく里に一人で来たんだし、もう少しお散歩してたいわ。夜の境内裏がロマンティックなら、夜の里もさぞかしロマンティックなのでしょう?
さて、そうと決まれば次は何処へ行こうかな……。
「あっ、やっと見付けましたよ姫様! お師匠様が心配してますし、もう帰りますよ」
あらあら、良い所で見付かっちゃった。残念だけれど、お散歩はここまでね。
本当に永琳ったら過保護なんだから。
了
偶に此処には来るのだけれど、一人でゆっくり見て回るのは中々無いから新鮮な気持ちだわ。みんな空を飛んで移動するけれど、こうして歩くのも悪くないわね。
でも、さっきから人の視線が痛いわ。誰だってジロジロ見られたらあまり良い気分にはならないでしょう?
やっぱこの格好は目立っちゃうのかしら。此処の人間は見たところ質素な服を着てるし。まぁそうでなくても、人からかけ離れた存在がいたら気にするのは無理も無いし仕方ないか。
先程から上から下まで見られて癪だから、逆転の発想で見つめ返してるのだけれど結構楽しいわね。大通りをざっと見渡しただけでも、慌しく生きる人間の暮らしが手に取るように分かるわ。私達からすれば一瞬の時間を、こうも精一杯に生きる人間は見てて飽きないわね。
田畑へ行く者、作った食物などの物資を売る者、井戸端会議をする者、里の安全を守る者……ってあの人影は………。
「む、お前が此処にいるとは珍しいな」
ええっと確か、半獣半人の先生だったかしら。こんにちはーっと。
腕一杯に紙束持って、今日は寺子屋で試験でもするのかしらね。
「ああ、こんにちは。何かおかしな事を企んでいたりしないだろうな?」
挨拶の後にそんな事言われるなんて心外だわ。散歩よ、散歩。此処でそんな事したら、誰であろうと幻想郷から追放されちゃうわ。それに私がそこらの人間を襲って食べるように見える?
「言われてみれば、確かにそうだな。だが怪しい事に変わりは無いんだ、何かしようものなら容赦はしないよ」
おお、怖い怖い。怪しまれない様に頑張って気を付けなきゃね。
……って、そんな怖い目で睨まないでよ。何もしないってば。
ほらほら、貴女は仕事があるんでしょ? 教師ともあろう者が生徒を待たせちゃいけないわ。悪さはしないから、安心して行ってらっしゃいな。
ふぅ、行ったわね。ああいう堅物は何だか苦手だわ。常識に囚われず、もう少し柔らかくなって欲しいわねぇ。そうじゃなきゃ、見ていて面白味がないわ。
もしかして、周りが常識に囚われない奴等ばかりだから、ああなっちゃったのかしら。それはそれで、変わり者なのかもね。
人間観察に飽きたし、ちょっと裏道にでも入ってみましょうか。お腹も空いてきたし、御飯処があったらお昼にしたいのだけれど。
人の目を避けて、路地裏へ。こういう所にこそ、隠れた名店があるのが通説でしょう?
ほら、良い匂いがしてきたわ。あっちの方かしら。
ありゃ、御飯処じゃなくて甘味処だったわ。まぁ、この空腹が満たせるなら何だっていいわ。甘いもの大好きだし。差していた傘を閉じて、暖簾をくぐる。こういうのって、未知の領域に踏み込んでるみたいでドキドキするわ。
店内は意外と広いわね。テーブル数的にそれなりに繁盛してるみたい。今は人はあまりいないみたいだけれど。
ま、視線気にせず落ち着いて食べれるから、ラッキーね。
すみませーん、オススメのお団子下さいなー。
少しして運ばれてきた三色のお団子。先の方からピンクに白に蓬色。そういえば、もうすぐそんな季節だったわね。忘れないうちに雛壇を飾らなきゃ。
さてと、ではではいただきますか!
はむっ………
ふおおおお、これは、イケる! とっても美味しいわ!
お団子をそれなりの頻度で食べてる私の舌を唸らせるとは! ぐぬぬ、侮れん……!!
それに、お団子が程好くもちもちしてて温かい……出来立てほやほやね。最近は作り置きのを出してくる店があると聞くけれど、野菜や魚と一緒で和菓子も鮮度が大事よね。
その点、この店は好感が持てるわ。この落ち着いた空気も自分好みだし。
もぐもぐ……
ご飯を食べる時って、袖が長いのは不便なのよね。こういった軽いものなら平気なんだけれど、豪勢な料理を食べようとすると……言わずもがな、袖がご飯について汚れちゃいそうになるのよ。
本気で服を新調しようかしら。邪魔にならなくて、簡素で目立たないやつ。
んん? そんな事を考えていたら、同じ袖仲間が来たわ。
どうも、こんにちは。えっーと、名前なんだっけ?
「阿求です。私は何事も忘れないというのに、貴女が忘れっぽいと皮肉にしか聞こえないですよ」
まぁまぁ、そう怒らないの。長生きの秘訣は笑顔って聞いたわ。そうプリプリしてたら、元から短い寿命がもっと縮まるわよ?
「今度、縁起を訂正しておこうかしら。貴女は嫌みたらしい奴だって」
それは嫌ねぇ。せっかく良い感じに書いてもらったのに、評判を落としたくはないわ。社会的に相手を潰すなんて、稗田の娘には怖い武器があるのね。
「いやまぁ、そんな事はしないんですけどね。稗田の名に関わりますし。あ、みたらし下さい」
三色団子も美味しいわよ?
「私は此処のみたらし団子が好きなんです。三色団子は三月になったら食べます」
ふーん。みたらし団子は今度食べようかな。
「とってもオススメですよ。このお店のはどれも美味しいですが、みたらし団子は光一です」
そういえば、貴女が此処にいるって何だか意外だわ。大きなお屋敷に籠って、豪華な料理を食べてそうなイメージだったわ。
「その言葉、そのままお返ししますよ。私も貴女が此処にいてビックリです」
ちょっとお散歩してたら偶々この店を見付けて、一休みがてら軽いお昼をね。
「私もそんな感じです。人が大勢いる所では気が休まりませんし、此処はお気に入りの場所です」
あら、そうなの。私も気に入ったから、また会うかもしれないわね。
すみません、お勘定いいですかー?
「私は静かな方が好きなんですけどね」
つれない事言っちゃって。今は持ち合わせが少ないから無理だけれど、次会った時は奢ってあげるわ。暇潰しに付き合ってくれたお礼よ。
「次は桃の節句に来るつもりです」
現金な人間ねぇ。そのくらい図々しいなら長生きするわ、きっと。
「じゃあ、もう少し欲張ってみようかな。お団子お代わり下さい」
何事も程々が一番よ。
……さてと、私はそろそろ行くことにするわ。お団子ご馳走様でした。
じゃ、お先に失礼。
「はい、また今度会いましょう」
阿求に別れを告げて、店を出る。さっきまで明るかった空が、もう薄暗くなってきてるわ。意外と時間が経つのが早いわねぇ。
逢魔時が過ぎたら、あっと言う間に妖怪の時間。良い子は帰らなきゃね。
でも私は良い子じゃないのかも。せっかく里に一人で来たんだし、もう少しお散歩してたいわ。夜の境内裏がロマンティックなら、夜の里もさぞかしロマンティックなのでしょう?
さて、そうと決まれば次は何処へ行こうかな……。
「あっ、やっと見付けましたよ姫様! お師匠様が心配してますし、もう帰りますよ」
あらあら、良い所で見付かっちゃった。残念だけれど、お散歩はここまでね。
本当に永琳ったら過保護なんだから。
了
確かに、傘くらい誰でもさしますよねえ。
ただ、仕掛け中心の話ゆえか、話の内容自体は平凡だったので70点ってところで……
私も叙述トリックは好きなので、語り口調的に「ほほう。これは叙述トリックじゃなかろうかワクワク」とw
初めは紫、幽香、小傘あたりかなーと思いながら、いやいやそんな見た目が思い切り妖怪な連中が人里をほっつき回れるのか? と心配しました。
ただ、阿求の「その言葉、そのままお返ししますよ」で、輝夜かもしれないと思い、結果そのまさかでした。
叙述トリックという点で大変楽しませていただきましたが、私も過去に言われたことがありまして、騙したところで果たして何があるのかという問題が残るのです。
推理小説ではミスリードを誘いつつ、読者に衝撃の犯人を最終的に暴露しますが、私の書いた「地上彷徨記」もこの作品同様、叙述トリックに嵌めて、さてさて何かあるのかといわれてしまうわけです。
叙述トリックならそれを最大限に生かすべく読者に「はぁ〜ん。そうだったのかー」と思われるのではなく、「なん……だと!」と言わせるようなオチにしてほしかったです。
長文失礼しました。
何が言いたいのかというと……桃の節句の宴会会場は予約しますたってことだな!!
また舞台が姫の行動範囲としてはありきたりすぎる、魔法の森や地底ぐらい持ち出した方がインパクトがあった
判断材料を増やして全力でミスリードを狙いに走るか、外見は普通の作品に仕上げて主人公当てはスパイス程度に収めると良くなったと思う
しかし騙される感覚は悪くなかったです、惜しむらくは本編が日常に終止してしまった事ですかね
思うに、こういったお話は種明かしを見たあとに読み返して「なるほど、確かにそうだ」となるとこまで含めて完成だと思います。つまり、読み返した時になるほどと納得させる程度には特定出来るヒントをミスリードに含まないと、ただ説明が足りないだけになるかなぁと。
ですが、私の読解力不足なのか読み返してもしっくり輝夜だとは思えませんでした。
内容も、ただ日常を平坦にすごした内容なので、なんともモヤモヤしてしまいました。
ただ仕掛けそのものがメインになっており、話がごく普通の話だったのが少し残念かなと。