真夜中の紅魔館にの廊下に一つの人影。
「はぁ、夜の見回りは退屈だなぁ……」
この館で働く妖精メイドであるあたし、リマは夜間巡回の仕事をしていたのでした。
妖精メイドによる夜間巡回は当番制。で、今日は私がお仕事をする番ってわけ。
でもはっきりいって退屈以外の何者でもない。
侵入者もあんまりいないしさ……
「あー、早く部屋に帰って暖かいベッドで寝たいよ……」
軽くため息をつきながら、廊下を歩いていく。
今日も今日とて退屈な時間が過ぎていく……この時のあたしはまだそう思っていたのでした。
引き続き館内の巡回を続けるあたし。
とその時、前方に不審な人影を見つけてしまう。
誰だろう? そんなことを思いながら声をかける。
「こら、そこの貴方! いったい誰?」
つかつかと近寄ると……見覚えのある顔が持っていたランプに照らされた。
「お、こんな夜中にご苦労様」
「ま、魔理沙さんっ!?」
目の前に立っていたのはちょくちょく紅魔館に訪れる魔法使い、魔理沙さんだった。
ちなみに彼女は発見しても、注意をしなくてもいいことになっている。
お嬢様たちの友人ということもあるけれど、それ以上に不法侵入が当たり前のようになっているからだ。
いちいち注意していては時間の無駄、という建前で侵入が黙認されているのだ。
「今日も仕事に精がでるなぁ」
「いえー、仕事だから嫌々やってるだけですよー」
「お、本音が出たな」
「えへへ……」
お屋敷のお仕事自体は嫌いじゃないんだけれどねー。
でも夜の見回りはつまらないし、嫌いかなぁ……
「さて、リマはそろそろ交代の時間じゃないか?」
「あ、そういえばそうですね……」
支給された懐中時計に目をやると、もうそろそろ交代をする時間だ。
交代が終われば、あとは眠るだけ。
「なぁ、交代が終わったら図書館にでも行かないか?」
「へっ、図書館ですか? でも今日はパチュリー様が……」
今日のパチュリー様は図書館にこもらないで、小悪魔さんと一緒に自室で寝ているはず。
だって、あたしに挨拶して出て行くのを見たもん。
「ん、あいつは寝ちゃったのか。それならなおさらだ。図書館に忍び込むのって楽しいぜ?」
「ん、そ、それはそうかも……?」
確かに面白そう……よし、決めた! 今日は魔理沙さんと図書館!
「わ、わかりました! 行きます!」
「よし、そうと決まればさっさと交代しに行くか!」
「はいっ!」
魔理沙さんの手を握って、交代相手の子が寝ている部屋に向かう。
あの子の部屋はここからすぐそこ……うん、この部屋だ。
「失礼しますー……」
軽くノックをしてから中に入ると、中では夜勤ではない子達がベッドでぐっすりと寝ていた。
あぁ、気持ちよさそうに寝てるなぁ……見てて微笑ましいよ。
「ん、あら、交代の時間?」
部屋の中で本を読んでいた子がこちらに気づき、本を畳む。
この子があたしと交代してくれる子だ。
「うん、そろそろ交代だよー」
「ご苦労様ー」
その子は本を机の上に置くと、慣れた手つきでエプロンやカチューシャを付け始めた。
「ってあれ、魔理沙さん?」
と、ここであたしの横にいる魔理沙さんに気がついたようだ。
「よっ、お前も大変だなー」
「ええ、まぁ、仕事ですからね……」
あはは、と苦笑する交代の子。
苦笑したいのはあたしも同じだよー……
「ま、つらいだろうが頑張れー」
「ええ、頑張りますー。ところで……魔理沙さんはこれから図書館ですか?」
「ん、まぁな。こいつと一緒にこっそり忍び込んでやろうかと」
「え、リマと? いいなぁ」
交代の子は目を輝かせている。
そういえば、この子は魔理沙さんのことが好きだったなあ。
だけど残念、今日はあたしと魔理沙さんが楽しむのだー!
「今度機会があればお前とも遊んでやるよー」
「ほ、本当ですか!? 楽しみに待ってますからね!」
「ああ、約束だ!」
「やったー!」
こうしてここにひとつ約束が交わされるのでありました。
それにしても、魔理沙さんは人気ですね……
所変わって、図書館前。
「さてと。さっそく忍び込むとしますかね」
「ふふ、そうですね」
こうやって忍び込むのってわくわくするなぁ。
ただし、パチュリー様にはバレない様にしないと。
バレたらどんなお仕置きをされるか……
「よいしょ、と」
ガチャリ、と小さく音を立てて扉が開く。
扉の向こうには圧倒されるような本の山、山、山。
「いつきてもこの本の量には圧倒されるなぁ」
「あたしもですー……」
流石は幻想郷一の図書館。
部屋の向こうが見えないほどです。
「さてと、今日はどの本を読むかなー。前回はあの辺りを読んでたから……」
魔理沙さんはてくてくと、奥の本棚に向けて歩き出す。
慌てて後ろからついていくあたし。
「よし、これかな」
しばらく歩くと、とある本棚の前であたしたちは歩みを止めた。
そこには難しそうな魔術書がぎっしりと……
うー、あたしはこんなの読みたくないなぁ……
「さてと、それじゃ早速読むとするか」
「あ、椅子とテーブルならあちらにありますよー!」
「ああ、わかってるよ。すまないけど、これ持ってくれ」
ずん、と数冊の厚い本を渡される。
ちょ、重っ……!
「んー、まぁ、これくらいかな」
魔理沙さんも同じく数冊の厚い本を持っている。
こ、これ全部読むつもりなのかな……とにかく運ぼう。
「んー、ふぅ、ふぅ……」
うぐ、こんなに重いとは思わなかった……
「おいおい、辛そうだぞ。大丈夫か?」
「へ、へーきですっ……!」
が、頑張れあたし、もうちょっとだから……!
そのまま、えっちらおっちらと重い本を持って歩き、なんとかテーブルにたどり着く。
ふぅ、助かったぁ……
「ふー、やっぱり魔導書の類は分厚くて重いなぁ」
そんなことをぼやきながら、魔理沙さんがテーブルに置いた本の数はあたしが持っていたものよりも多い。
ま、魔理沙さん、結構力持ちなのかな……?
「魔理沙さん、よくそんなに持てますね……」
「あー、長いことこういう本を持ってると、自然と力が付くものなんだよなぁ。健康にもいいぞー?」
「ほうほう。ならあたしも図書館でお手伝いしちゃおうかなぁ」
「やるなら応援するぜー」
「あはは……」
んー、トレーニングにもなりそうだし、前向きに考えてみようっと。
まぁ、美鈴さんと組み手するのもかなりトレーニングになるんだけどさ。
「さてと、さっそく読むかな」
魔理沙さんは椅子に腰掛け、魔導書を一冊手に取り、ぱらぱらと読み始めた。
うわ、やっぱりすごい分厚い……あたしが見てもちんぷんかんぷんなんだろうなぁ。
とりあえず、あたしも本見ようっと。続きが気になってた漫画があったし。
テーブルを離れ、漫画などがたくさん収まった本棚に移動して、目当ての本を数冊つかんでからまた戻る。
さぁて、あたしも読むぞー!
「あー、面白かった!」
最初に持ってきた本もとっくの昔に読み終わり、新しい漫画のシリーズをようやく全巻読み終えた。
ここに来てから数時間が経ったと思うんだけど……ずっと魔理沙さんは無言で分厚い魔導書を読んでいる。
ふえ、すごい集中力だなぁ。しかも普段のちょっと砕けた印象から想像できないほどまじめな顔してる。
こんな魔理沙さんも素敵だなぁ。
「……それにしても本当に静かだなぁ」
魔理沙さんの吐息まで聞こえそうなくらいに静まり返った図書館。
たまに聞こえてくるのはあたしと魔理沙さんが本のページをめくる音くらい。
なんだか物足りないというか落ち着かないというか……
そこであたしは考え付いちゃったのです。
「そーっと……」
そう、魔理沙さんの膝の上にお邪魔することを……!
まぁ、あたしを膝の上に座らせるのはサイズ的にちょっときついかもしれないけど、気にしない。
本に集中している今なら……! ゆっくりと近づき、よし、射程圏内!
「今だっ!」
「ん、おわっ!? リマ!?」
えへへ、奇襲成功ー♪
魔理沙さんの膝の上をゲットしましたよー!
「全く、仕方の無い奴だな……」
「えへへっ!」
わふー、頭撫でられるのいい気持ちー。
「ま、悪い気はしないしこのままでもいいか……暖かくて気持ちいいしな」
「魔理沙さんこそ暖かいのですよー♪」
「む、そ、そうかぁ……?」
あ、魔理沙さんが照れてる。
こうして見ると魔理沙さんも可愛らしいんだよなぁ。
かっこよくもあり、可愛くもあり……うんうん。
「ん、何ニヤニヤしてるんだよ?」
「いやー、照れる魔理沙さんって可愛いなぁと」
「こ、こら、何言うんだ! 全くもう……」
やっぱり可愛いじゃないですかー。
そうか、このかっこよさと可愛さのギャップが魔理沙さんの美味しいところなんだね!
あたし、おーぼえたっと。
「そんなことより……私は引き続き本を読むから、余り邪魔をしないでくれよ」
「はーい、わかりましたー」
魔理沙さんの邪魔をしないよう、あたしはまた静かに本を読み直すのでした。
……魔理沙さんが満足するまであとどれくらいかかるのやら。
更にそれから1時間くらい経った頃。
「う、うー、眠い……」
目の前の本のページは霞んで見え、頭は若干くらくらし始める。
あぁ、本格的に寝ちゃいそう……
「ん、大丈夫か?」
「ふぇ、え、ええ、なんとかー……?」
こっくりこっくりと頭が前後に動いていたあたしに気がつき、魔理沙さんが声をかけてくる。
「大丈夫じゃなさそうだな……目が赤くなってるぞ」
「じ、実は結構眠いですね……あはは……」
気を抜くと倒れてしまいそうなくらいにはふらふらしてるかも……
「余り無理はするなよ? そのまま寝てもいいからな?」
「はい、ありがとうございます。そういえば、魔理沙さんはまだ寝ないんですか?」
「ん、ああ。もうちょっと見たいのがあるからな」
魔理沙さんはやっぱりすごいなぁ。
でもなんか無理をしてるように見える。
だって、あたしの目を覗き込んできた目も赤くなっていたから。
「魔理沙さんこそ無理しないでくださいよ? 目が赤くなってますし……」
「ありゃ、そうか? ああ、わかった。私も無理しないようにするよ」
「ひゃっ……」
不意に頭を撫でられてしまう。やっぱり頭撫でられるの好き……
と、ここで眠気がまたやってきてしまう。
「すみません、魔理沙さん。ちょっと寝させてもらいます」
「ああ、おやすみ。いい夢見ろよー?」
「はい、魔理沙さんも……」
そう返してから、目を瞑る。
すると、今まで以上に魔理沙さんの体温、体の動きが伝わってくる。
息をするたびに、背中に当たる魔理沙さんの胸が上下するのまでわかった。
あぁ、最高の気分だなぁ……
魔理沙さんの膝の上で寝れるなんてとってもしあわ、せ……
「すー、すー……んん……?」
あ、あたしいつの間にか寝ちゃってたんだ。今は何時くらいなんだろう?
目を開けてみると、何かがあたしに覆いかぶさっているのに気がついた。
「何だろ?」
顔を少し横に動かすと……魔理沙さんの寝顔が。
あ、ああ、なるほど。あれから魔理沙さんもそのまま寝ちゃったんだ。
魔理沙さんはあたしに覆いかぶさるようにして寝ていた。
たぶん、本を読んでる間に睡魔に負けちゃったんだろう。
寝る前以上に体がくっついちゃってる……嬉しいような恥ずかしいような。
「さてと、そろそろ起きたいけど……魔理沙さんがこうしてる限り起きれないなぁ」
苦笑しながら魔理沙さんの顔があるほうとは反対側に顔を向けると……
「おはよ」
「……へっ?へええええええっ!?」
なんと目の前にはパチュリー様が!?
「あ、あわわわ!?」
「……ちょっと驚きすぎじゃない?」
「うーん、なんだ、騒がしいな……」
余りにもいきなりすぎる状況に叫んでしまう。
そのせいで魔理沙さんが起きてしまった。
「あ、パチュリーじゃないか。おはよう」
「全く、おはようじゃないわよ。勝手に忍び込んだりして」
腰に手を当ててそんなことを言うパチュリー様はそこまで怒っているようには見えない。
まぁ、それもそうか。パチュリー様も黙認してるところがあるし。
「ま、二人の可愛い寝顔が見れたから見なかったことにしておくわ。ね、小悪魔にフラン?」
「ええ、素敵な寝顔でしたよー」
「どっちも可愛かった!」
パチュリー様の後ろには小悪魔さんとフランお嬢様が。
さ、三人に寝顔見られてたみたい……ちょっと恥ずかしいなぁ……
「無しにしてくれるのは嬉しいが、寝顔を見られてたのはちょっと恥ずかしいな」
あははと苦笑する魔理沙さん。恥ずかしがってる様子は無いっぽい。
「ただ罰として魔理沙は今日一日フランと遊ぶこと。いいわね?」
「えへへ、やったねー!」
「それで済むならお安い御用だ。それじゃフラン、遊ぶか!」
「うん! 魔理沙と一緒にお遊びー!」
フランお嬢様も魔理沙さんも嬉しそうだなぁ。
それじゃ、私はお仕事に……
「おっと、逃がさないわよ」
「ひえっ!?」
そそくさとその場を離れようとすると、パチュリー様に襟首をつかまれてしまう。
「貴方の罰は今日一日図書館の掃除を初めとした図書館の仕事よ。わかった?」
「う、うぅ、はい……」
図書館の仕事……広いから大変なんだよなぁ……
「まぁまぁ、そんなに落ち込まないでくださいよ。私もいますから!」
「こ、小悪魔さん……!」
ポンと肩を叩いてくれる小悪魔さんは、あたしたち妖精メイドにとってはお姉さんのような存在。
そんな彼女の笑顔がまぶしいなぁ。よーし、小悪魔さんとなら頑張れる気がするぞ!
「うふふ、その前に朝ごはんですね! 二人ともお腹がすいてるんじゃないですか?」
「む、そういえば確かに」
「あたしもお腹すいてますー」
小悪魔さんの言葉で空腹なのを思い出す。
「早く食べさせろ!」と抗議するようにお腹がぐぅー、と鳴った。
「ああ、小悪魔、二人を食堂まで案内してもらえるかしら? 二人分くらいなら余りがあるでしょ」
「了解です。さ、腹が減っては戦ができぬといいますし、二人とも朝食を食べて頑張ってくださいね!」
やったー! 朝ごはん食べないと倒れちゃうし、ありがたい!
「ああ、ありがとなー」
「そのあと遊ぶの忘れないでよー?」
「もちろん忘れないぜー」
魔理沙さんはフランお嬢様に抱きつかれながら、小悪魔さんの後ろをついていく。
あたしも遅れてしまわないように、三人の後を追うことにした。
と、その時。
「今度は二人きりで外にでも行こうな?」
「は、はいっ!」
魔理沙さんから耳打ちされ、あたしも喜びながら返事を返す。
えへへ、二人で外出かぁ。楽しみだなぁ。
ニヤニヤしながらあたしたちは朝食を食べるために長い廊下を歩いていくのでした。
……ちなみに図書館のお仕事のせいで次の日は筋肉痛になりました。
魔理沙さんはフランお嬢様に一日中振り回され、次の日は疲れで動けなかったとか。
お互いに大変な目にあった一日でありました……
「はぁ、夜の見回りは退屈だなぁ……」
この館で働く妖精メイドであるあたし、リマは夜間巡回の仕事をしていたのでした。
妖精メイドによる夜間巡回は当番制。で、今日は私がお仕事をする番ってわけ。
でもはっきりいって退屈以外の何者でもない。
侵入者もあんまりいないしさ……
「あー、早く部屋に帰って暖かいベッドで寝たいよ……」
軽くため息をつきながら、廊下を歩いていく。
今日も今日とて退屈な時間が過ぎていく……この時のあたしはまだそう思っていたのでした。
引き続き館内の巡回を続けるあたし。
とその時、前方に不審な人影を見つけてしまう。
誰だろう? そんなことを思いながら声をかける。
「こら、そこの貴方! いったい誰?」
つかつかと近寄ると……見覚えのある顔が持っていたランプに照らされた。
「お、こんな夜中にご苦労様」
「ま、魔理沙さんっ!?」
目の前に立っていたのはちょくちょく紅魔館に訪れる魔法使い、魔理沙さんだった。
ちなみに彼女は発見しても、注意をしなくてもいいことになっている。
お嬢様たちの友人ということもあるけれど、それ以上に不法侵入が当たり前のようになっているからだ。
いちいち注意していては時間の無駄、という建前で侵入が黙認されているのだ。
「今日も仕事に精がでるなぁ」
「いえー、仕事だから嫌々やってるだけですよー」
「お、本音が出たな」
「えへへ……」
お屋敷のお仕事自体は嫌いじゃないんだけれどねー。
でも夜の見回りはつまらないし、嫌いかなぁ……
「さて、リマはそろそろ交代の時間じゃないか?」
「あ、そういえばそうですね……」
支給された懐中時計に目をやると、もうそろそろ交代をする時間だ。
交代が終われば、あとは眠るだけ。
「なぁ、交代が終わったら図書館にでも行かないか?」
「へっ、図書館ですか? でも今日はパチュリー様が……」
今日のパチュリー様は図書館にこもらないで、小悪魔さんと一緒に自室で寝ているはず。
だって、あたしに挨拶して出て行くのを見たもん。
「ん、あいつは寝ちゃったのか。それならなおさらだ。図書館に忍び込むのって楽しいぜ?」
「ん、そ、それはそうかも……?」
確かに面白そう……よし、決めた! 今日は魔理沙さんと図書館!
「わ、わかりました! 行きます!」
「よし、そうと決まればさっさと交代しに行くか!」
「はいっ!」
魔理沙さんの手を握って、交代相手の子が寝ている部屋に向かう。
あの子の部屋はここからすぐそこ……うん、この部屋だ。
「失礼しますー……」
軽くノックをしてから中に入ると、中では夜勤ではない子達がベッドでぐっすりと寝ていた。
あぁ、気持ちよさそうに寝てるなぁ……見てて微笑ましいよ。
「ん、あら、交代の時間?」
部屋の中で本を読んでいた子がこちらに気づき、本を畳む。
この子があたしと交代してくれる子だ。
「うん、そろそろ交代だよー」
「ご苦労様ー」
その子は本を机の上に置くと、慣れた手つきでエプロンやカチューシャを付け始めた。
「ってあれ、魔理沙さん?」
と、ここであたしの横にいる魔理沙さんに気がついたようだ。
「よっ、お前も大変だなー」
「ええ、まぁ、仕事ですからね……」
あはは、と苦笑する交代の子。
苦笑したいのはあたしも同じだよー……
「ま、つらいだろうが頑張れー」
「ええ、頑張りますー。ところで……魔理沙さんはこれから図書館ですか?」
「ん、まぁな。こいつと一緒にこっそり忍び込んでやろうかと」
「え、リマと? いいなぁ」
交代の子は目を輝かせている。
そういえば、この子は魔理沙さんのことが好きだったなあ。
だけど残念、今日はあたしと魔理沙さんが楽しむのだー!
「今度機会があればお前とも遊んでやるよー」
「ほ、本当ですか!? 楽しみに待ってますからね!」
「ああ、約束だ!」
「やったー!」
こうしてここにひとつ約束が交わされるのでありました。
それにしても、魔理沙さんは人気ですね……
所変わって、図書館前。
「さてと。さっそく忍び込むとしますかね」
「ふふ、そうですね」
こうやって忍び込むのってわくわくするなぁ。
ただし、パチュリー様にはバレない様にしないと。
バレたらどんなお仕置きをされるか……
「よいしょ、と」
ガチャリ、と小さく音を立てて扉が開く。
扉の向こうには圧倒されるような本の山、山、山。
「いつきてもこの本の量には圧倒されるなぁ」
「あたしもですー……」
流石は幻想郷一の図書館。
部屋の向こうが見えないほどです。
「さてと、今日はどの本を読むかなー。前回はあの辺りを読んでたから……」
魔理沙さんはてくてくと、奥の本棚に向けて歩き出す。
慌てて後ろからついていくあたし。
「よし、これかな」
しばらく歩くと、とある本棚の前であたしたちは歩みを止めた。
そこには難しそうな魔術書がぎっしりと……
うー、あたしはこんなの読みたくないなぁ……
「さてと、それじゃ早速読むとするか」
「あ、椅子とテーブルならあちらにありますよー!」
「ああ、わかってるよ。すまないけど、これ持ってくれ」
ずん、と数冊の厚い本を渡される。
ちょ、重っ……!
「んー、まぁ、これくらいかな」
魔理沙さんも同じく数冊の厚い本を持っている。
こ、これ全部読むつもりなのかな……とにかく運ぼう。
「んー、ふぅ、ふぅ……」
うぐ、こんなに重いとは思わなかった……
「おいおい、辛そうだぞ。大丈夫か?」
「へ、へーきですっ……!」
が、頑張れあたし、もうちょっとだから……!
そのまま、えっちらおっちらと重い本を持って歩き、なんとかテーブルにたどり着く。
ふぅ、助かったぁ……
「ふー、やっぱり魔導書の類は分厚くて重いなぁ」
そんなことをぼやきながら、魔理沙さんがテーブルに置いた本の数はあたしが持っていたものよりも多い。
ま、魔理沙さん、結構力持ちなのかな……?
「魔理沙さん、よくそんなに持てますね……」
「あー、長いことこういう本を持ってると、自然と力が付くものなんだよなぁ。健康にもいいぞー?」
「ほうほう。ならあたしも図書館でお手伝いしちゃおうかなぁ」
「やるなら応援するぜー」
「あはは……」
んー、トレーニングにもなりそうだし、前向きに考えてみようっと。
まぁ、美鈴さんと組み手するのもかなりトレーニングになるんだけどさ。
「さてと、さっそく読むかな」
魔理沙さんは椅子に腰掛け、魔導書を一冊手に取り、ぱらぱらと読み始めた。
うわ、やっぱりすごい分厚い……あたしが見てもちんぷんかんぷんなんだろうなぁ。
とりあえず、あたしも本見ようっと。続きが気になってた漫画があったし。
テーブルを離れ、漫画などがたくさん収まった本棚に移動して、目当ての本を数冊つかんでからまた戻る。
さぁて、あたしも読むぞー!
「あー、面白かった!」
最初に持ってきた本もとっくの昔に読み終わり、新しい漫画のシリーズをようやく全巻読み終えた。
ここに来てから数時間が経ったと思うんだけど……ずっと魔理沙さんは無言で分厚い魔導書を読んでいる。
ふえ、すごい集中力だなぁ。しかも普段のちょっと砕けた印象から想像できないほどまじめな顔してる。
こんな魔理沙さんも素敵だなぁ。
「……それにしても本当に静かだなぁ」
魔理沙さんの吐息まで聞こえそうなくらいに静まり返った図書館。
たまに聞こえてくるのはあたしと魔理沙さんが本のページをめくる音くらい。
なんだか物足りないというか落ち着かないというか……
そこであたしは考え付いちゃったのです。
「そーっと……」
そう、魔理沙さんの膝の上にお邪魔することを……!
まぁ、あたしを膝の上に座らせるのはサイズ的にちょっときついかもしれないけど、気にしない。
本に集中している今なら……! ゆっくりと近づき、よし、射程圏内!
「今だっ!」
「ん、おわっ!? リマ!?」
えへへ、奇襲成功ー♪
魔理沙さんの膝の上をゲットしましたよー!
「全く、仕方の無い奴だな……」
「えへへっ!」
わふー、頭撫でられるのいい気持ちー。
「ま、悪い気はしないしこのままでもいいか……暖かくて気持ちいいしな」
「魔理沙さんこそ暖かいのですよー♪」
「む、そ、そうかぁ……?」
あ、魔理沙さんが照れてる。
こうして見ると魔理沙さんも可愛らしいんだよなぁ。
かっこよくもあり、可愛くもあり……うんうん。
「ん、何ニヤニヤしてるんだよ?」
「いやー、照れる魔理沙さんって可愛いなぁと」
「こ、こら、何言うんだ! 全くもう……」
やっぱり可愛いじゃないですかー。
そうか、このかっこよさと可愛さのギャップが魔理沙さんの美味しいところなんだね!
あたし、おーぼえたっと。
「そんなことより……私は引き続き本を読むから、余り邪魔をしないでくれよ」
「はーい、わかりましたー」
魔理沙さんの邪魔をしないよう、あたしはまた静かに本を読み直すのでした。
……魔理沙さんが満足するまであとどれくらいかかるのやら。
更にそれから1時間くらい経った頃。
「う、うー、眠い……」
目の前の本のページは霞んで見え、頭は若干くらくらし始める。
あぁ、本格的に寝ちゃいそう……
「ん、大丈夫か?」
「ふぇ、え、ええ、なんとかー……?」
こっくりこっくりと頭が前後に動いていたあたしに気がつき、魔理沙さんが声をかけてくる。
「大丈夫じゃなさそうだな……目が赤くなってるぞ」
「じ、実は結構眠いですね……あはは……」
気を抜くと倒れてしまいそうなくらいにはふらふらしてるかも……
「余り無理はするなよ? そのまま寝てもいいからな?」
「はい、ありがとうございます。そういえば、魔理沙さんはまだ寝ないんですか?」
「ん、ああ。もうちょっと見たいのがあるからな」
魔理沙さんはやっぱりすごいなぁ。
でもなんか無理をしてるように見える。
だって、あたしの目を覗き込んできた目も赤くなっていたから。
「魔理沙さんこそ無理しないでくださいよ? 目が赤くなってますし……」
「ありゃ、そうか? ああ、わかった。私も無理しないようにするよ」
「ひゃっ……」
不意に頭を撫でられてしまう。やっぱり頭撫でられるの好き……
と、ここで眠気がまたやってきてしまう。
「すみません、魔理沙さん。ちょっと寝させてもらいます」
「ああ、おやすみ。いい夢見ろよー?」
「はい、魔理沙さんも……」
そう返してから、目を瞑る。
すると、今まで以上に魔理沙さんの体温、体の動きが伝わってくる。
息をするたびに、背中に当たる魔理沙さんの胸が上下するのまでわかった。
あぁ、最高の気分だなぁ……
魔理沙さんの膝の上で寝れるなんてとってもしあわ、せ……
「すー、すー……んん……?」
あ、あたしいつの間にか寝ちゃってたんだ。今は何時くらいなんだろう?
目を開けてみると、何かがあたしに覆いかぶさっているのに気がついた。
「何だろ?」
顔を少し横に動かすと……魔理沙さんの寝顔が。
あ、ああ、なるほど。あれから魔理沙さんもそのまま寝ちゃったんだ。
魔理沙さんはあたしに覆いかぶさるようにして寝ていた。
たぶん、本を読んでる間に睡魔に負けちゃったんだろう。
寝る前以上に体がくっついちゃってる……嬉しいような恥ずかしいような。
「さてと、そろそろ起きたいけど……魔理沙さんがこうしてる限り起きれないなぁ」
苦笑しながら魔理沙さんの顔があるほうとは反対側に顔を向けると……
「おはよ」
「……へっ?へええええええっ!?」
なんと目の前にはパチュリー様が!?
「あ、あわわわ!?」
「……ちょっと驚きすぎじゃない?」
「うーん、なんだ、騒がしいな……」
余りにもいきなりすぎる状況に叫んでしまう。
そのせいで魔理沙さんが起きてしまった。
「あ、パチュリーじゃないか。おはよう」
「全く、おはようじゃないわよ。勝手に忍び込んだりして」
腰に手を当ててそんなことを言うパチュリー様はそこまで怒っているようには見えない。
まぁ、それもそうか。パチュリー様も黙認してるところがあるし。
「ま、二人の可愛い寝顔が見れたから見なかったことにしておくわ。ね、小悪魔にフラン?」
「ええ、素敵な寝顔でしたよー」
「どっちも可愛かった!」
パチュリー様の後ろには小悪魔さんとフランお嬢様が。
さ、三人に寝顔見られてたみたい……ちょっと恥ずかしいなぁ……
「無しにしてくれるのは嬉しいが、寝顔を見られてたのはちょっと恥ずかしいな」
あははと苦笑する魔理沙さん。恥ずかしがってる様子は無いっぽい。
「ただ罰として魔理沙は今日一日フランと遊ぶこと。いいわね?」
「えへへ、やったねー!」
「それで済むならお安い御用だ。それじゃフラン、遊ぶか!」
「うん! 魔理沙と一緒にお遊びー!」
フランお嬢様も魔理沙さんも嬉しそうだなぁ。
それじゃ、私はお仕事に……
「おっと、逃がさないわよ」
「ひえっ!?」
そそくさとその場を離れようとすると、パチュリー様に襟首をつかまれてしまう。
「貴方の罰は今日一日図書館の掃除を初めとした図書館の仕事よ。わかった?」
「う、うぅ、はい……」
図書館の仕事……広いから大変なんだよなぁ……
「まぁまぁ、そんなに落ち込まないでくださいよ。私もいますから!」
「こ、小悪魔さん……!」
ポンと肩を叩いてくれる小悪魔さんは、あたしたち妖精メイドにとってはお姉さんのような存在。
そんな彼女の笑顔がまぶしいなぁ。よーし、小悪魔さんとなら頑張れる気がするぞ!
「うふふ、その前に朝ごはんですね! 二人ともお腹がすいてるんじゃないですか?」
「む、そういえば確かに」
「あたしもお腹すいてますー」
小悪魔さんの言葉で空腹なのを思い出す。
「早く食べさせろ!」と抗議するようにお腹がぐぅー、と鳴った。
「ああ、小悪魔、二人を食堂まで案内してもらえるかしら? 二人分くらいなら余りがあるでしょ」
「了解です。さ、腹が減っては戦ができぬといいますし、二人とも朝食を食べて頑張ってくださいね!」
やったー! 朝ごはん食べないと倒れちゃうし、ありがたい!
「ああ、ありがとなー」
「そのあと遊ぶの忘れないでよー?」
「もちろん忘れないぜー」
魔理沙さんはフランお嬢様に抱きつかれながら、小悪魔さんの後ろをついていく。
あたしも遅れてしまわないように、三人の後を追うことにした。
と、その時。
「今度は二人きりで外にでも行こうな?」
「は、はいっ!」
魔理沙さんから耳打ちされ、あたしも喜びながら返事を返す。
えへへ、二人で外出かぁ。楽しみだなぁ。
ニヤニヤしながらあたしたちは朝食を食べるために長い廊下を歩いていくのでした。
……ちなみに図書館のお仕事のせいで次の日は筋肉痛になりました。
魔理沙さんはフランお嬢様に一日中振り回され、次の日は疲れで動けなかったとか。
お互いに大変な目にあった一日でありました……
いたずら好きってところでベクトルが合うのでしょうが、
なんとも可愛らしいやり取りでした。
可愛いとの言葉が多く、私としてもありがたい気持ちで一杯です。
また妖精メイドの物語は書いていきたいと思っているので、これからもどうかよろしくお願いいたします。
最初は読みやすいけれどその分さくさくし過ぎているなぁという印象だったのですが、
キャラクターの魅力がそれをカバーしていたように思います。